第一章 
 
絶対は絶対にない。矛盾でありつつ、それが真理。  
 
フェルパーは顔を上げた。既に、足に力は入らず、刀を杖にしなければ立ち上がることすら出来ない。  
見上げた先に、エンパスの見下したような顔がある。見回せば、周囲には仲間だったものが倒れている。  
「へっ……強いよなぁ、やっぱり…」  
ある程度、対策は出来たつもりだった。相手に弱化魔法を重ねがけし、自分達には強化魔法を重ねがけする。その上で、全員が一斉に  
攻撃し、討ち取る。それで倒せるはずだった。  
だが、そうはいかなかった。いよいよ攻撃に移ろうとした瞬間、相手は魔法を唱えた。インバリルによって、その効果は全て打ち消され、  
それまでの苦労は徒労に終わった。それどころか、魔力も体力も消耗した状態での仕切り直しである。  
立て直す暇をくれるほど、甘い相手ではなかった。直後、エンパスは舞い降りる剣を繰り出してきた。  
避けられるわけがない。耐え切れるはずもない。その一撃で、仲間は全員死体と化した。辛うじて、フェルパーは持ち前の機敏さと  
生命力で、瀕死ながらも生き延びた。しかし、次の一撃はもう耐えられない。  
「下等な種族よ。これで遊びはおしまいか」  
頭に声が響く。フェルパーは小さく笑い、相手の顔を睨み返す。  
「さあね……次の結果次第さ…」  
エンパスが構えた。死が目前に迫っているのを感じる。だが、フェルパーの心はあくまで平静だった。  
賭ける手段はただ一つ。その賭けに勝てば、まだ希望は繋がる。賭けに負ければ、それまでだ。  
全身の痛みを堪え、フェルパーは静かに眼を閉じ、口の中で魔法の詠唱を始める。  
エンパスが迫る。もう避けることは出来ない。そして、詠唱を止めることも出来ない。  
腕を振りかざしたのが見える。同時に、詠唱が完成する。  
相手を見上げたまま、フェルパーは笑った。  
「普段は……運なんか、ねえのにな……俺でも、運がいい時ってのは、あるもんだな…!」  
剣が振り下ろされる瞬間、最後の力を振り絞り、フェルパーは叫んだ。  
「ラグナロク!蘇生と回復の奇跡を!」  
その瞬間、辺りに光が満ち、その光は倒れた仲間とフェルパーに吸い込まれた。それと共に、体の傷が見る間に塞がっていき、  
倒れていた仲間が起き上がった。  
「う……誰、が…?」  
「……フェル…!」  
フェルパーは、起き上がった仲間を、いつもの笑顔で見つめていた。  
彼にとっては、その瞬間は希望に満ち溢れた瞬間だった。  
仲間にとっては、その瞬間は絶望のどん底に叩き落された瞬間となった。  
エンパスの剣が、空間ごとフェルパーを切り刻んだ。  
瞬きするほどの間。その後、今までフェルパーがいた場所には、一握りの灰が落ちているだけだった。  
誰もが、一瞬動くことを忘れた。だが、直後には全員が一斉に動いた。  
「てめえええぇぇぇ!!!!」  
ドワーフが、大斧を振りかざしてエンパスに撃ちかかる。その後ろから、小さな影が追い抜いた。  
「よくもフェルパーをー!」  
ドワーフに先行し、彼のチャクラムがエンパスに向かって飛んだ。  
さらにその後ろ。ノームの落ち着いた声が響く。  
「勢いで勝てる相手ではありません。まずは僕達自身の防御を」  
「くっ……は、はい!いきますよ、フェアリーさん!」  
スターダストを握り締めていたセレスティアが言うと、フェアリーは怒りを漲らせた表情のまま頷いた。  
「くそ野郎……絶対、殺してやる…!」  
二人の攻撃を捌いたエンパスが攻撃に移る前に、後衛三人の声が響いた。  
「絶対壁、召喚!!」  
魔法の障壁の前に、エンパスの攻撃は一気に無力化される。だが、こちらの攻撃もエンパスには効いていない。  
 
「まずは二人に任せましょう。僕達はその援護を」  
「はい!ノームさん、弱化魔法はお任せします!」  
「グダグダやってる余裕なんかねえんだよ!さっさと片付けるよ!」  
再び、後衛の三人が精神を集中させ、叫んだ。  
「倍化魔法陣!!!」  
普段より遥かに効果を増した魔法が、仲間と敵とにかけられる。先に打ち消された分ほどではないが、ともかくも準備は整った。  
前線では、やはりドワーフとクラッズがエンパスに攻撃する。が、さすがに場数を踏んでいるだけあり、無駄な攻撃を仕掛けはしない。  
「うらああぁぁ!!!」  
ドワーフは武器を精霊の鎚二つに持ち替え、殴りかかる。片方は外したが、もう片方がエンパスの体を殴りつける。  
「よぉし!ドワーフ、繋ぐよ!」  
よろめいたエンパスに、クラッズが距離を詰めた。その手に武器はなく、彼は固く拳を握る。  
修道士と見紛うような連撃が、エンパスに叩き込まれる。顔を殴り、腹を蹴り、間断なく攻撃を加える。最後の止めに顔を蹴りつけると、  
さすがのエンパスもぐらりとよろめいた。  
この隙を逃すわけはない。全員が、一斉に武器を構えた。  
「いけええぇぇ!!!」  
フェアリーの矢が続けざまに唸りを上げ、その直後にはクラッズのチャクラムが飛ぶ。  
半分意識を失いつつも、体勢を整えようとするエンパス目掛けて、セレスティアとノームが飛び掛る。フレイルと杖が、同時にエンパスの  
頭を殴りつけ、そこで完全に体勢を崩した瞬間、ドワーフが斧を振りかざした。  
ドッ、という鈍い音。確実に骨まで断ち切った手応えと共に、全員の頭に笑い声が響いた。  
「ウフフフ……アハハハ……フフフ…」  
その笑い声が消えると、全員がハッと我に返る。戦闘の衝撃によって、既にフェルパーの灰は散りかかっていた。  
「フェルパー!今助ける!」  
誰よりも早くドワーフが駆け寄り、魔法を詠唱する。そして、彼の灰に手をかざし、リバイブルを唱えた。  
それで、すべて元通りになるはずだった。また、いつも通りの時間が戻るはずだった。  
彼の灰は、戻りなどしなかった。まるで風に吹かれるように、塵となり、やがて地下道へと消えていった。  
誰も、声を出せなかった。誰もが呼吸すら忘れ、今まで灰のあった場所を見つめていた。  
「……うそ……だ…」  
呆然とドワーフが呟き、その場にぺたんとへたり込んだ。  
その瞬間、フェアリーが彼女の胸倉を掴んだ。  
「てめええぇぇ!!何してんだよ!?助けるんじゃなかったのかよ!?ふざけんじゃねえぇぇ!!!」  
「違う……違う、違うっ!!!わ、私は……私はぁっ!!!」  
「何が違うってんだよぉ!?じゃあどうしてあいつがいねえんだよ!?あんたが……あんたが、フェルパーをぉ!」  
「フェアリー、やめなよぉ!!!」  
致命的な言葉を発する直前、クラッズがフェアリーを引き剥がした。  
「フェアリー、やめなよ……ドワーフの気持ちも、考えてあげなよぉ…!」  
そう言うクラッズ自身、目にはいっぱいの涙が溜まっていた。  
「わた……し……は…………あ……ああぁぁ…!」  
ドワーフが泣き崩れる直前に、その体をセレスティアが抱き締め、彼女を翼で覆い隠した。セレスティアも言葉はなく、ただ黙って涙を  
流していた。  
「ふ……ふざけんなよ…!あいつ……あいつが、ロストするなんて……ふざけんなよぉ…!」  
クラッズに抱き締められたまま、フェアリーも大粒の涙を流す。そんな彼女を、クラッズはただじっと抱き締めていた。  
そんな中、ノームだけはいつもと変わらぬ無表情を貫いていた。やがて、その口がゆっくりと開かれる。  
「……皆さん、そろそろ行きませんか。そんな事をしていても、時間の無駄です」  
その冷たい言葉に、一瞬空気が凍りついた。  
「……んだと…?」  
本気の殺意が篭った声が、フェアリーの口から発せられる。  
「てめえ、今なんつった!?」  
「ですから、時間の無駄だと言うのです。泣いたところで、彼が帰ってくるわけでもありません。そもそも、僕達は冒険者です。  
仲間を失うことぐらい、元より覚悟の上でしょう」  
 
抑揚のない、無表情な声と顔で答えるノーム。フェアリーはクラッズの腕を振り解くと、ノームの胸倉を掴んだ。  
「ふざけたこと抜かしてんじゃねえよ、この木偶野郎っ!!てめえは、仲間よりも探検の方が大事かよ!?」  
「……冒険者ですから。失った仲間よりも、この先の探索の方に注意を払うのは当然かと思いますが」  
「てめえっ…!」  
言いかけて口を閉じ、代わりにフェアリーは思い切り強く、ノームの顔を殴りつけた。  
「フェアリー!」  
クラッズの声を無視し、フェアリーは再び拳を振り上げた。が、その手は振り上げられたまま、空中で止まってしまう。そんな彼女を、  
ノームは無表情に見つめていた。  
「……所詮は人間じゃない、ただの人形かよ……殴って損した」  
フェアリーは忌々しげに手を放し、殴った手を撫でる。  
「あなた達が、そのまま冒険を止めるというのなら、僕は一人でも探索を続けますが、どうしますか」  
相変わらず、ノームは抑揚のない声で続ける。  
「ノーム、何言い出すんだよ!?そんなの…!」  
「ああ、上等だね!あんたみてえな木偶野郎となんか、こっちからお断りだってのよ!せいぜい、一人で仲間よりも大事な探索でも  
続けてろっての!!」  
吐き捨てるように言い、フェアリーは帰還札を取り出した。それが効力を発揮する直前、セレスティアは悲しげな瞳でノームを見つめた。  
「ノームさん…」  
一瞬、二人の目が合った。ノームはただ、無表情な目で彼女の目を見つめていた。  
そして、四人の体が光に包まれる直前、ノームは黙って目を逸らした。  
 
宿に戻って少し経つと、ドワーフはやや落ち着いたように見えた。セレスティアはずっと彼女の体を抱き締めていたが、やがてドワーフは  
そっと、しかし強く彼女の体を押し返した。  
「ドワーフさん…」  
「……ごめん…………一人にして……お願い…」  
いつもの彼女からは想像もつかない、悲しげで小さな声だった。そこに抵抗できない強さを感じ取り、セレスティアは黙って立ち上がる。  
「……必要なら、いつでも呼んで下さいね…」  
そう言い残し、部屋を出る。ドアを閉める直前、背中にドワーフの泣き声が突き刺さってきた。  
静かに、ドアを閉める。するとすぐに、聞き慣れた声がかかった。  
「どう?ドワーフ、大丈夫そう?」  
そう問いかけるクラッズに、セレスティアは黙って首を振った。  
「……そりゃそうか…。ボクだって、こんなに辛いのに……ドワーフは、ね…」  
二人はやるせない溜め息をついた。  
「わたくし、悔しいです……ドワーフさんが、あんなに悲しんでいるのに、わたくしは……彼女の心の痛みを、和らげてあげることも  
できません…」  
「そんなことないよ。セレスティアがいなかったら、もっと辛いよ。それに……その……セレスティアだって、しょうがないよ…」  
二人はまた、深い溜め息をついた。  
「……ところで、フェアリー見なかった?」  
「フェアリーさんですか?いえ、わたくしは…」  
「そっか……うん、フェアリーだって辛いよね。いきなり……だしね…」  
「………」  
少しの間、気まずい沈黙が流れた。  
「……なんか、まだ信じられないや…。だって、今日の朝……ううん、数時間前まで、みんな一緒で、いつも通りだったのにさ……何か、  
なくなるのって、一瞬だね…」  
「………」  
「あっ、ご、ごめん!その……無神経なこと、言っちゃったね…」  
「いえ、いいんですよ。わたくしも、そう思ってましたから…」  
それ以上会話も続かず、二人は黙って別れた。何もかもが壊れてしまったような、そんな空気が、一行の間に漂っていた。  
 
暗い地下道の中。外は既に深夜で、この時間になると冒険者の姿もほとんどない。聞こえてくる音も、地下道に巣食うモンスターの  
唸り声などがほとんどで、いわゆる人の気配など皆無と言っていい。  
その、ある一室。床にポツンと置き去られた人形のように、一つの人影が座っていた。その青い瞳は何も見ていないようであり、  
瞬き一つすることはない。  
彼はただじっと座っていた。扉に背を向け、おかしな音が聞こえようと、近くをモンスターが通ろうと、ただただじっと座っていた。  
そんな彼の耳に、今までとは違う音が聞こえてきた。  
何者かが、遠くで戦う音。モンスターの吼える声。弓の弦が弾かれる音。そしてモンスターの悲鳴。  
ややあって、今度は扉が開かれる音がした。続いて、聞き慣れた小さな羽音。それは自分の近くまで来ると不意に止み、トッ、という  
軽い着地音と共に、小さな足音に変わった。  
足音は自分の真後ろまで来ると、止まった。軽い溜め息のあと衣擦れが聞こえ、背中にとすんと小さな衝撃がくる。  
しばらく、そのまま時間が流れていった。  
「……やっぱり、こうだと思った」  
呆れたような、嘲るような、そんな声だった。  
「気付かれていましたか」  
「そりゃあね。あんた、演技下手なのよ。……ま、あんなタイミングだったから、あたし騙されちゃったけどさ」  
ノームの背にもたれかかったまま、フェアリーは続ける。  
「あんたみたいな善人気取りの奴が、あのタイミングであんなこと言うわけないもんね。ほんっと、馬鹿だよね」  
その言葉が、自分と彼女本人と、どちらに向けられたものなのかは理解できなかった。  
また、沈黙が訪れる。が、今度はノームが口を開いた。  
「僕は今日ほど、この体を恨めしいと思ったことはない」  
「ん?」  
「あの時……フェルパーさんがロストした時、僕は胸が張り裂けるほどの悲しみを感じた。しかし、この体は涙一つ流すことは出来ず、  
それどころか、その悲しみという感情すら、どこか冷めた部分で見つめ、処理してしまう。僕は……僕は、あなた達が羨ましい。  
僕は……仲間の死を、心から悲しむことすら…」  
そんな彼の言葉を、フェアリーは黙って聞いていた。が、やがて苛立ったような溜め息と共に、彼女は立ち上がった。  
「あ〜あ、何言い出すかと思えば……所詮、木偶野郎は木偶野郎か」  
スカートについた埃を払い落とすと、フェアリーは一歩だけ歩き、肩越しに振り返った。  
「あたし、あんたが羨ましい」  
きっぱりと、彼女は言った。  
「あたしは、本当だったら涙なんて見せたくない。例えそれがあんただろうと、フェルパーだろうと、クラッズにだって、本当は  
見せたくない。他人に弱みなんか見せたくない。だから、あたしは泣けなくて、感情を全部コントロールできるあんたが羨ましい」  
「………」  
「わかる?人ってのはね、自分にないものを欲しがるもんなのよ。ないもんを欲しがって、あるもんは当たり前だと思って、それが  
人間ってもんなのよ。わかる?わっかんないだろうなあ、あんたみたいな人形には」  
「………」  
その言葉に、ノームはややあってから答えた。  
「……ありがとうございます」  
「……ふん。皮肉にまでお礼言われたんじゃ、立場ないね」  
それだけ言って、フェアリーは歩き出した。扉の前まで来ると、それに手をかけようとして、ふと後ろを振り返る。  
 
「あんた、わかってるんでしょ?」  
確信に満ちた声で、フェアリーは尋ねた。  
「はい。僕も以前、司祭学科でしたから。もう鑑定は出来ませんが、どんな物があったかは覚えています」  
「あたしは、絶対諦めない。あんたも、その覚悟はあるんでしょうね?」  
「ええ。一年でも二年でも。あるいは十年でも、決して諦めません」  
「ふん。そんなにかかったら、先にあたしが諦め……いや、それはないか。とにかく」  
フェアリーは改めてノームを見つめる。ノームも、今はフェアリーの顔を見つめていた。  
「あたしは、絶対諦めない。ここに絶対帰ってくる。だから、絶対に待っててよ」  
「ええ。僕も、決して諦めません。ここでいつまでも、待っていますよ」  
扉を開け、部屋を出る。背後で扉の閉まる、重い音が響いた。そして、再び沈黙が辺りを支配する。  
軽く羽ばたき、空中に舞い上がる。が、すぐにまた降りると、フェアリーは軽い溜め息をついた。  
「……いるんでしょ?出てきなさいよ」  
何も見えない闇に向かって、そう呼びかける。すると、影の一角がもそりと動いた。  
「ちぇ〜、完璧に隠れたつもりだったのに」  
「静かすぎんのよ。モンスターの気配まで消えてりゃ、そりゃばれるっての」  
「そんなの気付くの、君ぐらいだってば」  
クラッズとフェアリーは、連れ立って地下道を歩き始めた。  
「話、聞いてたんでしょ?」  
「聞いてたけど、ボクには何のことだかさっぱり…」  
「そりゃそうか。まだあたし達だって、お目にかかったことのないもんの話だもんね」  
一度心を落ち着けるように、フェアリーは大きく深呼吸した。  
「……フェルパーを、取り戻す」  
「できるの?」  
「できる、できないじゃなくて、やるの。ロストした奴すら生き返らせられるアイテムが、この地下道にあんの。蘇生の果実、女神の涙、  
あるいは天使の涙10個集めて作る聖母の涙。このどれか一つを、何としても探し出す。ただ、そのアイテムはね、その場で使わなきゃ  
効果ないのよ。だから、どうしても誰かがこの場に残る必要があるわけ」  
「……ノームは、ボク達のこと気遣って、あんなこと言ったんだね。仲間一人、地下道に残して行くなんて、普通できないもん。  
わざと、悪者になってくれたんだね」  
「それに、ドワーフがねぇ。フェルパーに止め刺したのはあいつだし……無理に引き剥がすなら、ああするしかないか」  
「………」  
ふと、クラッズが足を止めた。それに気付き、フェアリーも足を止める。  
「ん?どうしたのよ?」  
「……ねえ、フェアリー」  
「だから、何?」  
視線を外していたクラッズが、真っ直ぐにフェアリーの目を見据える。そして、彼は言った。  
「ボク達、一緒にいない方がいい」  
一瞬、何を言ったのか理解できなかった。徐々にその意味を理解するにつれ、フェアリーは明らかに動揺した。  
「……は…?ちょ、ちょっと、いきなり……何?てか、何、どういう意味よ、それ…?」  
クラッズは思わず目を逸らしかけたが、彼女の目を見据えたまま、再び口を開いた。  
「しばらく、お別れだよ」  
「ちょっと……ちょっと待ってよ…!ねえクラッズ、本気!?それ、本気で言ってんの!?」  
叫ぶなり、フェアリーはクラッズに掴みかかった。だが、クラッズは抵抗すらしない。  
「嫌だ!嫌だよ!ねえふざけないでよ!考え直してよ!あたし、そんなのやだよぉ!!」  
クラッズの体を激しく揺さぶりながら、フェアリーは涙を流した。強がりなど、できる状態ではなかった。  
 
「やだやだぁ!!離れたくないよぉ!!フェルパーがいなくなって、ノームまでいなくなって、それでどうして、あんたまでそんなこと  
言うのぉ!?あたしっ……あたし、あんたがいるから頑張れると思ってたのにぃ!!なのに、なのにぃ!!」  
「フェアリー!!!」  
大きな声で呼ぶと、クラッズはフェアリーの体を強く抱き締めた。突然の事に、フェアリーは思わず泣き止んだ。  
「ボクも……ボクも、ほんとは離れたくなんてないよ…!でもフェアリー、今は少しだけ……他の人のこと、考えてあげなよ…」  
その時ふと、フェアリーは気付いた。自分を抱き締めるクラッズの腕は、僅かに震えていた。  
「例えばさ、ロストしたのが、フェルパーじゃなくてボクだったとしてさ、それでドワーフとフェルパーが仲良くしてたら、あまり  
いい気分じゃないでしょ?」  
「……ムカつくけど…」  
「たぶん、みんなそんなこと、口に出しては言わないよ。だけどさ、辛いでしょ?どうしたって、無意識に自分と重ねちゃうよ」  
「でも……でも、だからって、どうしてあたし達まで別れなきゃいけないのよぉ…!やだぁ……ねえ、クラッズ、お願いだから  
やめてよぉ…!もう喧嘩もしないからぁ……性格も変えろって言うなら変えるよぉ……だから、側にいてよぉ…!」  
とうとう堪えきれなくなり、フェアリーはクラッズの胸に顔を埋め、声をあげて泣き始めた。クラッズはそんな彼女を、ただ強く強く  
抱き締めていた。  
 
少し落ち着いたところで、二人は地下道を出てフェアリーの部屋に戻った。それまでにも、クラッズはずっと説得を続け、フェアリーは  
ずっとそれを拒否していた。  
とはいえ、クラッズの言うことはフェアリーにもよくわかる。それでも、やはりクラッズと離れ離れになるのは辛い。  
今まで自分を中心に物事を考えてきたフェアリーにとって、それはとても耐え難いことだった。しかし、仲間のことを考えると、  
自分勝手を言える状態ではない事もわかる。  
「それにさ、フェアリー。ドワーフがその事知ったら、絶対に無理して探索続けて、何か問題起こしちゃうと思うんだ。それは絶対に  
避けたいし、あっちこっち手分けした方が、色んな場所探せるでしょ?」  
「それは……そうだけど…」  
「今は少しだけ壊れちゃってるけど、また絶対に取り戻せるよ。フェルパーも、ノームも……ボク達のパーティも、絶対に。  
だからフェアリー、少しだけ、我慢して」  
いくら嫌がっても、クラッズの決心は変わる気配もない。普通なら軽く曲がるはずの彼の主張が、ここまで曲がらないのは初めてだった。  
それに伴い、フェアリーも徐々に理解し始めた。恐らくは絶対に、クラッズは決心を変えることはないのだと。  
「フェアリー、お願いだよ。今回だけは、ボクの言うこと聞いて」  
「…………わかった…」  
とうとう、フェアリーは頷いた。  
「でも、絶対帰ってくるよね?全部、元通りになるよね?」  
「うん。絶対、帰ってくる。ボクも、フェルパーも」  
「浮気とかしないでよ?ほんとに、ほんとに絶対帰ってきてよ?」  
「大丈夫だってば。そんなことしたら、今度はボクが無事じゃ済まないしね」  
笑いながら言って、クラッズはフェアリーを抱き寄せた。  
「ねえフェアリー、もう一つだけ、わがまま言わせて」  
「……何よ?」  
「お別れの前に、一度だけ、君を抱かせて」  
「え…?あ…」  
返事を待たずに、クラッズはフェアリーの唇を奪った。フェアリーは思わず抵抗しようとしたが、思いがけず強い力で抱き締められ、  
それも適わない。  
 
口の中に、半ば強引に舌がねじ込まれる。いつもとはまったく違う感覚に、フェアリーはただ驚き、身を固くしている。  
そんな彼女を、クラッズはキスをしたままベッドに押し倒した。思わず押し返そうとした手を掴まれ、ベッドに押さえつけられたまま、  
激しいキスをされる。その感覚は、自分の意のままにならないという不快感と、今まで感じたこともない感覚をフェアリーにもたらす。  
苦しいほどに激しいキスのあと、クラッズは唇を離し、フェアリーの顔を見つめた。  
「ちょっ、ちょっとクラッズ…!」  
「お願い。今だけは、何も言わないで」  
「そんな勝手……んあっ!?」  
クラッズの手が、器用な手つきでフェアリーの服のボタンを外し、その下にある小さな膨らみに触れた。  
柔らかく捏ねるように全体を揉み解しつつ、指の間に挟むようにして乳首を刺激する。その刺激は的確で、フェアリーの口からは  
抑えきれない喘ぎ声が漏れる。  
「あっ、んっ!ク、クラッズ……ちょっと待って……あっ!」  
思うようにできない不快感が消えたわけではない。しかし、それと同時に生まれる感覚が、フェアリーの抵抗しようという気を奪う。  
胸を愛撫しながら、再びクラッズがキスを求める。頭ではそれに従うことを拒否しつつも、気がつけば素直にそれを受け入れている。  
―――どうしてあたし、こんな……  
押さえつけられ、一方的に愛撫され、自分の意に反したキスをされ、どれも不快なはずなのに、それに抵抗できない。  
フェアリーの腕を押さえていたもう片方の手が離れ、柔らかな腹を撫で、するりと下着の中に入り込んだ。  
「やぁっ!そこは……まだぁ…!」  
「でも、もう濡れてるよ」  
「だからって……きゃんっ!」  
くち、と湿った音が響き、フェアリーの体が跳ねる。そんなフェアリーに構わず、クラッズはさらに刺激を強める。  
フェアリーの中に指が入り込み、中を激しく掻き混ぜる。指が動く度、フェアリーの体が跳ね上がり、甲高い喘ぎ声が漏れる。  
その快感に麻痺し始めると、不意に指の動きが変わる。今までとは打って変わって、優しく撫でるような動きながら、最も感じる部分を  
的確に責めてくる。その刺激に物足りなさを感じ始める直前、指が再び激しく動き出す。  
快感に慣れることもできず、常に最も感じる動きを繰り返される。気持ちいいことは確かなのだが、強すぎる快感はもはや拷問に近い。  
「ク、クラッズぅ!もうダメ!んっ、やぁっ!も、もう指はダメぇ!!」  
必死に叫ぶと、クラッズはすぐに指を抜き、体を離した。強すぎる快感から解放され、フェアリーはぐったりして荒い息をついていたが、  
クラッズがそっと、フェアリーの体にのしかかる。  
「はぁ……はぁ……ク、クラッズ、ちょっと…」  
「フェアリー、いい?」  
そう言い、クラッズはフェアリーの秘部に自身のモノを押し当てた。  
普通だったら、拒否している。というよりも、この時も拒否しようと思っていた。こんなに好き勝手されていて、気分がいいわけがない。  
自分の思い通りにならないのは、もううんざりだった。  
だが、そう思っていたにも拘らず、気付けばフェアリーは、黙って頷いていた。  
クラッズのモノが、少しずつフェアリーの中に埋め込まれていく。  
「あくっ……んっ……あぁっ…!ク、クラッズ、もうちょっとゆっくりっ…!」  
自分で入れるのとは違い、自分の意思に関わらず入り込んでくる感覚。それは若干の恐怖と、何か例えようのない快感を伴っていた。  
「ごめん、フェアリー。ちょっとだけ、ちょっとだけ我慢して」  
言うなり、クラッズはさらに強く腰を突き出した。勢いがついてズブズブと入り込み、フェアリーはたまらずクラッズの腕を掴んだ。  
「い、痛ぁい!!……うっく……ひ、ひどいよぉ…」  
あまりの痛みに涙を流し、なじるようにクラッズの顔を見つめる。そんなフェアリーを、クラッズは強く抱き締めた。  
「ごめん。でも、今日だけは、フェアリーのこと思いっ切り感じさせて」  
頬を伝う涙を舐めるようにキスをし、クラッズはそう囁いた。  
フェアリーの返事を待たずに、クラッズは腰を動かし始める。しかし、その動きはさほど激しくもなく、彼女を気遣うような  
ゆっくりした動きだった。  
 
「んっ……あぅっ!そ、それ以上は入れないでっ…!もう、無理ぃ…!」  
「……フェアリー、ごめんね。いっつも痛い思いさせて」  
確かに、体格の違いのせいで苦労は絶えない。クラッズのモノを全て入れることはできないし、そもそも普通に受け入れられるように  
なるまでにも、大変な苦労を要した。だが、フェアリーはその苦労を苦痛とは思っていなかった。  
「そ、そんなの……気にしないで、いいってのよ…!あんたが、気持ちよければ…」  
そこまで言ったとき、フェアリーは気付いた。  
思えば、全て彼のために頑張ってきた。そして今、彼に強引に迫られたときに覚えた感覚。元を辿れば、それは同じようなものだった。  
もちろん、自分の意のままになる方が好きなのだが、彼に限っては、これもまた悪くはないと思える。  
なぜなら、彼の思うままになれば、彼は喜ぶのだから。彼が喜んでくれれば、フェアリー自身も嬉しいのだから。  
「フェアリー、辛かったら言ってね」  
少しずつ、クラッズの動きが激しくなる。彼が突き入れるたび、体内の奥を突き上げられる疼痛と快感が、同時に襲ってくる。  
組み敷かれ、ろくに動けない状態で何度も何度も突かれる。だが、それがまたいつもと違う快感をもたらし、苦痛と不快感を和らげる。  
「クラッズ……クラッズぅ…!」  
縋るように叫び、フェアリーはクラッズにしがみつく。同時に、膣内がぎゅうっと収縮し、彼のモノを締め付ける。  
「うあっ、すごくきつい…!フェアリー、すごくいいよ…!」  
何度も何度も、体の奥深くを突き上げ、その度に溢れる愛液がクラッズのモノを伝い、二人の間に滴り落ちる。  
もう痛みはなかった。ただ、彼の動きを、体温を、感じていたかった。  
いつしか、クラッズの動きに合わせ、フェアリーも腰を動かしていた。ねだるように腰をくねらせ、突き入れられればそれを  
より感じようと、さらに腰を押し付ける。時折、押し付けすぎて痛みが走るのか、羽が驚いたようにピクンと動く。それでも、  
フェアリーはそれをやめようとはしない。  
自分のみならずフェアリーまでもが動き始めたことで、クラッズの快感は一気に跳ね上がる。息遣いがどんどん荒くなり、腰の動きも  
荒く、乱暴になっていく。  
「うっ……くっ…!フェアリー、ボク、もう、そろそろ限界…!」  
切羽詰った声から、本当に限界が近いのはすぐにわかった。そんな彼に、フェアリーはいつもと少し違う笑みを浮かべる。  
「クラッズ……お願い。もっと、いっぱい、あたしのこと感じてぇ…」  
「フェアリー…!」  
クラッズはそれに応えるように、フェアリーを抱き起こし、強く抱き締めた。そして、小さく柔らかい唇を強く吸う。  
体重が全て結合部にかかり、かなりの圧迫感と痛みがあった。しかし、それすら今のフェアリーは快感として捉えてしまう。  
「んむ……うぅぅ…!」  
呻き声とも喘ぎ声ともつかない声を出し、フェアリーもその激しいキスに応える。  
「んん……くぅっ、フェアリー、出る…!」  
向かい合って座ったまま、激しいキスをし、クラッズは何度か腰を突き上げた。やがて、一際強く腰を突き上げると同時に、  
フェアリーの体を強く結合部へと押し付けた。直後、フェアリーの体内にじわりと温かい感覚が広がっていく。  
「ん……んあぅぅ…!」  
体内に感じる温かさ、疼痛。それら全てが、今のフェアリーには愛しかった。自分の中で、彼のモノが何度も跳ねる感覚は、  
自分が今、彼に愛されているのだという実感を与えてくれる。  
クラッズが唇を離し、ゆっくりとフェアリーの中からモノを引き抜く。それが全て抜け出ると、フェアリーはベッドにぐったりと  
横たわった。  
「ふぁ……温かい……よぉ…」  
陶然とした表情で呟くフェアリー。そんな彼女を、クラッズは心配そうな顔で覗き込んだ。  
「フェアリー、大丈夫?ごめん、ボクのわがままにつき合わせちゃって…」  
そう言いかけるクラッズの口を、フェアリーはそっと手で塞いだ。  
「あたしも……クラッズのこと、いっぱい感じたかったから…。だから、いいの、謝らなくて」  
「フェアリー…」  
彼女の隣に寝転び、クラッズはもう一度、フェアリーを抱き締めた。  
最も大切で、最も好きな子。その温もりを、少しでも長く感じていたかった。そして、その温もりを、肌に焼き付けておきたかった。  
そんな気持ちを察したのか、フェアリーもぎゅっとクラッズにしがみついた。このまま時が止まればいいのに、と、フェアリーは  
生まれて初めて、本気で思っていた。  
 
夜が白々と明け始める頃、フェアリーは制服を元通り身に付け、まったくのいつも通りに戻っていた。クラッズの方も、既に服は  
身に着けており、少し暗い顔で荷物をまとめている。  
「で、それで全部?」  
「うん。装備って言ったって、ボクは軽いのばっかりだしねー」  
「だよねえ。大した力にもならないし、せいぜいあたしらの盾になるくらいしか活躍しないもんね」  
「あはは……そうはっきり言われると、ちょっと傷つくな…」  
「だから、ほら」  
いきなり、フェアリーは何か細長い物を放り投げた。慌てて掴むと、それは極限まで強化されたグングニルだった。  
「それ、ほんとはあたしが使うつもりだったんだけどさ、あんたにあげる」  
「え……いいの?」  
「今時チャクラムもないでしょ。そりゃ、あたしが強化したやつなんだから使えなくもないだろうけど、明らかに威力不足でしょ」  
「……ありがと。それじゃ、もらってくね」  
それを背中に括りつけると、フェアリーは寂しそうな目でクラッズを見つめた。  
「何度も言うけど、絶対帰ってきてよね。じゃないと許さないから」  
「大丈夫。ボクだって、またここに帰りたいもん」  
「それならいいけどさ。でも……あ〜あ、せっかくあんたの新しい魅力に気付いたのにな〜」  
「え?」  
思わず聞き返したクラッズに、フェアリーは素早く顔を寄せ、頬に軽いキスをした。  
「あんた相手なら、少しは尽くすのも悪くないかな……ってね。ま、とにかく、お別れはうまく演出してやるから、心配しないでよ。  
また、みんなが帰ってくるまでは……あたしも、頑張るから」  
「うん、そうだね。頑張ろう。……フェアリー」  
「何?」  
「大好き、だよ」  
「やめてよ、恥ずかしいなぁ。それに、やっと吹っ切れたのに、別れが辛くなるでしょ。思ってりゃ十分だから、あんまり口には  
出さないでね」  
そう言われると、クラッズはおかしそうに笑った。  
「あはは、こういうのはいつも通りだね。やっぱり、ボクだと決まらないや」  
「それでいいのよ、あんたは。そのまま、変わんないでいてよね」  
「少しはかっこよく決められるようになりたいけどなー」  
「無いものねだりは良くないよ」  
「ひどいなぁ」  
二人は同時に笑った。別れを目前に控えた者同士とは思えない、いつもと同じような笑い声だった。  
 
翌日。四人はドワーフの部屋に集まっていた。というよりも、クラッズがその部屋にみんなを呼んだのだが。  
「みんな、本当にごめん。だけど……こうしてると、みんなのこと思い出しちゃって、辛くって…」  
そう切り出したクラッズに、フェアリーが食って掛かる。  
「つまり、何?あんたは自分一人が辛いから、他の仲間を捨てようってわけ?」  
「ち、違うよ!でも……いや、違わない……のかな…」  
「はっ、だったら最初から、そう言えばいいじゃない。わざわざてめえのこと良く見せようなんて思わないでさ!」  
二人の『喧嘩』に、セレスティアが慌てて割り込んだ。  
「もう、やめてください!これ以上、仲間同士で傷つけあうなんて……もう、やめてください…」  
「ご、ごめん…」  
「……ちっ、泣きゃ何でも済むってわけじゃないでしょ…」  
そうは言いつつ、フェアリーは気まずそうに目を逸らした。  
「その……ほんとに、みんなには悪いんだけどさ…。ボクは、その…」  
言い淀むクラッズに、ドワーフは悲しそうな笑顔を向けた。  
「気、使わなくていいよ…。私は、別に、気にしないから…」  
一瞬、クラッズはたじろいだ。しかし、そんな様子はおくびにも出さずに答える。  
「そういうわけじゃ、ないよ。ただ、その……少し、離れたいんだ…」  
「そっか…」  
ドワーフの目は、深い悲しみに満ちていた。その目を見た瞬間、クラッズはドワーフの体を抱き締めていた。  
「お、おい…?」  
「ほんと……ほんと、ごめん、ドワーフ…!一番辛いのは、ドワーフなのに…!」  
一瞬、フェアリーは拳を握った。が、さすがに状況が状況なので、そのまま見逃すことにした。  
「でも、絶対、帰ってくるから…!絶対に、戻るから…!」  
「……ああ。待ってるよ」  
その日、クラッズはみんなに見送られながら、どこへともなく去って行った。クラッズまでいなくなると、パーティがだいぶ静かになる。  
それからさらに一週間ほど過ぎた頃、フェアリーもいなくなった。  
「なぁんかさ、あたしとしては居心地良くないんだよね」  
フェアリーの言い分はこうだった。  
「そもそもさ、あんたらってあたしとは最悪に合わないんだよね。そんなとこに居続けるなんて、あたしには無理。だから、あたしも  
どっかぶらついてくるわ」  
それも確かに、理解できる話だった。そもそも、フェアリーはフェルパーとクラッズ以外の三人とは、相性はまったく良くなかったのだ。  
その二人がいない今、フェアリーの言うこともわからないではない。  
「おまけにさ、いつまでもまあ、葬式みたいな空気でさ。こんなとこいたら、あたしの気まで滅入ってくるっての」  
「そっか……あんたまでいなくなると、寂しくなるな」  
そう言い、寂しげに笑うドワーフ。フェアリーは大きな溜め息をつくと、その少し渇き気味の鼻をちょんと突いた。  
「それ!それが嫌だっての!いつものあんただったら、全身ぼっさぼさにして殴りかかってくるところでしょ!?そうじゃないから、  
調子狂うんだよね!」  
そこまで一気にまくし立てると、フェアリーは軽く息をついた。  
 
「……ま、とにかく。次会うときまでに、いつものあんたに戻っててよね。じゃないと、帰るべき場所に帰ったって実感ないしさ。  
それから、あんたらは絶対一緒にいてよね。あたしのパーティはここなんだから、帰る場所が無いと困るんだからね」  
好き勝手なことを言ってはいたが、その言葉は不思議と重みがあった。  
「なーに。他のパーティがつまんなかったら、すぐ帰ってくるって。いつんなるかわかんないけどさ、適当に待っててよ」  
「フェアリーさん…」  
ドワーフの肩を抱きながら、セレスティアが口を開いた。  
「何よ?」  
「あなたはどう思うかわかりませんけど……わたくしは、あなたも大切な仲間で、友達だと思ってます。ですから……その…」  
「あー、それ以上言わないで。背中痒くなる。鳥肌立つ」  
ぶっきらぼうに言って、フェアリーは部屋を出た。見送りに立った二人に、フェアリーは皮肉な笑みを浮かべる。  
「なぁによ。気に食わない奴がいなくなるから、喜んでお見送りに出てくれたってわけ?」  
「ち、違いますっ!そんな、仲間がいなくなることを……喜ぶなんて…」  
「ん……わかったわかった。黙って。それ以上言わないで」  
面倒臭そうに手を振り、フェアリーはくるりと背を向けた。  
「……帰ってくるからね」  
それだけ言って、フェアリーは振り向きもせずに去って行った。しかし、それは振り向けば辛くなるからだという理由であることは、  
二人とも何となく感じ取っていた。  
 
失われた者。その悲しみに沈む者。真実を隠し、失ったものを取り戻そうとする者。彼等を信じ、待ち続ける者。  
入学当初から一緒だった仲間達。今、その仲間達はばらばらになり、別々の道を歩み始めた。  
それでもただ一つ、切なる願いが、彼等の絆を繋いでいた。  
もう一度、パーティを元の姿に。  
それを、叶わぬ願いと思う者。叶えるべき願いと思う者。叶うと信じている者。  
願いへの思いはそれぞれ違っていても、彼等の心は確かに一つだった。  
それぞれの道で、それぞれの思惑で。  
まったく別々の場所で、一つのパーティの冒険が始まっていた。  
 

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