「こんだけ撃っとけば、充分かしらね」  
 ディモレアは最後のダクネスガンを放つと、そこで手を休めた。  
 少なく見積もっても二百以上、元々広範囲の魔法なので攻撃範囲から抜け出そうにも次から次へと襲う攻撃からは避けきれない。  
「……なかなか強かったわよ? けど、あたしにはまだまだね」  
 ディモレアはもう返事が返ってこないであろうと思いつつ、そう声をかける。  
 
 だがしかし、未だに舞い上がる土煙の中から、返事は帰ってきた。  
「サイコビーム・グランデ!」  
 先ほどの、極太のサイコビームが返事代わりとして。  
 
「ッ……ガァッ……!?」  
 土煙の中から不意打ちに近い状態では流石に防御も回避も間に合わず、ディモレアの脇腹にそのサイコビームが突き刺さる。  
「っ……嘘、生きて……」  
「………死ぬかと思ったぜ、ったくよぉ……」  
 土煙が晴れ、その中にはギルガメシュが立っていた。  
「あれだけの数を、どうやって!?」  
「サイコビームの応用だ……威力はねぇが速度が早いのを散らして迎撃したのさ。それでも潰せなかった分は剣で弾いた! 仕損じたの何発か喰らったけどよ」  
「…………そういう使い方もあるのね、失念していたわ」  
 まさかサイコビームで弾幕を張るとは。そういう攻撃方法も無い訳ではないが、ギルガメシュのように防御に使うというのも驚いた。  
 そして何よりも。先ほどの極太サイコビームといい、弾幕といい、ギルガメシュは魔法の才能もかなり高いのだろう。  
「単なる力馬鹿じゃないのね」  
「当たり前だ……どこまでも強くなるには、色々やるっきゃなかったからな」  
 ギルガメシュを視界に捉えながら、ディモレアはマズいなと思っていた。  
 先ほどのサイコビームと、二回の斬撃。これだけで、かなりのダメージを負っている。  
 それにダクネスガンを二百発以上も無詠唱で連続で叩き込んだせいで、魔力もかなり使ってきている。  
「…………1人相手に、ここまで苦戦するなんて」  
「何か言ったか?」  
「独り言よ。あんたをどう料理するかって」  
「クソ、しっかしマズいな」  
 ギルガメシュは呟く。実際、極太サイコビームも何発も連続で撃てるものではないし、その前にもビッグバムやダクネスガンを何発か喰らってダメージ自体は少なくない。  
 お互いに、刻々と憂うべき状況に立ちつつある。  
「それにしても、今さらあたしを狙いに来るなんて驚きだわね………どんだけ執念深いのよ」  
「卒業する前に果たすべき事だと思ったのさ。それに……俺個人として許せない事がある」  
「それは?」  
「俺のパルタクスを、脅かすんじゃねぇ」  
 ギルガメシュはデュランダルを一振りすると、両手でしっかりと掴んだ。真っ直ぐに。  
「………………あんたは、あの学校好きなのね」  
「ああ。大好きさ」  
 ギルガメシュはそう呟くと同時に、強く踏み込もうとして、何かに気付いた。  
 
 上空にいつの間にか飛来してきた飛竜から飛び出した人影が、落ちてくる。  
 
「……来やがったか……」  
 ギルガメシュが呟くと同時に、彼はディモレアの前にやってきた。  
「遅かったな」  
「………やっぱ、先輩でしたか。こんな時になって襲撃してくるなんてね。それに……食堂にいませんでしたし」  
 ディアボロスが立ち上がりつつギルガメシュに声をかけると、ギルガメシュは鼻で笑った。  
「別に俺がディモレアを倒しに来る事ぁおかしな事じゃねぇだろ。パルタクスの平和を脅かす奴は許さねぇ」  
「俺の事、知ったんですか」  
「ああ。今日、だけどな」  
「………そして、すぐに、ですか」  
「ああ」  
 お互いに、黙り込む。  
 
「あんた……どうして」  
「トロオ姉さんから聞いた。だから、すぐに飛んできた」  
「別に放っておいても」  
「俺の母さんだろ! 死んで欲しくないよ!」  
 ディアボロスが剣を抜いた時、ギルガメシュが呟く。  
「………一つ教えてやる。何で俺が今夜、ここに来たか分かるか?」  
「………?」  
「テメェも知らねぇ筈がねぇだろ。ディモレアの一件で多くの生徒が死んだ。その中には、色々混じってる。例えば、あのセレスティアの仲間とか……弟とかなぁ!」  
「っ!」  
 ディアボロスは、頭をハンマーで殴られたかのようなショックを受けた。  
 ディモレアが生徒に恐れられているのは知っているし、実際自分の学校の生徒に犠牲者が出ている事も知っている。だが、彼女の。  
 そう、自分が恋い焦がれて、本当に恋人になった彼女の大切な人が、傷ついていたのは。  
 そして彼女が、自分の母親がディモレアだと知ったら。  
 
 そしたら、自分は、どうすればいいんだろう。  
 
「だからだよ……だからテメェは無理なんだよ。俺には分かるさ」  
「そんなの……」  
 言ってみなければ分からない、と言いかけてギルガメシュは首を振る。  
「バカ言え。テメェが今、誰に剣向けてんのか分かってんのか? 俺に向かってだ。ディモレアと闘う俺に剣向けたっつー事は、テメェはもう俺の敵だ。そして、テメェはディモレアの味方だっつー事だ」  
「…………」  
 ディアボロスは、剣を下ろす事が出来なかった。  
 ギルガメシュの言う通りだ。自分は今、母親を守ろうとしているだけなのに。それなのに、それでもそれは、パルタクスの平和を脅かした敵をかばい立てする事になって。  
 それで、それで……。  
「ん?」  
 ディモレアが空を見上げた時、飛竜が再び舞い降りてきていた。  
「ギル!」  
「……マックか?」  
 まず最初に飛竜から飛びだしたのはマクスターだった。  
「お前……やる事って、まさかこの事だったのか?」  
「ああ」  
「…………」  
 マクスターに続いてタークとサラが飛び降り、そして最後に出て来たのは―――――。  
 
「……嘘、本当に……生きて……」  
 
 今、1番来て欲しくない相手だ、とディアボロスは思った。  
 だって今、自分は母親を守る為に剣を抜いているけれども、でも、その相手は。  
「……先輩」  
「どうして、ディモレアが……生きて……」  
「まだ死んでないからに決まってるでしょ」  
 ディモレアが呟く。だが、セレスティアはそれを認めたくなかった。平和は戻ってきた。ディモレアは倒されたから。でも、今目の前にいる。  
 ここにいる。そしてその前に立っているのは、自分の事を好きだと言ったディアボロスの少年。  
「……どういう、事なの。どうして、君が」  
「先輩、俺は」  
「どうして君がそっちにいるの!? 剣を向ける相手が、違うんじゃないの!? だって、その人は」  
「解ってますよそんなの!」  
 ディアボロスの叫びに、ギルガメシュは剣をひょいと真っ直ぐに構えた。  
「そりゃあ、普通の奴はな。自分の母親に剣向けたりは出来ねぇさ。どんな悪人だとしても、そいつにとってディモレアは自分の母親でしかねぇ。そいつがどれだけの重罪人だとしても、な……」  
「………ギルガメシュ君、まさか、この事を知ってたんですか?」  
「今日知った」  
 セレスティアの問いに、ギルガメシュは答える。  
 
「けど、テメェの弟がディモレアに殺されたって事は前から知ってる」  
「………」  
 セレスティアは黙り込む。ディアボロスも黙りこむ。  
 何も言えない、状態。  
 そうだ。誰だって、家族ほど大切な存在は無いだろう。  
 ディアボロスにとって、母親が唯一の家族だ。けれども、その母親はパルタクスの生徒を始め多くの人を傷つけた。  
 そんなの、解っている筈だった。理屈の上では。  
 だから、秘密にし続けていた。誰にも言わなかった。けれども、いずれ打ち明けようとは思っていた。自分の事をもっと知って欲しかったから。  
 でも、それが本当は無茶苦茶な事だったと今日知った。  
 自分にとって母親以外の何者でもないディモレアは、他の人にとっては重罪人でしかないという事だ。どこまで言っても。  
 そして、好きになった相手にとっても。それは、同じ事だった。  
「……ディアボロス。テメェに最後の選択肢だ。テメェは誰に剣を向けて、誰の味方になるんだ?」  
「………………」  
 ディアボロスは、迷う。  
 母親を死なせたくはない。けれども、ここで剣を向ければ、自分は。  
 恋人の、敵になってしまう。  
「っ………どうすりゃいいのか、解らないよ……」  
 ディアボロスが呟いた時、セレスティアが動いた。  
 背中に背負っていた槍を。  
 名槍と名高い、ニケの槍を真っ直ぐに構える。  
 ディモレアに向けて。  
「……どいて」  
「………………」  
「そこをどいてください、ディアボロス君」  
「……………」  
「貴方にとっては母親でも、私には……私には……弟の仇でしかないから! でも、君を傷つけたくない! だから、そこをどいて!」  
「!」  
「どいてぇぇぇぇぇっ!」  
 セレスティアは、誰よりも早く駆けた。  
 後ろから追いすがろうとしたマクスターも、タークも振り切り、そこから動く様子を見せなかったディアボロスをかわすように、ディモレアの首元だけを狙って。  
 
 でも、その槍が深々と突き刺さったのは。  
 
「………え?」  
 紅い鮮血が飛び散る。けど、その刃が突き刺さったのは、ディアボロスだった。  
「……………先輩、ごめんなさい………」  
 紅い血が噴き出る。セレスティアは槍から手を離すと、ディアボロスはその場にゆっくりと崩れ落ちた。  
「……アンタぁッ!」  
 ディモレアは文字通りディアボロスの元へと慌ててすっ飛んでいき、すぐに抱き上げた。  
「しっかり! 解る? 呼吸はしてる? 大丈夫、だから、目を」  
 ディアボロスを抱き上げ、必死に介抱するディモレアの目の前で、槍から手を離したセレスティアは、呆然とした目つきでそれを見ていた。  
「……………嘘、どうして……」  
「おい!」  
 そんなセレスティアを、ギルガメシュは慌てて掴むと、即座にその場から強引に離した。  
「ギルガメシュ君、私……」  
「そんな事より、ここを離れるぞ」  
「ギル! ディアボロスを、あのままにしておくつもりなのか!?」  
 ギルガメシュの言葉にマクスターが叫んだが、ギルガメシュは首を振る。  
「バカ、このままこの場にいたらディモレアに殺られるぞ!」  
 ギルガメシュが叫んだ瞬間、まさに文字通りマクスター達の目の前に、サイコビームが突き刺さった。  
「………覚悟、出来てる?」  
 
 ディモレアの声。過去にパルタクスの生徒達と対峙した時の余裕ある声とは違う。そう、純粋なる憎悪と殺意だけに溢れた冷たい言葉。  
 そしてそれは、セレスティアを恐怖のどん底にたたき落とすには充分だった。  
「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!」  
 その叫びが響くと同時に、ディモレアから放たれる魔力が一瞬で増大する。  
「ヤバい、伏せろッ!」  
 ギルガメシュの叫びの直後、周辺を薙ぎ払うかのようにビッグバムが放たれる。  
 辛うじて直撃こそしなかったものの、それでもその威力は凄まじいものだと解る。  
「ギル、お前のせいだぞ!」  
「テメェらだってなぁ、せめてセレスティアを止めてくりゃいいのに何で連れてくんだ!」  
「無茶言うな。いつまでも隠し通せることじゃなかったんだから。それより、あれどうするんだ!?」  
「いいか、マック。そもそもテメェなぁ、セレスティアの弟がディモレアに殺られたってことテメェだって知ってた筈なのに何でくっつけたりしやがったんだ!」  
「そんなの本人同士の問題だろう!」  
「テメェが育てた種だろうが! 蒔いたのはサラだけどよ!」  
「じゃああたしが悪いのギル!?」  
「ああ、もう兄貴もギルもサラも落ち着けや! それよか、ボヤボヤしてると殺られるで!」  
 タークが慌てて割って入り、三人は一瞬で意識を現実に引き戻した。  
「で、どうするんだあれ?」  
「………マック。周辺の植物が枯れ始めてる。要は周辺の魔力も全部吸い尽くしてるってことだ。ディモレアが」  
「………つまりそれは?」  
「まぁ、死ぬな」  
 ギルガメシュの言葉に、マクスターは「お前なぁ」と呟く。  
「と、ともかく逃げるぞ」  
「ああ。ターク!」  
「了解やで!」  
 タークが飛竜を呼び寄せ、走れそうに無いセレスティアを背負って走り出し、サラもそれに続く。  
 ディモレアは逃がすまいとばかりに、手を向ける。  
「おおっと、そうはさせるかよ!」  
 ギルガメシュは右手を突きだし、精神集中からサイコビームをぶつけた。  
 ディモレアはサイコビームにサイコビームをぶつけるという荒技で相殺しつつ、もう片方の指に光を灯した。  
 1、2、3、4、5と。5本。  
「……死ねぇーッ!」  
 5本の指それぞれからサイコビームが放たれた。  
 サラ、ターク、マクスター、ギルガメシュ、そしてセレスティアとちょうど5人分である。  
 ギルガメシュも負けてはいない。  
 威力はないが速度と数だけは大量にばらまけるよう、威力を調節したサイコビームを弾幕のようにばらまく。  
「飛竜の準備はまだか!」  
 5本のサイコビームをたたき落としたはいいが、次に襲ってきたのはディモレアの十八番とも言うべくダクネスガンだった。  
「後はギルだけだって……うぉい! 何であんなに数あるんだ!?」  
「くそ、出来る限りたたき落とすが全部は無理だ!」  
 ギルガメシュが再びサイコビームを撃とうとしたが、その時に気付いた。  
 精神的疲労が激しくて、集中が出来ない。どうやら魔力を使いきってしまったらしい。  
「………ヤバい、当たるぞ」  
 ギルガメシュが呟いた時、ダクネスガンが逸れ、湖の方へと消えていった。  
 そしてそのまま、次弾が放たれる様子は無い。  
「……今のうちだ!」  
 ギルガメシュは飛竜に飛び乗る。5人を載せた飛竜が、飛び立つ。  
 
「……………」  
 ディモレアは最後のダクネスガンが消えたのを見送った後、自分の足下に視線を向けた。  
「大丈夫……?」  
 自分の足をしっかりと掴んだ、息子の姿。血塗れで、息も絶え絶えの。  
「母さん……」  
「どうして、止めたりなんか……」  
「……好きな人を、傷つけて、欲しくなかったから……」  
 ディアボロスの言葉に、ディモレアは息を飲む。  
「……………ごめん」  
「……母さんが、謝ることじゃ……」  
 げほ、と血の塊が口から零れた。同時に、ディモレアは自分の顔から血の気が引いたのを感じた。  
「……走るわよ。絶対、死なせたりなんかしないから……!」  
 ディモレアは息子を抱き上げると、自分の住み処へと走り出した。  
 
 
 パルタクス学園が朝を迎え、その部屋の住人であるフェルパーの少年は目を覚ました。  
「朝、か………」  
 そう言えば昨晩はルームメイトのディアボロスは戻ってこなかったが、剣が消えているあたり、どうやら迷宮探索に出掛けたままのようだ。  
「あれ?」  
 だが、その割には夕方に風呂に行った時はちゃんといた、というより一緒に風呂に行った筈である。なのに、風呂に入った後に深夜から迷宮探索に出掛けたのか?  
 不自然だなぁ、と彼が考えた時、部屋の扉がノックされた。  
「はいはーい。開いてますよ」  
「悪ぃ、ちょっといいか?」  
 扉を開けると同時に入ってきたのは、ルームメイトと同じパーティを組んでいる同学年のフェルパーだった。  
 フェルパーは人見知りする種族だが同じ種族同士なら問題は無い。そしてルームメイトと同じパーティを組んでいるフェルパーは実力もあるので時折ルームメイトの伝手で頼みごとをすることもある。  
「どうしたのさ、珍しい……あれ? 何でパルタクスにいるんだ? 迷宮探索に行ったんじゃ?」  
「行ってないよ、うちのパーティは。昨日、うちのディアボロス、帰ってきてないか?」  
「いや。帰ってない。どうしたのさ?」  
「ああ……昨日の夜、夕食の後、急に飛びだして行った後、戻ってきてなくて」  
「………マジか?」  
「部屋に戻ってるかなって思ったんだけど……いないのか」  
「ああ……。行方不明か? とにかく、探してみよう。知りあいを当たってみる」  
「ああ。うちのパーティの連中にも、探すように言ってみる」  
 2人のフェルパーは頷きあうと、お互いに部屋から飛び出し、違う方向へと向かっていく。  
 そしてこの日。パルタクス学園中を、電撃的なニュースが駆け巡り、学園中が揺れに揺れる事態となった。  
 
 
 

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