いつもの場所。いつもの時間。いつもの待ち合わせの約束。  
いつも通り、予定より数分早く。いつも通り、服を気にしながら。いつも通り、髪を直しながら。  
二人はまるで、申し合わせたかのように出会った。  
「お?」  
「あら?」  
一瞬、二人の時間が止まった。お互いの顔を驚いたように見つめ、やがてすぐに、笑顔が浮かぶ。  
「……久しぶりだな、セレスティア。これからデートか?」  
「ええ……そうですよ。バハムーンさんも、ですよね?」  
「まあな」  
中庭のベンチに、それぞれ腰かける。しかし、二人は同じベンチに座ることなく、ただ隣り合ったベンチで、相手側に座るだけである。  
「変わらないんだな、俺も、お前も」  
「そうですね。本当に全然、変わりません」  
微妙な距離を置き、二人は話す。  
「そう、全然……わたくしの気持ちは、あの頃のままなんですよ」  
「……やっぱり、気が合うな。俺も、まったく同じさ」  
二人は同時に目を瞑り、同時に溜め息をついた。二人の距離さえなければ、まさしくお似合いのカップルに見えることだろう。  
「……恋って、難しいです」  
「愛なら、お前のお得意な分野なんだろうがな」  
「もー、茶化さないでください」  
「はは、悪かった悪かった。けど、確かに……お前の、言うとおりだな」  
背もたれに寄りかかり、バハムーンは空を見上げた。  
「……懐かしいな、セレスティア」  
「……そうですね、バハムーンさん」  
静かに答え、セレスティアも空を見上げる。あの時も、二人はこうして、空を見上げていた。  
二人の中で、時間が巻き戻っていく。隣に座る、愛する者と過ごした時間へと。  
恋人同士として過ごした、大切でかけがえのない時間へと。  
 
 
二人は恋人同士だった。入学してすぐ結成されたパーティに、バハムーンは戦士として、セレスティアは魔法使いとして参加していた。  
やはり、バハムーンは他の仲間からはいい目で見られていなかった。そんな中で、セレスティアだけが彼を他の仲間と平等に扱った。  
そんな二人が恋人同士となるまで、そう長い時間はかからなかった。先頭に立って攻撃を受け止め、敵を殲滅するバハムーンに、  
後ろで仲間を癒し、戦いを補佐するセレスティアは、パーティの仲間としても相性が良かった。  
お互いによく話すようになり、じきに冒険以外でも一緒にいる時間が増え、やがて二人は時間が許す限り、いつでも一緒にいるように  
なっていった。勉強に戦いにと汗を流し、心身ともに疲れ果てたとき、隣で支えてくれる存在は、何よりも大切だった。  
初めてのデートの時は、バハムーンは普段から想像も付かないほど、全身ガチガチに固まっていた。  
「バハムーンさん、そう緊張しないでください。別にやましいことじゃないんですから」  
「わ、わかってる。が……どうも、な」  
デートの誘いすら、彼はどもりながら必死に言葉を搾り出しているようだった。一体彼が何を言いたいのか、セレスティアが先回りして  
助け舟を出すことで、ようやく達成できたほどだったのだ。しかし、そんな彼の意外な一面を見たことで、セレスティアはより彼に  
惹かれていった。またバハムーンも、彼女の優しさに触れ、より一層惹かれていった。  
二人は恋人同士だった。デートを重ね、共に冒険し、勉強を教えあい、体を重ねたことも、何度もあった。  
初めての時は、セレスティアがすっかり怯えてしまい、バハムーンは全ての理性を総動員して、前戯だけに留めた。  
「ご……ごめんなさい…。でも、でも、わたくし…」  
「いや、いい。無理はするな。俺はお前を、傷つけたいわけじゃない」  
その後もしばらくは、前戯だけの性交渉が続いた。セレスティアが慣れるまで、バハムーンはじっと耐えた。セレスティアも、  
バハムーンにあまり我慢をさせたくはなく、慣れようと必死だった。そんな苦労があったせいもあり、二人が初めて結ばれたときは、  
嬉しさもひとしおだった。  
「くっ……セ、セレスティア、平気か?」  
「うっ、く…!わ、わたくし、嬉しいです……やっと……やっと、バハムーンさんと…」  
慣れるまでずっと我慢してくれたバハムーン。慣れるまでずっと頑張ってくれたセレスティア。そんな相手を、二人はこの上もなく  
愛しく、また大切な相手だと思うようになっていた。  
そのままずっと、同じ関係が続くのだと、二人は信じていた。しかし、実際はそうはならなかった。  
愛し合っていた。その気持ちが揺らいだことなど、ただの一度もなかった。  
だが、愛し合っているという事実に寄りかかり、いつしか二人は、恋人同士という関係を維持することに怠慢になっていった。  
いるのが当たり前の相手となり、自分を愛するのが当たり前の相手となり、やがて二人は、恋人という関係ではなくなった。  
愛しているはずなのに、別の異性に惹かれる。二人とも、今までは一度だって、そんな事はなかった。その事実に、二人は驚き、怯えた。  
しかし、二人は気付いてしまった。どんなに愛していても、どんなに好きでも、もうお互いに、何の魅力も、刺激も、感じていない事に。  
家族になるのなら、きっとそれでよかったのだろう。しかしそうでない限り、もう二人が付き合う必要はなかった。その理由は、もう  
完全に消えてしまったのだから。  
 
大好きで、誰よりも愛していて、なのに恋の出来ない相手。何度も何度も、二人は話し合った。時には涙を見せることもあった。  
それでも、結果は変わらなかった。そしてとうとう、二人は別れることとなった。  
だが、嫌いではないし、愛しているのだ。最後の思い出にと、二人はデートの約束を交わした。  
いつもの時間に、いつもの場所で。二人のデートは、いつも変わらなかった。  
予定より数分早く合流し、二人は校内を歩いた。一緒に散歩をし、一緒に食事をし、二人の間には笑顔が絶えなかった。その姿を見て、  
それが二人の最後のデートなのだと思う者は、誰一人いなかっただろう。  
辺りが夕焼けに染まる頃、セレスティアがポツリと呟いた。  
「……どうして、好きなだけじゃダメなんでしょう?」  
その言葉に、バハムーンが少し間を置いて答えた。  
「好きなだけなら、家族も恋人もペットも同じだからじゃないか?」  
「それぞれの形が、あるってことでしょうか。だとしたら、わたくし達がうまくいかなくなったのも……何となく、わかります」  
「けど、言っておいてなんだが、俺も納得いかねえなあ。お前が、一番好きで、大切なのに……くそ、なんでだろうな」  
「わたくしも、同じです。でも……しょうがないですよ。お互いを嫌いになって別れるんじゃなくって、よかったと思いましょうよ」  
「そう……だな。それが、いいのかもしれないな」  
夕食を一緒に食べ、そして二人はバハムーンの部屋に向かった。もう、デートも終盤だった。  
「お前とも、これで最後か」  
「言わないでください。寂しくなります」  
恥ずかしげに服を脱ぐセレスティア。だが、彼女は今まで脱ぐのを恥ずかしがっており、いつも灯りを消した後、バハムーンが脱がせて  
いたのだ。それだけを見ても、もうこれで最後なのだという事実が、はっきり突きつけられているように思えた。  
「でも、そうですよね。これで最後なんですから……悔いは、残したくないですよね」  
「ああ。セレスティア、今夜までは、ずっと恋人でいてくれ」  
服を脱ぎ終えたセレスティアにそっと近寄り、その体を抱き締める。セレスティアは彼の首に腕を回し、静かに目を閉じた。  
唇が微かに触れ合う。お互いを焦らすように、二人はしばらく唇だけで触れ合っていた。  
やがて少しずつ、どちらからともなく唇を吸い、舌を絡めあう。すぐに貪るような激しいキスとなり、舌の触れ合う音が部屋に響く。  
柔らかく、温かい感触。それももう、今夜を過ぎれば感じることはなくなる。だからこそ、二人はいつもより長い間、キスをしていた。  
口内を舐め、舌を絡め、唇を吸う。やがてセレスティアが、そっと唇を離した。  
「あの……バハムーンさん」  
「ん?どうした?」  
「あの……その…」  
セレスティアはしばらくもじもじしていたが、やがて意を決したように顔を上げた。  
「わ、わたくし、バハムーンさんの……な、舐めてあげたいんです」  
「え……え!?お、お前が?俺の?」  
今まで、ほぼされるばかりだったセレスティアの意外な申し出に、バハムーンは驚いた。しかし、セレスティアは真面目な顔をしている。  
「だって、最後くらい……わたくしだって、バハムーンさん、気持ちよくしてあげたいですから…」  
「……そうか。なら、してもらっていいか?」  
「が、頑張ります」  
 
バハムーンはベッドに座り、セレスティアはその前に跪く。いつも受け入れているものではあるが、改めて目の前に見せられると、  
その大きさと形に少したじろいでしまう。  
「無理するなよ?」  
「い、いえ、最後ですから、無理でも頑張ります」  
そっと手を伸ばし、それに触れてみる。触れた拍子にピクッと震え、セレスティアは一瞬手を離しかける、しかしすぐに気を取り直し、  
優しく手で包む。そしてゆっくり扱き始めると、バハムーンが呻くような声をあげる。  
「バ、バハムーンさん、どうですか?」  
「あ、ああ、気持ちいい」  
「ですかぁ、よかった」  
本当にホッとした声で言うと、セレスティアは彼のモノを扱きつつ、じっと見つめた。何をするのかと思った瞬間、セレスティアは  
口を開け、それを咥えた。  
「くっ…!セ、セレスティア…!」  
「んぅ……ふ、んん…」  
少し苦しそうな顔をしつつ、セレスティアはゆっくりと頭を動かす。まったく経験もなく、知識も一応知っている程度なので、  
その動きはひどく拙い。しかしその拙さが、彼女の純粋さを表しているようで、バハムーンにとっては大きな快感となる。  
時々顎が疲れるのか、動きを止めて舌で舐め、また時には先端を咥えたまま、手で扱く。懸命に頑張っている姿と相まって、バハムーンは  
たちまち追い詰められた。  
「セ、セレスティア!口離せ!出る!」  
「んん…!ん!」  
だがセレスティアは彼のモノをしっかりと咥え、手で強く扱いた。さすがに耐え切れず、バハムーンは彼女の口内に思い切り精を放った。  
口の中に注ぎこまれる精液を、セレスティアは黙って受け止めていた。しかし、予想以上に量が多い。  
「んっ……うぐっ……ふあ!」  
たまらず、セレスティアは途中で口を離した。残りは手で受け止め、それまでに出された精液は口の中に溜めている。  
「セレスティア、吐いてきていいぞ」  
「んんん…!」  
セレスティアは首を振り、しっかり目を瞑った。そして思い切り顔をしかめつつ、口の中のそれを必死に飲み下す。  
ごくりと大きく喉が動き、セレスティアは目を開けた。しかし、何だか気持ち悪そうな顔をしている。  
「おい、セレスティア……大丈…」  
「……うぶっ!」  
話しかけた瞬間、セレスティアは口を押さえた。  
「お、おい!大丈夫か!?無理しないでさっさと吐き出せ!」  
バハムーンは慌ててハンカチを差し出したが、セレスティアは頑なにそれを受け取らず、やがてもう一度大きく喉を鳴らし、息をついた。  
 
「……ふえぇ〜、なんとか飲めましたぁ……ケホ…」  
「お、お前なあ……無茶するなよ」  
「だって、今しなかったら、もうチャンスないんですもん…」  
「ま、いい。じゃあ、俺もお返しだ」  
「え?きゃ!?」  
バハムーンはセレスティアを軽々と抱え上げ、ベッドに横たえた。そして彼女が抵抗する間もなく足を開かせ、割れ目に舌を這わせる。  
「きゃあっ!バ、バハムーンさん……あっ!やぁ……舌がぁ…!」  
セレスティアの体が仰け反り、体がブルブルと震える。それに構わず、バハムーンは足を動かないように押さえつつ、秘裂を舌で開き、  
全体を優しく舐める。舌先で敏感な突起を突付き、丁寧に舐める。  
その度に、セレスティアの体がビクビクと震え、腰が跳ね上がる。翼も時折、ばさりと開かれている。  
「うあぅ…!あんっ!あっ!や、やぁ……バハムーンさん…!ま、待って!ダメです!それ以上されたらっ…!」  
「……ふぅ。もう、限界か?」  
口を離し、セレスティアを解放すると、彼女はぐったりと横たわった。そして、とろんとした目で彼を見つめる。  
「あの……わたくし、バハムーンさんのが……ほしいです…」  
「ああ、わかった」  
そのまま彼女にのしかかり、秘裂にそっと自身をあてがう。彼女が頷くと、バハムーンはゆっくりと腰を突き出した。  
「はうっ……うあぁ…!」  
顔を歪め、苦しそうな声をあげるセレスティア。いつものことではあるのだが、やはり少し心配になってしまう。  
「セレスティア、大丈夫か?」  
尋ねると、セレスティアは顔を歪めつつも、嬉しそうに微笑んで見せた。  
「はい……苦しいですけど、バハムーンさんを、もっと感じさせてください…」  
「うあっ!?」  
言いながら、セレスティアは自分から腰を動かし、バハムーンのモノをより深く飲み込む。普段はあまり深く入れられなかったのだが、  
セレスティアが自分から腰を動かしたことで、バハムーンのモノが根元近くまで埋まっている。  
感じたこともないほどの快感に、バハムーンの理性は一瞬で限界に来た。  
「ぐっ……セレスティア、悪い…!動くぞ…!」  
「はい……んあっ!うくっ!あっ!」  
さらに深く押し込もうとするかのように、バハムーンは激しく腰を打ちつける。子宮の中まで入り込みそうに錯覚するほどの衝撃と、  
強い鈍痛。それに加え、例えようもない快感がセレスティアを襲う。  
 
「あっ!あっ!バハムーンさん…!もっと、もっといっぱい感じさせてください!」  
「ぐうぅ…!セレスティア…!」  
ベッドがギシギシと激しく軋み、二人の体から汗が流れ落ちる。腰を打ち付ける度、パン、パンと湿り気を帯びた音が響き、  
結合部から愛液が飛び散る。  
セレスティアの口はだらしなく開かれ、時折空気を求めるかのように、嬌声の間に掠れた呼吸音を立てる。そんな顔が可愛らしく、  
バハムーンはさらに強く腰を叩きつける。  
「あっく!かふっ!バハ……バハムーンさん…!わたくし……もう…!」  
限界が近いのか、セレスティアの中がぎゅうっと収縮する。  
「うあっ!くっ……今ので、俺も…!くっ……セレスティア…!」  
彼女の体を抱き起こし、バハムーンはより深く彼女の体内を突き上げる。セレスティアはバハムーンにしがみつき、必死に彼の求めに  
応じる。やがて、動きが大きく荒くなったかと思うと、バハムーンは最後に一際強く、セレスティアの体内を突き上げた。  
「セレスティアっ…!」  
「うあぁっ!な、中で、動いて……熱……う、あ、あああぁぁ!!!」  
体内に注ぎ込まれる、熱い精液の感覚。それが止めとなり、セレスティアも全身を震わせて達してしまった。膣内が一際強く収縮し、  
まるで最後の一滴まで搾り取ろうとするかのように蠢動する。それに応えるように、バハムーンのモノは何度も何度も跳ね、その度に  
彼女の中へと精液を注ぎ込んでいった。  
やがて、その動きも少しずつ静まり、そして止まった。二人は向かい合って座ったまま、しばらく荒い息をついていたが、  
やがてどちらからともなく顔を上げた。  
「……お別れ、なんですよね…?」  
「……ああ」  
「大好きです。本当に、大好きなんです。でも……もう、終わりなんですね…」  
「俺もだ。俺も、お前が好きだ。それはきっと、ずっと変わらない」  
バハムーンはセレスティアを強く抱き締めた。腕の中で、彼女は窓から空を見上げた。  
「空は、ずっと変わりませんね」  
言われて、バハムーンも空を見上げる。  
「毎日、ずっと同じ。わたくし達も、そうなれればよかったのに…」  
「空だって、季節が変われば姿を変える。星だってそうだ。変わらないわけじゃないさ」  
「そう、でしたね。でも、何年経っても、変わりません……どんな変化があっても、毎年変わらず、元の姿に戻ります…」  
「……好きなことだけは、変わらない。関係が変わったって、俺はお前が、ずっと好きだ」  
腕の中の彼女を、バハムーンは優しく撫でた。  
「……ね、バハムーンさん?」  
「ん?」  
「今夜はずっと……こうしててください」  
「……ああ」  
繋がったまま、抱き合ったまま、二人は空を見上げた。その夜がずっと明けなければいいのにと、心から願いながら。  
 
「……太陽がきれいですね」  
同じことを思い出していたのだろう。セレスティアが、ポツリと呟いた。  
「明けない夜はない。空だって変わり続けるもんさ」  
「わたくし達の関係も、ですよね。いきなりパーティ脱退なんて、びっくりしましたよ。気にしなくてもよかったのに」  
「いや、俺達はそれでよかったが、他の奴等がかわいそうだ。あいつら、俺達に気を使ってて大変そうだったからな」  
「あ、そういうわけだったんですか。そういえばクラッズさん、薬飲んでたような…」  
「たぶん胃薬だろうな」  
そう言って、バハムーンは笑った。釣られてセレスティアも笑う。  
一頻り笑ってから、二人は表情を改めた。  
「……お前との時間、俺は後悔していない」  
バハムーンは、はっきりと言った。  
「わたくしもです。あなたと過ごせた時間は、大切な思い出です」  
セレスティアも、きっぱりと言いきった。  
「今日お前と会えて、よかった」  
「わたくしも、同じことを思ってました」  
二人は顔を見合わせ、優しく、そしてとても悲しい笑顔を浮かべた。  
彼等の間にある距離は、もう決して埋まることはない。久しぶりに会った相手は、変わらず恋人としての魅力を感じなかった。  
大好きで、愛していて、しかし恋のできない相手。もう二度と、二人の道が交わることはない。それでも、二人は満足だった。  
遠くから、誰かが近づいてくるのが見える。それに気付き、二人はそれぞれ別の方向へ顔を向けた。  
「やあセレスティア、相変わらず早いね」  
「ふふ。エルフさんは時間ぴったりですね。あ、でも急いでたんですか?服、皺になってますよ」  
整った顔立ちのエルフの男。セレスティアは彼に、以前バハムーンに向けたものと同じ笑顔を向ける。  
「ごめん、待ったかな」  
「いや、早く来すぎただけさ。それよりノーム、寝癖付いてるぞ」  
無表情で、それでいて嬉しそうな雰囲気のノーム。彼女にかける声は、以前セレスティアにかけたものと同じ優しさだった。  
バハムーンとセレスティアは、一瞬相手の現在の恋人に目をやり、そしてお互いに笑顔を向けた。  
「……その人は、知り合いかい?」  
それに気付き、エルフが尋ねる。  
「ええ。以前、一緒にパーティを組んでたんですよ」  
「なるほど、それでね」  
一方のノームは、寝癖をクシクシと直しつつ、セレスティアを見つめている。  
「……きれいな人」  
「なんだ、やきもちか?お前だって、十分かわいいんだからいいだろ」  
ベンチから立ち上がり、二人は現在の恋人と共に、それぞれ別の方向へと歩き出した。  
もう二度と、会うことが無いとしても。もう二度と、交わることのない道だとしても。  
それでも、最も愛する人の幸福を、背中に感じるという幸福を噛み締めながら。  
 

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