ある晴れた朝。
パナビア・トーネイドは、久しぶりに平和な朝を迎えていた。
ここ最近は、色々な事がありすぎて、まったくもって落ち着かなかった。
だが、その代わりか帰郷用の資金も貯まり、もう少しで帝都に帰ることが出来そうだ。
「はぁ〜。今日は一日休むのもいいかもね……」
そんなことを言いながら、トーストにかぶりつく。ゆっくりと咀嚼し、牛乳で流し込んだ。
と、そこにノックの音が割り込んでくる。早朝の急な訪問に眉をしかめながらも、パナビアは腰を上げた。
「はいはい、今開けるわよ。
全く、こんな朝早くから一体誰よ……」
ぶつぶつと文句を言いながらも、ドアノブに手をかける。
玄関を開いてみると、そこにはでっかいトンカチを持った、長いポニーテールの少女がいた。
むかつく後輩、目の上のタンコブ、能天気トンカチ娘、ナノカ・フランカである。
「せんぱぁ〜い!」
「おわぁっ!?」
しかも何やら、勢い余って抱きついてくる。
まるで体当たりでもするかのようなその勢いに、パナビアはそれを支えきれず二人で床に倒れて込んでしまった。
「ちょっと、急に何よ!?」
「助けてください先輩! もう何か私動揺しちゃってまともに対処できないんです!
この間の約束もあるので、お願いですから手伝ってくださいぃっ!」
「意味が分からん意味がっ! とりあえず私の上からどいてドアを閉めろっ! 近所迷惑だし恥ずかしいわっ!」
玄関が開きっぱなしなせいか、早朝だというのに何人かが覗き込むように二人を見ている。
こんな朝っぱらから、変な噂を立てられるのは非常にまずい。
「せんぱぁ〜い……」
「分かった、分かったから! 話聞いてやるから、お願いだからドア閉めて!」
泣きそうな顔で懇願するナノカに、自分も泣きそうな気分でパナビアは叫び返した。
事の発端は、つい昨日。ナノカがいつものように発明をしていた夜の事らしい。
プロスペロ発明工房のドアがノックされる。
ナノカは細かい作業中のため、スツーカが代わりにドアを開けた。
「やあ、スツーカ。久しぶりだね」
「ラファルー? お前さんが尋ねてくるとは、また珍しいな」
柔和な笑みを浮かべた来訪者に、スツーカが驚きの声を上げる。
その名前に、ナノカは驚いてそちらを振り向いた。
「え? ラファルー!?」
「やあ、ナノカ――」
ラファルーがそちらに視線を向けた瞬間――ナノカのエルボーが、作業中のビーカーやらフラスコやらに、クリーンヒットした。
「あ」
誰かが――いや、恐らくその場にいた三人が、同時にそんな声を発した。
次の瞬間、床にガラスと液体がぶちまけられ――
「うひゃあっ!?」
ナノカは、爆発に巻き込まれた。
「ナノカ!」
「だ、大丈夫かいっ!?」
慌てて駆け寄る。煙が晴れたそこには、口から煙を吐いて目を回したナノカが転がっていた。
「はらほろひれ……な、慣れてるから大丈夫だよ……」
ちっとも大丈夫そうではないが、確かに大事には至っていなかったようだ。ただ、あちこちに傷が出来ていたが。
「ごめんよナノカ。実験中にお邪魔しちゃったみたいだね」
「あたた。ううん、気にしないでよラファルー。今のは私の不注意だから」
「いつもの事とはいえ、あんまり驚かせんでくれよ。君に何かあったら、マスタープロスペロに申し訳が立たんのだからな」
スツーカの言葉に、ごめんごめんと苦笑しながらナノカは謝った。差し出されたラファルーの手をとり、立ち上がる。
「怪我、しちゃったね」
「コレくらい大丈夫だよ。いつものことだし」
「でも、いくらかはボクのせいだからね。そうだ、旅先で面白いものを見つけたんだ――」
そう言ってラファルーは、小さなベルトポーチからカプセル状の何かを取り出した。
「……というわけで、昨日それを飲んだんですが……」
「はぁ。カプセル飲用タイプの医療用マイクロマシンねぇ」
説明を聞きながら、パナビアは最後のトーストを飲み込んだ。牛乳を一口。
「で、それが何で私の工房に来ることになるわけ? 大体、約束って――」
そこまで言って、はたと気付く。そういえば自分は、以前ナノカとある約束をしていなかったか?
そして、その内容は確か――
「ま、まさか……嘘でしょ!?」
がたりと、椅子から思わず立ち上がるほど動揺して後ずさる。
確かに、自分は以前ナノカとある約束をした。しかしそれは、そんな事態など来ないと思ったからした約束だ。
元々別のことで借りを返すつもりだったため、覚えてはいたが気には留めていなかった。しかし――
「冗談よね!? タチの悪い冗談でしょ!? ねぇっ!?」
「うう……冗談じゃないですぅ」
パナビアの懇願にも似た叫びは、泣きそうな声で否定されてしまった。
そのままナノカは、自分のスカートに手を伸ばす。
そこには、当たって欲しくなかった予想が、現実を突きつけるかのように存在していた。
「うぁ……」
額に手を当てて天を仰ぐ。
神様。何故世界は私にこんなに厳しいんでしょうか。
胸中で一通り嘆いてから、パナビアは再度そこに視線を戻す。何だか眩暈がしてきた。
「仕方ないか……約束は約束だし……」
「すいません、先輩……」
本当に申し訳なさそうに言うナノカに、流石のパナビアも文句を言う気にはなれなかった。
かつて自分も、この後輩が勝手にやったとはいえ、その件では世話になったからだ。とはいえ――
「またこんなコトに関わるなんて……今年は厄年なのかしら……?」
うんざりとした口調で毒づきながら、パナビアはナノカに生えた男性器を眺めた。
「とりあえず、サンプルを採ってみましょうか」
「はい」
ビーカーを取り出しながら言うパナビアに、ナノカは素直に答えた。
ちなみに、聞いたらナノカは朝食も摂らずに来たという事なので、用意してやった。これからどれだけかかるか分からないからだ。
「あのお供の連中には言ったの?」
「ええと……ここに来るとは言いましたけど、さすがに理由までは……」
顔を少し赤くしながら答える。恐らく、共同作業があるとか、適当な理由をつけて誤魔化してきたのだろう。
「……まあ、そうよね。私でもそうするわ……」
うんざりとしながら、パナビアはその判断に同意した。そのまま、ナノカの前にビーカーを置く。
「とりあえず、この中に出して。出るならだけど」
「あ、はい……えと、やっぱり自分で……?」
困ったような顔で、覗き込むように聞いてくる。その視線に、多少の罪悪感を感じながらも――
「当たり前よ」
そう答える。前回は色々とアレだったが、今回は引ける線だけは引いておきたかった。
「分かりました。じゃあ、その……始めますね?」
何故疑問系なのかはさておいて、そう答えてからナノカは自分でそこに刺激を与え始めた。
前回でコツを掴んだのか、それともやはり敏感なのか、程なくして隆起し始める。
完全に立ち上がったそこは、以前パナビアに生えていたものよりも小さく、皮も被っていた。
勝敗をつけるならば、間違いなくパナビアの圧勝である。
(……こんなところで勝っても、ちっとも嬉しくない……)
うんざりとしながら頭を抱える。
「どうしました?」
「いや、なんでもない……続けなさい」
その様子に気付いたのか、不思議そうに聞いてきたナノカに手を振って答える。
その答えに、ナノカははいと答え、行為を再開した。
(大体、最近やたらと色々ありすぎなのよね……)
黙々と行為を続けるナノカをぼうっと眺めながら、パナビアは胸中でつぶやいた。
(変な機械の実験台にされたり、あんなモノが生えたり、変なEスーツ着て売り子やったり。
挙句が今日のこの騒ぎか……なんだかなぁ……)
ふぅ、と息を吐く。こんなに密度の高い日々は初めてかもしれない。
おかげで退屈はしないが、だからと言ってありがたいものでもなかった。
(まあそれでも、全部が全部嫌なことばっかりだったってわけでもないけど……なんかね)
少なくとも、確かに貴重な体験ではある。普通に生活していたのでは、なかなかお目にかかれないだろう。
考えもしていなかった、知りもしなかった知識や体験を得られるというのは、工房士としてはありがたいことではある。だが。
(その内容が、こういう関係ばっかりだっていうのがね……どうかと思うわけよ。
まあ、Eスーツ――じゃない、Eアーマーに関しては、確かに悪くない経験か。データも取れたし)
「あ、あの……」
「うん?」
そんなことを考えていると、急にナノカが声をかけてきた。
少し汗ばんだ顔を赤くし、軽く息も上がっている。だが、まだビーカーには何も入っていなかった。
「何? 出ないの?」
「い、いや……その、えと……」
パナビアの質問に、ナノカは自らのモノをしごきながら口を開いた。
「見られて緊張してるのか、その……い、イケないんです……」
恥ずかしそうにそう言うナノカに、パナビアは自分がナノカの自慰行為を観察しているも同然だということに気付いた。
それに気付いた瞬間、パナビアはさぁっと顔を赤くした。心臓の鼓動が速くなるのを自覚し、急に気恥ずかしさで一杯になる。
それと同時に、小さいながらも精一杯自己主張をするナノカの『男』に対し、強い関心が湧いてくるのを感じた。
「そ、そう……」
努めて平静を装いながら――それでもパナビアは、我知らず生唾を飲み込んでいた。椅子から立ち上がり、愛用のグローブを脱ぐ。
「仕方ないわね……じゃあ、やっぱり私がするしかないわね……」
そんな言い訳をしながら、パナビアはナノカの背中を抱くようにして、彼女の怒張に手を伸ばした。
「あ……っ」
ぴくりと体を震わせ、ナノカの口から声が漏れる。
その声を聞きながら、パナビアは自分の手の中で脈打つ肉の棒を、ゆっくりとしごき始めた。
(熱い……)
手を上下に動かすたびに漏れ聞こえてくる甘い声に、脳が痺れるような錯覚を覚える。
そういえば、いつぞやの時は自分ではまともに触っていなかった。
確かに、こうやって自分でやってみると、相手がちゃんと気持ちよくなっているか気になってくる。
声を我慢できずにいられる事を考えれば、十分気持ちいいのだろうが――
「せ、せんぱ……もう、出ちゃ……っ」
その告白の直後、ナノカは溜まりに溜まった熱をビーカーの中に吐き出した。
びくびくと手の中で跳ねながら白濁した液体を吐き出す肉棒を眺めながら、パナビアは自分もこんな風だったのかと考えた。
「沢山……出たわね」
「先輩の手、気持ちよかったですぅ……」
まだ余韻が残っているのか、熱に浮かされたような表情で振り向きながらナノカがそうつぶやく。
その顔に一瞬どきりとするが、それでもパナビアは平静を装ってナノカから離れた。
「検査しておくから、少し休んでおきなさい」
はい……と答えるナノカに、何故か後ろ髪を引かれるような思いを抱きつつ、パナビアは検査を始めた。
「純粋な……精液じゃないみたいね」
いくらかのサンプルを検査した結果出た結論は、いつぞやとほぼ同じものだった。
「精子も見つからなかったし……ただ、私の時みたいにマイクロマシンが見つかることも無かったわ」
「そうですか……」
意気消沈したようにナノカがつぶやく。ただ、別にそれが直接治療不可能というわけでもない。原因を探るために、他の検査をすればいい。
「まあ、最悪前回みたいにマイクロマシンで治療するしかないわね。少々乱暴だけど――」
そこまで言って、パナビアはナノカの様子がおかしいことに気付いた。
休んだはずにも関わらずじっとりと汗をかき、何かを我慢するように脚を擦り合わせている。
良く見れば、先ほどから両手でスカートの前を押さえつけ、どかそうともしない。
「せんぱぁい……」
やがて、ナノカの口から懇願するような甘い声が漏れ出してきた。
赤い顔に潤んだ瞳。喘ぐような――実際、喘いでいるのかもしれない――熱い吐息。
目病み男に風邪女とはよく言ったものだと、頭のどこか冷静なところが、的外れなことを考える。
「治まんないよぉ……」
そう言うナノカのスカートは、確かに内側から何かが生地を押し上げていた。何かは簡単に想像がつく。ナニだ。
脚を擦り合わせ、切なげな表情でこちらを見つめてくる。その扇情的な光景に、パナビアは我知らず喉を鳴らしていた。
「お、治まらないって……」
「分かんないです……さっきからずっと疼いて……」
本当なら、すぐにでも自分を慰めたいのだろう。自分も経験があるから、ある程度は理解できた。
だが、羞恥心が邪魔をしているのか、それともきっかけが欲しいのか、こちらを見つめるばかりで何もしようとはしない。
「先輩……お願い、助けて……」
自分の中で何かの折り合いをつけたのだろうか。涙目で懇願してくるナノカに、パナビアはためらいを隠せなかった。
いつぞや――自分の時は、まだ治療の一環だと言い訳することも出来た。状況が状況だったからだ。
しかし今は違う。立場が逆になっただけの話ではない。
今手を出すということは、単純に快楽を得ようとする行為に手を貸すということだ。
寝る前になにやらしたような記憶があるが、それは頭の隅へと追いやった。あれは何と言うか、その……勢いというヤツである。
(……何だかんだ言って、良い言い訳が欲しいだけなのよね……)
そこに行き着き、パナビアは胸中でため息をついた。
そう、自分は何か体の良い言い訳が欲しいだけなのだ。あの時は治療だったし、そのあとはナノカのせい。
だったらこの際、今回の言い訳は――
「……約束だからね。いいわ……面倒、見てあげる……」
この困ってる後輩との約束を果たす。同じ状況になった時、色々面倒を見るという約束を。
だったら、これもその一環だ。それに、弱気なナノカなど滅多に見れるものでもないし、それにお願いされるのも滅多に無い。
そう、ここで先輩の威厳というか、ありがたさというヤツを教え込んでやるのだ。
……決して、肉欲に負けたわけではない。苦しいのは承知の上だ。何せこれは言い訳なのだから。
「服……脱がすわよ?」
その言葉に、ナノカは小さくうなずいた。
いつも着ているアカデミーの制服を弛め、まだ未成熟な肌を外気に触れさせる。
別に、裸を見ることそのものに気が向いているわけではない。所詮は同じ女の裸だ。以前見たこともある。
問題は、何のために裸にしているのか、ということである。
「ぁふ……」
程なくして、ナノカの体を隠すものは無くなった。火照った体に外気が触れ、小さく声を漏らす。
前回とは全く逆の立場で――ただし状況は全く違う――パナビアは、ナノカの肉棒を優しく握った。
手の中でぴくぴくと脈動し、先端から透明な液をにじませている。その下にある女性の部分は、既に自身の体液で濡れそぼっていた。
(可愛い……)
赤い先端を覗かせ、先走りの溢れているそこに、パナビアはそんな感想を抱いた。
ちらりとナノカの顔を覗くと、期待と羞恥の入り混じった様子で、こちらを観察している。
その視線に、パナビアは意を決して目の前の怒張を口に含んだ。
「はぅ……っ」
がたりと椅子を揺らし、ナノカの体が小さく跳ねる。ぱし、という乾いた音に視線を向けると、両手でナノカが自分の口を塞いでいた。
その光景にちょっと満足感を得て、パナビアは口の中で跳ねる欲望の滾りを舌で転がしてやった。
吸い上げたり嘗め回したり、先端の穴を舌でつついてみたりと、色々やってみる。そのたびにナノカから声が漏れ、それが何だか楽しくなってくる。
「せんぱ……も……ダメ……っ」
搾り出すような声と共に、ナノカはその熱い欲望の塊をパナビアの口に吐き出した。
口内を汚す熱にむせそうになるが、パナビアはそれを無理やり飲み下した。前回咳き込んでしまったナノカへの、ちょっとした対抗心だ。
余韻も吸い出し、先端を綺麗に舐めて口を放す。
「……変な味……」
顔をしかめながら口の端をぬぐい、そうつぶやく。些細な対抗心で飲んでしまったが、とてもではないが飲みやすいものではなかった。
成分が違うので、正確な精液の味というわけではないだろうが、だからと言って本物がおいしいかと言われれば、多分違う。絶対不味い。
「あぅ……まだ……」
見ると、一度精を吐き出したというのに、そこはまだ衰えを見せず、むしろ破裂しそうなほど張り詰めていた。
「大丈夫……ちゃんと最後まで面倒見てあげるから」
そう答えながら、パナビアは自分の服に手をかけた。
ばさりと音を立て、服が落ちる。
普段裸になどならないようなところで肌を晒すというのは、奇妙な感じがした。
「先輩、綺麗……」
「お世辞はいいわよ」
綺麗と言われ、パナビアは照れくさくなってそう返した。そのままナノカの前に膝をつく。
「お世辞なんかじゃ……んっ」
その言葉を遮るように、パナビアは自分の乳房でナノカの肉棒を挟み込んだ。
そのまま乳房を揉みしだくようにして、熱く硬くなったそこに擦り付ける。
「ど、どう? あんたのその貧相な胸じゃ、こんなこと出来ないでしょ?」
「わ、私のは年相応――ぁふ……っ」
柔らかく弾力のある乳房に包まれ、ナノカの下半身は今にも爆発しそうなほど熱くなっていた。
その熱を感じながら、パナビアも自らの体が熱を帯びてくるのを自覚する。
これじゃあ人の事言えないわね、と胸中で苦笑しながら行為を続ける。やがてナノカは声を抑えきれなくなり――
「先輩……出る……っ」
その宣言とほぼ同時、ナノカは白濁の熱をパナビアの顔めがけて放出した。
二、三度痙攣するように残りを吐き出し、パナビアの乳房を白く汚す。まるでその液体が自分の情欲を掻き立てるような錯覚をパナビアは覚えた。
「はぁ、はぁ……ま、まだ……」
「まだ元気みたいね?」
顔を覗き込みながらそう聞くと、ナノカは熱に浮かされたような表情で小さくうなずいた。
椅子に背もたれがないせいか、姿勢を保てずにふらふらと上半身を揺らしている。
「無理せずに、椅子から降りたら?」
「は、はい……」
椅子から滑り落ちるようにして、ぺたん、と床に腰を下ろす。その勢いで、ナノカの腹を肉棒がぺちんと叩いた。
何かを期待するかのような視線を投げかけてくるナノカを眺めながら、パナビアは次にどうしてやろうかと考え込んでいた。
ナノカが満足するまでしごき続けてもいいが、それは何か負けた気分になる。それに何より、さっきからもう我慢できなくなってきていた。
(……さよなら、羞恥心)
その言葉は今更な気もするが、結局パナビアは自分の欲求に素直になることにした。
「ねぇ、ナノカ」
「はい……?」
ぼうっとした様子で返事をするナノカに、パナビアはこっそりと唇を舐め、机の縁に座る。
「そろそろ、お返しがあっても……いいんじゃない?」
そう言いながら、脚を開いてみせる。既にそこはしっとりと濡れ、熱く充血していた。
具体的に何をしろとは言ってないが、ナノカは迷わずそこに口付けをした。
そのままパナビアの中に侵入しようと、舌を伸ばして肉壁をかき分ける。
「はっ……あ……そう、そこ……もっと……!」
まるでその働きを褒めるようにナノカの頭を撫でる。それが嬉しかったのか、ナノカはより激しくパナビアの秘裂にしゃぶりついた。
内側からあふれ出てくる液体を掬い取るようにして舐めあげ、真っ赤に充血した陰核を思い切り吸い上げる。
「ひぁう……っ!」
その強い刺激に、パナビアは倒れそうなほど大きく背を反らした。形のいい乳房が、その勢いで小さく跳ねる。
だがナノカは、そんな彼女の様子などお構い無しで、取り憑かれたかのように陰核を攻め立てた。
最も敏感な部分への執拗な愛撫に、パナビアは目の前と頭が真っ白になるような錯覚を覚え――
「……ぅぁあっ……!」
今度こそ机に倒れ込み、絶頂に達する。
二、三度痙攣するように腰を震わせ、パナビアは息をついた。落ち着いてから、ゆっくりと上半身を起こす。
そこには、物欲しそうにこちらを見ながら、自らを慰めているナノカの姿があった。
「先輩……先輩……私……っ」
うわごとのようにつぶやきながら、こちらを――いや、正確には、こちらの秘部を凝視している。
「……もしかして……入れたいの……?」
そう聞くと、ナノカはためらいがちに、だがはっきりとうなずいてきた。
その返事に、パナビアは何故か承諾してもいい気分になっている自分に気付いた。
確かに、自分はまだ経験が無い。それは自分にとって大切なものだし、出来れば納得のいく相手に捧げたいという願望もある。
だが何故か――何故かパナビアは、この目の上のタンコブである後輩にあげてやってもいい気分になってきていた。
いつぞやの時の引け目があるわけではない。そんな理由で初めてを捧げるつもりなど無い。だが――
「……いいわよ……」
気付けば、何故か自分はその言葉を口にしていた。
「ここよ……間違えないでね」
そう言いながら、自分の指で左右に広げて見せる。くちゅ、という水っぽい音がした気がした。
机に乗り上げ、自らの入り口へと近づいてくるナノカに、パナビアは心臓が爆発しそうなほどの緊張を感じた。
ただ見るだけならば、さほど大きいとも思えなかったその怒張が、今は本当に自分の中に入るのかと思えるほど大きく見える。
「い……入れます、よ……?」
先端をあてがいながら聞いてくる。この期に及んでまだためらいがちなナノカに、パナビアは自然と苦笑を漏らした。
「もう……本当は入れたくてたまんないくせに」
その言葉に耳まで真っ赤にしながら、ナノカは侵入を始めた。
今まで男を受け入れたことの無いその場所に、抵抗する肉を押しのけて異物が侵入してくる。
「…………っ!」
声を出さなかったのは、奇跡かもしれない。突き抜けるような痛みに、歯を食いしばり、下腹に力を入れて耐える。
その瞬間――
「ぅ……あ……っ」
一番奥まで侵入を果たした瞬間、ナノカは我慢できずにパナビアの中へと熱を吐き出してしまった。
だらしなく口を開け、大きく体を反らし、その余韻に体を震わせている。
やがてその衝撃から立ち直ると、ナノカは結合部から流れる鮮血に気付いた。
「せ、先輩……初めてだったんですか……!?」
「そ、そうよ……だから、ありがたく思いなさいよ……?」
精一杯強がって見せる。だが、未だ痺れるような痛みは執拗にパナビアを攻め立て、それに彼女は顔を小さくしかめた。
痛いとは聞いていたし、個人差があるとも聞いてはいた。とはいえ、これはなかなか――いや、かなり痛い。
(……優しくしといてよかった……)
脳が痺れるような錯覚を感じながら、パナビアはいつぞやの時のことを思い出していた。
これほどナノカが痛かったかは分からないが、少なくともこんな痛みを受けている者を、乱暴に扱う気にはなれない。
「それより、何よ……入れた途端出すなんて。そんなに我慢できなかったの?」
「だ、だって……先輩の中、気持ちよすぎて……」
恥ずかしそうに答えるナノカに、パナビアはその頬を優しく撫でてやった。
「まあいいわ……どうせ妊娠なんかしないし。その代わり、私がイクまで付き合ってもらうわよ?」
「あ、はい……多分大丈夫です。その……何かまだ足りないですし……」
後半部分はぼそぼそとつぶやくように言っていたが、パナビアにはちゃんと聞こえていた。
その様子に小さく微笑み、口を開く。
「ところで、ちょっと顔寄せなさい?」
「は、はい……?」
素直に顔を近づけてきたナノカに、パナビアは優しくキスをした。
いつだったかの診療所では奪われるような形だったが、今回は違う。自分の意思で唇を重ねる。
「前の時、しなかったから……ね」
唇を重ねるだけのソフトなものだったが、それで十分だった。愛欲を求めてのキスではないのだから。
「今回だけよ?……て、ちょっと、中で大きく……」
「だ、だって……」
パナビアの指摘に、ナノカは言い訳をするようにつぶやいた。そのナノカに、頭を撫でてやりながら苦笑交じりに口を開く。
「……もう動いていいわよ。あんた、動きたくてたまらないって顔、してる」
少し話していたら、幾分か楽になった。その様子に安心したのか、ナノカは言われた通り動き始めた。
最初はあまり速くなく、少しずつ速度を上げていく。角度を変えたり動きを変えたりして、ナノカはパナビアの感じるところを探っていった。
だがそれでも、先にナノカのほうに限界が来る。
「……ん……っ!」
背筋を伸ばし、白濁した熱の塊をパナビアの中に注ぎ込む。しかしそのまま、さほども休まずナノカは動きを再開した。
「ちょ、ちょっと……少しは、休んだら……」
「せ、先輩を……気持ちよく、するまでは、休みたく……ない、です……っ」
ぐちゃぐちゃと中をかき混ぜながら、ナノカは一心不乱に腰を打ちつけ続けた。
パナビアの感じるところを見つけ出し、そこを重点的に攻めながら、自らを高めていく。
「ナ、ナノカ……私、もう……っ!」
やがて、パナビアにも限界が近づいてくる。
その言葉に、ナノカはよりいっそう大きく腰をグラインドさせた。彼女も幾度目かの限界を迎えようとしている。
「ナノカ、ナノカ! ナノカぁっ!」
「先輩、先輩! せんぱぁいっ!」
まるで恋人同士のように互いの名前を呼び合い、二人は同時に体を大きく反らして果てた。
余韻に体を震わせ、二人は抱き合いながらキスをした。
まだ息は切れていたが、互いを求め合うように舌を絡ませる。
「ぷぁ……先輩、えっちぃ……」
「お互い様よ。このエロ娘」
そう言いあってから、軽く唇を触れ合わせる。そこでナノカは何かに気付き、体を起こした。
「どうしたの?」
「先輩! おちんちん無くなってます!」
よたよたとしながら机を降りるナノカに視線を向けると、そこには確かに違和感の無い少女の体があった。
何が何だかよく分からなくなり、パナビアはとりあえず上半身を起こした。どろりとした何かが、自分の中から出て行くのを感じる。
「……これ、なんだろ……」
ナノカが、白濁色の液体の中から、小さい何かを取り出す。
じろじろとそれを観察し、ナノカはうーんと唸った。
「……昨日、ラファルーにもらったカプセルです、これ……」
「……何よ、それ……」
今度こそ本当にわけが分からなくなり、パナビアは頭を抱えた。
色々と後片付けをし、ナノカを送り返してから、パナビアは一息ついた。
別にまた泊めてやってもよかったのだが、今度はまだ早い時間だったこともあり、カプセルの調査に帰ったのだ。
もしかしたら、またラファルーが訪ねてくるかもしれないし、分からなければその時に聞いてみるそうだ。
そんなわけでその夜。パナビアは、下腹部に違和感を感じながら夕食を摂っていた。
と、そこにノックの音がする。
「……はいはい、今出ますよ。
ったく、今日はもう休みたいのに……」
ぶつくさ文句を言いながらドアノブに手をかける。開いてみると、そこには朝訪ねてきた長いポニーテールの後輩がいた。
「す、すいません、先輩」
何があったかはわからないが、とりあえずパナビアは家に入れてやった。
「で、どうしたの?」
コーヒーの入ったカップを差し出しながら、パナビアはナノカにそう尋ねた。
まさか、もうあのカプセルの調査が終わったのだろうか。
「はい、実は帰ったらラファルーがもういたんです。それで、あのカプセルについて話をしてくれたんですけど――」
差し出されたコーヒーをすすりながら、ナノカは説明を始めた。
「ごめんね、ナノカ。君にあげたあのカプセル、間違えちゃったみたいで」
ナノカの部屋。そこの椅子に座りながら、ラファルーは申し訳なさそうにそう言った。
あんまりおおっぴらに話すものでもないと言って、スツーカには下にいてもらっている。
「やっぱりそうだったんだ。あはは……なんかおかしいと思ったよ……結局あれって、何だったの?」
「うん、ボクも見つけてどうしようかと思ってね。とりあえず何かの参考になるかと思って持ってたんだけど……
まあ、多分君が体験して、感じた用途そのままの物品だよ」
その言葉に、昼間のことを思い出して赤くなる。そのナノカに、ラファルーは優しく微笑んだ。
「古代パシアテ文明人が、一体何を考えて――いや、考えるまでも無いね。こんなものを作った意図なんて、たかが知れてる。
問題は、コレにはそれのために、いくらか余分な機能がついてるってことだね」
「余分な機能?」
カプセルをもてあそびながら言うラファルーに、ナノカは首をかしげながら聞いた。
「うん。コレは、飲用した女性に男性器を生やすだけじゃなくて、神経系に作用して快楽中枢を刺激するんだ。
簡単に言うと、ずっと欲情してる状態にするんだね。しかもそこから出る分泌物も、催淫作用と思考麻痺を引き起こす。
これを飲用して行うことに対し、万全の状態を用意するってわけだね。技術の無駄遣いと言うか何と言うか……
古代パシアテ文明人には、相当な好き者がいたみたいだ。しかも、多分女性」
肩をすくめて言うラファルーに、曖昧な表情でナノカはうなずいた。
なんと言うか、古代パシアテ文明人の別の側面を見た気がする。つまりこれも、Eテクの結晶というわけだ。
「ところで、これが機能を全うして元に戻るには色々条件があるけど、基本的に性交渉が必要なんだよね……」
と、こちらを見る。まるで蛇にでも睨まれたかのように、ナノカはびくりと肩を震わせ、硬直した。
「別に、その相手をどうこうしようってわけじゃないよ。言いふらそうってわけでもない。ナノカのためにならないしね。
でも、ちょっと気になるね。教えてくれないかな……ナノカが一体、誰に『手伝って』もらったのか――」
結局ナノカカエルは、ラファルーヘビの視線に勝てなかった。
「……で、結局全部話しちゃったわけ?」
「はい……」
しょんぼりとしながらうなずいてくる。今日のナノカは本当にいいところ無しだ。
そのナノカに、大きくため息を吐く。
「もういいわ……信用できるんでしょうね?」
「は、はい。約束は、守ってくれます」
ナノカのその言葉をとりあえず信用することにして、パナビアはもう一度大きく息を吐いた。
コーヒーを一口飲む。少し熱くしすぎたかもしれない。
「しっかし……まさか、そういう機能のEテクマシンとはね……
古代パシアテ文明人も、技術力を要らんところに集約させてまあ……」
発明の母は、憤りであり、探究心であり、好奇心であり、欲求である。
出来ないからしたい。何故そうなのかが知りたい。こうすればどうなるのかを見たい。そして、こういうことをしたいから作る。
そういったものが、技術を発展させ、新しい物を作り出していく。
性欲も欲求である以上、それを求めるために技術を磨くのも、決して否定しきれるものではない。
「スケベ心は果てしなく……か。まあ、人間が種として存続するために不可欠な要素とは言え……
なんと言うかまあ、もうちょっと何か無かったのかしら。そもそもあれ、女性用でしょ?」
「パシアテ文明の女の人たちは、色々とハゲしかったんですねぇ……」
あはは……と、ナノカは困ったように苦笑した。特別な例だとは思いたいが。
「まあ、合点がいったからもういいけど……」
ずず、とコーヒーをすする。やっぱり少し熱くしすぎたようだ。小さく顔をしかめる。
「ところで先輩」
「ん?」
熱さに舌を出したところで呼ばれ、パナビアは疑問符を浮かべた。ナノカの手が、彼女の服のポケットに伸びる。
「実は、もう一個もらってきたんですけど……」
ポケットから出されたナノカの手には、見た事があるカプセルが二個、握られていた。
「一緒に『研究』しませんか……?」
何かを期待するかのようなナノカの視線に、パナビアの喉がこくりと鳴った。