自然というものには、人の心を癒す効果がある。  
 全てがそうと言うわけではないが、そういった要素があることは心理学的にも立証されている。  
 だからと言うわけではないが――  
「何だか懐かしいわねぇ……」  
 ぼへーっとした表情で湖面を眺めながら、パナビア・トーネイドはつぶやいた。  
 ネオスフィアの貯水湖の縁に腰掛け、何をするでもなく寝転がる。  
 ふと、イルカレースの思い出が走馬灯のように――  
「……いやいやいやいや、確かに走馬灯を見そうな出来事だったけど」  
 ぶんぶんと首を振り、胸中の言葉に自分で突っ込みを入れる。  
 シャチとサメの水中大決戦の真ん中にいてよく無事だったとは思うが、自分はまだ生きている。  
「あれー? 先輩?」  
「……んぁ?」  
 と、不意に聞こえた後輩の声に、首をそらして視線を向ける。  
 さかさまになった視界の先で、でっかいトンカチを持った憎たらしい後輩が、てててと走ってくる姿が見えた。  
「何でまたこんなところで……」  
 うんざりとした様子でつぶやくが、彼女には聞こえていなかったようだ。  
 不思議なものを見つけた、といった様子で、こちらを覗き込んで来る。  
「こんなところで何してるんです?」  
「別に何も。強いて言うなら、散歩の途中の小休止。あんたこそこんなところに何の用よ?」  
「何か良いアイデアが降りてこないかと、散歩をば」  
 えへへ、と恥ずかしげに笑うナノカに、パナビアは小さく苦笑を漏らした。  
 何だ、自分と同じか。胸中でそうつぶやくが、口には出さない。  
「あとちょっとしかいないのに、熱心ねぇ」  
「そりゃもう。仕事はきっちり終わるまで、一切手は抜きません」  
「良い心がけね」  
 そう答えて、上半身を起こす。振り向いてみると、ぽかんとした顔のナノカがいた。  
「……どうしたの?」  
「何か、初めて先輩に褒められたような……」  
 ぼんやりとした彼女のつぶやきに、パナビアは頬を赤くした。  
 
「べ、別に褒めたとかそういうわけじゃないわよ!?  
 ただその、ええと……工房士として大事な心がけだもの、ちゃんと持ってて安心しただけよ!」  
「は、はぁ……」  
 あまり言い訳にならないことを慌ててまくし立てるパナビアに、ナノカは目を白黒させながら生返事を返した。  
 何か悪いことでも言ったのだろうか。そう思うが、特に思い当たらない。  
 そうやってナノカが驚いていると、急にパナビアは大きくため息をついて、自分の頭を乱暴に掻いた。  
「ああ、もう、やっぱりアンタといると調子狂うわ……」  
「ええと……すいません」  
 うんざりとした様子でつぶやくと、ナノカはよく分かっていない様子で謝ってきた。  
 分からないのは当たり前だ。調子が狂っているのは、今回ばかりはナノカのせいではない。  
 どちらかと言えば、パナビア自身に原因があった。  
(考えたくないから会わないようにしてたのに……)  
 自分の中でのナノカの評価は、間違いなく変わっていた。  
 今でも、工房士としては目の上のタンコブであることは違いない。  
 超えるべき存在であり、憎たらしいライバルであると言える。  
 だが――  
「先輩?」  
 立ち上がったパナビアに、どうしたのかとナノカが問う。  
 彼女のその問いに、パナビアはがしがしと頭を掻いて、面倒くさそうに口を開いた。  
「十分休んだし、散歩の続き」  
「はぁ」  
 生返事を返すナノカとすれ違い、数歩。大きなため息をついて、パナビアは自分の肩越しに口を開いた。  
「……あんたも来る?」  
「いいんですか?」  
「まあ、話し相手くらいにはなるでしょ」  
 そう言うと、ナノカは心底嬉しそうな顔で、はい、と答えてパナビアの後に続いた。  
 そんな彼女の仕草に苦笑して、パナビアはある事実を認めることにした。  
 自分は彼女に、甘くなっている。  
 
(こんなんでも後輩だものね……)  
 ちら、と、隣を歩くナノカを覗き見る。  
 よく考えてみれば、あまり話したことなどない。  
 それがここ最近でよく会うようになれば、情が移っても不思議ではないのかもしれない。  
 何故なら自分は、ナノカ・フランカという人間を、よく知らずに敵視していたのだから。  
(でもまあ、普通、敵視するような人間のことは、よく知ってるわけがないのよね)  
 それを考えれば、知りすぎてしまったからこそ、情が移ったとも考えられた。  
 とはいえ、憎たらしい後輩に違いはないはずなのだが。  
(いや、うん、一番の理由は察しがつくんだけど……)  
 と、思い出したくない、しかし忘れようもない出来事が脳裏をよぎる。  
 恐らく――いや、確実にこれが、その理由の大半を占めているだろう。  
「それで、またスツーカが……先輩?」  
「え? ああ、ごめん、何の話だったかしら」  
 考え事をして、すっかりナノカの話を聞くのを忘れていた。  
 自分から誘ったと言うのにこれでは、訝しがられても仕方が無い。  
「スツーカがまた、嫁の貰い手がどーとか言うんですよ」  
「あー……」  
 なるほど、と胸中でつぶやく。どうやらあの狼、相当苦労しているようだ。  
 この歳でそんなことを言われるということは、よっぽどなのだろう。  
「でもあんた、そういうのに興味とか無いわけ?」  
「別に、皆無と言うわけでは無いですよ。ただ、今はそれよりも興味のあることが目の前にあるんです」  
 その返事に関しては、パナビアも同意するところがあった。  
 工房技術の向上――その一点においては、彼女達は同じ道を進む同士だ。  
「それに――」  
 と、こちらに視線を移し、頬を赤くする。  
「何と言うか、割と間に合ってしまったと言いますか……」  
 そう言うナノカに、パナビアは視線を外して、誤魔化すように咳払いをした。  
 
「と言うか、大事な工程をすっ飛ばして行き着いてしまったと言いますか……」  
「ああ、うん、この話題はお互いのためにもここで終了。OK?」  
 気まずい空気が流れ、慌ててパナビアは話を打ち切った。  
 ナノカは素直にはいと答えてくれたが、それでこの空気が収まるわけではない。  
 しばらく無言で並んで歩き、互いに羞恥で話題が出せずにいた。  
(き……気まずい。誘っておきながらこれは、先輩として面目が……)  
 胸中で焦りの声を漏らすが、だからといってそれを打破する妙案が思い浮かぶわけではない。  
 どうしたものかと頭を悩ませていると、どこからか呻き声の様なものが聞こえてきた。  
「先輩、何か聞こえませんか?」  
「人の呻き声……かしら」  
 眉根を寄せて、耳を澄ます。それは確かに、人の呻き声のようだった。  
 苦悶の吐息で、何かを我慢するように吐き出される、そんな声。  
「怪我人とか病人とかでしょうか」  
「……こんな、貯水湖の隣にあるような森で?」  
 こんな場所に人が来るなど、自分達の様な物好きでもない限りありえない。それが病人だと言うならなおさらだ。  
 だが、もし本当にその類だったら? 早期に治療すべき状態だったら?  
「……テンザンは呼べるわね?」  
 用心とは、最悪の結果を避けるための心構えだ。  
 面倒なことに巻き込まれるかもしれない。だが、苦しんでいる人間を見捨ててしまうよりは余程マシだ。  
 もし大事に至らなかったとしても、ならばそれを喜べばいい。  
「はい、いつでも」  
「OK。一応警戒して行くわよ」  
 ちゃきり、と、愛用の工具を用心深く構え、二人は声のするほうへ歩みだした。  
 周囲の気配を感じ取ろうと、感覚を鋭敏に、意識を集中しながら森を進む。  
 うっそうと生い茂る木の陰に、彼女らは――  
「は……ぁ、ん、ふぅ……っ」  
 重なり合う男女の姿を確認した。  
 
「…………っ!?」  
 木に背を預けた女性に、押し付けるように腰を重ねる男性。  
 恍惚の表情でそれを受け入れ、呻き声を漏らす彼女の姿を確認し、パナビアは思わず出かかった声を無理やり飲み込んだ。  
 すぐに隣に視線を移し、自分と同じように目を丸くしている後輩を確認する。  
 それを見てパナビアは、今にも声を出しそうなナノカの口を乱暴に塞ぎ、引きずり倒すような形で木の陰へと身を隠した。  
(せ、先輩っ!?)  
(いいから黙って! このまま姿勢低くして離脱! 反論は無し!)  
(りょ、了解!)  
 パニック寸前になりながらも、二人は迅速にその場から撤退した。  
 三十六計逃げるにしかず。と言うか、誰があんな事態を想定できるものか。  
 四つん這いになって逃げ回り、いい加減息が切れてきた辺りで、二人は大きく息をついて地面に突っ伏した。  
「び……びっくりしたー……」  
「昼間っから外で紛らわしいっちゅーの……」  
 ぜはぜはと息を整えながら、口々に漏らす。  
 真面目に怪我人や病人の可能性を考えていた自分が馬鹿らしかった。  
「外でする人、いるんですね……」  
「有名なデートスポットとかじゃ、よくある話らしいわね。見るのは初めてだけど」  
「そ、そうなんですか」  
 パナビアの返答に、ナノカは、へぇ、と感心したように声を漏らした。  
 うんざりとしながら頭を掻いたパナビアに、ちらちらと視線を向ける。  
「……何?」  
 何となく嫌な予感はしながらも、挙動の怪しい後輩に聞き返す。  
 また例のアレかなと思いながらも、パナビアは半分観念したようにナノカの返事を待った。  
「ええと、その……外でしてみたいなー、なんて……」  
 ええ、分かってました。あんたがそう言い出すことくらい、分かってましたとも。  
 ついでに言ってしまえば、自分がそれを拒否できないことも、パナビアは分かっていた。  
 
「てゆーかあんた、ホントにアレよね。ヤリたい盛りの中等学生よね」  
「反論の余地もありません……」  
 木にもたれながら呆れたように言うパナビアに、恥ずかしそうにナノカはそう答えた。  
「……まあ、承諾しちゃう私も私だけど」  
 そう言って苦笑すると、パナビアはナノカの顔を引き寄せた。  
 唇が重なりそうなほど近くまで寄せてから、ささやくように口を開く。  
「ま、あんたに気になる相手が出来るまで、面倒見てやるのもやぶさかじゃないわ。感謝なさい?」  
「あはは。じゃあ、当分先輩のお世話になりそうです」  
「あんたね……本当ならこんな面倒、私が見てやる義理は無いのよ?」  
 困ったように苦笑するナノカに、呆れ半分でそう返す。  
 自分もそうだが、年若い少女がこんなただれた関係を続けるのは褒められたものではない。  
「とは言われましても……  
 私って小さい頃からおじいちゃんと一緒にいたもので、男の人の基準がおじいちゃんなんですよね」  
「プロスペロ・フランカが基準……世の男の大半がアウトじゃない……」  
 これでは余程の男が現れない限り、彼女に嫁に行く当てはないだろう。  
 なるほど、あの狼が嘆くのも無理は無い。  
「まあ、相手がいなかったらスツーカが候補なのですが」  
「狼がモデルのEテク兵器を候補にするなっつーの。マニアックにも程があるわ」  
「先輩が男の人だったら、結構いいセンいってるんですけどねぇ」  
「…………」  
 ナノカの不意打ちに、パナビアは言葉を失った。自分も、考えたことはあったからだ。  
 もしどちらかの性別が違っていたら、どうなっていただろう。もしかしたら、別の意味でこんな関係になったかもしれない。  
 だが、その仮定は無意味だ。事実として今の関係がある以上、もし、は意味を成さない。  
 仮定が意味を成すのは、公式と物語の中だけである。  
「高レベルのEテク技術に、溢れるガッツ。不屈の心に妥協の無いクオリティ。何よりも、失敗を恐れない大胆不敵な向上心。  
 なんて言うか、おじいちゃんのミニチュア版って感じがポイント高いですね」  
「……あんたの基準って、ホントにおじいさんなのね……」  
 無邪気なナノカの言葉に、呆れ半分でパナビアは苦笑した。  
 
「ですからまあ、先輩ならしばらくお世話になってもいいかなーって」  
 えへへ、と誤魔化し笑いを浮かべるナノカに、パナビアは仕方ないと言った様子で息を吐いた。  
 つい最近までなら、いい迷惑だと感じただろう。だが今では、それも悪くないかと考えている自分に気付く。  
 きっかけはどうあれ、確かに自分は変わった。  
 少なくとも、工房士としての勝負に手心を加える気は毛頭無いが、プライベートでの付き合いも悪くないと考えている。  
「それに私、先輩のこと好きですから」  
 恋愛感情としての『好き』ではないと分かっていながら、パナビアは心臓が跳ねるような錯覚を覚えた。  
 全くもってこの後輩、心臓に悪いことばかりしてくれる。  
「……そりゃどーも。まあ、あんたの我侭にはいい加減慣れてきたわ」  
「ふふ、お世話になります。んー、先輩の胸、やーらかーい」  
 パナビアの胸に顔を埋め、その感触を楽しむナノカ。  
 その頭を撫でてやりながら、パナビアはやれやれと小さく息を吐いた。  
「まあ、せいぜい無い物ねだりで存分に堪能しなさい」  
「むむむ……私だってこれから大きくなります。今だって年相応には……あるはずです」  
 微妙に自信無さ気に反論しながら、パナビアの乳房を持ち上げるように揉みしだく。  
 圧倒的なまでの戦力差にへこたれそうになりながらも、ナノカはその重量を直に感じようとパナビアの服に手をかけた。  
 制服を緩め、パナビアの白い肌を外気に晒す。しっとりと汗ばんだその肌を確認すると、ナノカはグローブを外して乳房に掴みかかった。  
 弾力のある肌の感触を愉しみ、そのままゆっくりと押しつぶす。  
 まるでマッサージでもするかのような丹念な愛撫に、既にその先端は硬く尖っていた。  
「……どこで覚えたの、こんなの」  
「先輩以外の相手、したこと無いですよ?」  
 つまり、覚えたのは自分のせいだということか。  
 微妙に反論しづらい返事に、パナビアは閉口した。ただ言わせてもらうなら、こちらもナノカ以外、相手したことなど――  
「あー、そうね……」  
 強引に『された』ことは何度かあったなぁ、と思い出し、パナビアは曖昧に言葉を濁した。  
 
「んふふ。先輩のここ、もう硬くなってる」  
 そう言いながら、硬くなった先端を指で引っ掻く。それに反応するように、パナビアの肩がぴくりと跳ねた。  
「こ、こら。そーいう恥ずかしいこと、口に出すなっ」  
 かぁ、と頬を赤くしてナノカを嗜める。だが彼女は、そんなことはお構いなしにスカートのほうへと手を伸ばした。  
「上がこうってことは、下も硬くなってきてるんじゃないですか?」  
「……いつからあんたはそんなシモネタするようになったのよ。つーかキャラが違うし」  
「んふぅ。出来ますよぉ、必要とあらばぁ」  
 妖艶な、と言うよりはいたずらっ子の様な笑みを浮かべ、ナノカが答える。  
 と言うか、今は必要な時なのだろうかと思うが、それは言わないほうがいいのだろう。  
「で、どうなんですか、先輩?」  
「じ、自分で確かめればいいじゃない」  
 さすがに自分で言うのははばかられ、パナビアはそう言い返した。  
 それには、じゃあ、と答え、ナノカはスカートの中へとその小さな手を滑り込ませた。  
 脚の付け根を指で撫で上げ、パナビアがじれったそうに目を細めたのを見計らって、その核心へと指を這わせる。  
「あ……っ」  
 不意打ちの様な形での接触に、思わず声が漏れてしまう。慌てて口を閉じるが、既にナノカはその顔を確認してしまっていた。  
「先輩、可愛い」  
 そう言って、パナビアの首筋に唇を這わせる。その顔は、いたずらが成功した子供のように得意気だった。  
 ナノカ・フランカ、14歳。サディストへの階段を、一歩踏み出した瞬間である。  
「こ、後輩にいいようにされてそんなこと言われても、嬉しくないっつーの……」  
「何度か先輩とこういうことして、分かったことがあるんですよ」  
 搾り出すように言うパナビアに、ナノカは愛撫の手を止めずに口を開いた。  
「先輩って、いじめると、す……っごく可愛いんです」  
「う、嬉しくない……っ」  
 うっとりとした表情で言うナノカに、パナビアは泣きそうな気分でそう返した。  
 
 パナビアの豊満な果実にかぶりつき、その先端を赤子のように吸い上げる。  
 舌で転がしたり軽く噛んだりしながら、ナノカは時折漏れるパナビアの甘い声に聞き入っていた。  
 この声を聞くたびに、心の奥底からふつふつと湧き上がってくる感情がある。  
 その感情のままに、ナノカはパナビアへの愛撫を強くした。  
「ん、ふ……っ」  
 どうにか声を押さえ込もうとするが、上手くいかない。  
 ナノカの指が、舌が、肌を撫でるたびに、堪えようの無い快感がパナビアの全身を駆け巡る。  
 ひくひくと痙攣するように震えるパナビアの肌を、ナノカは愛しそうに腹部まで舐め下ろすと、スカートの中に頭を突っ込んだ。  
「はひっ!?」  
 そのまま無遠慮にそこを吸い上げると、パナビアは変な声を上げて一瞬膝を落とした。  
 ナノカはそんな彼女には目もくれず、充血した肉芽を舌で転がし、それを守る包皮の間へと舌を潜り込ませる。  
「あ、ひゃ、ひ、そこばっか、だめ、剥くの、禁止……っ」  
 前のめりに体を折り曲げ、ナノカの責めに声を漏らす。  
 守るものを無くした敏感な部分を執拗に責め立てられ、パナビアは懇願するように口を開いた。  
「ダメ、許して、そんな弄ったら、我慢、できな……っ」  
 だが、そんな懇願には耳を貸さず、ナノカはパナビアの中へと指を差し込んだ。  
 突然の侵入に、驚いたようにナノカの指を締め付ける。  
 それを押し広げるように中を擦り、止めとばかりにクリトリスを吸い上げる。  
「ぁああっ!」  
 襲い来る快楽の波に、パナビアは嬌声を上げて体を硬直させた。  
 視界が一瞬白く染まり、痙攣するように腰が震える。  
 だが、そんなパナビアを無視するかのように、ナノカは責めの手を休めなかった。  
「ひぅ、あっ……イったばっか……まだびんかぁ……っ!」  
 ナノカを引き離そうとするが、思ったように力が入らない。  
 腰をくねらせて逃れようとするも、既に膝が笑っていてそれもかなわない。  
 結局、抵抗らしい抵抗も出来ぬまま――  
「またイっちゃ……ああぁっ!?」  
 大きく背を反らし、パナビアは一際大きな声を上げた。  
 
 ずるずると、力なくその場に崩れ落ちる。  
 木にもたれるように座り込み、ようやく開放された安堵に、パナビアは大きく息をついた。  
「先輩」  
 後輩の声に、自分の涙と唾液でぐちゃぐちゃになった顔を向ける。  
 そこには、ほんのりと紅潮した顔でこちらを見下ろす、ナノカの姿があった。  
「この、鬼畜ぅ……」  
「先輩が、可愛いのがいけないんです」  
 精一杯の恨み言に、うっとりとした表情でそう言い返してくる。  
 本当に、こいつは――  
「それに――」  
 一瞬口元を隠したかと思うと、噛み付くような勢いで唇を重ねてくる。  
 反射的にそれに答えると、何かが口の中に押し込まれた。  
「――!?」  
 思わずそれを飲み込んでしまい、慌てて口を離す。  
 口の中に残った感触から、パナビアはまさかとナノカに視線を向けた。  
「……好きな子ほど、いじめたくなるって言うじゃないですか」  
 その言葉に、パナビアは心臓が跳ねるような錯覚を覚えた。  
 だが、その言葉の意味を考えるよりも早く、下腹部に新しい熱が生まれる。  
 スカートを持ち上げて、これでもかと自己主張をしてくる熱の原因に、パナビアの思考は中断させられてしまった。  
 その上――  
「えへへ……先輩、えっちぃ」  
「だ、誰のせい……ぅああっ、しごくなぁっ」  
 慣れた手つきで慣れない部分をしごかれてしまっては、ものを考えることなど出来はしなかった。  
「先輩のおちんちん、すごい熱い」  
 うっとりとした様子でつぶやいて、先端を舌で舐め回す。  
 敏感な部分への急な刺激に、パナビアは声にならない声を上げた。  
 
「先輩、気持ちいいえふか?」  
「き、気持ちいい、気持ちいいから……っ」  
 いつの間にこんな悪いことを覚えたのだろう。  
 それが自分の所為だという事実に、パナビアは頭をくらくらさせながら下腹部に力を込めた。  
 少しでも気を抜けば、すぐにでも達してしまいそうな程の刺激が、腰から脳髄にまで突き上がってくる。  
「気持ちいいから、もう許してぇっ!」  
「んんー♪」  
 だめ、と言ったのだろうか。  
 破裂しそうなほどに張り詰めた怒張をその小さな口に咥え込み、追い討ちをかけるように先端を舐め回す。  
 その一舐めで、必死で押し留めてきたパナビアの堤防は、あっけなく決壊した。  
「出、るぅ……っ!」  
 ぎりぎりまで我慢していた分、それの開放は半端ではなかった。  
 何かが弾けるような感覚と共に視界が白濁し、吐き出された熱がナノカの咥内を叩く。  
 全ての熱を吐き出し、ナノカが口を離したところで、ようやくパナビアは拷問じみた快楽から開放された。  
 肩で息をしながら、自分の精液――正確には違うが――を、口の中で持て余しているナノカに視線を移す。  
「んー……」  
 何やら虚空に視線を泳がせ、こちらを見る。  
 そして、何かを思いついたように表情を明るくさせ――  
「……んむっ!?」  
 不意に、唇を重ねてきた。  
 そのまま舌をねじ込み、先ほどカプセルを押し込んだように、今度は口の中で持て余していた白濁液を押し込んでくる。  
「ん、ぷぁ、んふっ」  
 同時に行われる口内への愛撫に、思わず舌を絡ませてしまう。  
 だが、ナノカの次の行動には、さすがにパナビアも口を離した。  
「ちょっと、私もう三回目――」  
 その言葉を遮るように、ナノカはパナビアの上に腰を下ろした。  
 
 既に濡れそぼっていたそこを、押し広げるようにして侵入する。  
 こちらを責めながらも感じていたのか、ナノカのそこは思いのほかすんなりとパナビアを受け入れた。  
「う……くぅっ」  
 ナノカの肉壁に締め付けられ、苦悶の声を上げる。  
 危うく意識を手放しかけるが、それには歯を食いしばって耐えた。  
「やっぱり先輩の……おっきぃ……」  
 うっとりとした表情でそう言って、小さく体を震わせる。  
 自分の中に侵入した異物をひとしきり堪能してから、ゆっくりと口を開く。  
「動きますよ、先輩……」  
 言うが早いか、ナノカは腰を動かし始めた。  
 肉壁がうねるように脈動し、精を吸い上げようと侵入者を締め上げる。  
 腰が打ち下ろされるたびに、結合部分からは蜜が溢れ、水っぽい音が響き渡る。  
「うあぁっ……ナノカ、お願いっ、もっとゆっくり……っ」  
 ただでさえ狭いというのに更に激しく締め付けられ、パナビアは思わず声を上げた。  
 堪えようのない快感が下半身を襲い、脳が痺れるような錯覚に目が眩む。  
 少しでも気を抜けば、すぐにでも限界を迎えてしまいそうだった。  
「イヤ、です……っ!」  
「そんなにしたら、すぐ出ちゃうからぁっ! お願い、許してぇっ!」  
「じゃあ、先輩の、沢山、ください……っ!」  
 そう言って、ナノカは締め付けを強くした。  
 限界まで張り詰めたパナビアの怒張を締め上げ、溜まりに溜まった熱を搾り取ろうと脈動する。  
 容赦の無い官能のリズムに、パナビアの下腹に集まった熱が出口を求めて荒れ狂う。  
 やがて、それを押し留めていた堤防は限界を迎え――  
「もうダメ……出るぅ……っ!」  
 白濁の熱が、ナノカの中に吐き出された。  
 
「先輩のが……いっぱい……」  
 自分の中に吐き出される熱に震えながら、堪能するように目を細める。  
 最後の一滴まで味わおうと、ナノカは自分の中で跳ねる怒張を締め上げた。  
「ひぅ……っ!」  
 絶頂の余韻も冷めぬうちに責め立てられ、パナビアは思わず声を漏らした。  
 その声を遮るように、ナノカはその唇をキスで塞ぐ。  
「んむ……ふ」  
「……ぅん……んっ」  
 互いに舌を絡ませながら、唇を重ねあう。  
 パナビアが黙ったのを確認し、ナノカは再度腰を動かし始めた。  
「……ぷぁっ。ちょっと待って、まだ敏感……っ」  
「だって、私、まだ、ですからっ」  
 そう答えながら、快楽を得ようと腰を擦り合わせる。  
 その動きに少しでも反撃しようと、パナビアはナノカを抱きしめ、その小ぶりなお尻を揉みしだいた。  
 互いに互いを責め合いながら、奪い合うように唇を重ねる。  
 互いの体液でどろどろになった下腹部は、二人が動くたびにぐちゃぐちゃといやらしい音を立てていた。  
「先輩のが、暴れてるっ! 私の中で、びくんびくんって、暴れてるぅっ!」  
「うぁあっ、ナノカ、そんなに締めたら、また出ちゃうっ!」  
「出してください! 先輩のが、欲しいんですっ! 先輩の、沢山、ちょうだぁいっ!」  
 ナノカの懇願に、パナビアは抗いがたい欲求が膨らむのを感じた。  
 溜まりに溜まった熱が、爆発するかのような勢いで再度込み上げてくる。  
「出……るぅ……っ!」  
 目の前が真っ白になるような錯覚と共に、白濁の熱が吐き出される。  
「……っくぁあ……っ!」  
 自分の中を汚す欲望の熱を受け、ナノカもようやく絶頂へと到達した。  
 
 ぽかぽかとした日差しが、木々の間を縫って差し込んでくる。  
 草葉のざわめきに耳を傾け、パナビアは優しげな風の抱擁に目を細めた。  
 木に背を預け、自分にもたれかかってくる後輩の体温が、優しい気分にさせてくれる。  
 ゆったりとした雰囲気の中、ナノカが恥ずかしそうに口を開いた。  
「外だってこと、すっかり忘れてましたね」  
「黙らっしゃい」  
 ナノカの言葉に、頬を染めて言い返す。  
 すっかり外だということを忘れて乱れてしまったが、よくあのカップルに見つからなかったものだ。  
 まあ、森の奥で人気もないようなところを選んだのだ。見つからなくとも不思議ではないが。  
「つーか、あんなの常備してるとは思わなかったわ……」  
「先輩のせいですよー」  
 ふふ、と、自然な笑みを浮かべながらナノカが返す。  
 何故か嬉しそうに言う彼女に、パナビアはうんざりとした気分で頭を抱えた。  
「ちょっとは自重しなさいよね」  
「えへへ」  
 ナノカは少し照れたように笑みを返すだけで、それには答えなかった。  
 その代わりか、小さな欠伸を一つ漏らす。  
「あふ……ちょっと眠くなってきましたね」  
「今日は割りに暖かいものね。ネオスフィアにも四季はあるみたいだし」  
 空中都市であるネオスフィアは、住人が年月の感覚を忘れないために四季がセッティングされている。  
 今のネオスフィアは、そろそろ春に差し掛かろうといった辺りで、陽気な気候になりつつあった。  
「まあ、眠いなら一休みしたら? 夕方になったら起こしてあげる」  
「じゃあ、お言葉に甘えて……」  
 そう言って、ナノカは体を横にして膝に乗せてきた。  
 何か言ってやろうと思ったが、やめた。膝枕くらいは許してやろう。  
「せんぱい……」  
「うん?」  
 聞き返すが、既にナノカは寝息を立て始めていた。  
 そんな彼女にパナビアは苦笑を漏らし、優しく頭を撫でてやった。  
 

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