敬虔な尼僧は天井に両手首を捧げ、裸身を余すところなくさらしていた。
もう何時間も前から、少女の体は“人形使い”の支配下に置かれている。
「抵抗は終わり? 案外つまらないね」
哀れなマリオネットを傍らの椅子から観賞し続ける、黒い軍服の若者が言う。
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無邪気に愉しむだけの視線を肌に感じながら、エステルはあらん限りの憎悪を
こめて、ディートリッヒを睨みつけた。
「ふ、ふざけ――」
「神父様っていう遊びがいのあるオモチャのおかげで、君も使い捨てのオモチャ
からリサイクルの利くオモチャへと格上げになったんだからさ。もっと踊って
くれなきゃ」
エステルの抗議をさえぎって、ディートリッヒは頬杖をついたまま指を繰る。
「ひゃあぅ!!」
エステルは悲鳴を上げて体をよじった。
神経を直接犯されるたびに、破瓜もまだのその場所から、たまらない狂おしさが
わく。
「ほら。足、もうちょっと開かないと見えないよ」
不可視の糸が、白い素足の隙間を強制的にこじ開けていく。
「いやぁっ……! もうやめて!」
閉じようともがくのは上半身ばかりで、下半身は主人の命令に背き、肩幅の
間隔で止まってしまった。
「え? なんで? エステルの体はもっと遊びたがってるじゃない」
成熟しきれていない丸み二つを取り囲んだ糸は、それらのかたちを浮き立たせ、
先端の尖り具合をも強調している。
足首まで濡れた内股を、冷気とねばつく視線が撫で上げた。
「女の子の欲求不満は解消させてあげなきゃね」
「そ……そんなんじゃないわ!」
言葉を裏切って、エステルの中心部は疼き続けていた。僧職に生涯を捧げた
身には、本来必要のない器官だ。
その中をいくつもの蟲が這いずり回るむず痒さに、エステルは知らず、腰を
くねらせてしまう。
時折一点に強い刺激が加えられると、はしたない喘ぎが口を割った。
内腿をこすり合わせたい衝動は、磁石の反発のように引き剥がされた足では
叶えられない。
耐えようとすればするほど、見えない部分に意識が集まる。
この数時間で、エステルの感じる場所は、ディートリッヒによって探られ
尽くしていた。
「そうかなあ……ほら、ココなんかもうすごいことになってるけど?」
揶揄する声が耳元で聞こえて、エステルはうなだれていた顔を起こした。
いつの間に椅子を離れたのか、今や嫌悪の対象でしかない『天使の美貌』が
真横にある。
エステルは咽喉を詰まらせた。
それを見た悪魔は、微笑みとともに白手袋の指を伸ばしてきた。
赤い恥毛が掻きわけられ、湿った肉の合わせ目が――泡音を立てながら、
開かれる。
「いやあぁぁ!」
床に滴る欲情の証を、エステルは聞いた。
「へえ、僕じゃイヤなくせに――こんななの? いいのかい、シスター・エステル。
君の大事な神父様に言いつけても」
「しんぷ……さま? 神父さま……神父さまっ」
呆然と繰り返すうちに、その名が、神を持ち出される以上に痛みをもたらすと
気づいてしまった。
誇り高く聖職にあったエステルは、自らがその資格を失ったことを思い知り、
すすり泣いた。
その嘆きにつけこんで、よりひどい言葉で嬉々としてエステルを貶めそうな
ディートリッヒが、なぜか眉をひそめて黙りこんでいるようだった。
襞を裂いた指が、内を侵食する気配もなかった。
だが安堵したのも束の間。
まるでエステルの隙を嘲笑うかのように、生体繊維から送りこまれる快感だけが、
爆発的な勢いで膨らんだ。
「うああああああ――!!」
仮想の刺激に呑みこまれて、エステルは果てた。
*
「穢れないまま堕ちていけるんだ、よく考えてみたら幸せじゃないか」
顎が持ち上げられる感触に意識を取り戻したエステルは、相変わらず手首を
吊るされた無防備な姿勢のまま直立していた。
拉致されたときに着ていた尼僧服や下着は切り刻まれ、ぼろ布のようになって
散乱しているのが目の端に映る。
半開きで喘ぐ唇に、ディートリッヒの舌が這わされた。
「……っは」
それだけの接触で、過敏になった皮膚に鳥肌が立つのがエステルにはわかった。
「――それとも、本物の僕が欲しい?」
狂いそうなまでの疼きは続いている。
エステルの腰のくびれや尻を愛撫する、絹手袋の冷ややかさだけでは物足りない。
目の前に佇む男が、たといかりそめのものであれ、銀髪を戴いた長身の神父の
姿をしていれば――あるいは、陥落していたかもしれないとエステルは思う。
だが現実にはそうではない。
だから、エステルの怒りはまだ欲情に打ち克つことができた。
「…………死ん、だって、ごめんよ……っ」
ふたたび睨みつける。
「あれ、回復早いね。これは予想以上に愉しめるかも」
ディートリッヒが嘲笑った。
「その強情なところが君の一番の魅力だよ、エステル。だいじょうぶ、そう簡単に
死なせやしないさ」
“人形使い”の見えない手で、ゆるやかに片膝が持ち上げられていく。
エステルは、思考の片隅に芽生えてしまった浅ましい期待を摘むことができず、
それゆえに深まる絶望を前にして、ただ震えることしかできなかった。