ばしゃばしゃと、水音を立てて顔を洗う。  
 冷たい水で眠気の残る瞼に喝を入れ、手元に置いてあるタオルで水を吸い取る。  
 鏡の中の自分を見据え、ぱんぱんと頬を叩く。調子は良好。顔色もいい。  
 洗面台に背を向けて、よし、と気合を入れなおす。  
 意気は強く、胸を張り、パナビア・トーネイドは拳を掲げて天を仰いだ。  
「完! 全! 復! 活ッ!」  
 何がと言うと、風邪からの、である。  
 それほどひどくなかったというのもあって、たった二日養生しただけで完治してしまった。  
 やはり最近のごたごたで調子を崩していたのだろう。しっかり休めばこんなものである。  
「エンチャンテッド・ジーニアスッ!」  
 立てかけておいた愛用の工具を握り、その名を呼ぶ。  
 ひゅんひゅんと軽く振って、一打ち。かぁん、と小気味いい音が工房に響き、パナビアは満足気に頷いた。  
「よし、こっちも完璧。ふふふ、この怒涛の回復力。我ながら惚れ惚れするわ」  
 ひとしきり自分のスペックの高さに打ち震えた後、いそいそと台所に向かう。  
 何は無くともとりあえずは朝食である。いくら回復したとは言っても、腹が減っては仕事は出来ない。  
 と、鍋が一つ視界に入る。風邪の間にナノカが作り置いていったおかゆだ。  
 軽く中を覗いてみると、朝食分になりそうな程度残っている。  
 しばらくその中身とにらめっこした後、パナビアはおもむろにコンロに火を点した。  
「か、勘違いしないでよね。残ってるのがもったいないから食べちゃおうってだけなんだから。  
 それに、今から何か作るのも面倒だし、折角あるならそれを暖めたほうが手間も少ないし。  
 だからその、ほら、あれよ。別にナノカが折角作り置きしてくれたからもらっとこうとか、そういうのじゃ――」  
 誰にとも無くぐだぐだな言い訳をして、急に虚しくなって大きく息を吐く。  
 何で自分はこんな言い訳をしているんだろう。アホくさい。  
「あー、うん、結構やられてるわ。一生の不覚……」  
 うんざりとした様子でそうつぶやく。認めたくないが、認めるしかない。  
 複雑な気分で視線を落とすと、おかゆは丁度いい具合に温まり始めていた。  
 
 おかゆを平らげて一息つき、コーヒーを一口。  
 商店街で購入したこのブレンドコーヒーがナノカブレンドだと知ったのは、つい最近だった。  
 スペシャルブレンドなどと書いてあるので、どんなものかと思って買っただけなのだが――  
 悔しい事に、美味しい。評価を下した後に知ったので、今更撤回も出来ない。悔しい。でも美味しい。  
「このままでは……ダメよね」  
 神妙な面持ちでつぶやき、空になったコップに視線を注ぐ。  
「このままナノカのペースに巻き込まれていては……ダメだわ」  
 別にコーヒーに限った話ではなく、最近のあれこれである。  
 妙な変革を迎えてしまった二人の関係に対して、一石を投じなくてはならない。  
 具体的に言うと、握られっぱなしの主導権を奪い返すのだ。  
 何のと言うと、何というか、その、アレだ。ナニだ。  
「……何で私はこんな事にマジになってるのかしら……」  
 急に虚しさがこみ上げてきて、がっくりと肩を落とす。  
 確かにナノカに勝つということは自分の至上命題の一つだが、工房士とか全く関係ない。  
 だが――  
「いやいやいや、ダメよパナビア・トーネイド。  
 ここで退いたら、一生負け犬根性が染み付くわ。それだけはダメ。  
 頂点を目指すには、こんなところで妥協してたらダメなのよ。どんな壁だろうと貴賎は無いわ。  
 貴賎があるのは人の心。現状に妥協すれば、卑しさが身に付くことは必定! 天の頂はそれを認めない!」  
 ぶるんぶるんと頭を振って、自らを奮い立たせる。  
 次の勝利のための敗北ならば、甘んじて受けよう。だが、ただ服従するだけの敗北を認めるわけにはいかない。  
 頂点を目指すと決めた以上、前に進まぬ意志に用は無い。  
「とは言え、一体どうしたものやら……」  
 うーんと腕を組んで眉根を寄せる。自らを鼓舞することには成功したが、具体的な案が思い浮かばない。  
 そうやってうんうん唸りながら部屋を歩き回っていると、ひとつチラシが目に付いた。  
「これは……」  
 これは使えるかもしれない。手に取ったチラシをまじまじと見ながら、パナビアはそうつぶやいた。  
 
 ナノカ・フランカは、珍しくそわそわしていた。  
 大きなトンカチを抱えながら、それに負けない大きなポニーテールをふるふると震わせている。  
 それもそのはず、いつもは半ば押しかける形になるパナビアの工房に、珍しく呼ばれたからだ。  
 何か呼び出されるような悪いコトしたかな、などと、珍しい事態に珍しく弱気になる。  
 だが、その反面、パナビアから呼んでくれたことに、期待のようなものも抱いていた。  
 ちなみにあのカプセル、やっぱりポケットに常備している。  
「せんぱーい。おじゃましまーす」  
 とんとん、とノックをすると、扉が開く。  
 まるですぐそこで待っていたかのような反応に、ナノカは少し驚いた。  
「どうしたの。ほら、早く入りなさい」  
「え、あ、はい」  
 いつもとは微妙に違う様子に戸惑いながら扉を潜ると、かすかに化学薬品の香りが鼻腔を刺激する。  
 何か調合でもしていたのだろうか。  
「先輩、何か作ってました?」  
「……あんたの鼻って、たまに犬みたいよね」  
 そんな微妙な臭いを嗅ぎ分けるナノカに、パナビアは呆れたようにそう言った。  
 うう、ひどい、とつぶやくナノカをよそに、丁度作っていたコーヒーをカップに注ぐ。  
「まあ、一応ね。仕事じゃなくてプライベートな研究のほうだけど」  
 そう言って、カップを差し出す。  
 ナノカがそれを受け取ったのを確認して、一口。ああ、うん、やっぱり悔しいけど美味しい。  
「薬学研究ですか。完成したら見せてもらってもいいですか?」  
「別にいいわよ。それより先に、今日の用件だけど」  
 思いのほか早く訪れた本題に、ナノカはコーヒーを一口含み、心を落ち着けた。  
 普段ならばどうと言う事も無いのだが、先日あんな事があった矢先だ。どうしても意識してしまう。  
 納得はしたし、割り切ったつもりでもある。しかしそれでも、想いはそうそう簡単に切り替えられるものでもない。  
 出来れば、楽観的な予測――と言うか希望のほうが当たって欲しい。そう思いながらパナビアの言葉に耳を傾ける。  
「あんた、ちょっと実験台になりなさい」  
「……はい?」  
 その言葉がナノカの予想の範疇外だったことは、言うまでも無かった。  
 
「マッサージ用オイルですか」  
「ええ、そうよ」  
 脱衣所で服を脱ぎながらの問いに、同じように服を脱いでそう答える。  
 その答えに、ナノカは拍子抜けしたような安堵したような、複雑な気持ちで笑みを漏らした。  
「あはは……何かと思いましたよ」  
「何だと思ったのよ」  
 その問いには何でもないですと返し、ナノカはそそくさと浴室へと入っていった。  
 半分呆れた様子で息を吐き、水着に着替えると、パナビアもそれに続いた。  
 どうせ変な期待でもしていたのだろう。本当に、この娘は。  
「それで、えーっと……」  
「どっちからでもいいらしいけど、まずはうつ伏せで」  
 パナビアの指示に、はい、と答えてバスマットの上に寝転がる。  
 長い髪をまとめて横にどかし、顔をぺたんと横にする。小さい肩に細い腰、ちっちゃなお尻に綺麗な脚――  
 さあ、行くぞ、パナビア・トーネイド。ナノカの心に刷り込むのだ。どっちが真に上に立つ者なのかを……!  
「力抜いて楽にしなさい」  
「はい。えへへー」  
「……何よ」  
 にへら、といった感じで顔を緩め始めたナノカに、眉根を寄せる。  
 いつもいつも思うのだが、一体このやり取りの何処にそんな顔をするポイントがあるのだろうか。  
「なんでもないですよー」  
「……別にいいけど」  
 付き合っていると、いつまで経っても話が進まない。  
 今回は心を鬼にして、自分の目的を遂行――  
(あ、あれ? それじゃ、いつもは甘々だったって自分で認めてるような……)  
 オイルを手に取り、擦り合わせ、はたとそこに思いつく。が、すぐに気を取り直し――  
(と、とにかく今は使命遂行!  
 ふふふ、見てなさいナノカ。今日という今日は、あんたの体に立場ってものを刻み込んであげるわ!)  
 やっぱり何だかおかしい事に、パナビアは気付いていなかった。  
 
 勢い込んで手を伸ばすも、やる事は地味である。  
 ナノカの背にオイルをたらし、まずそれを足まで伸ばす。  
 脇腹のほうへぎゅーっと押し伸ばし、お尻をゆっくり回すようにして揉んでゆく。  
「く、くすぐったいですよ、先輩」  
「我慢なさい」  
 足の付け根を、パナビアの指先がくすぐるように擦っていく。  
 堪らずナノカは小さく身悶えるも、パナビアはそれだけ言って脚の方へと手を伸ばす。  
(この脚がまた何て言うか、もう、ええい)  
 ぶんぶんと頭を振って、雑念を振り払う。  
 これから行う事に雑念も何も無いのだが、欲望に流されてはいけない。  
 確固たる意思を持って、ナノカに逆襲するのだ。  
「ふわぁ……何だかぽかぽかしてきました」  
「オイルの効果ね。さて、それじゃあ仰向けになって」  
 パナビアの指示にはい、と答えて、仰向けになる。  
 きゅ、と締まった腹部にオイルをたらし、回すようにして広げていく。  
 そしてそのまま、ナノカの控えめな胸にその手を伸ばす。  
 ゆっくりと揉みしだくように、丹念にオイルを伸ばし、丁寧に丁寧に――  
「せ、先輩の、えっちぃ……」  
「全身マッサージなんだから、仕方ないでしょ」  
 頬をほんのりと上気させて言うナノカにそう返しながら、パナビアは自分の成果が実を結んでいる事を確信した。  
 自分の手が小さな膨らみの上を滑る度に、固くなった先端が擦り付けられる。  
 ナノカの吐息に、通常とは違う熱がこもり始めたのを確認し、パナビアは腹部へと手を降ろした。  
 オイルを追加し、脇腹へと伸ばすように押し揉んで、少しずつ下腹部へと降ろしていく。  
 何かを我慢するように擦り合わされている脚に手を伸ばし、それすら許さないとばかりに押さえてオイルを擦り込む。  
 内股に手を伸ばすと、ナノカの膝がぴくりと小さく動いた。  
 横目でナノカの表情を確認する。何かを訴えるような視線。  
 脚の付け根を経由して、そのまま腹部へと手を動かすと、ナノカの顔が、泣くのを我慢している子供のように歪む。  
 そのまま脇腹へと再度手を伸ばすと、ナノカの肩が小さく跳ねた。  
 
 軽く触れた程度で反応するナノカの姿に、パナビアは勝利を確信した。  
 口の端を笑みの形に小さく歪め、ナノカの腹にオイルを垂らす。  
「ところでナノカ。このオイル、成分が何か分かるかしら?」  
「え? ええと、多分、香草か何かの植物系油に、精油を混ぜたタイプの……」  
 熱に浮かされたような様子で、それでも思考を巡らせる。  
 その返答に満足気に頷き、パナビアはナノカの腹部に垂らしたオイルを、掌で押すようにして脚の付け根へと誘導する。  
 押された油が、茂みの無い土手を滑り落ち、ぴったりと閉じられた割れ目に染み込んでいく。  
「植物の中には、副交感神経を刺激する成分を含んだものもあることは知ってるわよね?  
 それを、皮膚浸透性の高いハーブ系のオイルに混ぜ合わせ、精油と他いくつかの化学薬品を少々……  
 苦労したのよ。目的の効果を得つつ、マッサージ用オイルとしても遜色ないものを作るのは」  
 つつつ、と、へその周りを指で円を描くようになぞる。たったそれだけの刺激も、今のナノカには強すぎた。  
 まるで神経がむき出しになったような感覚に、ナノカは声にならない声を上げて上半身をのけぞらせた。  
「ま、まさか先輩……」  
「ふふふ……そうよ、作ってたのはこのオイルよ!  
 皮膚浸透型の媚薬入りアロマオイル! あんたに使うために自作した特別品よ! 感謝なさい!」  
 駄目押しとばかりにオイルを垂らし、高らかに告白する。  
 彼女の顔には、勝利を確信した笑みが浮かんでいた。勝ったッ! 蒼い空のネオスフィア完! という奴だ。  
「今のあんたは快楽神経を剥き出しにされた全身性感帯よ! 究極の快楽地獄の中で、悶絶するがいいわ!  
 あ、それ、ド・レ・ミ・ファ♪」  
「あ、ひ、ひゃ、あんっ♪」  
 有頂天になりながらナノカの胸を指でつつく。  
 たったそれだけでも強い刺激が脊椎を走り、ナノカの口から嬌声が漏れる。  
 その声を聞きながら、パナビアは万感の思いに全身をうち震わせた。  
「ふ、ふふふ……長かった。長かったわ。今日という日を、一日千秋の思いでどれほど待ち望んだ事か……  
 今日のこの日のために、今までの敗北は存在する! 勝利という栄光のために、今までの雌伏の日々がある!」  
 たぱたぱと、自分の掌にオイルを垂らす。全身から発せられる熱に喘ぐナノカに見せ付け、パナビアはこれ以上ないほど邪悪な笑みを浮かべた。  
「さあ! 私の美技に酔うのよっ!」  
 その言葉と共に、その手をオイルごと、ナノカの股間に付き込んだ。  
 
「ひゃひぃっ!? ひぇんぱ、強すぎ、やはぁっ!?」  
「いつもいつもやってくれたお返しよ! あんたのヨコシマな期待は裏切らなかった分、感謝して欲しいくらいだわ!」  
 既に硬く張り詰めた肉芽を指で押し揉みながら、残った指でぴったり閉じられた割れ目を開く。  
 真っ赤に充血したそこを上下に擦ってやると、その奥からまるで洪水のように液体が染み出してきた。  
「ここもこんなに硬くして……大サービスよ、直接しごいてあげる」  
「ひっ、いいです、間に合ってまひゃうっ!?」  
 ナノカの敏感な部分を守る包皮をめくり、外気に晒されたそこを優しくしごく。  
 たっぷりと垂らされたオイルが潤滑を助け、強烈な快感がナノカの未熟な体を貫いた。  
「やはっ、せんぱ、もうイッちゃあぁっ!?」  
 言うが早いか、弓なりに体を反らし、ナノカはその小さな体を目一杯緊張させた。  
 びくびくと腰を痙攣させ、だらしなく口をあけて空気を求める。  
 今までの中で最も短い時間で絶頂に達したナノカに、しかしパナビアはその攻め手を緩める事はしなかった。  
「ひぇんぱ、まだびんかっ、ひぃっ!?」  
「ん〜? 聞こえんなぁ〜? 私も言った事があるようなセリフな気がするけど聞こえな〜い」  
 前後で矛盾が発生しようと、気にしない。苦悶の声で訴えるナノカを無視し、責めを続ける。  
 硬く尖った乳首を指でつまんで揉み解し、剥き出しの肉芽を手の腹で転がして弄ぶ。  
 挿し込んだ中指を抉るように掻き回すと、狭い肉壁が強く締め付け、再度の限界を訴えてきた。  
「ご、ごめんなさ、ひぃっ! 許ひ、ひゃあぅっ!?」  
 さほどももたずに限界を迎え、その体をもう一度弓なりに反らす。  
 強い快楽に晒された内壁がひくひくと震え、悦楽の証がパナビアの手を濡らす。  
 ナノカの下腹部から下はもう既に力を失い、すらりと伸びた健康的な脚は、時折ひくひくと動くだけで、彼女の指示を実行できないでいた。  
 パナビアはその脚を肩に担ぎ、ナノカの小さな割れ目がよく見えるように、大きく開かせた。  
「ふっふっふ……こんなのまだまだ序の口よ。これからあんたに、今までの分利子つけて返してあげるわ!」  
 片方の手で充血した肉芽をしごき、もう片方の手で肉壁を押し広げて中を抉る。  
 今までの中で最も激しいその責めに、堪らずナノカはその体をのけぞらせた。  
「うあぁっ!? せんぱ、許し、そんなにしたら出ひゃ、ああうっ!?」  
「何!? 何が出そうなの!? 言ってみなさい、聞いてあげるからっ!」  
「おし、おしっこ、ガマンでき、にゃあああっ!?」  
 ナノカの腰が大きく浮くと同時、その中心から金色の液体が噴き出した。  
 
「あ、あぁ、は、あ……っ」  
 びくびくと腰を震わせるたびに、幼い割れ目から小水がぴゅ、ぴゅ、と吐き出される。  
 真っ赤になった顔を涙と涎で汚し、大きく肩で息をするナノカを確認して、パナビアはぐ、と拳を握った。  
 勝った。捉えた。ナノカ・フランカを征服したのだ!  
 様々な種類の液体で濡れたナノカの股間に手を添えて、優しく撫でる。  
 それだけでも刺激が強いのか、ひくりと肩を震わせて、ナノカはまた嬌声を漏らし始めた。  
 真っ赤になった耳元に顔を近づけ、パナビアは囁くように口を開いた。  
「十四にもなって、お漏らし?」  
「そ、それはせんぱいがぁ……」  
 つい最近のうちに二回もお漏らしをさせられた自分を棚に上げ、今度は言葉で責め立てる。  
 浸透性の興奮剤と倒錯した達成感が脳髄を刺激して、背徳的な快楽をパナビアに与えていた。  
「私が、何?」  
「せ、せんぱいが、いじめる、から、ひゃぁっ!」  
 全部言い終わるのを待って、ナノカの肉芽を引っかく。  
 その刺激で腰が浮き、まだ残っていたのか、その割れ目から金色の液体がぴゅ、と噴き出る。  
 既にナノカに抵抗する力は無く、今はパナビアが彼女を支配していると言っても過言ではなかった。  
「こういうこと、して欲しかったんじゃないの?」  
 ふふん、と鼻を鳴らし、意地悪な笑みを向ける。  
 それに対してナノカは、もう許して欲しいという懇願と、まだ足りないという欲求の混じった視線を返してきた。  
 その瞳に、ぞくぞくとしたものが背中を走るのを感じ、パナビアは我知らず舌なめずりをしていた。  
「ねえ、ナノカ。どうなの? して欲しくないの?」  
 耳元に顔を近づけて囁く。その問いにナノカは、少しの間躊躇うように口を動かし――  
「……て……さい」  
「よく、聞こえないわよ?」  
「し、して、下さい……もっと、もっとして下さい先輩! もっとぉっ!」  
 その懇願に、パナビアは会心の笑みを浮かべ――  
「正直者には、ご褒美をあげなくちゃ、ね……」  
 自分の水着に、手をかけた。  
 
 自らを守る薄布を脱ぎ捨て、生まれたままの姿を晒す。  
 そのまま覆いかぶさるようにして重なり、両手でナノカの顔を押さえ、唇を重ねた。  
「は、ぷぁ……」  
 舌を強引にねじ込み、口内を蹂躙する。  
 自分の舌先でナノカの舌をつついてやると、それに応えて舌を擦り合わせてきた。  
 そのまま互いの唾液を交換しながら、自身の膨らみでナノカのそれを押しつぶす。  
 ゆっくりと擦り合わせるたびに互いの先端が触れ合い、その都度ナノカの舌がぴくぴくと反応する。  
「ん……はぁ……」  
 ようやく唇を離すと、涙と涎で顔をぐちゃぐちゃにしながら喘ぐ後輩の顔が視線に入る。  
 この顔は、自分だけのものだ。自分だけが見ることが出来る、自分だけに許された特権だ。  
 他の誰にも渡しはしない。少なくとも、今はまだ。  
「ねえ、ナノカ」  
「は、い……?」  
 パナビアの呼びかけに、焦点の定まってない瞳で返事をする。  
 熱に浮かされたような様子のナノカに、パナビアは妖艶な笑みを返して口を開いた。  
「『あんなもの』無くたって、繋がることくらい出来るのよ?」  
 何の事を指しているのか、ナノカが疑問符を浮かべる間に、その脚を取って持ち上げる。  
 そのままパナビアは、ナノカの熱く濡れそぼった核心部分に、自身のそれを押し付けた。  
「ん……っ」  
「ふぁ……っ!?」  
 円を描くように腰を動かし、互いの秘裂を擦り合わせる。  
 硬く充血した肉芽が互いのそれを弾き合い、濡れた秘唇が擦り合う。  
 初めて体験する『女性同士』の繋がりに、ナノカは体を仰け反らせながらその快感に打ち震えた。  
「ふぁあ!? これ、何か、変……っ。すご……ひぁあっ!?」  
「ぅ……はぁ、ナノカのが、私に擦れ、てぇ……っ」  
 ディープキスでもするかのように、互いの秘部を深く押し付け合う。  
 水っぽい音が浴室に響き渡り、それが更に興奮を誘って快楽を生み出す。  
 体の奥から湧き上がってくる情欲に、二人は自制も忘れて互いの腰を擦り付けた。  
 
「ぃっ……ひぃ、せ、せんぱっ、もうダメ、私もう、またぁ……っ!」  
「ま、まだ、私がまだ、もうちょっと……っ!」  
 自らの限界を伝えるナノカに、パナビアは今しばらくの辛抱を求める。  
 だが、ただでさえ媚薬で性感を高められ、幾度もの責めを受けたナノカに、その注文は酷だった。  
「無理、イっちゃ、ぁああっ!?」  
 強烈な快楽の波に、頭の中が弾けそうな錯覚と共に絶頂を迎える。  
 上半身をマットに押し付けるようにして仰け反らせ、まるで痙攣したかのように全身を震わせる。  
「我慢して、って、言おうと、したのにぃ……っ」  
 そんなナノカに非難の視線を向けながら、パナビアは腰を動かすのを止めはしなかった。  
 既に彼女も媚薬が回り、情欲が理性を押しつぶし始めている。  
 ナノカに休息も与えぬまま、パナビアは貪るように快楽を求めていた。  
「ひあぁっ!? せんぱ、休ま、休ませてくださぁあっ!?」  
 たまらないのは、絶頂を迎えても責め続けられるナノカのほうだ。  
 余韻を感じる間も無く責め続けられ、全身を走る快楽がピークのまま維持される。  
 連続して襲ってくる絶頂が、腰から脳髄を貫き、火花となってナノカの視界を白く染めていく。  
「ゆるっ、許してくださはぁあっ! わた、わたし、さっきから、イキっぱにゃぁああっ!?」  
「私が、イクまで、許したげ、ない……っ!」  
「ひぇんぱっ、死んじゃうっ。キモチ良すぎて、死んじゃ……っぁあうぁああっ!?」  
 全身に擦り込まれた媚薬と、止む事の無い快楽責めに、幾度目かの限界を迎える。  
 幼い秘裂からは止め処なく蜜が溢れ、ぐちゃぐちゃといやらしい水音を浴室に響き渡らせていた。  
「ナノカ、聞こえてる!? スゴイ音、立ってるわよ!?」  
「ふあぁっ、イジワル! 先輩のイジワルっ! でも――」  
 パナビアの言葉に、だだをこねる子供のように泣き喚きながら、ナノカは言った。  
「でも好き! 大好きっ! 愛してます、せんぱぁあいっ!」  
 ナノカの告白に、パナビアの心臓が大きく跳ねた。  
 まだ少し残っていた余裕が一気に消え去り、唐突に限界が訪れる。  
「うるさいばか! ナノカの、ばかぁぁあっ!」  
 湧き上がってくる歓喜に反し、パナビアは罵声を上げながら絶頂を迎えた。  
 
 ちゃぽん、と、小さく水音が立つ。  
 その音が妙に遠く感じられながら、パナビアは天井を仰いだ。  
「あー……」  
 浴槽に身を埋めながら、そんな呻き声を漏らす。  
 呻き声と言うほど意味のある声だったのかも怪しいが、それ以外に表現の仕様がなかった。  
 そのままゆっくりと、視界を下ろす。  
「えへへー」  
 自分の上にちょこんと座り、自分の顔をさする後輩の後頭部が見える。  
 彼女の顔は、だらしなく崩れているのだろう。見なくてもなんとなく分かる。  
「先輩にいーっぱい、してもらっちゃった♪」  
 逆襲は成功だった。むしろ成功しすぎた。  
 はっきり言ってやりすぎである。ちょっと懲らしめるだけのつもりだったのだ。  
 だと言うのに、当のナノカは大満足の様子である。ええい、プロスペロの孫は化け物か。  
「えーっと……」  
 今更ではあるが、他にいい手段はなかったのだろうか。  
 人生をやり直せる魔法の呪文があればいいのに。あ、何か浮かんできた。ぴぴるぴるぴる――  
「先輩」  
「……何?」  
 ナノカの呼びかけに、現実逃避から意識を戻す。  
 とりあえずあれだ。立場が悪化しなかったから良しとしよう。  
「先輩のえっち」  
 責めるような言葉を心底嬉しそうに言ってくるナノカから、パナビアは視線をそらした。  
 返事はしない。今回ばかりは否定のしようも無いからだ。  
「でも、好きですよ?」  
「……知ってる」  
 こんなやり取りも、所詮ごっこ遊びだ。いつかは終る。終らせなければならない。  
 それでも今はまだ、こんな関係に甘えるのもいいかと、パナビアはそう考える事にした。  
 

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