お祭り騒ぎさながらのイベントが終わった。  
 見事、成立したカップル達はそれぞれ部屋に向かったり深夜にダンジョンに潜りに行ったり好きな場所に行ったりと様々だった。  
 ディアボロスは、晴れて自分の恋人となった美化委員長と手を繋いで、夜の校内を歩いていた。  
 どこかアテがある訳でも、行きたい所があるという訳でもない。ただ、手を繋いで歩きたかったのだ。  
 凄く、どきどきする。ディアボロスはそんな事を思っていた。  
「そう言えば……こうして、2人きりになるなんて、初めてかも知れないですね」  
 ディアボロスがそんな事を考えていた時、委員長が急に口を開いた。  
「あ……そ、そうですね」  
 2人が知りあったのは委員会活動だ。そして、委員会活動は大抵は集団で行動している。  
 事実、2人が2人だけの状況なんてのは今まで限りなくゼロに近かったのだから。  
「正直、ちょっとだけ照れてます」  
「先輩もですか? 俺もです……」  
「同じですね……」  
 委員長の言葉に彼が振り向き、お互いにちょっと笑む。  
「………屋上、出ますか?」  
 ちょうど、廊下の先に屋上へと続く階段が見え、彼がそう口を開いた。  
「ええ。行きましょう」  
 もう1度2人は手を繋ぎ直すと、階段を登っていった。それを睨む、人影が一つ。  
「…………」  
 
 月明かりの下で、ディアボロスとセレスティアは並んで座っていた。  
 特に会話がなされる事は無い。奇妙かも知れないが、それでも2人にはそれだけで充分だった。  
「いい月ですね」  
「ええ」  
 それだけで、会話が終わってしまう。続かないのも問題ありだ。  
「…………」  
 そこでディアボロスは、少しだけ困った。どうすればいいか、と。  
「……………」  
「ねぇ」  
「はい?」  
「一つ、聞いてもいいですか?」  
「何ですか?」  
 ディアボロスが姿勢を正そうとした時、セレスティアはそれを手で制す。  
「硬くならないで下さい」  
「……はい」  
「貴方の事を、聞きたいのです」  
「え?」  
「ディアボロスはセレスティアと仲良くないでしょう? だから、どんな事をしているのかなって」  
「ああ……」  
 古代の魔族の血を引くディアボロスと、古の天上人の血を引くセレスティア。  
 遥か古の時代から対立し続けていた二つの種族は、その血が薄まってきている今でも対立は続いている。  
 お互いがお互いを恨み、対立する。必ずしも明確な理由など無く。古から続く因習として。  
 だから、理解していないのだ。お互いを。  
「……どうでしょう。やっぱり、人によって様々だと思いますよ」  
「あの」  
「……はい?」  
「敬語、やめてくれませんか? 何て言うんでしょう、委員会の時と同じみたいで……」  
「……………ああ。わかりまし……じゃない、わかった」  
 
 ディアボロスはどうにか言い直すと、セレスティアはにっこりと笑った。  
「なら、貴方の事を教えて下さいます?」  
「ええ……俺は……俺は、父の顔を知らずに生まれた。どこの誰かも聞いた事は無いが、ただ冒険者だったという事だけは母から聞いていた。  
 母は、なかなかの魔導師で、幼い頃から俺に魔法を教えてくれた。凄く不器用で、自分勝手な母だったけど、それでも俺を愛してくれた。  
 この前の授業参観にも、わざわざ来てくれた。恥ずかしかったけど、嬉しかったな……」  
「…………お母様は、優しい方だったんですね」  
「ああ。凄く、優しい。ただ、な……」  
「ただ?」  
「周りを上手く愛せない人なんだ。俺と父には愛を注げても、それ以外の人を愛する事が苦手なんだ。凄く、不器用だ」  
「…………」  
「パルタクスに入学するまで、友達とかを持った事も無かった。住んでいた場所が人家から遠く離れてたってのもある。だから、パルタクスに来たのは新鮮だった。  
 貴方に出会えたのも、凄く良かった。セレスティアは怖いものじゃないって、教えてくれたから」  
「え? わ、私がですか?」  
「ええ。先輩はディアボロスが怖いって思ってたって言ってましたよね?」  
 ディアボロスが意地悪そうに聞くと、セレスティアは「ええ」と恥ずかしそうに答えた。  
「俺もセレスティアは怖いものだと思ってましたから」  
「……あらら」  
 そして、2人して同時に笑った。  
「………本当に、サラや会長には感謝しないとな」  
 ディアボロスはぽつりと呟く。もちろん、セレスティアはそれを聞き逃していなかった。  
「あら、どうしてですか?」  
「今回の企画の事ですよ。会長が発案したのは、ご存知ですよね?」  
「ええ」  
「その……」  
 ディアボロスは頭を掻くと、息を吸い込んでから一気に喋る事にした。企画の裏の事実を、包み隠さずである。  
「俺が、先輩の事が好きだと言う事がサラにバレてしまいまして。そのサラから聞いた会長がたった三日で準備したんです」  
「そうなんですか……ってええーッ!? み、三日で?」  
「そうです、三日で」  
 信じられない事に、たった三日で企画から実行まで終わらせたのである。  
 生徒会長マクスターの凄まじいパワーに呆れる。  
「それは凄いですね……でも。それなら、私もマクスター君に感謝しないといけませんね。貴方と、こうしていられるようになったのが嬉しいですから」  
「ありがとうございます……俺もです」  
 そう、たった三日で叶った夢。  
 実現出来たのは、自分1人だけじゃなくて、踏みだしたのは自分1人でも後押ししてくれた友がいたから。  
 それが、ディアボロスにとって1番嬉しかった。  
 後押ししてくれる友を沢山得て、素敵な愛しい人と巡り合えた事を。それが、嬉しかった。  
「………俺、もう死んでいいや」  
 ディアボロスは、今が自分にとって人生最高の時間だと思った。  
 
 屋上から校舎へと続く階段に、1人のセレスティアが立っていた。  
 盗み聞きは決して彼―――――ギルガメシュの趣味では無い。しかし、それでも今夜はそれを行っていた。  
 そして、知った。ディアボロスがセレスティアを思い、セレスティアもまたディアボロスに心を開いている事実に。  
「………ヒデェ奴だな、俺も」  
 ギルガメシュはぽつりと呟いた。今、お互いが恋に落ちた以上、横から入る余地は無い。  
 その恋を奪おうにも、ギルガメシュは自分に勝ち目がない事に気付いていた。自分で解る程、酷い奴だと自分でも思っていたから。  
「クソ……」  
 ギルガメシュが階段を降りようとした時、階段を降りた先の廊下に、人影が立っている事に気付いた。  
「こんばんは、ギル」  
「……サラ、こんな時間に何してんだ?」  
「ギルが来ると思って、待ってたんだよ」  
 図書委員会の、一コ年下の少女、サラ。  
 新聞部で、噂好きで、手にしたノートに書かれた他人のありとあらゆる弱みは教師すらも黙らせる。  
 そして、彼女はギルガメシュが昔付き合っていた彼女。  
 彼の事を好きだと言った少女。  
 そして、彼を拒絶した少女。  
「……俺が? なんでだよ」  
「あたしは、ギルがあの子の事、好きだって事知ってたもん」  
 あたしと付き合っていた頃から、とサラは口には出さずにそう続けていた。  
 ギルガメシュは何も言えずに、ただ黙っていた。  
「……そこは寒いよ、ギル。あたしの部屋においでよ。お茶ぐらい、出すから」  
「……………ああ。テメェの茶ぁ飲むのも久し振りかもな」  
 ギルガメシュの手を、サラは優しく手に取った。  
 どこかふてくされたギルガメシュと、明るいままのサラ。だが、ギルガメシュは知っている。  
 ギルガメシュが好きな少女とディアボロスが結ばれた大元の原因は、サラにあるという事を。彼はもう知ってしまっていた。  
 
 
 消灯時間を過ぎたパルタクス学園は、完全に静まり返っていた。  
 活動するものは殆どいない。だが、ディアボロスとセレスティアはまだ屋上にいた。だが、つい先ほどまでとは違い、ディアボロスはセレスティアに覆いかぶさるような状態のまま、動いていなかった。  
 そう、彼は迷っていた。このまま手を出してしまうべきか、否かという事に。  
 セレスティアは抵抗するかと思っていた。だが、彼女は拒むことをしなかった。  
 そもそも、ディアボロスも男である以上、本能的にむらむらと来る事だってある。そして、まさに文字通り人生最高の時間であった彼は、あろうことかそのまま押し倒してしまった。  
 この後どうするべきか。拒んでいない以上、手を出しても構わない。けれども、ディアボロスはまだ不安だった。  
 そう、だって今は良くても―――――。  
「……怖い、んですか?」  
 動かないディアボロスに、セレスティアは口を開いた。  
「私は、大丈夫。だから、貴方も」  
 不安にならないで、というより先に。  
 ディアボロスは、ようやく覚悟を決めたのか、息を飲んで口を開いた。  
「行くぜ」  
 そう言って、ディアボロスはセレスティアの口を塞いだ。  
 唇と唇を重ね合わせ、そのまま舌をセレスティアの口の中へ。  
 
 そう言って、ディアボロスはセレスティアの口を塞いだ。  
 唇と唇を重ね合わせ、そのまま舌をセレスティアの口の中へ。  
「ん……」  
 舌と舌を絡ませ、何度も何度もその口の中を動かす。深いキスの後、唇を離すと滴が糸を引いていた。  
 ディアボロスはもう1度接吻をすると、片手をセレスティアの身体へと伸ばす。服の隙間へと手を入れ、その手を這わせていく。  
「ん……んん……」  
 唇を塞ぎ、舌をまだ絡ませたまま。ディアボロスの手が、セレスティアの胸の膨らみに触れ、そして、ゆっくりと揉み始める。  
 柔らかく、手触りのいい乳房に触れてディアボロスは少しだけ気分が高揚する。  
 唇を離し、もう片方の手をセレスティアの着衣に掛け、外していく。  
「先輩は、身体も……素敵ですね」  
「え……そんな……か……んっ」  
 セレスティアが答えるより先に、ディアボロスの両手がセレスティアの乳房を揉み始め、そしてそれを徐々に激しくさせる。  
 そう、激しく。セレスティアが時折あげる喘ぎに痛みが混じってきた頃、ディアボロスはようやく手を離した。だが、それで終わりではない。  
「……………」  
「…………え」  
 ディアボロスが何かを言ったが、それはセレスティアには聞こえなかった。だがしかし、彼女が気付いた時にはもう、下着に手がかけられようとしていた。  
「ちょ、まさ――――――」  
 前戯も無しにそのまま挿れるの、と言うより先に、ディアボロスは既に今まさに勃ったばかりのそれを取りだしていた。  
 セレスティアは、初めて視るそれを大きいなと思った。想像していたよりも、ずっと大きい。  
 それが入ってくるという事に、少しだけ不安を覚える。  
 だが、もう既に遅い。  
 ディアボロスは、それをそっと挿れ始めた。  
「……んっ……っ……!」  
「痛っ……!」  
「い、痛い、ですか?」  
「…………へ、平気」  
 半分近くまで入った所で一旦止める。無理に入れば裂けてしまいそうな程だ。  
 だが、悪くないとディアボロスは思う。初めてやる事に、少しだけ快感を覚える。  
「い、行きますよ」  
「は、はい……」  
 ディアボロスの手がセレスティアを抱きかかえるようにして起こす。  
 文字通り抱えられるように起こされたセレスティアの肢体に、ディアボロスは接吻を始める。  
 繰り返される接吻に銜えて、腰もゆっくりと動かし始める。肢体と中への同時の刺激に、セレスティアは思わず声をあげる。  
「っ……んっ……」  
「……っ………なんか……強いっ……」  
「強いって……そりゃ……! 俺は、強いですよっ」  
 ディアボロス相手に何言ってんだが、とディアボロスが言いかけた時セレスティアは口のカタチだけで違う、と答えたが同時に来た刺激に再びあえぎ声をあげる。  
「ひぁっ、ふぇっ……ひぃ、ぅっ」  
「だから、先輩、ダメなら、駄目って、言って」  
 極力、気を遣おうと口では言っても、やっている事はもう既に雄と代わらない。  
 腰を打ち付け、その肢体を存分に楽しむべく、あちこちをぺろぺろ舐め始める。そして、二度と離さないとばかりにしっかりと抱きしめて。  
「でも、先輩っ……」  
「ひぅっ!」  
 腰を打ち付けている中で更に勃ちあがったのか、セレスティアの中でディアボロスのそれが一際硬くなったのを感じた。  
 ここまで硬くなれば、その先端から出て来る筈の―――――。  
「………だめっ、きょ、きょうは」  
「え? 何か」  
 言いましたか、と言いかけるより先に。セレスティアの中に、それが吐きだされようとしていた。  
「きょ、きょうはだめぇぇぇぇ!」  
 慌ててディアボロスが引き抜こうとしたが、既に立ち上がっているそれを引き抜こうとしても、上手く行かない。  
 そして何より、ディアボロスはまだ続けたかった。  
「大丈夫ですよ」  
 ディアボロスはきっぱりと答える。  
「あなたの子供なら、きっと可愛いですから」  
 そう言って微笑む。その顔は、月を背にしても尚、美しかった。  
 ディアボロスとは思えないほどに。  
 

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