かつての仲間だったクラッズが戻り、彼女達は一年ぶりにパルタクスへ帰ることにした。その帰路も、思い出をなぞるように、  
ランツレートを経由し、パルタクスへ戻るというものだった。  
その途中。ドゥケット岬で、一行は宿を取った。それもまた、彼女達の儀式の一環である。  
夕焼けが辺りを赤く染める頃、岬の先端に、フェルパーは一人で立っていた。心地良い潮風が、彼女の髪と尻尾を揺らす。  
「一体どうしたんだ?いきなり消えたから、びっくりしたぞ」  
そこに、後ろからバハムーンが声をかけた。フェルパーは振り向かず、静かに笑う。  
「ちょっと、ね。一人になりたくて」  
「それは悪かったな。邪魔したか?」  
「ううん、いいのよ。大したことじゃないから」  
かつての記憶とまったく同じように、バハムーンはフェルパーの隣に並んだ。  
「他の子達は?」  
「ああ、まだクラッズと遊んでる。……この道筋はあの時のようだが、宿の中はまるで入学したときみたいだ」  
そう言ってバハムーンが笑うと、フェルパーもクスリと笑った。  
それからしばらく、二人は夕焼けを眺めていた。  
「あの、卒業生のクラッズ……彼には、世話になったわね」  
「ああ。まさか、あんなお礼を用意するとはな。いい奴だ、本当に」  
バハムーンの言葉に、フェルパーは頷いた。だが、その顔には、一抹の悲しみが篭っているようだった。  
「……私は、ダメなリーダーね…」  
ぽつりと、フェルパーが呟いた。  
「いきなり何を言い出すんだ?」  
驚いて尋ねると、フェルパーは寂しげに笑った。  
「本当なら、あれは彼のお礼じゃなくて、私が果たすべき義務。でも、私はそれを放棄して、他の仲間を探そうとしていた…」  
「いや、それは仕方ないだろう。そもそも、あいつが次のパーティまで脱退していたなんて、私達にわかるわけもない」  
「ありがとう。でもね、それだけじゃない」  
フェルパーはそっと、腰に下げる白刀秋水に触れた。  
「……みんな、『彼』のことは、覚えてるでしょう?」  
「……ああ。忘れられるわけがない」  
「みんな、彼のことがあって、変わった。エルフは狩人になって、フェアリーは司祭になって、セレスティアは、前よりもっと  
優しくなって……あなたは、素直になったわね」  
「う、うるさいな」  
「でも、私だけ、何も変わってない」  
そう言うと、フェルパーは目を瞑った。  
 
「それだけじゃない。みんな、彼のことがあって、成長した。彼に負けないよう、彼に教えてもらったことを活かすよう……みんな、  
彼の死を乗り越えて、成長した。なのに、私は…」  
「………」  
「私、彼のことが好きだった。なのに、好きだったのに、私は彼の願いに耳を塞いだ。自分一人の感情で、彼の気持ちを裏切った。  
そんなことをしたのは、私一人だけ。リーダーがこんなんじゃ、仲間が離れて当然よ」  
言いながら、フェルパーは白刀秋水を腰から外した。  
「私は、彼の死を悲しんで、彼の幻影に縋り付いてた。でも、それももうおしまい。私はもう、彼を振り返らない」  
「何を……あっ!?」  
フェルパーは、ずっと腰に下げていた白刀秋水を、思い切り海へと放り投げた。刀は弧を描き、飛沫と共に波の中へと姿を消した。  
「……勿体無いことをする。売ればそれなりの金になっただろうに」  
「どうせ、地下道の魔法球を探れば、見つかるわ。でも、私は売る気もないし、せっかくなら後輩にでも使ってほしいわね」  
清々したという顔で、フェルパーは言った。  
「さあ、これからよ。私達も、ゼイフェア学園に入学できるよう、頑張らなきゃ」  
「強く、なったんだな。だが、これ以上強くなっては、嫁の貰い手がなくなるぞ?」  
「あなたに言われたくないわよ!」  
二人は、大きな声で笑った。そこへ、二人を探しに来た仲間が声をかける。  
「おーい、そんなところで何してるの?」  
「ちょっとね、武人同士の語らいよ」  
「せっかく元のパーティに戻ったんだから、もっと遊ぼうよー」  
「焦らなくとも、もういつでも、嫌というほど遊べるさ」  
元の姿に戻ったパーティ。苦難を乗り越え、成長した者達。長い時を経て、彼女達はようやく、新たな一歩を踏み出した。  
かつて、彼女達と共に旅をした、二人の男。その二人が、彼女達を大きく成長させた。  
一人は、語られることのない、一人のヒューマン。もう一人は、学園の誰もが知る、しかし目立たない一人のクラッズ。  
彼女達のパーティは、もうその姿を変えることはないだろう。しかし、彼女達は、二人を決して忘れない。  
もう二度と、共に歩むことがないとしても、その二人は、彼女達の大切な、途切れぬ絆を持った、仲間だった。  
 
「ちょ、ちょっと待って待って!!エ、エルフ!!ダメだって……んうぅ……ああぁぁ!!」  
「うふふ。お姉様、可愛い」  
寮の一室で、バハムーンとエルフの声が響いていた。エルフの華奢な手が、バハムーンの大きな胸を揉みしだき、その度にバハムーンの  
体がビクリと震える。  
「お、お姉様って呼ぶなら、私がする方……ふあっ!や、やだ!エルフ、そこはダメぇ!!」  
「ほら、お姉様、もう我慢しないで、気をやってくださいな。ほら、ほら!」  
全体を優しく捏ねるように揉み、つんと尖った乳首を指先で弄る。途端に、バハムーンの体が激しく震えた。  
「エ、エルフってばぁ!や、やめっ……あ、あああぁぁ!!!」  
大きな体が仰け反り、甲高い嬌声が上がる。達してしまったバハムーンを見て、エルフは満面の笑みを浮かべる。  
「ふふ。こんなに敏感で、すぐ気をやってしまって……ここも、弱かったですわね?」  
言いながら、エルフはようやく落ち着いたバハムーンの股間に、太腿を差し込んだ。そのまま押し付けるようにして動かすと、再び  
バハムーンの体が震える。  
「ひゃんっ!?エルフ、ダメっ!い、イッたばっかりで、まだぁ…!」  
「つまり、もっと敏感になってるってことですわね?うふふ、ですから、もう一回、気をやってくださいな」  
胸に手を這わせ、敏感な部分を太腿で擦り上げる。たちまち、バハムーンの体が激しく震え、口からは悲鳴に近い嬌声が漏れる。  
「だ、ダメだって言って…!うあっ、うああぁぁ!!も、もうやめてぇ!んあっ!エルフ、もう許してよぉ!!  
も、もうイキたくな……や、やだ……や、あ、ああぁぁ!!」  
あっという間に二度目の絶頂に達したバハムーンを見て、エルフはそれこそ蕩けるような笑みを浮かべた。が、当のバハムーンは  
ひどく消耗してしまい、弓なりに反った体が落ちると、そのままぐったりと横たわってしまった。  
そんな彼女を、エルフは優しく抱き寄せた。  
「お姉様ったら、本当に可愛いですわ」  
「はぁ……はぁ……はぁ……エルフ、ひどいよぉ…」  
すっかり地の口調になってしまっているバハムーン。普段の彼女は威厳に満ちた、頼りがいのあるリーダーに見えるのだが、  
こうなってしまうと、ただの少女にしか見えない。  
「でも、気持ちよかったでしょう?」  
「そ、そういう問題じゃない…!」  
そう言って口を尖らせるバハムーンの頭を、エルフは優しく撫で始めた。そして、ぽつりと呟く。  
「わたくし、幸せですわ」  
「……何がだ」  
「あの時、自信と過信の違いを知らず、才能を即ち力と思い込み、その結果、わたくしは色々なものを失いましたわ」  
意外な話が始まり、バハムーンは少し戸惑いつつも、彼女の話に耳を傾ける。  
「純潔を散らされ、自信を砕かれ……でも、そのおかげで、わたくしはお姉様と出会えましたわ」  
エルフは目を瞑ると、静かに微笑んだ。  
 
「死にたいほどに辛い記憶も、泣きたいほどに悲しい過去も、やがては全て、大切な記憶になりますわ。それは死に臨んで、命を  
預けるべき者に出会えて、愛する者に出会えて……いつになるかはそれぞれでも、生ある限り、過去は全て、大切で楽しかったものと  
なりますわ。もちろん、あの苦しみ、痛みが消えるわけではないけれど……それが、わたくしとお姉様を引き合わせてくれたのだと  
思えば、あの記憶もまた、甘美な思い出ですわ」  
「……そう言えるまでに、なったか」  
かつての彼女の姿を思い浮かべ、バハムーンは優しく笑った。男と話すことも出来ず、心を閉ざし、過去の傷の痛みから逃げ続けていた  
エルフは、もうどこにもいなかった。その代わり、何かと面倒な気性を持つ子になってしまったが、それぐらいは仕方ないと、  
バハムーンは思い始めている。  
「お姉様だけじゃない。ノームも、ヒューマンも、セレスティアも、ディアボロスも、全員が大切な仲間。そんな仲間と出会えて、  
そしてこうして、ゼイフェアにまで来られるようになったんですもの」  
エルフはバハムーンに抱きつくと、可愛らしい笑顔を浮かべて彼女を見上げた。  
「過去のことで、後悔することがあるとすれば、お姉様に初めてをあげられなかったことですわ。でも、あれがなければ、わたくしは  
お姉様と出会えなかった。……ね、お姉様」  
「ん、何だ?」  
「その……久しぶりに、わたくし、お姉様に愛されたいですわ。あの日みたいに、わたくしを抱いてくださいな」  
そう言い、にっこりと笑いかけるエルフ。その頼みを断ることなど、彼女でなくともできるわけがない。  
「ああ、いいぞ。さっきされた分も、まとめてお返ししてやる」  
軽い調子で言うと、バハムーンはエルフの顔を上げさせ、そっと優しい口付けを交わした。  
エルフにとってのバハムーンが、そうであるように。本人に自覚はなくとも、バハムーンにとってもまた、エルフは大切で、  
この上もなく愛しい、大切な仲間だった。  
 
同じく、ゼイフェアの寮の一室。室内には熱気が満ちていたが、既に聞こえる息遣いは小さく静かで、残ったその熱気も少しずつ、  
冷め始めているところだった。  
「ノーム、大丈夫か?」  
ディアボロスが尋ねると、ノームは嬉しそうに微笑み、彼の腕枕に、そっと手を触れた。  
「うん、大丈夫。初めてだったから、まだちょっと痛いけど」  
「悪かったな、その、いつもみたいに激しくしちまって…」  
「あとちょっと、お腹変な感じ。中、ごろごろ」  
ちょっと渋っているような感じがあるのか、ノームは腹に手を当て、少し不安そうにそこを見つめる。  
「……悪かったよ」  
「ううん、いいの。だって、それぐらい気持ちよくなってくれたってことだし」  
そう言って笑うノームを、ディアボロスは優しく抱き寄せた。その体は柔らかく、肌触りも自分達とまったく変わらないように思える。  
だが、彼女は呼吸もしなければ、血も流さず、温もりを感じることもない。彼女はやはり、他の種族とは違う。  
いつか聞いた、彼の言葉が蘇る。  
いくら生身に近づこうとも、決して生身を得ることはない。その体は人形以外の何者でもなく、故に感覚すら、普通の人間とは違う。  
言い換えれば、ノームという種族は、『人間』ではないのだ。  
その時、ふとノームが唇を尖らせた。  
「また、余計なこと考えてる」  
「え!?あ、いや、悪い悪い。つい、な」  
ノームはまるで子供のように、ぎゅっとディアボロスにしがみつく。  
「……私、違うもん」  
「え?」  
「……あんなのと一緒にしちゃ、や」  
凄まじいまでの女の勘に、ディアボロスは一瞬血の気が引いた。あるいは超術によってそれを知ったのかもしれないが、いずれにしろ  
心の中を言い当てられるのは、あまり気分のいいものではない。  
「あんなのって、お前なあ…」  
「……違うもん…」  
呆れつつも、ノームを嗜めようとしたところで、再び彼の言葉が蘇る。  
生身を持たないことは、彼女のコンプレックスなのだ。恐らくは人形に執着するのも、そのためなのだ。  
彼女は特別だ、と、彼は言った。それは事実、間違ってはいない。ほとんど生身と変わらぬ体を持ち、また感情も豊かで、何よりこうして  
お互いに愛し合うことが出来ている。  
言おうとした言葉をグッと飲み込み、ディアボロスはノームの頭を優しく撫でた。  
「……そうだな。お前は、俺の恋人だもんな」  
ディアボロスが言うと、ノームの顔がパッと輝いた。  
「うんっ」  
嬉しそうなノームの顔。それだけで、ディアボロスは幸せな気分になる。  
彼女は、厳密には人間ではないだろう。だが、そんなことは関係ない。ディアボロスにとって、彼女は最も大切な『恋人』である。  
生身を持っていようが、そうでなかろうが、こうしてお互い、愛し、愛されている。同じ気持ちを持つ以上、彼女はやはり『人間』だ。  
そうでなかったとしても、と、ディアボロスは思う。  
自分が、彼女を好きになるよう、仕向けられた操り人形であるならば、それはそれで構わない。ならば、自分と彼女は人形同士、やはり  
お似合いだろう。  
そんな自嘲めいた考えが浮かび、ディアボロスは笑った。だが、その笑いは幸せそうで、暖かい笑みだった。  
「ね、もう一回、お尻でしてみる」  
「いや、まだ痛いんだろ?気持ちだけ、ありがたく受け取っておくよ。それより、もうちょっとくっついてくれ」  
ノームを抱き寄せると、彼女も嬉しそうに、ディアボロスを力いっぱい抱き締める。  
柔らかく、しかし温かくはない彼女の体。だが、何より大切で、かけがえのない存在。人間であろうと、人形であろうと、  
それは変わらない。少なくとも彼にとって、彼女は大切な、一人の女の子だった。  
 
「くっ……出しませんよ…!」  
追い詰められた表情のセレスティアが、搾り出すような声で言う。  
「いいから、早く出しちまえよ。楽になるぜ?」  
それに対し、ヒューマンは実に余裕のある笑みを浮かべている。  
「認めません…!このわたくしが……あなたに、負けるなど…!」  
「もう諦めろって。ほら、さっさと出せよ。じゃねえと終わんねえだろ」  
「うぐ……残念、です…!」  
直後、部屋の中に、パパン、と乾いた音が響いた。そして、ヒューマンが思い切り拳を天に突き上げる。  
「いよぉっしゃああぁぁぁ!!!勝った!!!ようやく勝ったぞぉぉ!!!」  
彼とは対照的に、セレスティアはカードを一枚握り締め、本性を現したかのような表情で舌打ちをした。  
「ちっ、まさかわたくしが、あなた如きに負けるとは…!」  
「へっ!だから言っただろ!?スピードだけは得意なんだよ!バーカバーカ!」  
「……ふん。子供、ですねえ。たかだか一勝したぐらいで、そこまで、はしゃぎますか」  
「お前こそ、出したら負けるってわかった瞬間、出さねえとか言ってたよな?へん、ガキが!バーカ!」  
「……未だ童貞のあなたにだけは、ガキなどと言われたく、ないですね」  
その瞬間、ヒューマンの顔が、ドロドロと暗く淀んだ表情に変わった。  
「……うるせえ、堕天使が……むしろダメ天使が…」  
「では、繁殖だけが取り得のヒューマンで、童貞のあなたは、さしずめゴミ人間、ですかね」  
「本当にお前、一度死ね…」  
完全に興を殺がれ、ヒューマンは重く悲しい溜め息をついた。セレスティアはいつものように、一見天使のような、悪魔の笑顔を  
浮かべている。  
「おやおや。図星を突かれて、ご立腹ですか?」  
「……もういい。お前なんか嫌いだ」  
「やはり、あなたとは気が、合いますね」  
もはや皮肉に反応するのも疲れたらしく、ヒューマンは大きな溜め息をついた。そこでふと、表情が元に戻る。  
「……あ、話は全然変わるんだけどよ。あいつらの話、聞いただろ?」  
「ええ、聞きましたよ。よくよく、奇特な方々です」  
「でも、すげえよな。何だかんだで結局、ロストした奴取り返しちまったんだろ?俺達じゃ、とてもできねえよな」  
「……そうですねえ」  
セレスティアは手慰みにカードをまとめ、慣れた手つきで切っている。  
 
「ですが、わたくし達なら、そんな努力をする必要も、ありません。ロストなどさせなければ、いいのですから」  
「そういやお前、結局司祭に戻ったよな。よくそこまで、転科する気になるよ」  
「あの女から、お金はたくさん、もらいましたから。思うほどには、苦労もありませんでしたよ」  
そうは言うものの、私財を投げ打ってまでパーティの力になろうという気には、少なくともヒューマンはなれなかった。  
「装備もせっかく作ったのに、もったいねえ」  
「どうせ、元は共有倉庫の素材、ですよ」  
大きく息をつくと、セレスティアはポツリと呟いた。  
「やはり、わたくしには、彼等の気持ちは理解、できないですね。人間誰しも、自分が一番、大切でしょうに」  
「ん〜。まあ、あいつらはそうじゃなかったってことなんじゃねえか?」  
「……考え方の、違いですかね。彼等にとっては、仲間を取り返すことが最も、自分のためになる、と」  
「ああ、そうとも考えられるな。善人気取りの奴等の考えは、よくわかんねえけどな」  
「まったくもって、理解、できませんよ。仲間など、自分より大切とは、思えないのですがね」  
その言葉を聞くと、ヒューマンはニヤニヤと笑った。  
「お前だって、『仲間のために』転科してんだし、似たようなもんじゃねえの?」  
「…………うるさい、ですよ」  
「うっはっはっは、そう照れるなよ!誰にも言わねえでやるからさ!」  
そう言って肩をバンバン叩くヒューマンを、セレスティアはうんざりした目で見つめていた。しかし、本気で怒っているわけではない。  
彼にとっては不快であっても、そうなってしまった事実は変えようがない。いくら彼でも、自分の心までは騙せない。  
今のパーティは、彼にとって、かけがえのない存在だった。  
仲間など、欲しくもなかった。自分以外を守ることなど、絶対にしたくないはずだった。それが今や、自分を犠牲にしてでも、  
パーティを守りたいと思うようになってしまっている。  
「やれやれ。やはり、あなた以外を守れるように、努力するとしますよ」  
「はっはっは、そうかよ。ま、お前に任せちまっちゃあ、あとで何言われるかわかんねえしな。その前に、俺が何とかしてやるさ」  
そう思うのは、セレスティアだけではない。ヒューマンにとっても、今のこのパーティは、何物にも代え難い、大切な存在だった。  
「あなたに任せる方がよほど、不安ですがね。やはり、わたくしが頑張りますか」  
「お前は、後が怖いんだよ。無理しねえで、俺に任せときゃいいんだ」  
憎まれ口を叩き合い、軽口を言い合い、意地を張り合い、それでも背中を預けられる、大切な存在。  
お互い口には出さずとも、二人は心の中で、お互いを親友と呼んでいた。  
何を言おうと、また言われようと。表面ではいがみ合いつつ、心の中では誰より信頼する人物。  
永遠に、口に出されることはなくとも、二人の心は、深く強く、繋がっていた。  
 
彼等は、余りものだった。  
入学当初、他のパーティからあぶれてしまい、その結果として、仕方なくパーティを組んだだけだった。  
喧嘩もあった。解散の危機に瀕したことも、何度かあった。しかし、それでも彼等はずっと一緒だった。  
共に戦い、助け合い、幾多の困難を乗り越えるうち、いつしか、その仲間達は、本当の仲間になっていった。  
誰よりも信頼でき、誰よりも大切な仲間達。それを得た彼等は、やがて学園の代表といわれるまでに成長した。  
意外な気もする。だが、当たり前のような気もする。少なくとも彼等は、仲間と一緒なら、どんな苦難も乗り越えられると確信していた。  
ただの、余りものの寄せ集めだった彼等。それが、いつしか地下道に奪われたものを取り返すまでに成長していた。  
今日も、どこかで彼等の声が響く。  
「だぁから、あんたは一人で無茶ばっかりしてー。それだから、フェルパーに止め刺したりすんのよ」  
フェアリー。彼女は当初、何とか入学が許される成績で、パルタクスに入学した。それに加え、生来の性格の悪さゆえ、  
どのパーティからも敬遠された。だが、性格は悪くとも、パーティのことは誰よりも真剣に考え、そのために自身を変えることも  
厭わない純情さも持ち合わせている。そのため、入学当時から目指していたくノ一になることをやめ、錬金術師としての道を歩き出した。  
もっとも、それも仲間と接するうち、得たものなのかもしれない。  
「何だとー!?てめえ、それはねえだろ!!ぶん殴ってやる、降りて来ーい!!」  
ドワーフ。戦士学科に所属していたが、同じ戦士ならばブレスを使えるバハムーンや、素早さに優れるフェルパーなどの方が人気があり、  
最後まで余ることとなった。口は悪く、短気な面はあるが、どこまでも真っ直ぐで、仲間を守りたいと思う優しさを持っている。  
初の探索で仲間を死なせたことで、神女としての道を歩き出した。僧侶では戦う力に劣り、力がなければ、やはり仲間を守れないという、  
彼女なりの選択である。毎日のように口喧嘩をするフェアリーとも、深いところではちゃんと繋がっている。  
「やめろってドワーフ。それに、俺はここにいるんだから、もういいじゃないか」  
フェルパー。彼は同種族で固められたパーティに入り損ね、ひどい人見知りのため誰とも話せず、結局最後まで残ることとなった。  
当初は頼りなく見えていたが、全滅の危機においては常に最も勇敢に行動し、身を挺して仲間を守った。その結果、彼は一度ロストする  
こととなったが、仲間の活躍により、再び生を得た。当初からドワーフと共に前線に立ち、彼女はあらゆる面でいいパートナーである。  
「フェアリーもやめなって。さすがにそういうことは、言っちゃダメでしょー」  
クラッズ。彼は入学すら危ぶまれる成績で、辛うじて合格した。成績は誰よりも低く、堂々の最下位である。その出来の悪さゆえ、  
盗賊学科という需要の高い学科にも関わらず、最後まで残る羽目となった。仲間を思いやる気持ちも強く、ほぼずっと喧嘩の仲裁役を  
担ってきた。また、持ち前の明るさと人懐こさで、パーティの仲間以外にも、数多くの友人を作った。フェアリーとは当初学科が一緒で、  
ほぼ唯一、彼女を気遣った存在でもあるため、とても気に入られている。多少振り回されている感はあるが、傍から見れば、  
とてもお似合いの二人である。  
 
「二人とも、喧嘩はしないでくださいよ。もっと仲良くやりましょうよ、ね?」  
セレスティア。入学してすぐ、その人の良さから、多くの友人を作った。が、その人の良さが災いし、友人にパーティを探してやって  
いたところ、気付けば自分自身があぶれていたという異色の存在である。利他的で、典型的な『いい人』であり、純情かつ純粋で、  
フェアリーとはいつも喧嘩が絶えなかった。また、性格ゆえに、パーティのため一人を見捨てねばならないときや、あえて希望を与えずに  
隠し事をしなければならないときなど、多くの場面で苦しんだ。しかし、それでも裏方に徹し、見守り続けることが出来る人物で、  
仲間にとってはそれこそ、天使そのもののような存在となっている。  
「喧嘩するほど仲がいい、とも言いますけどね。ですが、地下道内では、喧嘩は控えてください」  
ノーム。パーティは通常、多くの魔術師を必要としない。彼は無難な魔術師学科を選び、必要なこと以外は口にしない性格のため、  
最後まで残ることとなった。セレスティアと同じく、人当たりは良く、しかし彼女と違って、常に一歩引いた視点で物事を見つめている。  
だが、人ならざる体であることを密かに愁い、それまでは何事からも、常に一歩引いていた。しかし、セレスティアと出会ったことで、  
それも気にしないようになり、常に冷静であるが故、パーティの危機には自身を悪者としてでも、最善の道を選ばせた。セレスティアとは  
同じ後衛であり、彼女の良き相談相手でもあり、仲間という枠を超えた、大切な存在でもある。  
「はいはい。みんな、このワンコちゃんが大好きねー」  
「うるさいな、このチビ!あとで絶対ぶっ潰してやるー!」  
「ドワーフ、よせってば。少し落ち着け」  
「よしなってフェアリー。嫌いな相手なんて、みんないないんだから」  
「そうですよ。フェアリーさんだって、大切な仲間ですよ」  
「ドワーフさんも、本当に潰したりしないでくださいね。いくら僕でも、もう一年も地下道にいるのはごめんですよ」  
いつもの光景。いつもの雰囲気。一度は消えたはずの、当たり前の姿。彼等はもう二度と、その姿を失うことはないだろう。  
彼等のことを、奇跡のパーティと呼ぶ者もいる。事実、それは間違っていない。  
凄まじい力を持ち、学園の卒業生筆頭であり、ロストした仲間すらも取り戻した彼等は、奇跡と呼ばれるに相応しい者達だろう。  
だが、それだけが彼等の奇跡ではない。  
彼等の一人でも、入学当初、別のパーティに入れていれば、このパーティは組まれなかった。また、全員が居心地のいいパーティと  
思っていたわけでもない。脱退の危機も、解散の危機も、何度もあった。  
それを乗り越え、信頼を育て、誰よりも強く結ばれた仲間となった彼等。  
ロストしてすら、それを諦めなかった、大きな結束。地下道の宝より、大切と思える仲間達。  
その、死すらも分かつことのできない、彼等の絆こそが、何よりも大きな奇跡だった。  
この先も、様々な苦難があるだろう。だが、そんなものは、彼等にとって何の不安にもならない。  
信頼する仲間が、大切な親友が、愛する恋人が、いつも一緒にいる。  
共に笑い、共に泣き、時に喧嘩し、時に力を合わせ、彼等は冒険を続ける。  
いつものように、いつもみたいに、彼等は変わらぬ姿で歩いていく。  
いつかゼイフェアを卒業し、皆がばらばらになる日が来るかもしれない。それでも、彼等は怖くなかった。  
どんな場所でも、どこにいても。  
彼等の絆は、これからも決して、途切れることはないのだから。  
 

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