世界中の荷物が集まるボレンタ港。彼、との待ち合せ場所はボレンタ港全体が見渡せる小高い丘の上だった。  
 魔法の名門ブルスケッタ学院を卒業してはや1年。そんな私も、気が付けば文筆家としての日々をそれなりに多忙に送っているが、つい最近やってきた仕事は数年前に起こった事件の調査だった。  
 そしてその中で浮かび上がってきた、ある1人の学生の事。  
 世界すらも救ったというクロスティーニ学園の伝説のパーティの中でも、彼の存在はとても大きかったと記録には残る。そのパーティの面々が今どうしているか、彼も今どうしているか私は知らない。  
 だが、彼らを知る1人の人物とコンタクトを取る事が出来た。そして私は、その彼と会う約束をしている。  
「……アンタか?」  
 約束の場所に来た時、そう声がかかった。ふと振り返ると、1人のセレスティアの青年が私の背後に立っていた。  
「……では、貴方が?」  
「ああ。間違いないな」  
 彼はそう呟くと、近くのカフェを指さし、そのまま椅子に座る。私も対岸に座る。  
 私が今回、話を聞きたい話題について告げると彼の顔つきは少しだけ緩む。鋭い目つきだっただけに、少し怖かった。  
「……奴の話か? ああ、知ってる。懐かしい話だ……知ってるか? ディアボロスってのは、大きく分けて三つに分けられる。種族としての誇りに生きる奴、  
 ただ純粋に力を追い求める奴、古の叡知を学び教える事を生き甲斐とする奴、この三つだ。けど、あいつはそのどれでも無かった」  
 セレスティアの青年はそう言って笑う。  
 
 彼は『白銀の死神』と畏れられたセレスティア。『彼』の元友人。  
 
「あの日、パーネ先生の指示で、氷河の迷宮、大橋、忘却の道、海底洞窟、終わりなき塔。ほら、今はもう無くなっちまったけど、あっちに見える塔の残骸があるだろ?  
 その五ケ所に封印されているドラゴンオーブを探す事だった。そのうちの、氷河の迷宮では俺達のパーティはもう手に入れたんだ」  
 懐かしいように、淡々と語る。  
「けど、氷河の迷宮で俺達の仲間が1人いなくなっちまった。それで、パーティの補充を行ったんだ」  
 そして青年は、そこで彼と出会った。  
 
 大橋の近くで駐留していた彼らの元へ、リーダーであるヒューマンの少女と彼がやってきた時、他のパーティは彼がディアボロスである事に驚いた。そしてもう1つ。  
「新しくパーティに加えてもらう事になったんだ! 皆よろしく! 所属は、普通科の1年。種族は見て解るけどディアボロス。  
 趣味は、ルー●ックキ●ーブ。ほら、あの立方体の各面の色を揃えろって奴。結構早いのには自信あるんだ。誰かやってる奴いたら今度競争しようぜ。  
 ……まぁ、いいや。さぁ、行くかぁ!」  
 ディアボロスにしては信じられない底抜けの明るさ。  
 リーダーであるヒューマンの少女も普通科で普通科が2人並ぶという通常のパーティではおかしな事にもなっていた。  
「最初は、ディアボロスで、おまけにリーダーに誘われてきた奴だ。俺は本気で嫌いだったね。パニーニ学院で堕天使に転科してからは特に。  
 けどな、あいつの凄い所は……凄かった」  
 前衛は既に間に合っていた為か、後衛に回されて遠距離攻撃用の銃を持たされたその少年は、そこで天才的な才能を発揮する。  
 運がそう良くない故にディアボロスは盗賊には向いていない。忍者に転科すればなれない事は無いが、しかし彼はその銃の命中率が凄まじいほどだった。  
「そこらへんのガンナーよりもずっと上。俺達前衛が敵の前衛とぶつかると、その前衛は次から次へと体勢が崩れる。そして俺らが前衛を倒す時には、後衛はとっくに蜂の巣になっていた。  
 驚いたね。銃を使う奴なんて、ヒューマンぐらいだしそのヒューマンでも数が少ない。だが、奴は百発百中だった」  
 迷宮に現れた、ディアボロスの、ベストオブベストの狙撃手。  
「イヤッホゥ! またまた、命中!」  
 誰よりもノリが良く、また誰に対しても明るい。そんなディアボロスは、気が付けば好かれていた。そう、嫌っていたセレスティアですらも。  
「ああ。気が付けばあいつと一緒に迷宮探索に出掛けるのが楽しくなっていた。ジョークばっかり飛ばして、戦闘にもなれば片っ端から蜂の巣だ。  
 奴の目の前に立つモンスターは至近距離まで近づく前に蜂の巣だった。けどな、そんなあいつも躊躇った事があった」  
 パーネと、彼らの担任であるダンテ。2人の陰謀で、世界をまたにかけた戦争が始まる。  
 その過程、バケモノに変えられた級友を前にした時、彼は躊躇ったという。  
 
「普段は銃をモンスターに当てては喜ぶ。外した事なんて無い。だが、そんなあいつが当たらない。いや、当てられなかった。  
 どうしてか、って気になったよ。そしたらさ、目に涙を一杯浮かべて言うのさ。『俺には撃てない。俺には撃てないよ』ってな」  
 セレスティアは寂しそうに言葉を続ける。  
「ここで撃たなかったら、怪我人が出るぞ」  
「けど……ティラミスが可哀想だ。俺には」  
「駄目だ、撃て! 撃ってくれ! あいつは俺らには止められない! 撃つんだ!」  
 セレスティアを含め、私がインタビューした彼と同じパーティの面々は本当に、ここで撃つ事を進めた事を後悔したと語っている。  
 最終的に、彼は撃った。バケモノに変えられた級友は、頭部の一発で命を落とした。  
 級友を元の姿に戻す事は不可能に近く、仕方ない事だった、とその級友の恋人であったドワーフの少女も語った。彼女は命日になる度に、欠かさず献花に来る仲間達がいるという。  
「そして最後の最後……級友を殺したっつー思いもあったのかも知れない。あいつは、どんどん壊れていった」  
 四天王、女帝、次から次へと現れる強敵を全て狙撃した。  
「コッパが死んだ後から、あいつはだんだんジョークを飛ばさなくなった。敵に対する躊躇いも無い。どんどん、非情になっていったんだ。  
 四天王の1人、ビットは当初は俺らに優しくしてくれた。ビットは、俺らに自分の行為を止めて欲しかったとまで言われてる。けど、あいつはそれでも射殺した」  
 非情になった彼を、仲間達は怪訝に思うようになった。そんな彼が呟いた、些細なひと言。  
「俺、どうすればいいのかもう解らないよ。何回引きがね引けばいい?」  
 セレスティアは語る。  
「こいつはもう無理だ、って俺は思ったよ。繰り返される戦いに、あいつの心が耐えられなかったんだろう。あいつは優しすぎたのさ。  
 だから俺は、皆に言った。こいつはもう無理だと。パーティに加える事は出来ないってな。  
 ………皆、あいつの事を好きになってた。けど、仕方なかったのさ。あいつにパーティから外れるように言った時、あいつ自身はやっぱり残して欲しかったって思ってたんだろうな。  
 けど、寂しげに笑って解ったって言ってた。その時にな。あの野郎、よせばいいのに餞別代わりにルービッ●キュー●だぜ? 6コ、な。6コめは後任に渡してくれって」  
 そして、最後の最後になって、パーネと対峙した時だった。  
 新たな仲間はパーティ仲間を頑張って助けた。しかし、それでも重傷を負ったのだ。  
「ヤバいと思ったね。白銀の死神がついているのに、無様な真似出来るかって。そこへあの野郎、ひょっこり来やがった」  
 たった1人で最難関の迷宮の最深部へとやってきた彼は、そこで再び銃を握る。  
 トリガを引いて引いて引きまくった。隣りのクラスの担任であった彼女を蜂の巣にした。  
「だがな、やりすぎたらしい。まさか塔は崩壊するとはね。新しく来た奴は、フェアリーだったんだ。飛ぶ事は出来ても、力はない。  
 そのうち、崩壊する瓦礫が直撃しちまった。置いていかなきゃ、皆死ぬと思った。けどな、そこへあいつがすっ飛んできた」  
 
「バッカ野郎! ここで死んで何の為に戦ったんだよ! いいか、生き残るぞ!」  
 
「落ちてくる瓦礫も、あいつは何もかも撃ち抜いた。フェアリーを抱えたまんまだ。凄かったぜ。だから俺は思ったよ。こいつにパーティに戻ってきて欲しいとね」  
 だが、それはフェアリーを斬り捨てるという事。  
「でもな、それが叶う事は無かった。クロスティーニに戻ってから、あいつはいなくなった。翌日職員室に行ったら、退学したんだと。  
 俺達を助けに来た、その日が最後だった。部屋に荷物がそっくりそのまま残ってたんだよ。鞄一杯のルービ●クキュ●ブがな。  
 ……お陰で今じゃ俺も趣味の1つだ。でもな、1つだけ言える事がある。あいつが生きてるかどうかは解らん。けど、生きてるならもう1度迷宮に潜りたいね。  
 あいつと肩を並べて、あいつがジョークを飛ばすのを皮肉で返して、俺達前衛の仕事を全部奪っちまうような、あいつと。もう1度、会いたいよ」  
 セレスティアの話はここで終わる。  
 だが、その伝説の生徒は事実だったという事だった。世にも珍しいディアボロスの話。  
 そう、私はいつか彼に出会ってみたいと思った。それがいつになるかは解らない。だが、いつか会いたかった。  
 

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