『クロスティーニ学園せい春日記』  
その4.星空の下のディスタンス  
 
 「ん〜、ちぃーーっと早過ぎたかなぁ」  
 ルーフェスやグノーと話した翌日、俺は学園の図書館の前のベンチでデートの約束をしたディアナが来るのを待っていた。  
 じつのところ、ヘタレと言われている俺だって、この一週間何もしなかったワケじゃない。  
 冒険の合間に学園に帰ってきた時は、必ず夕食にディアナを誘ったし、数少ない座学の授業時も教室で隣りに座るよう努めた。ダンジョンで休息する際も極力彼女に話しかけるようしていた。  
 我ながらいぢましい努力だが、幸いディアナもそれを嫌がることなく、むしろ嬉しそうに受け入れてくれてた……と思う、たぶん、メイビー。  
 実際、昨日と一昨日の晩は、夕飯後に寮の部屋まで送った時は、軽くだけどほっぺにchu!とかしてくれたし。  
 ニヘラ〜  
 ヤバい、つい顔がニヤケてしまう。この緩みきったダラシない顔をディアナに見せるワケにはいかんだろう。うむ、ヒューイよ、紳士たれ!  
 「あのぅ、どうかしたんですか、ヒューイさん? ひとりでガッツポーズなんかして……」  
 ……とか言ってるウチに、ディアナが来ターーーーーッ!?  
 「あ、いや何でもない、何でもない。ちょーっと気合い入れてただけだから」  
 「? それならいいんですけど……あのぅ、もしかして、お待たせしちゃいました?」  
 「いやいや、俺も今来たところだから」  
 おぉう、デートで男が言いたい定番台詞のひとつを、よもやこの俺が口にする日が来ようとは!  
 そう言えば、私服着てるディアナを見るのは、初対面の時以来だな。  
 学園では大概制服だし、冒険中はアイドルの正装……の上から防具付けてるし。  
 偶然なんだろうが以前俺が夢に見たときみたいな薄水色のワンピースの上に、ブルーのサマーセーターを羽織っている。足元は編み上げのサンダルだ。  
 「や、その……気の利いた言い回しができなくて申し訳ないんだけど、ディアナちゃんの私服姿って、新鮮な感じがするな。よく似あってる」  
 「え、そ、そうですか? ありがとうございます……よかったぁ」  
 ポッと照れながらも安堵の表情を浮かべるディアナ。  
 「?」  
 「あ、いえ、休日とは言え、学園内ですから制服を着るべきかとも思ったんですけれど……グノーがこれを着てけって」  
 (グノーさん、GJ! やるときゃヤルじゃん!)  
 心の中で密かにノームの女性に感謝しつつ、俺は彼女と共に図書館に入った。  
 
 一応、今日は魔法に関して、色々調べることになっている。  
 専門職ほどではないにせよ、普通科の俺もいくつかの魔法が使える(と言っても、まだヒールとファイア、アクアくらいしか覚えてないけど)し、アイドルの彼女は歌魔法を唱える……つーか歌うのが本業だからな。  
 それに、今後転科するときのことも考えておかないといけない。  
 「じつは、レベル9か10になったら、転科するつもりなんです。その頃になったら、魔力も相応に成長してると思いますし、わたしたちのパーティって、生命の歌の援護もあまり必要ないですから」  
 「まぁ、確かに"チート魔法使い"と"なんちゃってレンジャー"がいるしなぁ」  
 フェリアは賢者呪文を全修得したうえでの今さらの魔法使いだし、グノーに至っては普通科だけでなく錬金術師の経験もあることは間違いない。あのアイテムの数々は、往時に作ったものの残りだろう。  
 「ええ、多分……どうやら、パーティ用とは別に個人でも倉庫持ってるみたいですし……」  
 ゲッ……どんだけ在庫抱えてるんだよ!?  
 「まぁ、グノーもフェリアほどじゃないにせよ、過剰に攻撃魔法で出しゃばる気はないみたいだけど。錬金術師って本来攻撃魔法が主体だよな?」  
 おそらく、俺達ヒヨッコに実戦経験を積ませるのが狙いだろう。やれやれスパルタなおねーさま達だこと。  
 「それで、ディアナは将来何になるつもりなんだ? ……おっと、"お嫁さん"は別にしてな」  
 「ふぇっ!? ど、どうしてわたしの夢を知ってるんです?」  
 あー、やっぱりな。ディアナみたいな娘なら、子供の頃から一度は憧れると思ったんだ。  
 「ま、そっちの方の夢は、ディアナに異論がなければ、俺が必ずかなえてやるからさ」  
 「ほ、本当ですか!?」  
 真っ赤になって、唐突にガタンと椅子から立ち上がりかけるディアナ。休日なんで、図書館内にはさほど人はいなかったけど、それでも周囲の視線が集中する。  
 「こらこら、館内は静粛に、だぜ」  
 「あ……すみません」  
 すごすごと座り直すディアナに、俺も幾分声を落として尋ねた。  
 「でも、一体どうしたんだよ。俺の気持ちはディアナちゃんには事ある毎に伝えてるはずだし、今さらだと思うけど?」  
 「その……ですね。わたしの夢って、"花嫁さん"というか……正確には、その"お母さん"なんです」  
 「? まぁ、ある意味、似たようなモンだよな。普通、お嫁さんになったその次は順当にいけば母親になるもんだし」  
 でも、わざわざこだわるってコトは、きっと"お母さん"に何がしかの思い入れがあるんだろうな。  
 そう言えば、グノーはディアナの母親の友人――正確にはディアナの母親がグノーの恩人、なんだっけか?  
 「いえ、ですから……お母さんになるってことは、当然わたしが子供を産むってことですし……」  
 ?? まぁ、養子をひきとるとかしない限りは、そうなるわな。   
 「そのぅ……そこから連想して、自分が妊娠してる場面まで想像しちゃって、相手は誰かなって……」  
 ! あ〜、やっと理解した。ごめんな、鈍くて。  
 「で、俺が旦那で、もしかしたら"そーいうこと"をしてる場面まで、想像しちゃった?」  
 「きゃーきゃー、い、言わないでくださいぃ〜」  
 両掌で頬を押さえて顔を背けるディアナは、顔どころか頭や首筋まで真っ赤っかだ。  
 おっとり落ち着いた娘だと思ってたけど(そしてそれも決して間違いじゃないんだけど)、たまにこういう歳相応の仕草を見せられると、一段と萌えるなぁ。  
 「いやいや、俺としては未来の伴侶候補として想定してもらっただけでも感謝感激だよ。でも……もしかしてディアナちゃんって、意外にエッチ?」  
 「はうっ!」  
 おろろ、机に突っ伏しちまったか。  
 まぁ、これ以上からかって嫌われたら元も子もないよな。  
 俺は笑って謝罪すると、ちょっと早めだったけど、招待券をもらったカフェバーに行くことを提案した。  
 
 グノーおススメのカフェバーは、俺達がいつも使っている学食とはちょうど校舎はさんで逆の方角にあった。  
 新装開店というだけあって、なかなか混み合っていたけど、招待券を持っていた俺達は、さほど待つこともなく店内に通される。  
 「へぇ、なかかな雰囲気のいいところだな」  
 「ヒューイさんは、こういうところによく来るんですか? 実はわたし、初めてで……」  
 ああ、ちょっと落ち着かないのはそのせいか。いかにも保護者のグノーが過保護そうだしなぁ。  
 「まぁ、俺も下町の酒場くらいしか経験ねーけど。こういうオシャレな店は初めてだよ」  
 とは言え、しょせんは学園付属の飲食店。規模からしても、たぶん教職員相手がメインなんだろうけど、一部の強いアルコール類以外は、生徒にもちゃんと出してくれるみたいだ。  
 もちろん、健全安全好青年たる俺は、ディアナを酔いつぶして「お持ち帰りぃ〜」とかそういうやましいコトは一切考えてない……ほ、ホントですヨ?  
 第一、ほら、俺の部屋にはルーフェスもいるしさ。  
 
 ――「そや、ヒューイ。今晩ワイはフェリアんトコ泊まるさかい。鍵かけといてもらってエエで」  
 ――「またか。同室の娘のコトもたまには考えてやれよ〜」  
 ――「ああ、大丈夫や。その娘の方も、今日は彼女のトコ行くらしいさかい」  
 ――「そっちもか! ……ってか、"彼女"!? レズっ娘かよ!!」  
 
 出がけにルーフェスと交わした会話が、脳裏に甦る。  
 や、でも、ディアナが帰んないと、グノーが心配して怒鳴り込んでくるかもしれないし……。  
 
 ――「――ヒューイさん。唐突ですが、私、本日は生理が重いので保健室のお世話になる所存です」  
 ――「いやいやいや、アンタ、ノームでしょうが! 擬体の身で生理って……」  
 ――「――知らないのですか? 最近の擬体は進んでいますから、さほど生身と変わりませんよ。切れば血が出ますし、頭叩けば気絶します。最高級品なら、生理・妊娠・出産までひととおりエミュレート可能です」  
 ――「ウソ〜ん!?」  
 ――「……ああ、そう言えば、この気分の悪さは、生理ではなく悪阻かも……あの晩、私が「ら、らめぇ、膣内に出しちゃらめぇ〜! 妊娠しちゃうぅ〜」と言ったのに、ヒューイさんがいっぱいいっぱい注ぎ込むから……ポッ」  
 ――「記憶を捏造するなーーーッ!!」  
 
 ヤな記憶も思い出しちゃったぞ、ヲイ。  
 いやいや、こういう時こそ、男の甲斐性が問われるのだ!  
 「あ、ウェイトレスさん、俺にはエールを。彼女には甘めのカクテルをお願い」  
 や、口当たりがよくて飲みやすいと思ったからです! 他意はないッ!  
   
 そして1時間後。  
 ……ごめん、ディアボロスの肝臓、ナメてた。  
 すでに10杯以上グラスを重ねてるのに、ディアナは、ほのかに頬が赤いくらいで、いっこうに酔った気配がない。  
 人間、悪いコトはできんとゆーことだな、ウン。  
 ま、そもそも酒の勢いを借りようと言うのが間違いか。  
 当初の予定どおり、展望台へと行ってイイ雰囲気に持ち込んで、今日のところは何とかファーストキッスまで漕ぎ着けるというコトを目標にしよう。  
 そもそも、俺はディアナの心が欲しいんだし……いや、身体がまったくいらないと言うコトもないんだけどさ。ホラ、わっかいオトコノコですから。  
 それでも、ディアナの気持ちを傷つけてまで、この子を無理やり抱こうとは思わない。  
 お、今、俺ちょっとカッコいいこと言った?  
  ……などと心の中でひとり漫才しつつ、俺は彼女を「星空の見える展望台」へと誘ったのだった。  
 
 * * *   
 
 「わぁ、ホントにすごくたくさん星が見えるんですね。綺麗……」  
 デートコースの〆としては陳腐過ぎるか? とも思ってたんだけど、存外ディアナは喜んでくれた。  
 それに、正直俺も、学園裏手の展望台から見える光景にはちょっと圧倒されていた。  
 そこそこ大きめな町育ちの俺にとって、こうしてほぼ360度全天の星を暗がりの中で見た経験は、ほとんどなかったからだ。  
 初めの森での冒険を始めてからも、夜空を見るどころじゃなかったし。  
 「ああ、ホントにキレイだな……」  
 だからそう口にしたのは追従なんかじゃなく間違いなく本心だ。  
 もっとも、その対象が、数多の星々に対してなのか、あるいは三日月と星を散りばめた夜空を背景に立つディアナに対してなのかは、自分でもわからなかったけれど。  
 「……あのぅ、聞いていい事かわからないんですけど、ヒューイさんのご両親って健在なのですか?」  
 「ん? ああ、話したことなかったっけ? 父母揃ってピンピンしてるよ。いくつになっても落ち着かない親どもだから、バカ息子がいなくなって、今頃第二の新婚気分でも満喫してるんじゃないかね」  
 「仲がよろしいんですね。何をなさってるんですか?」  
 「元々はそこそこ腕利きの冒険者らしい。まぁ、現役時代に稼いだ金が相応にあるし、今は何か厄介事が起こって頼まれれば仕事するってスタンスだけどな」  
 それでも、一度"仕事"に出れば、普通の市民の家族4人が余裕で半年は遊んで暮らせるくらいの金を稼いでくるんだから、流石と言うべきなんだろう。  
 学生とは言え自分も駆け出し冒険者の端くれになったことで、かえってその凄さがわかるようになった……少々癪だけど。  
 「あ、もしかして、結婚したあとの舅と姑のことでも気にしてる? 大丈夫、親父もお袋もディアナみたいないい娘がドラ息子の嫁に来てくれたら、大喜びだって」  
 「もぅ、気が早過ぎますよぅ!」  
 クスクス笑いながらも頭からは否定されなかったので、内心ガッツポーズな俺。  
 「……わたしの母のことはちょっとだけお話しましたよね」  
 「うん、確かディアナちゃんが10歳の時に亡くなったんだっけ」  
 それ以来、グノーが母代わ「──あ・ね・が・わ・り、です」……お姉さん代わりになって、一緒に暮らしてきたらしい。もっとも、グノー自身との面識は、それ以前からあったらしいが。  
 「母が亡くなる直前に打ち明けてくれたんですけど、わたしには父がいたんだそうです」  
 まぁ、そりゃ処女懐胎でもない限り、父親はいるよな。……ん? そうか。「いた」のか。  
 「はい。ずーっと以前、わたしが生まれる前に亡くなったんだそうです。ただ、父は、ディアボロスではなくエルフ……いえ、ハーフエルフだったんです」  
 「! こう言っちゃなんだが、そりゃまたレアな……」  
 この世界に住む広義の人間──ヒューマン、エルフ、ノーム、ドワーフ、クラッズ、フェアリー、フェルパー、バハムーン、ディアボロス、セレスティアと言う10種類の種族は、実のところ同族間でなくとも交配は可能だ(ノームは、ちと特別だけど)。  
 無論、その受胎率は同族同士に比べて著しく下がる。比較的可能性が高いと言われるヒューマンとエルフ、クラッズとドワーフのあいだでさえ、同族同士におけるそれの50%に届くかどうか。  
 まして、種族としてかけ離れたもの同士ほど、受胎率は下がる。  
 俺達の知り合いで言えば、ルーフェスとフェリアが連日暇を見つけては励んでらっしゃるが、10年あの状態を続けても、ひとりデキるかどうか難しいところだ。  
 (もっとも、フェリアにはすでに亡夫とのあいだに娘がいるらしいから、無理に産む必要はないのかもしれないが)  
 で。異種族間で子を為した場合、唯一の例外を除いて母系優先──つまり子供は母親の種族になるのが普通だ。  
 もちろん、多少は父方の特徴も受け継ぐものの、基本的にはフェアリーが生んだ子はフェアリーで、バハムーンが生んだ子はバハムーンになる。  
 その唯一の例外というのが人間とエルフの場合で、ごく稀に両者の特質を併せ持った"ハーフエルフ"と呼ばれる存在が誕生することがある。  
 外見的にはエルフに近いが、その気質はむしろ人間に近い。能力的には両者のいいとこどりをしたように優秀だが、同時にどちらの種族にも属さない、ある意味孤独な存在とも言える。  
 多くはその素性を隠して、姿形の近いエルフに交じって暮らしているらしいが……。  
 
 「ですが、父は人間のあいだで養父母に育てられたそうです」  
 当然のことながら、ディアナの父親は若いころから色々苦労したらしい。  
 いつか世間を見返してやる、という思いを胸に、こことは異なる冒険者学校に入学し、精霊使いとして、優秀な成績で卒業したのだとか。  
 ディアナの母とも同じパーティを組んでた仲間だったらしい。  
 あるいは、同じ世間のハジカレ者同士、共鳴する部分があったのかもしれない。  
 「ですが、学園を卒業してまもなく父は姿をくらまし……ひと月後、行方がわかった時には、とんでもない企ての首謀者として世間に名を知られていました」  
 なんでも、古代の恐ろしい力を秘めた"塔"の主となり、各国に向けて宣戦布告したらしい。  
 そして……彼女の母を含む昔の仲間に倒された。  
 あとで"塔"を調べたところ、実際に世界を滅ぼすまでの力は無かったものの、解放されれば一地方に壊滅的な打撃を与えるには十分なだけの破壊力が秘められていたらしい。  
 だから、彼女の母達のパーティはちょっとした"英雄"になった。  
 けれど。  
 「ほかの人達が何を言おうと、母達にとっては父は仲間で、母にとってはお腹の子──わたしのことですね──の父親だったんです」  
 間もなくパーティは解散。5人はそれぞれの道を歩むようになった。  
 ディアナの母も名前を変え、英雄ではなく一介のディアボロス女性として娘を育てる道を選んだのだと言う。  
 「……本当は、母と同じ冒険者になることは、グノーには反対されてました。でも、どうしても母が、そして父が通った道を見てみたくなって……。  
 でも、その一方で、るごく普通の"奥さん"として"旦那さま"と一緒に暮らすことにも憧れはあるんです」  
 わたしは、"お父さん"のいる家庭というものを知りませんから……と寂しそうに笑うディアナ。  
 「そうか……」  
 こんな時に、巧い言葉で出てこない自分の不器用さが恨めしい。  
 「ねぇ、ヒューイさん、わたし、たぶん……ううん、きっとヒューイさんのことが好きです。"仲間"としてだけでなく、頼れる、そばにいてほしい"男性"として。  
 でも……両親のことを考えると、どうしてもあと一歩を踏み出せないんです」  
 彼女らしくない儚げな笑みを浮かべるディアナに歩み寄ると、俺は力一杯抱きしめた。  
 「あ……」  
 「約束する……いや、誓う。俺は、絶対にディアナをひとりにしない。だから、ディアナもずっと俺のそばにいてくれ」  
 「──そんなこと簡単に言っちゃっていいんですか? わたし、ほんとは結構我がままで欲張りですよ?」  
 普段のおとなしい性格は、半分演技入ってますし。いわゆる"しょせーじゅつ"ってヤツです……と悪びれてみせるディアナ。  
 ルーフェスも言っていたが、一見したところ彼女の属性はいかにも"善"に見える。しかし、実際には"中立"だ。  
 だが、逆にこうも考えられる。もし彼女が"善"なら"悪"属性の人間に煙たがられるだろうし、"悪"なら"善"属性の者から反発をくらうだろう。  
 だからこそ、彼女はあえて波風の立たない"中立"の状態に自分の身を置いているのではないか。それが彼女の言う"処世術"なのだろう。ただでさえ、世間受けの悪いディアボロスの少女としては、無理もない選択だ。  
 けれど……。  
 「半分、ってことは、残りの半分は地なんだろ? だったら十二分に好意に値するよ」  
 「え!?」  
 「つまり……相変わらず大好きってことさ」  
 きょとんとしてしている彼女の肩に手を置いて、そのまま唇を奪う。  
 「!!」  
 不意打ちみたいで卑怯かもしれないけど、ここは半端に引くべき時じゃない、と俺の勘が告げている。  
 ──たぶん、今夜を逃したら、ディアナは俺に二度と接近してくることはない。  
 体じゃなくて心の話だ。  
 だから、多少強引にでも、俺の決意と想いを彼女の体と心に刻みつけておく必要があった。  
 「……」  
 一瞬だけ体を強張らせたディアナだったが、すぐに目を閉じて俺に体を預けてくれた。  
 コレは……OK、ってことでいいんだよな。  
 内心の自信の無さを隠そうとして……すぐに俺は考えを変えた。  
 「……プハッ! ごめん、ちょいと歯があたったな。まぁ、初キスなんで許してくれ」  
 無理に見栄を張ったって仕方がない。ありのままの自分でいること。それが、たぶんディアナにとって一番必要なキーワードなんだと思う。  
 「フフ、ヒューイさん、ちょっとカッコ悪いです」  
 その証拠にちょっと微笑いながらも、ディアナはコトンと俺の胸に頭をもたせかけてくれたのだから。  
 
 * * *   
 
<Girl's view>  
 「ふぅ……やっと着きましたわ」  
 流石のわたくしにも、単独での山道踏破はキツかったですわね。  
 でも、おかげで戦士としてのレベルがひとつふたつ上がった気がしますし、結果オーライですわ!  
 「とりあえず、職員室で入学手続きをしないといけませんわね……あら?」  
 あそこの展望台にいるのって、もしかして彼ではありませんこと?  
 え? 「500メートル以上離れてるのに、人相がわかるのか」?  
 ふ……乙女の勘をナメてもらっては困りますますわ。  
 んん〜? でも、ヘンですわね。彼のすぐ側に、誰か女の子がいるみたい。  
 奥手な彼がナンパしてるとも思えませんし……。  
 !  
 いいい、今のは!?  
 いえ、きっと、目の錯覚、気の迷いですわ!  
 彼が、わたくし以外の女性と…抱き合って…くちづけをかわしてイタナンテ……。  
 
 <つづく>  
 
 
 

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