夕暮れの工房にて。
ナノカはせわしなく走り回っていた。
「どうしたんだナノカ?」
「ガァッ!」
ナノカの異変に気付いたらしいスツーカとヤクトテンザンがナノカに声をかけると。
「今日ね、ノキの家に泊まりに行くんだっ☆」
着替え−ジュニアアカデミーの制服であることには変わりないが−を鞄に詰め込みながら、ナノカは破顔一笑そう言った。
ネオスフィアに彼女らが来て数ヶ月、もう一年と言っても過言ではないほどの時が経っていた。
最初は元老院の執拗な企みに邪魔もされていたが、全ての地区において発展と成功をあげたナノカの名前は既にネオスフィア中に広がっている。
女王エリンシエの冠を作ったのも記憶に新しい。
「いらっしゃいナノカ!本邦初公開、ここが私の家だよっ☆」
「うわー、おっきいね・・・・」
ノキと区長区で待ち合わせた後、ナノカ達はノキの家に訪れた。
あのエリンシエの住む王宮程ではないが、工房暮らしのナノカには憧れに十分値する屋敷だ。
「ノキってやっぱりお金持ちだねぇ」
「私じゃなくてパパなんだけどね、お金持ちは」「そうだね、ノキは庶民派の区長さんだもんね」「まだ言うか・・・」
玄関へと進みながらの、懐かしいやりとり。
ナノカの毒舌に、ノキは苦笑する。
「そう言えばナノカは着替えとか持ってきてる?私が見る度にジュニアアカデミーの制服なんだけどさ?」
ノキが不意に訊ねた。
たまには私服姿のナノカも見てみたいと思ってるらしい。
クオンもそれは見てみたい気がする。
「え?ジュニアアカデミーの制服しか持ってないよ、服」
時間が、空間が、ノキが、パキパキと音を立てて崩れ始める・・・・。
「うわぁ!?ノキ!?ノキ!?」
地面に突っ伏すように倒れるノキを目前に、ナノカは混乱を極めた。
「いやぁ、いきなり顔から地面に倒れるんだもん。びっくりしたよ」
「私もよ・・・まさかとは思ってたけど本当にジュニアアカデミーの制服しか持ってないなんて」
ノキが驚きの余り地面に突っ伏した後、髪や顔に泥がついたという事を理由に、二人は風呂に入ることにした。
その風呂の大きさにもナノカは驚き、ノキはジュニアアカデミーの制服を当然至極とばかりに持ってくるナノカに驚いた。
「ちゃーんと可愛くしなきゃダメだよ?ナノカは磨けばアイドルにだってなれるんだからっ!」
「無理だよぉ。フォーリィやフェアリさんみたいに胸が大きくないと」
ナノカは湯船に浸かりながら、頭をガシガシ洗うノキの胸に目をやる。
フォーリィやフェアリのようにメロン二玉とはいかないものの、キレイに形が整った美乳だ。
サイズも悪くない。
「せめてノキぐらいのサイズは欲しいよね・・」「それよりナノカは、まずお洒落を覚えなきゃ。一生涯工房士かつ独身って訳にもいかないでしょ?」
「やー、それでもいいかなーと思うのが現状なんですよー☆」
あははー、と苦笑するナノカを見た(ような体勢の)ノキは、頭の泡を湯で洗い流しながら一人決意する。
私が、何とかしなくてはと。
───────────「あー、美味しかったよ、ノキの料理♪」
「ナノカだって、王宮御用達の料理を作るんだもん。すごいよ」
王宮御用達の料理自体ナノカが作っていたのだが、ノキはそれを知らない。
二人の寝るベッド(当然ダブル)に座りながら、二人は談笑する。
楽しい時間は早くすぎると言うが、それはまさに今のことだろう。
部屋に戻ったのが午後九時ぐらいなのに、もう時計は午後十一時を指している。
(そろそろかな・・・)
この時間帯なら、家の者は皆寝静まっている筈。このチャンスを逃すまいと、ノキは動いた。