その3.熱血のウォブル  
 
 懸念していたディアナたちと、ルーフェスたちの対面だが、予想に反して案外うまくいった。  
 「それでは、今後はパーティの仲間として、よろしくお願い致しますね」  
 「はぁ……こちらこそよろしゅぅに」  
 ニッコリ笑ってペコリとお辞儀するディアナの様子に、ルーフェスは呆気にとられたかのように反射的に頭を下げてる。  
 「……なぁ、ヒューイ」  
 ツンツンと脇腹をつつかれた。  
 「ん? どうかしたか?」  
 「自分、パーティのツレは中立属性のディアボロスや言うてへんかったか?」  
 「ああ。それが?」  
 「どこがやねん! どう見たって善属性のハーフエルフやないかい!」  
 「いや、頭にちゃんと角があるだろーが。それに生徒手帳も見せてもらったけど、確かに中立属性だったぞ?」  
 学園に入学すると支給される"生徒手帳"。一見ただの手帳に見えるこれは、実は歴としたマジックアイテムで、持主の体力・魔力・能力値といったパラメーターや属性その他がキッチリ数値化されてわかる代物なのだ。  
 「はぁ、さよか。世の中不思議と理不尽に満ちとるのぅ。あないなエエ娘が……」  
 確かに、世間一般の"ディアボロス"という種族に対する偏見からは、180度かけ離れたお嬢さんだよなぁ。  
 「……やらねーぞ。あの娘は俺ンだ」  
 「安心せぇ。ワイには既に心に決めた女性(ひと)がおるさかい」  
 む。それは確かに有難い。  
 ディアナみたいな優良物件だと、ほかの男性からもターゲットにされること間違いなしだが、やはり同じパーティに属しているというのは大きなアドバンテージだ。  
 その点、今んところ、ウチのパーティの男は、俺とルーフェスだけだからな。ルーフェスがライバルになる気がないというのは助かる。  
 ……待てよ。そうなると、6人目は女の子のメンバーを探すほうがいいってことか。  
 俺が「むむむ」と首を捻っている横で、グノーが、ルーフェスが連れてきた魔法使いと話をしている。どうやら旧知の間柄らしい。  
 「──しかし、まさか貴女と一緒に戦う日が来ようとは」  
 「ワシもお主とこんな形で再会するとは思いもよらなんだわ。まっこと、人間万事塞翁が馬よのぅ」  
 いやに古めかしい言葉遣いをしているのがルーフェスのツレの魔法使い。80歳を超えた皺くちゃのばーさん……ではなく、特注の学園女子制服を来た可憐なフェアリーの女の子だ。  
 身長はおおよそ俺の鳩尾よりちょい上、ヒューマンで言うと10歳児くらいか? フェアリーにしては大柄だけど、この種族の特徴か、いかにも可愛らしい美少女といった顔立ちをしている……ディアナには負けるけどな!  
 「ホホホ、言ぅてくれるのぅ若僧。まぁ、それも恋は盲目な年頃故、無理もなきことじゃが。お主がこのパーティのリーダーかえ?」  
 えーと、そう言えばリーダーとか決めてなかったよーな。  
 「わたしは、ヒューイさんでいいと思いますけど」  
 「──上に同じ」  
 「エエんとちゃうか。ちなみにワイはやらんで? 面倒そうやし」  
 「ふむ。婿殿がよいと言うならワシにも異論はないが」  
 いかにもおまいら適当だな、ヲイ……ってムコぉ!?  
 「ああ、そう言えば自己紹介がまだだったかえ」  
 ニヤリと微笑むフェアリー少女(?)。いつもの浮遊をやめてフワリと床に降り立つと、スカートの裾(特注だけあって膝下2センチくらいの長さがあるのだ)をつまんで、優雅に一礼する。  
 「我が名はフェリア。フェリア・タイターニア・イオランテ・ル・フェイ。そこなルーフェスと許婚の契りを交わせし者よ。以後お見知りおきを」  
 ええっ!? 許婚って……フェリアの娘さんとかとじゃなくて本人とかよ?  
 「──そこが突っ込みドコロなのですか?」  
 や、だってグノーさんと旧知の仲ってことは、このロリっぽい妖精さんも見かけによらず、相応の……ヒィッッ!  
 「洞察力はなかなかじゃの。しかし、淑女の年齢を詮索するのは感心せぬな」  
 「御免なさい、もう言いません、勘弁してください!」  
 バッと床に這いつくばって土下座する俺。ああ、我ながらなんたるヘタレ。  
 いや、だって、あの時のフェリアの視線からは「そんなに死にたいのか、虫ケラ?」って殺気がビンビンに伝わってきたんだぜ?  
 国レベルで二桁も習得者はいないと言われる超上級魔法イベリオンでもブチかまされるかと思った……。いや、そんなわきゃないんだが。  
 
 「ふむ。危険に対する勘もまずまずか。確かにリーダー向きの逸材かもしれぬな」  
 え、えーと、もしかして、習得なさってるんでしょーか、イベリオン?  
 「安心せい。今のワシは一介のレベル1魔法使いに過ぎぬ。それ相応の力しか振るわぬよ。でなければ婿殿の鍛練にならぬでな」  
 ……たはは、使えるんですね、やっぱ。  
 「──(ゴホン)聞いてのとおり、フェリア殿は熟練の呪文使いです。先ほどおっしゃられたように、自らに枷を課しておられるようですが、それでも私たちの冒険の大きな助けとなってくださることでしょう」  
 あのグノーが"殿"づけ&敬語! やっぱり、凄い人、いや妖精ってコトかぁ。  
 「いやいや、グノーよ。ワシもこのパーティの一員となったからには仲間として対等に話してもらって構わぬよ」  
 「──そ。じゃあ、よろしく」  
 いきなり軽いなぁ、ヲイ!?  
 ま、いーや。一連の騒ぎのおかげで、まだ一度も冒険に出てないにも関わらず、この5人のあいだに妙な親近感ができたみたいだし。  
 そう思えば、俺が土下座した甲斐も……いや、やっぱディアナの前でああいう醜態をさらしたのはマズいか。  
 チラリと彼女の方に視線をやると、きょとんとした顔で俺を見返し、ホニャッと微笑ってくれた。  
 ああ、ちくそー、メンコイなぁ、この娘は!  
 「まぁ、フェリアにあんな暴言吐いて黒焦げにされんかっただけでも、御の字ちゃうか」  
 「ルーフェスか。そーすると、お前さんが言ってた女性って……」  
 「お、おぅ、そぅや! ま、フェリアはワイのこと気に入ってくれとるみたいやけど、現状では釣り合わんコトは百も承知しとるさかいな」  
 少しでも彼女の隣りにいるのにふさわしい男になるために、この学園に来たのだそーな。  
 確かにロリババアで巨乳美人(純粋な身長比率で考えると、人間換算でEは堅い)な超一流の元賢者を嫁さんにするのは、一介のフェルパー風情では荷が重そうだもんな。  
 俺としても、冒険で腕を磨きつつディアナのハートをげっちゅうwすると言う目的があるのだから、その気持ちはわからんでもない。  
 「がんばろーぜ、お互い!」「おぅ!」  
 ガシッと、腕を握りあう俺達。  
 「「めざせ、"冒険者として功を為しつつ美人で可愛い嫁さんをゲットするぜ"計画達成!」」」  
 ふたりの漢の心が通い合った瞬間だった。  
 「ねーねー、アレ、何してるのかな、グノー?」  
 「──ま、やる気を出してくれたのはいいことですしね」  
 
 * * *   
 
 「あのぅ、ところで、あとパーティにはあとひとりメンバー枠があるわけですけど、どうしましょうか?」  
 それなんだよなぁ。  
 現状、普通科の俺が前に出るとしても、格闘家・普通科・レンジャー・アイドル・魔法使い……という構成だから、できればもうひとり前衛がほしいところだ。  
 お、鴨ネギ来たーーーッ!  
 「なぁ、オリーブ、この時間でココにいるってことは、ひょっとしてまだパーティ……」  
 「ああ、何だパーティメンバー探してたんだね。残念でした、私はもう別のパーティに入ってるよん」  
 チッ、そう上手くはいかねーか。  
 「あ、でも6人目になる予定の生徒の到着が遅れててね。ここ2、3日は暇だから、そのあいだ1、2回なら冒険につきあってあげてもいいよ?」  
 「本当か!?」  
 それでも助かるな。  
 「そやな。幸いオリーブも普通科みたいやし、前衛は務まるやろし」  
 「うむ。パーティのコンビネーションを確かめつつ、真に必要な人材を模索するには丁度よいかもしれぬのぅ」  
 ルーフェスたちも頷いている。  
 「いいんですか、オリーブさん?」  
 「いいっていいって、ディアナ。困った時はお互い様だし。ま、その代わりパーティ抜けるときは稼ぎの6分の1は分けてね」  
 そりゃまぁ、妥当な意見だよな。もっとも、レベル1パーティが1、2度冒険に行ったからって、大した金は稼げんだろうけど。  
 
 「──でしたら、その分は前払いというのはいかがでしょう?」  
 ? グノーさん? いや、ウチのパーティ、そんなにお金持ってないでしょ。  
 「ええ、現金は。しかし、冒険に出るにあたって私から皆さんにお渡ししようと思っていた物がありますので」  
 いつぞやのカバンから、次々に武器防具を取り出してテーブルの上に並べるグノーさん。  
 「──こちらのメイジクラブ+2はルーフェスさんに。カーボンマイク+4はアイドルのディアナ専用ですね。私は皮の鞭とブーメランでいいでしょう。フェリア用には、ライトスリングでよろしいですか? 生憎ぱちんこ弾しかありませんが」  
 「うむ。武器を持って戦うのは久方ぶりゆえ、あまり助けにはならぬと思うがの」  
 まぁ、イベリオン使える賢者だったんなら、魔法唱えるのが普通だよな。  
 「──では、オリーブさんには、この猛毒針のメイスでいかがです? 命中にマイナス補整がないぶん、使いやすいと思いますけど。あと報酬はコレを現物支給ということで」  
 「ええっ、いいの!? でも、それって結構高いんじゃあ……」  
 「──武器は使ってこそナンボ、ですから」  
 ニッコリ笑うグノー。  
 普段が無表情なだけに笑うと美人度が一気にアップするんだけど、この人の場合、何か企んでそうで怖いんだよなぁ。  
 「え、えーと、グノーさん、俺には何かないのかな?」  
 「──ヒューイさんの場合、素早さを活かさない手はありませんね。コレなんていかかでしょう?」  
 と、グノーが差し出したのは……おもちゃの鉄砲!?  
 「わーい、鉄砲だぁ、バキュンバキュン……って、アホかぁ!」  
 「──お気に召しませんか?」  
 「いや、その、グノーさんにこういう冗談は似合わないと思うんですが……」  
 それともいじめ? 妹分を取られることに危機感を覚えた小姑のイビリ?  
 さすがに対応に困っている俺の袖をクイクイッと引っ張るディアナ。  
 「ヒューイさん、ヒューイさん。それ、玩具みたいに見えるかもしれませんけど、れっきとした実用武器です」  
 「いいっ、マジで?」  
 「ええ、本気と書いて"まじ"と読むくらいマジです」  
 おそるおそるグノーの方を振り返ると、意外なことに怒ってはいないようだ。  
 「──初期の遠隔攻撃が可能な武器としては、単発の攻撃力が比較的高めの銀玉鉄砲です。弾丸としては鉄の弾を用意しました。お気に召しましたでしょうか?」  
 穏やかに、優しげにさえ微笑むグノー。  
 こ、こぇ〜〜っ!  
 「は、ハイッ、喜んで使わせていただく所存です!」  
 将来ヒューマンの専門職のガンナーに就くことを見越しておくなら、今のうちから銃に慣れとくのはいいことだよな、ウン。  
 「──それから、お古ジャージの上も6人分用意してありますので、冒険の際には着てきてください」  
 至れり尽くせりだッ!  
 にしても、これだけの武具を、一体どこから……。  
 「──いい女には秘密がある、ということで納得していただければ」  
 わ、わかったから、皮の鞭片手に妖しく微笑まんでください! 心臓に悪い。  
 
 ところで、隊列についてはどうしたもんかね。  
 「うむ。その点については、ワシから提案させてもらおうか」  
 フェリアの意見は確かに武器の特性を考えれば、納得できる合理的なものだ。  
 しかし……。  
 「何で俺が4番手なんスか!?」  
 フェリアの言った隊列は「ルーフェス・オリーブ・ディアナ・ヒューイ・グノー・フェリア」という順番だった。  
 「防御と体力、および武器の特性を考えた順番じゃな」  
 「あ〜、確かにヒューイ、体力がえらい低いしのぅ」  
 「同じ普通科で女の私より、HPないもんね」  
 「──恨むなら、1クレスポ半しかない己の生命力の低さを恨むべきかと」  
 何だい、みんなして言わなくていいじゃんか! とくにグノーさん、その謎の表現はなぜかこーグサッとくるんでやめてください。切なくなる。  
 「あの……ヒューイさん、わたし頑張りますから。それにわたしの使うマイクって近接武器ですし……。  
 ヒューイさんの銃は、後列からでも届くんですよね? それでわたしが歌ってるあいだに、バンバン敵をやっつけちゃってください」  
 うぅ、ディアナちゃんは、やっぱりいい娘だなぁ。  
 ──後日、生徒手帳を見て、イカサマしてるであろうグノーやフェリアはともかく、オリーブはおろかディアナにまで体力面で遥かに負けてることを知って、さらに落ち込むハメになろうとは、その時の俺は気づいていなかった。  
 
 * * *   
 
 てなワケで、いろいろあったものの、早速冒険に出かけた俺達だったが、いや、さすがに最初から装備が充実してるとスゴいわ。  
 考えてみりゃあ、普通の初心者パーティだと、全員ダガー&学園制服装備ってのがあたりまえなんだから、当然後衛は通常攻撃には参加できない。  
 ところが、俺達は6人全員が攻撃可能。それもダガーなんてメじゃないレベルの攻撃力を備えてるのだ。  
 もっとも、グノーに言わせると、この程度の装備はすべて最初の場所で揃うものらしいけど。  
 学園近くにある「初めの森」では、特定の場所に現れるダスト以外に怖いものなし!  
 全体攻撃してくるダストだけはちょっと厄介だけど、多くてもせいぜい4体くらいしか現れないから、フェリアの魔法(ファイア)で減らしつつ、残りのメンツでタコ殴りにすればいーし。  
 ふつうなら、レベル1魔法使いなんて3、4回もファイア使えば魔力が切れるんだが、なにせ、フェリアは最低でもレベル36以上の(そして多分、推定レベル50は堅い)賢者から転科した魔法使い。  
 毎ターン、ファイアを使ってもMPがタプンタプンに余りまくってる。当然ヒールもいくらだってかけられるわけで……。第一、いざとなったらグノーでさえヒールどころかヒーリングが使えるんだもんなぁ。  
 故に。一度も学園に帰ることなく、ほんっとに丸一日=24時間、初めの森で戦い続けてました、ハイ。  
 ええ、おかげさまで、いちばん経験値が多く必要なはずのアイドルのディアナまで、レベル3に上がることができたけどね。  
 当然のことながら「レベル1」のフェリアやグノーもレベルアップ! ……ア〜ンド、MP全快。  
 ……正直、「レベルアップしたときに魔力が回復する」というこの世界の法則を定めた神にケンカ売りたくなったよ、ったく。  
 「うがーーーーーーっ! も〜イヤ! もぅ、触手生やした木も、ピノキオモドキも、デブいカエルも見たくな〜い!!」  
 と、オリーブがいつものカンシャクを爆発させた時、思わず「勇者降臨!」と褒め讃えかけたくらい。  
 まぁ、さすがのフェリアたちも、無理言って参加してもらったゲストをこれ以上引き回すつもりはなかったようで、そのまま学園に帰還とあいなった。  
 「よかった……ホントにオリーブが入っててくれて……よかった!」  
 「おぅ……いくら、魔法で体力回復して、モンスターが落とす生ハムやらおにぎりやらで腹は満たせる言うても、やっぱ寮の学食で晩飯食うてベッドで眠りたいワ」  
 俺とルーフェスが涙を流してオリーブの両手を握り、感謝の意を示したことは言うまでもない。  
 「いや、私もそれなりに修行になったし、武器防具のほかに消費アイテムをいくつかもらえたからいいんだけどね……」  
 苦笑するオリーブ。  
 「でも、アンタたちこれから大変よ? 正式メンバーが加入したら、あのふたりのMPが続く限り、引き回されるんでしょ?」  
 !!  
 思わずorzな姿勢になる男ふたり。  
 「アハハ、まぁ、頑張ってね。その分成長も早そうだし、いいじゃない」  
 
 * * *   
 
 そして、翌日からは6人目のメンバー探しと平行して冒険と言う名の特訓が始まったワケだ。  
 幸いパーティが万全でないことを考慮してか、最初の時みたいな強行軍じゃなくなったものの、それでも一日の3分の2近くは冒険に行ってる計算になる。  
 その合間に、依頼を受けてダンテ先生をボコしたり(いや、さすがに俺たちはヤられちまったんだけど、グノーとフェリアが2ターンかけて魔法でフクロにしたらしい)、変態性マッチョや怪しいマッドドクターの依頼をこなしたり、校長のお使いに行って来たりもした。  
 それにしても、オリーブの腐れ縁の幼馴染だとか言うジェラートって娘と初めて会った時は、てっきりヤツが学園まで追って来やがったのかと思って、腰抜かしそうになったぜ。  
 いやぁ、世の中によく似た人間が3人はいるって言うけど、種族の壁さえ飛び越えて、見た目どころか声や性格までソックリな女が身近にいようとは……世間って、広いようで狭いんだなぁ。  
 ま、コッパのドリンク剤事件は、ありゃ完全に自業自得だよな。俺と違って甲斐甲斐しい世話焼きな幼馴染がいるクセに、その娘をシカトした罰だ、ワハハハ。  
 でも、諸々のアクシデントの結果、ディアナとの距離も結構近くなったんじゃないかと思うんだ。  
 具体的には、初日が「ほとんど"友人"に近い"ボーイフレンド"」だとしたら、一週間経った今は「限りなく"恋人"に近い"ボーイフレンド"」くらい?  
 
 「ほほぅ、そのたとえに、なんぞ根拠はあるんか?」  
 いや、何と言うか、漢の勘?  
 「あ〜、女の勘とちごて、そりゃ全然アテにならんワ」  
 む! それじゃあ聞くけど、ルーフェスの方はどうなんだよ?  
 「ふ……」  
 あ、コイツ、鼻で笑いやがったな!?  
 「なんだかんだ言うて、ワイらは許婚やからのぅ。そりゃもう、暇を見つけては、超らぶらぶでえろえろやで?」  
 ら、らぶらぶでえろえろ……コイツがヘンな見栄張ったりしない奴だってことはよーく知ってるだけに、多分嘘じゃないんだろう。くそぅ、いいなぁ、何か負けた気分だ。  
 ……ん? 待てよ、ラブラブはともかく、エロエロの方は、まさかこの部屋でサカったりしてないだろーな?  
 「ああ、安心せぃ。ニャンニャンする時は、いつもフェリアの部屋つこぅとる」  
 そ、そーか。フェリアと同室の娘には悪いが、まぁ、がぶりんちょに噛まれたとでも思って、あきらめてもらうしかないな。  
 「まぁ、大概は気ぃ利かせて出てってくれるしのぅ。いっぺんだけ昼寝しとる横でヤったこともあるけど」  
 羞恥プレイ!?  
 「いや、さすがにフェリアが嫌がってな。結局念入りにスリプズかけて、目ェさめんようにしてからシたんや」  
 素直に別の場所捜すか我慢しろよ、コンチクショウ!  
 しっかし、フェリアはいくら妖精族としては長身っていっても、人間換算で10歳くらいの体格だろ。キチンと出来るもんなのか? いや、答えたくないんなら、いーんだが。  
 「……なぁ、ヒューイ。女のアソコからは、赤んぼの頭が出てくるんやで? それに比べたら、ワイの貧相なモンくらい、どないでもなるワ」  
 自分で貧相とか言うなよ、哀しくなるだろ、男として!  
 「そやけど事実やしな。成人フェルパーの平均チン長からしたら、たぶんひと回り小振りやと思うけど、でも、そのお蔭で、今フェリアとHが存分に楽しめとるんや。何でも大きければエエっちゅうモンとちゃうで?」  
 おお、な、何か、ルーフェスがひと回り大きく見える! ――言ってるコトは真逆だけど。  
 「で、お前さんの方の進捗具合は、どやねん? キスくらいはしたんか? それともまだ手も握れんのか?」  
 「ちょ、バカ、手くらいいつも繋いでるって。キスだって、まぁ、2回ほど……」  
 「お!? ヘタレかと思たら、意外にやるやんか」  
 ……ディアナが別れ際に頬っぺにチュッてしてくれただけだけど。  
 「やっぱり、そないな所やと思ぅたワ。なぁ、ヒューイ、ちっとは男らしくリードしたりや。あのテの娘は、どちらかて言うたら、男に頼りたいタイプなんとちゃうか?」  
 うぅ……そりゃ、俺だってわかってるんだけどな。強引に出て嫌われたって思うと……。  
 「――甘いですね。ナイトメアが落とすハニートーストより大甘です」  
 わっ、グノーさん、いつの間に……と言うか、どこから?  
 「ドア、開いた音、せんかったんやけど……」  
 「――気にする必要の無い些細な事です」  
 いや、気になるよ! レンジャーの盗賊技能をこんなところで無駄に駆使しないでよ!  
 「――それはさておき。ヒューイさん、貴方は堕落しました!」  
 ビシッと俺に人差し指を突きつけるグノー。  
 「あぁ、堕落て言うたら、アレか。フェアリーとかセレスティアが飛び過ぎて疲れてた時に……」  
 そりゃ、ついら……  
 「――ベタな漫才はノーセンキューです」  
 ああっ、せめて最後まで言わせて!  
 「――ヒューイさん、貴方が私達と初めて会った時のことを思い出してください。あの時、貴方は、溢れ出る煩悩のままに、いつかディアナをモノにするという妄想を大きな声で口走ったではないですか!」  
 そーいう言い方されるのは心外だが、確かに否定はできないかも。  
 「――あの時の貴方は、若さと希望に満ちていました。  
 一人前の冒険者を目指しつつ、「オレはディアナと添い遂げる!」と言い切る貴方の迷いの無い瞳に、私は「嗚呼、この人になら大事なディアナを託せる……多分託せると思う……託せるんじゃないかな……一応婿候補に入れておこう」と思ったのです」  
 むぅ、信頼されてるんだかいないんだか。  
 まぁ、シスコン(って言うのか、姉貴分と妹分の場合も?)傾向の強いグノーに、それなりに認められてるのは、一応確からしい。  
 
 「――それが、ちょっと冒険者レベルが上がって、ディアナに「お友達から始めましょう」と微笑まれたからって、当初の野望を忘れて牙を無くした狼、いえ駄犬になり下がるとは……」  
 「ヤレヤレだぜ」ってな感じに肩をすくめて、いかにも「ハンッ」と言わんばかりに軽蔑した視線を向けてくるグノー。  
 M属性の強い人間なら、これだけの美女の蔑みの眼差しにゾクゾクくるのかもしれないが、生憎、そーいう趣味は俺にはない……と思う。  
 「わ、わかってますよ。ただ、この一週間、学園でも、冒険の準備と身体を休めるのに忙しくて、ディアナちゃんとデートとかしてる暇なんかなかったでしょう?」  
 「――デートする暇なんてものは何とかやりくりして作るものです。そこの万年発情豹男のように」  
 「ヒドっ! 姐さん、キッついワ〜」  
 いや、しかし、ルーフェスの奴は、あれだけハードな冒険の合間を縫って、フェリアと逢い引きしてんだよな。  
 そのバイタリティと甲斐性は、確かに見習うべきかもしれん。  
 「――とは言え、生後15年間にわたって色恋沙汰と無縁の生活を過ごしてきたヒューイさんに、海が見える素敵なレストランにエスコートしたあと、夜景の綺麗なホテルでの大人の一夜に繋げる素敵コンボを使いこなせるとは思っていません」  
 わるぅござんしたね、ヘタレで。  
 「――そこで、このチケットを進呈しましょう」  
 なになに……「クロスティーニ学園 カフェ&バー 新装開店招待券」?  
 「――幸い、明日は一日休養日です。とりあえず、ヘタレ屋なヒューイさんでも、それと勉強会を口実にすれば、ディアナをデートに誘い図書館で勉強→カフェで夕食→展望台で☆を見る→気分を盛り上げてA、状況次第でB……という流れに比較的容易に持ち込めるかと」  
 いや、そりゃ、有り難い話ですけどね。いーんスか? ディアナの"保護者"として。  
 「――そうですね。気分次第でCにまで雪崩れ込みたくなるかもしれませんが、やはり女の子にとって"初めて"は特別ですから、よく考えていただけると助かります。  
 確かに星空の下で……というのも悪くありませんが、明後日は通常どおり冒険に出かけるのですから、ディアナの歩行に支障をきたすような真似は自重してください。小豆とお米の買い置きもありませんので」  
 ヲイヲイ……。  
 ん? てことは、俺がディアナと初エッチできるのって、休日前の晩に限るってことかYO!  
 
 
 <つづく>  

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