パウラは、ペテロがありながら見てはいけない夢を見てしまった  
尼僧服に身を包み、美しい顔を苦悶に歪めながら  
二人だけの世界で繰り広げられる奇怪で淫靡な夢  
 
 
夜の山中を走っていた。  
足そのものが別の意思を持っているかのように、フラフラと足元が定まらない。  
それはまるで、もう一人の自分は逃げたくないと言っているかのよう。  
右も左も分からない山の中、素足の足が小枝や石で傷つくが、  
その痛みも気にならなかった。  
いいえ……逃げなければ。このようなこと主が許されるはずがない。  
不意に、月が陰った気がしたのと同時に冷たいモノが首筋にあてられた。  
 
気がつくと灰色の天井があった。  
元の地下室だ。  
汚れたベッドの上で、手は壁のパイプに繋がれている。  
おそらく、最初で最後のチャンスは消えてしまった。  
視線を横にやると、マタイが無表情に見下ろしている。  
「最初に説明したと思うのですが、シスター・パウラ」  
抑揚の感じられない声が降ってくる。  
「一つ、私の言う事には必ず従う。一つ、絶対に逃げようとしない。  
 たったこれだけのことも守れないのですか?」  
マタイはそう言いながらパウラの周りをぐるりと歩き、途中気付いたように呟いた。  
「ああ、そうか。この足がいけないんですよね……」  
ポツリと漏らされたマタイの言葉に不穏なものを感じ、わずかな不安を滲ませた目で、  
マタイの動きを追うと、マタイは右足を掴んで、捻り上げだした。  
苦痛に身を捩ると、マタイはそばに置いてあった有刺鉄線を寄せる。  
そしてギリギリと有刺鉄線が足首に巻かれ、苦痛と血液が同時に流れる。  
「痛いですか?でももう歩く必要はありませんからね。ずっとここにいるのですから」  
マタイの楽しげなその言葉に加え、有無を言わさぬ表情で念を押してきた。  
「そう、ですよね?」  
 
 
視界が白く霞んでいる。  
思考の方は明らかに混濁していた。この状況を打破する術を、考える事ができない。  
マタイの言うように、有刺鉄線で戒められたこの足では立つ事すら不可能だろう。  
頭の隅に、あの大柄な上司の顔が浮かぶ。  
これは夢だ。夢なのだから意味はないのだが…きっと必死で自分を捜してくれているだろう、  
捜して欲しいと希望を持ってしまう。どうせ此処を見つける事は無理だろうけれど。  
自分を、慕ってくれた、相手。  
マタイもそれを知っていた。だから写真を数枚、送りつけてやったと笑っていた。  
いつ撮ったのか、どんな写真かなど、考えたくもない。  
 
 
この倒錯する世界の中……肉体に刻まれた苦痛と淫乱の調べは、  
次第にパウラ自身の本性を目覚めさせる。  
右足首を有刺鉄線で拘束され、乱れた尼僧服を着たまま肌を撫でられる。  
皮膚から染みこんでくるような感覚の後、体が重くなっていく。  
脳髄が焼き切れたように思考は停止し  
熱い快楽の波が身体を焦がして  
猛烈な興奮に酔いしれるように切れ長の双眸を怪しく潤ませ、  
唇から熱い吐息を絶え間なく漏らす。  
その敬虔な身体を作り変えてゆく  
 

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