「なあなあ、知ってるか?今度この街に越してきた娘。」
「おー、知ってる知ってる。あのメチャ可愛いコだろ?名前は確か・・・」
「すでにチェック済みだぜー。ナノカ・フランカって名前だってよ。何でも工房士やってんだと。」
「マジで?チョー可愛いのに工房士?頭よくね?俺のハートにズキュンッて来たぜ?」
「お、俺、ちょっとアタックしてみようかな?」
「「おめーのツラじゃ無理だよ」」
「そこの3人組?言い残すことはそれだけでよろしいかしら?」
「「「ハァ?」」」
どこからともなく聞こえてきた声に振り向いた彼らの見たものは、見た目鍛えてます風味のやたら
屈強な黒服が1ダース。
「な、なんだよ!あんたら!!」「お、俺たちに何か用すか・・・」「(((( ;゚д゚)))アワワワワ」
「問答無用・・・貴方たち、ゴミを片付けて街をきれいにしてさしあげなさい」
「ハッ!お嬢様!!」
「「「ウギャアアアアアアアアアアアアア!!」」」
「・・・まったく。薄汚い男の分際でワタクシのナノカさんに手をだそうなどとは・・・万死に値します。」
ため息をつきながら物騒なことを呟くはご存知、自称ナノカの大親友兼恋人兼パトロンのネネ・ハンプデン。
「ナレーター!”自称”と”パトロン”の部分は余計ですわ!!」
・・・・・・・・失礼しました。
「今日もナノカさんの平和が守れてめでたしめでたしですわ。」
「相変わらず、金にまかせて平然と恐ろしいことをやるわね・・・ネネ。」
「あら、偶然ですわね。フェアリさん。・・・でもアナタにだけは言われたくないですわね。その手にある
物騒なモノはいったい何なのかしら・・・」
「あら、それこそ偶然よ。たまたまちょっとさかりのついたオス猫を去勢しようと思っただけよ。ほんとに偶然よ?」
最新式のドグラノフを抱えながらしれっとしているのはご存知、自称ナノカの恋人兼愛人兼・・・
「そこ、うるさい。」ズキューン!!
・・・・・・・・ナレーター再起不能(リタイヤ)
「ま、手段はともかく目的は同じ者同士。いいとこで会ったわ。ここはひとまず共同戦線といってみない?」
「共同戦線?先ほどの不逞の輩でしたら、明日の太陽を拝むことなどもう二度とありません。」
「あんなチンピラなんかどーでもいいの。・・・その様子だとアンタ知らないみたいね。」
「何がです?」
ネネに近づき、声をひそめてささやくフェアリ。
「・・・信じたくない話なんだけど、どうもナノカに好きな男ができたみたいなのよ・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ネネ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「おーい、金持ちちゃーん。戻ってきなさーい。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ダメだわ。立ったまま気絶してる。ねえちょっと、そこの黒服さん。とりあえずこの娘ヨロシクね。」
・・・30分後、ホテル・ハンプデンズ内スィートルーム。
「・・・すー、はー、すー、はー。」
「もう大丈夫みたいね。まったくもう、街中で立ち往生なんてしないでちょうだい。街の人みんな見てたわよ。」
「元はと言えば、アナタがロクでもないよた話を持ち込むからいけないんでしょう!!」
「よた話ならいいんだけどさ・・・どうも本当にあのコ、男ができたかも知れな・・・」
「ありえません!そのような話は夢です!幻覚です!蜃気楼です!何か根拠でもおありなんですか!!」
「・・・なければこんな話、アンタにするわけないでしょ・・・」
「・・・・・え?」
いやに深刻な表情をするフェアリにさすがに心配になるネネ。
「どこから話せばいいかしら・・・話せば長くなるようで短いんだけど」
「短かろうが長かろうが話して頂きます!ていうか短いならなおさら話して!全部!あまさず!さあ、早く!!」
「わ、わかったから。落ち着いて・・・あれはこないだナノカが診療所へ納品しに来て、で、アタシがいつものとおり
あのコに注射を・・・」
「ちょっとお待ちになって!アナタ、いつもナノカさんに何を注射してるんですか!!」
「話の腰を折らない!注射はただの栄養剤よ。いつかはそれ以上のこともするつもりだけどそれはさておき・・・」
「何だか、一番最初にアナタを始末しなくてはならない気がしてきましたわ・・・」
「いいから黙って続きを聞きなさい。で、栄養剤を打とうとするアタシから逃げ惑うナノカをむりやり力ずくで・・・」
「・・・・・そろそろワタクシの我慢も限界なんですけど?」
「ここからが大事なの。そのときあのコの手帳が落ちたのよ。その時は気が付かなくて、ナノカが帰ってから
見つけて拾ったんだけど・・・。」
ポケットから一冊の手帳を差し出す。
「・・・これってジュニアアカデミーの生徒手帳じゃありませんか。別にナノカさんがお持ちになっても不思議じゃ・・・」
「・・・そんなことはアタシも知ってる。問題なのはこの一番最後のページに挟まってるコレよ・・・」
「な!こ、ここここ、この写真は!何者ですか!これに写ってるこの男は!!」
生徒手帳の最後のページには、一人の若い、それもかなりの美青年が写った写真が挟まっていた。
「・・・手帳に写真を挟んでいた、それも若い男の。これが意味する答えは一つ・・・」
「聞きたくありません!・・・・・・・・そういえば、先ほど共同戦線と仰いましたわね?」
「言わなくてもわかるでしょう?アタシはアンタに情報を提供した。で、アンタはそれをどうするの?」
「・・・とりあえずその手帳はナノカさんにお返しください。写真の方は伏せたままで。気が付いてないフリをして下さい」
「ネネ?」
「写真の方はコピーして、早急にうちの情報部を総動員して何者なのか調べさせます。」
「言い出しっぺのアタシが言うのもなんだけど、これってプライバシーの侵害よ?それでもいいの?」
試すような口ぶりでネネに問うフェアリ。だがネネの目には決意という名の炎がすでに燃え盛っていた。
「相手の男のことをナノカさんがすっ・・・すっ・・・ぐぐぐ・・・好きかどうかはさておき、まずはこの者の正体を
知ることが先決です。この男がろくでもない輩ならば・・・墓場に名のない新しい墓標が一つ立つだけのことです。」
「・・・・・アンタのそーいうところが好きよ。当然、アタシも手を出させてもらうわよ、いいわね?」
「もともとはアナタが持ち込んだ話ですから、どうぞご自由に。共同戦線、喜んで張らせて頂きますわ。」
今ここネオスフィアに二人の女の美しい友情(?)が誕生した。
・・・・・それから一週間後、ホテル・ハンプデンズ:スィートルーム
「いったいどういうことですの!!我が情報部は帝都情報部と互角といわれるくらい優れた機関ですのに!」
「・・・もうしわけございません、お嬢様。ですが帝都、トリスティア、ネオスフィア、いずれの都市にも、該当する
人物が存在しないとの報告が・・・」
「いいわけは聞きたくありません!他の都市まで範囲を広げなさい!手段は問いません!」
「・・・そのくらいにしたら?ネネ。」
「フェアリさん?まだ捜査を開始して一週間ですわ。それとも・・・アナタのナノカさんへの想いはその程度なんですか?」
侮蔑したような視線に対し、落ち着き払った態度でその目を見返すフェアリ。
「・・・ハンプデンの情報網は良くも悪くも優秀よ。その機関がいないということはその人物は存在していない可能性が高い」
「じゃあ、あの写真は?あの写真の説明はどうおつけになるんですか?あの男がナノカさんの夢枕に夜な夜な立つのか
と思うと、気が気でなくなってとても枕を高くして眠れません!!」
「手段は問わないって言ったわね?・・・ならバレたら最悪、二人ともナノカに嫌われるけど方法がないこともないわ」
「!!・・・・・・・・・伺いましょう。その方法とやらを」
「簡単よ。ナノカのとこの工房に盗聴器を仕掛けるの」
「ハ?そんなことできるわけがないでしょう!いやしくもナノカさんのプライバシーを侵害するような真似など・・・」
「もう十分してる。いい?アタシたちはもう十分にナノカのプライバシーをかなり侵害している。OK?」
「ま・・・まあ確かに・・・ですが、ナノカさんの幸せのためには・・・」
「違う。ナノカの幸せだけじゃなくて、アタシたちの幸せのためでもある。そこは誤魔化しちゃダメよ。」
「・・・・・・・・・・その通りですわ。ワタクシはナノカさんのことを愛してます。友情ではなく女としての愛。わかりました・・・
行き過ぎの感がしなくもありませんが、やむを得ません・・・」
「それでこそ、ネネ・ハンプデンよ!盗聴器はアタシが用意する、設置もまかせて・・・」
「それはできませんわ。毒を喰らわば皿までと申します。ワタクシもお供いたしますわ。」
「ネネ・・・アンタ、いいお嫁さんになるわ(でもナノカはアタシの嫁だけど)」
今、ここネオスフィアに最強のタッグが誕生した。
「手はずはさっき言ったとおりよ。要するに工房の全員が不在の間にナノカの部屋に仕掛ける。」
「大丈夫ですわ。ナノカさん達は王宮へ納品に出かけて留守、テンザンさんは廃墟の片付けで留守・・・あとフェンサーさん
は今は帝都にいて留守・・・問題ありません」
プロスペロ工房前に立つ二人。その体からは決意という名のオーラで満ち満ちている。
「合鍵はずっと前から作ってあるから、心配無用・・・って開いてる。無用心ねえ。」
「ワタクシはそれよりも前から合鍵を作ったアナタの方を問い詰めたいですわ・・・何の目的で作ったのやら」
こそこそと工房へ侵入する二人。
「さっさと仕掛けるわよ・・・ナノカの部屋は確か二階ね・・・」
「・・・今更ながらすごい罪悪感が沸いてきますわ・・・」
「それこそ今更何言ってるのよ!こうでもしないと正体がわからないのよ?ろくでもない男でもいいの?」
「何がろくでもない男でもいいんだい?可愛いコソ泥さん達」
「ひっ・・・・・・・・」
「なっ、気配は感じなかったのに・・・」
二人の後ろに立つのはご存知、自称ナノカの親友兼恋人兼家族のラファルー。
「将来のナノカのおムコさんも追加してくれないかい?」
・・・・・・・・・失礼しました。
「あ、あら!ラファルーさん!奇遇ですわね!こんなところで!!」
「久しぶりねラファルー。トリスティア以来かしら。」
冷や汗だらだらのネネと澄ました顔のフェアリに対し、冷たい視線を投げるラファルー。
「キミたちはここでいったい何をやろうとしてるんだい?じっくりと聞かせてもらいたいんだけどね・・・」
「ご、誤解ですわ!ワタクシ達は別にナノカさんの部屋に盗聴器を仕掛けようだなんて事はこれっぽっちも
考えていないですわ。オホホホホホホ!!」
「・・・・・・・・・・・・バカ。」
「ふーん、盗聴器か。ナノカの部屋に、ね。さて、プロスペロ工房の一員としてはこういう輩はどういうふうに
始末したらいいものか・・・ナノカにちくった方がキミたちには効果的かな?」
「待った。事情があるのよ。アンタも一口乗らない?」
「理由があるなら聴こうか。もっとも・・・事と次第によっては・・・」
写真の件について説明するフェアリ。ラファルーの顔がみるみる青ざめていく。
「・・・・・・そ、そりゃあ彼女だってお年頃なんだから、好きな男のひ、一人や二人くらいいるだろうね。」
「声が震えてますわ。」
「だ、だからといってそんな非人道的な行為を見逃せとボクに言うのかい?ナノカの家族の一員であるこのボクに。」
「家族なら尚更よ。大事な家族がもし、ろくでもない男に騙されようとしてるのなら、アナタ、それを放っておく気?」
「ナ、ナノカはああ見えてしっかりしているから。それにスツーカだっているし。」
「スツーカさんは確かに色事の道にもお詳しい方ですわ。でも、それは自分のお話。ナノカさんのことをいまだ
子供扱いしている分、そういうことには意外と気がつかれないかも知れませんわよ?」
「プ、プロスペロが・・・ナノカの祖父が黙ってないよ」
「帝都とここじゃあ距離があるわよ。気が付いたら手遅れになってでもしたらどうするの?さあ、決断の時よ!ラファルー!」
「・・・・・・・・・わかった、協力しよう。ただし、その男の正体がわかったらすぐに外すんだ。それ以外の彼女の
プライバシーについては一切、触れないこと。これだけは約束して欲しい。」
「当然ですわ。ワタクシ達はナノカさんを守るいわば同志。約束の必要もありません。」
「話がまとまったところで、仕掛けておくわ。」
・・・・・・・夜。プロスペロ工房近くの廃墟跡
「で、盗聴器の具合はどうだい?」
受信機をいじっているフェアリを興味深そうに見るラファルー。
「感度は良好よ。帝都の情報部で使われている最新式のやつなんだから。そりゃもう100m先の針が落ちた音だって
聞こえるくらいよ。」
「・・・・・・どういうルートで手に入れたのかそのあたりをじっくり問い詰めたいですわ。」
「しっ、ナノカが部屋に入った・・・」
”シュルシュル・・・バサッ・・・スッ・・・バサッ・・・”
「服を着替えてる音ね・・・パジャマね多分」
「・・・ナノカさんのパジャマ姿・・・ハァハァ・・・」
「ネネ、鼻血がでてる。」
”おやすみなさい、おジイちゃん。チュッ。”
「おジイ様の写真にキスしてるみたいね」
「・・・ワタクシも写真になりたいですわ」
「相変わらずおジイちゃん子なんだな、ナノカ。」
”あと、こっちの若い頃のおジイちゃんにも。チュッ。”
「!!・・・・・・なるほど、そういうことだったのね・・・」
「・・・もしかして、あの写真って・・・」
「・・・若い頃のプロスペロ・・・ナノカはああいうのが好みなんだね・・・」
ホッとして座り込む。三人の表情は深い安堵に包まれていた。
「フェアリさん。まったく・・・アナタという人は。ほんっとに、人騒がせな!」
「まったくだよ・・・ナノカに彼氏だなんて。ネネ、キミも人のことは言えない」
「な、何よ二人して悪者扱いして。いいじゃない。誤解だったんだから。」
”あ・・・あん・・・んっ、んんっ・・・”
「「「!?」」」
受信機から流れる喘ぎ声。示し合わせたように静かになる三人。
”んっ・・・んくっ!・・・・はぁはぁ・・・あん・・・気持ちいいよぉ・・・”
「フェアリさん・・・録音できますわよねこれ。」
「もちろんよ。あとでダビングしとくわ。」
「ちょっ・・・ちょっと二人とも、プライバシーは侵害しないって・・・」
「ラファルーさんはテープいらないそうですわ。」
「・・・今回は外すヒマがなかったから仕方ない。・・・ボクの分もお願い。」
”あっ・・・ああっ!・・・いいっ!こすれる・・・こすれちゃう・・・・やぁ・・・見ないで・・・おジイちゃん・・・あうっ・・・”
「ナノカ・・・もしかして若い頃の祖父に?」
「・・・ナノカさん、ああいうタイプがいいんですか?ぐすっ・・・」
「・・・ちょっと帝都まで文句言いにいってこようかな。」
”ダメッ・・・おジイちゃんに見られてるのにぃ・・・あっ・・・はうっ・・・あああっ!・・・ザー!ガガーッ!!ピーッ!!”
「なななな!何ですの!今、いいところですのに!!」
「フェアリ!早く直すんだ!急いで!」
「そ、そんなこと言われても・・・えーい、もう!このポンコツ!!」
ドカッ!
・・・・ガガッ・・・ピー・・・プシュー・・・
「・・・ま、まあ悪いことはおてんとう様が黙ってみてないってことよね」
「・・・ハァ、いいところでしたのに・・・まったく、安物を使うからですわ!これのどこが最新式ですか!」
「・・・ダビングも無理みたいだね。・・・ふわぁ・・じゃあお開きということで。盗聴器は外しておくように」
「「はーい」」
・・・・・・・・翌朝、プロスペロ工房
「おはよう、ナノカ。コーヒーデキタゾノミヤガレ」
「・・・おはよう、スツーカ。それって何かの本の真似?」
「まあ、そんなところだ。ところでナノカ、キミが昨日作った改良版のゴキマインなんだが・・・」
「あ、すっかり忘れてた!あれどうだった?」
「非常に順調だ。素晴らしい成果だ。見てみるか?仕掛けた周りにゴキブリとネズミの死骸が・・・」
「・・・朝からそんなもの見せないでよ。でもそうか、順調なんだ。やったね!」
「今までの倍以上の成果だぞ?いったいどこをどうやって改造したんだ?」
「ふふふ、よくぞ聞いてくれました。今回はゴキブリとネズミが嫌がる超音波の周波数の出力を人間が耐えれる
レベルギリギリのラインまで上げて・・・」
「・・・待て。人間はともかくそれって機械とかにも影響あるのか?」
「んー、どうなんだろ。変な周波数を受信するような機械とかだと影響あるかも知れないけど・・・なんで?」
「却下だ。どうりで夜中じゅう耳鳴りがするなあと思った。キミの仕業だったのか・・・」
「あ・・・・・・・・ゴメンなさい。そこまで気が回らなかったよ・・・」
「いや、別に責めてるわけじゃあない。使い方次第ではいい武器にもなる。例えば盗聴器の破壊とかにだな・・・」
注意:盗聴は犯罪です。良い子のみんなは絶対にマネしちゃだめだぞ!