「ん? なんか、ハンマーから変な臭いが・・・」  
ナノカの常備している巨大ハンマーの先端部に顔を近づけ、フンフンと鼻ならしてみる。  
「わっ、わっ、ちょっとスツーカっ!」  
ひとしきり臭いを嗅ぎ終わったナノカのお目付役は鼻の頭をペロリと舐めて。  
「・・・・・おいナノカ、オナニーは程々にしてお・・アガッ!!」  
巨大なハンマーが一閃され、犬型のEマテリアルウエポンは壁まで吹き飛び、沈黙した。  
 
 
 
・・・・・・・という恥ずかしいやり取りが行われたのが数日前のこと。  
ネネは今日も今日とて、プロスペロ工房に遊びに来ていたのだが・・・  
「あら? ナノカさんはお休みのようですね・・・」  
ここのところ依頼が相次ぎ、よほど疲れが溜まっていたのだろう、  
立てかけの図版に突っ伏すようにして居眠りをしていた。  
しかたがないな・・・と笑顔でため息をつき、ナノカの部屋から薄手の掛け布団を持ってきて  
その細い肩にかぶせる。  
寝言をつぶやく無防備な顔を見ていると、なんだか無性に愛おしさが込み上げてきて  
つい、指で頬をつついてみたくなった。  
ナノカの頬は柔らかくて、プニプニと押し返してくるような弾力が楽しくて、気持ち良くて。  
いつまでも触れていたくなってしまう。  
これだけでなんだかとても幸せな気分になり、ナノカが目を覚ますまで眺めていようと思い椅子を探した。  
すると視界の隅に、いつも彼女が愛用している巨大なハンマーが映った。  
それを見たネネは、数日前のナノカとスツーカのやり取りを思い出す。  
・・・・・・・・・・・・・  
・・・・・・・・・・・・・  
・・・・・・・・・・・・・  
ネネのお腹の中で、グルリと蠢くものがあった。  
 
犬、曰く。  
ナノカはこれでオナニーをしている、と。  
・・・・・・・・・・・・・・・・  
・・・・・・・・・・・・・・・・  
・・・・・・・・・・・・・・・・  
 
部屋の中をキョロキョロと見まわす。  
・・・・・・・・・・・・他には誰もいない。  
ナノカを見る。  
スヤスヤと根息を立て、やすらかに眠っていた。  
杖を見る。  
それはいつもの作業台に立て掛けられていて、金属独特の鈍い輝きを放っていた。  
もう一度部屋をキョロキョロと見まわし、ナノカが眠っていることを確認する。  
心臓の動きが急に激しさを増し、全身を血液がものすごいスピードで駆け巡る。  
もう一度ハンマーを見る。  
コグリ、と喉が鳴った。  
側に立ってみると、それはネネの背丈と同じかそれ以上の高さで、あらためて大きいなと思ってしまう。  
考える。  
もし、ナノカが「使う」のだとしたら、どの部分なのだろうか・・・・・?  
大きいほう・・・?  
いや、これではいくらなんでも壊れてしまう。  
柄の部分?  
いやいや、もっと使いやすい場所だろう。  
となると、残るは・・・・・  
小さいほうの先端部を見た。  
そこは調度良い大きさで、さらに先っぽが二つに割れていて  
小さな豆粒程度のものならば、楽々はさめてしまいそうに見えた。  
 
想像する。  
この小さい方の先端部でナノカが自慰にふける姿を。  
もしこれを使うというのならば、身体のどの部分にどのようにして使うのだろうか?  
小さな胸の頂き?  
いや、どちらかというと、もっと敏感な部分ではないだろうか。  
だとすれば・・・・・・・  
 
ネネはさらに想像する。  
オリファルコンで出来た硬い先端部を熱を帯びた瞳で見つめ、小さな舌を這わせる。  
ペロペロとツバを塗りつけるように舌が表面をなそり、先っぽを口の中に含んでチュウチュウと音を立てて吸う。  
口内でひとしきり舐め回したあと、口の中から取り出されたその部分は  
金属独特の鈍いものではなく、唾液まみれのぬらりとした輝きを放っていた。  
今度はその十二分にヌメりを帯びたモノを、股間へと近づける。  
スカートを捲り上げると、パンツは履いていなかった。  
まだ毛も生えていないナノカの女の子の部分が惜しげもなく晒され、しかもそこはすでに少しばかりの潤いを湛えていた。  
ハンマーの先端部を押し当てると、チュクリ・・・という粘質の水音がやけに大きく聞こえ、  
ナノカは鉄の冷たさにゾクリと震えながらも・・・  
「―――――んん〜〜〜〜〜〜」  
ナノカの唸り声に、ネネは一瞬で現実に引き戻された。  
口から心の臓が飛びださんばかりに驚き、振り向いた。  
少しちびったかもしれない。  
振り向いた先には寝ぼけ眼のナノカが両手を天井へと伸ばし、思いっきり伸びをしていて  
ボ〜〜っとした顔で部屋を見渡し、そこで初めてネネの存在に気づく。  
「―――――あ〜〜〜〜〜、ネネちゃん・・・・・・・・おはよ〜〜〜〜」  
目を擦りながらの、ずいぶんと間延びした声のあいさつだった。  
「うわあぁあぁっ!!! ・・・・・・お、おはようございます、ナノカさんっ」  
熱情の汗が冷や汗へと取って代わり、引きつった笑顔をナノカに向けた。  
まだ頭はハッキリとしてないらしく「ん〜〜〜〜〜」と唸りながら何もない壁を見つめていた。  
「・・・・・・あ、あのっ、じゃあ私はこれでっ!」  
わたわたと慌ててドアを開けて外に出た。  
ナノカで妄想に浸っていたことが妙に恥ずかしくなり、  
ネネは赤く染まった顔を隠すように急いでプロスペロ工房をあとにしたのだった。  
 
・・・・・・・・・・・・・・  
・・・・・・・・・  
・・・・・  
工房を飛び出して大通りを一つ渡り、ようやく一息つけた。  
深いため息をつきながらふと、自分が無意識のうちに掴んでいた物を見る。  
『ハンマーのお姉ちゃん』  
以前小さな子供がナノカのことをそう呼んでいたぐらいに特徴的な形の大金槌。  
それが握られていた。  
どうやら慌てふためきついでに持ってきてしまったらしい。  
だがその巨大なハンマーを見た瞬間、再び先程の妄想が蘇る。  
ナノカさんがコレで・・・・・  
もやもやとしたピンク色の雲がネネの頭上に浮かび、あっという間にモザイクが掛かる。  
またもや彼女の腹の底で、グルリと蠢くものが鎌首をもたげてきた。  
ネネは考える。  
・・・・・・・・・・・・  
・・・・・・・・・・・・  
少し考えて、ちょっとだけ。  
ほんのちょっとの間だけ、借りることにした。  
 
心臓の動きが速くなる。  
後ろ暗さからか、歩みの速度も速くなる。  
チラリと見た街のショーウィンドに映る自分の顔はずいぶんと火照っていて、街行く人々の目を気にしながら  
ハンプテングループの経営するレストランへと家路を急いだ。  
END  
 

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