遺跡の調査から帰ってきたときにはすでに、
私の敬愛するナノカさんではなくなっていたのかもしれません・・・
「あの、ナノカさん。 これはいったいどういうことなんでしょう・・・?」
いきなり鎖で自由を奪われた私は、何がなんだか訳がわからなくて訪ねました。
ナノカさんはゆっくりと私の前まで歩いてきてこう言いました。
「いやあ実はさ、新しい薬の作り方がわかったんだよ。
ケガでも病気でも何でも治せちゃう魔法の薬なんだけどね」
エヘヘっと笑いながら頬を掻くナノカさん。
「凄いじゃないですかナノカさん!! やっぱりナノカさんは天才ですっ!」
私は自分のことのように嬉しくなって、飛び跳ねようとして拘束されていることを思い出しました。
「・・・それでね。その材料なんだけど、それがちょっと特殊でさ・・・・」
歯切れの悪そうに話すナノカさん。
「水くさいじゃないですかナノカさん、私に出来ることがあれば
なんだって協力しますよ? 金銭面でも物流でも」
任せて下さいとばかりに胸を叩きたかったのだけれど、
残念ながら今は拘束されていてできなかった。
「・・・・よかった、そう言ってくれるとは思ってたんだけど、
ちょっとばかり頼みにくくて」
そう言って近づいたナノカさんは、私の服に手を掛けました。
ピンク色のブラウスのボタンが上から一つ一つ外され
まだ発育不足であることが否めないなだらかな胸が、外の空気にさらされました。
「ちょちょ、ちょっとナノカさんっ何してるんですか!?」
驚きと恥ずかしさと、ちょっとばかりの嬉しさ。
まさかナノカさんに脱がされるなんて・・・・・!
嬉しさのあまり、ハートマークが周囲に飛び交う私に、ナノカさんが
耳元でこう言いました。
「だ・か・ら、ちょっとばかり頼みにくいものなんだってば」
ナノカさんの熱い吐息が私の耳を、肩を、うなじをくすぐります。
ああ、なんて幸せなのかしら・・・・
たったこれだけの事でゾクゾクきてしまいます〜
でもこれでわかりました。
愛しのナノカさんが欲する材料とは、ズバリ愛液。
それも汚れを知らぬ乙女の雫・・・
しかもナノカさんは、どこかの守銭奴司祭や開発コードが『お色気担当』の色ボケ女ではなく、
他の誰でもなく私を頼ってくれるなんて・・・
もしかしてナノカさんも私のことを・・・?
ダメですよナノカさん、私たちは女同士なんですよ?
でもでもナノカさんがそれを望むのでしたら、私は身も心も貴女に捧げます〜www
「・・・・・それじゃあいいかな、ネネちゃん」
ハッ!?
ほんの少し妄想に浸っていた私が帰ってくると、いつのまにか全裸にされていました。
ああ、やっぱり・・・・
ついに来るべき時が来たんですね。
「・・・・・・あの・・・・・優しくして下さいね」
モジモジと自由にならない体を揺ると、鎖がジャラジャラと鳴りました。
でもそれならこんな鎖で縛らなくてもいいのに。
それともこれがナノカさんの愛の形なのかしら。
少しばかりSMチックな趣味でも、これが貴女の愛だというのでしたら
私はどんなことでも受け入れます。
ナノカさんはまっすぐに私を見つめてきました。
瞳には私が映っていて、私の瞳にはナノカさんが映っていて。
もういつ死んでもいいです、我が人生に悔い無しです〜
「実はね、その材料っていうのがね『胎児』なんだよ」
笑顔を絶やさず、ナノカさんはそう言いました。
・・・・・・・・・・・・・・・・えっと・・・・・胎児・・・?
子供・・・・・赤ちゃん・・・・・?
私は女で、ナノカさんも女で・・・・・・ハッ!? まさかナノカさんは
女同士でも赤ちゃんが作れてしまう画期的な発明までしちゃったんですか!?
まさか、まさか、私のために、そんな・・・・・・・・・感激ですぅ〜!!
胸がいっぱいになって、目頭が熱くなってしまいました。
嬉し涙で滲む視界の向こうには、微笑むナノカさんの顔が。
でもこのとき、ちゃんと見えていたのなら
私はナノカさんの顔に狂気の笑みが浮かんでいることに気が付いたかもしれません。
痛っ
腕にチクリとした痛み。
大した痛みではなかったけれど気になってよく見ると、ナノカさんの手には注射器が握られていました。
「あの・・・・・これは・・・・?」
中身がすでになくなった注射器を見て言いました。
「ああこれ? これは排卵誘発剤だよ。 妊娠促進の効果があるんだ」
ナノカさんはいったい何人子供が欲しいのかしら。
私、壊れちゃうかも・・・
・・・・・・・・そういえば、その赤ちゃんをどう使うつもりなんでしょうか。
「いっぱい産んでねネネちゃん。 擦り潰して材料にするから」
・・・・・・・・・・・え・・・・・?
今、なんて・・・?
ナノカさんを見上げます。
「だから、これからネネちゃんにはいっぱい妊娠してもらって
受胎してから二ヶ月ぐらいで堕胎して、干して、潰して、薬にするんだよ」
始終笑顔だった。
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
冗談、ですよね・・・?
・・・・えっと、今日は4月1日とかではなかったような・・・・?
「さあみんな、入ってきてもいいよ〜」
工房の扉が軋んだ音を立てて開き、6,7人の浮浪者と思しき男たちが入ってきました。
みんなイヤらしくて汚らわしい目をしていました。
「それじゃあみんな、思いっきりネネちゃんを受精させてあげてね!」
・・・・・・・嫌
・・・・・・・・・・嫌、嫌、嫌っ!!!
ボロボロに破けた服。
黄ばんだ前歯。
フケの浮いた縮れた髪の毛。
鎖をジャラジャラと鳴らす私に、もう何年も風呂に入っていないような
臭くて汚い男たちが近寄ってきます。
「・・・・ナ、ナノカさんっ!」
ナノカさんに助けを求めても、笑ってこちらを見ているだけ。
「だ、誰かぁっ!!」
救いを求めて部屋の中を見渡す。
すると視界の隅に白いものが映りました。
あれは・・・・・・・・・足?
誰かの・・・・女の人の足がすぐ側の木箱の影から見えていました。
その足は靴も靴下も履いておらず、視線を上の方へと辿って行くと
付け根の辺りは白くてベトベトしたものでグチャグチャに汚れていました。
「ああ、ネネちゃんより先に協力してもらったんだよ」
声に降りかえると、そこにはナノカさんの笑顔。
その声は明るくて穏やかで、いつもと全然変わらなくて。
だからこそ、余計に怖かった。
・・・・・・・・・・・・そういえば、昨日から司祭は教会を留守にしていて
あのウシチチ女は一昨日から姿を見てない・・・・・
そういえばあの『犬』の姿も、今日は見かけなかった。
というより、数日前に遺跡に出かけて行ったきり見てないような気がする。
「さあ、早いとこ作業を始めて!」
その言葉と共に、男達は一糸纏わぬ私へと襲いかかってきました・・・・・
材料 ネネ・ハンプテン 完