「かっ、痒いっ! 痒い痒い痒いかゆいいぃっ!!」  
 ノキは股間を押さえながら、自室の床に敷かれた毛足の長い絨毯の上を転げ回っていた。  
 スパリゾートで貰って来た水虫が、ナノカの作った薬でやっと治ったと思ったら、この有様だ。  
 患部が患部だけあって、人に相談するのは恥ずかしい。なので、自分で何とかしてみようと、普段読  
み慣れない本を読んだりして色々と調べてみたのだが、原因はさっぱり分からなかった。  
 さてどうしたものか、と考えてみるが、ノキに与えられた選択肢は最初から二つしかない。  
 ナノカに頼るか、フェアリに頼るか。  
 散々悩んだ末、やっぱり専門家と言うことで、フェアリに診てもらうことに決めた。  
 
「あら、すべすべちゃん。いらっしゃい」  
「もう、そう言う呼び方はやめてくださいよ、フェアリ先生」  
「はいはい。それで、今日はどうしたの?」  
 抵抗はあったものの、黙っていても仕方がない。それに、フェアリが医者だということを考えると、恥  
ずかしさもそれなりに薄れてくる。ノキは思い切って、股が痒くて仕方がないことを説明した。  
「ははーん、なるほどね」  
 症状を聞いたフェアリは、得心したように頷く。  
「ノキ。あなた、水虫が治ったと思って、薬を塗るのやめちゃったでしょ」  
 図星だった。症状が治まったので、もう大丈夫だと思って薬を塗らなかったのだ。だが、いくらナノカ  
の薬が効果抜群でも、水虫──白癬菌と呼ばれるカビ──はそんなに甘くはない。たとえ薬で一時的  
に症状が治まったとしても、投薬を止めた途端、不死鳥の如く息を吹き返すのである。  
 まあ、元々ネオスフィアでは水虫は一般的な病気ではなかった。故に、生粋のネオスフィアっ娘であ  
るノキが、そのことを知らなくても無理はない。  
 ともあれ、ノキが完治したと思っていた水虫は実は治っておらず、その原因となる白癬菌は未だ健在  
だった。  
 ちなみにこの白癬菌、何も足の裏だけを狙って作用するわけでは当然なく、基本的に皮膚ならどこ  
でも、場合によっては爪や頭にも感染してしまう。  
 ノキの場合、それが股間に飛び火してしまったと言うわけだ。俗に言うインキンである。  
 
 それはさておき。  
 水虫とインキンが同じものだと言うことを知ったノキは言った。  
「それじゃ、ミズムシ・エクスターミネートを塗っておけば治るんですね?」  
「そう簡単にいけばいいんだけどね。あれ足用の薬だから、股間みたいにデリケートな場所に使うとか  
ぶれちゃうわよ」  
「そんなぁ……じゃあどうすれば」  
「とりあえず、そのスパッツを脱ぎなさい」  
「……はぁ!?」  
「脱ぎなさい」  
「いや、あの……どうしてですか」  
「いい? 白癬菌ってのは高温多湿を好むの。だから、その活動を抑えるには、まず患部を低温乾燥  
にするの。でも、スパッツなんてはいてたら蒸れちゃうでしょ? だから脱ぎなさい」  
「で、でも」  
「いいから脱ぎなさい」  
「は、はい……」  
 有無を言わさぬフェアリの押しに負け、ノキはスパッツに手を掛け、するりと脱いだ。  
「脱ぎましたけど……これからどうすればいいんですか?」  
 股間を覆っていたものがなくなり、そのスースーした感覚に心許なさを覚えるノキ。  
「それじゃお薬を塗るから、スカートを捲り上げててね」  
「はい……」  
 ノキがスカートをたくし上げると、フェアリは瓶に入った液体に筆を浸けて、ノキの股間にぺたぺたと  
筆先を走らせ始めた。  
「うひゃっ! 冷たっ」  
「我慢なさい」  
「いやんっ……そんなとこっ」  
「まんべんなく塗らないと効果がないのよ」  
「あっ、あんっ……ひゃんっ」  
「ほーれ、ぬりぬりぬーり」  
「やっ、やぁん、んっ……はぁはぁ」  
「はい、終わり」  
 
 フェアリはノキの股間を薬でべたべたにすると、筆を引っ込める。  
 くすぐったさとも気持ち良さとも言えるような感覚から開放されて一息ついたところで、ノキの心臓がド  
クンと一度、大きく跳ねた。  
 それを転機に、ノキの身体は徐々に鋭敏になっていく。ただ、ノキ自身はその変化に気が付かず、  
身体に浸透していく妙な違和感に、ただ不思議そうな顔を見せていた。  
 そんなノキの様子を眺めながら、フェアリはポケットから楕円形の小さな物体を取り出した。  
「じゃあ、次行くわよ」  
「ちょっ……ちょっと、待って、ください」  
 ノキは顔を紅潮させ、はぁはぁと息を吐きながら言った。  
「……何?」  
「あの、それ……何ですか?」  
 その楕円形の小さな物体は、今にもプルプル震えだしそうな雰囲気をしていた。嫌な気配を感じつつ、  
フェアリに確認を取るノキ。  
「これ? インキン治療の秘密兵器よ?」  
 フェアリの胡散臭い説明に、ノキは思いっきり訝しげな視線を返す。  
「嘘。だってそれ、どう見てもロータ……」  
「そんなわけないじゃない! コレはEテクを駆使した医療機器で、その強力な振動から生まれる衝撃  
波で菌を死滅させる、対ウイルス戦における究極兵器よ? まさかそんな、ローターなんかであるはず  
がないわ!」  
 慌ててまくし立てるフェアリ。もっとも、その態度がローターであることを雄弁に語っていた。まあ要す  
るに、通常よりも振動パワーの大きいローターと言うことのようだ。  
「な、何よ。医者の言うことが信じられないの?」  
 ノキはいかがわしい物を見る時の目でフェアリを見詰めていたが、そんな風に言われてしまっては、  
人の良いノキはフェアリを信じる他はなくなってしまった。  
「……で、どうすればいいんですか?」  
 不承不承、使い方を訊ねるノキ。  
「あー、そりゃま、ね。あそこに入れるのよ」  
「はぁ、やっぱり……」  
 半ば諦めた表情でノキは答えた。  
 フェアリは割れ目を拡げるように指示する。ノキが仕方なく指を割れ目に当てて押し拡げると、ピクピ  
クと蠢く鮮やかなピンク色のびらびらが現れた。  
 先程の筆の刺激によるものか、そこはうっすらと愛液で湿っている。フェアリはそこに指を当てると、  
すりすりと撫で始めた。  
「ぁん! な、何するんですか」  
「もう少し濡れてないと、入らないでしょ」  
 フェアリの指がノキの感じる場所を探し当てると、ノキの秘裂は瞬く間に愛液にまみれた。フェアリは  
ローターを入り口に押し当て、つぷりとノキの膣内にめり込ませていった。  
「んっ……」  
「どう? 苦しい?」  
「……少し。でも大丈夫です」  
「そう、ならいいわ。それじゃ出掛けましょ」  
「はあ……って、えぇっ!? どうして出掛けるんですか!?」  
「まあ、あれよ。外の方が乾燥してるから、効果が高いのよ」  
 取って付けたような理由にノキは、絶対嘘だ、と思ったが、無念なことに今頼れるのはフェアリしかい  
ないのである。お医者様のフェアリ先生が言うんだから仕方がないじゃない、と自分を無理矢理納得さ  
せて、渋々ながら従うことにした。  
 
         ◆  
 
「うぅ……股がスースーする……」  
 診療所を出たフェアリたちは、まずはセントラルタウンの大通りに出た。  
 人通りが多いとは言っても、それだけにノキたちも人混みの中に紛れてしまうので、却って目立たな  
い。と言うわけで、フェアリは難易度が低いこの場所を、最初に選んだのである。  
「ほら、ちゃんと背筋を伸ばしてしっかり前を向いてないと、おかしく思われちゃうわよ」  
 フェアリは猫背で内股になっているノキを注意した。  
 ちなみに、ノキの秘裂に入っているローターは、先程からずっと微弱な振動を発している。  
 ノキはその鈍い快感を何とか我慢すると、姿勢を整えて歩き始めた。  
 そして、区庁舎の前を通り掛かった時。  
「あら……ノキさんにフェアリさん?」  
 ネネが声を掛けてきた。その後ろには、スーツを着込んだ秘書らしき女性が付き従っている。どうや  
ら、セントラルタウンの商業の発展状況について視察をしていたようだ。  
「今日は珍しい組み合わせですね。お二人でどこかにお出掛けですか?」  
「え、あ、うん。その、ちょっと……ひゃうっ!」  
「……? どうかなさいましたか?」  
「い、いや、なんでもない、平気、大丈夫、うん」  
「そうですか……?」  
 話の途中で突然襲い掛かってきた刺激にノキは頬を紅く染め、ビクッとして妙な声を上げる。それを  
見たネネは少し訝しげな表情を見せるが、何が起きているかまでは気が付かなかったようだ。  
 ノキの後ろでは、ポケットに手を突っ込んだフェアリが、ニコニコと楽しそうに笑っていた。  
「(い、いきなり何するんですかっフェアリ先生!)」  
 ノキはくるっとフェアリの方を向くと、涙目をしながら小声で文句を言った。フェアリはそれに笑顔を返  
すと、ポケットに突っ込んだ手をもぞもぞと動かす。  
「ひゃあんっ!」  
 再び強い刺激がノキを襲う。快感で腰が砕け、下半身から力が抜けて立っていられなくなったが、フ  
ェアリの両肩を掴んで何とか転倒を回避する。  
「あら、どうしたのノキ。大丈夫?」  
 わざとらしく心配するフェアリ。しかし、その口元は楽しげに歪んでいた。  
「あの……ひょっとしてお取り込み中でしたか?」  
 様子のおかしい二人を見て、ネネが申し訳なさそうに言う。  
「え、ううん! そんなことは、ない、けどっ、うふん」  
「でも、何だか具合が悪そうですし。もしかして、これから診療所に向かわれるところを引き止めてしま  
ったのではないかと……」  
「そ、そんなことはないよ?」  
「そうですか。でも、お身体にお気を付けくださいね。ノキさんが倒れると、ネオスフィアの発展にもブ  
レーキがかかってしまいますから」  
「心配してくれてありがとう。あははは……ひゃふっ!」  
「そ、それでは、わたくしはこれで失礼させていただきますわ」  
 ノキの反応に首を傾げながら、ネネは秘書を連れてその場を立ち去った。  
 
「もう、フェアリ先生、いい加減にっ、あっ、やっ、んふっ」  
 フェアリがポケットの中のコントローラでローターの振動を強弱させると、それに合わせてノキの身体  
がピクピクと跳ねる。  
「フフ、可愛いわよノキ。それにしても、やっぱ知り合いに見られてる時の方が、反応は大きいわね」  
「!!」  
 ノキは眉尻を下げ、今にも泣き出しそうな表情でフェアリを見た。そんなノキに、フェアリはいいこい  
いこするように頭を撫でる。そして、ノキが落ち着いたところを見計らって言った。  
「それじゃ、次に行ってみましょ」  
 
         ◆  
 
 と言うことでウォールサイド、プロスペロ発明工房の近くまでやってきた二人。  
 ノキはこのままナノカの所に向かうのではないかとビクビクしていたが、フェアリには最初からそのつ  
もりはなかった。と言うのも、スツーカに出くわす可能性が高いからだ。いかにフェアリと言えど、今して  
いることをスツーカにまで隠し通す自信は、さすがにない。と言うか、絶対バレる。  
 そんなワケで、この場はちょっと脅かすだけのつもりだったのだが、そこで予想外の人物に遭遇した。  
「おお、ノキ・ウェルキンではないか」  
 ノキの目の前にエリンシエが現れた。  
「え? へ、へい……むぐぐっ」  
 陛下、と叫ぼうとしたノキの口を、エリンシエが手で塞ぐ。  
「ここでその呼び方はよせ。一応、お忍びで来ているのだからな」  
「は、はい、すみませっ、んっ、んうっ!!」  
 咥え込んだローターの振動が強まり、それに合わせてノキの声も跳ねる。  
「む、どうかしたか?」  
「い、いえっ、なんでもありま……ひゃあんっ!」  
 フェアリの気まぐれか、予想外のタイミングで襲い掛かってくる振動に、ノキのしなやかで柔軟な筋肉  
が程よく付いたスラリと伸びる脚は、目に見えて分かるくらいにガタガタと震え始めた。  
 先程と同程度の振動であるにもかかわらず、ノキの身体の反応は鋭くなっていた。どうやら診療所で  
塗られた薬には、刺激を受ければ受けるほど、敏感になっていくような効果もあったようだ。勿論、ノキ  
はそのことを知る由もないのだが。  
 ともかく、さすがにネオスフィア国王の前で痴態を晒すわけにはいかない。ノキはローターの振動を  
止めてもらえるように頼もうと、フェアリの方を振り向くが、さっきまで確かにフェアリがいたはずの場所  
には誰の姿もなかった。キョロキョロと辺りを見回してフェアリを探してみたが、どこにも見当たらない。  
まるで煙のように掻き消えていた。  
 そうこうしているうちにも、ローターの振動は襲い掛かってくる。その強さも、明らかに先程より強くな  
っていた。  
 エリンシエの前でだけは粗相があってはならないと、必死で我慢していたノキであったが、不意打ち  
の如く襲い掛かってきた強烈な振動に腰は砕け、地面に膝を付いてしまった。  
「ノキ。本当に大丈夫か?」  
「はっ、はい……はぁ、はぁ……」  
 ノキは大丈夫と答えたものの、口からは荒い息を吐き、顔はすっかり紅潮しきっている。  
「ふ、強がりを言うな。そのナリで大丈夫と言ったところで、まったく説得力がないぞ。ほれ、肩を貸して  
やるから立つがよい」  
「そ、そんな畏れ多いこと……」  
「馬鹿を言うでない。そなたの身体の方が大事にきまっておろうが」  
「あうぅ……すみません」  
 ノキはエリンシエの肩に手を掛けて立ち上がった。しかし、足元はおぼつかないままだ。  
「フェアリの診療所でよいのか?」  
「はい?」  
「このままそなたを放っておくわけにもいかぬからな。余が送っていってやろう」  
「でも、そんな……あっ、きゃふっ」  
 エリンシエの肩を借りて一歩目を踏み出そうとした瞬間、その出鼻を挫くような形で、またローターが  
大きく振動した。ノキは脱力して、エリンシエにしなだれかかる。エリンシエはそれを精一杯に踏ん張っ  
て受け止めた。彼女の小さな身体ではそれだけでもキツかったが、そのままではノキを休ませることも  
出来ないので、少しずつ、細い路地に引っ張っていった。  
 ノキはエリンシエの手に抱きかかえられて介抱を受けようとしていたが、そんな状況にもかかわらず、  
必死にノキを運ぶエリンシエの手が腰や背中を通り過ぎるたびに、ゾクリ、と新たな快感が波紋のよう  
に広がっていく。  
 それがいけないことだと分かってはいても、フェアリの手によって強制的に昂った身体は、それを拒  
絶など出来るはずもなく、ノキはその優しい快感を受け入れていた。  
 これまでと毛色の違う快感にノキの身体は蕩け、やっとのことで路地に辿り着いたときには、もう一  
歩も動けないような状態になっていた。  
 
「はぁ……はぁ……」  
 顔はよりいっそう紅潮し、呼吸も荒く不規則になっている。ただ、フェアリから送ってくるローターの振  
動は弱まっていたので、フラフラしながらも、何とか立っていることだけは出来ていた。  
 エリンシエはそんなノキの姿を心配そうな、不安そうな瞳で見上げる。そして前髪をかき上げると、爪  
先立ちになって、額をノキの額にそっと合わせた。  
「ふむ、少し熱っぽいか……?」  
 その健気な仕草に、ノキの胸はキュンと締め付けられる。そして気が付くとノキは無意識のうちに、エ  
リンシエを胸の中にキュッと抱きしめていた。  
「ノキ・ウェルキン……?」  
 エリンシエは不思議そうにノキの名を呼んでみたが、当のノキはそれに気が付かず、エリンシエの柔  
らかな抱き心地に夢中になっていた。触れ合った部分が反応して、敏感になっているノキの体は更に  
昂り、エリンシエを抱く力は更に強くなる。  
 本来ならこんな無礼が許されるはずもない。立場上、エリンシエも許すわけにはいかない。しかし、エ  
リンシエはノキをどうこうしようとは考えもしなかった。  
 今はお忍びだし、細い路地に入ってきたために周りには誰もおらず、二人に注意を向ける者はない。  
そして何より、ノキの暖かな胸に抱かれることで、エリンシエは、朧げにしか覚えていなかった母親の  
温もりを思い出していたからだ。  
 二人はしばらくの間、かけ離れた思惑を胸に秘めながら抱き合っていた。しかし、その均衡は突如  
破られた。  
「……んっ、はぁんっ!」  
 ノキの膣内のローターが、再び暴れ始めたのである。  
「あっ、あっ、ああっ……!」  
 リズミカルに襲ってくる振動が快感を生み、その奔流が身体中を駆け巡った。エリンシエを抱く腕に  
も力が入る。  
「……! ……っ!!」  
 ノキは唇を噛み締めて、声を漏らすことだけは何とか堪えたものの、全身をビクンビクンと跳ねさせ  
て絶頂に押し上げられた。そして、お尻からその場にぺたっとくずおれてしまった。  
 エリンシエはノキが絶頂の余韻から抜け出すまで、脱力してしまったノキを優しく抱きとめていた。  
 
「も、申し訳ございません! 私、陛下に何てご無礼を……」  
「侘びずともよい。頭を上げてくれ、ノキ。わたしも母上のぬくもりを思い出すことが出来て嬉しかった」  
 地面に擦り付けそうな勢いで頭を下げるノキだったが、エリンシエはさして気にする様子もなく、嬉し  
そうに微笑んでいた。  
「これはそなたとわたし、二人だけの秘密だぞ?」  
 エリンシエはノキの耳元で囁いた。  
「は、はい……」  
「では、そなたの体調も戻ってきたようであるし、余はもう行く。そなたも身体は大事にするがよい」  
 別れ際に女王の威厳をまとい、最後までノキの身体を心配してエリンシエは立ち去っていった。ノキ  
は、女王に心配をかけて、その実、自分は快感を貪っていただけだと言うことから来る罪悪感で自己  
嫌悪する。しかし、その罪悪感すら、今のノキにとっては快感を演出するファクターの一つでしかなか  
った。  
 
「いや〜、面白いもん見させてもらったわ。女王陛下を胸に抱きしめてイっちゃう女学生区長。くくっ」  
 エリンシエの姿が見えなくなるのと同時に、それとは反対方向からフェアリが姿を現した。どうやら一  
部始終をバッチリ観察していたらしい。  
「あ、あれはフェアリ先生が……」  
「ううん、お礼なんていいのよ。それにしても、だんだん反応が良くなってきてるわね」  
 ノキの意図を強引に捻じ曲げるフェアリ。  
「よし、それじゃ次いきましょ……っと、その前に、はいこれ」  
 フェアリはノキにタオルを放って寄越した。  
「なんですか……?」  
「そんなグチョグチョなまま歩き回るわけにもいかないでしょ」  
 と言って、ノキの股間を指差した。  
 ノキは真っ赤になってそそくさと股間を拭い去る。そして、歩けるくらいまで回復するまで休むと、次  
の目的地に向けて出発した。  
 
         ◆  
 
 場所は変わってサウスタウン。  
「さて、それじゃ区長ちゃんに街を案内してもらいましょうか」  
 フェアリはよろしく、とでも言うように、ノキの背中をポンと軽く叩いた。  
「も、もう帰りましょうよぉ……」  
 さすがにサウスタウンはノキのホームグラウンドだけあって、知り合いに遭遇する確率がグンと跳ね  
上がる。  
 ローターを入れてノーパンで闊歩しているなどと知れようものなら、政治家生命が終焉を迎えてしまう。  
よしんば、そうならなかったところで、変態の烙印を押されてしまうのはまず間違いない。まあ、それは  
それで人気が出そうではあるが。  
 ともかく、ノキは別の場所に行きたがったのだが、フェアリはそれを許さなかった。  
「ま、とりあえず区庁舎の近くまで行ってみましょ」  
 と言うわけで、サウスタウン区庁舎前にやってきた。  
 ノキはソワソワと落ち着かない様子であたりをキョロキョロと窺っている。さすがにここまで来ると知り  
合いが多い。すれ違いざまに挨拶をしてくる人もいる。  
 今にも泣き出しそうな情けない表情でフェアリを見たが、どこ吹く風でまともに取り合ってもらえなかっ  
た。それでも懇願するような目で見ていたら、何を勘違いしたのか、と言うかどう考えてもワザとに決ま  
っているのだが、フェアリはローターの振動を強めてきたので、我慢するほかなくなってしまった。  
 それでも何とか頑張って堪えていたが、こんな時に限って親しい人物に遭遇してしまうのである。  
 
「ノキではないか。こんなところで何をしている?」  
 女王エリンシエの右腕にしてノキの父親、エストランド・ウェルキン宰相が現れた。  
「……パ、パパ!? パパこそなんでこんなところに!?」  
 一応、今は平日の真っ昼間である。本来なら然るべき場所で学業や業務に就いているべき二人が、  
こんなところでブラブラしていていいはずがないのである。  
 ちなみに、ウェルキンはサウスタウン区庁舎で用事を済ませた帰りで、間違いなく仕事をしている最  
中だった。対するノキは、股ぐらが痒くて痒くて仕方がないから診療所へ行ってたの──などとは口が  
裂けても言えず、ちょっと区長の仕事が溜まってたから学校を早退したら、ここに来る途中にフェアリ  
にバッタリ出会ったので少し歩きながらお話していたところ、と誤魔化しておいた。  
 
 フェアリは本職の関係でウェルキン宰相のことは一通り調べ上げていたから、知らない相手ではな  
い。ウェルキンの方も、帝都から来た一般市民の強い味方のEテク医師の噂は耳にしていた。しかし、  
二人がこうやって面と向かって会うのは初めてだ。  
 そんなわけで、道端で自己紹介を始めてしまう二人。それどころか、お互いに差し障りのない範囲で  
情報交換を始めてしまう始末。  
 おまけに、ノキやウェルキン宰相は当然ながら、フェアリもそれなりに有名人だったので、そんな三  
人が一ヶ所に固まっていれば、目立つことこの上ない。  
 今すぐにでもこの場から離れたいノキにとって、最低のシチュエーションだった。  
 フェアリは宰相と話しながらも、巧みにポケットの中のコントローラーを操作して、ローターを振動させ  
ていた。  
 当然、ノキの身体がそれに反応しないはずはなく、頬は紅く、目はトロンと、両手で股間を押さえなが  
ら、もじもじもぞもぞと身体を動かしていた。  
 そんな娘の様子を父親であるウェルキン宰相が気付かないはずもなく。  
「ノキ、もう少し落ち着きたまえ」  
「え……あ……?」  
 注意されて初めて、ノキは自分が何をしているか気が付いた。  
 だからと言って、快感を抑えられるかと言えば、そんなことはない。むしろ、父親に見られていること  
を意識してしまい、羞恥心が煽られ、身体は余計に昂ってくる。身体はゆらゆらと揺れ、呼吸も荒くな  
ってきた。  
「大丈夫か……? 体調が悪いなら、家に帰ってゆっくり休みなさい。歩くのがきついようなら、私が送  
っていってやるから」  
 傍目から見ても明らかにおかしくなり始めたノキの態度に、ウェルキンは心配してノキの顔を覗き込  
んだ。そのタイミングを見計らって、フェアリはローターの振動を最強にした。  
 その刺激にノキの背中は反り返り、身体はビクンと大きく跳ねる。全身がピクピクと痙攣し始めて、  
それは、フェアリがローターの振動を弱めるまで、ずっと続いていた。  
 大きな波が通り過ぎて、ぐったりと倒れそうになるノキの体を、フェアリが受け止めた。そして、白々し  
くウェルキン宰相に話しかける。  
「お嬢様は大分お疲れのようですね。心配ですので、これから私の診療所にお連れして、診察させて  
頂きたいのですが、よろしいですか?」  
「願ってもないことです。では、私も一緒に……」  
「それには及びませんわ。それに、宰相閣下も仕事がおありなのでしょう?」  
「しかし……」  
「お嬢様も、閣下が仕事を投げ出すことは望まないと思います。ここは私が責任を持ってお引き受けし  
ますから、どうかご心配なさらず」  
「……分かりました。娘のこと、何卒よろしくお願い致します」  
「お任せください」  
 ウェルキン宰相はポン、と軽くノキの頭に手を置き、また後でな、と言ってその場から去って行った。  
 
「フフッ、お父さんの前でもイっちゃうなんて、すべすべちゃんは淫乱の素質十分ね」  
 フェアリの言葉にノキは怨めしそうな目をするが、ぐったりとフェアリにもたれかかっている状態では、  
格好が付かなかった。  
「さ、次行ってみよう」  
 ノキはフェアリに引き摺られて行った。  
 
         ◆  
 
 今度はグリーンサイドまで足を伸ばした二人。  
 ちなみに、この区画にはノキの通っている王立学院がある。まあ時間が時間なだけに、学生に会う  
可能性は高くはないだろうが、会ってしまった時の対処は今までで一番困難であると思われる。  
 それ故に万が一の時の事を考えて、ノキは回らない頭で必死になって色々と考えていたのだが、そ  
んな予想を遥かに超越した人物に出くわしてしまった。  
「あれー、やっぱりノキだ。やっほー!」  
 ナノカの能天気な声が目抜き通りに響く。  
「こらナノカ、あんま大きな声だすなっての、恥ずかしいでしょ!」  
 その隣には、ネオスフィアに出張してきていたフォーリィが並んで歩いていた。  
「あ、フェアリさんも一緒だったんですか」  
「何よ。私がいちゃいけないような言い方しないで欲しいわね」  
「べ、別にそういうつもりじゃ……」  
「はいはい、分かってるわよ、冗談だってば。それで、ナノカたちはお昼でも食べに来たの?」  
「ええ、そうなんです。何でも、美味しいピザ屋さんがあるって話で。ノキは知ってる?」  
「はぁ……はぁ……はぁ……」  
 フェアリがナノカに気が付いた時には、既にコントローラーを弄っていたので、ノキは返事どころでは  
なかった。  
「ノキ?」  
「ん? 区長さんどうしたの? 顔赤いけど、大丈夫?」  
 フォーリィもノキの異変に気が付く。  
「え……あ、ううん、大丈夫よ」  
「ならいいけど……そうだ。ね、ノキとフェアリさんも、お昼まだだったら一緒に行きませんか?」  
「私は別に構わないわよ」  
 と、フェアリ。  
「ノキは?」  
「う、うん。私もいいよ」  
 と言うことで、二人はナノカとフォーリィに合流して、歩き始めた。  
「そう言えばさ、ノキ、今日はスパッツじゃないんだね」  
 いつもと違うノキのスタイルに気が付いたナノカが、何となしに口にする。ノキはその言葉にギョッとし  
て身体を竦ませた。  
「(スカートの下になにも着けてないこと、ナノカに気付かれちゃったかしらね?)」  
 フェアリはノキにそっと耳打ちした。それを聞いて、一番知られたくない相手に知られてしまったかも  
しれないと言う疑念が湧き上がり、ノキの顔から見る見る血の気が引いていく。  
「(フフ、そんなに心配しなくても大丈夫よ。ナノカのことだから、どうせ言葉以上の意味はないわよ)」  
 考えてみれば、相手がフォーリィならまだしも、ナノカなら、恐らくフェアリの言うとおりだろう。ノキは  
そのフェアリの言葉に安心して、ホッと一息つく。  
 気の緩んだノキは、股間から蜜が垂れ落ち始めたのに気が付きもしなかった。  
 
 四人はピザ屋に到着し、テーブルに着いた。  
「フェアリさんはもう決めました?」  
 メニューを見ていたナノカが言った。  
「私はこれ。で、ノキは海鮮のチーズ増量ね」  
「ちょ、ちょっとフェアリ先生。勝手にそんな……んっ、あふっ!」  
 ネオスフィアではその土地柄、海産物とはあまり縁が無い。そんなわけで、海鮮料理は他に比べれ  
ばあまり美味しくなかったりする。それなのに勝手に注文されたことに文句を言おうとしたノキだったが、  
フェアリは黙って従えとでも言うような目でノキを見ると、黙らせるためにローターの振動を強めた。  
 ピクリと身体を跳ねさせたノキに、ナノカとフォーリィは一瞬、不審な視線を送ったが、ノキはそれを  
多少引き攣った笑みで何とかやり過ごす。しかしいい加減、回りを誤魔化すことも、ノキの身体も、限  
界に近づいていた。  
 注文し終わると、フェアリたちはネオスフィア復興のための情報交換から取るに足らない世間話まで、  
色々なことについてお喋りをしていた。そうしているうちに、注文したピザがテーブルの上に並べられ  
た。  
「それじゃ、いただきまーす!」  
 ナノカたちはそれぞれ注文したピザを口にする。しかし、ノキだけは俯いたまま、手を付けようとしな  
かった。先程からローターの振動が止むことはなく、ひっきりなしにノキの身体を苛んでいるのだ。  
「ノキ、食べないの? 冷めちゃうよ?」  
「……え? あ、う、うん。そうだね」  
 ナノカの声で一瞬我を取り戻したのか、ノキは意を決して、ピザを一切れ手に取る。そして襲い掛か  
ってくる快感を何とか堪えながら、それを口にしようとした瞬間、ローターの振動が更に強力なものに  
変化した。  
「ひっ! ……ぅあ……あ、ぁ……」  
 その衝撃に背筋をビクリと反り返らせ、手に持っていたピザはテーブルの上に落としてしまう。瞳は  
虚ろに蕩けて涙で潤み、半開きになった口の端からは、涎が筋を作りながら垂れ落ちていた。  
 苦悶とも快感とも取れるような表情を見せ、ぐったりと椅子から倒れ落ちるノキ。  
「ちょ、ちょっと区長さん、大丈夫!?」  
 隣に座っていたフォーリィが咄嗟に立ち上がって、ノキの身体を抱き止めた。その時フォーリィは見  
てしまった。ノキがスカートの下に何も着けず、そればかりか溢れ出す愛液で椅子をグッショリと濡らし  
ていたことに。  
 フォーリィは何と言っていいのか分からず、微妙な表情でノキを椅子に座らせると、自分の席に戻っ  
た。  
「ノキ、本当に大丈夫なの……?」  
 ナノカが心配そうに訊ねた。ノキははぁはぁと息を吐きながら、心配そうにしていたナノカを見て、今  
の自分の状況がバレていないことに安堵する。そしてその視線をフォーリィに移したとき、ノキは凍り  
付いた。  
 フォーリィがノキの方をジッと見ていた。その表情はどう見ても不自然に引き攣っている。まるで「区  
長さんってば実はそっち系の趣味の人だったのね〜」とでも言いたそうな顔で苦笑いしていた。  
 ノキが対面に座っていたフェアリに、今にも泣きそうな目で怨めしい視線を向けると、フェアリはフッと  
微笑んで席を立ち、あたかも身体を心配するかのようにノキの背後に回り、顔を近づけてなにやらぼ  
そぼそと話し始めた。  
「(そんなに怨めしそうな顔しないでよ。気持ち良かったんでしょ……?)」  
「(だ、だからって……!)」  
「(まあまあ。でも、海鮮のチーズ増量にしておいて良かったわね)」  
「(……?)」  
「(だってそうでしょ? アソコをこんなビチョビチョに濡らして、いやらしい匂いをプンプンさせちゃって。  
臭いの薄いものじゃ誤魔化せなかったわよ)」  
「(!!)」  
「(でも……会長ちゃんにはバレちゃったわね。あなたがこぉんなにいやらしい娘だってこと)」  
 
 フォーリィは半ば呆れ顔でノキを見ていた。だが勿論、フォーリィはこの程度のことで人を見下したり  
はしない。キャラット商会の会長として様々な人と接してきた彼女にとって、この程度、ちょっと変わっ  
た趣味程度のことでしかないのだ。  
 しかし、そんなこととは露知らず、下着を脱いで街中を闊歩することで快感を得てしまったノキにとっ  
ては、その視線が自分を蔑んでいるように、浮かべている苦笑が嘲笑に見えてしまう。  
 汚物を見るような冷たい目で見られていると思ったノキは、そのことに興奮して身体をゾクリと震わ  
せ、また一段と昂る。  
「(ダメじゃない、そんなにはぁはぁしちゃ。そんなことじゃ、ナノカにだって気付かれちゃうわよ?)」  
 フェアリの言葉にピクリと身を竦め、ナノカの方を振り向いてみると、ナノカは心底心配そうな瞳で、  
ノキのことを見つめていた。  
 その視線を浴びて、ノキの全身は再びゾクリとした。  
 ナノカの純粋な瞳に比べ、自分は何と穢れているのだろうかとノキは思う。しかし、そのどうしようもな  
い背徳感がスパイスとなって、未知の快感がノキの身体を奔り抜ける。とめどなく襲い掛かってくる快  
感に、ノキの頭はオーバーヒート寸前に追い込まれた。  
 それを見て取ったフェアリは、ポケットの中のコントローラーに手を伸ばし、秘密のスイッチを押した。  
 ノキの膣内に挿入されているローターが、今までとは違う動きを見せ始めた。楕円球をしていたのが  
徐々に長軸方向に細く長く、ノキの膣奥に向かって伸びていく。その途中で何ヶ所も折れ曲がり、奥に  
辿り着く頃には、複雑な形状に変形していた。  
 そして、変形したローターはノキの膣内のいたるところで振動を始めた。それだけではなく、回転し、  
うねり、ノキの敏感なところを引っ掻いていく。  
 これまでとは比べ物にならない刺激を、この上なく敏感になってしまった体に受けて、ノキは全身を  
痙攣させながらあっと言う間にイってしまった。にもかかわらず、フェアリはローターの動きを緩めるこ  
とはなかった。  
 呼吸も出来ないほど激しく悶えているノキに、当たり前のようにナノカとフォーリィが心配して声を掛  
ける。だがその声を聞くことで、ノキは見られていることをより意識して、身体を震わせる。  
 絶頂の波が引く前に、また新たな絶頂が押し寄せ、より大きな絶頂へと向かっていく。  
 ノキはその激しい快感に身を蕩かせ続けた。  
 両の瞼を大きく見開き、意思を失って瞳孔の開ききった瞳は、ギョロリと上を向いて三白眼となり、  
顎を大きく反らせて、酸素を求めるように大きく開いた口からは、舌をツンと突き出している。  
 眼の端からは涙、口の端からは涎を垂らし、顔中をグショグショに濡らしていた。  
 まるで拷問でも受けているかのような様相を示していたが、しかしノキの顔には、明らかに愉悦の色  
が浮かび上がっていた。  
 やがて限界に達したのか、ノキの身体はぷっつりと糸が切れたように緊張を失い、テーブルの上の  
ピザに顔面から突っ込んだ。  
 
 フェアリは流れるような動作で意識を失ってしまったノキの顔を手早く拭き、担ぎ上げ、昼食代をテー  
ブルに置き、ナノカたちに軽く挨拶をすると、逃げるように去って行った。  
 あまりにも手際の良すぎるフェアリの行動に唖然とする二人。そしてやがて、我を取り戻したナノカが  
言った。  
「ノキ、大丈夫かな……」  
 取り残されたナノカがフォーリィに訊ねる。  
「まあ、大丈夫でしょ。お医者さんが一緒なんだし」  
「そ、そうだよね」  
 フォーリィは実はノキがフェアリに悪戯をされてイっちゃっただけ、と言うことに気が付いていたが、  
さすがにそれをナノカに伝えることは憚られたので、適当に誤魔化しておいた。  
「とにかく、アンタもあの先生には気を付けなさいよ」  
「え、なにが?」  
「何でもいいから、とにかく気を付けなさい!」  
「……? うん」  
 そしてナノカとフォーリィは、食べかけの昼食に戻っていった。  
 
         ◆  
 
 ノキはフェアリの診療所のベッドの上で目を覚ました。  
「あれ、私なんでここに……?」  
「あら、目が覚めた?」  
 フェアリが両手にコーヒーカップを持ってやってきた。  
「はい、これ。飲みなさい」  
 ノキは湯気の立っているカップを受け取ると、ふーふーと息を吹きかけて少し冷まし、ずずっと一口  
啜った。  
 一息つくと、散々晒した痴態を思い出して、顔が赤くなる。  
 しかし、全てはインキン治療のためだ。そう思って恥ずかしい思いを我慢したのである。もっとも、途  
中からはそんなことはすっ飛んでいたような気もするが。  
 とにかく、これであの悪夢のような痒さから開放されるのだ。そう思って、それをフェアリに確認する  
ことにした。  
「あ、あの、すっごく恥ずかしかったですけど、これでインキンは治るんですね!」  
「は? 何言ってるの?」  
「へ!? で、でも治療って」  
「んなわけないでしょ」  
「えー! じゃあ、あのローターみたいなのは……」  
「ああ、あれ? みたいなの、じゃなくてローターよ。Eテク製品ではあるけど。それとあの薬も、ただの  
媚薬だから」  
「んなっ……」  
 絶句するノキ。  
「じ、じゃあ、何のためにあんな恥ずかしい真似させたんですか!?」  
「ん〜、何て言うかまあ、ストレス解消ね。すっきりしたでしょ?」  
「そ、それはそうかもしれませんけど! でも、関係ないじゃないですか!!」  
「それがあるのよね〜。すべすべちゃん、あなた学生と区長の二足のわらじで、ストレスを相当溜めこ  
んでたでしょ? ストレスってね、お肌の抵抗力をすっごく弱らせちゃうの。水虫にしろインキンにしろ、  
肌が弱ってれば発症しやすくなるのよ」  
「だ、だからって!」  
「まあ別にいいじゃない。初めてだったんでしょ? あんなに激しくイっちゃったの」  
「そ、それは……その……」  
 赤くなりながら、もにょもにょと口篭るノキ。  
「それじゃ、そーゆーことで。この話はお終い!」  
 フェアリは手をパンと鳴らし、一仕事終えた後の、達成感に満ちた顔で言った。  
「あとは、きちんとお薬を塗ってれば治るわよ」  
 と言って、小さな箱をノキに放り投げた。その箱には『ミズムシ・エクスターミネート』と書かれてある。  
「へ、これ……? でも、お肌が荒れるからダメって」  
「ん? ああ、嘘よ嘘。だってナノカの発明だもの、そんな抜かりがあるわけ無いじゃない」  
「そ、そんなあ……」  
 ノキはへなへなと床にへたり込んだ。こんなことならナノカに相談すれば良かったと思ったが、それ  
はあまりにも遅すぎた。どう考えても後の祭りである。  
 しかも、ノキの隠された性癖をフォーリィに気が付かれてしまった。気が付いたのがフォーリィ一人だ  
ったのは、不幸中の幸いだったと言えなくもないが、それでも十分過ぎるほどダメージは大きい。  
 ともあれ、ストレスの解消されたノキは、瞬く間にお肌の健康を取り戻し、インキンを克服した。  
 しかし、この一件でノキに露出癖が付いてしまい、たまにスパッツを脱いで歩き回っているのは秘密  
である。  
 
                                                 おしまい  
 
 

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