「アベル…」
カテリーナは、窓辺で紅茶を飲みながら想いにふける。
(私の方がこんなにも貴方を想っているというのに…何故!)
部下の尼僧のことを考えると、思わずカップを持つ手が震えた。
「ミラノ公、体調に問題があるなら休養を」
傍らのトレスがカテリーナを気遣うが…
「いいのよ、具合が悪いわけではないのだから」
しかし、この胸の昂ぶりは抑えられない。
(何故、抑える必要があるの!?私はもうすぐ死んでしまう、ならば
一回くらいのわがままは許されるのではなくて?)
「ミラノ公?」
「イクス神父…お願いがあります」
カテリーナは剃刀色の瞳を鋭く光らせた。
「私を抱きなさい」
「…それは命令か、ミラノ公」
「ええ」
命令ならば、従僕が逆らえるわけがない。
「ポジティブ」
トレスは女主人を抱き上げ、寝室へと運んだ。
「あっ…」
機械の指がカテリーナの法衣を素早く脱がせ、その冷たい指で胸に触れる。
「何か不具合があれば、申告を」
淡々と告げたトレスは、無愛想な表情で愛撫する。
柔らかな肉を無機質な人工樹脂の皮膚が撫でるその感触にゾクリとした。
「ああっ…イクス神父、もっと、下の方を触りなさい…」
「ポジティブ」
命令されるまま下半身の方に手を伸ばすトレス。
そして、敏感な箇所に触れると女主人の身体がビクンと跳ね上がる。
「はうっ!!ア、アベルッ!!」
思わず想い人の名を叫ぶカテリーナ。
その声にトレスの顔が上がる。
「ミラノ公、ナイトロード神父に何か所用でもあるのか?」
カテリーナは一瞬ハッとしたが、すぐ冷静な顔で命じた。
「いいですかイクス神父…これから先私が何を言おうと、黙って私を抱きなさい」
トレスの思考回路が、ある仮定をはじき出した。
(ミラノ公は、ナイトロード神父の代わりに俺を使うのか)
何も感じぬはずの機械人形に、かすかに黒い感情が走った。