夕方。  
 花火大会が近い故か、ハウラー湖畔の町は買い物客で賑わっていた。その中で一際目立つのがパルタクス学園の生徒で、浴衣の安売りセールが始まった時には多くの生徒が店に殺到する事態となった。  
 しかしそんな騒ぎも夕方には収まりつつあり、それぞれ思い思いの買い物を楽しんでいた。  
 
 そしてそんな中、四人のパルタクスの生徒が浴衣を選びに来ていた。  
「……どう?」  
 試着室で試着を終えたサラが顔を出した時、マクスターは「いいね」と頷く。だが、その隣りにいるギルガメシュは黙ったままだ。  
「私も出来たよ。どうかな?」  
 続いて隣りで試着していたユマもカーテンを開く。マクスターはやはり「ブラボー!」と叫んだがギルガメシュは沈黙する。  
「うーん、実にグレイトだよ、サラもユマも。ギル、君もそう……」  
「……………」  
「何て事だ、ギルが呆けているなんて珍しすぎる」  
「……………」  
「ところでサラ、どうしてギルは呆けているんだ?」  
「知らない」  
「誰のせいだと思ってんだぁぁぁぁぁぁっ!!!!」  
 サラのあまりの非情な発言にギルガメシュが吼えた。  
「え、あたし? なに? そんなに美化委員長との会話をジャマされたのが嫌だった? けどギルも悪いよ、他人の彼女に手を出したりしちゃ」  
「そもそもギル、君が人を好きになるというのはある意味雷と槍と鉄珠が同時に雨あられと降り注ぐぐらい珍しい事だと思うよ」  
「マック、お前そこから動くなよ。望み通り殺ってやるから。安心しろ、苦しまずに逝かせてやる」  
「冗談だよギル」  
 ギルガメシュがマクスターに文字通り既に斬りかかっていたがその剣が下まで振り下ろされる事は無かった。  
 ギルガメシュが剣を収め、マクスターは息を吐くと口を開いた。  
「しかしギル。あの時言ってくれればまだ間に合ったかも知れないのに何で今さら……」  
「あの時って何時だ?」  
「ほら、準備の時に聞いただろう」  
「ああ……」  
 マクスターが言っているのは準備の時にぽろりと漏らした、好きな相手が被ってしまったという事だろう。  
「今さら過ぎちまった事を言ってもしょうがねぇだろ」  
「けど、それじゃ逆にみっともなくないか、ギル」  
「……みっともない、か?」  
「みっともないさ」  
 マクスターは息を吐くと、ギルガメシュの背中を軽くたたく。  
「準備の時に勇気を出していれば、まだどちらかが選ばれたかも知れないのに」  
「………そうか?」  
「僕だったらそうするさ。少なくとも」  
「選ばれなかったらどうなる。それに……それになマック。お前、あのディアボロスと美化委員長をくっつける為にわざわざ企画したそうだろ。もし、俺が仮に言ったとしたら。  
 テメェは誰の為に一肌脱いだ事になるんだ? お前は誰の味方になるんだ、マック?」  
 ギルガメシュの言葉に、マクスターは思わず黙り込む。  
 付き合いが長いせいだろう、まさかそこまで考えているとは思わなかった。ギルガメシュは気遣いが出来ない人間では無いのだ。  
「…………けど、言葉に出さなきゃ伝わらないものだってあるさ」  
「ああ、そうだろうな。言葉に出さなきゃ、伝わらねぇものだってあるさ。マック。お前はもう一つ俺に、いや、俺だけじゃない。美化委員長にも隠している事があるだろ? あのディアボロスの事で」  
「……何の話だ?」  
 マクスターがそう問い返した時、ギルガメシュが顔をずいと近づけた。  
 サラはギルガメシュが言わんとした事が分かったのか、ユマに声をかけてその場を離れようとした。  
「待てよサラ」  
 それを、見逃すギルガメシュではない。  
「お前も知ってる筈だ。そもそもの切っ掛けはお前だろうからな」  
 
「………………」  
「………おかしいとは思ってたのさ。幾ら錬金術士学科だからって、ビッグバムをホイホイ撃てるもんじゃねぇし」  
 魔法、というのは努力で身に付けるものではある。しかし、その前にまず素質が必要であり、例えばバハムーンは魔法が苦手で習得したとしてもさほど高い効果を発揮しない。  
 逆にノームは魔法を数多く習得しなかったとしても、その数少ない魔法でも大きな力を発揮する事が可能だ。  
 そう、所謂生まれ持った魔法の素質がずば抜けていればそれはそれで高い能力を持つ魔法使いが誕生する事になる。  
 例えば、闇の魔導師ディモレアとか。  
「ついでに、白髪か黒髪が殆どのディアボロスの中で……血のような色をしてやがる。あいつと一緒だよなぁ? ディモレアとか」  
「ギル」  
「生徒名簿の中には血縁者の名前までは書く必要ねぇしな。けどよ……授業参観でそれっぽい奴を見たと言った奴がいた」  
「ギル、数少ない証拠で決めつけるのは」  
「だが、そうじゃないという決定的な証拠はあんのか?」  
 ギルガメシュの言葉に、サラが一歩踏み出した。  
「ギル、もし仮にだけど」  
「なんだ?」  
「あのディアボロスが、ディモレアと血縁だったとか、そういうのがあったとしてどうする気なの?」  
「…………ディモレアが死んだっつー保証はねぇからな。決まってるさ」  
「生徒同士で殺し合いなんて……」「何人死んだと思ってやがるッ!」  
 サラが言葉を続けるより先に、ギルガメシュが吼えた。  
「ディモレアの一件で、何人死んだと思ってんだよ……パルタクスだけじゃねぇ、ランツレート、マシュレニア……行方不明者も含めれば三桁に届く。あいつ1人のせいで、だ」  
「ギル……」  
「あの美化委員長だってそうだ! あいつの友達が何人もディモレアに殺られてんだぞ! 俺は許せねぇさ。あいつを……パルタクスを……パルタクスを脅かしたあいつを俺は許さねぇ!」  
 マクスターは、何も言えなかった。  
 ギルガメシュとは長い付き合いだが、その中で感じ取った事はギルガメシュは冷たく振る舞っていても熱い心を持っているという事。そして、もう一つ。  
 誰よりも、パルタクスへの思いが強いという事だ。  
「…………………そうだよ、ギル。お前の言う通りだ」  
「……ああ?」  
「お前の言う通り、あのディアボロスの母親はディモレアだ。実際に、僕は会っているからな。確実だよ」  
「……んだと?」  
「ただ、彼自身に特に悪意がある訳じゃないさ。それは普段の彼を見ていれば分かる事じゃないか?」  
「…………………」  
「ギル、君がもしディモレアを討つというのなら討てばいいさ。けど、それはあのディアボロスには関係のない所でやってくれ。それともう一つ。  
 そんな事があるからって、君がディアボロスから美化委員長を奪う理由にはならないと思う」  
「本当にそうか?」  
 マクスターの言葉に、ギルガメシュが呟く。  
「ああ。そんな事をしたら僕はお前を軽蔑するよ。心底」  
「…………お前がそんな事言うのも珍しいなマック」  
「それぐらいの事だからさ」  
 ギルガメシュのすぐ隣りに、マクスターは同じように寄り掛かった。  
「…………なぁ、ギル」  
「なんだ?」  
「どうしてそこまで拘る? お前には、サラがいるじゃないか」  
「……………」  
 マクスターの言葉に、ギルガメシュは視線をそらす。  
 
 サラとギルガメシュが付き合っていた当時、ドライすぎるギルガメシュに積極的なサラというコンビではあったが、それでも決して仲が悪い訳ではなかったし、ギルガメシュもサラに気を遣っていた。  
 事実、今でも時折気を遣っていたり世話を焼いていたりする事もある。近寄りがたい雰囲気があっても打ち解けてしまえば冷たい言動でも優しく接してくれる。それがギルガメシュである。  
 そしてサラも、そんなギルガメシュの事を好きになったのは当然だったのだろう。今でもまだ、好きなのかも知れないのだから。  
「確かにな。俺だって、サラの事は嫌いじゃねぇよ」  
「なら、どうして」  
「諦めたくねぇからだよッ! テメェも言ってただろ! 後、1年ねぇんだよ。この場所にいられるのも……パルタクスにいられるのも、後1年ねぇんだよ!」  
「…………ギル?」  
 マクスターが呟くより先に、ギルガメシュは立ち上がって背を向けていた。そう、顔を見るなと言わんばかりに。  
 強がりばかり言って、いつも立ち続けている孤高の男が。  
 ギルガメシュが、泣いているようにも見えたからだ。  
「俺は、パルタクスが好きだ。ここが、俺の故郷だって言ってもいい。帰る場所なんかない。家族もいない。何もない俺に、パルタクスは色々くれたさ。  
 生きる術を教えてくれた、お前みたいな友達もくれた、温かい先生もいた、そして何よりも……俺を好きになってくれた奴がいた。  
 そして、そんな中で、俺が本気で惚れ込んだ相手を見つけた。驚いた。何も無い俺の全てを変えちまうぐらいに。だから、好きになったのさ。  
 そんなんだから……そんなんだから諦めきれなかったんだよ俺は!」  
 ギルガメシュの叫びに、マクスターは息を飲む。今まで聞いた事が無い、親友の本音を。  
 マクスターは今、初めて聞いた。  
「悪かったよ、ギル」  
「……お前が謝るなよ、マック。お前のせいじゃねぇ」  
 ギルガメシュはそう返事をした後、すぐ側に落ちていた石を拾い上げる。  
 そして、思いきりハウラー湖へとぶん投げた。  
「………叫んだら、すっきりした」  
「……そうか。ふっ切れたか?」  
「ん? ああ。やる事が出来たっつーか、ちょっとな」  
「?」  
 マクスターが首を傾げるより先に、ギルガメシュは既に歩きだしていた。遠くの方で、夕陽が沈もうとしていた。  
 もうすぐ、夜が訪れる。  
 
 
 月が半分ほど昇った頃。  
 人気の消えたハウラー湖の岸に、1人の人影が座り込んでいた。  
 脇に置いた瓶の中身を時折グラスに注ぎつつ、ちびりちびりと飲んでいる。月の光に紅い髪が煌めく。  
 だが、その表情は曇っているままだ。  
「………………あの子、最近連絡ないけど大丈夫かしらね」  
 ディモレアはグラスの中身を一気に煽ると、もう1度瓶の中身をグラスに注ぐ。  
「玉砕して不登校とかもありえそうだわね。あの子、結構ナイーブな所もあるし。そんな所はあの人にもあたしにも似てないし」  
 遠くの方で足音が響く。ディモレアは気にせず、グラスの中身を煽る。  
「それにしても……あの子、本当にこれからが心配だわね。何かなきゃいいんだけど」  
「………もう遅いんじゃねぇのか?」  
 背後から声が響く。  
 ディモレアは後ろを振り向かずにその相手が誰かを探ろうとしたが、心当たりはない。  
「だぁれ?」  
「…………名前ぐらいは名乗っておくか。俺の名前は……ギルガメシュ。お前を殺す名だ」  
「……ギルガメシュ? パルタクスの子?」  
「知ってるか?」  
「ええ。パルタクス学園の中で、ずば抜けた子だって聞いたわよ」  
「お褒めにあずかり光栄だな」  
 ギルガメシュがディモレアのすぐ近く。僅か数メートルの距離まで来た時、ディモレアはゆっくりと立ち上がった。  
 
「テメェをぶっ殺す」  
「……出来るの?」  
「やるのさ。俺は……パルタクス最凶なんだよぉ!」  
 ギルガメシュが剣を抜くと同時に、既にディモレアも臨戦態勢に入っていた。  
 ギルガメシュは一気に間合を詰めて斬り込む。力ありきの彼にとって、攻撃は当てるものではなく当たるものだ。  
「甘いわね」  
 ディモレアは後ろに跳ぶと同時に、両手に火焔を灯す。  
 広範囲に広げる炎の魔法、ファイガンである。それを同時に両手に、そして詠唱無しで使用するあたり、流石と言うべきだろう。  
 だがしかしギルガメシュも多くの修羅場を駆け抜けた猛者である。放たれた二つのファイガンを剣の一振りでかき消した。  
「チッ」  
「その程度で倒せねぇよ」  
「なら、こっちはどう?」  
 一瞬だけ、光ったとギルガメシュが思った瞬間だった。  
 凄まじい速度のサイコビームが右腕に直撃した。  
「っ……! 今の、サイコビームか?」  
「色々と応用利くから便利なもんよー? ま、無詠唱で使用出来るのなんてそうそういないけど」  
「……そうだな。応用、利くな」  
 ギルガメシュは左手を突き出しながらそう呟く。既に射撃準備は整っている。  
「サイコビームってのはな、速度を増すだけが応用じゃねぇさ。極太にするにも応用だ!」  
「!」  
「サイコビーム・グランデ!」  
 文字通り、通常のサイコビームより数倍は太いビームが、凄まじい速度でディモレアへと一直線に進んできた。  
「チッ、避けるしかないわね! 魔法壁なんかじゃ止められそうにないわ……」  
 ディモレアが呼吸を調えつつ、ギルガメシュに視線を送る。だが、ギルガメシュの方も息を切らしていた。  
 サイコビームそのものも上級魔法である。それを極太になるまで魔力を注ぎ込めば息を切らすのもある意味当然だ。  
「あら、今ので息が上がっちゃった? しょうがないわねぇ」  
「………フン、まだまだだ」  
「じゃあ、ご褒美あ・げ・る♪」  
 ディモレアが手をかざした直後、ほんの僅かな囁きでそれは発動された。  
 ただひと言。「ビッグバム」と。  
 
 ギルガメシュを中心に、盛大な爆発が起こった。  
 
「………クッソがぁっ! ラグナロク使ってなかったら死んでたぞ!」  
 煙の中を突っ切り、ギルガメシュが剣を片手に飛び出す。  
「舐めやがってあのババァ!」  
 剣を片手に周囲を探るが、ディモレアの姿は見つからない。  
「あんたじゃ、まだまだあたしは倒せないわよ♪ 今の攻撃程度でラグナロク使うんじゃね」  
「あんな速度で倍化魔法使ってくるとは思わなくてな」  
 ディモレアの言葉に、ギルガメシュはそう言い返す。  
 倍化魔法。精神集中から始まり、使用する魔法の威力を底上げする技術の一つで鍛練すれば習得そのものは難しくない。だが、精神集中の間は隙が出来る為、個人戦には向かない。  
 だが、闇の天才魔導師ディモレアは集中時間の短縮に成功した。そしてただでさえ威力の高いビッグバム。その破壊力は十分過ぎる程だ。  
「………どう、降参する?」  
「断る。大体な。俺を見て気付かないか?」  
 ギルガメシュがニヤリと笑い、ディモレアは注視する。  
 ギルガメシュの使う剣はデュランダル。そう、名剣の中の名剣でその能力は高い。だが、一本程度ならディモレアにとって脅威ではない。  
 そして、彼のぶら下げている鞘は2本分。しかし、手に持っているのは一本でもう一つの鞘は空。  
 果て、それは……。  
「……まさか!」  
「今さら気付いたか! そうさ、そこにいたら危ねぇぞ!」  
 ディモレアの頭上から、文字通り一本のデュランダルが降ってきた。  
 しかし、それを避ける事は容易い。だが、そんな攻撃で討てるものならとっくに倒されている。  
 
 そう、真打は。  
 
「そこに絶大な隙が出来るからさ!」  
 ギルガメシュは既に距離を詰めていた。接近戦ではその斬撃と力強さで圧倒的な強さを誇るギルガメシュである。そう、距離を詰めればそこは彼の間合。  
 ディモレアは後ろに跳ぼうとする。だが、先に降ってきたデュランダルを避けている分、上手く方向転換が利かない。  
「悪いな」  
 
 降ってきたデュランダルと、持っているデュランダルの2本が連続で振られた。  
「っ……!」  
 致命傷には至らないものの、2本分の斬撃の傷が、×印に刻まれていた。  
「やるじゃない」  
 ディモレアの言葉に、ギルガメシュはニヤリと笑う。  
 ギルガメシュもディモレアも、決定打こそ無いがお互いにダメージを与えつつはある。  
「だが、流石にこいつはキツいぜ」  
「あたしもよ。だから、いいプレゼントあげるわ。知ってる? 魔術士魔法の中で、1番簡単な攻撃魔法はファイアだけど。そのファイアの威力を極限まで高める方法」  
 ギルガメシュが何かを言うより先に、ディモレアは動いていた。  
「魔法を使う上での弱点はその詠唱時間。どんなに強力な魔法でも、その間だけは隙が生まれてしまう。だからパーティを組むのは必要なのよね。  
 けどさ、もしその詠唱が無かったら? どんな攻撃魔法でも、詠唱時間無しで魔力が続く限り嵐のように撃たれ続けたら。どんな魔法壁もいずれは破れる。  
 そうよ、そしてあたしは……何をするでしょーか?」  
 ディモレアが楽しそうに笑った後、両手を突き出し、その先端に暗い闇の魔力を灯した。  
 ダクネスガン。闇属性での広範囲魔法だが、冥界の魔族の血を引くディアボロスであるディモレアにとって闇属性の魔法というのは容易な事だった。  
 そしてそれを無詠唱で、数百発に渡って叩き込む。それが彼女の必殺攻撃の一つである。  
 どれだけ威力が低くとも雨あられと撃たれれば、防御が間に合う前に倒せれば、それで良いのだ。  
「負けて、死ね」  
 ディモレアの呟きと共に、闇の魔法球が文字通り嵐のようにギルガメシュを襲い始めた。  
 
 
 試験最終日が終わった、という事もあってかパルタクス学園の食堂は異様な熱気に包まれていた。  
 夕食の席に現れた生徒達は夏休みどうしようかという事を延々と話し合っていた。  
 そして、ディアボロスもまた、パーティの仲間達と同じ席で夏休みの予定について話していた。  
「なぁなぁ、夏休みの間さ。ボストハスで合宿でもやらねーか?」  
「まぁ、悪くはないけどバハムーン。試験で赤点取ってないよね?」  
「黙れフェアリー。安心しろ、今回はバッチリだ!」  
 リーダーであるバハムーンがパーティの回復役にして大黒柱のフェアリーの問いにそう胸を張る。  
「ああ、そうだ」  
 ディアボロスは試験で何か思い出したのか、目の前で座る同じパーティの同族の女子に声をかけた。  
「なんだ?」  
「魔法理論上級の試験、どうだった?」  
「ああ、大丈夫だった。お前が言ってた所がしっかり出てたぞ。流石というか何というか……」  
「だよねー、ディアボロス君凄いもんね。魔術士学科でも無いのに魔法理論特級受けてるもんねー」  
「そもそもあの授業、対象は確か6年生だろ? あたしらまだ5年だぞ?」  
「いいだろ、別に……錬金術だって特級受けてるし」  
「それは錬金術士学科だからだろう。その割には戦術一般も上級受けてるし、古代言語も上級だし……なんだ、相当成績いいじゃないか」  
「俺らのパーティで1番かもな」  
 フェルパーがずずりとお茶を啜りつつ呟く。ディアボロスは頭を掻いた。  
「フェルパー、そういやお前魔術士魔法中級、どうだった? 去年、確かその授業落としてたよな?」  
「心配するな、ちゃんと受けているから大丈夫さ。古代言語上級はちと怪しいけど」  
「……それはお前が授業の大半で寝てたからだ」  
 ディアボロスがため息をついた時、ふと強烈な胸騒ぎに襲われた。  
 何だろう、嫌な予感がする。  
「緊急事態です」  
 ディアボロスが顔を上げた瞬間、背後から声が響いた。どこか聞き慣れた声。  
「……トロオ姉さん? どうしてここに……」  
「貴方に伝えるべき必要があったと判断しました。緊急事態です。ディモレア様が襲撃を受けています」  
「!」  
 ディアボロスはここで動くべきかどうか迷った。  
 自分の母親がディモレアである事を知っている人間は殆どいない。だが、もしここで動いてしまえばその後、どうなるのだろう。  
 何せトロオ1人にですら結構な被害を叩き出した事があるのだ。  
 
 でも、今はそんな事を迷っていてはいけない。そう、何を迷う必要がある。  
 母親の危機を、助けに行かない息子がいるものか。  
「分かった、場所は?」  
「ハウラー湖畔です」  
 ディアボロスは呆気に取られたパーティの仲間を置いて寮の自室へと駆け戻り、とにかく愛用の剣を掴むとテレポルで校門へと飛び、飛竜へと飛び乗った。  
 飛竜が飛び去った瞬間、校庭に1人の人影が飛び出してきた。  
「…………」  
 飛び去っていく飛竜を見つめ、その背中にディアボロスが乗っているのを確認する。  
「……どうして」  
 彼女は、そう小さく呟く。そう、彼女は。美化委員長の、セレスティアだった。  
 直後、また別の人影が2人、飛び出してきた。  
 サラと、マクスターだった。  
「ディアボロスはもう行ったのか?」  
「ええ……」  
「マズいな、これはマズいぞ。絶対ギルの奴に違いない……」  
 マクスターは頭を抱え、サラは飛竜召喚札を使って飛竜を呼ぼうとするが、なかなか掴まらないのか来ない。  
「あの」  
 セレスティアが口を開き、マクスターに声をかける。  
「ディモレアって、あのディモレア、ですよね?」  
「……ああ」  
「それなのに、何であのディアボロス君が出掛けていくの?」  
 それは、と言いかけてマクスターは思わず沈黙した。夕方、ギルガメシュが言った通りの事だった。セレスティアが、ディアボロスを心配するような口でも無かった事にも気付いた。  
 それは……。  
「…………」  
 サラも、何も言えないのか、黙っていた。  
「答えて下さい。何か、知っているのですか?」  
 セレスティアが呟くと同時に、遠くの方が飛竜が舞い降りてきた。  
 
 
 

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