「くー、すやすや・・・」  
「ナノカ・・・もう寝てしまったのか・・・、余はもっとそなたと・・・いや、疲れておるのだな・・ゆるりと休むがよい・・」  
ここはプロスペロ発明工房"本店"のナノカの部屋。  
 
エリンシエのネオスフィア女王退位そして、帝国への留学と称した人質生活から数日が過ぎた。  
形としては国賓扱いであるエリンシエの帝国の対応は確かに制限つきではあるが自由ではあった。  
が、心暖まる環境とはお世辞にも言えるものではなかった。  
「(いわゆる飼い殺しというやつじゃな・・・)」  
帝国にしてみれば災いのタネ、目の上のコブ。闇に葬れるものなら葬っておきたい。しかしネオスフィアの元女王である。  
国賓として扱うと明言した以上は、それを守らねば帝国の、他国における信用問題に影響する恐れがある。  
「(いくらナノカと同じ国に住めるとはいえ、やはり・・・)」  
悲嘆にくれるエリンシエを一人の男が黙ってみていようはずがなかった。  
伝説の発明家にして大工匠、ナノカの祖父、プロスペロ・フランカその人である。  
 
 
数時間前ーエリンシエの部屋にて  
「・・・と言う訳で、今日から私たちと一緒に暮らすこととなりました!」  
「・・・・・・・・え?ナノカ、それはどういう・・・」  
「おジイちゃんがね、陛下に話をつけてくれたんだよ!"責任は全てこのワシがとる!"って!  
 せっかく帝都に住むことになったのに、会うのも自由にできないなんてつまんないもん」  
「え、だ、だって余の頭の中には統一戦争中の帝国との密約がぎっしりとあるのだぞ・・・そんな簡単に  
あの皇帝が許したりなどするものか・・・」  
「そりゃ、ま、ひと悶着あったがね。  
 マスターが皇帝や閣僚達の前でバールのようなスプレンディッドインパクト振り回して  
"ガタガタ抜かすとこんガキャア!全員、道頓堀(とんぼり)に沈めてハッピーフィッシュのエサにさらすぞワレェ!"  
 と暴れまくったからなあ・・・脅しが効きそうにない相手にはちゃんと事前に裏金をずいぶん流してだな・・・」  
「スツーカ!しーっ!!・・・と、とにかくおジイちゃんが陛下に直訴して一緒に住めるようにしてくれたんだよ。」  
「・・・本当?本当なのか?夢ではないのだな?ナノカ!」  
「うん!今日から私たちの家族だよ。よろしく、エリンシエ。」  
「・・・うっ、ううっ・・・ぐすっ・・・」  
「・・・あ、もしかして・・・泣くほど嫌だった・・・かな?」  
「違う!喜んでいるのだ!!プロスペロ殿には感謝の言葉もない。今、どちらにおられるのだ?」  
「マスターなら、またいつものフィールドワークに出かけた。ついては高貴なお人にマスターから伝言があるのだが。」  
「・・・余、いや私のことはエリンシエと呼んで欲しい・・・伝言を承ろう」  
「では、エリンシエ。"ワシのことは「お兄ちゃん」と呼ぶように"・・・だ、そうだ・・・」  
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」  
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」  
「・・・考え直すなら今のうちだぞ?正直、ワタシもマスターに最近ついていけなくなってな・・・」  
「・・・努力はしてみる。」  
「・・・いや、しなくていいから。」  
 
 
回想終わり  
すやすやと寝息を立てているナノカの指をそっとすくいあげる。  
「余とたいして変わらぬ細くてまるで白魚のような綺麗な指なのに・・・この指から奇跡が生まれたのだな・・・」  
何でも創ることができる魔法のような指。自分の愛する国を、民を守ってくれた愛しい指・・・  
 
「・・・んっ、ちゅぷ・・んっ、ちゅっ」  
 
気が付いたらナノカの指を口に咥えてむさぼっていた。  
「・・・んっんっ、ちゅっ、ちゅう・・・んぷはぁっ・・・ああ・・なんて愛しい指なのだ・・・」  
ふやける位にしゃぶり続けたナノカの指をエリンシエは自分の女の子の部分にそっと触れさせる。  
「ふあぁ・・あっ、ああっ・・気持ちいい・・・すまない、ナノカ・・・このようなこと・・・でも止まらないよぉ・・・」  
指を押し付け、小刻みに腰を動かす。唾液で濡れそぼった指は自分の大事なところにほどよくなじむ。  
「やぁっ・・・自分でするより・・・ナノカの指だからか・・・はぁはぁ・・・いやぁ・・・止まらない・・・あうっ・・・」  
目の前のナノカの寝顔に荒い息を吐きながら、思わず涙ぐむ。  
「なぜ、そなたは女なのだ・・・そしてなぜ余は女なのだ・・・どちらかの性が異なっておれば、こんな切ない  
想いをせずに済むのに・・・んっ・・・でも、余はそなたを誰にも渡したくない・・・たとえそれが・・んあっ・・・  
許されぬ想いであろうとも・・・くっ!」  
ナノカの指をさらに強く押し付け、腰はより激しく動く。ぬちゃぬちゃと滴る音が部屋中に響きわたる。  
蒸気した頬はさらによりいっそう赤みを増し、目は焦点が定まらないのにナノカの寝顔だけははっきりと見える  
 
「あああっ!んんっ、ナ、ナノカぁ!んあああっ!!・・・あ・・・あぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」  
 
絶頂に達してナノカの隣にぐったりと横たわり、自分を愛してくれた指をきれいに舐める。  
「んっ、くちゅ・・・ふふ、唾液でべとべと・・・大好きだ・・・ナノカ。愛してる・・・これからもずっと余のそばに・・・」  
「私も大好きだよ・・・」  
「!? ナ、ナノカ!まさか、ずっと起きて・・・」  
「・・・ずっと大好きだったんだよ・・・このオリハルコンチップの輝き具合・・・んん〜さすがおジイちゃん・・・我が祖父  
 ながら実にいい仕事してますねえ・・・ムニャムニャ・・・」  
「・・・寝言か。いったいどんな夢を見ているのやら・・・クスッ」  
 
 
翌朝  
ドドドドドドドドドド!!バターン!!  
勢い良く工房のドアが開かれて、現れるはご存知、自称ナノカの恋人ネネ・ハンプデン。  
「おはようございます!ナノカさん!!今日はまた一段といいお天気ですよ!具体的にはデートに最適なお天気です!」  
「おはよう、ハンプデン殿。本当に雲一つない良いお天気ですな」  
「!?」  
そこにあるべきものがなく、そこにあるはずがないものが優雅にお茶を飲みながら微笑んでいる。  
「エ、エリンシエ女王、じゃなかったエリンシエ様?で良いのかしら、いやそうじゃなくて、  
 なぜ!貴女が!ここに、いらっしゃるのですか?」  
「余、いや私は昨日からここにお世話になることになりました。プロスペロ殿のはからいでな。  
 あと、私のことはエリンシエと呼んでくださいませぬか。もう女王ではないのですから。」  
「な、なななななななななななぁんですってぇ!!」  
 
「ふわぁ〜、おはよう〜。スツーカ、コーヒーちょうだい〜。うーんとブラックなやつ〜」  
「コーヒーどころじゃありません!ナノカさん!!これはいったいどういうことなんですか!!」  
寝ぼけ眼をこすりながら降りてきたナノカに詰め寄るネネ。  
「ふぇっ!あ、お、おはようネネちゃん。どうって・・・何?」  
「私がナノカと一つ屋根の下で二人っきりで一晩過ごしたことについて何か問いたいとのことだ」  
シレッとした顔でお茶を飲んでるエリンシエ。  
「・・・いや、下にはワタシやテンザン、フェンサーもいるんだが・・・ていうか何だそのツッコみ所満載の説明は」  
「犬とロボと鳥なんてどーでもいいんです!ふ、二人っきりぃ!ふたりっきりぃぃ!!」  
「あー、エリンシエのこと?おジイちゃんが陛下に頼んで、昨日からうちの家族になったんだよ」  
「頼んだ、のか?・・・脅迫だよなありゃ・・・我がマスターながら、剣呑なお方だ」  
「家族!おジイ様が?皇帝陛下に?・・・ま、まぁ家族ですか。そうですか、そういうことなら・・・  
(なんて事ですの。でも家族ならばこれといった障害にはならないですわね。ていうか戸籍とかどうしたのかしら。)」  
「エリンシエの部屋も用意しなくちゃね。私といっしょだとせまいでしょ?ベッド窮屈じゃなかった?」  
「私は・・・今のままでいい。ううん、むしろ今のほうがいい・・・ナノカのぬくもりを感じる・・・」  
 
"ビキィッ!!"  
 
「・・・いま、なんて仰いました?ナノカさん。」  
「え?部屋がまだ用意してないから昨日は私と一緒のベッドで寝たんだけど、エリンシエがそれでいいなら・・・」  
「一緒に!ナノカさんと!誰が!いつ!どこで!寝たですってぇええええええええええ!!」  
 
"ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ"  
 
「お、落ち着け!落ち着くんだ、お嬢ちゃん。そうだ!とりあえずコーヒーでも・・・」  
「ナノカさんと身も心も超親友なこのワタクシですら、そんな幸せ空間に引きずりこまれたことがないというのに!!  
ていうか二度目?これで二度目のはずですわね?しかも"ぬくもりを感じる"ですって?」  
ワナワナと握りこぶしを振るわせるネネ。その姿はさながら怒りをまとう闘神のようである。  
「え、えと?ネネちゃん?」  
「ナノカさん!」  
「は、はい!」  
「早急にエリンシエさんのお部屋を用意するべきです!!必要ならうちの引越し兼清掃スタッフを使っても構いません!!  
自分の部屋をもってこそ一人前の大人への第一歩!!さあ!今すぐにとりかかりましょう!!  
ああもう、いっそ家一軒くらいプレゼントして差し上げますわ!!郊外にいい物件が・・・」  
 
「ハンプデン殿、私はナノカといっしょの部屋がいいと言っているのです。」  
お茶を飲み終え、優雅に微笑みながら凛とした声で言い放つ。  
「なにしろ前は女王を務めていたのですからな。十分、大人です。心配してくれてありがとうハンプデン殿。」  
「!?(こ、この笑顔、間違いない。敵。そう、敵ですわ。それもかなりヤバい!!この女は危険。私の中のゴーストが  
そう囁くのよ。何ですのその"もうこの女はワタシのモノよ。負け犬はとっとと巣にお帰りなさい"みたいな獲物を  
咥えた蜘蛛女のような笑顔は!!)」  
 
「ところでネネちゃん、今朝はまたずいぶん早くきたけどどうかしたの?急ぎの依頼?」  
あいかわらずこの辺りの空気がまったく読めてないナノカ。  
「い、いえいえいえいえ。あんまりいい朝なものですから散歩でもご一緒にいかがかと思いまして・・・」  
「そっか。朝の散歩は気持ちいいし、澄み切った空気は頭も冴え渡るもんね。それじゃあみんなでちょっと歩こうか。」  
「では、参ろうナノカ・・・どうされました?ハンプデン殿」  
「い・・・いえ、何でも・・・何でもございませんわ。  
(悪夢よ・・・これは悪夢なんだわ・・・負けてはダメよネネ・ハンプデン・・・ああ空はこんなにも蒼く澄んでいるのに・・・)」  
「じゃスツーカ、テンザン、フェンサー、留守番お願いねー」  
 
「・・・ああも空回りすると端から見てて気の毒になるなぁ・・・」  
「・・・ガッ」  
「よろしいのですかスツーカ。あの3人をほっといて」  
「昔から言うだろ?"人の恋路を邪魔するやつは馬に蹴られて何とやら"だ。」  
「・・・下手に口を挟むととんでもない目に逢いそうだからほっておくんですね」  
「・・・ガッ」  
「じゃあ、お前等どうにかするか?」  
「・・・ガガッ」  
「・・・ワタクシは偵察任務が主体ですので」  
「とりあえず、退屈だけはしなくて済みそうだ・・・」  
「ひどいナノカ・・・浮気者・・・」  
「うわっ!ラファルー!いつからそこにいた、お前!!・・・・・朝早くで何だが飲むか?私のおごりだ。」  
 
フィールドワークから帰ってきたプロスペロにネネとラファルーからの激しいやり場のないメガ・ドグラノフ級の怒りが  
叩きつけられるのはそれから3日後のことである・・・  
 
 

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