入学式から2週間。フェル子は悩んでいた。  
 パーティを組んでくれる仲間が見つからないのである。  
 
 フェルパーという種族の性質上、人見知りする上に  
輪をかけてはにかみ屋のフェル子。  
 入学式直後のクラスでの自己紹介では壇上でクラス  
メイトの視線を浴びた瞬間真っ赤に炎上して何も言え  
なくなり、昼休みに隣の席のクラ子が話しかけてきたときも、  
引きつった笑顔を返すのが精一杯だった。寮のルームメイト  
であるノームの女の子は、部屋に帰ってくるなり幽体離脱  
したかのように椅子に座ったまま動かない。フェル子と  
しては気を使わなくて済む有難いルームメイトなのだが、  
ノム子ルートのコネは期待できそうになかった。  
 
 (なんとかしなきゃ..)  
 今のうちであれば課題も難しくは無く、一人で学べる  
ことも多いが、経験とチームワークがものを言う冒険者  
稼業、このまま一人ぼっちではやがて落ちこぼれて  
しまうだろう。  
 内心焦りを感じ始めていたフェル子の目に、ビラが  
一杯貼り付けられている掲示板が映った。  
(生徒会掲示板..?なんだろう?)  
 よく見てみると貼り付けられているのは、学園の各種  
サークルの新入生歓迎のビラだった。  
(サークルかあ..同じ趣味の仲間を作るのもいいわね)  
一枚一枚吟味するようにビラを眺めるフェル子。  
「剣術部野球部水泳部..運動系は苦手なのよね」  
「猫耳同好会?モンスター料理研究会?うわぁ..」  
 勧誘のために工夫を凝らしたビラを眺めるのは楽しかったが、  
ふと我に返ってみると、今まで自分が無趣味だったことに  
気づかされた。  
(これでは友達の一人も出来ないのは当然ね..でも  
今変わらなきゃ、家を出てここへ入学した意味が無いよね。  
Change!!Yes, I can !!)  
 
 一人で盛り上がりガッツポーズをとるフェル子の視線の  
先に可愛い子猫のイラストが書かれているビラがあった。  
(人形劇団聖飢..II?..なんて読むのかしら?)  
見るからに怪しげな名前。でもイラストは可愛い。  
「可愛いお人形と楽しい劇で遊びましょう」  
「経験は問いません。人形遣い学科以外の人も大歓迎!!」  
「周辺の施設へ出向いて巡回公演をしています。腹話術や  
人形を使った手品もやります。人とのコミュニケーション能力を  
磨くチャンス!!」  
「新入生歓迎公演随時開催中!!」  
読み進めていくうちに好奇心を刺激されていくフェル子。  
(なんだか楽しそう..明日の放課後にでも見学に行ってみようかな?)  
 
 「今日のフェル子、楽しそうね。何かいいことあった?」  
翌日の放課後、ようやく普通に話せる仲になった隣のクラ子が尋ねてきた。  
「え?あ、そ、そう見える?べ、別に大したこと..無いんだけど..な..あはは..」  
「そう..でも笑顔が出るようになったのはいいことね。じゃ、また明日」  
クラ子と別れると、フェル子は逸る気持ちを抑えつつ人形劇団の  
活動場所である人形遣い学科の教室へ向かった。  
 入り口のドアの前でノックしようとして、いつも通りに固まるフェル子。  
(ダメよフェル子。この扉は私の未来。自分の手で開かないといつまで  
たっても変われないわ。私は出来る!!Yes, I can !!)  
 
 たっぷり三分間逡巡した後、意を決して扉を叩く。  
とんとん..  
「ししし失礼します。新入生のふぇ、ふぇ、フェル子です。けっけけ見学に..」  
言い終わらないうちに、ギギィィ..と無駄に重々しい音を立てて扉が開く。  
「いらっしゃ〜い!!」  
「ぎぃにゃあああああああ!!」  
 緊張でカチカチのフェル子を出迎えたのは、ハロウィンのかぼちゃのお化けの  
人形と、それを操る顔色蒼白黒色二角−いわゆるディアボロス-の女生徒だった。  
 「部長、いきなり驚かせちゃ駄目ですよw..ささ、どうぞ中へ。遠慮なく」  
部長と呼ばれた女生徒の後ろでは、副部長とおぼしき長身痩躯双眸紅玉  
-こちらもいわゆるディアボロス-の男子生徒が穏やかに微笑んでいる。その右肩では  
妖艶な和服姿の三毛猫人形が舌なめずりしながらフェル子に向かって手招きしていた..  
 
 「あわ、あわ、あわわわわ..」  
あまりの事態に言葉を失ったフェル子の手を引き、背中を押して椅子を勧める  
部員たち−もちろん漏れなくディアボロス-。  
「どうしよう..新歓公演は"13日の金曜日"の予定だったけど、フェルパーの女の子が  
お客さんだから"肥前鍋島化け猫騒動"にしないか?」  
「おおっ!!昨年の文化祭で最優秀賞を取った副部長の十八番じゃないですか!!賛成賛成!!」  
「うふふ。可愛いフェルちゃんね。そんなに緊張しないで。さあ、お茶をどうぞ」  
茶人形がカタカタと茶碗を運び、ジェイソン人形がナタで羊羹をぶった切る。その様を  
フェル子は椅子の上でガタガタ震えながら見つめていた。  
(あのイラストの可愛い猫ちゃんは?楽しい劇ってなに?手品と腹話術ってどこ?)  
 
 突然、カチカチと拍子木が打ち鳴らされ、部屋の照明が落とされる。  
「ただいまより、新入部員歓迎公演を始めます。演目はわが劇団伝統の十八番  
"肥前鍋島化け猫騒動"。ごゆっくりお楽しみください..」  
 舞台に一筋のスポットライトが当てられる。光の中では妖艶な和服姿の三毛猫  
人形がフェル子に向かってしなを作り流し目を送っていた...  
「い゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」  
..フェル子の中で何かが弾けた。  
 
 ディアボロス-冥界からの血脈を持つ種族。故に他の種族からは忌避される。  
魔法物理に精通し、「人形遣い」は彼らの特徴的な生業の一つである。  
クロスティー二学園人形劇団「せいきまつ」-人は影で「ディアボロ巣」と呼ぶ。  
 

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