その日の朝、事件は起こった。  
いつも通り、クラッズとドワーフとヒューマンが一緒に学食で朝食を取り、すぐあとにノームがやってくる。さらにその後、ドワーフが  
お代わりを取りに行く頃になり、フェルパーとディアボロスが姿を見せた。  
「お、おはよう二人とも。これで全員揃ったな」  
「おはよ〜。みんな、早いねぇ」  
「まったくだな。もう少しゆっくりすればいいものを」  
「いや、僕等が早いんじゃない、君等が遅すぎるんだ」  
そんな話をしていると、朝食とは思えないほどの量の皿を持ったドワーフが、席に戻ってきた。  
「あ、二人ともおはよー」  
「ああ、おはようドワーフ。お前は相変わらず……いや、いつにも増して食うな」  
「えへへ〜、最近なんかお腹空いちゃってさ」  
「でもドワちゃん……最近、そのせいでちょっと太ってない?」  
「ん、たぶん太ったかも。でも、すぐ元に戻るよー」  
その時、フェルパーが不意にふんふんと鼻を鳴らし始めた。そしてドワーフを見つめ、唐突に言い放った。  
「あ、ドワーフさん臭いすごい。あんまり近寄らないでね」  
とてもフェルパーの口から出たとは思えない台詞に、全員が一瞬呆気に取られた。  
「え、あ、そう……なんだ?じゃあ、そうするね」  
ドワーフが答えた瞬間、クラッズがフェルパーを睨みつけ、怒鳴った。  
「あんた、いきなり何言ってんの!?いくら何でも、失礼にも程があるでしょ!?信じらんない、フェル君ってそんな人なんじゃね!!」  
「私もそう思ったぞ。フェルパー、女の子相手にそれはないだろう」  
「え……あ…」  
二人の顔を見ておろおろするフェルパー。そこに、ヒューマンが追い討ちをかけた。  
「お前、臭いには敏感なんだろうけど、さすがにそれはねえだろ。見損なったぞ」  
「あ、あの、みんな…」  
ドワーフが口を開きかけたが、誰もそれに気付かない。  
「ドワーフ、お前もあんなこと言われたら、さすがに言い返していいぞ。あんまり失礼だろ、今のは」  
「いや、あの、今のは…」  
フェルパーは何か言おうとしたが、ドワーフの顔をちらりと見ると、そのまま黙ってしまった。ややあって、ペッタリと耳を寝かせ、  
尻尾も悲しげに垂らしてしまうと、ぽつりと呟いた。  
「……ごめんね…」  
寂しそうに言うと、フェルパーは自分のトレイを持ち、別の席に移ってしまった。しかし、誰もそれを止めない。  
唯一、ノームだけは黙ってそれを見ていたが、やがて席を立った。  
「おい、ノーム?」  
「さすがに、一人はかわいそうだ。僕ぐらいは、フェルパーの隣にいるよ」  
そう言ってノームも席を移ると、ドワーフ以外の三人は気を落ち着けるように溜め息をついた。  
「……まさか、フェルパーがあんなこと言うなんてなあ」  
「最っ低じゃね、あいつ!」  
「いきなりどうしたんだろうな、あいつは……普段はあんなこと言わないんだがな」  
「あ、あの…」  
「ん?何だよ?」  
「えっと……その……フェルパー君、あんまり責めないであげて…」  
躊躇いがちにドワーフが言うと、クラッズは呆れたような溜め息をついた。  
「ドワちゃん、庇う必要ないって。女の子に臭いがすごいとか、普通言っちゃダメでしょ」  
「あの……うん…」  
ドワーフは何か言いたいらしいのだが、どうも口には出せないようで、そのまま黙ってしまった。しかし、それに気付いたものは、  
誰一人いない。  
結局、その日の朝は最悪の始まりとなり、以後しばらく、一行の間には険悪な空気が漂うこととなった。  
 
翌日、ディアボロスが朝食を取ろうと学食に行くと、いつもいるはずのドワーフ達がいない。ついでにフェルパーも見当たらず、  
ノームのみが一人でお茶を飲んでいる。彼はディアボロスに気付くと、軽く手を上げて挨拶した。  
「やあ、おはよう。今日もきれいだね」  
「本当に相変わらずだな、お前は。まあいい、他の奴は?」  
「さあ。僕が来たときからこうだったよ。おかげで、今日は久々にのんびりしたティータイムが取れたけど」  
「ふーん?一体どうしたんだろうな?」  
ディアボロスが不思議そうに呟くと、ノームはぼそりと呟いた。  
「ま、大体予想は付くけどね」  
「え?何か言ったか?」  
「いや、何も。とにかくみんな来ないんじゃ、今日は休みでもいいんじゃないかい。一日ぐらい探索をサボったって、怒られやしないさ」  
「うーん、それはそうだが……まあ、いい。そうするか」  
「せっかくだし、フェルパーとでも遊んだらどうだい」  
ノームが言うと、ディアボロスは少し不機嫌そうな顔になった。  
「あいつとは、今はあまり会いたくない」  
「昨日のことかい」  
「ああ」  
「……まあいいさ。でも、忘れないでくれよ。あの猫は君も知っての通り、普段は絶対にあんなこと言わない」  
「だからこそ、腹が立ってるんだ」  
一語一語に力を込めて言うと、ディアボロスは朝食を取りに行ってしまった。そんな彼女の後ろ姿を見送りながら、ノームはやれやれと  
いうように肩をすくめた。  
朝食を終えると、ディアボロスは一通りの授業を受けてから剣の打ち込みの練習をし、夕食の時間になると再び学食へと向かう。  
やはりノームだけいるのかと思っていると、今度はヒューマンがどこか寂しげに座っているのが見えた。  
「おう、ヒューマンか。一人とは珍しいな」  
声をかけると、ヒューマンは疲れた顔でディアボロスを見た。  
「お〜う、お前か。お前こそ、一人なんて珍しいじゃないか」  
「それも確かにな。だが、こっちの理由はわかるだろう?」  
「……なるほど。でもこっちは予想付かないってことか」  
一つ溜め息をつくと、ヒューマンはオレンジジュースを一口飲んだ。  
「クラッズに追い出された」  
「え?まさか、また喧嘩を始めたのか?」  
「いやいや、喧嘩じゃねえんだ。ただ、ドワーフが問題でなあ…」  
問題など起こしそうにないドワーフが問題と言われ、ディアボロスは首を傾げた。それを見越していたように、ヒューマンが続ける。  
「あいつ、今な、発情期に入っちまってるらしいんだ」  
「発っ…!?え、えっと、あれか、犬とか猫の、盛りと一緒か」  
「そう、それそれ。で、俺はほら、繁殖力高い種族だろ?で、発情期は言い換えれば繁殖期ってわけだ。そんな時期に、あいつの期待に  
応えちまっちゃ、退学コース一直線になるからなぁ……あいつは、時期が時期で我慢できないし、そんなあいつに誘われて、  
我慢しきれるほど俺は我慢強くねえし、あの手この手で子供作ろうとしやがったからな〜…」  
「……で、クラッズがあいつに付きっ切りになってるというわけか」  
「付きっ切りってか、独り占めって雰囲気だったな、ありゃ」  
乾いた笑い声を上げ、再びヒューマンの表情が疲れたものになる。  
 
「その、なんだ。仲間外れは辛いだろうが、そう長い時間じゃないだろう?男なら、それぐらい我慢しろ」  
「ある意味、男だから辛いんだけどな…」  
「それもそうか。……ん?待てよ、ドワーフが盛りとなると……もしや、フェルパーも?」  
ディアボロスの言葉に、ヒューマンは怪訝そうな顔をする。  
「どうしてフェルパーまで?」  
「あいつはドワーフに臭いが云々と言っていたが、それはもしかして、盛りの匂いがするって意味だったんじゃないかと思ってな」  
「……ありえそうだな。でも、ドワーフとフェルパーって種族違うけど、反応するのかぁ?」  
「いや、それは知らんが……あいつがあんなこと言ったのは、それ以外に考えられん」  
「そういや、ドワーフもあいつの言葉、そんなに気にしてなかったっぽいよな……もしかして、あいつらみたいな種族だと、普通の会話  
だったのかな…」  
とは言うものの、ディアボロスは内心、その仮定が外れていてほしいとも思っていた。仮定が当たっていたら、普通の会話をした彼を  
こちらの一方的な勘違いで非難してしまったということなのだ。もちろん、悪意を持って言ったとは思いたくないのだが、何の罪もない  
彼を非難してしまったという事実も耐え難いものである。  
「……あとで、フェルパーを探してみるか。謝らなきゃいけないかもしれないからな」  
「あ〜、それもそうだな。俺もあとで行くよ」  
その後、二人は一緒に夕飯を食べると、揃ってフェルパーの部屋に向かった。しかし、いくらノックしても出る気配がない。  
「いないのか?」  
「いねえってこともないと思うけど……ちょっと失礼」  
ヒューマンはドアの前に屈むと、鍵穴に耳をつけ、目を瞑った。しばらくして、溜め息とともに目を開ける。  
「……寝息聞こえてら」  
「早いな!?」  
「こりゃ、明日出直した方がよさそうだな。どうせ明日は休みだし、時間なんかいくらでもあるからな」  
寝ているのでは仕方がない。二人はそこで別れ、それぞれの部屋へと戻った。ディアボロスは何とも重い気分のまま、部屋に着くなり  
すぐに着替え、何をするでもなく寝てしまった。  
 
翌朝、ディアボロスは起きるとすぐにフェルパーの部屋を訪ねた。しかし、今回も返事がない。しつこくノックしてみたが、動く気配すら  
ないので、恐らくはどこか出かけてしまったのだろう。よくよく考えれば、起きるのが遅れたせいで時間はもう午後に近いのだ。  
仕方ないので、一旦部屋に戻っておにぎりを食べてから、再びフェルパーを探す。今日は天気もよく、気温もちょうどいいぐらいなので、  
たぶん屋上だろうと目星をつけ、階段を上っていく。そして屋上に続くドアに手をかけ、グッと押し開ける。  
「フェルパー、いる…」  
その瞬間、目に飛び込んできたのは、スカートとショーツを破られ、床に押さえつけられるクラッズと、その後ろからのしかかっている  
フェルパーの姿だった。  
「あ、ディアちゃん…!」  
一瞬、ディアボロスの思考が停止する。しかし、すぐに凄まじい怒りが湧き上がり、直後フェルパーに飛び掛った。  
「フェルパー、貴様ぁ!!」  
その声に驚き、文字通り飛び上がったフェルパーの胸倉を掴むと、ディアボロスは彼の頭にガンガンと角を打ちつけた。刺さらないように  
根元でやっているとはいえ、その音はひどく硬質で、聞くだけで痛そうなものである。  
「貴様、何をしてるんだっ!!私というものがありながら……くそっ、このロリコンが!!」  
「痛い痛い痛い!ごめんなさいごめんなさい、でもちょっと待って、ちょっと話聞いてぇ!」  
「この状況で言い訳か!?そんなもの、誰が聞くか!!」  
「ディ、ディアちゃん、ちょっと待って!ほんとに事情があるんじゃって!フェル君はそんなに悪くないんじゃってば!」  
他ならぬ被害者であるクラッズが、そう言って腕を引っ張る。それでようやく、ディアボロスは角を叩きつけるのをやめた。  
「しかもロリコンって……あたし、同い年なんじゃけど…」  
「いや、その、それは口が滑って……と、とにかく、事情とはなんだ?」  
「あ〜……えっと、今ドワちゃんが恋の時期になっちゃってるんじゃけど…」  
破られたスカートを何とか直しながら、クラッズはやや口ごもりつつ続ける。  
「それで、あたし昨日ずっと、ドワちゃんの相手してたんじゃけどね……それで、すっかりドワちゃんの匂いが、あたしに付いちゃった  
みたいなの。それであたし、フェル君に近づいちゃったから、フェル君抑えが利かなくなっちゃって……で、でも、フェル君は直前で  
我慢してくれたんじゃよ!実際危なかったし、ちょっと、見た目はこんなじゃけど、それ以外は被害ないの!」  
言われてみれば、クラッズに強姦された形跡はない。ならこの程度で許してやろうかと、ディアボロスはフェルパーから手を放しかけた。  
が、フェルパーの呼吸が異常に荒くなっているのに気付き、その手を止める。  
「……なんだ?」  
「う……ウ、ア…!クラ……風上……グッ……立たないで…!」  
「え、あっ!?ご、ごめんっ!」  
「なんだおい、どうした!?」  
「グウゥゥ…!」  
胸倉を掴む手を、フェルパーが強く掴み返した。その力は強く、ディアボロスはギョッとして手を放そうとした。しかし、  
今度はフェルパーがそれをさせない。  
「ウウ……ウウゥゥ…!」  
「やっば…!ご、ごめん!また匂い嗅がせちゃった!」  
その言葉とフェルパーの様子に、色々と嫌な予感がしてくる。しかし、苦しげな彼の様子を見ていると、先日のお詫びということもあり、  
何とかしてやろうという気持ちが湧き上がってきた。  
「……クラッズ、とりあえずお前は戻ってくれ。あとは私が何とかする」  
「わ、わかった。ごめん、あと任せるね」  
それだけ言うと、クラッズは逃げるように屋上を後にした。出入り口のドアが閉まると、屋上にはフェルパーとディアボロスの  
二人だけになる。  
 
再び、フェルパーを見つめる。ディアボロスの腕を強く掴み、荒い呼吸をする彼の姿は、とても苦しそうだった。  
「……辛いのか?」  
「ウゥ……ウ…!」  
食い縛った歯の隙間から呻き声を漏らし、フェルパーは頷く。  
「……したいのか?」  
「フゥ……グゥ…!」  
再び、頷く。ディアボロスは溜め息をついてから、フェルパーに困った笑顔を向ける。  
「わかった、わかった。相手してやるから、まずはこの手を放せ」  
言われたとおり、フェルパーはこじ開けるようにして手を放した。  
「とにかく、まず部屋に…」  
「ウウゥゥ〜…!も、もう無理だよぉ…!」  
「え?」  
突然、フェルパーはディアボロスの体を強く抱き締めた。それに驚く間もなく、フェルパーは強引に唇を奪う。  
口の中に、フェルパーの舌が何の遠慮もなしに入り込む。驚いて押し返そうとするも、彼の力は強く、それもかなわない。  
ザラザラした舌が、執拗にディアボロスの舌を舐める。呼吸を妨げられるほどに激しいキスに、ディアボロスは必死に身を捩り、  
彼の腕から逃れようとする。  
それに気付いたのか、不意にフェルパーが唇を離した。だが、その目は既に獣のような光を湛えている。  
「ま、待て待てフェルパー!こんなところで…!」  
「ディアボロスっ……ディアボロス!」  
「ま、待てって……うあっ!!」  
制服の留め具を吹っ飛ばし、その下のブラジャーまでも爪で切り裂くと、フェルパーは彼女の乳房にむしゃぶりついた。  
乳首を強く吸い、舌全体を使って舐める。いつもよりはるかに強い力に、さすがのディアボロスも僅かに痛みを感じるほどだった。  
「う、うあっ…!フェル……ま、待てぇ…!あっ!」  
彼の頭に手をつき必死に押し返そうとするが、ディアボロスの力を持ってしても、フェルパーは微動だにしない。それどころか、  
抵抗されたことによって、より強い力でディアボロスを抱き締める。  
「フェルパぁ……や、やめろぉ…」  
多少痛みがあり、強引な行為だとはいえ、それでもフェルパーからの刺激には快感が伴う。だんだんと抗議の声は小さくなり、  
代わりに荒い呼吸の合間に、甘い吐息が混じり始める。  
「もう、よせぇ……んんっ…!」  
ディアボロスは力なく身を捩るが、それはもはや抵抗というより、快感から逃れようとする動きに近い。顔も既に赤く染まり、  
汗ばんだ体からは、フェルパーにしかわからないような『女』の匂いがし始めている。  
それに気付くと、フェルパーは口を離し、彼女のスカートの中に手を突っ込んだ。  
「あっ!?フェルパー、やめっ……だ、ダメだ!」  
「フーッ、フーッ!」  
ディアボロスの言葉には耳も貸さず、爪を伸ばして下着を切り裂く。そして彼女の体をぴったりと抱き寄せると、ジッパーを下ろす。  
「え…?お、おい!待て待て待てぇ!!そんな、こんなの……ちょっ、おいっ!」  
慌てて逃げようとしたが、無駄だった。フェルパーは彼女の秘裂にあてがうと、根元まで一気に突き入れた。  
「うあぁっ!!あっ……ぐぅ…!」  
濡れきっていない所へ突き立てられる痛みと、体の奥を叩かれる疼痛。その痛みに、ディアボロスの体の自由は奪われた。  
 
「あ、あ…!フェルパー……こんな、立ったまま……なんて…!」  
ディアボロスの抗議に耳を貸さず、フェルパーは腰を突き上げた。体重が結合部にかかり、内臓を押し上げられるような苦しさが  
襲ってくる。抵抗しようにも、強く抱き締められていては、何も出来ない。  
片手でディアボロスを抱き締め、もう片方の手で腰を抱きかかえるようにして、フェルパーは強く突き上げる。体勢ゆえに  
激しさはないものの、突き上げる力は強い。  
「あうっ……くっ…!フェ、フェルパー……あっ!」  
「ディアボロスっ……フーッ……ディアボロスっ…!」  
愛液がポタポタと伝い落ち、地面に黒い染みを作っていく。痛みはだいぶ薄れてきたが、それでも突き上げられれば疼痛があり、  
何よりこんな場所で、こんな格好で犯されているということが、恥ずかしくてたまらなかった。  
「フェル…!も、もうよせぇ…!誰か来たら……んんっ…!」  
「ディアっ……ぐ、うう!」  
不意に、フェルパーが呻き声を上げる。直後、ディアボロスの体内に熱い液体が流れ込んできた。  
「うっ、あぁ!?な、中……熱っ…!」  
体内に放たれる精液の感覚に、ディアボロスは一瞬、快感に身を震わせた。  
だが、直後にその体が強張る。屋上入り口の方から、足音が聞こえてきたのだ。  
「お、おいフェルパー!誰か来る、放せ!一回離れてくれ!」  
「ハーッ、ハーッ…!」  
だが、フェルパーは聞く耳を持たず、それどころか再びディアボロスを突き上げる。  
「んうっ…!ば、馬鹿っ、やめ……んっ…!おい、フェルパー!フェルパーってば!」  
必死に体を押し、身を捩り、彼の腕から逃れようともがくが、フェルパーは変わらずしっかりとディアボロスを捕まえている。  
足音が少しずつ大きくなり、ドアの前で一度止まった。  
「フェルパー、フェルパー!誰か来ると言ってるだろ!おい、放せ!放してくれってば!」  
たまらず、ディアボロスはフェルパーの耳を掴み、そこに小声で必死に訴える。  
ガチャリと、ドアノブが回る音がした。  
「フェルパーっ!!!」  
直後、フェルパーは一度ディアボロスの中から自身のモノを引き抜いた。それにホッとする間もなく、フェルパーはディアボロスの体を  
軽々と抱きかかえ、屋上の柵に向かって走った。  
二度、激しい衝撃がディアボロスに襲い掛かった。フェルパーは彼女を抱えたまま軽々と跳躍し、柵を踏み台に屋上入り口の屋根へと  
飛び移ったのだ。あまりの驚きにディアボロスが唖然としていると、下から声が聞こえた。  
「……あれ〜?おっかしいなあ、フェルパーとディアボロスいねえじゃん…」  
間違いなく、ヒューマンの声だった。恐らく、クラッズから二人の居場所を聞いてきたのだろう。  
とにかく見つからないようにしようと、ディアボロスは呼吸を抑え、心を落ち着けようと目を瞑る。が、フェルパーはディアボロスを  
うつ伏せに置くと、その後ろからのしかかってきた。  
「っ!?お、おいフェルパー…!今はダメだ、今はよせ…!」  
「フーッ……フーッ…」  
「フェル……うっ…!」  
突然、首筋に痛みが走る。うなじにかかる吐息から、フェルパーが噛み付いたのだとわかった。さらにフェルパーは、彼女の両腕を  
屋根に押さえつけ、挿入を果たそうとする。  
 
その強引な行為に、ディアボロスの脳裏にかつての記憶が蘇る。出来ることなら叫びだしたいほどの恐怖を覚えるも、ディアボロスは  
必死に歯を食い縛り、その衝動を堪える。  
「……フェルパー、待て……んっ…!」  
秘裂を割り、フェルパーが彼女の中に押し入る。そのまま一気に最奥まで突き込むと、腰を密着させたままで、  
何度も奥に叩きつけるように腰を突き出す。  
「っ!!……っ……っ!」  
声などあげたら、下のヒューマンに気付かれてしまう。ディアボロスはぎゅっと目を瞑り、歯を食い縛って必死に声を抑える。  
そんな彼女をいたぶるかのように、フェルパーは彼女の体内を強く突く。ディアボロスの手が石造りの屋根を引っ掻き、  
ガリッと音を立てる。  
「部屋でも行ったのかな〜。でも、さっきいなかったしなぁ」  
「……っ……ふ、ん……っ…!」  
気付かれるという恐怖と、記憶から来る恐怖に、ディアボロスの膣内はフェルパーのモノを強く締め付ける。それが彼に強い快感を与え、  
より激しく突き上げられる。  
「……うっ…!」  
思わず、声が漏れてしまった。ディアボロスはギョッとして呼吸を止める。  
「ん?……誰かいるのか?」  
下でヒューマンが歩き回る気配がする。ディアボロスはますます体を強張らせ、フェルパーのモノをさらに強く締め上げる。  
「フーッ……フゥー…」  
一瞬、フェルパーの呼吸が落ち着き、それと同時に再び熱いものが注ぎ込まれるのを感じた。それでも声をあげるわけにいかず、  
ディアボロスは拷問のような時間をじっと耐える。  
「……気のせいか?ま、いいや。いねえなら帰ろ」  
足音が再び屋上の入り口前に回り、ガチャリとドアの開く音がする。それに続いて足音が小さくなり、やがてドアが閉まる音と共に、  
聞こえなくなった。  
完全に足音が消えると、ディアボロスは止めていた息を一気に吐き出した。それと同時に、フェルパーがまたも腰を動かし始める。  
「うあっ……フェルパー……フェルパー、頼む…!待て、待ってくれ…!」  
身じろぎすると、フェルパーは首を噛む力を強める。強引な行為と、強い痛み。それが思い出したくない記憶を強く蘇らせる。  
それまでは、彼に対してひどいことを言ったという負い目もあり、何とか我慢していた。だが、もう限界だった。  
「フェルパー、お願いだから話を聞いてくれぇ!もうやめてくれ、無理矢理はやだぁ!」  
涙声で叫ぶと、フェルパーはギョッとしたように口を離し、続いて押さえつけていた手を放した。  
「……お前が辛いのはわかるが……ひっく……せめて、優しくしてくれ…」  
涙を浮かべるディアボロスに、フェルパーは一瞬にして理性を取り戻した。  
「ご、ごめん!ごめんねディアボロス!大丈夫!?」  
「くすん……やめろとは言わないから、押さえつけたりはしないでくれ…」  
「う、うん。ごめんね、ディアボロス」  
いつもの穏やかな声で言うと、フェルパーはディアボロスの体を仰向けに直し、優しく唇を重ねた。ディアボロスもそれに応え、  
自分から彼の舌に舌を絡める。  
 
唇を離すと、フェルパーは不意に低く呻いた。  
「でも、その……ごめん…!あまり、我慢できない…!」  
「……無理矢理じゃなければ、いいぞ…」  
その言葉を聞くや否や、フェルパーはディアボロスの腰を抱え上げ、激しく腰を打ちつけた。  
「うあっ!フェルパっ……は、激しっ…!」  
「ごめんっ……でも、腰、止まらなっ…!」  
パン、パンと腰が打ち付けられる音が響き、結合部からは愛液と精液の混じったものが飛び散る。それすら意に介さず、フェルパーは  
欲望のままにディアボロスの体内を突き上げる。  
乱暴な動きではあるが、そこまでフェルパーが夢中になっているということに、ディアボロスは微かな喜びを覚える。それが、少しずつ  
ディアボロスの快感を高めていく。  
「うああっ!あっ!フェルパー、フェルパー…!」  
何度もフェルパーを呼びながら、ディアボロスは彼のモノを強く締め付ける。  
「ディアボロス……すごく、気持ちいいよ…!」  
フェルパーはフェルパーで、快感を貪るように、さらに強く、激しく腰を打ちつける。体には汗が伝い、ディアボロスの体に滴り落ちる。  
やがて、動きが性急なものになり、フェルパーが低く呻く。  
「うぅ〜…!ディアボロス、僕っ…!」  
「い、いいぞ……何回でも、受け止めてやるから……中に…!」  
直後、フェルパーが腰を押し付けるように突き入れ、それと同時に三度目の精が放たれた。それはなぜか、今までのものと違って、  
とても温かく感じられた。  
彼のモノが体内で跳ね、その度に温かい精液が注ぎ込まれていく。その感覚に、ディアボロスは言い様もない快感を覚える。  
やがて、全て彼女の中に注ぎ込むと、フェルパーは彼女の中から引き抜いた。完全に抜け出てしまうと、ディアボロスはぐったりと  
横たわった。  
「ディ、ディアボロス、大丈夫!?」  
慌てるフェルパーの声が、少し遠くで聞こえる。それに、ディアボロスは弱々しい笑顔を浮かべて答える。  
「ああ……さすがに、ちょっと疲れたが…」  
「……じゃあ、またするのは、少し休んでからの方がいい?」  
「……な、何?」  
この男はまだするつもりなのかと、ディアボロスは内心ゾッとした。  
「その……まだ、ちょっと、足りなくて……ダメなら、いいけど…」  
とは言うものの、フェルパーはしたくてたまらないという顔をしている。そんな彼を見ていると、どうにもディアボロスは  
断れなくなってしまう。  
「……外では、もう嫌だぞ…」  
その言葉の意味を考え、ようやく彼女の真意を察すると、フェルパーの尻尾と耳がピンと立ち上がった。  
「じゃ、部屋連れてってあげる。それならいいよね?ね?」  
「……ああ」  
今日一日を、完全に無駄にする覚悟を、ディアボロスはしっかりと固めていた。そんな彼女を抱き上げ、フェルパーは嬉々として  
部屋へと歩いていくのだった。  
 
翌朝、フェルパーが学食に行くと、ディアボロス以外の全員が集まっていた。  
「お、フェルパー。おはよう」  
「うん、おはよー」  
「あ、ああ、フェル君……おはよ」  
クラッズは昨日の一件があるからか、少し態度がぎこちない。というより、怯えているようにも見えた。  
「クラッズさん、昨日ごめんねぇ」  
「へ!?あ、いや、それはいいんじゃけど……あたしこそ、ごめん。ひどいこと言っちゃったし、苦しい思いさせちゃったし…」  
「あの、みんなごめんね!私のせいで、色々迷惑かけちゃったみたいで…」  
「すげえ謝罪大会だな。……ま、俺もなんだけどさ。フェルパー、この前ごめんな。匂いがどうこうって、普通の会話だったのな」  
「いいよ〜。知らなかったんだから、しょうがないもん」  
そう言って穏やかな笑みを浮かべるフェルパーに、ノームを除く全員がホッと息をついた。  
「……で、ノーム。お前、最初から全部知ってたんだろ」  
「ご明察。起き抜けにしてはクレバーだね」  
「お前はー!だったら教えてくれよ!お前が教えてくれりゃ、ここまで大ごとにならなかったのによー!」  
「僕は常識だと思ってたんだけどな。ドワーフにフェルパー、それとバハムーンの一部にはそういう時期があって、異種族であっても  
反応する場合があるってさ。それに『自分は盛ってる』なんて、恥ずかしくて言えると思うかい。まして女の子がさ。  
確かに、保健体育では教えてくれないけどね」  
「知ってるなら教えろっ!」  
「人は失敗から学ぶ方が多いんだぜ」  
「そう言って、お前絶対、一人で楽しんでただろ!」  
「さあ、どうだかね」  
否定もせず、しかも口元に笑みが浮かんでいるため、実質ノームはヒューマンの言葉を、全面的に肯定しているようなものだった。  
「妙なところで性格悪いよな、お前は……お前のそういうとこは嫌いだな」  
「自分を捻じ曲げてまで好かれようとは思わない。ま、少しぐらい嫌いな要素があった方が、飽きも来ないだろ」  
「したたかだな、お前は…」  
「あれ?フェルパー君、ディアボロスちゃんはどうしたの?」  
椅子に正座しているドワーフが尋ねると、フェルパーは無表情のままで顔を赤くした。  
「あ、えっと……腰、痛めちゃって、部屋で寝てる…」  
「……大変だな、ディアボロスも…」  
「ドワーフさんは、どうしてそんな座り方してるの?」  
「えっ!?」  
今度はドワーフが、全身の毛を膨らませる。  
「こ、これはその、ちょっと、色々…」  
「……まだ痛いのか……悪かったな…」  
「ま、しょうがないでしょー。あの状況じゃもんね」  
「もー、クラッズちゃんが変なことするからぁ!」  
どうやら三人の間では話が通じているらしいが、フェルパーには何のことだかさっぱりである。  
「ところでフェルパー。それなら君は、ここじゃ食事しないのかい」  
ノームが尋ねると、フェルパーは首を振った。  
「ううん。部屋で一緒に食べようと思ったんだけど、『みんなと食べて来い』って言われたから」  
「そうなのか。意外だな」  
「だよねぇ」  
 
その時、ちょうどドワーフが食事を終えた。その量は、既にいつもの量に戻っている。  
「ねえフェルパー君。私、お見舞いに行ってもいい?ディアボロスちゃんがそうなったのも、元はといえば私のせいだし…」  
「ん、いいよー。ディアボロスも喜ぶと思うなぁ」  
「よかったー。あ、鍵は?」  
「鍵は開いてるよー。部屋、わかる?」  
「うん、わかるよ。じゃあ、みんなには悪いけど、私、先に出るね」  
そう言い、ドワーフは席を立った。  
「フェルパー、せっかくなんだから、その席に座ったらどうだい」  
「お、おいノーム。それはまずいんじゃ…?」  
ヒューマンが言いかけると、フェルパーは笑った。  
「大丈夫だよぉ。もう、臭いほとんどしないから」  
「そうなのか……俺には全然わかんねえ…」  
「わかったら、ヒュマ君なんか大変そうじゃなー。学園の女の子全員危ないんじゃない?」  
「おい、どういう意味だそりゃ!」  
いつもの日常。いつもの仲間達。二日ほど続いた騒動も、ようやく終わりを見せたようだった。  
そんな話をする仲間と笑って別れ、ドワーフはフェルパーの部屋に向かって歩き出した。  
 
その頃、フェルパーの部屋ではディアボロスが一人、うつ伏せで寝ていた。  
結局、一日中フェルパーの相手をさせられ、しかも激しく腰を打ちつけられたせいで、今日になってひどい腰痛である。  
だが、さほど不快ではなかった。あれだけ激しく求められたというのも、それなりに気分はいいし、何より初めてフェルパーの部屋に  
入れたのだ。なので、この幸せを満喫しようと、フェルパーには学食でゆっくりして来るよう言っていた。  
ベッドに残る彼の残り香を満喫してると、ふとノックの音が響いた。  
「ん、誰だ?」  
「ディアボロスちゃん、私。入っていい?」  
「ドワーフ!?あ、ああ、どうぞ…」  
遠慮がちに、ドワーフが部屋の中に足を踏み入れる。そんな彼女を見て、ディアボロスは内心がっくり来ていた。彼と付き合って、  
ディアボロスでさえここに来るまでに数ヶ月を要したのに、さほど彼と付き合いの深くないドワーフが、あっさりと部屋に  
入っているのだ。  
しかし、考えてみればその目的は見舞いのためであり、別にフェルパーが連れてきたわけではないと思い直し、彼に直接招かれたのは  
自分だけだと、再び立ち直る。  
「あの、ごめんね。私が、あの時ちゃんと言ってれば、ディアボロスちゃんも、こんなにならなかったのに…」  
「ああ、いや、いいんだ。お前が気にすることじゃないさ」  
ベッドに突っ伏すディアボロスの隣に、ドワーフはゆっくりと腰掛ける。しかし、その座り方は横座りで、腰をベッドの縁に  
引っ掛けるような、あまり落ちつかなそうな座り方である。  
「……お前もどうかしたのか?そんな変な座り方を…」  
「え!?な、何でもないよ!何でもないの!」  
「……詳しくは聞かないさ」  
その一言に、ドワーフはホッと息をついた。  
 
「あの、でね、少なくとも私にも責任あると思うし、何かしてあげられないかな?腰のマッサージとかする?」  
「いや、いい。というか、今は腰に触らないでくれ。今触られたら泣く」  
「……そっかぁ…」  
ドワーフはがっかりしたように俯いてしまった。前屈みになった分、最近太ったと自称している腹が、少しはみ出して見える。  
「……何でもいいのか?」  
「あ?何かある?何する?」  
「まず、起きるのを手伝ってくれ」  
そう言い、ディアボロスは体を起こそうとするが、凄まじい痛みに阻まれて途中で止まってしまう。  
「あつつ…!」  
「だ、大丈夫?」  
「……大丈夫、だ……気にしないで、起こしてくれ…」  
「う、うん。じゃ、いくよ?」  
ドワーフはディアボロスの手を掴み、グイッと引っ張った。  
「痛ったたたたた!!痛い痛い痛い!!」  
「ご、ごめん!大丈夫!?」  
意識が遠のきかけるほどの激痛が走ったものの、ディアボロスは何とか起き上がることに成功した。痛みが少し落ち着いてから、  
ドワーフの隣に並んで座る。  
「あつつつ……痛、痛たた……ふぅ、起きられた」  
「あの、ほんとに大丈夫?」  
「あ〜、平気だ。で、もう一つ頼みがあるんだが〜」  
「うん。なぁに?」  
「……ちょっと抱っこさせてくれ」  
「え?」  
意外な申し出に、ドワーフは目を丸くする。  
「ダメか?」  
「あ、ううん。いいけど……そんなのでいいの?」  
「ああ。ぜひ」  
ディアボロスはドワーフの後ろから手を回し、腹の辺りで手を組んで持ち上げ、膝に乗せた。ふわふわの体毛の感触が心地いい。  
「うーん、やっぱりフェルパーとは感触が違うな。あいつはさらさらした感触なんだが、お前のはふわふわというか、艶々というか…」  
「毛質が違うもんね。それに、いっつも手入れしてるもん」  
「さすがはアイドル、だな。しかし、この腹…」  
軽く、腹をさすってみる。柔らかい脂肪の感触があり、そのすぐ下に鍛え抜かれた筋肉の硬い感触がある。  
「時期が時期だったからね〜。でも、もう終わったから、またすぐ痩せるよ〜」  
「……なんと言うか、こう、ふにっというか、たふっというか……たまらない手触りだな。このまま痩せなくてもいいんじゃないか?」  
ディアボロスが言うと、ドワーフは笑った。  
「ダメだよぉ〜。アイドルとしても、冒険者としても、しっかりまた痩せなきゃ」  
「そうか。残念だな」  
 
そんな話をしていると、外で足音が近づいてくるのが聞こえた。それは部屋の前で止まり、続いてドアノブがガチャッと音を立てる。  
「ディアボロス、ただいまぁ」  
「ああ、フェルパー。早かったな」  
「お邪魔してまーす」  
フェルパーはその手に、学食から持ってきたらしい料理のトレイを持っている。  
「ディアボロス、朝ご飯まだだよね?持って来たよ」  
「ああ、ありがとう。置いといてくれ」  
フェルパーは机の上にそれを置き、二人の隣に座る。  
「……フェルパー、また撫でてほしいのか?」  
「ん、今日はいいよー。腰、痛いでしょ?」  
二人の会話を聞いて、ドワーフが笑う。  
「二人とも、ほんとに仲良しなんだねー」  
「お前達だって、相当な仲良しじゃないか。普通はないぞ、三人の恋人同士というのは」  
「クラッズちゃんとヒューマン君は、ちょっと違うけどねー。友達以上恋人未満、かな?」  
「それにしたって、一人の恋人を仲良く好きになっているなどとは、珍しい」  
そう笑いながら、ディアボロスはドワーフの腹を撫でている。そんな彼女を、フェルパーはじっと見つめていたが、やがてぴったりと  
体を寄せた。  
「ん、どうした?」  
「………」  
「……フェルパー君、代わる?」  
「ん、そこまではいいよぉ。でも、こうしてたいな」  
恐らく、軽いやきもちを焼いているのだろう。そんな彼の心境を察し、ディアボロスは笑った。  
「ははは。私としては歓迎だ。ドワーフの手触りも好きだが、お前の手触りも捨てがたい」  
いつも通り、耳の裏を掻いてやると、フェルパーはゴロゴロと喉を鳴らす。幸せそうに目を細めるフェルパーに、ディアボロスは心が  
安らぐのを感じた。  
こうして、笑い合える仲間がいる。気の置けない友人や、気前よく撫でさせてくれる友人がいる。  
この仲間達と、ずっとずっとこんな日が続けばいいと、ディアボロスは心の底から思っていた。  
だが、冒険者である彼等に、ゆったりした時間など続くはずもない。  
その、僅か数十分後。彼等の元に、クロスティーニ開校以来の大事件が舞い込もうとは、この時誰も予想できなかった。  
 

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