ドワーフは部屋のドアを開けた。  
そこには誰もいないはずだった。  
「おう、ドワーフ。何してたんだ?」  
「え!?」  
フェルパーが、何食わぬ顔でベッドに座っている。驚きのあまり、ドワーフはその場に立ち竦んだ。  
「え……え、嘘…!?だって、あんた……あの時、ロストして…!?」  
「おいおい、ひどいな。俺がいつロストしたんだよ?」  
記憶の中のものと、少しも変わらない笑顔。あの、いつもの表情。  
「夢、じゃ、ないよね?フェルパー、ほんとに生きてたんだよね?」  
「当たり前だろ。あの時言ったこと、忘れてないだろ?」  
フェルパーは少し恥ずかしげな顔で言い、尻尾をくねらせる。それは紛れもなく彼だった。  
「フェルパー!!」  
こちらに笑いかける彼の胸に、ドワーフは思い切り飛び込んだ。  
 
腕が空を泳ぐ感覚に、ドワーフは目を覚ました。  
目を開ければ、そこはカーテンのかかった暗い室内。上に突き出された自分の手だけが、はっきりと見える。  
空は暗く、時間がまだ夜中であることを示し、隣で寝息を立てるセレスティアがそれを裏付ける。  
―――夢……か…。  
一体、何度こんな夢を見ただろう。その度に夢じゃないと信じ、その度に裏切られ、それでもこうして、信じてしまう。  
―――当たり前、だよな……あいつは、ロストしたんだから…。  
夢を見る度、現実を突きつけられる。一度静まった悲しみが、再び蘇ってくる。  
じわりと目頭が熱くなり、視界が歪む。声が震え、嗚咽が漏れる。  
「う……うっ、うぅ……うえぇぇん…!」  
声を抑え、ただただ涙を流し、泣き続けるドワーフ。  
それを背中に感じながら、セレスティアはぎゅっと目を瞑り、声もかけられずにいた。  
何度も夜中に目を覚まし、その度にドワーフは泣き出す。しかし、そんな彼女にかけるべき言葉を、セレスティアは知らなかった。  
ドワーフの嗚咽を聞きながら、セレスティアは何も出来ない自分に、どうしようもない歯痒さを感じていた。  
 
セレスティアは悩んでいた。彼女はいつもドワーフの側にいるが、だからと言って何が出来るわけでもない。  
もうあれから三ヶ月経つのに、フェルパーを思い出して泣く彼女を慰めることも出来なければ、思い出さないようにすることも出来ない。  
つくづく、セレスティアは自分の無力さを感じていた。  
それでもきっと、ノームが側にいてくれれば、何か優しい言葉をかけてくれただろう。自分の無力さを、彼の胸の中で吐き出すことも  
出来ただろう。しかし、今のセレスティアにはそれすら許されない。  
「ドワーフさん、食事はしっかり取らなきゃダメですよ」  
「……あ、うん…」  
二人は学食で、遅い昼食を取っていた。これでも、ドワーフはだいぶマシになったのだが、それでもたまに、食事そっちのけで  
上の空になっていることがある。彼女が食事を忘れるなどということは、これまでに一度だってありはせず、それが彼女の心の傷の  
深さを物語っている。  
「あんまり、食欲ないですか?」  
「うん……ちょっとね…」  
大食いで食いしん坊のドワーフが、『食欲がない』というのも相当なものである。現に今も、彼女は目玉焼き一つしか食べていないのだ。  
今までの彼女なら、目玉焼きであれば二桁食べてもおかしくはない。  
「でも、もうちょっと食べた方がいいですよ。それだけじゃ、体壊しちゃいます」  
「うん……心配してくれて、ありがと…」  
もっとも、こうなってしまうのも無理はないとも思う。入学当初からの仲間でもあり、恋人でもある大切な存在を失ったというだけでも  
十分に辛いのに、蘇生失敗のときにリバイブルを使ったのは、他ならぬドワーフ本人である。  
言い換えれば、彼女は自分自身の手で恋人を殺したようなものなのだ。  
そんな彼女を慰めることなど出来るわけもなく、セレスティアはただただ、彼女の側にいてやるしか出来なかった。  
 
寝る前に、二人は神に祈りを捧げるのが日課である。セレスティアは毎日欠かさず祈りを捧げており、ドワーフはフェルパーが  
ロストした後しばらくは祈るのをやめていたが、最近はまた祈りを捧げるようになっている。  
目を瞑って手を組み、空に向かってじっと祈る。だが、この日のセレスティアは、祈りとは別に一つの迷いを考えていた。  
―――せめて、わたくしはドワーフさんの苦痛を和らげてあげたい……だけど、側にいてあげるだけでは、限度があります。  
隣のドワーフは何を祈っているのか、目を瞑ったまま微動だにしない。  
―――最近、一つだけ考えたことがあります。だけど、それは神の道に反しないのでしょうか?許されることなのでしょうか?  
そう思いつつ、彼女はノームのことを思い出していた。  
―――ノームさん……あなたなら、こんな時どうしますか?あるいは、それを実行したとき、あなたはわたくしを許してくれますか?  
迷い、悩み、返らない答えに、セレスティアは組んだ手にゴンッと額をぶつけた。その音に驚き、ドワーフが彼女を見る。  
何度も何度も考えたこと。何度も何度も思い止まったこと。しかし、その迷いは常にあり続け、彼女の心を支配した。  
そして、今気づいたことがある。  
―――相手を大切に思う気持ち……愛情の確認…。仲間を愛する気持ち……きっと、同じことですよね?  
今まで、ドワーフのために何かをしてあげたいと思っていた。だが、今迷っていることを思い止まっていたのは、自分のためだった。  
少しずつ、迷いが消えていく。以前の彼女なら、決して考え付かず、また考えても否定する方へと、気持ちが傾く。  
―――ノームさん。あなたなら、わかってくれますよね?  
セレスティアは静かに目を開けた。  
―――神様。悩める者を救うのが、あなたのお教えになる道ならば……わたくしは、決してその道を外れてはいないはずです。  
もう、迷いはなかった。彼女は静かに、一つの決意を固めていた。  
「セレスティア、どうしたんだ…?」  
ドワーフが怪訝そうな顔で尋ねる。それに対し、セレスティアはいつもの笑顔で答えた。  
「いえ、何でもないですよ。気にしないでください」  
「ほんとか…?んまあ、何でもないならいいんだけど」  
ちょうど祈りも終わっていたので、ドワーフは立ち上がり、上着を脱いでベッドに座った。セレスティアも、その隣に並んで座る。  
「もう寝ようか。やることも、別にないしね」  
無気力な声で言うと、ドワーフはそのまま寝転がった。そんな彼女に、セレスティアはそっと近づく。  
「……ん?セレスティア、どうしたんだ?」  
「ドワーフさん…」  
セレスティアは、真っ直ぐにドワーフの目を見つめている。  
「な、何だよ…?私が何か…」  
何だか居心地が悪くなり、体を起こそうとした瞬間。  
まったく突然に、セレスティアはドワーフの唇に唇を重ねた。  
「っ!?!?」  
予想だにしない出来事に、ドワーフは全身の毛を逆立て、その場に固まってしまう。そんな彼女の首に、セレスティアは優しく腕を回し、  
そっと抱き寄せた。そこでようやく、ドワーフは我に返った。  
 
「んっ……ぶはぁっ!!!セ、セレスティア何すんだよっ!?」  
慌ててセレスティアを突き飛ばし、ドワーフはベッドの上を後ずさった。セレスティアは少し困った顔で、ドワーフを見つめている。  
「ドワーフさん、嫌ですか?」  
「嫌に決まってるだろ!私にそのケはない!あんた、何考えてんだ!?ていうか、どうしちゃったんだよ!?」  
「うん、わたくしも悩んだんですけど……わたくしは、ドワーフさんのこと、大切な仲間だと思います」  
「そ、そうか。で、それで何でこうなる!?」  
「前、ノームさんが言ってました。性……その……えっと、その……こ、こういう行為は、愛情の確認のためにも、するものだって」  
「うわ…!」  
ドワーフは真剣な顔で、思いっきり体を引いた。  
「それと、相手を大切に思ってなければ、できないことだとも。わたくしは、パーティの全員が、大切で、愛すべき仲間だと思ってます」  
「愛情の意味が違うだろそれ!?その愛と、あんた……じゃない、ノームの言う愛は、別物だろ絶対!?」  
「それでも、愛情には違いありませんよ。それに…」  
そこまで言うと、セレスティアは不意に悲しげな表情になった。  
「こういうことしてると、少しの間だけでも、嫌なこと、忘れられますから…」  
「あ……う……セ、セレスティア、気を使ってくれるのは嬉しいけど……ほんとに気を使ってくれるなら、これはやめてくれた方が…」  
ドワーフの言葉を完全に無視し、セレスティアはドワーフの体に抱きついた。  
「お願いです……今日だけは、嫌がらないでください…!」  
「だ、だからセレ…!」  
その時、ドワーフは気付いた。自分の体にしがみつくセレスティアの体は、小刻みに震えていた。  
「お願いですから……今夜だけ、わたくしのわがままを許してください…」  
悲しげな声。その口ぶり。それを聞いた瞬間、ドワーフはその理由に気付いた。  
今まで、ドワーフは自分の悲しみに飲まれ、彼女のことなど思いやりもしなかった。しかし考えてみれば、セレスティアも大切な仲間を  
失い、恋人は冷たい言葉を吐き、その場で別れる羽目になったのだ。それでも、彼女は何も言わず、ただ自分のために付き添い、  
他の仲間がいなくなった後も、ずっと側にいてくれた。  
セレスティアが潤んだ瞳を上げ、そっと唇を近づける。だが、もうドワーフは逃げようとしなかった。  
温かく、柔らかい唇が重ねられる。少し迷い、ドワーフは自分から、積極的に彼女の唇を吸う。いきなりのことに、セレスティアは  
少し驚き、体を離そうとした。が、今度はドワーフがその体を抱き締め、逃がさない。  
そうしてしばらく唇を重ねてから、セレスティアの抵抗がやや本気になったところで、ドワーフは手を放した。  
「ドワーフ……さん…?」  
「ごめん、セレスティア」  
開口一番、ドワーフはそう言った。  
「私、自分のことばっかりで……セレスティアだって、辛かったよな。なのに、私のことずっと気遣ってくれて……ありがとう」  
寂しいのは、ドワーフばかりではない。セレスティアも、寂しかったのだ。ドワーフはようやく、それに気付いた。  
ドワーフの言葉に、セレスティアは優しく微笑んだ。  
「いいんです。でも、その……ほんとに嫌なら、やめますけど…」  
「いいよ、もう。それにあんただって、嫌なこと忘れられる」  
今度はドワーフの方から、セレスティアを抱き締める。もちろん、女同士ですることに対しての抵抗が、ないわけではない。  
それでも、今はそうしていたいと思っていた。自分も彼女も、ただひと時でも、辛いことを忘れられるのだから。  
 
抱き締められたセレスティアは嬉しそうに微笑み、ドワーフの唇をいたずらっぽく啄ばむようにキスをする。  
「ふふ。前にいっぱい触らせてもらいましたけど、やっぱりふわふわで気持ちいいですね」  
「セレスティアのは、柔らかくって温かい。唇の形違うと、感触も違うな」  
ついフェルパーを思い出してしまい、ドワーフの表情に影が差した。が、完全に物思いに沈んでしまう前に、セレスティアが  
唇を強く吸い、現実に引き戻す。  
「もう。せっかく恥ずかしいの我慢してるのに、余計なこと考えちゃ、やーですよ」  
軽い調子で言うと、セレスティアはまたもキスを仕掛ける。今度は舌が入り込み、ドワーフは一瞬身を引きかけた。しかし、すぐに  
思い直し、自分からも積極的に舌を絡める。すると今度はセレスティアが驚き、唇を離そうとするが、やはりすぐにやめる。  
舌を絡め、互いの口内を味わい、つっと唇を離す。二人とも、少しずつその目に情欲の光が混じり始めている。  
「ドワーフさんって、舌長いんですね。あんなに口の中に入ってくるの、初めてです」  
「そういう種族だからね」  
「それに、舌が温かくって……ノームさんは、温かくはな……んむ…!?」  
さっきのお返しとばかりに、今度はドワーフが唇を奪い、後に続く言葉を封じる。さらに、ドワーフはセレスティアの服に手をかけ、  
ゆっくりとボタンを外し始めた。セレスティアは最初気付かなかったが、半分ほど外されたところでようやくそれに気付き、  
慌ててドワーフの体を押しのける。  
「ド、ド、ドワーフさん何するんですか!?」  
「何って……脱がせようかと」  
「……あ、ああ、そう……ですよね。で、でも、その、恥ずかしいですよ…」  
「一応、経験あるんだろ…?」  
「で、でも、恥ずかしいものは恥ずかしいんですっ!他の人の前で、裸になるなんて…」  
「一緒に風呂入ったじゃないかよ…」  
「それとこれとは大違いですっ!」  
何とも面倒臭い性格だと思い、ドワーフは苦笑いを浮かべる。  
「あんた、自分から仕掛けといてそれはないだろ…」  
「あ、いえ、その……えっと、気付かない間に脱がせようとしないでくださいよぉ…」  
「わかったわかった」  
「そ、それと!わたくしだけ裸っていうのは嫌ですよ!?ド、ドワーフさんも、ちゃんと、その、脱いでくださいね!」  
「はいはい…」  
仕方なく、ドワーフは自分の服に手をかける。ボタンを外し、袖から腕を抜こうとしたところで、ふと動きが止まる。  
セレスティアは、じっと自分のことを見つめている。見られていると思うと、何だかとても気恥ずかしくなってくる。  
「……あんまり見るなよ…」  
「ドワーフさんも、恥ずかしいんじゃないですか」  
「そりゃ、だって……そうだな」  
迷っていても仕方ないので、ドワーフは覚悟を決めて服を脱ぎ捨てた。とはいえ、全身毛で覆われた彼女の体は、セレスティアから  
見ると、服を着ているのとあまり変わらないように見えた。が、ドワーフはムスッとした顔で、胸元を隠している。  
「こ、これでいいよな?」  
「ドワーフさんの体、ふさふさですね」  
「あ、あまり見るなってば。と、とにかく、これで次はあんたの番な!」  
言うが早いか、ドワーフは素早くセレスティアの体を捕らえ、残りのボタンを外し始めた。やがて全てのボタンが外され、  
服を脱がせると、下着に包まれた形のいい乳房が現れる。  
 
二人は少しの間、お互いの体を見比べていた。  
「胸、大きいな……柔らかそう…」  
「あ、あんまり見ないでくださいよぅ…。それに、その、ドワーフさんだって、胸は……えっと、かっこいい立派な胸板…」  
「それ、褒めてるのか?それとも遠回しな嫌味?」  
「あっ、いえっ!その、ほんとにそう思っただけで、嫌味だなんて…!」  
「あはは、いいよ気にしないで。ただの冗談。その褒められ方、嫌いじゃないしね」  
何度か躊躇いつつ、ドワーフはそっと、彼女の胸に手を伸ばした。  
指先が僅かに触れ、セレスティアがピクンと体を震わせる。  
「んっ……ドワーフさん…!」  
「あ、大丈夫?その……触っても」  
「……ええ」  
引っ込めた手を、もう一度伸ばし、再びセレスティアの胸に触れる。掌で包み込むと、何ともいえない柔らかな感触が伝わる。  
「すごく……柔らかい…」  
「んん……も、もう。わたくしも、触らせてもらいますからね…!」  
そう言うと、セレスティアはドワーフに体を寄せ、肩を掻き抱くようにする。その手が少しずつ滑り、背中を撫で、腰を撫で、  
時折ゆらりと揺れる尻尾に触れた。  
「ひゃんっ!?」  
「きゃっ!?」  
いきなり甲高い悲鳴を上げられ、セレスティアは驚いて身を離した。当のドワーフも、目をまん丸にして彼女を見つめている。  
「も、もう〜、いきなり尻尾触るなぁ…」  
「ご、ごめんなさい。あの……尻尾って、触っちゃまずいですか?」  
「いや、その……悪く、は、ないけど……いきなりは、びっくりするよ…」  
「じゃ、前もって断った方がよかったです?」  
「だ、だから!その、いきなり触るのはダメなんだってば!だって……だって、尻尾なんだぞ!」  
セレスティアにはまったく理解できない理由であったが、どうやら尻尾を触られるのは、かなり恥ずかしい事らしいのは察しがついた。  
「じゃ、しばらく尻尾はなしですね?」  
「う、うん。そうして」  
彼女としては、ふさふさした尻尾はとてつもない魅力があったのだが、そう言われてしまっては触るわけにもいかない。  
少し考え、また胸に手を伸ばそうとしていたドワーフを、ぎゅっと抱き締めてみる。  
「わっ!」  
突然でドワーフは驚いたようだったが、お互いの温もりが心を静め、くっつけあった胸に伝わる相手の鼓動が、何ともいえない安らぎを  
二人にもたらす。その例えようもない快感に、二人はしばらくそうしていた。  
「胸、当たってる」  
ドワーフが呟くと、セレスティアは少し顔を赤らめた。  
「ドワーフさんの体、温かいです。ふさふさで、温かくて……気持ちいい」  
「セレスティアも、温かいよ。柔らかくて、すべすべしてる」  
言いながら、ドワーフはセレスティアの腕を撫で、真っ白な翼を撫でる。  
「羽も、ふわふわで手触りいいな」  
「あ、そう言ってもらえると嬉しいです。翼を褒められるのって、すっごく嬉しいんですよ」  
セレスティアは本当に嬉しそうな笑顔を浮かべる。喜ばれれば、やはり悪い気はしない。  
 
「その、セレスティア」  
「何ですか?」  
「えーと……もっと、続き、しないか…?」  
その意味を理解すると、セレスティアの顔がボッと赤くなった。だが、顔には恥ずかしげながらも笑みが浮かんでいる。  
「いい……ですよ。で、でも、やっぱり恥ずかしいですね」  
「私だって、そりゃ、そんなこと言うの恥ずかしいけど……でも、今はもっと、気持ちよくなりたい」  
ドワーフが手を伸ばし、セレスティアのスカートに触れた。躊躇いがちに手をかけ、そっと引き下げる。  
完全に下着姿となったセレスティアは、真っ赤な顔でドワーフを見つめている。そんな彼女に、ドワーフは軽くキスをする。  
「ドワーフさんのキスって、ふわふわした感じで、気持ちいいです」  
「私としては、しっとりしたキスとか憧れるんだけどな」  
胸を隠すブラジャーに手をかけると、セレスティアは慌ててその手を押さえた。  
「ダメなのか?」  
「だ、だって、またわたくしだけ……ドワーフさんも、下脱いでください!」  
「え……わ、私はブラしてないだろ!?」  
「でもスカート穿いてるし、スパッツも穿いてるじゃないですか!」  
「……わかったよ、しょうがないなぁ…」  
どうもセレスティア相手だと強く言えず、ドワーフは渋々スカートに手をかけた。下に穿いているスパッツがあるとはいえ、  
スカートまで脱ぐとかなりの恥ずかしさがある。  
「な、なぁ、こっちはまだいいだろ…?ていうか、ここはまだ勘弁してよ…」  
耳を横に垂らしつつ言うと、セレスティアはいきなりドワーフをぎゅっと抱き締めた。  
「ふふっ。ドワーフさん、可愛い」  
「……あんた、私のことからかってる?」  
「そんなことないですよ。ほんとに、ドワーフさんがすっごく可愛く見えるときがあるんです」  
「私は愛玩動物じゃないぞ…」  
抱き締められているので、セレスティアの体はそれこそ目の前にある。ドワーフは手を伸ばすと、彼女のブラジャーのホックを外した。  
ぽろりとブラジャーが落ち、形のいい胸が露わになった瞬間、セレスティアは小さく悲鳴を上げて胸を隠し、ドワーフから離れた。  
「ず、ずるいですよぅ!あんなときに脱がせるなんて…!」  
「いちいち驚くなってば。あと、いちいち逃げないの」  
セレスティアを強引に抱き寄せ、ドワーフは彼女の胸に吸い付いた。途端に、セレスティアはピクンと体を震わせる。  
「んっ…!ドワーフ、さん…!」  
されることは何度かあっても、するのは初めてである。ドワーフはいまいち勝手がわからなかったが、乳首を口に含んだ感触が意外と  
心地良かったので、それを舌で転がしつつ、赤ん坊のようにちゅうちゅうと吸い始めた。  
「やぁ…!ドワーフさん……あん!いきなり激しすぎますよぉ…!」  
初めて聞く、セレスティアの艶っぽい声。それを出させているのが自分だということに、ドワーフは微かな興奮を覚える。  
が、恥ずかしさからか、ぎゅっと頭を押され、ドワーフは一旦唇を離した。セレスティアは胸元を押さえ、僅かに潤んだ目でドワーフを  
見つめた。  
「はぁ、はぁ……ドワーフさん、その…」  
「もうちょっと、優しくした方がいい?」  
ドワーフが尋ねると、セレスティアは顔を真っ赤にしつつ、こくんと頷いた。  
今度はそっと抱き寄せ、もう片方の手で胸全体を覆うように掴み、優しく揉みしだく。  
「んぅ…!そ、それ、いいです……んん…!」  
セレスティアは目をぎゅっと瞑り、ひたすらに恥ずかしさと快感に耐えている。それを見て、ドワーフはいたずらっぽく笑い、  
もう片方の乳房に顔を近づけると、つんと尖った乳首を舐め上げた。  
「あっ!?やっ、ドワーフさん……あんまり、舐めちゃ……あんっ!」  
 
まるで犬が舐めるように、ドワーフは何度も何度も、彼女の乳首を舐め上げる。その度に、セレスティアの体がピクンと震え、抑えた  
喘ぎ声を漏らす。やがて、その体がじっとりと汗ばみ始めた頃、ドワーフはそっと彼女の腰を引き寄せた。  
「あぅ……ドワーフさん、今度は何す……ふあぁ!?」  
ビクンと、セレスティアの体が跳ねる。内股から回された尻尾が、ショーツの上から彼女の秘裂を撫でていた。  
「やっ、何…!?うあぁっ!!ド、ドワーフさん待って…!あっ!ま、待ってくださいよぉ!」  
必死の思いでドワーフの体を突き放すと、セレスティアはとうとう力尽きてベッドに転がった。  
「はは、ずっと膝立ちだったし、疲れた?」  
「そ、そうじゃなくて……いきなり激しくするの、なしって言ったじゃないですかぁ…」  
「ごめんごめん。でも、まさかこれで終わりじゃないよな?」  
「それは……その…」  
ドワーフはセレスティアの隣に寝ると、優しく顔を自分の方へ向けさせ、すっかり赤くなった唇にキスをした。  
「セレスティアは、そのままでいいよ。私が、続きしてあげる」  
耳元で囁くと、ドワーフは彼女のショーツに手をかけた。セレスティアは両手で真っ赤な顔を覆い、ドワーフの為すがままになっている。  
いつの間にか、すっかり立場が逆転している。しかし考えてみれば、セレスティアのリードなど最初から望めないことはすぐにわかる。  
むしろ、彼女がドワーフを誘ったことすら、奇跡に等しい。それはドワーフもわかっているので、少し物足りない気がしつつも、  
特に何も言いはしない。  
ゆっくりとショーツを引き下ろす。僅かに透明な液体が糸を引き、それと共に『雌』の匂いが立ち込める。その匂いに、ドワーフの  
体の奥がジンと疼いた。  
「やっぱり、スタイルいいなあ」  
思わず言うと、セレスティアは翼でサッと体を覆い隠してしまった。  
「あ、あんまり見ないでください…」  
「気持ちはわかるけど……羽、あると続きできないよ」  
「で、でも恥ずかしいんですよぅ…」  
翼を開いてくれる気配がなく、ドワーフは困った顔で彼女を見つめる。が、翼で覆いきれていない部分を見つけ、にやりと笑う。  
「じゃ、しょうがないな。いきなりいくよ」  
「え、何が…?きゃあっ!?」  
ドワーフはセレスティアの足を開かせると、秘裂を丁寧に舐めあげた。セレスティアは慌てて足を閉じようとするが、ドワーフは  
しっかりと押さえつけ、それをさせない。  
「や、やだっ!いきなり……あんっ!ド、ドワーフさん……んあぁっ!やめっ……やめてくださ……あっ、あっ、あっ!!」  
長い舌が、割れ目全体を包み込み、まるで撫でるように舐め上げる。さらに、最も敏感な突起を、舌全体を使って強く刺激され、  
セレスティアの体がビクビクと震える。  
「やっ!し、舌がっ……うああ!!ドワ……ドワーフさんっ!!お願い、待って……待ってくださいよぉ!お、お願いですからぁ!!」  
必死に快感を堪え、セレスティアは何とか上半身を起こすと、翼と手とを使ってドワーフの頭を押し返した。ドワーフはぺろりと  
舌なめずりをすると、いたずらっぽい視線でセレスティアを見つめる。  
「はっ……はっ……い、いきなり、ひどいですよぅ…」  
「だって、体隠しちゃうからさ」  
「そ、それと!」  
いきなりセレスティアが大きな声を出し、ドワーフの毛がふわっと膨らんだ。  
「また、その、わたくしだけ脱いでるじゃないですか!ドワーフさんも、ちゃんと脱いでください!」  
「あ、ばれた?……しょうがないなあ」  
出来ればこのままで通したかったのだが、ばれては仕方がない。ドワーフはさらに全身の毛を膨らませつつ、スパッツに手をかけた。  
それをゆっくり引き下ろすにつれ、ぴっちりと押さえられていた毛が膨らんでいき、逆に体のラインが見えなくなっていく。  
 
太腿辺りまでスパッツを下ろすと、ドワーフは尻尾を内股に巻き込み、大切な部分を隠してから、ようやく脱ぎ捨てる。  
お互いに一糸纏わぬ姿となると、恥ずかしげに足を閉じるセレスティアの隣に寝転ぶ。  
「セレスティア、もっと楽にして」  
優しく声をかけると、ドワーフはセレスティアにキスをしながら片手で胸を愛撫する。  
「はう…!ドワーフさん…!」  
さらに、もう片方の手でセレスティアの腹を撫で、そのまま下へとずらすと、秘裂へと滑り込ませた。くちゅっと湿った音が鳴り、  
セレスティアの体が跳ねる。  
「あんっ!やっ……そんな、強く…!」  
ドワーフの指が、秘裂全体をなぞるように撫でる。その指全体に愛液が絡みつくと、ドワーフは割れ目の中へと指を入れた。  
「い、痛ぁっ!」  
「え!?」  
突然の悲鳴に、ドワーフは慌てて手を離した。一方のセレスティアは、非難するような目でドワーフを見つめている。  
「ドワーフさん、ひどいですよぉ…」  
「え、えっと、え?あれ、痛かった?でも、その、指だけで……え、まさか、もしかしてセレスティアって、経験ない…?」  
「ドワーフさんの指、太いじゃないですかぁ……そんなに太いの、入れたことなんかないですよぉ…」  
「……そういえば、ノームってあれ付いてないとか言ってたっけな…」  
ノームとセレスティアが、普段どういう行為をしていたのかを想像し、それが今の状況とよく似ていることに気付くと、ドワーフは  
妙におかしくなった。それと同時に、セレスティアが彼を思い出して辛くはないかと、一抹の不安を覚える。  
「セレスティア……その、無理とか、してないか?」  
「何が…?ああ、大丈夫ですよ。ドワーフさんとノームさんは、全然違います」  
聞いたことで逆に思い出させてしまったと、ドワーフは心の中で頭を抱えた。そんな彼女に、セレスティアがそっと手を伸ばす。  
「ん?セレス……ひゃあ!?」  
セレスティアの手が、内股に巻き込んであった尻尾を撫でた。上から軽く撫で、根元を掴み、内側を優しく撫で上げる。  
「やっ、あっ!セ、セレスティア、そこは……うあっ!」  
「ふふっ。もう、尻尾触ってもいいですよね?」  
彼女は忘れていなかった。羞恥心と快感に翻弄されつつも、尻尾を触りたくてたまらなかったのだ。  
「セレ…!んっ……ま、待って……ふぅ、んっ、あぁ…!」  
「ああ、ふさふさ……それにドワーフさん、そんなになっちゃって。うふふ、可愛いです」  
敏感な部分を撫でられる快感と、ほとんど触らせることのない部分を撫でられる恥ずかしさから、ドワーフはセレスティアにしがみつき、  
ブルブルと震えていた。尻尾も、彼女の手から逃れようとせわしなく動くが、さすがに逃げ切れるわけもない。  
柔らかな手が、優しく尻尾を撫でる。毛を撫でつけ、裏側から毛の薄い部分をなぞり、時に毛並みに逆らい、愛おしげに擦る。  
その度に、ドワーフは体をピクリと震わせ、切なげに鼻を鳴らす。最初は多少威勢の良かった声も、徐々に小さく弱くなっていき、  
今では彼女の漏らす吐息とほとんど区別が付かない。  
「うあ……んん……セ、セレスティアぁ…」  
「さっきまでと反対ですね、うふふ」  
セレスティアとしては、別に性的な意味で撫でているわけではない。単に、とても可愛らしくて触り心地のいい尻尾を  
撫でているだけなのだが、自身が楽しんでいるせいか、その触り方、力の入れ具合は、何とも絶妙なものだった。  
「セレスティア……お、お願い、待って……んうっ……ちょっと待ってぇ…!」  
まるで子供のようにしがみつき、潤んだ瞳で哀願するドワーフ。そんな彼女の頼みを断れるはずもなく、セレスティアは尻尾から  
手を離した。  
「何ですか、ドワーフさん?」  
「はぁ……はぁ……あ、あの、えっと……い、嫌じゃなかったら、さっき、私がしたみたいなこと……して、欲しいな…。  
尻尾、気持ちいいけど……ちょっと、物足りなくて……わ、私も、してあげるから…」  
その言葉に、セレスティアの全身が再び真っ赤に染まる。しかし、その顔には優しい微笑みが浮かんでいた。  
「わ、わかりました。でも……優しく、してくださいね?」  
ここまでくると、もうお互い色々と吹っ切れていた。ただ、自分が気持ち良くなるため、そしてまた、相手も気持ち良くさせたいという  
思いが、二人を突き動かす。  
 
セレスティアの指が、躊躇いがちにドワーフの秘部に触れる。  
「んんっ…!」  
「ドワーフさん、その、大丈夫ですか?」  
「ん、大丈夫……もっと、激しくても平気だよ…」  
そこはすっかり濡れており、触ればたちまち愛液が指に絡みつく。セレスティアは嫌な顔一つせず、そこにゆっくりと指を沈めた。  
「んあっ!そ、そこぉ…!わ、私も…!」  
快感に体を震わせつつ、ドワーフもお返しとばかりに、セレスティアの秘裂を指でなぞる。  
「あんっ!それ、気持ちいいです……あっ!」  
今度は指を入れず、ドワーフはその全体を擦り、敏感な突起をくりくりと転がすように刺激する。ドワーフの指が動く度、セレスティアの  
体がピクンと震え、それに釣られて彼女の指の動きも激しくなる。  
「うあぁっ!セ、セレスティア、激しっ…!ふあぁっ!」  
「んうっ……あぁ!ドワーフさんっ、そんなに激しくしちゃ……きゃんっ!」  
お互いの秘部を指で慰めあい、二人の呼吸はどんどん荒くなっていく。ドワーフは空いた片手でセレスティアを抱き寄せ、セレスティアは  
空いた手でドワーフの尻尾を撫でている。それはもう、単に触りたいだけというわけではなく、快感を与えるための刺激としてだった。  
「セレス、ティアぁ!もっと、もっと激しくしてぇ!」  
「はうぅ…!ドワーフ……さん…!そ、そんなに強く擦ったらぁ…!」  
欲望のままに叫ぶドワーフと、襲い来る快感に必死で耐えるセレスティア。反応こそ違えど、もう二人とも限界はすぐそこまで来ていた。  
「も、もうダメ!!セレスティア、もうイッちゃうよぉ!!」  
「うぅ、ドワーフさん……わ、わたくしも……もうっ…!」  
指の動きがさらに激しくなり、二人はお互いを強く抱き締め合う。そして一際大きな嬌声が上がった。  
「もう、あっ……くっ……うあああぁぁ!!」  
「んあ……うっ……んううぅぅ!!」  
ドワーフが体を仰け反らせ、大きく体を震わせる。それとほぼ同時に、セレスティアの翼がいっぱいに広がり、ドワーフをさらに強く  
抱き締める。きつく抱き締められる感触が、相手の体温が、声が、すべてが快感となって体の中を駆け抜ける。  
二人はしばらく荒い息をついていたが、やがて少しずつ、体から力が抜けていく。ややあって、お互い同時に達してしまったことに  
気付くと、二人はぎこちない笑顔を交わした。  
「セレスティア、結構激しかった」  
「その……ドワーフさんだって、あんなに強く…」  
ドワーフが、軽くセレスティアの頬にキスをする。しかし、その表情が不意に曇った。  
 
「……セレスティア。私達が初めて探索に行ったときのこと……覚えてる?」  
「え?あ……はい、覚えてますけど…」  
余韻に浸る間もなく始まった話に、セレスティアはやや困惑しつつも答える。  
「大して力もないのに、真ん中まで行っちゃってさ。それで、クラッズとフェアリーがポイズンガスを間違って開けて……それから、  
みんなやられてった…」  
「あの時、わたくしは仲間を見殺しにしなければなりませんでした…。わたくし自身も、やられちゃいましたけど…」  
「その後な、あいつ……フェルパーは…」  
セレスティアは一瞬、話を遮ってしまおうかと考えた。だが、真剣な顔で話すドワーフを見ると、それは憚られた。  
「私のこと、励ましてくれたんだ。もう、私は諦めちゃって、みっともなく泣き出してさ。それを、あいつは励ましてくれて……出口で、  
ザ・ジャッチメントに会っても、あいつは諦めないで、私を庇って、煙玉使って、逃がしてくれた」  
「ドワーフさん…」  
「それでな、あとであいつと話したんだ。戦士じゃ、仲間を守るのは難しい。でも、私は僧侶になる気もなかった。戦う力だってなきゃ、  
誰も守れないから。だから神女になるって決めたんだ。そしたら、あいつは、『じゃあ、俺は侍になる』って…」  
悲痛な笑顔を浮かべ、ドワーフは話し続ける。  
「どうして侍なんだって、聞いたんだ。そしたら、あいつ……侍は、元々主君を側で守る人のことだって……だから……だ、だから、  
あいつも侍になって……うっく……大切な人の側で、その人を守るんだって…!」  
笑顔のまま、ドワーフはぽろぽろと涙を零した。大粒の涙が後から後から、頬を伝って流れていく。  
「はは、笑っちゃうよ……だって、ほんとに、その通りになっちゃったんだから…!でも、馬鹿だよあいつは……ひっく……守るのは  
いいけど、残された方はどうなんだよ…!こんなっ……こんなに悲しい思いさせて、それで満足なのかよって……ぐすっ…!」  
「ドワーフさん……その…」  
「でもさ……あいつはきっと、本望だったよな…。あいつのおかげで、私達は生き延びられたんだ……命張った甲斐、あったよな…」  
涙も拭かず、ドワーフは目を瞑った。その顔には相変わらず笑みが浮かんでいたが、その笑みは今までのものとは違った。  
「……あいつのことで泣くのは、これが最後だ…。もう、泣くのはやめだ」  
そう呟くと、ドワーフはグッと涙を拭い、顔を上げた。目は赤いものの、その顔にはもう悲しみの色などどこにもなかった。  
「セレスティア、ありがとな。それと、今までごめん。あんなことまでさせちゃって、ほんと、悪かった」  
「いえ……そんな、いいんですよ」  
「あんただって、辛かっただろ。今まで支えてもらってばっかりで……今度は私が、あんたを支える。もう二度と、情けない顔はしない」  
そう言い、ドワーフはセレスティアを抱き寄せた。その腕は力強く、温かく、触れているだけで心が休まるような腕だった。  
そしてこれこそ、いつもの彼女の腕だった。もう、悲しみに沈むだけの彼女はどこにもいなかった。  
「……でも、ドワーフさん。あと一回ぐらいは、泣いてもいいですよ?」  
「あはは、優しいな、セレスティアは。でも、あと一回、あと一回って甘えが出れば、結局何も変わらない。これで、最後にしとくよ」  
これでよかったのだと、セレスティアは思った。  
彼女は、何も知らない。だが、知らないままがいいのだ。例え今でも、希望があることを知れば、ドワーフはたちまちそれに縋る。  
痛む心を抑えつけ、知らないままにしておくのがいいのだ。それが、彼女のためになるのだから。  
「あ、で、でも、その、こういうのは、今回だけにしてくれよな!こ、今回は、その、私もしちゃったけど、ほ、ほんとはこういうの、  
い、嫌なんだからな!」  
「うふふ、大丈夫ですよ。わたくしだって、こんなに恥ずかしいお願いするのは、今回だけです。……あ、でも、また尻尾、  
触らせてくれません?」  
「やだよ!……で、でも、どうしてもって言うなら、まあいいけど…」  
「わぁ、ほんとですか!?嬉しいです!」  
弾んだ声で言うと、セレスティアはドワーフに抱きついた。少し警戒しつつも、ドワーフはその体を抱き返す。  
大切な仲間で、今まで自分を支えてくれた恩人。一日限りの恋人で、少し気の抜けない無邪気さを持つ少女。  
何より、今のドワーフにとって、彼女はただ一人残った、大切な大切な仲間だった。  
 
パルタクス地下道に、悲鳴に近い叫びがこだましていた。突如現れたクイーンスパイダーに、入学間もないパーティが襲われたのだ。  
全員ぼろぼろになり、死を覚悟したその時、辺りに力強い声が響いた。  
「どけっ!お前達は下がってろ!」  
同時に、目の前に飛び出す小さな影。一行とクイーンスパイダーの間に、一人のドワーフが立ち塞がっていた。  
「あ、危ないですよ!そいつ、すごく強いんですから!」  
「心配するな。負けやしない」  
自信満々に言い放つ彼女に、一行はなおも声をかけようとした。その時、彼等の体を柔らかい光が包み、かと思う間もなく、傷口が  
全て塞がっていった。  
「え、あれ?」  
「あ…!?」  
彼等の目に飛び込んできたのは、まるで天使そのもののような笑顔を見せるセレスティアの姿だった。彼女は一行の頭上を飛び越えると、  
ふわりとドワーフの隣に舞い降りる。  
「ドワーフさん、いけますか?」  
「私一人で十分。あんたは、そのひよっこ達見ててやってくれよ」  
「はい。でも、気をつけてくださいね?」  
「任せなって」  
クイーンスパイダーが、突然の乱入者に襲い掛かる。ドワーフは大斧を片手に持ち直すと、腰につけていた退魔の盾をかざした。  
ドワーフを貫こうと繰り出した足が、盾に弾かれる。その隙を逃さず、ドワーフは片手で斧を振り上げた。  
「はぁっ!!!」  
裂帛の気合。振り下ろされる一撃。  
次の瞬間、新入生達は自分の目を疑った。片手で繰り出された大斧は、クイーンスパイダーの胴部を、真っ二つに断ち切っていた。  
「う、嘘!?一撃!?」  
「す、すっげぇ〜…!」  
「あ、ほら!やっぱりあの人、あれだよ!ここの卒業生って人!」  
ざわざわと騒がしい彼等を尻目に、ドワーフはセレスティアに笑顔を向けた。  
 
「これで、ここもしばらくは安全だな」  
「ドワーフさん、さすがですね」  
「後ろを気にする必要がないからね」  
ドワーフが笑うと、セレスティアも笑顔で応える。そうしてから、セレスティアは新入生達へ顔を向ける。  
「地下道中央は、こうした強いモンスターがうろついてますから、気をつけてくださいね。体が大きいから、よく見てれば戦闘は  
避けられますよ」  
優しく言うと、セレスティアは彼等に補助魔法をかけてやった。  
「うわ、なんだこれ!すげえ!」  
「わあ、私のより効果高いや」  
「先輩、ありがとうございます!」  
彼等の言葉に笑顔で応え、セレスティアはドワーフの方に向き直る。  
「それじゃ、次行きますか?」  
「ああ、そうしようか。それじゃあんたら、頑張れよ」  
それだけ言うと、二人はたちまち光に包まれ、消えていった。  
パルタクスでは、二人は有名だった。あちこちの地下道にいる強大な敵を、たった二人で撃破して回るパーティ。途中で全滅しそうな  
パーティに会えば、たちまちその危機を救い、去っていく。二人はもはや、英雄のように見られていた。  
 
その強さ。その行動。それは確かに、彼女達を英雄たらしめていた。  
しかし、その行動理念は、二人の中では違っている。  
ドワーフは、もう二度と自分のような者を出さないため。セレスティアは、ドワーフに、ただ一つの事に打ち込んでもらいたいがため。  
涙で滲んだ視界の中では、仲間が離れた本当の理由も見えない。そのまま今に至ったことが、好都合でもあり、不幸でもある。  
何も知らず、一つの目標を新たに見つけたドワーフ。  
おぼろげながら理由を知りつつ、それを胸に秘めるセレスティア。  
折れた心を立ち直らせ、セレスティアをぐいぐいと引っ張るドワーフは、しかしやはり、影では彼女に支えられ続けているのだった。  
 

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