「……まさか、またきみと組むことになるとはね」  
「それは私のセリフよ」  
 星空がまばらに陰る夜空の下、男と女がそんな風に言い合う。  
 互いに軽く息を吐き、苦笑気味に笑いあう。やれやれといった様子で互いに視線を絡め、二人は同時に視線を変えた。  
 その先には、ネオスフィアの代表的な建物の一つ――元老院宮があった。  
「元相棒の手伝いをするんだ。悪くない仕事だろう?」  
「そりゃあそうだがね……こいつは軍の機密レベルの仕事だぞ。きみもいいのか、GG?」  
 別の方向から聞こえてきた静かな――しかし通る声に、そう返して女を見やる。  
 だが聞かれた女は肩をすくめて息を吐いた。  
「構いやしないわよ。現地戦力は現場の判断で徴用できる程度の権限は与えられてるわ。  
 いくら退職した……いえ、退職者だからこそ逆に、軍も面倒な『後始末』をしなくて済むって話よ」  
「まあ、内情を知ってる者ならば、それだけ御しやすいってことなんだろうがね。  
 温厚に見えて、なんとも脅迫的なお話だ。OK、協力――もとい、仕事を引き受けよう」  
 そう言って、男は彼女の『方便』に乗ってやることにした。  
 いくらそれなりの権限が与えられているからといって、この仕事は『そんな話ではない』はずだ。  
 それは自分がエージェントだった経験からも、容易に想像がつく。ならば何故――  
(協力者が私だから使うことも出来る……逆を言えば、その程度にはキツい任務だって事だ)  
 端的に言えば、自分が元エージェントだからだ。  
 帝国の恐ろしさを知っている人間ならば、彼の国に逆らうようなことは、死を意味することくらいは容易に想像がつく。  
 そして彼は――正直な話、まだ死にたくは無かった。たったこれだけだ。しかし――  
(しかし、帝国上層部もひどいことをする。いくら伝説の称号『グレイゴースト』を継ぐ者と言っても、こいつはいくらなんでも無茶だろう)  
 やにわに、目の前の女に対する同情の念が湧き上がってくる。侮辱になるとは思っても、その感情を抑えることは出来なかった。  
 簡単に聞いた状況からすれば、彼女の働きはまさに伝説の名を継ぐに値するものだ。  
 ほとんど一人で、小さいとはいえ一国の情報と動きの詳細をかき集めるなど、正気の沙汰とは思えない。  
「……まさか同情してる? やめてよね」  
 顔に出ていたのだろうか。不機嫌な様子の彼女に弁解するように、彼は口を開いた。  
「すまない。分かってはいるんだ。許してくれ」  
 素直に謝ると、さすがに彼女もそれ以上は何も言わなかった。  
 
「そういや、報酬の話をしてなかったな」  
「ち……気づいたか」  
 ぼんやりと口に出すと、なにやら不穏なセリフが聞こえてきたが、男――BBは聞かなかったことにしてやった。  
 その代わり、視線をそちらに向ける。まだここなら、多少の会話は大丈夫だ。  
「で、どれくらいを提示してもらえるのかね」  
「……先払いじゃなかったの?」  
 払う気は無いと言外に言っているようなものだが、BBは小さく肩をすくめるだけだった。  
 その光景に、静かな声の少女が申し訳なさそうに口を開く。  
「ごめんよBB。キミに決めてもらおうと思ってたから」  
「……ラファルー。きみが引っ張ってきた仕事なんだから、きみが決めなきゃ意味が無いだろう」  
 ため息混じりにそう言うと、ラファルーは再度頭を下げた。  
 これ以上責めても仕方ないので、BBは視線を戻しながら口を開いた。  
「まあいいさ。次からは頼むよ。それで、問題は報酬なわけだが」  
「出世払い……は、さすがにダメよね?」  
「払われる見込みが無いからね。軍からも落ちないだろう?」  
 それを言われると、グレイゴースト――GGは二の句をつげなくなってしまう。  
 こんなことで経費は落ちない。そもそも、この任務で彼らの存在は『無い』のだ。無いものの経費は払えない。  
 となるとポケットマネーだが……正直、仕事に見合うだけの報酬を払うには少々心もとない。  
 ホテルで贅沢をする程度の金額はあるのだが……  
「仕方ないか。BB、あなた最近、夜はどうしてる?」  
「は? おいおい、急に何の話だ?」  
「その年齢で使い物にならないってわけでもないでしょう。それとも何? 役立たずなの?」  
 あまりにも急な話に、BBは困惑を隠せずにいた。何を言いたいのかは分かるが、何を言ってるのか分からない。  
「……正直、ボクも少々疑ってる。相手をしても構わないと言ってはいるけど、かたくなに拒むんだ」  
「……勘弁してくれ」  
 年若い女性二人に不能を疑われ、BBは泣きそうな気分でつぶやいた。  
 
「だから、私はホモでも不能でもないと言うに」  
 ぶつくさと文句を言いながら歩を進める。  
 監視カメラをかいくぐり、巡回をやり過ごし、センサーの目を逃れながら会話が出来る程度には、この男もプロフェッショナルだった。  
「とは言ってもねぇ」  
「うん。証拠がね」  
「……いつからきみらはそんなに仲が良くなったんだ」  
 軽やかに相槌を打ち合う二人に、うんざりとしながらつぶやく。  
 女というのは、こうも簡単に協力し合えるものなのだろうか。  
 以前の――トリスティアでの一件を考えると、とても信じられない光景だが、目の前に存在している事実だった。  
「というか、きみはいいのか? そんなホイホイ男に抱かれても」  
「何のために、私が腰にマイクロマシンをインプラントしてあると思う?」  
 その一言に、BBは今度こそ本当に頭を抱えたくなった。  
 そんな備えまでしてあるのか。知識としてはあったが、それは専門のエージェントがすべきことではないか?  
 そう考えながら渋面を作っていると、GGが小さく噴き出す。  
「冗談よ。さすがにそんな備えはしてないから」  
「……担いだのか。ひどいな」  
 不満げにそう言うと、GGは悪びれた様子も無く謝ってきた。そしてそのまま、でも、と後を続ける。  
「でも、報酬はそれでもいいって言うのは本当よ? 一応言っておくけど、誰でもってわけじゃないからね?」  
「そりゃありがたい話だがね……」  
「受けなかったら不能認定よ?」  
「……勘弁してくれ。そんなに現金を払いたくないのか」  
 それとも余程溜まっているのか――さすがに言うのは自重する。  
 だが、そんな気遣いも、目の前のエージェントは全力で無視してくれた。  
「最近、寸止め食らったり見せ付けられたりで、欲求不満気味なのよ」  
「……きみはもうちょっと遠慮をしてくれると完璧なんだが……」  
 あんまりにもあんまりな物言いに、結局BBは頭を抱えることになった。  
 
「……にわかには信じがたいが、まさか本気とはね。  
 ここの元老院と言うのは、本当に政治を学んでるのか?」  
 うんざりとした様子でつぶやきながら、ミニョックスカメラで書類を写す。  
 碌な政治学を学んでいない自分でも、今現在元老院が計画していることは、英雄的に過ぎると感じた。  
 ――つまりは、無謀だと言うことだ。  
「さて、GGとラファルーのほうはどうなってるかね。  
 ラファルーが迷惑かけてなきゃいいが……」  
 つぶやいて、彼は夜闇に溶け込んだ黒鳥のように、至極自然に部屋を出た。  
 
「……頭に血が上ってるとはいえ、まさかここまでとはね……」  
 集音マイクが拾う音声に耳を傾けながら、呆れたようにGGがつぶやく。  
 その隣ではラファルーが、彼女の代わりに周囲を警戒していた。  
「……よし、離脱しましょう」  
「もういいのかい?」  
「ええ。必要な証拠音声は十分よ。スーツも無いんじゃ、これ以上は危険だわ」  
 そう、少し悔しそうに答える。現在彼女のEスーツは、その過酷な任務による酷使でガラクタ同然になってしまっていた。  
 それもあって、ラファルーの協力提案を呑んだわけである。  
「伝説のエージェントGGも、スーツが無ければちょっと腕利きなだけの人間か……さすがに少しへこむわね」  
「……キミは十分優秀だと、そういったことに疎いボクでもそう思うんだけどね」  
「私たちみたいなエージェントはね、あれが無いとかこれが無いとかは言い訳にならないのよ」  
 そう言って息を吐く。帝国のエージェントは、プロフェッショナルだ。条件は言い訳にならない。  
 言い訳をしていいのは、死んだ後だけである。死ぬまでは、言い訳は許されない。  
 ともかく、GGはラファルーをつれてその場を離れた。いつセンサーに引っかかるか分からないし、暇人が夜空を見上げないとも限らない。  
 こんな高い場所にいる人影など、不審者以外の何者でもない。  
 とにもかくにもBBと合流するために、彼女たちは闇夜に溶け込んだ。  
 
「さて、これが一応計画書の写しだ。  
 で、これによると、きみが破壊したと言っていたEプラントは生き残ってると推測できる」  
「……あれはダミーか……いや、同じものをもう一つ用意していたと考えるべきね。  
 グレイゴースト一生モノの失敗だわね、こりゃ……」  
 BBの報告に、心底悔しそうにGGが言う。  
 そのGGのプロフェッショナル魂に、BBは半ば呆れながらも感心した。  
「あのEスーツがスクラップ寸前になるほどの働きをして『失敗』だなんて言われた日にゃ、他のエージェントは即日解雇さ」  
「褒めてくれるのは嬉しいけどね。帝国工作員に言い訳は許されない。  
 あなたもエージェントだったなら、それくらいは分かってるでしょう?」  
 それは分かってるがね、と、ため息をつくように答える。  
 なるほど、この鋼のような精神が、グレイゴーストの名をこの年若い女性に継がせることになった要因か――  
「しかし、どうするか……もう手持ちの爆薬は前の時に全部使ったし、今の装備じゃ破壊も出来ない……  
 Eマテリアル徹鋼弾が数発じゃあ、ラインを一本潰せるかも怪しいわね……」  
「とりあえず、今日のところは確認だけにしておかないか?  
 大体、詳しい場所も分かってないんだ。場所を確認して、対策を練ればいいじゃないか」  
 考え込み始めたGGに、ため息をつきながら言う。仕事熱心なのはいいが、これは少々荷が勝ちすぎている。  
 そのBBの提案に、仕方ないといった様子でGGがうなずく。  
「まあ、あなたたちを破壊工作にまで付き合わせるわけにはいかないものね」  
「追加で依頼してくれれば、後日やってもいいがね。もちろん追加料金付きで」  
「……体じゃダメ?」  
「潜入に金は使わないが、破壊には使うんでね」  
 そう答えて肩をすくめる。  
「とりあえずは、確認と報告だけでいいだろう?  
 上層部だってバカじゃあない。この資料を突きつけてやれば、Eシップのエンジンくらいは温めておいてくれるさ」  
「……出来れば、そんな事態にはしたくないからなんだけどね……」  
 溜め息混じりに、GGはそう答えた。  
 
「なんだったらボクが壊しに行ってもいいんだけど」  
「きみの力は……なんというか、反則だと思うんだがね。  
 だが、だからこそあまりおおっぴらに使いたくないな。特にこういった、情報が重要なファクターを占める事態ではね」  
 ラファルーの提案は、確かに魅力的な話ではあった。  
 だが、だからこそ頼るわけにはいかない。彼女は存在自体が既にトップシークレットだと言っても差し支えない。  
 あの上層部の情報網をかいくぐれているかはさすがに自信が無いが、それでも隠せる間は隠しておきたいのが本音だ。  
「よく話が分からないけど、壊せるなら壊しに行って欲しいんだけど?」  
「……あー、うん……ただまあ、今日はこの辺りで終わりにしよう。  
 仕事の内容は諜報の手伝いだし、破壊工作までは別途だ。それに、時間的にもそろそろまずい」  
 これは言い訳でもなんでもなく、厳然たる事実だった。  
 既にそれなりの時間が過ぎ、もうそれほども経たない間に空が白み始めるだろう。  
 こういった潜入は、暗いうちに切り上げなくてはならない。誰もがまだ夢の中に居る間に、隠れ家へと帰りつかなければならないのだ。  
 闇に溶け込むためには、影が生まれてはならない。  
「……そうね。つくづく今日はスーツの恩恵を思い出させてくれる日だわ」  
「それはいいことだ。たまには技術者のありがたみを思い出さないとな。  
 まあ、スペック限界ぎりぎりまで使い倒したんだ。技術部も本望だろう。  
 それで文句を言ってくるようなら、だったら壊れないスーツを造ってくれと言ってやればいいさ」  
 今日の成果に歯噛みするGGを、BBは軽口で和ませようとした。  
 焦る気持ちは分かるが、それで思いつめてしまっては意味がない。  
「まあ、そういうことで妥協しておくわ。  
 それに、まだあなたへの報酬も残ってるしね?」  
 そう言って、茶目っ気たっぷりにウインクを返してくる。  
 和んでくれたのはいいが、少々効きすぎたようだ。  
「本当にするのか……」  
 理不尽な二択を思い出し、BBは頭を抱えた。  
 どうして自分の関わる女性は色々とこう、アレなのだろう。もしかしてこれが女難という奴か?  
 そんなことを考えながら、BBは二人と一緒に帰路に着いた。  
 
「……考え直さないか?」  
 もう何度目になるだろう。そんなことを考えながら、BBは視線をめぐらせる。  
「どうして?」  
 しかし彼女は、平然とそんな返事を返してきた。  
 ベッドに座って頭を抱える自分は、さぞ滑稽だろう――そんなことを考えるが、頭を抱えざるを得なかった。  
「どうしても何も……」  
 後を続けようとして、BBは口をつぐんだ。  
 結局のところ、踏ん切りがついていないのは自分だけだ。彼女が、それがどういうことか理解していないはずはない。  
 何故なら彼女は、生粋のリアリストなのだから。  
「分かった。もう何も言うまい。それよりも気になるのは――」  
 と、視線を動かす。そこには、当然のようにたたずむ少女の姿があった。  
「ラファルー、何できみまで参加するんだ」  
「ボクにも報酬を受け取る権利はあるはずだよ?」  
 いけしゃあしゃあと言い放つ。こういう時、いつもすまし顔なヤツはうらやましいなと、BBは胸中で毒づいた。  
 セリフそのものは正論だけに、逆にタチが悪い。  
「ああ、ボクのそういった事に関しては、気にしなくていいよ。  
 一応これでも、どういう事かくらいは分かってるつもりさ。前も言ったよね? ボクにも人を選ぶ権利くらいはあるって」  
 生死ぎりぎりのラインでの話と、今を同列に並べるのはどうかと思う――  
 BBはそう思ったが、すぐにその考えを投げ捨てた。彼女にとっては、つまるところ同じだということなのだろう。  
 それを考えれば、逆にそれはそれで悪いことではないのかもしれない。つまり、重要性をちゃんと理解しているということだからだ。  
 とはいえ――  
「光栄なことだがね。気にするなというほうが無茶というものさ」  
 とはいえ、それとこれとは別だった。いくら気にするなと言われても、気になるものは気になる。  
「まあアレよ。どうしても気が引けるってのなら、今日のことは夢だとでも思って忘れちゃえばいいのよ」  
 元凶のきみが言うかね。それで済ませられるほど、私は無神経じゃないつもりなのだが。  
 BBは余程そう反論してやろうとも思ったが、やめておいた。この優秀な女性二人に、口で勝てるとは思えなかったからだ。  
 
 するりと衣服が肩の上を滑り、豊満な乳房が顔を見せる。  
 形もよく、ハリもあるそこを持ち上げながら、彼女――GGはふと何かに気づいたように動きを止めた。  
「脱がしてもらったほうが良かったかしら?」  
「いや、構わない。その辺りにこだわりは無いよ」  
 そう答えて、自分も上着を脱ぐ。これは単純に邪魔だったからだ。  
 返事を聞いて、GGはちょっとだけ残念そうに息を吐いたが、すぐに手を進めた。  
 上半身を包む衣服を床に落とす。引き締まったその上半身は、贔屓目を除いても美しいと感じた。  
「どう? ちょっと自信あるわよ?」  
「陳腐になりがちであまり言いたくないが……とても魅力的だよ。美辞麗句は逆に野暮なくらいさ」  
 その返答に、満足そうにうなずく。その横で、ラファルーが少し不満そうにGGを見つめていた。  
「どうした?」  
「……ボクにも、人並みに女の子としての感情はあるって事だよ」  
 そう答えて、自分を見下ろす。その行為で、BBは彼女が何を感じているのかは分かった。  
 だが、下手な慰めは逆効果だということも分かっている。本人にしてみれば、そういう問題ではないのだ。  
 それよりも、何故自分がこんなことで気を使わねばならないのかのほうが、重要な問題だ。  
「まあ、ボクも大きさはともかく、バランスには自信がある」  
 そう言い放って、上着を脱ぐ。  
 確かにそこには、均整の取れた上半身が存在していた。  
 大きすぎず、かといって小さいわけでもない形のいいバスト。意外に小さい肩からすらりと伸びる、引き締まった腕。  
 ウエスト……は、いつもヘソ出しルックなので、今更語る必要は無いだろう。  
 ともかくまあ、言うだけのことはある体だ。  
「どうだい、BB?」  
「…………」  
 とりあえず、そのむやみな対抗心はどうにかして欲しい。  
 やはり口に出すわけにはいかず、BBは曖昧な笑みを浮かべた。  
 
「ふむ……」  
 大きさの違う乳房を両手で持ち上げたり揉んだりしながら、BBはそうつぶやいた。  
「……女性の胸を触りながら吐く言葉じゃないわよ、それ」  
「そうだね。もうちょっとムードの出るセリフはないのかい?」  
「……そのムードを自分たちで壊しておいてそれを言うのか」  
 そう言い返して、手を放す。  
「そういうのが欲しいなら、私をその気にさせてくれないとね」  
 そう肩をすくめるBBに、GGは不満気に頬を膨らませて口を開いた。  
「こんな美人が脱いで誘ってるのに、その気にならないっての? ちょっと傷つくわね」  
「そういったことに対する訓練はしてるさ。わかるだろう?」  
 それはわかるけど、と、GGはつまらなそうに答えた。  
 帝国のエージェントは、あらゆる状況に対応するために、様々な訓練を受ける。  
 その中には、そういったことに対する精神制御も含まれている。  
「つまり、その気にさせればいいんだよね?」  
「まあ、結局はそういうことだ」  
 ラファルーの問いにそう答えて、その胸に触れなおす。つ……とその中心を指でなでおろすと、彼女はぴくりと身じろぎした。  
「くすぐったいよ、BB」  
「そりゃそうさ」  
 そうでないと困る、と、BBは胸中でだけつぶやいた。こうやって少しずつ敏感にしていくのが彼のやり方だ。  
 まあ、エージェントとして磨いた技術でもあるのが、少々寂しいことではあるのだが。  
「ちょっと、私には?」  
「……私には腕が二本ある。だが、頭は一つしかないんだ」  
 ちょっと困った風にそう言い返す。その返事に、GGはふぅんと不満気に息を吐いた。  
「つまり、相手をして欲しかったら振り向かせろと?」  
 別にそういう意味で言ったわけではないのだが、否定するのはやめておいた。  
 正直、そのほうが話が早い。さすがにこういった駆け引きは、まだ自分のほうが上のようだと、内心こっそり安堵する。  
「じゃあ、嫌でもこっちを向くようにしてやろうじゃない」  
 そう言って、GGはBBのベルトに手をかけた。  
 
「どう? こういうのも嫌いじゃないでしょ?」  
 挑戦的な笑みでBBを見上げながら、GGがそう聞いてくる。  
 怒張と化したBBの男の部分を、GGはそのボリュームのある乳房で優しく包み込んでいた。  
「ああ、悪くない」  
「……むぅ。何よその反応」  
「挟むくらいじゃダメだって事じゃないかな?」  
 そう挑発するように言い放ち、今度はラファルーがそこに向かってしゃがみこむ。  
 横から割り込むように上半身を寄せると、ためらいもせずにBBのそこを口に含んだ。  
「あ、こら。割り込みするなっ」  
「んぷ……早い者勝ちさ。はむ……」  
「おいおい……」  
 自分の分身を奪い合うように争う二人に、呆れたようにつぶやく。  
 こういった状況は、確かに男冥利に尽きるものだが……なんというか、素直に喜ぶことは出来なかった。  
 何より、このままでは何もしないうちに限界を迎えてしまいそうだ。それはさすがに少し悔しい。  
「……ひゃ……っ」  
 なので、とりあえず攻勢に出ることにした。ラファルーの脇から、背中を経由して首筋へと指を滑らせる。  
 彼女は普段からは想像できない可愛い声を上げると、反射的にBBの怒張から口を離してしまった。  
「BB、今のはずるい……っ」  
「そうか、きみはその辺りが弱いのか」  
「というか、くすぐっただろう」  
 何せ触りやすい位置にいるからね、と、悪びれもせずに答える。  
「それより、私を攻めるよりは彼女を攻めて妨害したほうが早いんじゃないかね?」  
「……それもそうか」  
「……ちょっとBB。何を変な入れ知恵して……あ、こらっ」  
 不意に自分の下半身に伸びた腕に、制止の声を上げる。だが、そんなことでその腕が止まるわけはなかった。  
「よく考えたら、報酬はキミからもらわなくちゃいけないんだったよね」  
 そう言って、ラファルーは獲物を狙うかのような目で、自身の唇をなめた。  
 
 深く唇を重ね、唾液を奪うように吸い上げる。  
 舌を入れて口内を撫で回し、互いの唾液を味わうように舌を絡ませる。  
 ひとしきり柔らかい感触を楽しんでから、ラファルーはゆっくりと唇を離した。  
「BB&ラファルーはコンビなんだ。だから、報酬も二人にくれないといけない」  
「いやまあ、理屈としては確かにそうだけど、こういう場合なんか違うでしょ……」  
 そういうGGも、言葉とは裏腹に抵抗らしい抵抗はしていなかった。それに、心なしか頬も赤く染まっている。  
「てーか、ほとんどBBがおいしいところ総取りじゃないの、これじゃ」  
「……いやまあ、確かにそうなるが」  
 痛いところをつかれ、BBは申し訳なさそうにつぶやいた。  
 何せ、このまま放っておけばラファルーが勝手にGGの準備を済ませてくれる。正直楽だ。  
「別にいいさ。どうせボクの相手もしてもらうんだ。少しは楽をさせてあげないと」  
 やっぱりそうなのかと、BBは半分諦めたような気分で頭を抱えた。  
 まあ、ここでこんなことに参加している時点でその答えは出ていたようなものだから、まだショックは少ないが。  
「というわけで、ちょっとキミの準備をさせてもらうよ」  
「ふん。小娘のテクニックで私をどうにかしようって?」  
 不敵な笑みを浮かべるラファルーに、GGは挑戦的な瞳で言い返す。  
 多少は心得があるようだが、こちらも帝国のトップエージェント。主導権など握らせるものかと、GGはコキコキと指を鳴らした。  
(何だかよく分からんが、ここは成り行きを見守ったほうがよさそうだな……)  
 目の前で散る火花に、BBは静観を決め込むことにした。  
 ケンカするほど仲がいいという言葉があるが、これはそういう類のものなのだろうかと、そんなことをぼんやり考える。  
(君子危うきに近寄らず……楽が出来るんだから好きにさせよう)  
 まあ、結局はそういう腹積もりなわけだが。  
「ふふ……姿形が小娘だからって、侮ると痛い目を見るよ。いや、この場合は気持ちいい目かな?」  
「言ってくれるわね。伝説の称号を継ぐエージェントの力、クセになるくらい刻み込んでやるわ。覚悟なさい」  
 そう言い合う二人の背後に、BBは何故か獲物を狙う蛇のような幻影を見た気がした。  
 
 結論から言えば、ほぼ互角といわざるを得なかった。  
 帝国の誇るトップエージェントと、どこの者とも知れない謎の少女の腕が互角。  
 これはあまりにも度し難い事実であった。  
(……と言うか、何故私はこんなアホなことを分析しているんだ)  
 有り体に言えば、蚊帳の外だからである。  
「だめだめ、そこはだめだって……ぁんっ!」  
「ふふ……君はここが弱あぅっ!? そ、そこは入れるところじゃなぁあっ……!」  
 ラファルーがGGの肉壁を押し広げれば、逆にGGがラファルーの菊門に指を突き込む。  
 互いに嬌声を漏らしながらも、その手は相手を攻めることを止めようとはしない。  
 ある意味互いの意地が、彼女らを更なる高みへと引き上げていた。  
「……何の拷問だ、これは」  
 その光景を眺めながら、BBは呻くような声を漏らした。  
 既に二人はBBの事を忘れたかのように、行為に没頭している。その光景を見せ付けられている身としては、据え膳を喰らった犬のような気分だ。  
 特に、先ほど出してしまう前に二人を煽ったせいで股間の物足りなさが酷い。とはいえ、目の前のこれをオカズにするというのも情けない。  
 そんなことを考えているうちに、そろそろ二人にも限界が近づいてきたようだ。  
 相手の愛撫に耐えながら、先に相手を果てさせようと攻めを強くする。  
「さ、さっきからキミはそんなトコロばかり……! ぅあぁっ! も、漏れ……!」  
 ラファルーの顔が苦悶に歪み、腰が絶頂への予兆に震える。  
 本来ならばリサイクルされるはずの彼女の冷却溶剤は、快楽というノイズのせいで上手く処理されず、廃棄スペースへと蓄積されていた。  
 そして、有機体である人間を模して造られた彼女の不要物廃棄用器官は、その模造元と同じ場所に存在する。つまり――  
「だめぇ……っ!」  
 普段からは想像できないような可愛らしい声と共に、ラファルーは腰を仰け反らして絶頂を迎えた。  
 それと同時に、彼女の秘裂から透明な液体が勢い良く排出される。  
「か、勝った……」  
 絶頂と同時に失禁してしまったラファルーを、余裕無く――しかし無理やりに不敵な笑みを浮かべながら、そんな事をつぶやく。  
 なんとも不毛な勝負だったなぁと思いつつ、そんなGGの腰を、BBは抱え込むように掴んだ。  
 
「え、ちょっと、BB……!?」  
 驚いたように振り向き、抗議の声を上げるGGを無視し、自らの分身を彼女の秘裂へとあてがう。  
 普段ならばもう少し抵抗できるのだろうが、残念ながら今のGGにそれほどの余裕は無かった。  
「お預けされてたからね」  
「ま、待って! 今入れられたら――!」  
 その抗議を完璧に無視し、BBは一気にGGの中へと自らのそれを突き込んだ。  
 うねるように肉壁が異物を締め付け、GGが仰け反るように背を伸ばす。  
 声にならない声を漏らし、彼女は力無くベッドへとその顔をうずめ、小さく痙攣した。  
「く……屈辱……入れられただけでイクなんて……」  
 心底悔しそうにそうつぶやく。その様子に、BBはやれやれとため息をついた。  
「まあ、これでケンカ両成敗ということで」  
「そんな言い分――ふぁあっ!? ま、まだ動かないでっ!」  
 三度目の抗議の声を遮るように、BBは腰を打ちつける。  
 未だ絶頂の余韻から醒めていないGGは、敏感なままのそこを攻められ、堪らず嬌声を上げた。  
「ずるい、BB……ボクにも……」  
「後で、ちゃんと、する。少し、待ってくれ」  
 どうにか復活したラファルーに、腰を動かしながら返す。  
 余裕の無いGGの締め付けに、BBは早くも限界を迎えようとしていた。  
 普段ならまだもつのだが、いかんせんお預けを喰らった上に、GGのそこは名器と言って差し支えないものだった。  
 それが、一切の余裕も容赦も無く自分を締め付けてくるのだ。長くもつはずが無い。  
(こんなところでもエリートか……ッ!)  
 少しでも長くもたせようと、下半身に力を込めながらそんなことを思う。  
 だが、やはりそれほどももちそうに無い。  
「く……出る……!」  
「私も、またぁ……っ!」  
 言うが早いか、BBは一際強く腰を打ち付けると、彼女の奥底でその熱を吐き出した。  
 
 しばらく余韻に浸り、落ち着いてからゆっくりと肉棒を引き抜く。  
 ずるり、と、音にすればそんな感じの動きで、秘裂から抜き出されたそこは、薄いゴムに包まれていた。  
 それを器用に外すと、中身が出ないように縛ってティッシュに包んでゴミ箱に放り投げる。  
「……何よ、つけてたの……?」  
 その一部始終を、息を整えながら眺めていたGGは、不満気にそうつぶやいた。  
 その彼女に、小さく肩をすくめて、BBは口を開いた。  
「エチケットだよ。最低限のね」  
「別にいらないのに……」  
 そうはいかないさ、と、そう答えたその時だ。不意にベッドに引き倒され、BBは慌てて視線をめぐらせた。  
 そして、自分にのしかかるように脚を開くラファルーを発見する。  
「約束だよ……次はボクだって……」  
「そ、それはそうだが……」  
 自分の上に馬乗りになるラファルーに、軽い戦慄を覚える。  
 その目は普段とは違い、感情を丸出しにして快楽を求める、淫らな光を放っていた。  
「妊娠する心配は無いから大丈夫だよ。何せ『そういう風になってる』からね」  
 そう言いながら、BBの分身を握る。  
 回復したそれを自らの入り口へとあてがい、彼女は獲物を狙う肉食獣のように舌なめずりをした。  
「……獲物を前に舌なめずりは、三流のすることだぞ、ラファルー」  
「戦場なら、ね。ベッドの上なら関係無いさ」  
 BBの軽口にそう答え、ラファルーは一気に腰を落とした。  
 異物が自身の中を抉る快感に打ち震えるが、BBの上げた小さな呻き声に、ラファルーは一転して顔を赤らめた。  
「あ……やっぱり、重いかい……?」  
「い、いや……」  
 確かに、見た目よりは重い。が、彼女の素性を知っていれば、この程度はむしろ軽いくらいだと思えた。  
 彼が呻き声を上げたのは、それとは別の要因だった。  
「きみの中が気持ちよすぎてね」  
 そう素直に言ってやると、ラファルーは少し嬉しそうに微笑んだ。  
 
「お世辞でも嬉しいよ。じゃあ、動くけどいいよね?」  
「お世辞じゃないんだがね……出来ればお手柔らかに」  
 苦笑するBBに笑い返し、ラファルーは腰を動かし始めた。  
 ゆっくりと丹念に、腰をこすりつけてBBを締め付ける。水っぽい摩擦音に、BBは脳が痺れたような錯覚を覚えた。  
「ふふ……BB、気持ちいいんだね。いいんだよ、出しちゃっても」  
 いつもとは違う妖艶な微笑を浮かべるラファルーに、BBは胸中を悟られた気分になった。  
 実際、このままではそれほどもたないだろう。どうしようかと思案していると、不意にラファルーの腰に手が伸びる。  
「ぅあ……っ!?」  
「ふふん。お困りのようね、BB。手伝いましょうか?」  
「……そろそろきみがそう言い出す頃だと思ってたよ」  
 嘘っぱちだが、そう言って余裕を見せておく。GGの顔を見れば、我慢できなくなってきたことなど丸分かりだ。  
 その証拠に、何も言わなくともラファルーへの攻めを始めている。  
「あ、だめ、またそんなところ……っ!」  
 ……どうやら、また普通では無い場所を弄っているようだ。  
「ぬふふ……口ではそう言っても、体は正直じゃのう」  
「どこの成年向け漫画のエロオヤジだきみは……」  
 あんまりにもあんまりなGGのセリフに、思わず突っ込みを入れる。全くもってムードぶち壊しだ。  
 とは言え、攻められているほうは堪ったものではないようだ。ラファルーは逃げるように腰をくねらせ、それが丁度いい刺激となっている。  
「ふ……く、もう……!」  
 ぎゅっと目を閉じて、ラファルーは自らの限界が近いことを告白した。  
 その予兆に彼女の肉壁がうねり、BBの精を搾り出そうと締め付けてくる。  
「く……出すぞ……!」  
「早く、はや……ぁあっ!」  
 びくん、と跳ねるようにラファルーが背をそらし、一際強くBBを締め付ける。  
 彼女に遅れること数瞬、BBもまたその熱を、彼女の中へと存分に吐き出した。  
 
 どくんどくんと自分の中に流し込まれる絶頂の証に、ラファルーが打ち震える。  
 苦悶と恍惚が入り混じった顔を天井に向け、中でまだ暴れている肉の棒を堪能する。  
 ひとしきり味わってから全身の力を抜いて、彼女はBBの上に倒れ込んだ。  
「よかったよ、BB……」  
「……それはよかった」  
 満足そうに言うラファルーに、BBは軽い倦怠感に包まれながらそう答えた。  
 まるで精気を吸われたかのような錯覚に、大きく吐息して自分を落ち着ける。  
 そのついでにラファルーの頭を撫でてやると、彼女はくすぐったそうに目を細めた。  
 まあ、たまにはこういうのもいいかもしれない。  
「よかったのはいいんだけどさ」  
 と、そんなことを考えていると、GGがこちらを覗き込むようにして覆いかぶさってくる。  
 少し不満そうな彼女の顔に、BBはどうしたんだい、と聞き返した。  
「次は私の番よね?」  
「ちょ、ちょっと待ってくれ。まだするのか?」  
 慌てて聞く彼に、GGは当然よ、と返してきた。  
 冗談じゃない。こんな二人にいつまでも付き合っていたら身がもたない。  
 何より男には回数制限があるのだ。勘弁して欲しい。  
「この小娘だけ生でだなんて、ずるいと思わない?」  
「い、いや、しかしそれは……」  
 しどろもどろになりながら弁解の言葉を探す。  
 助けを求めてラファルーを見ると、彼女は棒を引き抜いて、中から溢れてくる白濁液を見せ付けるように掬い取った。  
「ふふ……BBのがいっぱいだ」  
 今その行為は勘弁してください。というか、面白がってるだろうラファルー!  
 BBの胸中の叫びも空しく、それを見たGGが噛み付くような勢いで口を開く。  
「やっぱり納得いかないわ! もう一回私とヤりなさい! ゴムなんて許さないわよ!?」  
「待て待て待て! それはヤバイ! きみだって行きずりの男の子供なんか孕みたく無いだろう!?」  
「何のために私が腰にマイクロマシンをインプラントしてあると思ってんのっ!?」  
「マジかああああああっ!?」  
 どうやらBBの女難は、まだ始まったばかりのようだった。  
 

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