月日は過ぎ、フェルパーがロストしてから一年が経過していた。クラッズは変わらず、彼女達と空への門に駐留している。  
が、最近クラッズは、暇があると一人でどこかに出かけている。この時も、朝食を終えた仲間が外に出ても、クラッズはいなかった。  
「おい、クラッズはどこに行ったんだ?部屋にもいないぞ?」  
「うーん、勝手にどこか行くことはないと思うけど……エルフ、あなたは知らない?」  
「わたくしも、わかりませんわ。……どこか行くなら、わたくしにも声をかけてくださればいいのに…」  
その時、遥か遠方の空を、一匹の飛竜が飛んでくるのが見えた。それは見る間に近づき、地面すれすれの飛行になったと思った瞬間、  
飛竜の速度をものともせず、背中から小さな影が飛び出した。  
その影は地面に落ちると、凄まじい音と土煙を立てて滑った。そしてちょうど彼女達の前で止まると、ふうっと息をつく。  
「ご、ごめんごめん!ちょっと遅れちゃった!」  
「派手な登場だねー。エルフにかっこいいとこでも見せたかった?」  
フェアリーが笑いながら言うと、クラッズは苦笑いを浮かべた。  
「い、いや、そういうわけじゃないんだけどね」  
「でも、何してたんですか?飛竜に乗ってきたってことは、どっか別の中継地点にいたんですよね?」  
「あ、あー、それはその、野暮用でさ。ちょっと個人的な用事」  
「ふーん、まあいいけど。でも、せめて私には、一言言ってもらいたいわ」  
「ごめんね。次からはちゃんと言うよ」  
何をしているのか、気になるところではある。しかし彼の笑顔は、そんな疑問など、どうでもよく思わせるような魔力があった。  
「それじゃ、今日はアイザ地下道にでも行ってみましょうか」  
「アイザか。まあ、それもたまにはいいかもな」  
「去年の今頃なら、アイザなんて行くのも恐ろしいところでしたのに。月日が経つのは、早いものですわ」  
既に一行は、特級のカリキュラムすら楽に合格するであろう強さにまで成長していた。もちろん、それはクラッズの功績も大きい。  
そんな彼女達を見つめ、クラッズは小さく息をつく。そこに、後ろから声がかかった。  
「おう、今から探索か?」  
見れば、そこには以前蘇生の果実をやったドワーフがいた。もちろん、エルフも一緒にいる。  
「うん、そうだよ。君達は?」  
「あたい達は、一回パルタクス帰る予定だよ。だから、挨拶に行こうと思ったら、もう出たって言うからな」  
助けてもらったという恩もあるのだろうが、この二人にもクラッズは気に入られていた。  
「あ、帰るの?これから?」  
「ああ、そのつもりらしいな」  
「じゃ、お願いがあるんだけど、いいかな?」  
クラッズが言うと、ドワーフは嬉しそうに目を輝かせた。  
 
「お、なんだ!?何でも言ってくれ!」  
「う〜ん、いい顔だね。やっぱり君は、笑った顔が一番いい」  
エルフが言うと、ドワーフは彼をうんざりした目で睨んだ。  
「うるせえ、黙れ。で、何すればいいんだ?」  
「えっとね、これ」  
クラッズは鞄の中から、丁寧に畳んだ手紙を取り出した。  
「ボクの仲間……って、わかる?そのセレスティアの方に渡してほしいんだけど〜…」  
その時、クラッズの脳裏に、セレスティアと、このドワーフが大喧嘩する姿が浮かんだ。  
「……そっちのエルフ君に頼んでもいい?」  
「え〜、どうしてあたいじゃダメなんだよ!?」  
「いや、あの、性格がさ…」  
「何?僕に、その子へ手紙を渡してくれって?ああ、いいとも。大歓迎だ。おまけに、確かもう一人はドワーフだったね?それは僕が  
適任だ。間違いない」  
「……おい、ふざけんな!やっぱりあたいが渡す!お前は引っ込んでろ!」  
重大な人選ミスを犯したような気がして、クラッズは大きな溜め息をついた。しかし、頼める相手はこの二人ぐらいしかいない。  
「あの、じゃあ、二人で渡してくれるかな。それなら多分大丈夫」  
「ん、お前がそう言うなら、それでいいか」  
「そうだね。それじゃ、僕達はこれで。また、機会があったら会おう」  
「うん、またね」  
二人に手を振り、クラッズは仲間の元へ戻る。そして和気藹々と話をしながら、地下道へと入っていく。  
一年を共に過ごしたパーティ。もう、彼女達も立派な仲間といえる。しかし、彼女達とは、やはり別れる運命を背負っている。  
その、別れをどうするか。それに対する準備も、クラッズは誰にも言わず、少しずつ進め始めていた。  
 
時間はやや遡り、それより数週間前のこと。フェアリーはほぼ一年ぶりに、パルタクスのヒューマンに出会った。  
「あれ、あんたこんなところで何してんの?」  
「おお、お前か!ひっさしぶりだなー!元気でやってるみたいじゃねえか」  
「まあね。元気じゃないとやってらんないわ」  
フェアリーはパーティから離れて、久しぶりに一人の時間を満喫するため、空への門を散歩していた。そこへ、地下道探索に来ていた  
ヒューマンが鉢合わせしたのだ。  
どうでもいい話をして、また別れようとしたとき、ヒューマンが思い出したように言った。  
「あ、そうそう。お前、天使の涙ほしいとか言ってたよな」  
「ああ、言ってたね。もしかして、手に入った?」  
「ああ。二つ手に入った」  
それを聞くと、フェアリーの表情が一変した。  
「それ、ほんと?」  
「嘘なんか言ってどうする。けど、今は手元にない。パルタクスの部屋に置いてあるんだ」  
「あんた、これから用事は?」  
「いや、今アイザ行って来たばっかで、特には…」  
「じゃ、今から行くよ。それ、すぐほしい」  
「え、おいおい待てよ!今からって、帰りは…」  
「飛竜召喚カード持ってる。行くよ」  
フェアリーは強引にヒューマンの手を引き、地下道の魔法球を使ってパルタクスへと戻った。ヒューマンは部屋に戻ると、取っておいた  
二つの天使の涙を見せる。  
「……確かに、天使の涙だね」  
「だろ。で、確か高く買うっつってたな?どうだ、この二つで10万とかよ」  
ヒューマンが言うと、フェアリーは無表情に彼の目を見つめた。  
「はっはっは、いや冗談だよ。でも高くって言うなら…」  
言いかけたヒューマンの目の前に、ドサッと大金が積まれた。どう見ても、10万など軽く超えている。  
「……え…?」  
「100万ある。これで満足?」  
「え…?は…?」  
「不満なら、もう100万追加するけど?」  
「い、いやいやいやいや、不満なわけねえだろ。でも、その、出しすぎじゃ…?」  
「どこが。あたしにとっては、こんなの惜しくもない。あと一つあったら、もう一桁増やしたところだけどね」  
言いながら、フェアリーは天使の涙を道具袋に大事そうにしまいこんだ。  
「はあ……そうですかい」  
「じゃ、帰るよ。あんただって、あんまり長居は出来ないでしょ?」  
「……まあ」  
 
突然のことに、ヒューマンは状況が把握しきれなかった。あとはもう機械的に、部屋を出て、地下道入り口まで歩き、フェアリーの  
呼び出した飛竜に乗り、空への門に戻る。  
「ありがとね。あんたのおかげで、だいぶ助かった」  
「ああ、いや、はあ」  
「これ、おまけ」  
言うが早いか、フェアリーはヒューマンの頬にチュッとキスをした。  
「えっ……ちょっ…!?」  
「ほんとは、もっとしてやりたいけどね。時間もないし、よく考えりゃそこまでする義理もないし。ま、とにかく、助かったよ」  
呆然とするヒューマンを残し、フェアリーはさっさと自分の部屋に戻った。そして紙切れに素早く何かを書き込むと、クラッズの部屋の  
前に行き、ドアの下から、それをスッと投げ入れた。  
「あれ、何やってんの?誰か知り合いでもいんの?」  
そこに、現在のパーティのクラッズが現れた。フェアリーはまったく無表情に、彼を睨みつける。  
「あたしが何してようと、あんたに関係ないでしょ。で、何か用?」  
「はいはい、お姫様は気難しいね。そろそろ探索に行こうって話なんだよ。だからお迎えに来たってわけ」  
「……ふん、まあいいわ。じゃ、さっさと行こうか」  
いつもなら、嫌味や皮肉の一つも言うはずのフェアリーが、あまりに素直に応じたため、クラッズは少し呆気に取られた。  
「……何か、いいことでもあったの?」  
「うるさいな、あんたに関係ないでしょ。それとも何?女に関することなら、何でも気になるわけ?」  
「………」  
やっぱりいつもの彼女だと、クラッズは思い直した。そして呆れたように首を振りながら、元来た方へ戻っていく。  
―――あんたらとの付き合いも、もうすぐ終わりだしね。  
クラッズの後ろ姿を見ながら、フェアリーは心の中で呟き、そして密かに、ニヤリと邪な笑みを浮かべていた。  
 
パルタクスの寮の廊下で、セレスティアとドワーフの二人組、そしてエルフとドワーフの二人組が睨み合っている。  
「いやあ、さすがにきれいな人だね。それに、そっちの子もさらさらの毛で、ほんと最高の…」  
「黙ってろっつっただろ、てめえはぁ!!」  
隣のドワーフが、エルフに見事なアッパーカットを決めた。そこに、セレスティアが口を開く。  
「いくら何でも、殴るのはひどいじゃないですか!そんなことしちゃいけませんよ!」  
「あん、何だよ?あたいが何しようと、お前に関係ねーだろ?余計な口出すんじゃねえよ」  
「だからって、そんなの見過ごせませんよ!第一…!」  
「あ〜、セレスティア。あんたはちょっと、下がって」  
セレスティアの隣にいたドワーフが、慌てて二人の間に割り込んだ。  
「おう。お前は、こいつとは違うみてえだな」  
「はは、あんたみたいな相手は慣れてるしね。それで、私達に何か…」  
「いや〜、本当にたまらないな。こう、やっぱり大きい胸もいいけど、いかにもドワーフらしい筋肉質な胸も、素晴らしい魅力があるね」  
二人のドワーフは、うんざりした目でおかしなエルフを睨んだ。  
「……悪い、一発殴っていいか?」  
「爆裂拳か?あたいも手伝うぞ」  
「ま、待ってくださいってば!ダメですよ!死んじゃいます!」  
今度はセレスティアが、慌てて間に割り込んだ。  
「ああ、君は優しいね。やっぱりセレスティアという種族はこうでなくっちゃいけない。それに顔も翼も美しい。最高だ」  
「あ、はあ……ありがとうございます」  
エルフを除く三人は、これは早く用事を終わらせた方がいいかもしれないと思い始めていた。  
「あの、それで、わたくし達に、何かご用ですか?」  
「え、ああ。君の仲間から、預かり物があってね」  
「あー、そうだそうだ。これ、お前にってよ」  
ドワーフからエルフへ、エルフからセレスティアへと、手紙が渡される。それを見たセレスティアの顔に、驚きの色が広がる。  
「これ…!?」  
「内容までは知らないけど、これで頼まれたことは済んだね」  
「じゃ、さっさと帰るぞ」  
「いやいや、そんなに焦ることもないだろう?こんなにきれいな子と知り合えたのに、もう少し話をして…」  
顔面目掛けて飛んできた拳を、エルフは危ういところでかわした。  
「てめえ、避けるな!」  
「いやいや、さすがにそれはご遠慮願うよ。何だい、もしかしてやきもちかい?」  
「ばっ、馬鹿言うな!どうしてあたいがそんな…!」  
「ああ、安心してくれ。女の子との縁は大切にするけど、それは風がもたらしたいたずらさ。永遠の春風を吹かせてくれる、  
かけがえのない存在は、君一人さ」  
エルフが言うと、ドワーフの尻尾が注意しないとわからないぐらいに膨らんだ。  
 
一瞬の間を置いて、彼女のボディブローがエルフの鳩尾にめり込んだ。  
「おぐぁっ…!」  
「ふん!じゃ、その……用事は終わったし、またな!」  
腹を押さえてうずくまるエルフを担ぎ、彼女は去っていった。そんな二人を、セレスティアとドワーフは呆気に取られたように見送った。  
「……嵐が去ったな」  
「……ええ」  
「あいつ、なんでエルフなんか……わっかんないなあ」  
「あの人、結局殴られるんですね」  
「照れ隠しで殴られるのも、大変だ」  
ともかくも、セレスティアは渡された手紙の封を切り、サッと目を通した。ドワーフも見ようとするが、身長が足りずに文面を覗けない。  
「おーい、セレスティア。それ、仲間からって言ってたけど、誰から?あと、なんて書いてある?」  
しばらくの間、セレスティアは手紙を眺めていた。やがて、ゆっくりと畳み直すと、いつもの笑顔でドワーフを見る。  
「クラッズさんからで、元気にやってるみたいですよ。今は、空への門にいるそうです」  
「へ〜、そうなのか。そっかそっか、元気でやってるんだな。なんか、安心したよ」  
別に皮肉ではなく、ドワーフは純粋に仲間の無事を喜んでいるようだった。そんな彼女を見て、少しだけセレスティアの胸が痛む。  
嘘ではない。実際、手紙にはそういった内容も書いてあった。だが、その後に続けられた部分は、彼女にはまだ言えない。  
―――もうすぐ、会えるかもしれない……全部、取り戻せるかもしれない…。  
本当なら、もう教えてやりたかった。仲間であれば、全て共有したいという強い気持ちもある。  
だが、仲間だからこそ、まだ言えない。これまで、彼女には希望の可能性すら隠し続けた。今更それを伝えたところで、それは自分一人が  
何もしていなかったと、彼女を苦しませるだけだ。  
それを伝えられるのは、全てが取り戻せるようになったとき。それは近いうち、必ず訪れるはずなのだ。  
―――ドワーフさん。あと少しだけ……知らないままでいてください…。  
祈るような気持ちで、同時に謝るような気持ちで、彼女はただただ、そう思っていた。  
 
その日、フェアリーはハイント地下道を探索していた。もちろん、仲間の男達は手に入るアイテムよりも、女であるモンスターを探す方が  
主な目的である。そのため、度々哀れな犠牲者のために探索を中断しつつも、一行は少しずつ奥へと進んでいく。  
モンスターを襲うだけあって、どの男も実力はずば抜けている。おまけに、その装備はフェアリーが練成してさらに強化してあり、  
今ではフェアリーですら、苦戦は免れないというほどである。  
フェアリーも人のことを言えた義理ではないが、男達は性格が悪いというものを通り越して、極悪人の集まりである。それが大人しく  
徒党を組むわけは、利害関係という希薄で強靭な理由に他ならない。本来ならフェアリーも襲われても不思議はないが、彼女が並外れた  
力を持っていたため、利害関係に力関係が加わり、無事でいるだけの話である。  
つまり、まず利害関係がなくなれば、男達はフェアリーを仲間と見なす必要はない。また、力も単体では敵わないものの、さすがに  
五人も相手にしては、いくらフェアリーでも、もはや勝てない。彼女の命は、パーティを組んでいることによって、辛うじて  
保障されているようなものなのだ。もしパーティを抜ければ、フェアリーは散々に弄ばれた挙句、無残な死体と成り果てることは明白だ。  
そもそもが、『獲物』である女に押さえつけられてきた一行である。恐らく死ぬことすら、容易には許されないだろう。  
それらを全てわかった上で、フェアリーは言った。  
「それじゃ、あたしはここで抜けるわ」  
モンスターを惨殺し、見つけた宝箱。その中身を見た瞬間、フェアリーはそう言っていた。  
「は?今、なんて言った?」  
「探しもんが見つかったの。もうこれ以上、あんたらと一緒にいる理由はないわ」  
天使の涙をしっかりと持ち、フェアリーは言い放った。  
「へえ。じゃ、もうここで仲間じゃなくなるわけだ?」  
エルフが穏やかな笑みを湛えて言う。その笑みの隣で、鞘から引き抜かれたミスリルソードがぎらりと光る。  
「羽虫が。じゃあもう、てめえを生かしておく道理もねえな」  
「さすが、お姫様は気まぐれだね。じゃ、その前に、思いっきり楽しませてもらうよ、あはは!」  
バハムーンが、クラッズが、次々に戦闘の構えを取る。唯一、ヒューマンのみはあまり乗り気でないようだったが、それでもやはり  
戦闘の準備を始めていた。  
が、フェアリーはまったく動じず、男達を見つめている。そして、彼等が目の前まで迫った瞬間、口を開いた。  
「ま、そう来ると思ったけどさ、ちょっと待ってよ。別にただで抜けるとは言ってないでしょ」  
「あん?じゃあどうするってんだ?」  
「世話にはなってるからね。置き土産ぐらい渡すっての」  
落ち着き払って言うと、フェアリーは道具袋の中から、五つの皮袋を取り出した。そして、その一つをクラッズに放る。  
「ほら、中身見てみなよ。気に入ると思うけどね?」  
「ん?何が入って……おぉ…」  
中には、凄まじい額の金が詰まっていた。およそ、見たこともないほどの大金である。  
「宝箱の中身、今のあたしにはそれぐらいの価値があんの。もちろん、あんただけじゃなくって、あんたら全員分あるよ」  
フェアリーは次々に、皮袋を放り投げる。それぞれ中身を改め、感嘆の声を漏らしたり、ヒュウッと口笛を吹いたりしている。  
「一人頭、1000万。そんぐらいありゃ、相当遊んで暮らせるし、女にも困らないと思うけどね?」  
「いや、そりゃ確かに……しかし、すげえなこりゃ…」  
「ふ〜ん、悪くないな」  
現実感がないほどの金額に、男達はすっかり気勢を殺がれてしまった。もはやフェアリーなど、どうでもいい存在になっている。  
「ま、迷惑料とでも思ってよ。あたしはここで帰るから。んじゃね」  
金をもらった上で殺す、という選択肢が出ないうちに、フェアリーは天使の涙を道具袋にしまうと、素早くその場を後にした。  
 
残された男達は、まだ中身を見たり、実際に中の金を手にとって改めたりしている。  
「贋金ってことはないね。ほんとに1000万だ」  
「こんぐらいありゃ、退学したって不自由ねえんじゃねえか?」  
その時、中身を改めていたヒューマンが、慌てたように中身を皮袋へ戻した。それに、クラッズが目敏く気付く。  
「ん、ヒューマンどうしたの?何か慌ててたみたいだけど?」  
「い、いや、何でもねえ」  
明らかに、態度がおかしい。クラッズは一瞬納得したフリをし、ヒューマンが警戒を解いた瞬間に、素早く皮袋を奪った。  
「あ、てめえ!返せ!」  
「……ん!?ちょっと待ってよ、これ中身多いよ!」  
「え?」  
「は?マジかよ?」  
取り返そうとしたヒューマンを、ディアボロスとバハムーンが素早く押さえつける。その間にクラッズが中身を見ると、彼の皮袋だけ、  
中身が1300万入っていた。  
「300万も多いんだけど、どういうこと?」  
「ああ、フェアリーだから、じゃないかな。あの種族は、ヒューマンが好きだから」  
「で、どうするんだよそれ」  
「返せよ!俺がもらったもんなんだから、てめえらには関係ねえだろ!?」  
だが、そんなヒューマンの言葉など、誰一人納得するわけがない。かといって、5人で分ければ、たかだか60万である。もちろん、  
それでも十分な大金ではあるが、この非現実的なまでの金額の中では、それはささやかな金額にしか見えなかった。  
「だけどねえ、君一人だけ多くもらうってのは、納得いかないよね」  
「うるせえな!そんなのてめえらには関係……ぐっ!?」  
それはまったく突然だった。ヒューマンの胸に、ミスリルソードが突き刺さった。あまりに突然すぎて、誰もが崩れ落ちるヒューマンを  
見つめることしか出来なかった。  
「なっ!?」  
「……これが一番、早いだろ?」  
それを投げたエルフは、柔らかい笑みを浮かべて言った。  
「そうだよ、これが一番いいじゃないか。5000万もあれば、それこそ一生遊んでたって暮らせる。それを、わざわざ君達と  
分け合うなんて……もったいない」  
言いながら、エルフは弓を取り出した。それを見て、バハムーンとディアボロスはブレスを吐こうと構える。その瞬間。  
「がはっ!?……あ、が…!」  
エルフの腹から、小さな手が突き出ていた。いつの間にか後ろに回りこんだクラッズが、貫き手を放ったのだ。  
「あはは、それなら話は早いよね。確かに、これだけあれば一生遊べるし、女にも不自由しないし」  
言いながら、クラッズは半分ほど腕を引き抜き、そして体内から心臓目掛けて腕を突き入れた。エルフの体が、ガクンと震える。  
「そうだよね、別にこれだけの金があれば、君達なんかと付き合う義理もない」  
クラッズが勢いよく腕を引き抜くと、エルフは地面に崩れ落ちた。血塗れの腕を舐め、クラッズはにやりと笑った。  
「じゃあ、始めようか?みんな、殺してあげるよ」  
「ふん……舐めるな、下等な生き物が!」  
「お前達になんか、渡せるかよ」  
ただの銭金の問題。だが、それは彼等の関係を崩すには、十分すぎるものだった。これだけの大金は、彼等の利害関係など、容易く  
壊せるほどのものだったのだ。  
金を巡って、仲間だった者同士が殺しあう、醜い争いが始まった。  
 
背中に刀を突きたて、ようやくバハムーンが動きを止めたとき、クラッズはもう立っているのがやっとというほどに傷ついていた。  
「はぁっ……はぁっ……さすが、体力馬鹿だよ……はぁっ……こんなに、しぶといなんてね…!」  
胸にミスリルソードを突きたてられたヒューマン。腹に穴の空いたエルフ。首から血を流すディアボロス。そして、今仕留めたばかりの  
バハムーン。それらを見回して、クラッズは弱々しくも、勝ち誇った笑みを浮かべた。  
「ふんっ……勝てないくせに、無理するから…!」  
傷ついた体を引きずり、クラッズは他の者の皮袋を集め始める。その時、ディアボロスが僅かに目を開け、クラッズを見つめた。  
もはや、その目にほとんど光はない。だが、ディアボロスは残った力を振り絞り、口の中で詠唱を始める。  
おかしな気配にクラッズが気付いた瞬間。ディアボロスの詠唱が終わり、魔法が発動した。  
「……っ…!?げぁっ……がはぁっ!!」  
途端に、クラッズはその場に膝をつき、大量の血を吐いた。猛毒が体を回り、呼吸が乱れる。  
「ケケケ…!ざまぁ……見やがれ…!」  
「てめっ……うあああぁぁぁ!!!」  
狂ったような叫びを上げ、クラッズはディアボロスに刀を投げつけた。それは狙い違わず首を刺し貫いたが、既にディアボロスは  
事切れていた。  
「ゲホッ!がはっ……毒なんて……ふざ……けるなよぉ…!」  
もはや、魔力などまったく残っておらず、解毒剤も持っていない。そんな状況で、ここまで体力を消耗しきった状態で毒を受けては、  
行く末など決まっている。  
「い……いや、だ……せっかく……殺し、た、の……に……こん、な……僕、が……」  
誰にともなく呟き、クラッズは倒れた。その体が何度かビクビクと痙攣し、やがてその動きを止める。  
生きている者の気配のなくなった地下道。しばらくして、そこに小さな羽音が響いた。  
「……やっぱりね。あんたらなら、ぜ〜ったいやってくれると思ったよ」  
未だ皮袋を握るクラッズの死体を蹴り飛ばし、フェアリーは金の入った袋を五つとも回収する。  
「別に、嘘じゃないよ。あいつが戻ってくるなら、あたしはこれが一億だって惜しくない。……でもね」  
転がる死体を見つめ、フェアリーはニヤリと笑った。  
「あんたらにやる金なんて、1ゴールドだってありゃしねえってのよ」  
最後に唾を吐き捨て、フェアリーは帰還札を使おうとした。が、そこでふと手を止める。  
「……そうだ。あんたらを生き返らせる物好きなんていないと思うけどさ、知らない奴が生き返らせてもなんだし」  
フェアリーはそっと、道具袋に手を突っ込む。  
「不安の元は、しっかり潰しておかないとねえ?」  
ナパームを両手いっぱいに持ち、フェアリーは笑った。それはまさしく、悪魔と呼ぶに相応しい顔だった。  
 
アイザ地下道を回り、目的の物が手に入らないままに、クラッズ達は地下道の出口に向かう。半年前以来、天使の涙もそれ以外も、  
まったく手に入る気配すらない。それ以外の物は色々と出ており、彼女達の装備はずいぶんと良くなっている。が、クラッズは  
一つだけ、妙に気になっていることがあった。  
「ねえ、フェルパー」  
「ん?何?」  
「あのさ、今使ってるのって、鬼丸国亡はいいけど、それ白刀秋水だよねえ?それって、あんまり強くないんじゃない?」  
クラッズが言うと、フェルパーの表情が僅かに硬くなった。また、他の仲間達の表情も、僅かに変わる。  
「あ、もしかして、あまり触れない方が良かったかな…?」  
「……いいのよ。でも、そうね。あまり口に出したい事でもないわね。言うなれば、これは一つの証……ってところかしら」  
そう言って刀を見つめるフェルパーの顔は、少し悲しげで、それ以上尋ねることは憚られた。  
「そうなんだ。せっかく宗血左文字が出たのに使わないから、ちょっと気になっただけでさ。あまり気にしないで」  
そんなことを話しながら、一行はゲートを潜った。外はちょうど、夕日が雲の向こうへ落ちようとしていた。  
赤い光に照らされ、誰かが立っているのが見えた。目が明るさに慣れ始めると、その姿が少しずつ鮮明に見え始める。  
そして、それが誰だかわかった瞬間、クラッズは雷に打たれたように、その場に立ち竦んだ。  
「……え…?」  
「何よ、その態度。久しぶりなのに、嬉しくなさそうじゃん。そこの誰かと、浮気でもしてた?」  
甲高い声。皮肉に満ちた言葉。間違うはずがない。そんな人物を、クラッズは一人しか知らない。  
が、クラッズが声をかけようとした瞬間、真っ先に小さなフェアリーが口を開いた。  
「あんた、いきなり何なのよー!?普通は挨拶ぐらいするもんでしょー!?」  
それに、彼女は嘲笑を浮かべて答える。  
「あん?何よ、このチビ。あんたこそ、あたしに挨拶もなしで、人のこと言えんの?」  
「うるっさいなー、あんただってチビじゃないのー!」  
「同種族でも、そこまでのチビは初めて見たわ。ほんと、虫みたいね」  
同種族間の相性が最悪で、性格も正反対の二人は、初対面だというのに殺気を放ち始めた。そこに、セレスティアが割って入る。  
「何だか知らないけど、いきなりひどいじゃないですか!大体、初対面でその態度は何なんですか!?」  
「あ〜、あんたうちのにそっくり。種族も一緒で性格も一緒で、喋り方もあんたら似てんのよね。相手にしたくないわ」  
そう言い、フェアリーは虫でも追い払うかのように、シッシッと手を振る。殺気を放つ人物が三人になったところで、クラッズが  
大慌てでその間に飛び込んだ。  
「やめなってば!二人とも、ちょっと落ち着いて!フェアリーは、いきなり喧嘩売らないの!」  
「ふーん。あんた、ずいぶんそのパーティにご執心ね。そんなに居心地いいんだ?」  
「うん、居心地はいいよ。みんな、よくしてくれてるし、いい人達だし。でも、目的忘れたわけじゃないよ」  
先制しておくと、フェアリーはちょっとつまらなそうに口を閉じた。そこに、フェルパーが声をかける。  
「その子、あなたのパーティの子ね?」  
「うん。ボクの仲間で……それに、一番会いたかった、大好きな子」  
「ちょっ……いきなり何よ、あんたは…!」  
そう言いつつも、フェアリーは顔を赤くして逸らした。  
「ええぇぇ〜!?そんなのと付き合ってんのぉ!?」  
「は?てめえ、そんなのってどういう意味だ?本気で殺すよ?」  
「やーめーな。二人とも、お願いだから喧嘩しないで」  
「……あれほどまで想われる方が、その子……よくわかりませんわ、あなたの好みは…」  
そう呟き、エルフは首を振った。その表情は、ものすごく納得いかないという顔をしている。  
「って、うわ、バハムーンと一緒かよ。ちょっとクラッズ、さっさと行くよ」  
「……これだから、フェアリーという奴は…。ここまであからさまに嫌われると、ある意味清々しいがな」  
「……苦労してるのね、あなた…」  
クラッズが苦笑いを浮かべつつ頷くと、フェルパーは少し笑い、フェアリーに顔を向けた。  
「初めまして。事情は彼から聞いてるわ。それで、あなたがここに来たってことは……目的が、果たせそうなのね?」  
 
フェルパーが尋ねると、フェアリーは真面目な顔で頷いた。  
「あんたはまともに話せそうね。そういうこと。わかったら、さっさとクラッズ返して」  
「慌てなくても、その覚悟は出来てるわ。私達は、そのために一緒にいたんだから」  
その言葉に、一瞬全員の表情が強張った。しかし、それはすぐに消え、代わりに優しい笑顔を浮かべる。  
「そうか、とうとう目的が果たせるんだな」  
「寂しくなりますわ。でも、同時にこれほど嬉しいこともないですわ」  
「おめでとー!やっと、戻れるんだね!」  
「ようやく、報われたんですね。これも、神様のお導きです」  
そんな彼女達の顔を、クラッズは一人一人目に焼き付けるように、ゆっくりと見回した。そして、今まで見たこともないような、  
とびきりの笑顔を向ける。  
「みんな、ほんとに……ほんとに、今まで、ありがとう。みんなと会えて、ボク、楽しかったよ。お世話になってばっかりで、ボクからは  
何もしてあげられなかったけど、ほんとに、感謝してる」  
もう一度、みんなの顔を見回し、クラッズは頭を下げた。  
「みんな、本当に、ありがとう」  
「いいわ、お礼なんて。みんな、好きでやったことなんだから」  
「挨拶は済んだ?じゃ、さっさと行くよ」  
フェアリーが腕を掴むと、クラッズは慌ててそれを押さえた。  
「ちょ、ちょっと待って!あと一個だけ!」  
「何よ、さっさとしてよね」  
「わかってる。……えっとね、それでボクからは、今まで何もしてあげられなかったんだけど…」  
そこまで言って、クラッズはフェルパーにパチッとウィンクをして見せた。見覚えのある動作に、フェルパーの胸がドクンと高鳴る。  
「一つだけだけど、ボクからのお礼があるんだ。みんな、あと一日だけ、ここに滞在して」  
「そ、それはいいけど……お礼って、一体何?」  
「それは、あとのお楽しみ!……それじゃあ、みんな。またいつか、どっかで会おうね!」  
「ええ。いつか、きっと。元気でね」  
そうして、クラッズはフェアリーと共に飛竜に乗り、去って行った。それを見えなくなるまで見送ると、彼女達の間に一仕事終えたような  
空気が広がる。  
「数えてみれば、丸一年か。長かったな」  
「あら、わたくしには、あっという間でしたわ」  
「それにしても、お礼って何だろうねー?」  
「うーん。クラッズさんのことですから、何かすごいもののような気がしますけど」  
そんな彼女達に、フェルパーは明るい声をかける。  
「明日になれば、わかることよ。それより、みんな。こうして私達の旅も終わったわけだし、今日はパーっと遊びましょうか!」  
「さんせーい!!」  
そうして、彼女達は和気藹々と話しながら、宿屋へと向かっていった。夕焼けの中、わいわいと話しながら宿へと向かう光景。  
それはいつか見た、懐かしい光景に、よく似ていた。  
 
翌日、一行は宿を出て、朝の散歩をしていた。もう地下道に行く必要もなく、また昨晩、夜更けまで遊んでいたせいで、探索に向かう  
元気がなかったのだ。  
見飽きたようでも、一仕事終えた後の景色は、また違って見える。久しぶりに観光気分で空への門を回り、再び宿屋に戻ろうと  
したときだった。まったく、予想もしない形で、それは訪れた。  
「……ふーん、元気そうだね」  
「……えっ!?」  
後ろからかかった、突然の声。それは聞き覚えのある、懐かしい声だった。  
「それに、噂で聞いたとおり。みんな、強そうになったね」  
「お、お前は…!?」  
「う、嘘!?あなた……どうして…!?」  
そこには、かつて仲間だった、クラッズの女の子が立っていた。以前、バハムーンと喧嘩して、パーティを脱退したクラッズである。  
その後、彼女は別のパーティに所属し、それで縁は途切れたはずだった。  
「どうしてって、言われてもな…」  
クラッズも少し気まずいらしく、そう言って視線を外した。  
「そりゃ……あんだけ説得されたら、来ないわけにもいかないし」  
「説得?」  
「あの、ほら。卒業生のさ、私とおんなじ、盗賊の……すんごい粘られたんだよね」  
その時ようやく、彼女達は彼の言葉の意味を知った。同時に、ここ最近、彼がどこかへ姿を消していた理由も、察しがついた。  
「実は、さ。私、あの後、あのパーティも脱退してたんだ。ディアボロスと、喧嘩しちゃって。で、もう退学しようって  
思ったんだけど……そんなときにさ、あの人に、『もう一回だけ、みんなに会ってくれ』って、粘られちゃって」  
視線を逸らし、クラッズはぼそぼそと続ける。  
「それに……あの……私も、さ。その……ちょっと、あれかなって……後で考えたら、その…」  
そこまで言ったとき、バハムーンがスッと前に出た。  
「そこまでにしてもらおう。それ以上、お前の言葉は聞きたくない」  
その言葉に、クラッズはムッとした顔でバハムーンを見上げた。  
「……やっぱり、そうなんだ。どうせ、君にとっては私なんて…」  
「私は、ずっと後悔していた。私の不用意な言葉で、お前を傷つけ、仲間を傷つけた。だから、今更許してくれとは言えない」  
「……え?」  
意外な言葉に、クラッズは呆気に取られてバハムーンを見つめた。彼女だけではない。エルフも、セレスティアも、フェアリーも、  
信じられない思いでバハムーンを見つめていた。  
 
「ずっと、お前に言いたかった。……本当に、すまなかった」  
「……バハムーン…」  
「そして許されるなら、もう一つだけ言いたい」  
クラッズの目を見つめ、バハムーンは手を差し出した。  
「もう一度、仲間として、一緒に来てくれないか」  
クラッズはバハムーンを見つめ、他の仲間を見つめ、リーダーのフェルパーを見つめた。その誰もが、彼女にその言葉を投げかけて  
いるようだった。  
「……言っとくけど、私、弱いよ?みんな、私よりずっと強くなっちゃってるもん」  
「そんなの、関係ありませんわ。仲間は、そんなものじゃなくってよ」  
「そうですよ。わたくしは、大歓迎ですよ」  
「そうだよー!またみんなで、楽しくやろうよ!」  
「私としては、いくら強くても知らない人より、気心知れた仲間の方が、ずっと心強いわ」  
クラッズはしばらく悩み、やがて、おずおずと手を差し出した。やがて、指先がバハムーンの手に触れた瞬間、バハムーンはがっちりと  
その手を掴んだ。  
「よろしく……いや、おかえり、だな」  
バハムーンが言うと、クラッズの顔にも笑顔が広がった。  
「……うん、ただいま」  
そう言うと、全員がわっとクラッズに駆け寄った。誰も彼も、かつての仲間の帰還を喜んでいた。  
「で、あの、もしかして、探索行く途中かなんかだった?」  
「ううん、元々休むつもり!とにかく、宿屋に行きましょう!あなたがいない間にあったこと、いっぱい話してあげる!」  
「そうだねー!私も、クラッズの話聞きたいな!」  
かつて途切れた絆。もう繋がることはないと思った絆。それは再び、繋がった。  
お互いがいない間の溝を埋めるように、彼女達はそれから一日中、色々な話をしていた。彼女達の幸せそうな笑い声は、一日中、  
いつまでもいつまでも、響いていた。  
 
食事時は、学食はいつも混雑している。少し時間をずらせば、さほど混んではいないのだが、探索を控えた生徒はそうもいかないため、  
どうしても混雑時の利用になる。逆に言えば、時間をずらして来る生徒は、既に探索を終えた学生か、探索の予定のない生徒である。  
戦争のような時間帯が過ぎ、空いている席と埋まっている席が半々になった頃。学食に、二人の生徒が訪れた。  
「セレスティア、ほんとにどうかしたのか?今日も休みって、ここ数日休みっぱなしじゃないか」  
探索に行けないので少し退屈らしく、ドワーフはそう言って口を尖らせる。が、トレイに山のような料理を持っているので、あまり  
怒っているという感じはしない。  
「ええ、ちょっと、その……少し、事情があるんです」  
「確か、あの手紙来てからだよな。何か変なことでも書いてあったのか?」  
意外に鋭い質問に、セレスティアは一瞬言葉に詰まった。だが、すぐにいつもの笑顔を浮かべ、答える。  
「変なことなんて、書いてなかったですよ。だから、安心してください」  
「ふ〜ん。まあ、それならいいけど」  
嘘ではない。変なことなど、何一つ書いてなかったのだから。言い方一つで、ニュアンスなどいくらでも変わって聞こえるということは、  
フェアリーとの付き合いで、セレスティアもよくわかっていた。  
また、手紙にそうしろとあったわけではない。二人は、いつもどこかの地下道で、場違いなほどに強大なモンスターを倒して回っていた。  
手紙には、もうすぐ目的が果たせるかもしれないとあった。だが、もし彼等が目的を果たし、ここに戻ってきたとしても、  
地下道にいては、すぐには会えないし、場合によっては戻るまでに、何日か掛かってしまう。そのため、極力動きをなくし、  
探索に出るのは救援要請があったときだけにしようと、セレスティアは決めていたのだ。  
食事を終え、二人は部屋に戻ろうと学食を出た。寮の階段を上がり、彼女達の部屋へと続く廊下に出たとき、二人の目に見覚えのある  
人物が飛び込んできた。それを見た瞬間、二人はその場に立ち竦んだ。  
「……え、嘘…?」  
ドワーフが、呆然と呟いた。  
「お、あんたらそこにいたんだ。ちょうどいいね」  
「あ、ほんとだ。二人とも、久しぶり!」  
間違えるはずがない。それは、一年前に別れたきりの、クラッズとフェアリーだった。二人とも、以前より逞しくなっている以外は、  
一年前と何も変わっていない。  
「え……どうして…?あんた達、別のパーティに行ったんじゃ…?」  
「あ〜、お別れしてきた。言ったでしょ、つまんなきゃ帰ってくるってさ」  
そう言い、フェアリーは笑った。いつもの、どこか小狡さを感じさせる、変わらない笑みだった。それに対し、セレスティアもいつもの  
微笑みを返した。  
「ふふ。約束、でしたもんね。お帰りなさい、二人とも」  
「セ、セレスティア!あんた、来るの知ってたのか!?おい、どうなんだよ!?」  
ドワーフが思わずセレスティアの肩を掴むと、クラッズが素早く間に入った。  
「待ってドワーフ。えっと、簡単に説明するよ」  
とは言ったものの、どこから説明すればいいかは思いつかない。少し悩んで、クラッズは頭を下げた。  
「まず、ドワーフには、謝らなきゃ。ごめん」  
「え…?な、何が?」  
「ボク達、ずっとドワーフに隠してたことがあるんだ。ああ、セレスティアにも隠してたけど、何となくは気付いてるんじゃないかな?」  
言いながらそちらに顔を向けると、セレスティアは静かに頷いた。  
「隠してたって……何を?」  
「クラッズ、そんなの後、後。とにかく、みんな外に出て」  
フェアリーは、全員を半ば強引に外に連れ出し、飛竜召喚カードを使った。  
「ほら、早く。乗って乗って」  
「お、おい待てよ!まだ話が見えないぞ!」  
「いいから。行く途中で話すから。セレスティアが」  
「わ、わたくしだけじゃなくて、みんなで話しましょうよ…」  
ともかくも、四人は飛竜の背に乗った。全員が乗ると、飛竜はすぐに飛び立ち、風よりも早く飛び始める。  
 
あっという間に景色が飛んで行き、高度もぐんぐんと上がる。ホルデア山脈を通り過ぎ、ヤムハス大森林を飛び越え、ポストハスを  
通過し、やがて空への門が目の前に迫る。飛竜が高度を下げ、一つの地下道入り口前に下りると、ドワーフは一瞬立ち竦んだ。  
「こ……ここ、行くのか…?」  
「何よ、フェルパーがいなくなったところだから怖いって?ふざけたこと言ってないで、さっさと行くよ」  
そう言い、フェアリーはドワーフの腕を掴んだ。だが、その手は乱暴な口調と違い、あくまで優しかった。  
「大丈夫。ドワーフ、みんなついてる。それに、入らなきゃ何も始まらないんだよ」  
「……わ、わかった。行くよ」  
大きく息をつくと、四人は揃ってゼイフェア地下道へと足を踏み入れた。  
たった四人でも、もう全員がゼイフェア地下道ですら問題にしない力を持っている。一行はどんどん奥へ進むが、やがてドワーフが  
怯えたように呟いた。  
「この、マップの順番……あの時と、まったく同じだ…」  
「……そうだね、同じだね」  
気のない声で答えるフェアリー。しかし、その顔には何とも言い難い、複雑な表情が浮かんでいた。  
「そ、そうだ。それで、その、どうしてわざわざ、こんな所まで来たんだよ?」  
脳裏に蘇る記憶から逃れるように、ドワーフが尋ねる。それに、クラッズが答えた。  
「うん、どこから言おうか迷ってたけど、結論から言おうか。地下道には、色んなアイテムがあるでしょ?その中にね、ロストした人も  
生き返らせられるアイテムがあるんだって」  
「えっ、本当に!?……じゃあ、それならどうして、私に教えてくれなかったんだよ!?」  
「フェルパーに止め刺したのはあんたなんだから、言えるわけないじゃん」  
フェアリーが言うと、ドワーフの顔が悲痛に歪む。そこへ慌てて、クラッズが言い添える。  
「フェアリー、フェアリー。大切なところ端折っちゃダメでしょ。あのね、ドワーフ」  
クラッズは、ドワーフの目を正面から見つめた。  
「もしさ、命と引き換えにフェルパーが取り戻せるって言われたら、どうする?」  
「聞くまでもないだろ!そんなの、惜しくもない!」  
勢い込んで答えると、クラッズはゆっくりと首を振った。  
「そう。だから、教えられなかったんだよ」  
「え…?」  
「ねえドワーフ。気持ちは、よくわかるんだ。正直なところね、ボクだってフェルパーを取り戻せるなら、命を賭けたって惜しくない。  
でも、それでまた一人仲間をなくしちゃうんじゃ、本末転倒だよ?ドワーフは、それでいいかもしれないけど、残されたボク達は  
どうなのさ?それじゃあ、今のこの状況と、何にも変わらないよ」  
「そ、それは…」  
「さっきフェアリーが言った通り、あの時フェルパーにリバイブル唱えたのはドワーフ。だから、もしそんなアイテムがあるなんて  
知ったら、無理するのは目に見えてた。ボク達は、もうこれ以上、仲間を失いたくないよ」  
クラッズの言葉に、ドワーフはしょんぼりとうなだれた。やがて、力なく口を開く。  
「でも……でも、それじゃあ、私は何なんだよ…?一人で何も知らないで、その分みんなに無理させて、私一人、何もしてない  
じゃないか…!」  
「でも、色んな人を助けましたよ」  
セレスティアが、ドワーフに優しく微笑みかける。  
「新入生の人とか、危ない目に遭ってた人とか、いっぱい助けましたよね。ドワーフさんは決して、何もしてなかった訳じゃないですよ」  
「そうそう。フェルパーのことで、何かしたかったって気持ちはわかるよ。でも、ドワーフはドワーフで、自分に出来ることしっかり  
やったじゃない。だからボク達だって、何の心配もしないでいられたんだよ。……あ、そうだ。セレスティアも、悪かったね。何にも  
教えないで、黙って出て行っちゃって…」  
クラッズが言うと、セレスティアは静かに首を振った。  
「いいんですよ。少し、皆さんを疑ったこともありました。ですけど、色んな人と出会って、今クラッズさんが言ったことにも気付いて、  
わたくしは全然、怒ってなんかいませんよ」  
 
「ま、とにかくさ」  
黙っていたフェアリーが、ドワーフの肩をポンと叩く。  
「今までは、そりゃ何にもしてなかったかもしんないけどさ。最後に、あんたには大仕事してもらうから、よろしく」  
「大仕事って、何だよ…?」  
「行きゃわかるって。ほら、目的地見えてきたよ」  
一年ぶりに、一行はそこに立っていた。鍵がかけられ、閉ざされた扉。一年前に、大切な仲間を失った場所。  
鍵穴に保管庫の鍵を突っ込み、フェアリーが鍵を外す。そして、どこか緊張した面持ちで、扉を開けた。  
メタライトルの光でも届かない、部屋の奥。そこに、誰かがうずくまっているのが見えた。  
「え…!?お、おい、嘘だろ!?」  
その声に反応したのか、うずくまっていた人物が顔を上げた。少し動く度に、体がギリギリと音を立てている。  
「……とうとう、来ましたか。待ってましたよ」  
「あんた、ノーム!?」  
一行はすぐさま、彼に駆け寄った。一年の間に、その体には埃が積もり、依代も多少ガタが来ているのか、ギリギリとおかしな  
音を立てている。しかし、それでも仲間を見間違うわけはない。  
「ノーム、お待たせ」  
「お久しぶりです、フェアリーさん。皆さんが一緒だということは、目的は果たせたのですね」  
「悪かったね、一年も待たせちゃって。もうちょっと早く来たかったけど」  
ノームは静かに顔を上げ、四人の顔を見つめた。  
「……皆さん、僕は皆さんに謝らなければなりません。あの時、僕はあなた方にひどい言葉を投げかけ、皆さんを傷つけました」  
「あんた、まさか……あれ、わざと…!?」  
「彼を助けるには、ああするしかなかったのです。彼を助けるには、この迷宮の姿を変えてはいけない。ならば、人ならざる身の僕が  
残るのが、最善の選択だと判断したのです。それでも、僕の行為が許されるとは思いませんが」  
「……ノームさん…」  
セレスティアが、そっとノームに近寄る。そんな彼女を、ノームは無表情に見つめた。  
「ごめんなさい、セレスティア。あなたのことも、僕はひどく傷つけた」  
「ううん、そんなことありません。だって、わたくしには、全部わかってましたから」  
セレスティアは、優しく笑った。  
「だってノームさん、考えてること、すぐ顔に出るんですから」  
フェアリーは二人を指差し、『嘘でしょ』と言う顔でドワーフとクラッズを見つめた。二人も、『それはない』というように手を振り、  
セレスティアの言葉を全力で否定している。  
「ですから、ノームさんが考えてることは、最初から全部、わかってましたよ」  
「……セレスティア!」  
叫ぶように言うと、ノームはセレスティアを力いっぱい抱き締めた。そんな彼を、セレスティアも静かに抱き返す。二人はそうして、  
しばらく抱き合っていた。  
三人はしばらく声をかけあぐねていたが、やがてノームがそっと体を離した。  
「すみません。今は、こうしている場合ではありませんでしたね。最も大切なことが、残っています」  
「そうですね。そのために、みんな頑張ったんですもんね」  
そっと離れると、ノームは再び口を開いた。  
「あの時、フェルパーさんを失った場所。この場所で、間違いありません」  
「そんじゃ、あたしも最後の一仕事、いくよ」  
道具袋から、フェアリーは10個の天使の涙を取り出した。それらを一つ一つ見つめ、そして目を瞑り、練成を始める。  
それらはたちまち溶け合い、やがて一つのアイテムとなった。完成した聖母の涙を持ち、フェアリーはそれを見つめる。  
「あたしも、見るのは初めて。こんなんなんだね。んじゃ…」  
「って、ちょっとフェアリーストップストップ!!言ってることとやってること違うよ!?」  
「あ、やべ。そうだった」  
 
そのまま勢いで使おうとした手を止め、フェアリーはドワーフにそれを差し出した。  
「ん」  
「え……な、何だよ?」  
「あん時、フェルパーに止め刺したのはあんたでしょ。責任、取りなさいよ」  
フェアリーに言われると、ドワーフは怯えた目でそれを見つめる。  
「いや……私、は…」  
「何よ、また失敗するとか思ってるわけ?舐めんじゃないわよ、あたしが作ったもんで、失敗してたまるかっての」  
「そうだよ、ドワーフ。それに、今度は一人だけじゃない。ボク達全員で、取り戻すんだ」  
二人に言われ、ドワーフはそれでも少し躊躇っていたが、やがて恐る恐る、フェアリーから聖母の涙を受け取った。  
「さあ、ドワーフさん」  
「恐れることはありませんよ。必ず、成功します」  
セレスティアが優しく微笑み、ノームが力強く断言する。  
仲間の言葉を受け、ドワーフは聖母の涙を胸に抱えると、静かに目を瞑った。  
「……神様……この際、悪魔だって構わない…。お願いだから、私達に、あいつを……フェルパーを、返してくれ!」  
祈るような叫びと共に、ドワーフは聖母の涙を、かつてフェルパーが消えた床へと振りまいた。  
雫が光を受け、キラキラと輝く。それが地下道の床に染み込み、消えると同時に、かすかな変化が起こった。  
どこからともなく、暖かい風が吹いた。風は一行の前で渦を巻き、その風に運ばれ、塵のような物が集まってきた。  
それは、灰だった。いつか、地下道の風に攫われた灰が、再び目の前に集まってくる。  
一行は言葉もなく、その光景を見つめていた。  
見る間に、灰はうずたかく積もり、やがて風が止んだ。直後、その場に柔らかい光が溢れ、辺りを満たした。  
光の中で、灰が少しずつ、人の形を作っていく。ただの灰だったものが、足となり、腕となり、胴体を作り、失ったはずの彼の肉体を  
作り始めた。  
そして、一段と光が強くなり、一行は思わず目を覆った。やがて、辺りにふわりと暖かい風が広がり、それと同時に光は消えた。  
恐る恐る、目を開ける。  
そこに、彼はいた。  
まるで眠っているように、静かに目を閉じ、彼はゆっくりと呼吸していた。  
誰もが、声を出せなかった。かけるべき言葉も、思いつかなかった。  
やがて、フェルパーがゆっくりと目を開けた。  
「……ん…?おう、みんな……どうした?」  
聞き慣れた声。ずっと求めていたもの。それは確かに、彼の声だった。  
その瞬間、張り詰めていたものが、一気に切れた。  
「う、うわあぁぁ〜〜〜ん!!」  
「フェルパー!フェルパ〜〜!うあぁーーん!!」  
「うわ!?な、何だよ!?どうしたんだよ!?」  
「フェルパーさん……よかった、よかった…!ふえぇ〜ん!」  
「おわっ!?ちょ、ほんとに何だよ!?何なんだよ!?」  
フェアリーとクラッズが真っ先に飛びつき、続いてセレスティアまでもが、フェルパーに飛びついた。フェルパーは立ち上がろうと  
したところに飛びつかれ、座った状態のままで泣きつく三人を見つめている。  
「すみません、フェルパーさん。あなたのおかげで、エンパスに勝つことが出来ました。しかしその後、僕達はあなたをロストした」  
フェルパーにヒールを唱えながら、ノームが淡々とした口調で言う。  
 
「え、ロスト…?それで、なんで俺生きて…?って、おい!?お前、すげえぼろぼろだぞ!?」  
「あなたを再び取り戻すまで、一年かかりました。あなたにとっては、ついさっきのことなのでしょうが、僕達には長い時間でした」  
「そう……だったのか」  
それでようやく、フェルパーはこの状況に納得がいった。そこでふと、立ち尽くすドワーフに気付く。  
「お、おい、ドワーフ…?」  
「……さあ、皆さん。気持ちはわかりますが、一度離れてあげてください。一番会いたいと願った人が、ないがしろになってますよ」  
「あ、ごめん……グス、えへへ…!フェアリー、ほら、ちょっと離れよ」  
「くすん……しょうがないなぁ」  
「そうでしたね……クスン。さ、ドワーフさん」  
ようやく三人が離れ、フェルパーは立ち上がった。だが、ドワーフはうつむいたまま、その場に立ち尽くしている。  
「……ドワーフ…?」  
「……あんた、約束しただろ…?」  
震える声で、ドワーフが言った。  
「あの時……あんた、言ったじゃないか…!ずっと、側で守るって……なのに、勝手に……約束、破りやがって…!忘れたのかよ…!」  
「……覚えてるよ。大切な人の側で、ずっと守る。忘れるわけ、ないだろ?」  
「じゃあどうしてっ……一年も、離れてたんだよ…!?さ……寂し……かったんだぞぉ…!」  
目にいっぱいの涙を溜めて、ドワーフは震える声で続ける。  
「あんた一人、いなくなって……忘れたのかよ…!?私が、生き残ったって……あんたまで死なれるのは、嫌だって…!」  
「……ごめんな、ドワーフ」  
優しい声で言うと、フェルパーは両手を差し出した。それに飛び込もうとして、ドワーフはちらりとセレスティアを見た。  
「なあ、セレスティア…」  
「何ですか?」  
「あんた、言ったよな…?あと、一回だけ、泣いてもいいって…」  
「……ええ」  
セレスティアが頷くと、とうとう堪えきれずに、ドワーフは涙を流した。そして、なりふり構わず、フェルパーの胸の中に飛び込んだ。  
「うわぁぁぁん!!!馬鹿、馬鹿!!もうどこにも行くなぁ!!!絶対、どこにも行くなよぉ!!!」  
ずっと、夢に見た感覚。もう、夢でしか感じられないと思った暖かさ。彼の胸の中で、ドワーフは子供のように泣きじゃくった。  
「わかってるって。もう、俺はどこにも行かない。ずっと、みんなと一緒だよ」  
静かに言うと、フェルパーはドワーフを抱き締め、その頭を優しく撫でてやった。  
「フェルパー!!」  
直後、フェアリーもセレスティアもクラッズも、再びフェルパーの胸に飛び込んだ。さすがによろめいたものの、フェルパーは何とか  
全員を抱きとめた。  
 
「フェルパーさん。僕は今初めて、この体であることを嬉しく思っています」  
ノームが静かに、フェルパーに話しかける。  
「ん?何だよいきなり?」  
「涙も流せず、感情も全て一歩引いて見つめるこの体。でも、だからこそ、こんな時でも冷静でいられる」  
「ああ……それが、どうしたんだ?」  
「……フェルパーさん。皆さんが言い忘れていることと、あなたが言い忘れていることが、一つずつあります。それに、せめて  
一人ぐらいは、笑顔で迎える者がいてもいいでしょう」  
そう言うと、ノームはにっこりと微笑んだ。  
「おかえりなさい、フェルパーさん」  
フェルパーは一瞬呆気に取られたが、すぐに自分が言うべき言葉を知った。  
「ああ……ただいま、みんな」  
静かに言うと、胸の中の四人を、フェルパーは優しく抱き締めた。  
「僕はあなた達と出会って、様々な物を得ました。皆さんのような仲間に、力。愛する者を得る喜び、大切なものを失う悲しみ。  
そしてかけがえのない、絆。フェルパーさん、あなたを失ったとき、僕はとても悲しかった。そして、今はとても嬉しく思います」  
「なんか、お前変わったな」  
「一年も経てば、誰しも変わります。……僕のこの感情は、皆さんのものと、きっと同じなのでしょう。それに、一年待ったという  
こともあります。ですから、今ぐらいは、少しぐらい羽目を外してもいいですよね」  
「え?」  
聞き返す間もなく、ノームもフェルパーに飛びついた。  
「本当に、お帰りなさい、フェルパーさん!」  
「お前もかよっ!?って、ちょっ、危ねえって!!重い!!こける!!おい、押すな!!少しぐらい加減しろおおぉぉ!!!」  
 
ずっと求め続けたもの。ずっと夢に見たもの。  
それは宝でもなく、力でもなく、まして名誉でもない。  
それら全てを犠牲にしても惜しくないと言えるものは、ただ一人の仲間だった。  
地下道は、望むもの全てを与えてくれる。しかし、時に地下道は大切なものを奪う。  
だが、その奪われたものすら、彼等は取り返した。  
それが、彼等の力によるものなのか。それとも、それすら地下道が与えるものの一つなのか。それは、誰も知らない。  
しかし、一つだけ言えることがある。  
失ったものを諦めず、求め続け、それを奪い返した彼等。その絆は、それこそ地下道に勝るとも劣らない、大きな大きな奇跡だった。  
 
 

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