月明かりの錯角ゆえなのか、青白い顔色が酷く造りものめいた、魂のない人形のように見える。
今ならば……、
今ならば、この傲慢な女を殺ることができる――!
華奢な首筋に手をかければ武器などを使わずとも素手で仕留めることができる。
この女さえいなければ鎖に繋がれず、屈辱に塗れる日々を過ごさなくてすむのだ。
どうして今まで気づかなかったのだろう。
こんなにもかんたんなことなのに、なぜ己は手を出さぬのか。
誰もいない――機械人形すらいないところで仕留めるのは不本意だ。
また敵としてではなく、派遣執行官――首輪をつけた犬として、入室を許されたためであろうか。
つまらぬ自尊心が邪魔をする。
目的を達成するためにはとるに足りない事柄なのに。
認めたくはないが、この女によって膝まづかされた時に牙を抜かれたのは本当なのかもしれない。
憎い!
憎い!
憎い――!
――この女が心底憎くてたまらない!!
許せぬ!
この女を殺さねば朽ちてしまう!!
機械人形のいない今こそ千載一遇のチャンスではないか。
何を躊躇うことがある?
殺戮こそ吾が人生最大の快楽である。
あの女との間に、武器などの不粋な仲介を入れることなどしたくはない。
己が手であの女のすべてを奪い尽くし、生命のなくなりゆく様を堪能したい。
「……殺してやる――」
眠れる麗人の首に手を掛ける。
あとはこの手に力をこめるだけ。
それだけだ。
たったそれだけのことなのに、頭と躯が違う動きをするのはなぜ?
――どうして己が唇を重ねているのだ?
獣が噛みつくが如く、唇を奪う。
目眩をおぼえるほどの激しさで、舌先といわず、口内中を蹂躙してやる。
まるで舌先が二股に分かれた蛇になったような気分だ。
自身の裡は冷たく褪めているというのに、躯はひどく熱い。
どこまで愚弄するのか、この女は――!
焼けるような接吻を、これまでにないほど陵辱し――奉仕しているというのに、眠りから醒めることなく、何の反応すらしないとは……。
ひんやりと冷たい唇。
さすがは氷の女と讃えるべきなのか、こちらの熱を奪うばかりで、何も与えてはくれない。
許せぬ!許せぬ!!
こうも一方的に踊らされるのは我慢できぬ。
さらに激しい口淫を試みる。
薄い夜着の上から、柔らかな乳房を撫でてみる。
指先に当る、ツンと尖った乳首の感触。
形のよい唇からあえかな呻きが洩れ始める。
血の通わない、冷たい石像ではないのだ。もう一息だ。
気をよくし、今度は夜着そのものを剥いでやる。
雪を欺くほどまでに、白い肌。
その白さには病的なものがあるにしろ、至極魅力的だ。
張りのある乳房と、紅く熟れた乳首。
この程度で色づくとはなんと可愛いことか。
片手では絹のように柔らかな体毛を分け入りながら、禁断の花園への侵入を試みる。
熱く湿った感触を楽しみながら、さらにその奥へと指先を進める。
氷の女から爛れた吐息が洩れる。
「なにをしている、シスター・モニカ・アルジェルト」
「いいところなのに不粋じゃないか、お人形ちゃん」