はじめまして。僕はパルタクス学園の生徒会で副会長を務めているフェアリーです。学科は司祭でパーティの中枢です。
生徒会の仕事の他に部長を務めている美術部とか、学生の本分である迷宮探索とか色々と忙しいですけど、まぁそれなりに楽しく学園生活を行っています。
え? 副会長はギルガメシュ君じゃないかって? ああ、彼も副会長ですよ。パルタクスは冒険者養成学校という性質上、万が一の事態に備えて副会長が2人いるんです。
……もっとも、生徒会長のマクスター君と副会長のギルガメシュ君がよく仕事をやってくれているので、助かっています。だから僕の仕事は生徒会室のお茶汲みか会議の出席です。
……マクスター君とギルガメシュ君が交渉事に向かないからですけどね。あの2人は性格に難がありますから。
と、いう事で本日は委員会が集まる会議です。各委員会の委員長と副委員長は全員出席です。揃ってないのは生徒会だけです。書記と会計も出なきゃいけないのに。まったく。
「えー、それでは今月の会議を始めたいと思います。まずは学校からのお知らせですが、今月は特にありません。ディモレアが討伐されて以来危険なモンスターなども確認されていません。
大きなイベントも当分無いと思うので安心してください」
先日、あのマクスター君主導で突発的にイベントを行ったばかりである。賛否両論だったが成功したと言っても過言ではない。
「それでは、各委員会から何か意見は……」
「はいッ!」
僕の問いに、即座に反応したのは風紀委員長を勤めるバハムーンの少女だった。
戦士学科でパーティでも前衛として活躍する彼女だが、バハムーンにしては身長が極端に低く中学年ほどのクラッズと同じぐらいの身長しかない。成長期はまだだからこれから伸びると本人は言い張っている。
「はい。風紀委員長。なにか」
「あー、風紀委員会からなんだけど、先日のイベントで多くのカップルが誕生して、それは学園生活としては喜ぶべきだとあたしは思う」
「はい、そうですね」
同時に、美化委員長のセレスティアと副委員長のディアボロスが照れくさそうに苦笑する。この2人も先日めでたく誕生したカップルで大変仲良しである。
「けどな………校内の治安が急激に悪化しているんだよな、風紀委員会としては」
「……例えば?」
「例えば? ………その、校内でだな……」
バハムーンが口をつぐんだ為、風紀委員会の副委員長であるノームの少年が言葉を続ける。
「いわゆる性交です。寮の部屋でやるならまだいいですが、間違っても公共の場である校庭の片隅や屋上、挙げ句の果てには廊下で行っている者も先日確認されました」
「「!!!」」
美化委員のカップル2人が視線をそらしたのは言うまでもない。まったく、この2人は。
「別にやるなとはあたしだって言わない。そりゃあ、学生とはいえ、うん、まぁ、アレだからな? それに、あたしらぐらいの年齢ならば別にやってもおかしくないとは思うよ。
うん、だってそれだけ仲良いって証拠だから別に禁止しろとは言わない、けど秩序ってもんが必要だよ。やっぱ」
「普段の鬼の風紀委員長が言う発言じゃありませんね」
「叩き潰すぞこの羽虫!」
体格では僕と大差無い筈ですが、貴方は。
「と、ともかくだな。そういうのを生徒会の方から注意するように促してくれって事だ。……解ったな、美化委員の2人」
「……はい」「ぜ、善処します」
このバカップル……。
「それと、だ。下級生を中心に不安になってる事態が起こってな」
「それは?」
風紀委員長の話はまだ終わらないのか言葉を続ける。はて、何か大きな事件でもあっただろうか。
「先日のイベントの翌朝なんだが……。あんたその時いたっけ?」
「先日のイベントは準備はしましたが当日と翌日は迷宮探索でいませんでしたね、僕は」
僕の代わりにターク君が手伝ってくれたと聞く。その後何かあったのだろうか。
「いや、おたくのもう1人の副長がね。朝から大噴火しやがって」
「ギルガメシュ君が?」
「うん。そこの美化副委員長から美化委員長を振り向かせてやるって宣言して。宣戦布告だとか恋は戦争とか」
風紀委員長の言葉に美化委員の2人が実に気まずそうに頭を抱えた。待て、それは初耳だぞ。
と、言うより孤高の存在であるギルガメシュ君が色恋に走るというのも想像しにくいが。ああ、前に一度あったか。あの時は確か図書委員会のサラ君が相手だった筈。……破局したのか。
「うちの副会長も大変な人ですからねー……ああ視えて真面目だけどキレるとそれだけで周囲に恐怖を振り撒きますし」
生徒会書記を務める一つ下のセレスティアの少年がため息をつく。生徒会はセレスティア率が高いのは気のせいじゃない。
「で、生徒会の方でなんとか頼むよ。あたしからは以上」
「わかりました。では、他には?」
「美化委員会からです。購買の利用状況が悪いと……マシュレニアのエストレッタ生徒会長から。他の学校に迷惑をかけないでくださいという事です」
「あ、他の学校への迷惑云々で図書委員会から。ランツレートの図書室で借りた本をこちらの図書室に返さないで下さい。ランツレートまで送り直すのが大変です」
「保健委員会から。新入生パーティはバランスの悪いパーティが多いです。ちゃんと回復役や盗術系学科の生徒を組み込むようにお願いしておいて下さい。新入生が保健室に搬入されたり回収されたりする数が多いです」
各委員会からの報告は続く。どうやら報告書をまとめるのは一苦労だ。
……まとめるのは僕ではないけれど。
「わかりました。えー、では以上で……」
「……あの。予算委員会から」
最後にか細い声が挟まる。哀れにも予算委員長にされてしまったフェルパーの少女である。
「はい。なにか?」
「各部活からの予算請求なんですけど……部活の選考基準について疑問を呈したいんです……」
「それはなぜ?」
「………文化部の部活は活動が不明瞭なのが多すぎます。特に『ひで部』とか『あそ部』とか何がしたいのかわかりません……それなのに予算請求されても困ります……」
「わかりました。生徒会の方から注意しておきます。……って、『あそ部』はともかく、『ひで部』ってなに!?」
「わ、わかりません……後は『ころ部』とか『叫部』とか『空き缶同好会』とか……あと、一番高額な予算を請求してきたのが『ひらめ愛好会』です」
「『ひらめ愛好会』? あれ、確かあの部活って部長と副部長と会計の三役が対立して分裂したんじゃ?」
保健委員長が首を傾げた時、風紀副委員長が口を開いた。
「いえ、部長が『ひらめ愛好会』に残留して会計が『ししゃも同好会』を立ち上げて副部長の1人が『はまち部』を創ってもう1人の副部長が『ほっけクラブ』を創って、内部対立に愛想をつかした部員達が『イカ研究会』を立ち上げたのです」
「なに、その複雑な事情……」
と、言うより最早何が何だかよく解らない事情だ。
「あ、それと予算委員会からは『とつげき馬部』が先日地区大会で一位入賞したので表彰を出したいんですけれども」
「考慮しましょう」
僕はメモを必死に取りつつ、書記にもちゃんと記帳するように促す。それにしても何でマクスター君もギルガメシュ君も来ないんだ。
「ああ、予算委員会にお願いです。ともかく、今年度の『ネコミミメイド同好会』の予算をゼロにしておいてください」
「はい、わかりました……」
「待て待て待て待て待て! なんで予算ゼロなんだ! おかしいだろそれは!」
僕が予算委員長に告げた直後、窓ガラスを文字通り突き破って生徒会長のマクスター君が飛び込んできた。
「来るのが遅いですよ」
「それはどうでもいい。それより副会長。僕は君に問いたい。何故ネコミミメイド同好会の予算がゼロになるんだ? 正当な理由を400字以内で説明しろ」
「むしろそれで予算請求して通る方が変です。と、いうより幾ら生徒会長だからってそんな訳の解らん部活の予算を通そうとしないで下さい」
「いやいやいやいやいや! ネコミミメイドは文化だ! 後世に伝えるべき民族文化で歴史だー!」
「兄貴の言う通りや! 予算ゼロは勘弁してや!」
いつの間にか扉から現れた学園の番長であるターク君も泣き付いてくる。だが、それは無視する。
「駄目です。予算ゼロ、と。これで通しておいてください」
「はい。副会長」
「予算委員長も何でそれを受け取る! せっかくのネコミミなのに何て非道な!」
「フェルパーだからでしょう。非道なのは関係ないでしょうけど」
未だに泣き叫び続けるマクスター君をよそに、本日の会議はこれで終了である。挨拶をしなければならない。
「では、皆さん。起立」
「おい、マック! 何処に行ったぁっ!」
いきなり怒声が響き、扉が開いてギルガメシュ君が現れた。
「あ、ギル! 大変なんだ聞いてくれ! ネコミミメイド同好会の予算がゼロにされたんだ!」
「知るかアホ! それよりテメェなぁ、部屋のネコミミグッズを掃除しろとあれほど言ったよな? ああ?」
「ど、どうしたんだギル」
ギルガメシュ君がマクスター君の胸倉を掴み、殺気の込もる視線で見つめる。
「……部屋の床が抜けて下の部屋が大惨事だ」
「そいつは大変だ」
「テメェの部屋が原因だろうがっ! この前掃除したばっかなのに何でまた溢れてるんだ!」
「君が捨てたのをまた拾いに行ってきたからだ!」
「処分しろってあれほど言っただろうがテメェはよぉぉぉぉぉぉぉっ!」
そう言えばマクスター君は個人部屋だった筈。で、その一階下の部屋がギルガメシュ君……。ちょっと大変そうだ。
「いや、その前に2人とも仕事してくれよ」
「「お前は会議に出るかお茶汲みしかしてないんだからいいだろう」」
「………本当にこの2人を生徒会役員にしたのは誰なんでしょうね?」
本当に疑問に思います。
マクスター君とギルガメシュ君が言い争いを始め、チャンスとばかりにギルガメシュ君に風紀委員長が先日の一件について問うとギルガメシュ君が激怒、テーブルを持ち上げて……ふぅ、これじゃまだ当分長引きそうだ。
パルタクス学園の副会長である僕は、今日もため息をついて仕事を続けるしかないようです。当分のんびりできそうにありませんね……。
僕は頭を抱え、ひとまずこの混乱を収拾する方法を考えるのでありました。