パルタクスの寮の一室。既に日は落ち、もう多くの生徒は寝ている時間である。
その部屋からも、一つの寝息が聞こえていた。それと、本当に注意しなければ聞こえないほどの、ごく微かな物音。
女の子らしい安らかな寝息を立てるヒューマンを、異常なほど注意深く見つめるクラッズ。片時も目を離さず、瞬きすらほとんどせずに、
慎重にベッドから抜け出していく。
たっぷり五分ほどもかけ、クラッズはようやく床に足をつけると、緊張を静めるように大きく、ゆっくりと息をついた。
そして、今度はゆっくりと忍び足で歩き出し、ドアへと向かう。盗賊らしく、足音や衣擦れなど、まったくと言っていいほど聞こえない。
ドアに手をかけると、彼女はまた大きく深呼吸をした。その深呼吸も、ゆっくりと、音が出ないようにしている。
もう一度ヒューマンを見、起きる気配がないことを確認すると、クラッズは慎重に鍵を外し始めた。盗賊にしては、やや不慣れな手つき
ではあるが、それは音が出ないように気を使っているせいもあるのだろう。
これまた五分ほどをかけて、無音で鍵を外す。クラッズはまたヒューマンをちらりと見て、彼女が起きていないことを確認すると、
ゆっくりとドアを開け始めた。
微かに軋む。すぐに手を止め、ヒューマンを見る。
起きないことを確認し、さらに一分ほど待ってから、再びドアを押す。今度はもっとゆっくりと、慎重に。
再び、キ……と軋む。クラッズはすぐにヒューマンを見る。変わらぬ寝息を確認し、今度は数分待ってから、再びドアを開け始める。
そんな調子で、隙間が彼女一人分開いたとき、既にドアを開け始めてから三十分は経過していた。
クラッズの顔に、微かに喜びの色が広がった。彼女は隙間からするりと抜け出すと、次は慎重にドアを閉め始める。
開けるときよりは早く閉め、最後に音が出ないよう、ゆっくりとノブを戻す。それが終わり、ようやく息をついた瞬間。
「どこに行くつもりなのかな〜?」
「ひっ!?」
クラッズは悲鳴をあげ、その場に尻餅をついた。そこには、確かに部屋で寝ていたはずのヒューマンが立っていた。
「あ……あ…!」
「こんな時間に、あんなに慎重に出てくなんて。さてはデートかな〜?」
屈託のない笑みを浮かべるヒューマン。そんな彼女を、クラッズは怯えきった目で見つめていた。
「でも、ダメだよ。今日はもう、寝る時間だからねっ!」
「や、やだ……もうやだぁ…!」
「わがまま言わないの〜。ほら、一緒に寝てあげるから」
そう言い、ヒューマンはクラッズを抱き上げた。しかし、その優しげな言葉とは裏腹に、彼女を抱き締める力は異常に強く、クラッズは
苦しげに顔を歪ませる。
「く……苦、し…!ごめん……な……さいぃ…!」
「ん?何を謝ってるのかな〜?私に何か、言えないようなことでもしてたのかな〜?でも大丈夫、君なら許してあげるから!」
「誰……か…………助……け…」
クラッズを抱いたヒューマンが部屋入ると同時に、ドアがバタンと閉まった。続いてカチャリと鍵のかかる音がし、辺りはまた、
元のような静寂に包まれた。
翌朝、ヒューマンの部屋にクラッズの姿はなく、代わりに一人の男がいた。
「あの子の人気、落ちないねー。みんな、そんなにあの子好きなの?」
「何回ヤッても、いい反応するからじゃないのかね?あいつ、全然慣れるってことないし」
「あはは〜、そうなんだ。私、ほんとにいい友達持ったな〜」
「いい友達を、普通金で売るかよ…」
呆れたように笑い、彼は目の前の少女を見つめる。
人懐っこそうな笑顔を浮かべ、何とも無邪気に見える彼女は、その実相当な悪人である。金次第で自分も友達も売り払い、現に今では、
相部屋になった哀れなクラッズが、毎日身売りを強要されている。恐ろしい事に、彼女はそれに対する罪悪感など微塵も持っていない。
「そんで?今日の用事は?」
「あー、そうそう。あの子の稼ぎもいいんだけどね、そろそろ私も何かしようと思ってさ。てことで、相談なんだけど〜…」
楽しそうに笑い、彼女は無邪気な笑顔で話し出した。しかし、その内容は無邪気などとは程遠い、悪意に満ちたものだった。
パルタクスの共用倉庫前に、一つのパーティが集まっていた。その中の一人、バハムーンが、呆れた感じで口を開く。
「まったく。急に転科などされても、装備品なんかろくな物はないぞ」
「あなたのお下がりで、十分ですよ。それに、これは十分、使える物です」
黒曜石の剣を振りながら、セレスティアは満足げにそれを見つめる。
「あと一つ、ほしいところでは、ありますがね」
「……この子は、貸さないから」
そう言い、ノームがお菊人形をぎゅっと抱き締める。
「借りる気も、さらさらありませんのでご安心を」
「お、いいのがあったあった。これ、お前も使えるようにしてやるよ。あとはエンジェルカード、エンジェルカード…」
「早く、してくださいね」
「それにしても、どうして急に転科なんてしたんですの?それに、超術士なら既にノームがいましてよ?」
「さあ、どうしてでしょうね?」
エルフの質問に、セレスティアはとぼけてみせる。その理由を、ヒューマンは唯一知っているが、言えば後でひどい目に遭わされそう
なので、黙っていた。
「……よし、あった。んで、これを練成して……ついでに、できる限り強化もして……っと、ほいよ、もう一本」
ディアボロスから投げ渡されたドリルブレイドを、セレスティアは左手で受け取り、それを軽く振ってみる。
「……さすがにまだ、同時に扱うのは、難しいですね」
「なに。アイザかハイント辺りを一周する頃には、楽に扱えるようになるだろう」
「生きていれば、ですがね」
「まあ、なんだ。今日一日、お前はパルタクス地下道でも行ってろよ。その間、俺等は休んでるからよ」
ヒューマンは嫌味も込めて言ったのだが、セレスティアは皮肉な笑みを浮かべつつ頷いた。
「そうですね、怠け者のあなたには、それがいいでしょう。では皆さん、また、明日にでも」
「ああ、気をつけろよ。それから、明日に差し支えない程度にな」
「……ほんと、お前はいい性格だよな…」
仲間と別れると、セレスティアはすぐにパルタクス地下道へと向かった。体はすっかり鈍っているとはいえ、さすがに装備は以前と
比べ物にならないほど良い物を身につけており、また魔法も強力なものを覚えている。群がるモンスターを蹴散らし、余裕を持って
中央までたどり着くと、彼はそこで魔力が尽きるまで戦い続けた。
魔力もなくなり、ちょうどお腹も空いてきたところで、セレスティアはバックドアルで学園へと戻る。そして学食へ行こうと
歩き出した瞬間、不意に後ろから声が聞こえた。
「そこのセレスティアさん、ちょっと待って〜」
面倒臭そうに振り向くと、そこには人懐っこい笑顔を浮かべるヒューマンの女の子がいた。
「あのさ、君、最近楽しいことってあった?」
「あなたに会うまでは、楽しかったです。では、わたくしはこれで」
「ちょっ、ちょっ、待って待って、待ってってば!もー、つれないんだから」
ヒューマンが慌てて腕を掴むと、セレスティアは忌々しげにそれを振り払う。
「一体、何なんですか?わたくしは、あなたに用など、ありません」
「君にはなくても私はあるの!だから話聞いてってば!」
「強引な、方ですね。なら、さっさと用件を、言ってください」
ともかくも話を聞いてもらえそうで、ヒューマンはホッと笑顔を浮かべた。
「あのさ、君ってあの有名な、強〜いパーティの人だよね?」
「はて、強いパーティなどいくつでも、ありますがねえ」
「だぁ〜かぁ〜らぁ〜、あのバハムーンがリーダーの、アイザを一番最初に攻略したパーティだよね?」
「ああ。それなら間違い、なさそうですね。で、それが何か?」
「やっぱりそう!?わ〜、やったぁ!私、ずっと憧れてたんだ〜!」
そう言って子供のように喜ぶヒューマンを見つめ、セレスティアは呆れたような溜め息をついた。
「……では、わたくしはこれで」
「や〜ん、もぉ!クールなんだから!でも待ってよ、話終わってないから。あのさ、そこで提案なんだけど〜」
ヒューマンはセレスティアを上目遣いに見つめ、いたずらっぽく微笑んだ。
「今からデート、しない?」
「なぜ、わたくしがそのようなことをしなければ、ならないんですかね?面倒なので、お断りします」
「だぁってぇ、一回でいいからそんな人と付き合ってみたくてさ。お互い楽しめるし、それぐらい、いいじゃない、ね?ね?」
それからしばらくの間、二人は押し問答を続けていた。セレスティアは頑なに拒否していたが、ヒューマンは一向にめげない。
やがて、うんざりした感じで、セレスティアが溜め息をついた。
「やれやれ。ヒューマンらしく、節操のない方です。ですがたまには、そういうのも楽しいかも、しれませんね」
そう言うと、セレスティアは苦笑いを浮かべた。
「わかりました、負けましたよ。なら一日、お付き合いしましょう」
「ほんと!?やったぁ!それじゃ…」
「では学食に、行きますか」
「って、うわっととと!な、なんで学食?で、ちょっと、あんまり引っ張らないで」
「わたくしは、お腹が空いているので。せっかくですし、一緒に食事でもしましょう」
「わかった、わかったから、そんなに引っ張らないでー。ちゃんと隣歩くから」
ヒューマンはセレスティアの隣に並ぶと、腕をしっかりと絡ませた。セレスティアは少し微笑み、翼で肩を抱き寄せる。
それからの二人は、もう誰が見ても恋人同士にしか見えなかった。仲良く並んで食事をし、お互いに腕を絡めていたり、楽しそうに
話をしていたり、初めにセレスティアが頑なに彼女を拒んでいたことなど、想像も付かないほどである。
実際、セレスティアは楽しんでいた。元々の性格ゆえ、恋人などできるはずもなく、パーティの仲間には女の子もいるが、三人とも
一癖あって、少なくとも恋人にしたいとは思わない。無条件に懐いてくるこのヒューマンは、そういう意味では新鮮だった。
「少し、中庭でも散歩、しますか」
「いいよー。君って、結構引っ張るタイプなんだね」
「これでも、男ですから。ああ、ですがその前に、お手洗いへ行っても、いいですかね?」
「あ、さっき水飲みまくってたもんね。行ってらっしゃーい」
セレスティアがトイレに行っている間、ヒューマンはそれとなく周囲を見回した。そして、何かを確認するように頷くと、すぐまた
元の表情に戻る。
それとほぼ同時に、セレスティアがトイレから出てきた。そんな彼の腕に、ヒューマンはまた齧りつく。
「やれやれ、ずいぶん甘えん坊な、方ですね」
「えっへへー。せっかくなんだから、甘えなきゃ損だもん」
周囲に見せ付けるように甘えるヒューマンを、さらに周囲に見せ付けるようにして、セレスティアは堂々と歩く。
中庭を歩き、ベンチで話をし、屋上で景色を眺め、学食で夕飯を食べる。そして、二人で寮に戻ると、ヒューマンがそっと唇を寄せる。
「ねえ……ここで、お別れしちゃう?」
それに、セレスティアは笑って答える。
「含みのある、言い方ですね。言いたいことがあるなら、どうぞ、はっきりと」
「も、もう〜、いじわるだなあ」
ヒューマンは顔を赤らめつつ、困ったように笑った。
「じゃ、言い直し。私の部屋に、来ない?」
「それは、あなたからのお誘いと見て、間違い、ありませんよね?」
「もう、女の子に恥かかせちゃダメでしょ。そんなの……決まってるじゃない」
さすがに、セレスティアもそれ以上は続けなかった。優しく笑いかけて彼女の肩を抱くと、二人は黙って歩き出した。
階段を上がり、廊下を歩き、いくつ目かの部屋のドアを開ける。ちらりと部屋を見回して、セレスティアはヒューマンに尋ねる。
「おや、相部屋ですか」
「うん。あ、心配しないで。その子、今日一日は帰ってこないから」
「では、気兼ねなく出来そうですね」
「そう……あっ」
言うが早いか、セレスティアはヒューマンの顎に手をやり、強引に唇を奪った。ヒューマンは驚きながらも、必死にそれに応える。
気遣いというもののない、自分勝手で熱烈なキスだった。舌をねじ込み、唇を吸い、時には呼吸すら妨げられる。それでも、ヒューマンは
それに耐え、自分からも舌を絡め、首にしどけなく縋り付いてみせる。
顎にやった手を、セレスティアはそっと離す。そうして何の前置きもなく、彼女のスカートに手を入れ、下着の上から秘裂を擦った。
ビクリとヒューマンの体が震え、首に回していた手の片方が離れる。そして、かなり強い抗議の意を込め、自分の秘部を撫でる手を
捕らえた。
「……何を、するんです?」
セレスティアは唇を離すと、意地の悪い笑みを浮かべる。
「な、何って……その、いきなりすぎるよぉ」
「そもそもは、あなたのわがままにわたくしが、付き合っているのです。それぐらいは、我慢してもらいましょうか」
「そ、そんなぁ。でもだからって……あんっ!」
ヒューマンの意向などお構いなしに、セレスティアは彼女の胸に手を這わせる。ヒューマンは、鼻にかかった可愛らしい喘ぎ声を
上げつつも、やはり少し不満そうに彼の手を押さえようとする。しかし、セレスティアはその手を軽く振り払ってしまう。
胸全体を揉み解し、指先でつんと尖った頂点を転がすように弄ぶ。初めて味わう感触を、セレスティアは存分に楽しんでいた。
思った以上に柔らかく、温かい。彼女が時折漏らす喘ぎ声も、なかなか可愛らしいものだった。
その時、ヒューマンが手を押さえようとするのを止め、セレスティアにぴったりと抱きついた。そこまで接近されては、さすがに
胸を触ることも出来ない。
「何を、しているのです?」
温かくて、これはこれで気持ち良いなと、セレスティアは思った。
「もう、君ばっかりしちゃって。私だって、してあげるもん。だから、ね?ベッド、行こ?」
「そうですか。そういうことなら、あなたの提案に従うのも、悪くはないですね」
セレスティアをベッドに座らせると、ヒューマンはその前に跪き、優しくベルトを外す。一度顔を見上げ、恥ずかしげに笑いかけると、
そっと彼のモノを掴む。
「ん、思ったより大きいんだ」
「そんなに小さいと思われていたのは、心外ですねえ」
「だって、線が細いしさー。ま、とにかく、気持ちよくしてあげる!」
楽しげに言うと、ヒューマンは優しく彼のモノを扱き始めた。動き自体はそんなに激しくないものの、かなり手馴れているらしく、
指の力の入れ具合、擦り上げる角度は絶妙で、セレスティアに激しい快感をもたらす。
親指を裏筋に押し当て、引くときにはやや力を抜き、押し込むときには軽く押し当てるように力を入れる。また、雁首の部分に
指が引っかかるように持ち、時には少し強く握りこむ。
そうでなくとも、他人からそういう刺激を受けるのは初めてであり、セレスティアにとっては十分に強い刺激だった。
「くっ……ずいぶんと、慣れているようですね?」
「ふふ〜ん、少しは経験あるからね。気持ち良いでしょ?」
少しずつ、手の動きが速く、激しくなっていく。その快感に必死で耐えるセレスティアを見て、ヒューマンは楽しげに笑った。
「ふふ、可愛いな〜。じゃ、もっと気持ちよくしたら、どうなるかな〜?」
実に楽しそうに言うと、ヒューマンはセレスティアのモノにいたずらっぽくキスをし、それをゆっくりと咥えた。
「う、ぐ…!」
セレスティアの手が、ぎゅっとシーツを握る。その反応に気を良くし、ヒューマンはそれを口の中に納めたまま、ねっとりと舌を絡める。
喉の奥までそれを咥え込み、また強く吸いながら顔を引く。そうしてまた、吸う力に任せてグッと喉の奥まで納める。
と、ヒューマンの頭を、セレスティアが掴んだ。
「ん?……んぐぅっ!?うぶっ!!」
訝る間もなく、セレスティアは乱暴にヒューマンの頭を揺さぶる。喉の奥に何度も彼のモノが当たり、ヒューマンは激しくえずく。
あまりの苦しさに、何とか体を離そうと突っ張るが、髪の毛を掴まれているために大した抵抗も出来ない。
彼女のことなどお構いなしに、セレスティアは自分の欲望のままに彼女を動かす。やがて、自分からも腰を動かし始め、ヒューマンが
いっそ噛み付いて止めようかと思った瞬間、セレスティアが低く呻いた。
「くっ……うぁ!」
喉の奥に突っ込んだまま、セレスティアは思い切り精を放った。出された方のヒューマンは、必死で咳き込むのを堪えている。
何度も何度も、喉の奥に精液が当たり、その度にひどくえずくのだが、それでもじっとそれに耐える。
やがて、満足したセレスティアが彼女の口内から引き抜くと、ヒューマンは激しく咳き込んだ。
「ゲホッ、ゲホッ!ゴホッ!……も、もう〜、ひどいんだからぁ」
口の中の精液をハンカチに吐き捨てつつ、ヒューマンはなじるようにセレスティアを見つめる。
「ですから、言ったでしょう?元はといえば、あなたのわがままに、わたくしが付き合っているのですから」
「で、でも、君だって楽しんでるじゃないの〜」
ヒューマンはそう言って口を尖らせるが、セレスティアは気にする様子もない。
「それとこれとは、話が別、ですよ」
「ひど〜い」
「それよりも、これで終わりでは、ありませんよね?」
「え?きゃっ!?」
言うが早いか、セレスティアはベッドから立ち上がると同時に、体を入れ替えつつヒューマンをベッドに突き飛ばした。そしてスカートと
ショーツとを一緒に掴むと、乱暴に引き下ろす。
「ちょ、ちょっと待ってよ!いきなりそんな……痛っ!」
慌てて押さえようとする手を、セレスティアは強く捻り上げた。そして後ろからのしかかると、まださほど濡れていない秘裂に、
自身のモノを押し当てる。
「ま、待って待って!ね?もうちょっと準備してから……う、うああぁぁっ!!!」
彼女の言葉に耳も貸さず、セレスティアは一気に根元まで突き入れた。あまりの痛みと圧迫感に、ヒューマンは背中を反らし、全身を
強張らせる。
「いったぁ…!い……意地悪なんだからぁ…!」
「男ですから。多少強引なのは、目を瞑ってもらいますよ」
そう言うと、セレスティアはヒューマンの腕を捻り上げたまま、腰を動かし始めた。あまり濡れていないため、セレスティアが動く度に
強い痛みが走り、ヒューマンの口から抑えた悲鳴が漏れる。それでも、快感がまったくないわけでもない。
「あっつ…!うぅ……ん…!あっ……あぅ…!」
悲鳴の中に、少しずつ甘い響きが混じり始め、それに従って少しずつ滑りがよくなっていく。
やはり経験は豊富らしく、ヒューマンの中は柔らかく解れ、全体をやんわりと包み込むように締め付ける。そして突き入れる毎に、
熱い愛液が溢れ、セレスティアのモノにねっとりと絡みつく。突き入れるときは柔らかく受け止め、抜けるときは撫でるように
締め付けてくる。
「んっ!うっ!ど、どう?私の中……あんっ!き、気持ち、いい?」
「ええ……気持ち、いいですよ」
「えへへ……んあっ!君のも、すごく……んんっ……気持ち良いよ…!だ、だから…」
腕を捻られつつも、ヒューマンは何とか肩越しに振り返った。
「もうちょっと……優しく、して…。君の顔、もっと見たいよ…」
「……そうですか。それも、いいですね」
セレスティアが手を放すと、ヒューマンは一度彼のモノを引き抜き、ベッドに仰向けに寝転んだ。
「ですが、キスは、しませんよ」
「わかってるよ〜。私も求めないから、安心して」
冗談っぽく言うと、ヒューマンはセレスティアの首に腕を回す。そんな彼女の顔を見ながら、セレスティアは再び彼女の中に押し入る。
「んうぅ……さっきと違う場所、擦れるぅ…!」
甘い声をあげ、ヒューマンが身をくねらせる。汗ばんだ体が艶かしく動く姿は、何とも扇情的に映る。
既に、セレスティアの呼吸は荒く、動きは性急になってきている。そんな彼を、ヒューマンは蕩けそうな笑顔で見つめる。
「うっ!あっ!い、イキそうなの?もう……あっ!出ちゃいそう?」
「はぁ……はぁ…!ええ、そろそろ……限界ですね…!」
彼が答えると、ヒューマンは嬉しそうに笑った。
「んんっ!いいよ、そのまま出しちゃって……今日は、平気だから……中に、熱いのいっぱい頂戴…!」
「言われなくとも……くっ、そのつもりでしたよ…!」
セレスティアが乱暴に突き上げ、ヒューマンの中がぎゅっとそれを締め付ける。何度も何度も子宮を叩くように突き上げ、そして一際
強く突き上げると同時に、セレスティアが低く呻いた。
「もうっ……くっ!」
直後、ヒューマンの体内に、熱いものが流れ込んだ。それを感じると、ヒューマンは恍惚の表情を浮かべる。
「うぁ……お腹、温かいよぉ……出てるよぉ…」
ヒューマン自身も達していたらしく、その体は弓なりに仰け反り、手足の指もピンと張り詰めている。
しばらく、ヒューマンはそうして痙攣するように体を震わせていた。やがて、体が落ちると、セレスティアはゆっくりと彼女の中から
自身のモノを抜き出す。くちゅっと湿った音がし、抜け出たあとから精液がどろりと溢れた。
二人とも、しばらくそのまま荒い息をついていた。やがて、ヒューマンが顔を上げ、セレスティアににっこりと微笑みかける。
その笑顔は、何とも無邪気なものに見えた。しかしセレスティアは、その中にある、自分と同じような雰囲気を感じ取っていた。
直後、突然部屋のドアが開き、数人の男が入ってきた。どの人物もガラは悪く、一見して面倒な人種だとわかる。
「おいおい、ずいぶん楽しんだみてえだなあ。人の女相手によお」
ちらりとヒューマンの顔を見ると、彼女は舌をペロッと出した。
「ごめんね〜。でも、十分楽しんだからいいでしょ?あはは」
言うなり、ヒューマンは素早い身のこなしでベッドから降り、まだ滴る精液すら気にせず、サッと下着を身に着け、制服を着直す。
「ま、そういうことでさ。あ、でもね、もちろん絶対に痛い目見てもらおうってわけじゃなくってね?出すもの出してくれれば、
無事に帰してあげるけど〜」
そう語るヒューマンを、セレスティアは微笑みながら見つめている。
「どう?君、転科したばっかりでしょ?さすがに、この人数には勝てないよね〜?だからさ、大人しくしてた方が身のためだと思うけど。
お金の使い方、知らないわけじゃないでしょ?」
それでも、セレスティアは微笑みを絶やさない。その笑みは、慈愛などではなく、激しい侮蔑の笑みだった。
「やれやれ。わたくしも、舐められたものです。美人局とは、今時、流行りませんよ」
「おい、お前、何言って…!」
セレスティアが、両手の人差し指を前に突き出し、こっちへ来いと言うようにクイッと曲げた。その瞬間、二人の男がビクリと震え、
言いかけた言葉が止まる。
「ん?あれ?どしたの?」
「あなたの失敗は、二つ。一つは、わたくしに恋愛感情を持つような女性は、ありえません。相当な、マゾヒストでもない、限りはね。
もう一つは、監視の目を途切れさせたこと、ですよ」
セレスティアが糸を操るように指を引くと、二人の男はよろよろと歩き出した。
「え?え?ちょっと、何して……っ!?」
「それに、あなたに言われるまでもなく、お金の使い方なら、よぉく心得てますよ。こんな風に、ね」
男の背中には、それぞれ剣が突き刺さっていた。それに、男達は無理矢理歩かされていたのだ。
セレスティアは立ち上がり、とりあえずズボンだけを穿いた。そして、自分の両隣に来た男の背に刺さる剣を、逆手でゆっくりと掴む。
「わかりましたか?あなたの計画など、最初から全部、お見通しです」
鞘から剣を抜くように、セレスティアは剣を引き抜いた。同時に、二人の男は力尽き、倒れた。
「……そっか、やっちゃったな〜。トイレの中は予想外。そういえば、テレポル使えるんだもんね。保健室行くぐらい、わけないか」
「お、おい!?どうする!?」
「ああ、どうするか悩む必要は、ありませんよ。見れば、わかっていただけると、思いますが」
そこで一旦言葉を切ると、セレスティアはにっこりと微笑んだ。
「端から、あなた方を、無事に帰す気は、ありません」
直後、セレスティアの手から剣が飛び、さらに二人の男が斬り倒された。残った男は反撃に移ろうとしたが、セレスティアは素早く
意識を集中した。
「ぐあっ……あああぁぁぁ!!!」
途端に、男は頭を抱えてのた打ち回った。そこに、ドリルブレイドがゆっくりと近づき、直後、男の腹に突き刺さる。
それを引き抜こうとした瞬間、セレスティアの目の前に何かが飛んだ。反射的に首を傾けて避けると、頬に鋭い痛みが走った。
「………」
頬を指でなぞると、べっとりと血が付いていた。前を見ると、例のヒューマンがヨルムンガンドを構え、こちらを見ていた。
「ほう。いい、切れ味ですね」
「あらら、みんなこんなに早くやられちゃうなんて、使えないな〜。でも、ま、いっか。現金は募金箱にぶっ込んだんだろうけど、
装備だけでもいいお金になりそうだしね」
ヒューマンの手元で、鞭がそれ自身、意思を持つかのように動く。
「痛い目に、遭ってもらうよ」
そう言ってヒューマンが無邪気に笑いかけると、セレスティアも優しげな笑顔を向けた。
「それはこちらの、台詞です。元々、あなたのことは、楽しんだあと殺すつもり、でしたしね」
ヨルムンガンドが、一直線にセレスティアの顔目掛けて飛んだ。セレスティアは顔を傾け、それをかわそうとする。その瞬間、
ヒューマンが手首を返した。途端に鞭は軌道を変え、セレスティアの首目掛けて跳ね上がった。それで、確実に仕留めたはずだった。
だが、次の瞬間、ヒューマンは驚きに目を見開いた。
「なるほど。なかなかの、使い手ですね」
それこそ、難なくといった感じで、セレスティアはその一撃をかわしていた。それどころか鞭を踏みつけ、反撃を完全に封じている。
「ですがこれなら、うちのディアボロスの方が、遥かに、巧い」
ヒューマンの背に、冷たい汗が流れた。これは戦っていい相手じゃないと、本能が全力で危険を告げる。
セレスティアの手の動きに従い、二本の剣が宙を浮かび、こちらに鋭い刃を向けた。
「では、さようなら」
その手が動く直前、ヒューマンは素早く口の中で詠唱を始めた。そしてセレスティアが腕を振りぬいた瞬間、ヒューマンは叫ぶ。
「テレポル!」
直後、ヒューマンの姿は掻き消え、剣は虚しく壁に突き刺さった。
「……逃げましたか」
そう呟くと、セレスティアはゆっくりと制服を着直した。そして、口の中で何やら詠唱を始める。
一方のヒューマンは、屋上で荒い息をついていた。
「焦ったぁ〜……あんなに強いなんて、聞いてないよ」
思わず口に出してから、ヒューマンは鞭を手元に戻した。
「さて、どうしよ。とりあえず、地下道にでも隠れようかな」
「その必要は、ありませんよ」
突如後ろから響いた声に、ヒューマンはビクリと体を震わせた。そして地面に身を投げた瞬間、今までいた場所を二本の剣が通過する。
「言ったでしょう?あなたを生かしておく気は、初めから、ありません」
それでも浮かんでいる笑顔に、ヒューマンはゾクッとした。
「さあ、それでは天国へ、連れて行って差し上げますよ」
剣が回りながら周囲を旋回し、セレスティアが腕を振り抜く。
「テレポル!」
それと同時に、ヒューマンは再びテレポルを詠唱した。今度は誰もいない校舎の空き教室に出ると、ヒューマンは素早く後ろを向いて
鞭を構えた。
―――絶対、後ろを取ろうとするはず。なら、そこを攻撃すれば…。
「ほう。わざわざ後ろを、取らせてくれますか」
「ええっ!?」
慌てて振り向いた瞬間、凄まじい勢いで剣が飛んできた。魔法を詠唱する暇がなく、ヒューマンは咄嗟に意識を集中し、瞬間移動を
使った。そして再び寮の屋上に出ると、辺りを注意深く見回した。
―――後ろは読まれた。なら、次もまた前?ううん、それはない。でも、後ろもない。なら、次は…。
次もくると考え、ヒューマンは横に注意を向ける。死角を突いてくるのなら、後ろが取れない以上は側面を取るだろうと考えたのだ。
だが、セレスティアはなかなか来ない。少し不安に思い始めたとき、上から微かな羽ばたきの音が聞こえた。
「う、うそぉ!?」
咄嗟に身を投げ出した直後、今までいた場所に剣が突き刺さった。それは石造りの屋上の床に、ざっくりと突き刺さっている。
「テ、テレポル!」
ヒューマンは焦っていた。自分も腕に覚えはあり、そう簡単には負けないつもりだった。まして、魔法は全学科のものを使え、
それらを駆使すれば、あの卒業生にも、それに次ぐ力を持つというパーティにも、一対一なら負けない自信があった。
だが、あのセレスティアは、こちらの考えをことごとく読み、その裏をかき、しかも戦闘力ですら、自分を上回っている。
何より恐ろしいのは、あのセレスティアには、躊躇いが一切ないのだ。男であれば、自分が初めて関係を持った相手なら、多少なりとも
情が出るだろう。だが、あの男は本気で自分を殺しにかかっている。万一の場合は、そこにつけ込めると考えていたのだが、予想に反して
手加減など何一つない。
策略とわかった上でそれに飛び込み、存分に楽しんだあと、その相手を殺す。とんでもない悪人だと、ヒューマンは自分のことを
棚に上げて思った。
―――とにかく、逃げなきゃやばいな。あんなの無理無理!
もはや、優先するものは自分の命だった。いくらなんでも、殺されてはたまったものではない。テレポルと瞬間移動を連続で使い、
居場所を悟られないようにし、合計17回目の移動で、ヒューマンは校舎の屋上に移った。ここなら、見晴らしがいいため、追われても
すぐにわかる。
しばらく辺りを見回し、気配を探る。鞭を構え、片時も警戒を解かないまま、数分が過ぎる。
「はぁ……はぁ……もう、さすがに来ないよね…?ていうか、来ないでほしい…」
思わずそう呟いた瞬間、微かに空気が揺らいだ。
「ご期待に沿えず、申し訳ありませんね」
「わぁっ!?」
すぐ後ろに、セレスティアが立っていた。そしてゆっくりと、剣を振りかぶる。
もはや場所など考えていられない。ヒューマンは全力で、とにかく出来うる限りの早さで魔法を詠唱した。
「さようなら」
「テ、テレポルー!!!」
剣がヒューマンの首を飛ばす直前、辛うじて詠唱が完成し、ヒューマンは姿を消した。獲物を失った剣が虚しく宙を舞い、セレスティアの
手元に戻る。
「……また、逃げましたか。さて、今度はどこに…」
ポジショルを唱えようとした瞬間、寮の一室から、聞き覚えのある凄まじい悲鳴が聞こえてきた。それを聞くと、セレスティアは
呆れたように笑う。
「……やれやれ。探す必要も、ないようですね」
そう呟くと、セレスティアはテレポルを唱え、寮のある一室へと向かっていった。
「……何やってるの」
ディアボロスの部屋に、抑揚のない声が響く。
「あ……お邪魔、して、ます…」
苦しげなヒューマンの声。その彼女を、ノームが呆れたように見つめている。すぐ近くでは、ディアボロスが泡を吹いている。
「ちょ……ちょっと、色々あって……よけれ……ば……助けて……ほしい、な…」
ベッドのすぐ脇の壁から、ヒューマンの上半身だけが突き出ている。慌てて適当に飛んだため、体半分が壁の中に埋まってしまったのだ。
「ふーん。本当に、壁の中に飛ぶことってあるんだ」
「み、みたいねえ……私も、初めてだよ……がふ…」
その時、誰かがドアをノックした。
「誰」
「わたくし、ですよ。そのヒューマンに、用がありまして」
お菊人形がドアへ出向き、セレスティアを招き入れる。そうして部屋に入ってきた彼を、ヒューマンはとても困った顔で見つめた。
「あ……はは…。お仲間、の、部屋……だったん、だ…。ついて、ない、なあ…」
「おーい、さっきすげえ悲鳴聞こえたけど、何事だ?」
今度はヒューマンの声が、ドアの外から響く。
「えっとね、知らない子が壁に埋まってる」
「え、マジで?ちょっと見せてくれ。それ俺も見てえぞ」
部屋に入ったヒューマンは、半分壁に埋まった同種族の女の子を、見世物でも見るような目で見つめる。
「で?お前は何してるんだよ?」
「いえ、少し事情がありましてね」
「事情って、どんな?」
「そうですね。話すと少し、長くなりますが」
セレスティアはここまでに至る経緯を、細部に至るまで懇切丁寧に説明した。その途中からディアボロスも意識を取り戻し、一緒に
聞いている。
「……と、いうわけです」
「……お前だけは……俺の仲間だと、信じてたのに…」
「フェアリーにまでフラれるあなたの同類に、しないでください。この女が、逆向きに埋まっていれば、あなたも楽しめたでしょうが」
「お前の使ったあとなんてごめんだ!とにかく、さっさと殺しちまえよ」
「そうね。殺しちゃえ」
何の躊躇いもなく言う三人を見て、ヒューマンは絶望的な溜め息をついた。
「ああ……私も、ここで終わりかぁ……あはは……まずっちゃった、なぁ…」
「では、さようなら」
セレスティアは穏やかな笑みを湛え、剣を振り上げた。
「って、おい!!ちょっと待て待て待てぇぇ!!!」
そこに、ディアボロスが大慌てで割り込んだ。それでも振り下ろしてきた剣を、ディアボロスは瞬時にバックラーを練成して受け流す。
「何を、するんです?」
「お前、正気かよ!?そりゃ、お前も怪我させられたんだし、腹立つのはわかるけど……でも、殺すのはやりすぎだ!それにここは
俺の部屋だ!」
「何を言い出すかと思えば……死体など、地下道にでも捨てれば、ばれはしません」
「俺が言いたいのはそうじゃねえ!殺すってことがやりすぎだってんだ!!てかお前、他のは殺してねえだろうな!?」
「一晩たっぷり、苦しむぐらいの怪我を、させてありますがね」
「あとで案内しろ!一応同じ生徒同士なんだし、殺させはしねえぞ!」
意外なところで首が繋がったようで、ヒューマンは不安げな目でディアボロスを見ている。
「では、わたくしにどうしろと?美人局をするような方を、そのまま見逃せ、と?」
「あ、いや、そうは言ってねえよ。でも、その、ほら。何か代案があるだろ?示談にするとか、色々さ」
「示談……なるほど。それも悪くは、ありませんね」
そう言うと、セレスティアは壁に埋まるヒューマンに、にっこりと笑いかけた。
「あなたに聞きますが、ここで首を落とされるのと、全財産を失うのと、どっちがいいですかね?」
「え……う、その……死にたくは、ないかな〜……あはは…」
「では、あなたの持つお金を全て、わたくしに渡してください。あなたのせいで、わたくしの財布は空に、なったのですから」
「あ、そんなら俺も便乗させてもらうぜ。お前、天使の涙持ってたらよこせ」
「じゃ、私も。何か人形、持ってたらちょうだい。じゃないと、この子があなたの目、掻き回すから」
目の前で、セレスティアが剣を握り、ヒューマンが魔法詠唱の準備をし、お菊人形が不気味に動いている。拒否権など、あるはずもない。
「わかった、わかったよ……全部、言う、とおりにする、から……そろそろ、出し、て……苦しい……よ…」
話がまとまったことで、ノームが彼女を瞬間移動で出してやり、全員で彼女の部屋へと向かう。ディアボロスは、そこに横たわる男の
治療を始め、他の三人は彼女から物をせびる。
「ほう。随分と、持っていますね。一千万は、ありそうです」
「天使の涙は二個か。ま、いい。もらってくぜ」
「うふふ、熊の人形。嬉しいな」
「も、もうこれ以上は、何にもないよー。これで、許してくれる?」
その言葉に、三人は顔を見合わせる。
「ヒューマンさん。あなたも、させてもらえば、どうです?」
「だから、お前のヤッた後なんてごめんだっつーの。ま、いいんじゃねえの?」
「無理しないで、しちゃえばいいのに」
「こいつの後だってのが嫌なんだよ!」
よくよく、上には上がいるものだと、彼女は思った。セレスティアはまだわかるが、その仲間にまで物を取られることになるとは、
予想もしなかった。学園随一の問題児の集まりとは、あながち誇張ではないかもしれないと、彼女は考えていた。
「よし、とりあえずの回復はしたぞ。一応、保健室に放り込むか」
「そうですか。では、戻りますかね」
「あ〜、帰ってさっさと寝るか」
「ね、帰ったら続き、しよ」
「……ディアボロスもセレスティアも、お前ら死ね」
彼等が帰ると、残ったヒューマンはぺたんとへたり込んだ。何だか、もう何もかもどうでもいいような、そんな無気力感だけが残った。
大きな溜め息をつき、ベッドに座る。
「……ほんと、失敗しちゃったなあ…」
そう呟くと、ヒューマンはまた、大きな大きな溜め息をついた。
夜も白々と明け始める頃、一晩中陵辱を受けたクラッズが部屋に戻ると、ヒューマンは何だかいじけたような顔でベッドに座っていた。
「……ヒュマ、ちゃん…?」
そう呼びかけると、ヒューマンはゆっくりした動作で顔を向けた。
「ああ、おかえり。今日も可愛がられたみたいだね」
何だか、声に元気がない。それに、全体的に覇気がない。
「あの……何か、あったの?」
「ん?……あはは」
クラッズが尋ねると、ヒューマンは乾いた声で笑った。
「ちょっと、まずっちゃってさ。私、一文無しになっちゃった。お金も、アイテムも、ぜーんぶ取られちゃった」
彼女からお金もアイテムも取るような相手とは、一体どんな化け物なのだろうかと、クラッズは思った。
同時に、クラッズの心に、微かな希望が宿る。彼女はそっとヒューマンに近づき、隣に座った。
「あ、でも、全部じゃないか。そう……全部じゃ、ないよね」
独り言のように呟き、ヒューマンはクラッズを見つめた。クラッズの胸が、期待に高鳴る。
ヒューマンは、その顔にニッコリと笑顔を浮かべ、言った。
「私には、君がいるもんね」
クラッズの顔に、泣き笑いのような歓喜の笑顔が浮かんだ。
「そ……そうだよ!ヒュマちゃんには私が…!」
言いかけたクラッズを無視し、ヒューマンは続けた。
「君がいれば、お金なんていくらでも作れるか」
たった一言。その一言で、クラッズの希望は消えた。
浮かびかけた笑顔は消え、その目に絶望の色が広がる。同時に、彼女の中で、最後まで残っていたものが、ぷつりと音を立てて切れた。
消えたはずの笑顔が、またその顔に広がる。クラッズはそっと、ヒューマンに寄り添った。
「そう……だよ…。ヒュマちゃんには……私が、いるもん……私達、友達だもんね…」
彼女は結局、自分のことは金儲けの道具としてしか見なかった。もう、それを認めざるをえなかった。唯一の希望が消えた今、彼女の
心はそれに耐え切れなかった。
「どうしたのー?急にそんなに可愛くなっちゃって。昨日までは、友達じゃないって言ってたのに」
そんな彼女に、クラッズは笑いかける。しかし、その目は虚ろで、彼女の遥か向こうを見ているようにも見えた。
「ともだち、だもん。私は、ヒュマちゃんのともだち…」
『友達』という、空虚で無意味な言葉。その言葉が、もはや何の意味も持たないことは、クラッズ自身よくわかっていた。
しかし、それでも彼女は、その言葉の響きに縋るしかなかった。そうしなければ、もうクラッズは生きることも出来なかった。
死は変わらず、彼女にとって、最も恐ろしいものだった。その方が、ずっと楽な道であるにも拘らず。
「……そうだね。君は、私の友達だもんね。あはは」
「そう、だよ。ずっと、そばにいてあげる……なんでも、してあげる……ともだち、だもん…」
そう言い、クラッズは笑った。そんな彼女を、言い換えれば金づるを、ヒューマンは逃がさないよう抱き寄せる。
二人の部屋からは、乾いた、しかしどこか幸せそうな笑い声がしていた。
偽りの幸せに縋るしかないクラッズの、壊れた笑いは、いつまでもいつまでも、響いていた。