蒼い空が目に沁みる。  
 万感の思いを抱き、蒼天の輝きに目を細めながら、彼女はゆっくりと口を開いた。  
「ふふ……終わった。死んだ。私の社会的立場はデッドエンドシュート……フフフ……」  
 生殺与奪権を握られるというのは、こういう気分なのか。  
 そんな事を胸中でつぶやきながら、パナビアは天を仰いだ。  
「あああ。先輩が何だかでっかい銃になる人型兵器に乗ってそうな工作員っぽいセリフを……」  
「まあ何だ、その、別に言いふらすつもりなど無いのだが……」  
 まるで何かを悟ったような表情で空を眺めるパナビアに、エリンシエが一応のフォローを行う。  
 だがパナビアは、諦めの表情のままそちらに顔を向けた。  
「つもりなんか無くても、首にナイフ当てられてる事に変わりは無いじゃないの」  
「むう……それはそうなのだが……」  
 噂と言うのは、発信者がその内容を決定する事が出来る。  
 例えば今回などは、ナノカの部分を伏せて、名も無き女生徒に変更するだけでゴシップとしては十分だ。  
 特にパナビアはアカデミー内ではそれなりの立場にいる存在である。そんな立場の人間のゴシップは、あっという間に流布されるだろう。  
 そういったゴシップに興味のある生徒の耳に入れば、それの真偽は関係ない。気付いたときには、まるで事実のように扱われているだろう。  
 ……いや、今回の場合、事実なのだから余計に性質が悪いのだが。  
「だが、本当に言いふらすなどといった、下卑た事をするつもりは無い。信じてはもらえぬだろうか?」  
「……じゃあ、なんだってわざわざ深く詮索するようなことしたわけよ」  
 他人の色恋沙汰など、詮索すれば碌な話にならない事のほうが多い。  
 特に今回などは、そういったことに気付いたのであれば、特殊に過ぎるという事もすぐに分かるはずだ。  
 それくらい、この妙に老成した聡明な元女王なら分かりそうなものだが、何故そんな事をしたのだろうか。  
 それともやはり、そういった話に関しては歳相応に下世話なのだろうか。  
 十一歳という歳を考えれば、そういった話にむやみやたらと首を突っ込みたがるのも分からないでもないのだが。  
 だが、当のエリンシエは、その問いに微妙に視線をそらしながら、何やら言いにくそうに口元をもごもごさせ始めた。  
「それは何と言うか……下世話な話だとは分かっておるのだが、ずるいと言うか何と言うか……  
 仲間外れは寂しいと言うか、折角ナノカと同じ学校に通えるようになったのに、疎外感を覚えると言うか……」  
「……うん?」  
 何だか様子がおかしくなってきたエリンシエに、パナビアは眉をひそめた。  
 何と言うか、まるでこれは自分も当事者になりたがっているようにも――  
「……なるほど」  
 そんな納得声に視線を向けると、ナノカが合点がいったと言う様子で頷いていた。  
 
「これはつまりアレだね」  
 ドレだと言うのだ。よほどそう言い返してやろうとも思ったが、パナビアはぐっとこらえた。  
 満面の笑みに隠れて分かりにくいが、しかしとんでもなくドス黒い意思を感じ、胸中で頭を抱える。  
 この顔が出たら、もう自分に止める手立ては無いと、嫌と言うほど思い知らされてきた。  
 つまりアレだ。悪い笑顔だ。自分的に。  
「エリンシエも混ぜて欲しいってことだよね?」  
「え……っ!?」  
 どうせそんな結論に到達するだろうと思っていた。  
 案の定、そんな事を言われたエリンシエは驚いたようにナノカに向き直り――  
「い、いや、どちらかと言うと、精神衛生上しっかりと決着をつけておきたかったと言うか……  
 いやまあ、確かに、ナノカとそういう関係になるのもやぶさかではないと言うか、少し興味もあると言うか……」  
(あ、あれ? 何だか雲行きが……?)  
 俯いて指先を絡ませながら、ぼそぼそとそんな事を言い出したエリンシエに、パナビアは眉根を寄せた。  
 普通こういう提案をされたら、否定的になるものなのだが。  
 ……自分のことはさておいて。  
「うーん。でも、一応何と言いますか、私は先輩にお世話になってる身であるわけで……  
 そういったことは、どちらかと言うと先輩にお伺いを立てる必要が……」  
「ちょちょちょ、ちょっと待った! 何でそこで私が出てくるわけ!?」  
 大体、その言い方だと余計に誤解を招く。いや、もう既に誤解ではないのだが。  
 だが、これだけは言っておかなくてはならない。別に自分は、ナノカのそういう話を束縛してるわけではない。  
 これではまるで、自分がナノカと付き合っているようではないか。違う。断じて違う。  
「む。確かに、当人を前に浮気を勧めるのは……」  
「浮気!? 浮気って何!? 違うから! そういう関係じゃないから!」  
「私は一応、先輩に操を立ててる立場だしね」  
「胸張って言うな! こっ恥ずかしいっ!」  
「あ、でも、エリンシエに浮気というのも、これはこれで刺激的かも……」  
「私への操はどこ行ったのよ!?」  
 あんまりなナノカのセリフに、パナビアは思わず致命的な突っ込みを入れてしまった。  
 
「ええと、私としては先輩がいいなら、たまにはそういうのもアリかな、と思うわけでして……」  
 上目遣いで、遠慮がちに――しかし、何かに期待するような眼差しでそう言ってくる。  
 くそう、その目は反則だと何度心の中で言ったら伝わるのか。もしかして、分かっててやってるのかこいつは。  
 身長差10pの魔力に打たれ、パナビアはくらくらする頭でどうにか平静を装い、仕方ないといった様子で口を開いた。  
「……まあ、そういう約束だしね……」  
「……だだ甘だのう……」  
 半ば呆れたようなエリンシエの声には気付かない振りをして、やれやれと言った様子で腕を組む。  
 自分がナノカに甘い事など、もう今更誰かに言われなくても分かっている。  
 いつからこうなってしまったのかは覚えていないが、せめて体裁だけでも取り繕っておかなければ。  
 世間的には、まだ自分はナノカの事を憎たらしく思っているのだから。  
(いや、もちろん、工房士として目の上のタンコブなのは変わりないのよ?)  
 胸中で、誰にとも無く言い訳をする。こんな言い訳をする時点で末期なのだと、分かってはいるのだが。  
「エリンシエもいいよね?」  
「あ、えぇと……」  
 振り向いたナノカに聞かれ、そう言えば自分の問題だったとエリンシエが狼狽する。  
 そう、問題の中心は彼女だし、発端も彼女だ。  
 言い方は悪いが、共犯にしてしまえばいい、というものある。  
 えてして共犯者は、自らの保身のためにその口を噤む。丁度自分のように。  
 まあ、ナノカがそこまで考えていたのかはともかくとして――考えていたとしたら真っ黒なのだが。  
「?」  
 エリンシエに向けた笑顔そのままに、こちらを振り向いて疑問符を浮かべる。  
 その、何時もの屈託の無い笑顔が、パナビアには何時もにも増して黒く見えた。  
(……やっぱり止めるべきかしら)  
 自分が強く言えばナノカは自重するだろうが、この元女王なら、それくらいの分別はあるだろう。  
 と言うか、むしろこういう問題は自分で決着をつけたほうが――  
「お、お手柔らかにお願いする……」  
 やっぱり自分が強く言うべきだったかと、パナビアは胸中で嘆息した。  
 
 さて、と、腕を組んで吐息を一つ。  
 緊張した面持ちでベッドにちょこんと座るエリンシエに、パナビアはどうしたものかとため息をついた。  
「な、ナノカ……やはり、服くらいは自分で」  
「いやいや、任せてよ。優しくするから、ね?」  
 何だこの会話は。  
 自分の時には無かった新鮮な――その表現もどうかと思うが――やり取りに、小さく息を吐く。  
 いや、不満だとか羨ましいだとか、そういうことでは決して無いのだが。決して。  
 程なくして、エリンシエの歳相応に華奢な上半身が外気に触れる。  
 未熟な果実を思わせる二つの膨らみが、エリンシエの緊張にふるりと震える。  
 ナノカと大体同じくらいか。十一歳と同じというのはどうなんだろう。  
 いや、もしかして逆なのだろうか。両方かもしれない。  
「……一緒に風呂に入ったこともあるというのに……」  
 何故自分はこんなに緊張しているのだろう、と言ったところか。  
 戸惑い半分、といった様子のエリンシエに、パナビアは当たり前だと胸中でつぶやいた。  
 今裸になるのは、風呂に入るためではないのだから。  
「エリンシエの肌は白くて綺麗だね。ちょっと羨ましいかな」  
「余は、ナノカのような健康的で生命力に溢れる体に憧れに近いものを抱いておる。  
 この肌の白さも、病弱ゆえの青白さであるからな……」  
「いやいや、生来のものも多分にあると思うよ。ちょっとした芸術品の領域ですよ、これは」  
 人の前でいちゃつくな。羨ましくなんかないやい。くそう。  
 実際、エリンシエの肌は病弱である事を差し引いても、白く綺麗な――いわゆる、白磁のような肌の色をしていた。  
 強く握れば折れてしまいそうな儚さもあいまって、まるで硝子細工のような芸術性すら覚える。  
 そしてこれから自分達は、そんな清純で繊細な芸術品を己の欲望で汚そうとしているのだ。  
(……あ。ヤバイ)  
 意識すると、いつか覚えた背徳感が湧き上がってくるのを自覚する。  
 清らかなものを汚すという禁忌に興奮を覚えるのは、人間の性と言うものだろうか。  
 特殊な性癖だとは思いたくない。自分は変態ではないはずだ。  
 ……多分。  
 
「んー。エリンシエの体って、ひんやりして気持ちいいねぇ」  
 そう言いながら、エリンシエの胸に頬擦りをする。  
 くすぐったそうに目を細めるエリンシエに構わず、ナノカは淡い色をした先端に指を這わせた。  
「な、ナノカ、そこは……」  
「ここもちっちゃくて可愛いねぇ。ちょっと硬くなってるかな?」  
「い、言うな、ばかぁ」  
 見せ付けるようなナノカの愛撫に、パナビアは平静を装いつつも視線を外せずにいた。  
 未熟な果実を思わせる白い肢体が、後輩の手によって赤みを帯びていく。  
 しっとりと滲み始めた汗に室内灯の光が反射し、まるでその体が宝石でもあるかのように輝く。  
 ナノカの手がゆっくりと腹部を降り、その核心に迫る――  
「ねえエリンシエ。こっちも、するよね?」  
 ずるい質問だ。そう、パナビアは胸中で毒づいた。  
 案の定、エリンシエはその質問に、口を開いては閉じ――結局声には出さずに頷いた。  
 その様子に満足したのか、ナノカは目を細めて指の動きを再開する。  
「ん……っ」  
 するり、と、ナノカの指が薄布の中に入り込むと、エリンシエは小さく身じろぎして声を漏らした。  
 我慢しているのだろう。きゅ、と口元は閉じられ、眉根は寄せられ、徐々に目が細められていく。  
 だが、それは無駄な抵抗だと、パナビアは嫌と言うほど知っていた。  
「声、我慢しなくていいんだよ?」  
 耳元に口を近づけ、甘く囁く。たったそれだけで、硬く閉じられたエリンシエの唇が緩む。  
 緩んだ口の隙間から甘い吐息が漏れ、ナノカは満足そうに微笑んだ。  
「我慢は体に良くないからね。特にエリンシエは体が丈夫なほうじゃないんだから」  
「……それは何か違う気がするんだけど」  
 微妙にズレたことを言う後輩に、呆れ半分でそう言う。  
 何と言うか、こいつのこういう部分は相変わらずだ。  
「な、ナノカ、も、だめ……っ」  
 真っ赤になった顔を隠すように顔を覆い、涙目になりながら限界を訴える。  
 そんなエリンシエに、ナノカは止めとばかりに幼い秘裂を強く擦りあげた。  
「ふ、ぅあ、あぁぅっ!?」  
 一際大きな嬌声と共に、エリンシエの体が小さく反り返った。  
 
 少しの緊張の後、エリンシエの小さなお尻がベッドに沈む。  
 余韻にひくひくと震える腰を優しく撫でながら、ナノカは満面の笑みを浮かべた。  
「うんうん、やっぱりエリンシエは可愛いねぇ」  
 それには同意するが、こっちは放置か。  
 胸中で文句を言いつつ、椅子に座る。よくよく考えてみれば、わざわざ立っている意味は無い。  
 がたり、という音に気付いたナノカがこちらを振り向き、疑問符を浮かべた。  
「あれ、先輩は混ざらないんですか?」  
「……そこまで野暮じゃないわよ」  
 ようやく落ち着いた様子のエリンシエに視線を向ける。  
 今までの言動を思い起こせば、彼女の心中を推し量る事など容易だった。  
 まさかそういう意味で嫉妬しているとは思いもしなかったが、なるほど、そうだとするのなら、あの執着にも納得がいく。  
 つまり自分は、彼女にとっては泥棒猫なのだ。そんな自分が、どうして嬉々として混ざれようか。  
「だから、その子が満足するまで相手してあげなさい」  
「むぅ〜……」  
 納得できない、と言った様子で眉根を寄せる。だが、こちらもおあずけを喰らっているようなものなのだ。そこは我慢してもらいたい。  
「そうですね……じゃあ」  
 そう言って、ベッドから降りる。その肩越しに、エリンシエが上半身を起こすのが見える。  
 ナノカが何をするのか、気になるのだろう。何となく予想できるが、まあ、それくらいは許してもらおう。  
 仕方ない、と言った様子で肩をすくめてやる。案の定、ナノカはこちらにもたれかかるように顔を近づけ、唇を重ねてきた。  
「ん……」  
 何時もよりは少々ソフトなそれを受けながら、ナノカの肩越しにエリンシエに視線を移す。  
 少し驚いたような様子の彼女に、内心密かに優越感を覚える。と――  
「んむっ!?」  
 中に入り込んできた舌先に違和感を覚え、思わず首を後ろに退くが、既にがっちりと押さえられていた。  
 まずいまずい、それはまずい。口内を蹂躙するナノカの舌と格闘し、それの侵入に抵抗する。  
 が、この状態でそう長く抵抗できるはずも無く、それはパナビアの喉に押し込まれるようにして侵入を果たした。  
「ぷは――あ、あんた……!」  
「準備して、待っててくださいね」  
 そう言って、太陽のような笑みを浮かべてくる。鬼だ。悪魔だ。ブラックサンがここにいる。  
 自分の下腹部に生まれる熱を感じながら、パナビアは胸中でありったけの毒を吐き出した。  
 
 するり、と、スカート越しに下腹部を一撫でして、ナノカはベッドに舞い戻っていった。  
 そのたった一撫でで、熱の原因がむくりと鎌首をもたげ始める。もしかしたら、久しぶりだったのもあるかもしれない。  
 視界の中では、自身の服を緩め始めたナノカと、靴下だけになったエリンシエがこちらを見つめている。  
 スカートの生地裏を擦るようにして隆起したそれを、手で覆って隠す。  
 だが逆にその行為が刺激を与え、程無くして完全に立ち上がってしまった。  
「お、おお……あれが……」  
 両手の内側に隠れている怒張を想像してか、エリンシエがつぶやく。  
 二人の関係を問いただされた時に全部話したが、だからと言って見られて恥ずかしくないわけではない。  
「折角エリンシエに見せてあげようと思ったのに、隠したらダメですよ、先輩」  
「やかましいわっ! そんなに見せたげたいなら、自分がやればいいでしょうが!?」  
 不満そうに言うナノカに、久しぶりの感覚を堪えながら言い返す。  
 スカートの奥で脈打つ熱の塊を自身の手で慰めたくなるが、そこはぐっと押さえ込む。  
 先に椅子に座っていてよかった。立ったままだったら、何とも情けない姿勢になっていたことだろう。  
「私のはほら、先輩ほどご立派では無いので……」  
「嬉しくないわよ!」  
 こんなものが立派でも、女としては全く嬉しいものではない。  
 いやまあ、これのおかげでナノカとは色々あったのだから、完全に否定するわけではないが。  
 とは言え、人にするぐらいなら自分でやればいいじゃないかと思うのは、至極当然だと思うのだが。  
「まあまあ、後でちゃんと責任取りますから。  
 あ、でも、我慢できなくなったら、いつでもいいですよ?」  
 そう言って、小悪魔のような笑みを浮かべる。本当にこいつは、いつからこういう顔をするようになったんだ。  
 私か? 私のせいなのか?  
 くそぅ。余裕ぶっこいた顔しやがって。見てなさい、最高のタイミングで横あいから思い切り殴りつけてやるから。  
 エリンシエに向き直るナノカの背中に向けて、忌々しげな視線をこれでもかと注ぎ込む。  
 そんな彼女をスルーしてベッドに戻るナノカに、エリンシエはおずおずと口を開いた。  
「の、のう、ナノカ……?」  
「うん。何?」  
「おぬしはその……使わんのか? 生えるのを」  
 ……よく言った元女王陛下。  
 動きの止まったナノカに、パナビアは思わず出そうになったその声を飲み込んだ。  
 
「いやー。その、生えちゃうと我慢が効かなくなると言いますか……  
 ヘタするとエリンシエを、その、ねぇ?」  
 ……一応、その程度の分別はあったらしい。ちょっとだけ褒めてやる。  
 確かにまあ、気付いたら襲っていたなど、後味が悪い事この上ない。  
 この後輩の判断基準はまだよく分からないが、気持ちだけはよく分かった。  
 問題は、そんなモノを人に生やさせた事だが。  
「……余は構わん。寧ろ、ナノカならば望むところだ」  
 この子はこの子でどうかと思うが、それは口にしないでおく。自分が何か言えた義理ではない。  
 当のナノカは、困ったような顔でこちらに顔を向けていた。  
 ここまでやっておいて、何でそこで私に伺いを立てるか、この娘は。  
「先輩」  
「……枕元の小物入れ」  
 仕方ないので、場所を教える事で答えにする。  
 有無など言わせるものか。いいから相手をしてやれ。  
 視線でそう訴えたのが通じたのか、ナノカはこそこそと小物入れから例のアレを取り出した。  
 少しの間躊躇していたが、エリンシエの期待の込められた視線に促され、一思いに飲み込む。  
「んん……っ」  
 甘い声を漏らしながら、ナノカは下腹部の熱を押さえるように両手で覆った。  
 その手を持ち上げるようにして隆起するそれを、エリンシエは固唾を呑んで見つめる。  
 やがて完全に立ち上がったそれは、久しぶりの外気に触れ、ひくひくと震えていた。  
「さ、触っても良いか?」  
「え? あ、うん、いいけど……」  
 妙に食いつきのいいエリンシエに戸惑いながら、小さく頷く。  
 エリンシエの小さく冷たい手が熱を持った部分を握ると、ナノカは肩を震わせて目を細めた。  
「おお……熱くて、脈打っておる……」  
 感心するようにつぶやき、その熱の塊に手を這わせる。  
 扱くと言うよりは撫でると言ったほうが適当なその仕草に、しかしその真っ赤になった先端からは透明な液体が滲み出し始めていた。  
「え、エリンシエ……もうちょっと、早く……」  
「わ、分かった」  
 懇願するようなナノカの声に、エリンシエは頷いて手の動きを早くした。  
 
 早くはなったものの、それでもまだゆっくりとした動きに、ナノカの口から声が漏れる。  
 何かを我慢するかのように閉じられた瞼は、小さな手が下腹部のそれを上下するたびにひくひくと震えていた。  
 真っ赤に充血した先端が、その顔を出したり引っ込めたりしながら透明な液体を垂らしている。  
 じれったそうに眉を寄せるナノカの様子に気付かず、エリンシエはその光景に囚われたかのように手を動かしていた。  
「熱い……」  
 そうつぶやく彼女には、その熱の元しか視界に入ってないようにも見えた。  
 対するナノカは、何かを我慢しているのだろうか。シーツを強く握って、腹部に力を入れているように見える。  
 ……何となく想像はつく。勢い余って襲ってしまわないように、必死で堪えているのだろう。  
 焦らされているようなその光景は、いい気味ではある。問題は、自分も似たような状況だという事だが。  
「え、エリンシエ、もう、ちょっと……」  
「わ、分かった」  
 堪えきれなくなったのか、再度の懇願にエリンシエが慌てて頷く。  
 先ほどより格段に早くなった上下動が、ナノカの下腹部に大きな波を生み出していく。  
「ん、く……っ、で、出るよ、エリンシエ……っ」  
「あ、ああ。思う存分、出してくれ」  
 ナノカの告白に、手の動きを早める。  
 じれったいほどゆっくりと溜め込まれた熱が、その刺激に一際大きく暴れだす。  
 破裂しそうなほどに張り詰めた怒張の先端が、限界を迎えて膨らみ――  
「……っくぅ……っ!」  
「きゃぅっ!?」  
 まだ幼い少女の顔面に、白濁した熱の塊がこれでもかと吐き出された。  
 白磁のような肌に、それよりは濁った白い液体が、容赦なく降りかかる。  
 びくびくと、痙攣するかのように震えながら熱を吐き出すそれは、ようやく収まった後も、まだ天を突かんばかりに張り詰めていた。  
「こ、こんなに出るものなのか……」  
「え、えっと……多分、本物じゃないから、参考には、ならない、かな……」  
 自分を汚す白い液体を手にとって、感心したように言うエリンシエに、ナノカは息を切らせながらそう返した。  
 余程凄かったのだろうか。正直、羨ましくて仕方が無いのだが。  
「そ、そうか……ところでナノカ」  
「うん?」  
「……つ、次は、その、するの、だろう?」  
 まるでいつもナノカがするような期待の眼差しで、エリンシエがそう言った。  
 
「い、いや、でもそれは――」  
「……構わん、と言ったであろう。  
 これ以上、余に恥をかかせる気か……?」  
 戸惑うナノカに、顔を真っ赤にしてそう言い返す。  
 と言うか、ここまで来てまだ躊躇ってたのかあんたは。いや、分からなくも無いけど。  
「のう、ナノカ。もらってはくれぬか?」  
「……う、うん。分かった……」  
 エリンシエの懇願に、ようやく首を縦に振る。  
 さすがにここまできてヘタれるほどでは無かったらしい。自分の眼が曇っていなかった事に、パナビアは少しほっとした。  
「ええと、こっちはあんまり慣れてないから、痛かったらごめんね?」  
「……かえって痛いほうが、忘れずにいられるかも知れぬな」  
 ナノカの言葉に、そんな軽口を返して仰向けになる。  
 そうやって不安を紛らわせているのだろうか。ナノカは気付いていないかもしれないが、体が小さく震えているのが見て取れる。  
 彼女にナノカのアレは、どう見えているのだろうか。自分の時のように、実際よりも大きく見えているのだろうか。  
「いくよ、エリンシエ。力抜いて」  
「う、うむ……」  
 脚を広げてなお閉じられた秘裂に、ナノカの先端が押し当てられる。  
 その滾りに手を添えて、入り口を探るように秘裂を上下させる。やがて見つけたのか、ナノカは腰をゆっくりと下ろし始めた。  
「……っ!」  
 自分の中を異物が抉る痛みに、エリンシエは歯を食いしばって声を殺した。  
 シーツをこれでもかと握り締め、上半身を反らす。  
 やがてナノカが完全に腰を埋めると、ようやくエリンシエは小さく息を吐いた。  
「入ったよ、エリンシエ……痛いよね?」  
「……死ぬかと思うほど痛かった」  
 涙を浮かべながらの返事に、ナノカはごめんね、とだけ返した。それ以外に言葉が見つからないのだろう。  
 だがそんなナノカに、エリンシエは息も絶え絶えに笑みを浮かべた。  
「だが、下手をすればグリャマンめにくれてやらねばならなかったかも知れぬことを思えば――  
 まるで、そう、夢のような痛みだ。想い人に一生の疵をつけてもらえるなど、叶わぬ夢だと思っていた」  
 エリンシエのその言葉に、ナノカは複雑な笑みを浮かべた。  
 
「……ごめんね、エリンシエ」  
「何を謝る事がある。余は嬉しいのだ」  
 少し痛みが引いてきたのだろうか。先ほどより幾分か余裕のある様子でエリンシエがそう答える。  
 その彼女に、ナノカはううん、と首を横に振った。  
「いやー、その、そろそろ我慢が効かなくなってきたかなーって」  
「……それはどういう……きゃぅっ!?」  
 エリンシエの問いに、ナノカは腰を動かす事で答えた。  
 まだ痛みの残る狭い肉壁を、熱く硬い異物が抉るように行き来する。  
「ひぁっ、ま、ちょ、ナノカ、もっとゆっくり……っ!?」  
「ごめん、ごめんねエリンシエ。でも、エリンシエが可愛くって、我慢できない……っ!」  
 エリンシエの懇願に、しかしナノカは謝りながらも腰の動きを緩めようとはしなかった。  
 きつく締め付けてくる幼い秘裂に欲望の滾りを突き立て、これでもかと内部を抉る。  
「エリンシエの中、熱くって、狭くって、締め付けてくる……っ!」  
「ふぅっ、く、あ、バカ、優しくするって、うあぁうっ」  
「ごめんね、けど、ごめん、我慢、無理……っ!」  
 一突きするたびに襲ってくる快感に、ナノカはほとんど無意識に腰を動かし続けた。  
 懇願にも応ぜず、一向に遅くならないナノカの動きに、エリンシエは抵抗するかのように自身を抉る異物を締め上げる。  
 それがまたナノカの欲望を掻き立て、その動きを一層激しいものにする。  
「ぅあっ、くぅ、痛いのに、痛いのが、気持ち、いぅっ」  
「エリンシエ、私、もう……っ」  
「待ってナノカ、まだ――」  
 その時を少しでも引き伸ばそうと歯を食いしばるナノカに、エリンシエは今しばしの辛抱を要求する。  
 だが、既に限界を迎えたナノカに、その願いを叶えるだけの余裕は無く――  
「無理、出るぅ……っ!」  
 懇願も虚しく、ナノカはその欲望をエリンシエの中へとぶちまけた。  
 びくびくと中で暴れまわり、思う存分熱を吐き出す。  
 ひとしきり解放の悦楽に腰を震わせた後、ナノカはエリンシエに覆い被さるようにして脱力した。  
「エリンシエの中、気持ちよかった……」  
「ううう……馬鹿者ぉ。やっと気持ちよくなってきたところだったのに、一人で勝手に……」  
「……そうよね。そういう奴にはお仕置きしないといけないわよね」  
 そんな声が、二人の上から降りかかった。  
 
「ふぇ……せんぱひぁうっ!?」  
 自分の上からかかる声に振り向こうとして、急に襲ってきた快感に声を漏らす。  
 自身を抉る異物の感覚に、ナノカは思わず大きく背中を反らせた。  
「いつでもいいって言ったわよね?」  
「そ、それは、ふわぁっ!? 今動いたら、またイっちゃあっ!?」  
 ナノカの反論を潰すように、パナビアは大きく腰を動かしてやった。  
 その勢いに押され、ナノカの肉棒がエリンシエの中を抉り、それに抵抗するかのように締め付ける。  
 入れる快感と入れられる快感が同時にナノカの下腹部を責め立て、強制的に絶頂を迎えさせられる。  
「と、トーネイド、どの……っ?」  
「……放置された挙句に散々見せ付けられて、もう我慢できないのよねー」  
 ナノカ越しにパナビアの動きを受けて、エリンシエが声をかける。  
 そんな彼女に、パナビアは棒読み気味にそう返した。もちろん、腰は動かしたままである。  
 事実、散々我慢させられたのだ。これくらいの責任は、ナノカに取ってもらっても罰は当たるまい。  
 むしろアレだ。この調子に乗った小娘には、逆にちょっとくらい罰を与えてやらなければ。  
「まあ、何て言うか、結局、横槍入れる、形に、なったけど……っく、すごい締め付け……っ」  
「せんぱ、ダメ、エリンシエ、そんなに締めたら、おちんちん、またぁっ!?」  
「よいぞ、何度でも、もっと、沢山……っ!」  
 答える間にも、ナノカは何度目かの絶頂と共に精をエリンシエの中に吐き出す。  
 焼けるような愛欲の熱に下半身が溶けるような錯覚を覚え、ナノカは腰を痙攣したように震わせる。  
 そんな彼女を、パナビアは一時たりとも休ませるものかと責め立て続けた。  
「せんぱっ、ダメ、止めてっ、さっきから、おちんち、止まんなぁっ!」  
「あと、ちょっとだから、我慢、なさいっ!」  
「ナノカのが、中で暴れ、もう……っ!」  
 後ろからは突き立てられ、前からは締め付けられ、ナノカの下半身はまるで壊れた蛇口のように精を吐き出し続ける。  
 そんな制御の利かなくなった肉棒を、幼い肉癖が絶頂の予兆でもって、更に締め上げる。  
「もう無理、ちんちん溶けちゃ、壊れゅうっ!」  
「ナノカ、ナノカに出されて、っくぅ……っ!」  
「ん、もう、出るぅ……っ!」  
 一際大きな嬌声と共に、三人はほぼ同時に絶頂を迎えた。  
 
 腰を痙攣させて突っ伏すナノカを、優しく抱き上げてやる。  
 エリンシエの中から解放された肉棒は、未だに小さく痙攣しながら白い液体を吐き出していた。  
 それを優しく握ってやると、白濁した液体が勢いよく噴き出して、エリンシエの体に降りかかる。  
 見るとエリンシエの幼い秘裂から、ナノカが出したと思われる白い液体が溢れ出していた。  
「……また沢山出したわね」  
「だ、だって、先輩が、はひ、扱いたら、止まんなぃ……」  
 軽く扱いてやるたびに白い液体が噴き出し、エリンシエの体にぱたぱたと跡をつける。  
 ようやく落ち着いたエリンシエは、その光景をぼんやりと眺めていた。  
 その様子に気付いて、パナビアはどうしたものかと思いながら口を開いた。  
「あー……大丈夫?」  
「……あんまり大丈夫ではないが……満足はしている」  
「そう。それなら別にいいんだけど」  
 本人が満足しているならそれでいいかと、ため息混じりにそう納得する。  
 正直な話、もうこの件に関しては細かい事を考えたくは無い。面倒が過ぎて、頭がパンクしそうだ。  
 とりあえずナノカを解放して、隣に転がしてやる。  
「まあ、これでめでたく余も共犯者となったわけだな」  
 気付いてたか。胸中でつぶやくが、少し考えれば分かる事だ。  
 問題は、結局自分も関わった以上、何の解決にもなっていないどころか、また面倒な話になりそうだということか。  
「それはまあ、ええと……」  
「ううう……まだじんじんするよう……」  
 どう答えたものか悩んでいると、ナノカが自分の腰をさすりながら起き上がってきた。  
 あれだけやって、まだ余裕があるのか。体力の化け物か、こいつは。  
「エリンシエ、大丈夫?」  
「うむ……体力的には限界だ。少し休ませて欲しい」  
「うん。先輩は――」  
 そう言って、こちらの下腹部に手を伸ばす。一度出した程度で治まるわけも無く、そこはまだ熱を持ってそそり立っていた。  
「まだ、満足してませんよね?」  
 涙やら汗やらでぐちゃぐちゃな顔を紅潮させ、いつもの期待するような視線を投げかけてくる。  
 その後輩にの問いかけには、唇を重ねる事で答えてやった。  
 どうせ久しぶりなのだ。折角だからこの際、足腰立たなくなるまで相手をしてもらおう。  
 細かい事はもういいやと、パナビアは思考を放棄して、後輩をベッドに押し倒した。  
 

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