アベルは、一人酒場で泣いていた。  
「うう…カテリーナさん、ひどすぎますよ〜」  
先日、うっかり仕事で予算オーバーをしてしまったのだ。  
原因は器物破損。  
「だいたいあれはトレス君が半分以上悪いんですよ…  
それなのに私ばっかり怒られるなんて、うわああん!」  
そうとう酔っているのか、普段のアベルからは想像できないほどの酒乱ぶりだ。  
迷惑そうな店主と客など存在しないかのごとく泣き喚き、  
店内の誰もが救いの神を待ち望んでいたそのときだった。  
「久しぶりじゃのう、我が相棒」  
凛々しい女性の声が後ろから注がれた。  
 
「ふぁ〜!?あ、あれ?」  
前髪の一房を赤く染めた長身の美女が、半ば懐かしげに、  
そして半ば呆れた表情で見下ろしている。  
「アストさん?なぜここに…いかん、飲みすぎたかな。  
帝国にいるアストさんがいるはずがな…」  
狼狽しながら、どうやら頭の方も酒が回ったらしい。  
ふにゃふにゃと何か言いながら机に突っ伏してしまった。  
「はぁ…やれやれ。相変らずじゃな」  
アストは、ひょいとアベルを肩に担いだ。  
 
 
「ふあ…ああっ!?」  
アベルが目を覚ますと、そこは知らない部屋だった。  
どうやらどこかのホテルらしいが、記憶がさっぱりない。  
「ああ、えと私、お酒飲んで、えと、それから…」  
記憶を反芻させていると、シャワールームから人影が現れた。  
「え?あ、アストさんっ!?」  
「ようやく気がつきおったか…まったく手のかかる男よ」  
「あ、あのっ、私状況がよくわからないんですけど!?」  
「おぬし…」  
そういえば、アストはタオル一枚を身体に巻いているだけではないか!?  
「あのですね、落ち着いて下さいアストさん。主はおっしゃられました…」  
「余は冷静じゃ、全く」  
突然アストの美しい顔がアップになったかと思うと、琥珀色の瞳が怪しく光る。  
 
「アストさん…?」  
どこか顔を引きつらせて、アベルは貞操の危機を感じる。  
「今日は、なぜこちらに…?」  
「ん?用がなければ来てはならぬのか?」  
顎を長い指で撫でられ、目のやり場に困った。  
「強いて言えば…おぬしに生きることの楽しさを教えてやろうと思ってな」  
「は…ははは、ソウデスカ」  
「手始めに…」  
アストは、人間の女性では考えられないほどの力でアベルを押し倒した。  
「わぷっ!!」  
「余に触れられることに、少し慣れてもらおうかの」  
「はい!?ななな何を!?」  
いよいよ本格的にやばくなり、アベルは脂汗を滝の如く流す。  
「い、生きることの楽しさと何か関係が!?」  
「これは余の楽しみじゃよ」  
「そ、そんなぁ〜」  
 
アストはアベルの腰に手をまわした。  
「細いのぅ…仮にも男ならもう少し鍛えろ」  
「す、すいません〜」  
そう言いながらも、アベルは距離をとろうとアストの肩を押す。  
「こんなこといけません!わ、私は神に仕える身です!」  
「ほぅ、そうか。新しい事を知るのは新しい楽しみに繋がるぞ」  
「お願いですから、会話してくださいよ」  
えいっ、とアストを押しのけ、いそいそとドアに向かう。  
が…ドアが開かない。  
「あ、あれ?何で開かないんです?よっ、はっ!」  
力をこめてノブを引いたり押したりするが、びくともしない。  
「どうした?相棒」  
アストがにやりと意地悪な笑みを浮かべ、胸の谷間に挟んだもの…  
「アストさん!?部屋のか、か、鍵」  
「ふふん、朝まで出す気はないぞ?」  
「ひぃぃぃ」  
アベルの受難は続きそうだ。  
 
 
「アストさん!わ、私は何もしませんからねっ!」  
「何もせずとも良い。余が可愛がってやるわ」  
僧衣をぐいと掴まれ、ぽいっとベッドの上に放り投げられる。  
アストはタオルを捨て、惜しみなく裸体を見せつけた。  
「へ、変なことしないですよね?」  
「されたくなければビクビクするな。する気がなくとも、その態度では気が変わる」  
「す、すいません」  
アストがアベルの上に跨る。  
そして、覆い被さるが―――  
「おい」  
「な、何ですか〜」  
「抱き心地が悪い」  
「そそそっそんなこと言われましても」  
アストは不機嫌な顔をして短く命令した。  
「脱げ」  
 
「駄目です!そればっかりは…!」  
「なら選ばせてやる。脱ぐか、余を抱くか、余に血を吸われるか」  
「どれも選べません!」  
「別に減るものでもあるまい」  
「減ります!特に最後の!血がなくなります!」  
「なら余に抱かれるか余を抱くかにしろ」  
「できませんよ〜あうう勘弁してくださいよ」  
主よ最近試練がきつすぎますと青ざめている相棒を見ながら、  
アストは選択肢を加えた。  
「よし、ではこうしよう」  
「できればもう帰りたいんですがえぐぅっ!?」  
首に手を回され、ぐいと乱暴に抱き寄せられた。  
「余にキスしろ」  
アベルの顔が青くなり、そして赤くなる。  
「わ…私からデスカ?」  
「もちろんじゃ」  
 
本当はアストからしてもよかったのだが。  
(こやつがどんな反応をするか、見物じゃな)  
そんな意地悪な思いつきである。  
そんなことを目の前の美女が考えているとは思わず、  
アベルは顔を真っ赤にして心の中で問答した。  
(ああ〜そんなぁ…でもしなきゃ許してくれないだろうな…  
って、何考えてるんです私、ああ〜もう!  
たかがキスではないですか、口をちょっと付ければいいだけですよ。  
うん、よし)  
すうーっと深呼吸し、きりっとアストの瞳を真っ直ぐ見る。  
 
アストは、アベルのしようとしていることがわかったらしい。  
アベルの唇に指を添えて、そっと唇を割った。  
そして、爪を中に侵入させ―――  
「おぬしが何歳かは知らぬが、知識くらいはあるだろう?」  
冷たい指の感触が、アベルを驚かした。  
「ちょっ…アストさん…まさかキスってそちらのキスですか?」  
やはりな、と苦笑した。  
「当然であろう?まったく小童ではあるまいし、まともなキスもできんのか」  
泣きそうなアベルを見ているとなんだかこちらが悪者になったような気がする。  
「嫌なら脱ぐのじゃな」  
「それは駄目です!!」  
「では答えは一つ…」  
アストは瞳を閉じた。  
 
(うう…主よ、お許しください、これも私の貞操を守るため!)  
アベルは息をぐっと止めて、アストに口付けた。  
唇が重なり合い、心地よい。  
(が…下手糞じゃな…まあ、こやつには最初から期待はしておらなんだが)  
予想通りというか、なんというかアベルのキスは絵に描いたような初心者の技巧。  
「むむ…」  
「わわっ、す、すすすすみません、私としたことが調子に乗りまして」  
アストが唸ったので、何かまずいことをしたような気がしたのか  
アベルは慌てて唇を離した。  
「まったく、おぬしは下手じゃの…それでは女もしらけるぞ?」  
「うう…だから言ったじゃないですか」  
ふーっと溜息をつき、アベルはベッドに腰をおろしいじけ始めた。  
 
「ともかく、あなたのお望みは果たしたわけですし。そろそろ帰りますからね」  
ふと見上げると、アストがアベルを見下ろしていた。  
(ふむ…?)  
アストは妙な感覚に襲われる。  
長身のアストは、普段は男性を見下ろす位置にあるがアベルに関しては  
いつも見上げる格好になっていた。アベルの方が身長が高いからだ。  
しかし、今は珍しいことに、アストがアベルを見下ろしている…  
アストは、何か悪戯めいた感情が湧きあがるのを感じていた。  
「アストさん?あの〜どうしましわぷっ!!?」  
突然、アストがアベルを押し倒した。  
「ちょ、ちょちょちょっとアストさん!?」  
「やはり気が変わった。今宵は余と過ごしてもらうぞアベル!!」  
「は、話が違いますよ!!??」  
 
「アベル…」  
アストは強引にアベルの口を開かせ、開いた唇の隙間から舌を差し込んだ。  
恥ずかしいのか、いつまで経っても慣れないアベルの舌は  
必死にアストから逃げようとするが、アストはそれを許さず、  
執拗に舌を追い詰め、絡め取る。  
酸素を求めてアベルは必死にアストの体を押し退けようとするが、  
肩を押さえつけられているうえ、力の抜けた状態での抵抗は全く意味を成さなかった。  
口付けを堪能した後、ゆっくりと唇を離せばアベルの唇の端からは、  
混ざり合った互いの唾液が細い糸のようになって顎へと伝っていた。  
アストはそれすらも惜しむように自分の舌でペロリと舐め取る。  
そんなアストの行動を目の当たりにし、言葉を失ったアベルに再び唇を重ね、  
その間にアストは器用な指先でアベルの僧衣の裾から手を忍ばせる。  
 
アストの掌が器用にアベルのズボンの中に忍び込み、唐突に男根を握り込んだ。  
「ア…アストさん…何を…」  
アストは長い指でアベルのモノを優しく撫で、アベルの反応を見る。  
そして、特に敏感な箇所を探り当てて執拗に攻めた。  
「だいぶ良いようじゃの」  
「ううっ…良くないです…」  
しかし、言葉とは裏腹にどんどん大きく、硬くなっていった。  
そして…  
「う、うわぁっ!?」  
アベルの先端から、勢い良く精液が放たれた。  
「随分早いのう…そんなにも良かったか?」  
アストは、精液を指ですくい、アベルに見せ付ける。  
「な、なにやってるんですかアストさん!?ははは早く拭いて捨ててくださいよ!!」  
また顔を真っ赤にしながら反論するが、  
そんなアベルの意を無視してアストは何の躊躇いもなしにソレを口に含める。  
 

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