「よし、こんなもんでしょう」  
 さっぱりとした工房の中、パナビア・トーネイドは満足気にうなずいた。  
 今この工房には、彼女の私物は手元の荷物以外何もない。  
 残っているのは、備え付けの家具が数点と、元からあった工房設備だけだ。  
「長くいたわけでもないし、ただの仮住まいだけど……ちょっと名残惜しいわね」  
 この工房を借りてからの短い日々を思い出す。色々とあったが、今となっては楽しい――  
「……いや、全然楽しくないから。大変でしかなかったから」  
 胸中の自分の言葉に、思わず突っ込む。  
 そう、ここで美しい思い出にしてしまってはだめだ。どう考えても美しくないし。  
 ひとしきりうなずいてから、パナビアは大きく息を吐いた。ここでこうしていても意味がない。  
「とりあえず、挨拶くらいはしていきましょうかね……」  
 今日こそは何も無く進むといいな、などと思いながら、パナビアは愛用の工具――エンチャンテッド・ジーニアスを手に取った。  
 
「というわけで、一応挨拶にね」  
「はあ、そうなんですか」  
 パナビアの言葉に、ナノカは気の抜けたような返事を返した。  
 場所はプロスペロ発明工房ネオスフィア支店。昼を過ぎ、夕方にはまだ早い微妙な時間。  
 とりあえずまあ、一応バイトの件で世話になったしと、挨拶に来たのだ。  
「ちょっと、寂しくなりますね」  
「いや、どうせ帝都でまた会えるでしょうが」  
 残念そうに言う後輩に、少し呆れたように返す。  
 ナノカの仕事も、あと半月程度で終了する。そうなれば彼女は帝都に戻り、またアカデミーに顔を出すようになるだろう。  
 帝都が広いとは言ってもたかが知れているし、なんだったらアカデミーでも会える。  
「そう、ですね」  
 パナビアの言葉に、ナノカは明るい顔でうなずいた。  
 
「それで、よ。悪いんだけど、フェアリ先生に会ったらよろしく言っておいてくれる?」  
「はぇ? フェアリさんですか?」  
 間の抜けた声で聞き返すナノカに、パナビアはうなずいた。よく分からないといった様子で眉根を寄せる。  
「いや、一応挨拶に行ったんだけど、何か休業してて……呼んでも返事は無いし、人の気配も無かったから」  
「は、はあ……なるほど、分かりました」  
 恐らく、本業のほうの仕事に行っているのだろうと思い、ナノカはその頼みを引き受けた。  
 どうやら彼女の素性は知らないようだし、わざわざ教えることでもない。  
「それで、先輩はこれからすぐに帰るんですか?」  
「いや、今日は挨拶と片付けだけね。明日の午前の便で帝都に帰る予定」  
「そうなんですか。よかった」  
 パナビアの答えに、ナノカがほっと胸をなでおろす。  
 その言葉に疑問を覚え、パナビアは訝しげに口を開いた。  
「よかったって……何がよ?」  
「ええっと……先輩、夕飯のアテはありますか?」  
「いや、適当に済ませようかと……それと何が関係あるの?」  
 疑問符を浮かべながらの返答に、ナノカは満足気にうなずいた。  
 まるで名案を思い浮かんだとばかりの顔で口を開く。  
「何か精のつくごはんでも、ここ数日のお返しに作ろうかと」  
「……はぁ」  
 急な話に、パナビアは生返事を返した。  
 まあ、確かにここ数日、ナノカには色々と大変な目に会わされた。それの詫びのつもりというならば、殊勝な心がけなので、わざわざ断る理由も無い。  
 この後輩と夕飯を同席するというのが少々アレだが、一人で食べるよりはいいだろう。  
 やはり一人の食事というのは、どうにも寂しい。せめて隣にフッケバインでもいれば話は別なのだが。  
(アホくさ。何を今更)  
 弱気なものの考え方に、自分で自分に呆れかえる。いつから自分はこんな弱い考え方をするようになったのか。  
 とはいえ――  
「まあ、どうしてもって言うんなら、もらってやってもいいけど」  
 作ってくれるんなら馳走になってもいいかと、パナビアはそう考えた。  
 
「それで、何を作ってくれるわけ?」  
 パナビアの借り工房。  
 夕方になって食材やらの荷物を手にやってきたナノカに、パナビアは椅子に座ってそう聞いた。  
「ナノカ特製、スタミナバハネイロカレーです」  
 じゃがいもを袋から取り出してそう答える。  
「いや〜、よかったですよ。先輩が帝都に帰る前にお返しが出来そうで」  
 帝都に帰るころには忘れそうだったからと、ナノカはそんなことを言いながら台所に向かった。  
 確かに、この後輩には間の抜けたところがある。  
 まあ今回に関しては、別に忘れられても実害は無いどころか、そんな殊勝なことを考えていたのかとちょっと驚いているくらいだが。  
「スタミナねぇ」  
「ほら、先輩、昨日のスパの時に言ってたじゃないですか。色々立て込んでたからって。  
 最近のことに関しては確かに私が結構お世話になりましたし、協力に感謝の意味も込めて」  
「あんたにしては意外と殊勝な考え方ね。変なものでも食べた?」  
「うう……スツーカと同じこと言われた……」  
 どうやら出てくる時にも言われたらしい。あの狼とは意外に気が合うかもしれない。  
 そんなことを思いながら、パナビアは呆れたように息を吐いた。  
「つまり、いつもそーいう目で見られてるわけよ。ちょっとは自覚して直すよう心がけなさいな」  
「むぅ……」  
 納得いかない様子だが、それでも二人以上から言われれば多少は気にかかるのか、ナノカは眉根を寄せた。  
「分かりました、がんばってみます。それじゃあ、とりあえず作りますね」  
 とりあえずうなずくだけうなずいて、厨房に立つ。程なくして、包丁の音と調子の外れた歌が聞こえてきた。  
「おっ料理〜おっ料理〜、じゃがいもむきむき丸裸〜。たまねぎにんじんざっくざく〜。  
 包丁様に切れぬ物無し〜。うそごめんちょっとある」  
 ……なかなかでたらめな歌詞である。  
 調子の外れた声と合わさって、破壊力はうなぎのぼりだった。  
 天才の巻き起こす天災のような歌に、これは何の拷問なのだろうかと、パナビアはうんざりしながら机に突っ伏した。  
 
「か〜んせ〜」  
 上機嫌に鍋を抱えるナノカを、パナビアは疲れた顔で見返した。  
 その完成の時までずっとあの調子の歌を聞き続け、彼女の精神力は大幅に削り取られていた。  
「そう、よかった……もうこれであのヒドイ呻き声は聞かなくて済むのね……」  
「う、呻き声……」  
 パナビアのうんざりとした声に、ナノカはショックを隠しきれない様子でつぶやいた。  
 確か前にもそんな評価をされたことがあった。ちょっと泣きそうな気分になるが、苦笑いで自分をごまかす。  
 そのまま皿に炊いたご飯を盛り付け、ルーをかける。  
「ま、まあ、とりあえず完成したので、どうぞ召し上がれ」  
「はいはい。いただきます」  
 皿を受け取り、スプーンを挿し込む。赤みの強いルーがとろりと流れ、白米を染めた。  
 ぱっと見は、どこにでもあるカレーライスのように見えた。スプーンで一口分を掬い上げると、ふわりと湯気が立つ。  
 バハネイロという単語を頭に浮かべ、相応の辛さを覚悟しながら口に運ぶ。  
 だが、想定していたほどの辛さは無く、むしろ口当たりの良ささえ感じた。とろみのあるルーが、白米に絡んで口内を豊かにする。  
「おいしい……」  
 思わずそう漏らす。少なくとも、それだけの存在感がこのカレーライスにはあった。  
 パナビアのその言葉にナノカは満足そうに微笑むと、自分の分を用意し始める。  
「おかわり沢山ありますから、どうぞじゃんじゃん食べちゃってください」  
 ナノカのその言葉に、パナビアはやっと自分が漏らした言葉に気づいた。  
 その事実に顔を赤らめ、慌てて視線をそらして咳払いをする。  
「ま、まあ、中々悪くないわね」  
「好みに合ったみたいで良かったですよ。先輩が辛いものダメだったらとか、ちょっと心配しちゃって」  
「いやまあ、その、普通よりはおいしいから、その……」  
「? なんですか?」  
「……なんでもないわよ」  
 結局パナビアは素直にナノカを褒められず、カレーを口に運び始めた。  
 
 夕飯も食べ終わり、食器も洗って一休み。  
 自分がやるから休んでてくださいと言うナノカを黙殺し、一緒に食器を洗い終えたパナビアは、食後のコーヒーを飲んでいた。  
「何か……調子狂うわ……」  
 困ったように眉根を寄せて、そうつぶやく。  
 今日のそれは、いつものような騒がしいものではなく、どうにも落ち着かない類のものだった。  
 そもそも今日は、挨拶だけで夕飯など作ってもらうつもりもなかったし、今までの自分なら突っぱねていただろう。  
 だが今日は、この通りご馳走になり、後片付けまで手伝って、挙句風呂まで沸かしてもらっている。  
「何が理由か、今回ばかりは分からないのよね……」  
 別に、ナノカが何かしたわけではない。むしろ今までのことを考えれば、及第点である。  
 あとこれで、工房士として目の上のタンコブでなければ完璧だが、それは自分で勝ち取るべきものだ。  
 別に、ナノカのことが話すのも嫌と言うほど嫌いなわけではない。ただちょっと、気に食わないだけだ。  
 しかし、その理由も正直――  
「先輩、お風呂沸きましたよ」  
「ああ、ありがと」  
 陰鬱になりそうな胸中に待ったをかけるようなタイミングで呼ばれ、パナビアは二重の意味で礼を言った。  
 やはり、自分の心理分析などするものではない。  
 息を一つ吐いてコーヒーを飲み干すと、脱衣所に向かう。今日はまだここを使う予定だったので、着替えやタオルは置いてある。  
 そのまま脱衣所のドアを開き、中に入ってから――  
「……ん?」  
 パナビアは、妙な違和感を覚えた。  
 眉根を寄せながら、その感覚をたどっていく。ゆっくりと視線をめぐらせ、自分の後ろに行き着いた。  
「どうしました?」  
 そこには何故か、ナノカが立っていた。  
 手にタオルと着替えらしき衣類を持ち、小首をかしげている。  
「……何で入ってきてるわけ?」  
「ああ、なるほど」  
 パナビアの質問に、ナノカは納得いったようにうなずいて――  
「お背中も、流しちゃおうかと」  
 満面の笑みでそう答えた。  
 
「先輩の肌、やっぱり綺麗ですねぇ」  
「はぁ、まあ、ありがと……」  
 結局、お礼の一環だと押し切られ、パナビアは背中を流してもらうことになった。  
 つい先日、あんなことがあったばかりなので、人に背中を流してもらうことには微妙に抵抗感があるのだが――  
「じゃあ、髪から洗いますね。  
 先輩の髪、綺麗ですよねぇ。長くしたら、太陽の光が綺麗に反射するんだろうなぁ」  
 そんなセリフまで似せなくていいと、パナビアはうんざりと胸中でつぶやいた。  
「ふんふ〜ん。痒いところはありますか〜」  
「ん……もうちょっと下」  
 だが、始まってしまえば悪くは無かった。  
 先日の――ラファルーと言ったか――彼女程ではないが、なかなか気持ちいい。  
「はい、流しますよ〜」  
 その宣言と共に、シャワーが泡を流し落とす。手櫛で髪を梳かれ、パナビアは小さく息を吐いて力を抜いた。  
「人にやってもらうと、ちょっと気分いいわね」  
「じゃあ、がんがん洗っちゃいますね」  
 ただ洗ってもらうだけなら、と、胸中で付け足すパナビアの背中に、泡立てたスポンジを押し当てる。  
 わしわしとそれなりの強さで――しかし、強すぎない程度で擦りつけ、洗っていく。  
「ふんふふ〜ん。折角なのでこの辺も」  
「え、ちょっと、そこは自分で……ぁんっ」  
 脇腹から乳房にかけてを撫で上げるように擦られ、思わずパナビアは声を漏らしてしまった。  
 だが、ナノカはそんなことはお構い無しに、その二つのふくらみを持ち上げた。  
「おお、これはかなりのボリュームですよ。先輩、やっぱりサイズ詐称してませんか?」  
「してないわよ! てゆーか放しなさいっ! こら、揉むなっ!」  
「むむむ……成長過程の女の子としては、なかなかうらやましい限りです。ちょっと嫉妬」  
 そう言って手を放す。素直に手を放され、パナビアは安堵の息を吐いた。フェアリやラファルーの例を考えると、ナノカはまだマシだった。  
 
「あんたまだ十四でしょ? まだまだこれから……」  
 と、落ち着いてから後ろを振り向く。目の前には、お世辞にも豊かとは言えない――もっと端的に言えば、貧相な胸があった。  
 あごに手を当て、パナビアは神妙な表情でそこに指を立てた。ふに、と、わずかな反発を受ける。  
「あんたのころには、私ももうちょっとあったような……」  
「がーん! 先輩、今のフェイントは大打撃でしたよ……」  
 前言をあっさりと撤回するパナビアに、ナノカはショックを隠しきれずにうなだれてしまった。  
 とはいえ、こればっかりは個人差なのでどうしようもない。願わくは、ナノカが自分で満足する程度に成長することくらいか。  
「そんなこと言われてもねぇ」  
 と、呆れたようにパナビアは頭を抱えた。この後輩のコンプレックスが見れて、嬉しいようなアホらしいような、微妙な気分になる。  
「まあ、そのうち育つでしょ。気長に待ちなさい」  
「はい……」  
 いまいち納得していない様子で、自分の胸を撫でる。どうやら意外に気にしているらしい。  
 いつだったかは年相応だと言い張っていたが、あれは要するに強がりとか見栄とか、そういう類のものだったようだ。  
「それより、ちゃんと流してよね」  
「あ、そうでした」  
 背を向けられ、慌てて再開する。  
 念入りにスポンジで擦り、シャワーで泡を流すと、ハリのある肌を水滴が流れ落ちていった。  
「はい、終了です」  
「ん、ありがと。今度は私が流したげる」  
「え? いや、いいですよ。自分でやれますから」  
「あんたに世話になりっぱなしってのは気持ち悪いのよ」  
 そう答えるとナノカは、そうですかと、意外に素直に従った。  
 素直に従う後輩に気をよくして、パナビアは懇切丁寧に髪を洗ってやる。なんだかんだと世話焼きだ。  
(こうやって素直に大人しくしてれば、別に文句は無いんだけどね)  
 とはいえ、それでは張り合いが無いなどと、矛盾したことを考える自分に胸中で苦笑する。やはり、ライバルがいてこその向上意欲か。  
 そんなことを考えながら、パナビアはナノカの背中を流してやった。  
 
「やっぱりお風呂はいいですねぇ」  
 などと、しみじみ言う後輩の下で、パナビアは小さく息を吐いた。  
 大衆浴場ならともかく、こういった家庭レベルのバスタブでは、人二人が入ることを考慮されていない。  
 必然的に、身体を寄せ合ってどうにか入り込まなくてはならない。  
 というわけで、ナノカよりは大きいパナビアが、下になって入り込むわけだが……  
「先輩の胸柔らかいですねぇ」  
「……そりゃそうでしょ」  
「脚もすらっとしてきれいですねぇ」  
「……ありがと」  
 これは軽くセクハラなのではないかと、そんなことを考える。  
 とはいえ、この程度のスキンシップは――  
「ここで先輩にあげちゃったんですよねぇ……」  
 前言撤回。セクハラより性質が悪かった。  
 何も、今ここでそんな話を持ち出さなくても。  
「……後悔してる?」  
 どう返事をしたものかと考えたが、結局そんな言葉しか出てこなかった。  
 つい数日前のことだ。記憶にも新しいし、忘れられるほど印象も薄くない。  
 だがナノカは、思いのほか明るい声で、  
「いえ、あんまり」  
 そう答えた。  
「先輩なら別にいいかなって。おかしいですよね、女の子同士なのに」  
 そもそも状況が異常だったので、あまり当てはめにくいとは思うのだが、確かに女同士でのことである。  
 普通に考えればおかしいと思う。だが、パナビアも同じようなことがあったため、一概に否定できなかった。  
「まあ、人それぞれだし、状況もおかしかったし……それでいいならいいけど」  
 と、結局そんな返答しか出来ない。少し負い目もあったかもしれない。  
「あ、でも……」  
 パナビアが我知らず安堵の息を吐いていると、ナノカが何か思いついたようにこちらを向いた。  
「先輩がよければ、またしたいな……」  
 ちょっと顔を赤らめて言う後輩に、パナビアは息を呑んだ。  
 
「ま、またって……」  
 その言葉の意味に、パナビアは顔を赤くして視線を泳がせた。  
 今までの経緯を思い出すと、自然と頬が熱くなる。正直なところ、勢いなども手伝っていたところが大きく、今でも恥ずかしい。  
 それに、多分本気で求められたら断れない。相手がナノカでも――いや、今までのことを考えると、逆にナノカだからこそ。  
「ダメ、ですか?」  
 猫なで声で聞かれ、パナビアは硬直するより他無かった。  
 期待するような、そんな視線。その目はずるい。いつもは憎たらしいその顔が、愛らしく見えるから。  
「し、仕方ないわね……」  
 結局パナビアは、視線の誘惑に勝てなかった。頬を朱に染めながら顔をそらし、言い訳がましくそう答える。  
 その返事に恥ずかしそうに、だが嬉しそうにうなずくナノカに、パナビアはさらに顔を赤くする。  
「今回だけよ?」  
 一体何回このセリフを言えばいいのだろうか。ナノカを抱きかかえながら、パナビアはそんなことを考えていた。  
 
 
 これからことに及ぶにも準備というものがあるわけで。  
「ん……ふぅ」  
 パナビアは、その準備の時点で既に切羽詰っていた。  
 もう明日からは使わなくなるベッドのシーツを自らの体液で濡らしながら、だらしなく腰を震わせる。  
「あ、だめ……ナノカ、そんな、出ちゃ……っ」  
 例のカプセルで生えた男性器を執拗に刺激され、パナビアは恥も外聞も無く身悶えていた。  
 ナノカの小さな口で丹念にねちっこく弄られ、まるでもう一つ心臓が出来たように跳ね回る。  
 どくんどくんという血流の音が、自分の耳にまで届いているような錯覚すら覚えた。  
「はぷ……いいですよ、出しちゃって……先輩の、ください」  
 そう言って、パナビアのそこを口に含む。先端を舌で包むように舐め回し、堤防を決壊させようと攻め立てる。  
「もうだめ……出るぅ……っ!」  
 その宣言と共に、パナビアは白濁の熱をナノカの口に吐き出した。  
 絶頂の余韻に全身を弛緩させ、そのままベッドに仰向けに倒れこむ。未だ硬さを失わない肉棒が、ぶるんと揺れた。  
「はぁ、はぁ……」  
「せんぱぁい……」  
 甘ったるい声と共に、自らの先端に何かが触れる。息を整えるのもそこそこに、パナビアが視線を向けると――  
「私にも、してくださいよぉ……」  
 破裂しそうなほどに滾っているナノカの怒張が、自己主張するかのように脈打っていた。  
 
 互いの先端が触れ合い、溢れてくる汁を交換するように擦り付けあう。  
 本来存在し得ない器官同士の接触に、パナビアは奇妙な倒錯感に襲われていた。  
(ナノカのが、私のをつついてる……)  
 その事実に、パナビアはそこに意識が集中していく錯覚に陥った。  
「ねえ、せんぱい」  
 甘ったるい声に誘われ、上半身を起こす。  
 そのまま、近づいてきた彼女の唇に、吸い込まれるようにかぶりついた。  
「ん、ふ……ちゅ……」  
 舌を差し込み、口内を撫で回す。それに答えるように、ナノカは舌を絡めてきた。  
「はぷ……ん……」  
 互いの唾液を交換するように絡め合い、全てを奪おうと吸い上げる。  
 そんな濃厚なキスに酔いしれながら、パナビアはナノカの怒張をそっと握った。  
「ひゃぷ……っ!?」  
 一瞬唇を離しそうになるナノカを、放すまいと思い切り吸い上げながら擦りあげる。  
 信じられないほど硬くなっているそこは、欲望の熱をパナビアに伝えてくる。  
 その怒張を丁寧に擦りあげながら、自らの先端を絡めてねだってみせる。  
 それが通じたのか、虚空を泳いでいたナノカの手が、パナビアの怒張を握った。  
「ん、ふ……っ」  
 ナノカとは違い、更に強く深く唇を重ねる。何故自分がそんな行動をしたのか分からないが、気づいたときにはそうやって求めていた。  
 互いにかみ合うように唇を重ねながら、互いを攻め合う。  
 やがて、二人の限界が近づき――  
「ふ……むぅ……!」  
「んむ……ぅ……!」  
 一際強く吸い合い、その熱の欲望で互いの腹を汚した。  
「……ぷはぁ」  
 絶頂の余韻に浸りながら、ようやく唇を離す。たっぷりと絡み合った唾液が糸を引き、光を反射する。  
「先輩、えっちぃ……」  
 未だ熱を失わないそこを握り合い、ナノカは期待するような甘い声を吐いた。  
 
「……どっちがよ。まだこんなに硬くしてるくせに」  
 そう言い返しながら、まだ余韻に震えるそこを擦りあげる。  
 まだ敏感なそこを攻められ、ナノカの肩が小さく跳ねた。  
「あ、せんぱっ、ズルいっ。私も……っ」  
 そう返して、同じように扱き返す。一瞬パナビアの腰が引かれるが、ナノカはそこを掴んで放さなかった。  
「ちょっと、私、イッたばっか……っ」  
「私も、です、よっ」  
「だって、して欲しいって、言ってたじゃないのっ」  
「私も、したいんですっ」  
 扱き扱かれながら言い合う。まるで争うような攻め合いに、まだ敏感なままの二人の身体が長くもつはずも無く――  
「この、ワガママむす……ぅあはっ!」  
「ま、また……はぁうっ!」  
 先ほどと同じように、しかし先ほどとは比べ物にならない快楽と共に互いを白く汚す。  
 二人もつれ合ってベッドに倒れ、大きく肩で息を切らせて余韻に浸る。  
 しかし、あれだけ激しく達しながらも、二人の肉棒は硬さと熱さを失っていなかった。むしろ、更に硬く熱く滾っていく。  
 これが、このEテク品による催淫効果によるものなのか、互いを求めてなのかは分からなかった。  
 もうそんなことはどうでもいい。とにかく相手を求めることだけが、頭の中をうねるように渦巻く。  
「先輩……」  
 甘く囁く後輩の声に、視線を向ける。  
 ゆっくりと身体を起こし、彼女は未だうつ伏せになって起き上がれないパナビアを、後ろから抱きしめる。  
「入れて、いいですよね?」  
 熱を持った硬いモノが、パナビアの臀部を撫でる。  
 その言葉に、パナビアは腰を上げて押し返すと、自分でも驚くような猫なで声で返事をした。  
「早くしなさいよぅ……」  
 もう、相手が誰だとか自分から求めるのは恥ずかしいとか、そういったことはどうでもよくなっていた。  
 
 甘い声に誘われ、滴るほどに濡れそぼったそこへと、一気に突き込む。  
 包み込むような柔らかさと、搾り取ろうとする締め付けに、ナノカは危うく熱を吐き出しそうになった。  
「くぅ……ぁ……やっぱり先輩の中、気持ち、いい……」  
 下腹部に力を込め、こみ上げてくる射精感をどうにか押しとどめることに成功すると、ナノカはゆっくりとパナビアの中を堪能し始めた。  
 何か別の生き物のように締め付けてくるパナビアの中を、その潤いを絡め取るようにかき回す。  
 早く吐き出したいという欲求と、もっと長く味わいたいというジレンマに苛まされながら、ナノカは腰を擦り合わせた。  
「ナノカぁ……もっと……」  
 もっと強く、と締め付けてくるパナビアに、ナノカは脳が痺れるような錯覚を覚えた。  
 我慢しきれない程の波が押し寄せ、腰が震える。  
「先輩、だめぇ……っ!」  
 搾り出すような声と共に、パナビアの最奥へと熱を吐き出す。  
 自らの最深部を白濁色に汚された事実に、パナビアの欲望の象徴がぴくりと跳ねた。  
「ナノカ、ずるい……私も、私のも……!」  
 腰を擦りつけてせがむパナビアに、ナノカはほとんど本能的にその怒張を握り締めた。  
 びくびくと脈打つそこを扱きながら、自らも腰の動きを再開する。  
 ペース配分も何も無い、ただ快楽を求めるだけの乱暴な動きに合わせ、ナノカはとにかくパナビアを攻め立てた。  
「先輩、どうですか!? 気持ちいいですか!? おちんちん気持ちいいですか!?」  
「気持ちいい! 気持ちいいから、もっと扱いて! もっと突いて!」  
 みっともなく腰を振り、口から唾液が溢れるのも構わず、快楽を貪り合う。  
 思考の大半を肉の欲望に支配され、二人はまるで獣のように身体を重ねていた。  
「先輩、私……またぁ……っ!」  
「わ、私も……出るぅっ!」  
 幾度目かの絶頂と共に、精を吐き出す。ナノカはパナビアの中を、パナビアはベッドのシーツを思う存分白く汚す。  
 だが、既に相当な量を吐き出していると言うのに、二人の精は全く衰える様子がなかった。  
 自らの吐き出した白濁の池に身を沈め、なお求めるように脈打つパナビアの怒張に、ナノカがうっとりとした様子で口を開く。  
「……先輩、あんなに出したのに、まだ元気なんですね?」  
「だ、だって……」  
 普段では絶対に人に見せない、言い訳をする子供のような口調。  
 余程恥ずかしいのか、パナビアは一旦口ごもる。だが、それでも意を決したように再度口を開いた。  
「だって、まだナノカの中に出してないもの……」  
 恥ずかしそうに言うパナビアに、ナノカは一瞬言葉を失ってしまった。  
 
 目に涙すら浮かべ、ねだるような視線を向ける。  
 どれだけ扱かれようと、どれだけ精を吐き出そうと、パナビアのそこは満足してくれなかった。  
 理由は至極簡単だ。まだ女に包まれていない。たったそれだけのことである。  
 たったそれだけだが、今のパナビアにとってはとても大切なことだった。  
 自分のモノを、あの未熟な身体に突き込んで、思う存分蹂躙したい。  
 その奥を、自分がしてもらったように、自分の精で思う存分汚したい。  
 その欲求だけが、ただひたすらに膨れ上がる。  
「ねえ、だからぁ……」  
 もう、理性的な思考など浮かんでこない。  
 既にナノカと何度も交わった事のある経験が、彼女のタガを完全に外していた。  
 自分で自分の怒張を握りながら、懇願するように口を開く。  
「入れて、いいでしょう?」  
 パナビアの甘い声に、ナノカは眩暈のような錯覚を覚えた。  
 いつも強気で厳しい先輩に、こんな風に甘えられて、断れるはずがない――  
「もう、先輩ってば……」  
 甘い息を吐きながら、ナノカはうっとりと微笑んだ。  
 未だあどけなさの残る顔に悦楽の笑みを浮かべ、ゆっくりと脚を開く。  
 溶けているのではないかと錯覚するほどに濡れそぼった秘裂を自身の指で押し開き、ナノカは甘えるような声を漏らした。  
「早く、くださいよぅ……」  
 その声に、ただでさえ擦り切れてほとんど残っていなかったパナビアの理性が、今度こそ本当に消え去る。  
 獲物を襲う肉食獣のような勢いでナノカを押し倒し、彼女の幼いクレバスに自身の先端をあてがうと――  
「ふぅ……んぁあ……っ!」  
 肉の壁を引き裂かんばかりに押し込んだ。  
「ひぁ……ぁあん……っ!」  
 快楽と歓喜に打ち震えるような声と共に、ナノカの身体が跳ねるように反り返る。  
 その衝撃にナノカの怒張が跳ね上がり、吹き出た先走りがナノカの顔を小さく叩いた。  
 
「先輩の、おっきいよぉ……っ!」  
 ただでさえ狭い肉壁を乱暴に掻き回され、ナノカは蹂躙される悦びに打ち震えた。  
 パナビアが腰を打ち付けるたび、その精を搾り出そうと締め付けてくる。  
「だめぇ……そんなに、締めたらぁ……っ!」  
 そう言いながらも、パナビアはペースを落とそうとはしなかった。  
 ナノカの腰を持ち上げ、その幼い肉壁を自身の怒張で抉るように掻き回す。  
 その大きな動きに合わせて、パナビアの腹を何かが叩く。  
「……忘れてた」  
 ナノカの喘ぎを聞きながら、ポツリとつぶやいてそこに視線を向ける。  
 パナビアが自分の腹を叩く肉の棒を優しく握ると、ナノカの口から一際大きい嬌声が飛び出した。  
「先輩だめぇっ! 今そこ弄られたら……あはぁっ!」  
「ナノカ、私、もう……!」  
 ナノカの内と外を激しく追い詰めながら、パナビアはとうとう本懐を遂げようとしていた。  
 こみ上げてくる射精感を歯を食いしばって耐え、少しでも長く感じようと、絶頂への時間を引き延ばす。  
「先輩、私も……っ!」  
 その宣言と共に、ナノカの肉壁がパナビアの怒張をよりいっそう強く締め上げた。  
「ナノカ……ぁあっ!」  
 限界を知らせる肉壁の脈動に、既に限界を迎えていたパナビアの怒張が熱を吐き出す。  
 それとほぼ同時に、ナノカも限界を迎え――  
「出るぅ……っ!」  
 大きく背を反らし、その可愛らしいサイズからは想像出来ないほどの量の白濁で自身を汚す。  
 その扇情的な光景に、パナビアは絶頂の余韻もそこそこにナノカの唇を奪った。  
 互いに息も切れているというのに、そんなことはお構い無しに舌を絡めあう。  
「ぷは……先輩、私、まだ……」  
 あれだけしてまだ足りないと言うナノカに、パナビアは仕方ないといった様子で苦笑を浮かべた。  
「もう、ホントあんたはえっちよね……」  
「えへへ……お恥ずかしい。でも、先輩だって――」  
 恥ずかしそうに反論するナノカの口を、パナビアは有無を言わせず自分の口で塞いで黙らせる。  
 二人の夜は、まだ始まったばかりだった――  
 
 ゆっくりと意識が浮かび上がり、目が覚める。  
 まず最初に感じたのは、全身を襲う倦怠感と、すぐ隣から聞こえてくる小さな寝息だった。  
 上手く開いてくれないまぶたを擦り、隣に視線を向ける。  
 そこには、一糸纏わぬまま気持ちよさそうに眠る、ナノカの顔があった。  
「……ああ、そうだっけ……」  
 くらくらする頭を起こしながら、そうつぶやく。  
 昨晩のことを思い出そうとするが、記憶にもやがかかったようになって思い出せない。  
 ナノカとまた交わっていたのは覚えているが、途中からの記憶がなくなっていた。  
「悪いこと覚えた猿かっつーの……」  
 うんざりとしながら頭を抱える。自分はここまで理性の利かない人間だったのだろうか。  
 いくらEテクの効果があったとはいえ、記憶が飛ぶほど続けるとは――  
「いやいや、猿みたいにサカって来たナノカが悪いのよ、うん。  
 私はそれの面倒見てやっただけ。仕方なく。そう、仕方なくなのよ。つまりそーいうことで」  
 などと、誰にともなく言い訳をする。そんな自分もアホらしく感じ、パナビアは視線をめぐらせた。  
 そして、ある一点に視線が止まる。  
「あ……あああああああああっ!?」  
 視線の先にある事実に、パナビアは思わず悲鳴にも似た声を上げていた。いや、それは既に悲鳴だったかもしれない。  
 隣で発生したその声に、ナノカは億劫そうに眠りから覚めた。  
「……どうしました?」  
 そう聞くが、パナビアは答えない。何かに視線を釘付けにし、わなわなと震えている。  
 仕方ないのでナノカはその視線の先に目を向けた。  
「うわぁ……私たち、凄い寝てたんですね。もう昼過……ぎ……」  
 口に出しながら、ナノカは血の気が引いていく音を確かに聞いた。昨日パナビアは何と言っていただろうか?  
 確か、昨日の時点で『明日の午前の便で帰る』と――  
「せ、せんぱい……まさか……」  
「ま……また乗り遅れた……」  
 乾いた笑いを浮かべながら、呆然とつぶやく。  
 どうやら彼女が帝都に帰るのは、もう少し先になりそうだった。  
 

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