かつての仲間だったクラッズが戻り、彼女達は一年ぶりにパルタクスへ帰ることにした。その帰路も、思い出をなぞるように、
ランツレートを経由し、パルタクスへ戻るというものだった。
その途中。ドゥケット岬で、一行は宿を取った。それもまた、彼女達の儀式の一環である。
夕焼けが辺りを赤く染める頃、岬の先端に、フェルパーは一人で立っていた。心地良い潮風が、彼女の髪と尻尾を揺らす。
「一体どうしたんだ?いきなり消えたから、びっくりしたぞ」
そこに、後ろからバハムーンが声をかけた。フェルパーは振り向かず、静かに笑う。
「ちょっと、ね。一人になりたくて」
「それは悪かったな。邪魔したか?」
「ううん、いいのよ。大したことじゃないから」
かつての記憶とまったく同じように、バハムーンはフェルパーの隣に並んだ。
「他の子達は?」
「ああ、まだクラッズと遊んでる。……この道筋はあの時のようだが、宿の中はまるで入学したときみたいだ」
そう言ってバハムーンが笑うと、フェルパーもクスリと笑った。
それからしばらく、二人は夕焼けを眺めていた。
「あの、卒業生のクラッズ……彼には、世話になったわね」
「ああ。まさか、あんなお礼を用意するとはな。いい奴だ、本当に」
バハムーンの言葉に、フェルパーは頷いた。だが、その顔には、一抹の悲しみが篭っているようだった。
「……私は、ダメなリーダーね…」
ぽつりと、フェルパーが呟いた。
「いきなり何を言い出すんだ?」
驚いて尋ねると、フェルパーは寂しげに笑った。
「本当なら、あれは彼のお礼じゃなくて、私が果たすべき義務。でも、私はそれを放棄して、他の仲間を探そうとしていた…」
「いや、それは仕方ないだろう。そもそも、あいつが次のパーティまで脱退していたなんて、私達にわかるわけもない」
「ありがとう。でもね、それだけじゃない」
フェルパーはそっと、腰に下げる白刀秋水に触れた。
「……みんな、『彼』のことは、覚えてるでしょう?」
「……ああ。忘れられるわけがない」
「みんな、彼のことがあって、変わった。エルフは狩人になって、フェアリーは司祭になって、セレスティアは、前よりもっと
優しくなって……あなたは、素直になったわね」
「う、うるさいな」
「でも、私だけ、何も変わってない」
そう言うと、フェルパーは目を瞑った。
「それだけじゃない。みんな、彼のことがあって、成長した。彼に負けないよう、彼に教えてもらったことを活かすよう……みんな、
彼の死を乗り越えて、成長した。なのに、私は…」
「………」
「私、彼のことが好きだった。なのに、好きだったのに、私は彼の願いに耳を塞いだ。自分一人の感情で、彼の気持ちを裏切った。
そんなことをしたのは、私一人だけ。リーダーがこんなんじゃ、仲間が離れて当然よ」
言いながら、フェルパーは白刀秋水を腰から外した。
「私は、彼の死を悲しんで、彼の幻影に縋り付いてた。でも、それももうおしまい。私はもう、彼を振り返らない」
「何を……あっ!?」
フェルパーは、ずっと腰に下げていた白刀秋水を、思い切り海へと放り投げた。刀は弧を描き、飛沫と共に波の中へと姿を消した。
「……勿体無いことをする。売ればそれなりの金になっただろうに」
「どうせ、地下道の魔法球を探れば、見つかるわ。でも、私は売る気もないし、せっかくなら後輩にでも使ってほしいわね」
清々したという顔で、フェルパーは言った。
「さあ、これからよ。私達も、ゼイフェア学園に入学できるよう、頑張らなきゃ」
「強く、なったんだな。だが、これ以上強くなっては、嫁の貰い手がなくなるぞ?」
「あなたに言われたくないわよ!」
二人は、大きな声で笑った。そこへ、二人を探しに来た仲間が声をかける。
「おーい、そんなところで何してるの?」
「ちょっとね、武人同士の語らいよ」
「せっかく元のパーティに戻ったんだから、もっと遊ぼうよー」
「焦らなくとも、もういつでも、嫌というほど遊べるさ」
元の姿に戻ったパーティ。苦難を乗り越え、成長した者達。長い時を経て、彼女達はようやく、新たな一歩を踏み出した。
かつて、彼女達と共に旅をした、二人の男。その二人が、彼女達を大きく成長させた。
一人は、語られることのない、一人のヒューマン。もう一人は、学園の誰もが知る、しかし目立たない一人のクラッズ。
彼女達のパーティは、もうその姿を変えることはないだろう。しかし、彼女達は、二人を決して忘れない。
もう二度と、共に歩むことがないとしても、その二人は、彼女達の大切な、途切れぬ絆を持った、仲間だった。
「ちょ、ちょっと待って待って!!エ、エルフ!!ダメだって……んうぅ……ああぁぁ!!」
「うふふ。お姉様、可愛い」
寮の一室で、バハムーンとエルフの声が響いていた。エルフの華奢な手が、バハムーンの大きな胸を揉みしだき、その度にバハムーンの
体がビクリと震える。
「お、お姉様って呼ぶなら、私がする方……ふあっ!や、やだ!エルフ、そこはダメぇ!!」
「ほら、お姉様、もう我慢しないで、気をやってくださいな。ほら、ほら!」
全体を優しく捏ねるように揉み、つんと尖った乳首を指先で弄る。途端に、バハムーンの体が激しく震えた。
「エ、エルフってばぁ!や、やめっ……あ、あああぁぁ!!!」
大きな体が仰け反り、甲高い嬌声が上がる。達してしまったバハムーンを見て、エルフは満面の笑みを浮かべる。
「ふふ。こんなに敏感で、すぐ気をやってしまって……ここも、弱かったですわね?」
言いながら、エルフはようやく落ち着いたバハムーンの股間に、太腿を差し込んだ。そのまま押し付けるようにして動かすと、再び
バハムーンの体が震える。
「ひゃんっ!?エルフ、ダメっ!い、イッたばっかりで、まだぁ…!」
「つまり、もっと敏感になってるってことですわね?うふふ、ですから、もう一回、気をやってくださいな」
胸に手を這わせ、敏感な部分を太腿で擦り上げる。たちまち、バハムーンの体が激しく震え、口からは悲鳴に近い嬌声が漏れる。
「だ、ダメだって言って…!うあっ、うああぁぁ!!も、もうやめてぇ!んあっ!エルフ、もう許してよぉ!!
も、もうイキたくな……や、やだ……や、あ、ああぁぁ!!」
あっという間に二度目の絶頂に達したバハムーンを見て、エルフはそれこそ蕩けるような笑みを浮かべた。が、当のバハムーンは
ひどく消耗してしまい、弓なりに反った体が落ちると、そのままぐったりと横たわってしまった。
そんな彼女を、エルフは優しく抱き寄せた。
「お姉様ったら、本当に可愛いですわ」
「はぁ……はぁ……はぁ……エルフ、ひどいよぉ…」
すっかり地の口調になってしまっているバハムーン。普段の彼女は威厳に満ちた、頼りがいのあるリーダーに見えるのだが、
こうなってしまうと、ただの少女にしか見えない。
「でも、気持ちよかったでしょう?」
「そ、そういう問題じゃない…!」
そう言って口を尖らせるバハムーンの頭を、エルフは優しく撫で始めた。そして、ぽつりと呟く。
「わたくし、幸せですわ」
「……何がだ」
「あの時、自信と過信の違いを知らず、才能を即ち力と思い込み、その結果、わたくしは色々なものを失いましたわ」
意外な話が始まり、バハムーンは少し戸惑いつつも、彼女の話に耳を傾ける。
「純潔を散らされ、自信を砕かれ……でも、そのおかげで、わたくしはお姉様と出会えましたわ」
エルフは目を瞑ると、静かに微笑んだ。
「死にたいほどに辛い記憶も、泣きたいほどに悲しい過去も、やがては全て、大切な記憶になりますわ。それは死に臨んで、命を
預けるべき者に出会えて、愛する者に出会えて……いつになるかはそれぞれでも、生ある限り、過去は全て、大切で楽しかったものと
なりますわ。もちろん、あの苦しみ、痛みが消えるわけではないけれど……それが、わたくしとお姉様を引き合わせてくれたのだと
思えば、あの記憶もまた、甘美な思い出ですわ」
「……そう言えるまでに、なったか」
かつての彼女の姿を思い浮かべ、バハムーンは優しく笑った。男と話すことも出来ず、心を閉ざし、過去の傷の痛みから逃げ続けていた
エルフは、もうどこにもいなかった。その代わり、何かと面倒な気性を持つ子になってしまったが、それぐらいは仕方ないと、
バハムーンは思い始めている。
「お姉様だけじゃない。ノームも、ヒューマンも、セレスティアも、ディアボロスも、全員が大切な仲間。そんな仲間と出会えて、
そしてこうして、ゼイフェアにまで来られるようになったんですもの」
エルフはバハムーンに抱きつくと、可愛らしい笑顔を浮かべて彼女を見上げた。
「過去のことで、後悔することがあるとすれば、お姉様に初めてをあげられなかったことですわ。でも、あれがなければ、わたくしは
お姉様と出会えなかった。……ね、お姉様」
「ん、何だ?」
「その……久しぶりに、わたくし、お姉様に愛されたいですわ。あの日みたいに、わたくしを抱いてくださいな」
そう言い、にっこりと笑いかけるエルフ。その頼みを断ることなど、彼女でなくともできるわけがない。
「ああ、いいぞ。さっきされた分も、まとめてお返ししてやる」
軽い調子で言うと、バハムーンはエルフの顔を上げさせ、そっと優しい口付けを交わした。
エルフにとってのバハムーンが、そうであるように。本人に自覚はなくとも、バハムーンにとってもまた、エルフは大切で、
この上もなく愛しい、大切な仲間だった。
同じく、ゼイフェアの寮の一室。室内には熱気が満ちていたが、既に聞こえる息遣いは小さく静かで、残ったその熱気も少しずつ、
冷め始めているところだった。
「ノーム、大丈夫か?」
ディアボロスが尋ねると、ノームは嬉しそうに微笑み、彼の腕枕に、そっと手を触れた。
「うん、大丈夫。初めてだったから、まだちょっと痛いけど」
「悪かったな、その、いつもみたいに激しくしちまって…」
「あとちょっと、お腹変な感じ。中、ごろごろ」
ちょっと渋っているような感じがあるのか、ノームは腹に手を当て、少し不安そうにそこを見つめる。
「……悪かったよ」
「ううん、いいの。だって、それぐらい気持ちよくなってくれたってことだし」
そう言って笑うノームを、ディアボロスは優しく抱き寄せた。その体は柔らかく、肌触りも自分達とまったく変わらないように思える。
だが、彼女は呼吸もしなければ、血も流さず、温もりを感じることもない。彼女はやはり、他の種族とは違う。
いつか聞いた、彼の言葉が蘇る。
いくら生身に近づこうとも、決して生身を得ることはない。その体は人形以外の何者でもなく、故に感覚すら、普通の人間とは違う。
言い換えれば、ノームという種族は、『人間』ではないのだ。
その時、ふとノームが唇を尖らせた。
「また、余計なこと考えてる」
「え!?あ、いや、悪い悪い。つい、な」
ノームはまるで子供のように、ぎゅっとディアボロスにしがみつく。
「……私、違うもん」
「え?」
「……あんなのと一緒にしちゃ、や」
凄まじいまでの女の勘に、ディアボロスは一瞬血の気が引いた。あるいは超術によってそれを知ったのかもしれないが、いずれにしろ
心の中を言い当てられるのは、あまり気分のいいものではない。
「あんなのって、お前なあ…」
「……違うもん…」
呆れつつも、ノームを嗜めようとしたところで、再び彼の言葉が蘇る。
生身を持たないことは、彼女のコンプレックスなのだ。恐らくは人形に執着するのも、そのためなのだ。
彼女は特別だ、と、彼は言った。それは事実、間違ってはいない。ほとんど生身と変わらぬ体を持ち、また感情も豊かで、何よりこうして
お互いに愛し合うことが出来ている。
言おうとした言葉をグッと飲み込み、ディアボロスはノームの頭を優しく撫でた。
「……そうだな。お前は、俺の恋人だもんな」
ディアボロスが言うと、ノームの顔がパッと輝いた。
「うんっ」
嬉しそうなノームの顔。それだけで、ディアボロスは幸せな気分になる。
彼女は、厳密には人間ではないだろう。だが、そんなことは関係ない。ディアボロスにとって、彼女は最も大切な『恋人』である。
生身を持っていようが、そうでなかろうが、こうしてお互い、愛し、愛されている。同じ気持ちを持つ以上、彼女はやはり『人間』だ。
そうでなかったとしても、と、ディアボロスは思う。
自分が、彼女を好きになるよう、仕向けられた操り人形であるならば、それはそれで構わない。ならば、自分と彼女は人形同士、やはり
お似合いだろう。
そんな自嘲めいた考えが浮かび、ディアボロスは笑った。だが、その笑いは幸せそうで、暖かい笑みだった。
「ね、もう一回、お尻でしてみる」
「いや、まだ痛いんだろ?気持ちだけ、ありがたく受け取っておくよ。それより、もうちょっとくっついてくれ」
ノームを抱き寄せると、彼女も嬉しそうに、ディアボロスを力いっぱい抱き締める。
柔らかく、しかし温かくはない彼女の体。だが、何より大切で、かけがえのない存在。人間であろうと、人形であろうと、
それは変わらない。少なくとも彼にとって、彼女は大切な、一人の女の子だった。
「くっ……出しませんよ…!」
追い詰められた表情のセレスティアが、搾り出すような声で言う。
「いいから、早く出しちまえよ。楽になるぜ?」
それに対し、ヒューマンは実に余裕のある笑みを浮かべている。
「認めません…!このわたくしが……あなたに、負けるなど…!」
「もう諦めろって。ほら、さっさと出せよ。じゃねえと終わんねえだろ」
「うぐ……残念、です…!」
直後、部屋の中に、パパン、と乾いた音が響いた。そして、ヒューマンが思い切り拳を天に突き上げる。
「いよぉっしゃああぁぁぁ!!!勝った!!!ようやく勝ったぞぉぉ!!!」
彼とは対照的に、セレスティアはカードを一枚握り締め、本性を現したかのような表情で舌打ちをした。
「ちっ、まさかわたくしが、あなた如きに負けるとは…!」
「へっ!だから言っただろ!?スピードだけは得意なんだよ!バーカバーカ!」
「……ふん。子供、ですねえ。たかだか一勝したぐらいで、そこまで、はしゃぎますか」
「お前こそ、出したら負けるってわかった瞬間、出さねえとか言ってたよな?へん、ガキが!バーカ!」
「……未だ童貞のあなたにだけは、ガキなどと言われたく、ないですね」
その瞬間、ヒューマンの顔が、ドロドロと暗く淀んだ表情に変わった。
「……うるせえ、堕天使が……むしろダメ天使が…」
「では、繁殖だけが取り得のヒューマンで、童貞のあなたは、さしずめゴミ人間、ですかね」
「本当にお前、一度死ね…」
完全に興を殺がれ、ヒューマンは重く悲しい溜め息をついた。セレスティアはいつものように、一見天使のような、悪魔の笑顔を
浮かべている。
「おやおや。図星を突かれて、ご立腹ですか?」
「……もういい。お前なんか嫌いだ」
「やはり、あなたとは気が、合いますね」
もはや皮肉に反応するのも疲れたらしく、ヒューマンは大きな溜め息をついた。そこでふと、表情が元に戻る。
「……あ、話は全然変わるんだけどよ。あいつらの話、聞いただろ?」
「ええ、聞きましたよ。よくよく、奇特な方々です」
「でも、すげえよな。何だかんだで結局、ロストした奴取り返しちまったんだろ?俺達じゃ、とてもできねえよな」
「……そうですねえ」
セレスティアは手慰みにカードをまとめ、慣れた手つきで切っている。
「ですが、わたくし達なら、そんな努力をする必要も、ありません。ロストなどさせなければ、いいのですから」
「そういやお前、結局司祭に戻ったよな。よくそこまで、転科する気になるよ」
「あの女から、お金はたくさん、もらいましたから。思うほどには、苦労もありませんでしたよ」
そうは言うものの、私財を投げ打ってまでパーティの力になろうという気には、少なくともヒューマンはなれなかった。
「装備もせっかく作ったのに、もったいねえ」
「どうせ、元は共有倉庫の素材、ですよ」
大きく息をつくと、セレスティアはポツリと呟いた。
「やはり、わたくしには、彼等の気持ちは理解、できないですね。人間誰しも、自分が一番、大切でしょうに」
「ん~。まあ、あいつらはそうじゃなかったってことなんじゃねえか?」
「……考え方の、違いですかね。彼等にとっては、仲間を取り返すことが最も、自分のためになる、と」
「ああ、そうとも考えられるな。善人気取りの奴等の考えは、よくわかんねえけどな」
「まったくもって、理解、できませんよ。仲間など、自分より大切とは、思えないのですがね」
その言葉を聞くと、ヒューマンはニヤニヤと笑った。
「お前だって、『仲間のために』転科してんだし、似たようなもんじゃねえの?」
「…………うるさい、ですよ」
「うっはっはっは、そう照れるなよ!誰にも言わねえでやるからさ!」
そう言って肩をバンバン叩くヒューマンを、セレスティアはうんざりした目で見つめていた。しかし、本気で怒っているわけではない。
彼にとっては不快であっても、そうなってしまった事実は変えようがない。いくら彼でも、自分の心までは騙せない。
今のパーティは、彼にとって、かけがえのない存在だった。
仲間など、欲しくもなかった。自分以外を守ることなど、絶対にしたくないはずだった。それが今や、自分を犠牲にしてでも、
パーティを守りたいと思うようになってしまっている。
「やれやれ。やはり、あなた以外を守れるように、努力するとしますよ」
「はっはっは、そうかよ。ま、お前に任せちまっちゃあ、あとで何言われるかわかんねえしな。その前に、俺が何とかしてやるさ」
そう思うのは、セレスティアだけではない。ヒューマンにとっても、今のこのパーティは、何物にも代え難い、大切な存在だった。
「あなたに任せる方がよほど、不安ですがね。やはり、わたくしが頑張りますか」
「お前は、後が怖いんだよ。無理しねえで、俺に任せときゃいいんだ」
憎まれ口を叩き合い、軽口を言い合い、意地を張り合い、それでも背中を預けられる、大切な存在。
お互い口には出さずとも、二人は心の中で、お互いを親友と呼んでいた。
何を言おうと、また言われようと。表面ではいがみ合いつつ、心の中では誰より信頼する人物。
永遠に、口に出されることはなくとも、二人の心は、深く強く、繋がっていた。
彼等は、余りものだった。
入学当初、他のパーティからあぶれてしまい、その結果として、仕方なくパーティを組んだだけだった。
喧嘩もあった。解散の危機に瀕したことも、何度かあった。しかし、それでも彼等はずっと一緒だった。
共に戦い、助け合い、幾多の困難を乗り越えるうち、いつしか、その仲間達は、本当の仲間になっていった。
誰よりも信頼でき、誰よりも大切な仲間達。それを得た彼等は、やがて学園の代表といわれるまでに成長した。
意外な気もする。だが、当たり前のような気もする。少なくとも彼等は、仲間と一緒なら、どんな苦難も乗り越えられると確信していた。
ただの、余りものの寄せ集めだった彼等。それが、いつしか地下道に奪われたものを取り返すまでに成長していた。
今日も、どこかで彼等の声が響く。
「だぁから、あんたは一人で無茶ばっかりしてー。それだから、フェルパーに止め刺したりすんのよ」
フェアリー。彼女は当初、何とか入学が許される成績で、パルタクスに入学した。それに加え、生来の性格の悪さゆえ、
どのパーティからも敬遠された。だが、性格は悪くとも、パーティのことは誰よりも真剣に考え、そのために自身を変えることも
厭わない純情さも持ち合わせている。そのため、入学当時から目指していたくノ一になることをやめ、錬金術師としての道を歩き出した。
もっとも、それも仲間と接するうち、得たものなのかもしれない。
「何だとー!?てめえ、それはねえだろ!!ぶん殴ってやる、降りて来ーい!!」
ドワーフ。戦士学科に所属していたが、同じ戦士ならばブレスを使えるバハムーンや、素早さに優れるフェルパーなどの方が人気があり、
最後まで余ることとなった。口は悪く、短気な面はあるが、どこまでも真っ直ぐで、仲間を守りたいと思う優しさを持っている。
初の探索で仲間を死なせたことで、神女としての道を歩き出した。僧侶では戦う力に劣り、力がなければ、やはり仲間を守れないという、
彼女なりの選択である。毎日のように口喧嘩をするフェアリーとも、深いところではちゃんと繋がっている。
「やめろってドワーフ。それに、俺はここにいるんだから、もういいじゃないか」
フェルパー。彼は同種族で固められたパーティに入り損ね、ひどい人見知りのため誰とも話せず、結局最後まで残ることとなった。
当初は頼りなく見えていたが、全滅の危機においては常に最も勇敢に行動し、身を挺して仲間を守った。その結果、彼は一度ロストする
こととなったが、仲間の活躍により、再び生を得た。当初からドワーフと共に前線に立ち、彼女はあらゆる面でいいパートナーである。
「フェアリーもやめなって。さすがにそういうことは、言っちゃダメでしょー」
クラッズ。彼は入学すら危ぶまれる成績で、辛うじて合格した。成績は誰よりも低く、堂々の最下位である。その出来の悪さゆえ、
盗賊学科という需要の高い学科にも関わらず、最後まで残る羽目となった。仲間を思いやる気持ちも強く、ほぼずっと喧嘩の仲裁役を
担ってきた。また、持ち前の明るさと人懐こさで、パーティの仲間以外にも、数多くの友人を作った。フェアリーとは当初学科が一緒で、
ほぼ唯一、彼女を気遣った存在でもあるため、とても気に入られている。多少振り回されている感はあるが、傍から見れば、
とてもお似合いの二人である。
「二人とも、喧嘩はしないでくださいよ。もっと仲良くやりましょうよ、ね?」
セレスティア。入学してすぐ、その人の良さから、多くの友人を作った。が、その人の良さが災いし、友人にパーティを探してやって
いたところ、気付けば自分自身があぶれていたという異色の存在である。利他的で、典型的な『いい人』であり、純情かつ純粋で、
フェアリーとはいつも喧嘩が絶えなかった。また、性格ゆえに、パーティのため一人を見捨てねばならないときや、あえて希望を与えずに
隠し事をしなければならないときなど、多くの場面で苦しんだ。しかし、それでも裏方に徹し、見守り続けることが出来る人物で、
仲間にとってはそれこそ、天使そのもののような存在となっている。
「喧嘩するほど仲がいい、とも言いますけどね。ですが、地下道内では、喧嘩は控えてください」
ノーム。パーティは通常、多くの魔術師を必要としない。彼は無難な魔術師学科を選び、必要なこと以外は口にしない性格のため、
最後まで残ることとなった。セレスティアと同じく、人当たりは良く、しかし彼女と違って、常に一歩引いた視点で物事を見つめている。
だが、人ならざる体であることを密かに愁い、それまでは何事からも、常に一歩引いていた。しかし、セレスティアと出会ったことで、
それも気にしないようになり、常に冷静であるが故、パーティの危機には自身を悪者としてでも、最善の道を選ばせた。セレスティアとは
同じ後衛であり、彼女の良き相談相手でもあり、仲間という枠を超えた、大切な存在でもある。
「はいはい。みんな、このワンコちゃんが大好きねー」
「うるさいな、このチビ!あとで絶対ぶっ潰してやるー!」
「ドワーフ、よせってば。少し落ち着け」
「よしなってフェアリー。嫌いな相手なんて、みんないないんだから」
「そうですよ。フェアリーさんだって、大切な仲間ですよ」
「ドワーフさんも、本当に潰したりしないでくださいね。いくら僕でも、もう一年も地下道にいるのはごめんですよ」
いつもの光景。いつもの雰囲気。一度は消えたはずの、当たり前の姿。彼等はもう二度と、その姿を失うことはないだろう。
彼等のことを、奇跡のパーティと呼ぶ者もいる。事実、それは間違っていない。
凄まじい力を持ち、学園の卒業生筆頭であり、ロストした仲間すらも取り戻した彼等は、奇跡と呼ばれるに相応しい者達だろう。
だが、それだけが彼等の奇跡ではない。
彼等の一人でも、入学当初、別のパーティに入れていれば、このパーティは組まれなかった。また、全員が居心地のいいパーティと
思っていたわけでもない。脱退の危機も、解散の危機も、何度もあった。
それを乗り越え、信頼を育て、誰よりも強く結ばれた仲間となった彼等。
ロストしてすら、それを諦めなかった、大きな結束。地下道の宝より、大切と思える仲間達。
その、死すらも分かつことのできない、彼等の絆こそが、何よりも大きな奇跡だった。
この先も、様々な苦難があるだろう。だが、そんなものは、彼等にとって何の不安にもならない。
信頼する仲間が、大切な親友が、愛する恋人が、いつも一緒にいる。
共に笑い、共に泣き、時に喧嘩し、時に力を合わせ、彼等は冒険を続ける。
いつものように、いつもみたいに、彼等は変わらぬ姿で歩いていく。
いつかゼイフェアを卒業し、皆がばらばらになる日が来るかもしれない。それでも、彼等は怖くなかった。
どんな場所でも、どこにいても。
彼等の絆は、これからも決して、途切れることはないのだから。
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