何事にも、過去があり、現在があり、未来がある。  
 パルタクスの武神がパルタクス三強の筆頭になる前。  
 かつて王の中の王と呼ばれたパルタクス生が、迷宮の遺産を巡ってディモレアと闘う更に前。  
 
 二〇年前。  
 彼らの世代の親の世代が、幾多の迷宮を駆け抜けていた時代があった。  
 
 後に世界の管理者となる事を望んだ類稀な才能を持つ錬金術士。  
 後に迷宮の遺産を巡って各地で争いを繰り広げた天才的な魔導師。  
 後に帝国の四天王最強と畏れられた剣士。  
 後に帝国の四天王で最も凶悪と言われた堕天使。  
 
 そして後に、天才的な死霊使いを生んだ少女。  
 
 彼らが生きた時代。  
 彼らの生き様。彼らの見てきた世界。  
 
 Episode1:血塗られた王達の系譜  
 
 二年前。天才魔導師ディモレアは、迷宮の遺産を巡って世界を相手に戦乱を引き起こした。  
 主戦場となったハウラー地下道から名付けられ、ハウラー戦争と言われるこの戦乱。  
 彼女は何故、戦乱を起こしたのか。  
 そして、彼女と、彼女の夫であった人物と、その仲間達が残した子供達。  
 
 彼らの辿った運命。  
 彼らの生きてきた、彼らが見てきた、世界。  
 
 遠い昔に追い遣られてしまった、過去の記憶。  
 
 
 マシュレニア学府は長い歴史の中で多くの魔術士を輩出する事から術士系を極めたければマシュレニアに行けなんて言葉が生まれる程で、正反対に武術系を多く輩出しているランツレート学院とは良きライバルとなっている。  
 もっとも、生徒間同士の仲は決して悪いものではなく、マシュレニアの敷地内でランツレート生が歩いている事や、その逆もよくある。  
 そしてその日。  
 マシュレニアの敷地をランツレートの制服を着たディアボロスの少年がとぼとぼと歩いていた。  
 血のような紅い髪と、さほど大きくはない体格。着ている制服はまだ新しいのか、糊が落ちきっていない。  
 しかし、その制服は何故か既にボロボロになっていた。口元も切れていて血が流れており、彼は泣きそうになるのを必死にこらえながら歩いていた。  
 そして、しばらく歩いた先、マシュレニアの校舎の前に同じく血のような紅い髪をしたディアボロスの少女と、銀色の髪をしたフェルパーの少女が雑談しているのを見つけ、彼は急に足を速めた。  
 二人も彼の存在に気付いたのか、視線を向けるとディアボロスの少女は立ち上がる。二人の少女はマシュレニアの制服を着ており、彼よりも年上なのか見下ろすような視線で見ていた。  
「こら、ダンテ! あんた遅い!」  
 少女の言葉に、ダンテと呼ばれた少年はびくっと身体を震わせ、頭を下げる。  
「ごめん、ディモ姉ちゃん……」  
「ほら、それより頼んどいた魔道書! ランツレートの書庫から取ってきたんでしょ? さっさと出しなさい!」  
「いや、その……実は……」  
「実は、何?」  
「まぁまぁ、ディモレア殿、落ち着くといい。ダンテ少年、慌てなくていいからしっかり話しなさい」  
 フェルパーの少女が間に入り、フェルパーの言葉に落ち着いたのか、ダンテはゆっくりと口を開いた。  
「その、ランツレートを出た所で……年上のセレスティアの女子にからまれて、取られちゃったんだよ」  
「……は?」  
 ディモレアは額に青筋を浮かべながらそう返した。  
「だから、頼まれてた魔道書が取られちゃったんだよ……なんでも『私の先輩が使いますから寄越しなさい。後輩は先輩の為に譲る!』って……」  
「ふ・ざ・け・ん・な・ッ!」  
 ディモレアの叫びと共に、ダンテは再び震え上がった。今年ランツレートに入学したばかりの哀れな彼はマシュレニア卒業を控えた従姉、ディモレアに完全に尻に敷かれていた。  
「取り戻してきなさい!」  
「無茶言わないでよ、殴られてほら、血まで出てるんだよ? あの先輩怖いよ、絶対女子じゃないし……」  
「大体、セレスティアに取られるって何よそれ! このバカチン! そんなんだからミラノちゃんにバカにされるのよ、まったく」  
「ミラノはただ単に毒舌なだけだよ……ディモ姉、その手に持ってる釘バットは?」  
「これ貸してあげるからそのセレスティアの女子を殴り倒して取り戻してきなさいって言ってるの」  
「そんな無茶苦茶な……あ」  
 ダンテが急に後ろを振り向き、そして校庭の一点を指さした。  
「あそこにいるんだけど……ほら、ランツレートの制服着たセレスティアの女子と、あの近くにいる金髪の小さいマシュレニア生の」  
「……あれ? よし……カガリ、ダンテ。ついてきなさい。アタシの魔道書を横取りした不届きなセレスティアを成敗してやるわ」  
 ディモレアが釘バットを振り回しながら立ち上がり、ずんずん進んでいく後ろをカガリと呼ばれたフェルパーと、ダンテが続く。  
 ダンテが指さした校庭の先。  
 そこにいたのはマシュレニアの制服を纏った金髪のヒューマンの少年と、ランツレートの制服を着たセレスティアの女子だった。  
 ヒューマンはセレスティアより年上なのか、魔道書を開いてセレスティアに講釈を垂れている。しかし、その体格はセレスティアよりも小さく、更に言うならクラッズと同じぐらいの体格でしか無かった。  
 ヒューマンにしては小さすぎるほどで、本人もそれを気にしている。  
 ディモレアはヒューマンに気付いたのか、小さく「げ」という声をあげる。  
「……アンタ、確か……チビのエドワードね。その魔道書はアタシが従弟に頼んで借りてきたものなんだけど? 返してくれない? チビのエドワード」  
「誰が極小アリンコドチビかーッ! このウシチチが! 悪いがそういう訳にはいかねぇよ、ランツレートの後輩が持ってきてくれたんだ。なぁ、パーネ?」  
 チビのエドワードことエドと呼ばれたヒューマンは目の前に座るパーネに視線を向ける。  
 
「ええ。そこのディアボロス君から私が借りてきたんですのよ? 何か不満でも?」  
「先輩、俺から無理矢理取ったじゃん! 返してくれよ……でないとディモ姉に殺される」  
「アンタは黙ってなさい」  
 ダンテはディモレアから拳骨を一発貰い、ディモレアは視線をエドに向ける。  
「どうしても大人しく渡さない気かしら……?」  
「当たり前だ。チビと言われて黙ってられるか! 俺の事をチビと言うとは……万死に値する!」  
 マシュレニア学府の最上級生の仲で最もキレやすく、そして凶悪な男と言われる。錬金術士学科エドワード。通称、エド。  
「ふぅん、史上最小のチビっ子がアタシに噛み付くなんていい度胸だわね」  
「俺の錬金術を見てからほざけ! パーネ! とりあえずがらくた持ってこい!」  
「はいエド先輩。木くずです」  
「おう、木くずから錬成して……って、出来るのはパチンコだよ! パチンコでどうするんだよ!」  
「さぁ? そこは先輩の腕の見せ所です」  
「……こ、この娘。本当に俺をバカにしてやがるな、幾らミニマムだからって俺はお前よりも三年も年上なんだぞ……!」  
「冗談ですよ、エド先輩。はい、ししゃも10個」  
「おう! ししゃも10個を錬成して……ほら見ろ! イカが出来て……アホーッ! 攻撃力1だろーが! イカで、どうしろって言うんだテメェ! 俺をバカにするにも程があるだろ!」  
「バカだからじゃない?」  
 ディモレアの言葉に、エドは文字通り顔を真っ赤にすると、鞄を探り出す。  
「いい度胸だなウシチチ……分解して肉塊にしてやろうか」  
「……さっきから聞くけどウシチチとは良く言ってくれるじゃない、チビのエドワード。消し炭にしてやろうかしら?」  
 ディモレアとエドが対峙し、パーネは楽しそうに、ダンテは慌てた様子でそれを見守る。  
 カガリはのん気に「まぁまぁ」とその間に割って入った。  
「ディモレア殿も言いすぎだ。エドワード殿も、少し落ち着くといい。背の高さがその人の価値を決める訳でもあるまい」  
「ああ、カガリは解ってるな! そーだよな! そのとーりだよな! それなのにこの後輩と来たら! 後輩ときたら……!」  
 エドはパーネを指さしながらカガリの前で泣き始めた時、パーネは「あらあら」と笑いだす。  
「あら、エド先輩。私が不満なんですの? 酷いですわ、昨日の夜の事を忘れてしまったのですね?」  
「……そんな貧乳の後輩相手に欲情して何が楽しいのかしら、エドって」  
「だからディモレア殿、言いすぎだ……」  
 ディモレアの言葉にエドが再びキレ始めたのをカガリが宥め、ダンテはダンテで一人オロオロしていた。  
 
 
 マシュレニア学府のあるマシュレニア自体に多くの資産家や商人が集まり、一大都市を形成しているせいか、マシュレニア周辺の食堂は美味という事で伝わっていた。  
 その喧しすぎる五人は学府のすぐ隣りにある食堂に落ち着き、まずは魔道書をどうするかという事を決める事にした。  
 もっとも、ランツレートから借りてきたのはダンテなのだが。  
「だいたいね、この魔道書はあの禁呪とまで言われる古代魔法ネロ・カラレスが載ってるのよ……魔術士として探求心が疼くに決まってるじゃない」  
 故に魔術の発展に貢献するべくこの魔道書が必要だと言い張るのはディモレアである。借りてきたのはダンテだが。  
「禁呪がなんで禁呪かってのは危険だからに決まってるだろ? それより、この魔道理論を解明して少しでも錬金術に役立てるのが筋ってモンだろうがよ?」  
 錬金術と魔術は厳密には理論は異なるのだが、それでもそれぞれがお互いに影響を及ぼしていることは間違いない。  
 どちらも技術であり、新たな技術の開発に他の技法のカタチを取り入れるのも間違いではない。  
 錬金術士学科のエドが魔道書を使う理由は魔道理論を取り込む事で新たな錬金術を立ち上げる事にあるのだ。  
「これだから錬金術士は我が侭なのよ。素材がなきゃ何も作れない癖に」  
「ケッ! 魔力が切れたら何も出来なくなる奴等がいえる台詞か! 俺達は素材さえあれば作れるんだぜ! 使うだけの魔術士とは違う」  
「その材料を生みだすのは誰だと思ってるのよ! このチビっ子」  
「誰がチビだ!」  
「まったく、お主達は落ち着くという言葉を知らぬのか? やれやれ……これ、パーネと言ったか? ダンテ少年をいじめるんじゃない」  
 カガリはディモレアとエドの口論を仲裁しつつ、ダンテにちょっかいを出すパーネを止めるという器用な事をしつつ、今口論の対象となっている魔道書を取る。  
 
「私はこういう魔道書を読んだ事は無いのだが……ディモレア殿といい、エドワード殿といい、相当心引かれるものなのだろうな」  
「そりゃそうでしょカガリ。魔道書は先人が生んだ最高の書物よ」  
「古人の叡知が文書になってるようなもんだしな。これはいいものだ」  
 ディモレアとエドがそう口を開くが、パーネは興味なさげにダンテの角を引っ張り始めていた。  
「こらアンタ……いい加減、ダンテにちょっかい出すとアタシ怒るわよ? ディアボロスの角は大事なものなんだから」  
「あらあら、頭に血が上り過ぎですよ。少し別の場所に回したらどうですか? その胸にぶら下がってる無駄な脂肪の塊あたりに」  
「殺してやろうかしら、このセレスティア」  
 ディモレアが殺気を飛ばし、パーネは笑みを浮かべる。  
 とても先輩後輩のやり取りには見えない。  
「ディモ姉、怖ぇーよ……」  
 ダンテは震えつつ呟く。しかし、ディモレアは意にも介さず、パーネと睨み合いを続けている。  
「やれやれ。これでは当分……む?」  
 カガリはそんな彼らを見つつ魔道書のページをめくり、そのまま凄い勢いでめくっていく。  
 ページというページを確認し、彼女はゆっくりと口を開いた。  
「なぁ、ダンテ少年や。この魔道書は読めない人間が見ると真っ白く見えるのか? 何も書いてないんだが」  
 魔道書、とは言っても様々で、時には筆者が秘密を多く漏らしたくないだけに呪いをかけていたりする事もある。  
 ダンテは首を横に振り、それを聞いたディモレアとエドは「はぁ?」と言った顔でカガリを見た。  
「カガリ、何を言うのよ。その魔道書が白い訳……本当に白いわ」  
「え? もしかしてこれ偽物なのか?」  
 エドがそう呟き、慌てて魔道書を開く。  
 ディモレアがその脇から強引に覗き込んだ、後、凄まじい絶叫が響いた。  
 
「「なんじゃこりゃああああああああああああああああっ!!!!!!!!!」」  
 
 食堂の窓という窓を全て破壊するには充分過ぎる程の威力だった。  
 
「何よこれ、偽物ってどういう事よこれ。ダンテ! アンタ何借りてきたの!?」  
「え、それで俺!? いやだってちゃんと司書の人が持ってきてくれたもん! これで合ってるって!」  
 ディモレアはダンテの首を文字通り絞めていると、ダンテは慌てて弁解する。  
 そこへ、魔道書の最後のページが一枚の紙がこぼれ落ち、カガリはそれを拾い上げる。  
「む、何か落ちたぞ。なになに……『伝説の魔道書カラレスの書はいただいてくぜ。おつかれさん。怪盗ジェーンブライド』……ほう」  
「怪盗ジェーンブライド? 最近、この近隣で騒がれている怪盗の事か?」  
 パーネの言葉に、ようやくディモレアの首絞め攻撃を振り切ったダンテが言葉を続ける。  
「確か、怪盗ジェーンブライドは昔は盗賊団肉球パンチを組んでいたけどリーダーその他が捕まってからソロで活動してるって聞いたけど」  
「ふぅん、怪盗ジェーンブライドねぇ……こんなの盗んでどうするつもりなのかしら? 魔術士や錬金術士でも無い限り役に立たないのに」  
「だよなぁ」  
 彼女達が議論を始める中、食堂の席から一人の女性が慌ただしく立ち上がり、外へと出ていく。  
 その時、店主が口を開いた。  
「あ、食い逃げだーッ!」  
 女性が店の外に出ると同時に走っていくのをダンテは見逃さず、即座に立ち上がると慌てて後を追う。  
 ディモレアとエドワードは言い争いを始めており、ダンテが走っていくのに気付いていなかったが、パーネは同じように外へと出た。  
「逃がすか! 待てーッ!」  
 女性を追うダンテ。逃げる女性。そしてそのダンテを追うパーネ。  
「で、食い逃げなんて追いかけてどうするの?」  
「普通だろ! 良識ある生徒は悪事を見逃さない!」  
「ダンテ君はどこの生徒なのかしら……」  
 ダンテの凄まじい走りに流石の女性も驚いたのか、速度をあげようとして見事に転んだ。  
 そう、転んだ。  
「チャーンス! タックルは腰から下ぁぁぁぁぁっ!!!!」  
 ダンテは女性に腰からしがみつき、取り押さえる事に成功する。  
 食い逃げ犯の女性は必死に抵抗をしようとしたが、ダンテが腕も押さえてしまったので諦めたのか、うな垂れた。  
「さて、食い逃げを捕まえたっと」  
 ダンテは嬉々として、パーネは渋々女性を引き摺り、食堂へと戻る。  
 
「ダンテ、あんた何処行って……なにその人」  
「食い逃げ」  
 ディモレアの問いにダンテがそう答えた時、エドが急に女性をまじまじと見た。  
「あれ?」  
「どうしたのですかエド先輩?」  
 パーネが不思議そうな顔をする中、エドは取り押さえられた女性をまじまじと見る。回りをぐるりと回って、そしてゆっくりと口を開いた。  
「パーネ。こいつ確か、怪盗ジェーンブライドだな」  
「「「「え?」」」」  
 エドの言葉に、四人の声が重なる。まさか怪盗が食い逃げをするとは。少し変である。  
「俺が言うんだから間違いねぇよ。で、アンタが盗んだのか? 魔道書を」  
 エドの問いに、食い逃げ犯の女性こと怪盗ジェーンブライドは視線をそらす。まるで、その事について触れられたくないとばかりに。  
「どうなのよ? あの魔道書はどこに行ったの?」  
 ディモレアが顔をずいと近づける。それでも喋らないとみたのか、ディモレアは片手に光をトもした。  
「ビッグバムぶちかますわよ?」  
「ディモレア殿、落ち着いてほしい」  
 カガリが留めなければ確実にぶち込んでいたに違いない。  
 ディモレアが肩で息をするのをカガリが宥め、ダンテは女性をじっと見る。  
「で、魔道書を何処に隠したんだよ? 正直に言ったほうがいいぜ。ウチの姉ちゃん、気が短いんだ」  
「私の先輩もですけどね」  
 パーネが言葉を続け、女性はため息をついた。  
「わかった、言う。言うよ……」  
「解ればよろしい」  
 ディモレアは女性の頭を文字通り掴んで言葉を続ける。  
「何処に隠したの?」  
 言わなかったら殺す。無言でそう言っていた。やはりディモレアは他人を脅すことにかけては超一流のようだ。  
 
 ザスキア氷河。  
 ランツレート学院からそう離れていない場所に、魔道書は隠されている。  
 怪盗ジェーンブライドを騎士団に引き渡し(ただしその前にビッグバムをぶつけた)た後、ディモレアは即座に回収に行くと宣言した。  
 ダンテに命令して取りに行かせたとはいえ、それでもディモレアが元々は読みたいと思っていたものである。そして、エドもまた回収に行く事を宣言していた。  
 元々どちらのものでも無いのだけれど、お互いに所有権を主張しつつ、一行はザスキアへと向かっていた。  
「だから、カラレスの書はあたしが使うって何度言ったら解るのよ!」  
 ディモレアの怒りにエドは真っ向から反撃する。  
「俺が錬金術の発展に役立てるんだよ、お前なんざ後回しだ後回し!」  
「なんですってぇ!」  
 隙あらば掴みかかろうとする二人を引き離しつつ、カガリはため息をつく。  
「お互い、将来有望なのだから少しは仲良くしたらどうなのだ?」  
「「断る!」」  
 見事なハモり。カガリは二度目のため息をつく。ここまで気が合うのに何故嫌いあうのだろう。  
 魔導師と錬金術士なら、それぞれお互いの弱点をカバーし合っているようなものなのに。  
「やれやれ、本当に困った事だ……」  
 カガリがそう呟いた時、ダンテも「そうですね先輩」と相槌を打ち、パーネにも同意を求めるべく振り向いた、時だった。  
 パーネがいない。  
「……あれ?」  
 ダンテは慌てて周囲を見渡す。カガリは頭を抱えており、ディモレアとエドはとうとう掴み合いに発展していた。パーネがいない。  
「パーネ先輩……何処に、行ったんでしょうね?」  
 ダンテの呟きに、二人が反応した。  
「え? あのセレスティア、いないの!?」  
「なに!? パーネの奴、いつの間に!?」  
 ディモレアとエドは慌てて周囲を見渡す。しかし、パーネの姿はない。  
 ザスキア氷河は、モンスターのレベル自体はかなり低く、入門レベルと言っても過言ではない。  
 しかし、問題はその場所にある。氷河地帯故に、似たような景色が続き道に迷いやすい。その上、氷の通路は歩くだけでも否応無しに体力を奪っていく。  
 単なる雑魚モンスターの巣窟だから楽勝、なんて言葉は当てはまらないのである。  
 ディモレアやエドならともかく、まだ冒険者として成長途中のパーネが一人でうろちょろ出来る場所ではない。  
「ったく、しょうもねぇなぁ……」  
 エドは頭を掻きつつ、ディモレアとダンテ、そしてカガリに視線を向けた。  
「探すの、手伝ってくれるか?」  
「嫌」  
 ディモレアは当たり前のように拒否の返事を出すのだった。  
 

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