環境というものは、ちょっとしたことで大きく変化する、ということが往々にしてある。  
 外因内因の違いはあるが、そういうものは大体にして、大した意味を待たない。  
 最も重要なのは『変化した』という事実であって、そのきっかけは大きな問題ではないないのである。  
 そう。理由は理由に過ぎず、最も重要なのはそれによって何が起きたのか、ということなのだ。  
 まあ、別にそれが理由ではないのだが――  
「そうそう、先輩。ちょっといいですか?」  
 ここ最近、自分の工房にいることが自然になった後輩に、先をうながすように頷く。  
 ずず、と、自分の淹れたコーヒーを軽くすすり、パナビアは小さく息を吐いた。  
「ちょっと例のアレを解析しまして」  
 例のアレ、というと、自分達の間ではもはや定番となったカプセルのことである。  
 そういえば、ここ最近はずっとばたばたとしており、解析する暇も無かった。  
 それを理由に、この後輩にまた差をつけられたというのは、少々どころではなく悔しいものがあるが――  
 とりあえず今はそれを、ぐ、と我慢することにした。  
「それでまあ、色々と判明したわけなのですが」  
「何か大きな問題でもあった?」  
 元々、存在しない部位を生み出したり、用が済めばそれがなくなったりするような謎のシステムである。  
 正直なところ、大きな問題が今まで無かったというのが不思議なくらいだ。  
 今更何を言われようと、驚かない自信は――どうだろう。ちょっと微妙だが、覚悟くらいはあると思う。  
「いや、実はほとんど無かったと言いますか……  
 詰め込まれたマシンセルを特定部位で展開構築して、いわゆる海綿体構造を作るものだったらしく……  
 その外装や内部構造の構築時に、服用者の身体情報を利用するため、体格やらによって個人差が出るみたいでして――」  
 ナノカの説明を聞きながら、パナビアはその無駄な技術力の注ぎ込み具合に心底呆れたように生返事を返した。  
 何だ。古代パシアテ人はアレか。馬鹿か。生粋の馬鹿なのか。  
「それで、設定された値に使用者のバイオパラメータが到達すると、システムと服用者の身体保護のためにセーブモードに戻るみたいです。  
 この複数のシステムですが、どうも最初の展開構築時点でナノマシン同士のネットワークを形成して、演算処理をしているみたいなんですよね。  
 ニューラルネットワークとクラスターコンピューティングの二重構造で、神経系の反応と身体状態の計測処理を、別個で行いつつ連動させてます。  
 しかもエネルギーサプライは通常のナノマシンと同じ……とにかく何と言いますか、ものすごい技術ですよ、これは」  
「あまりにも馬鹿馬鹿しくて認めたくないけれど、すごい技術なのはよく分かるわ……」  
 心底感心している様子のナノカに、パナビアはくらくらする頭を抱えてそう返した。  
 何だか最近、頭を抱えてばかりな気がするのは、決して間違いではないはずだ。  
 
「まあ、それでですね」  
「何、まだあるの?」  
 どうやらまだ本題ではなかったらしい。その事実に、パナビアはうんざりしながら聞き返した。  
 確かにナノマシン技術として高レベルなのは認めよう。  
 使い捨てではなく、リサイクリングできるナノマシンシステムは、ただそれだけでも超高レベルの技術である。  
 それ以外の技術も含めて、少なくとも、現行のナノマシン技術では再現する事は不可能に近いだろう。  
 セルサイズのマシンシステムは、サイズの問題からどうしても劣化や消耗が激しく、基本的に使い捨てにならざるを得ない。  
 ……まさかそんな問題をクリアした物品が、こんな間抜けな物体だとは思いもしなかったが。  
「劣化コピーで恐縮なのですが、作ってみました。海綿体構造構築システム」  
 …………  
「むかつくわー……」  
 まるで美味しそうなレシピだったから今晩のご飯にしてみました、のようなノリで言われ、パナビアは憎々しげに呟いた。  
 この後輩はアレか。世界最速で世界最先端を爆走しなければ死ぬ病気にでもかかってるのか。回遊魚か何かか。スカイフィッシュか。  
「?」  
 キョトンとした表情のナノカに、なんでもないと答えてひらひらと手を振る。  
 つい先日の流体制御システムといい、どうしてこいつはそういう新基軸システムを料理の新しい献立のように扱うのだ。  
(科学が錬金術とかいう名前で呼ばれてた時代は、料理と同じようなものだったって話もあるにはあるけど)  
 うんざりとした気分でそんな事を考える。  
 もしかしたらこの後輩には、料理のレシピもEテクの設計も、同じようなものなのだろうか。  
 確かに、別々の物を組み合わせて一つの何かを生み出すというのは、共通している事ではあるのだけれど。  
(価値観が違うのよね、多分)  
 自分に足りないのは、そういう柔軟で自由な発想なのだろうか。  
 そう言えば確かに、ネオスフィアではナノカブランドのコーヒーが売られていた。  
 ……だからと言って、料理に凝ろうとかそういうことではないのだが。  
「それでですね。ちょっと動作テストに協力して欲しいと言いますか……」  
「……あー……」  
 ほんのりと頬を染めて申し出る後輩に、パナビアはそういうことかと納得した。  
 
「いやまあ、別に構わないんだけれどね」  
 ぽりぽりと頭を掻きながら、少し呆れ気味に息を吐く。  
「意外とこういうことに積極的なのよね、あんたって」  
「だ、だって、先輩から誘ってくれる事、無いじゃないですか」  
 少し拗ねた様子でそう返され、パナビアは慌てて視線を外して誤魔化すように咳払いをした。  
 自分から誘うとか、恥ずかしいじゃない。そんなことを胸中で呟く。口には出さない。だって恥ずかしいから。  
 今だって、本当ならすぐにでも抱きしめて押し倒したいくらいなのだが、先輩の威厳を護るためには我慢なのである。  
「私はこんなに先輩の事が好きだーって言ってるのに、先輩は一言も口に出してくれませんし。  
 一回くらい言ってくれても、バチは当たらないと思うんですよね、私」  
「……あのね。一応言っておくけど。  
 その気持ちはつり橋効果の結果なのよ。周囲への秘密と背徳感の共有に、行為による互いへの依存が起こした幻想なの。  
 つまり錯覚。それでちょっとその気になってるだけ」  
 拗ねた様子で続ける後輩に、まるで自分に言い聞かせるようにそう返す。  
 そう。この気持ちは、錯覚なのだ。錯覚なのだから、早く醒めなくてはいけない。  
 想いが冷めないのは、精神に異状をきたしているだけなのだ――  
「でも、この気持ちが生まれたのは、間違いないですから」  
 あっさりと、至極自然な笑顔を浮かべてそう返してくる。  
 ああ、もう。この娘は。  
 どうして聞きたくなかった言葉を、そんなに簡単に言ってしまえるのか。  
 これではまるで、自分が馬鹿みたいではないか。  
「きっかけは何でも、折角生まれたものは大事にしたいじゃないですか」  
「……いつか捨てなきゃいけないのよ、それは。約束したでしょ」  
 いつになるかは分からない。もしかしたら、捨てた振りだけしか出来ないかもしれない。  
 それでも、こんな気持ちは間違っているのだ。いつまでも、間違ったままではいられない。  
「それまでは、付き合ってくれるんですよね?」  
「……まあ、そういう約束だけど」  
 出来れば早くして欲しい。今なら多分、我慢できるから。  
「だったらそれまで、目一杯甘えちゃいます」  
「ああ、うん……そうね」  
 そう言って身を寄せてくる後輩の頭を、パナビアは仕方なく撫でてやった。  
 
「リサイクリングシステムまでは完全再現できなかったので、持続型のプラント形成タイプにしました」  
「……それ、元に戻せるの?」  
 いつぞやの自分のことが思い出され、眉根を寄せる。  
 あの時も確か、ナノマシンシステムの異常によって、プラントが形成されたものだったはずだ。  
 だが、そんなパナビアの質問に、ナノカは何故かほんのりと頬を赤らめた。  
「戻らなくても、先輩が面倒見てくれれば……」  
「あぁん?」  
「いえ、はい、大丈夫です。アンチユニットがちゃんと用意してありますです、はい」  
 慌てて答えるナノカに、頭を抱えて嘆息する。  
 こいつはこんな奴だっただろうか。もし変わったのだとしたら、何が原因だ。私か。くそう。  
「ああもう、何でもいいから早くして」  
「むむむ……何だかムードに問題がありますが、仕方ないですね」  
 誰のせいだ、という言葉が喉のすぐ側まで出掛かるが、どうにか押さえ込む。  
 これ以上問答をしても、話が進まない。尺の問題という奴である。  
「それでは、テスト開始です」  
 そう宣言して、スカートの隙間から、無針タイプのアンプルを自身の下腹部に押し当てる。  
 ぷしゅう、と、本当にそんな音がしたわけではないが、擬音にすれば丁度そういう音が似合うだろう。  
 それくらいにはスマートに、アンプルの中身がナノカの下腹部へと消えていった。  
「うん、大丈夫かな?」  
「自分の体で人体実験ってのも、体当たりよね」  
 とは言え、他人で試すのも気が引けるし、もし間違って失敗でもすれば、責任が取れない。  
 それを考えれば、自分の体で試すのが一番問題が無いとも言える。  
 いや、一番問題ない方法は、そんな実験をしないことなのだが。  
「ん。むむむ……来た、来ましたよ。むくむくと股間に違和感が」  
「いや、実況せんでいーから」  
 わざわざ知らせてくるナノカに、呆れたようにそう返す。  
 やがて、スカートの裾を持ち上げるほどに立ち上がったそれは――  
 いつも見ていたそれと比べて、何だか二回りほど大きいような感じがした。  
 
 スカートの生地を滑らせ、するりとその隙間から顔を覗かせる。  
 真っ赤に充血した頭を覗かせ、まるで鼓動するようにひくりひくりと震えている。  
 はふ、という小さな吐息とは裏腹に、グロテスクなその本体は、我慢できないと言わんばかりに青筋を立てていた。  
「……え?」  
 いつもの――というのもおかしな話だが――ナノカのそれとは、比べ物にならないほど大きくグロテスクなそれに、思考が止まる。  
 いつもの可愛いくて控えめで、でも自己主張は精一杯してくる、天使のように愛らしいあれはどこにいったの?  
 私、何か悪いことしたの? ねえ神様?  
「はい、大成功です」  
「えっと……そう、そうなの? あれ? ねえ、何かいつもと比べて、ちょっと大きくない……かし、ら?」  
 満足気に成功を宣言する後輩に、ちょっと控えめな態度で質問する。  
 おかしい。何かおかしい。根本的に何か間違ってる。  
 てゆーか、絶対大きい。大きすぎる。いつものナノカの奴の二回りは大きい。形も何か怖いし。  
「あ、はい。折角なので、自動形成ではなく、サイズ等、構造プログラムは自作しました」  
「ああ、そおなの……」  
 ひくひくと痙攣するように震える怒張と、何かを我慢しているような表情で説明を続けるナノカを交互に見比べる。  
 アンバランスにも程がある。こんなに可愛い私の天使に、何でこんなにグロテスクなモノが生えるわけ?  
 というか、これを私に使うの? ……ダメ。無理。入らない。こんなの入れたら壊れちゃう。  
「ちなみに、先輩のものを記憶を頼りにトレースしました」  
 …………  
「……はい?」  
「細部はちょっと自信ないですけど、サイズ、硬度、共に先輩のを元にしました。  
 やっぱりこういうのは、身近なものを参考にするのがいいと言いますか、知ってるのは先輩のだけなので……」  
 自分の頬に手を当てて、顔を赤らめながらそう答える。  
 確かに、よくよく見ると、自分に生えるアレに、似ているようなそうでないような――  
「あんた馬鹿でしょ、馬っ鹿じゃないの!? もしくはアホかっ!?」  
「だ、ダメでしたか!?」  
「ダメとかそーいうのじゃなくて……うっおーっ! くっあーっ! ざけんなーっ!」  
「ああっ!? 何だか先輩が餓えた狼に例えられる格闘家のよーな叫び声をっ!?」  
 受け入れがたい事実を前に、パナビアはとりあえず叫ぶしかなかった。  
 
「大きすぎるから絶対無理とか思ってたら自分のサイズだった……死にたい」  
「せ、先輩……」  
 枕に顔を埋めて嘆くパナビアに、どうフォローしていいものか分からず、ナノカはおろおろと手を泳がせるしか出来なかった。  
 ほんの三十秒ほどそうした後、顔を半分だけ枕から外して、ナノカに視線を戻す。  
 困ったようにこちらを見つめ、今にも暴れだしそうな股間のそれを、押さえつけるようにしているナノカと目が合う。  
「……それ、つらいの?」  
「せ、切ないです」  
「自分でしないの?」  
「先輩じゃなきゃ……ダメなんです」  
 ナノカのその弁に、枕に口を押し付けて、思い切り息を吐く。  
 そこまで言われたら、しないわけにはいかないじゃない、と、胸中でそう呟くと、意を決して上半身を起こす。  
 そのままくるりと向き直り、ナノカに向けて手を伸ばす。  
「ん……っ」  
 真っ赤に充血した部分をさらりと撫でてやると、ナノカの小さな肩がぴくんと跳ねる。  
 そのまま全体を優しく撫でながら、もう片方の手を頬に添えると、その柔らかい唇に自身のそれを重ねてやる。  
 重なった隙間から甘い吐息が漏れ、それを塞ぐように唇を深く重ねる。  
 舌を忍び込ませてナノカの舌を撫でてやると、もっと欲しいと言わんばかりに絡めてきた。  
「ふ、ぁ……」  
 誘うように引っ込めると、追いかけるように舌を差し出してくる。  
 それを唇で優しく挟み、先端を舐め返してやる。  
「ひぇぅ……」  
 何か言おうとする後輩を尻目に、首筋に舌を這わせ、服をはだけさせる。  
 こういうことばかり上手くなってしまうのはどうかと思うが、今はこの際気にしないことにする。  
 適度にはだけた制服の中に手を忍ばせ、既に硬くなっていた先端を、指で優しく転がしてやる。  
 小さくくぐもったような声に満足し、そのまま服を緩めていく。  
 はだけて露わになった胸元にキスをして、小さく可愛らしいへそを舌で刺激する。  
「もっと、した、ぁ……」  
 もう我慢できない、とでも言うようなナノカの懇願に、パナビアは分かってるわよ、と答えてやった。  
 
 破裂するのではないかと錯覚するほどに張り詰めたその先端に、ゆっくりと舌を這わせる。  
 何度か撫でるようにしてやると、ナノカの口から甘い吐息が漏れ出した。  
「ふぁ、せんぱ、きもちぃ……っ」  
 下腹部を襲う快感に耐え切れず、ナノカはまるで自分のそれを差し出すような形で、仰向けにベッドへと倒れ込んだ。  
 中途半端に制服をはだけさせたまま、シーツを力いっぱい握って快楽に耐える。  
「いいのよ、いつでも」  
 必死になって我慢するナノカに、優しく言ってやる。  
 最初は無理かと思ったが、何だ、結局はいつもの可愛いナノカじゃないか。  
 いや、そのナノカにこんな大きなモノが付いていることが問題なのだが。  
「だめ、せんぱいっ、止めて、すぐイっちゃ、出ちゃうぅ……っ!」  
「いい、って、言ってるでしょ?」  
 容赦を懇願するナノカに、パナビアは遠回しな拒否の言葉を返した。  
 先端を懇切丁寧に舐めながら、爪で引っかくようにして下へと指を這わせていく。  
 やがて、ここに至ってなおぴったりと閉じられた、童女のようなその部分へと辿り着く。  
 そこに指を軽く差し込んでやると、中は既に熱く濡れそぼっており、きゅうっと侵入者を締め付けてきた。  
「こっちもこんなになってるわよ?」  
 そう言いながら、入り口を広げるように軽く抉ってやると、一際大きく腰が跳ねる。  
 はちきれそうなほどの熱に支配された部分を扱かれ、溶けそうなほどの熱を持った入り口を抉られ、ナノカの意識が快楽に埋め尽くされる。  
 爆発するのではないかと錯覚させるほどに赤くなった先端が、その限界を示すように、一際大きく膨れ上がる――  
「だめ、も、で――」  
 それを聞くが早いか、パナビアは駄目押しとばかりに、ギンギンに張り詰めたそこを、根元から先端まで一気に舐め上げた。  
 その瞬間――  
「で、ひゃああぁっ!?」  
「ん……っ!」  
 まるで堤防が決壊するような勢いで、白濁した熱が吐き出され、パナビアの顔を白く汚す。  
 驚いて思わず目を閉じるが、手の中で暴れる熱の塊と、顔にかかる熱い液体が、ナノカの絶頂の様子を克明に知らせてくれる。  
 程なくして、熱い粘液のシャワーが終わり、手の中で暴れる滾りが落ち着くと、パナビアはゆっくりと目を開いた。  
「……沢山出したわね」  
「だ、だってぇ……」  
 言い訳をする子供のような口調でそう言うナノカに、パナビアは優しく微笑んでやった。  
 
「先輩の手が気持ちよすぎるのが悪いんですよぅ……」  
 それこそ子供の言い訳のように、ナノカが弁解にならない弁解をする。  
 うん、それは嬉しいんだけれど、何だ、その、いちいち言わんでよろしい。  
「……思いっきり出してくれちゃって。服がどろどろじゃないの」  
 誤魔化すようにそう言って、服をはだける。  
 しっとりと汗で湿った肌に外気が触れ、形のいい乳房がふるりと揺れる。  
 それを見たナノカの喉が、小さく鳴った。  
「何? こっちでもして欲しいの?」  
 ナノカのその様子に、自分の腕で軽く持ち上げて見せると、ナノカは視線を胸に釘付けたままゆっくりと頷いた。  
 その仕草が何だかおかしくて、パナビアは小さく苦笑した。  
 そうして、仕方ないわね、と一言言うと、未だ硬さを失わないナノカの怒張を、その双丘で挟み込んでやる。  
「ふぁ……っ。先輩のおっぱい、柔らかくて、気持ちいい……っ」  
 さすがに、包み込む、というのは無理だが、それでもナノカには十分な刺激だった。  
 手とはまた違う、すべすべとした弾力のある塊に扱かれて、下腹部に熱が集まるのを感じる。  
 口の端から垂れ出す涎を気にかける余裕も無いのか、ナノカはもっとして欲しいと言わんばかりに腰を動かし始めた。  
 それに対してパナビアは、その先端を口に含むと、中の熱を奪うかのように、思い切り吸い上げた。  
「ひぃうぅ……っ!?」  
 その刺激に、危うく絶頂を迎えそうになり、ナノカは歯を食いしばってそれに耐えた。  
 全身が緊張し、視界がちかちかと、まるで星が瞬くようにして白濁する。  
 だが、そんな我慢が長く続くはずも無く、程なくして限界がやってくる。  
 痺れるような感覚が腰から脳髄までを支配し、崩れかかっていた堤防が、一気に決壊する――  
「――っ!?」  
 びくんと一つ大きく痙攣し、声にならない声を上げて、ナノカはその熱をパナビアの口の中に吐き出した。  
 ひとしきり暴れまわり、思う様その欲望を吐き出した後、ようやくナノカの体から力が抜ける。  
 緊張した体がベッドに沈み、しかしその腰だけは、未だに時折小さく痙攣していた。  
 そんなナノカの様子を眺めながら、まるで勝利の美酒でも味わうかのようにして、口の中のものを飲み下す。  
 ああもう、この瞬間のナノカの可愛さときたら……!  
 そんなことを胸中で叫ぶ自分に、やっぱり相当やられてるなあと、パナビアは自嘲した。  
 
 自嘲ついでに、自分の下腹へと手を忍ばせてみる。  
 そこは既にしっとりと濡れており、この憎らしくも愛らしい後輩を受け入れるための準備が出来ていた。  
 そんなこちらを知ってか知らずか、ナノカがとろんとした目で口を開く。  
「せんぱい、私、もう……」  
 後半の言葉は発しなかったが、簡単に想像がついた。  
 二回も満足させてやったというのに、衰えた様子も無く張り詰めたそこを見れば、分からないはずが無い。  
 自分だって、早くナノカが欲しい。だが、そんな簡単に望みを叶えさせてやるのも癪だった。  
「もう、何なの?」  
 指で先端を弄りながら、意地悪な口調でそう聞いてやる。  
 そのわずかな刺激にすらひくひくと反応しながら、ナノカがゆっくりと口を開く。  
「もう、我慢、出来ないよぉ……」  
 おねだりをする子供のような口調でそう言うが、それではまだ及第点はやれない。  
 百点満点で、精々五十点くらいしかあげられない。天才なら、せめて七十五点は取ってもらわないと。  
 仕方なくパナビアは、今度は指で先端をとんとんと軽く叩きながら、教師のような口調で更に問いただした。  
「どうしたいのか言わないと、分からないわよ?」  
 今自分は、相当意地悪な笑みを浮かべているんだろうなぁと、そんな事を考える。  
 だがまあ、こんな事をしたくなる気分にさせるナノカが悪いのだ。うん、そういうことにしておこう。  
 さあ、早くその天使のような声で、えっちなおねだりをしてきなさい。ハリーハリー。  
 そんな風に胸中で催促していると、ようやくナノカは観念したようにゆっくりと口を開いた。  
「おちんちん、先輩の中に入れたいです……」  
 目一杯甘えた声で懇願され、パナビアは一瞬くらりときてしまった。いかん、この破壊力はヤバイ。  
 きゅんきゅんと、変な効果音を立てて高鳴る胸をぐっと押さえ込み、ナノカの直立不動なその先端に、自身の入り口を軽くあてがう。  
 ほんの少しだけ腰を下ろし、その剛直が入り口を押し広げた辺りで止めてやると、ナノカは今にも泣き出しそうな顔をこちらに向けた。  
「入れるだけでいいの?」  
 最後の意地悪。いくらナノカがいつもこのサイズを入れていると言っても、自分の番となると、やはり少し尻込みする。  
 だから、それを吹き飛ばすような、自分が本当に我慢できなくなるような、そんな言葉が欲しいのだ。  
 お願い、早く。焦らしてるのはこっちなのに、その顔だけでイっちゃいそう――  
「イキたいっ! 先輩の中でおちんちんイカせてくださぁいっ!」  
 ナノカのその懇願に、パナビアは砕けるように腰を落とした。  
 
「ひうぅ……っ!?」  
「っくぁ……っ!」  
 腰を下ろした瞬間、二人は同時に絶頂に達し、互いの腰を押し付けるようにして緊張する。  
 肉壁を一杯に押し広げながら、爆発するような勢いで熱を吐き出す異物を、その熱を全て搾り出さんとばかりに締め上げる。  
 予想以上に大きく、力強い侵入者に、パナビアは歯を食いしばる事も出来ずに、絶頂の余韻に浸る。  
「お、おっきぃ……」  
 ぐらぐらする頭で、ぼんやりとつぶやく。  
 大きいってゆーか、もう何か苦しいし。いつもナノカはこんなものを飲み込んでいたのか。  
 ……何てゆーか、その、いつもお世話になってます……  
 そんな、よく分からない事を胸中で呟いて、視線をその当人へと向ける。  
 自分の下で敏感な部分を自分に包まれ、まるで熱病に浮かされたような様子で喘ぐ後輩の姿が視界に入る。  
「……ねえナノカ。まだ、よね?」  
 そう、甘えた声で聞きながら、下腹部に力を込める。  
 熱く火照った肉壁が、怒張したままのナノカを軽く締め上げる。  
 絡みつくように蠢く肉の悦楽に、ナノカは小さく頷いた。  
「おちんちん、もっといじめてください……」  
 子供がおねだりするような口調でそう言われ、パナビアは腰を動かすことで返事をした。  
 いつもより大きいその部分も、自分一杯で包み込めると思えば、逆に少し嬉しく感じる。  
 自分を真似て、自分と同じ大きさのモノをつけたナノカを、自分で征服するというこの構図が、倒錯した快楽を生み出す。  
 たったそれだけで、自分の女の部分が、ナノカを責めようと猥らに蠢くのが自覚できた。  
 そうだ、そう言えば、ナノカの大事なところを気持ちよくしてあげてない。  
「こっちもいじめてあげないと、ね?」  
 そう言って、ナノカの秘裂に指を這わせ、その入り口を押し広げる。  
「だめ、今そこ、だめ――」  
 既に切羽詰っていたナノカの顔に、焦りが浮かぶ。パナビアは舌なめずりを一つすると、その懇願を無視して指を押し込み、その中を抉る。  
 その瞬間――  
「――ひゃめぇえぇっ!?」  
 呂律の回っていない嬌声を上げ、ナノカは絶頂に腰を震わせた。  
 
 絶頂の余韻に全身を震わせる後輩に、パナビアはゆっくりと腰を上げ、肉の棒を開放してやる。  
 塞ぐものを無くした肉の壺から、どろりと白濁した液体が溢れ、未だ余韻に震えているナノカの怒張に垂れ落ちる。  
 そこでようやく気づいたのか、ナノカは困惑した様子でこちらに視線を向けてきた。  
「せんぱい……?」  
「ほら、ここ……」  
 疑問符を浮かべる後輩に、よく見えるように自分で入り口を開いてやる。  
 今まで散々自分が吐き出した白い液体が残っているのが見え、ナノカは顔が熱くなるのを自覚した。  
 そんなナノカに小さく微笑み、パナビアは甘えたような声で後を続ける。  
「されるばっかりじゃなくて、してよ」  
 その言葉に、ナノカは飛び掛るようにしてパナビアに抱きついた。  
 肉の欲望を滾らせて、先ほどまで自分を包んでいたその場所に、今度は自分の意思で入り込む。  
 自分を猥らに包む柔壁に、ナノカは危うくまた達しそうになり、歯を食いしばってそれに耐えた。  
「もう……そんなに気持ちいいの?」  
「だって、せんぱいのこと、好きだもん……」  
 子供のような口調でそう言われ、パナビアは思わずナノカを抱きしめた。  
 ダメ。反則。それはずるい。可愛すぎて、顔が緩むのが我慢できない。こんな顔、恥ずかしくって見せらんない。  
「ほら、ナノカ。動いて?」  
 そうやって、囁くので精一杯だ。そしてこの後輩は、そんな囁きに、体一杯で応えてくれた。  
 破裂しそうなほどに滾った侵入者が、自身を包み込む柔壁を、ゆっくりと、しかし全身で味わうようにして押し広げる。  
「ちんちん、きもちぃよぉ……っ」  
 悦楽の虜となった事を宣言しながら、更なる快楽を得ようと一心不乱に腰を動かす。  
 そんなナノカへの愛しさだけで、パナビアも既に限界を迎えつつあった。  
「ナノカ、出して、私、もう、ダメぇ……っ!」  
「出る、出ちゃう、ちんちん、イっちゃあ……っ!」  
 互いに限界を告白し合い、ほとんど同時に絶頂を迎える。  
 余韻に浸りながら抱き合って、どちらとも無く唇を深く重ね合う。  
 たっぷりと互いの味を堪能した後、銀色の糸を引きながら、ナノカが肩で息をしながら口を開く。  
「せんぱい……」  
 まだ満足しきっていない様子の後輩に、パナビアは小さく頷いた。  
 付き合ったげるって、約束だもの――その言い訳は、何故か出てくることは無かった。  
 
「んー……」  
 カーテン越しの朝日に眠い目を瞬かせ、意識がゆっくりと起き上がってくる。  
 すぐ近くから聞こえてくる寝息に、ああ、そうだった、と、パナビアは大きく息を吐いた。  
「いつ寝たっけ……」  
 あやふやな記憶を掘り起こしながら、自分に抱きついて眠る後輩の頭を撫でる。  
 結局あの後、浴びるほど抱き合って、いつ頃自分達が意識を手放したのか、全く見当がつかなかった。  
 とりあえず分かっている事は、今さっきまで、自分達が生まれたままの姿で抱き合って寝ていた事だけである。  
「ん……せんぱい……」  
 胸の上で寝息を立てていた後輩が、自分を呼びながら起きだしてくる。  
「おはよーございます……」  
 はいはいおはよう、と返し、苦笑する。本当にこの後輩は、マイペースにも程がある。  
 そのまま起こしてやるのも癪な気がして、パナビアはシーツの中で空いている手を動かした。  
「……朝から元気よね」  
「こ、これは朝立ちという奴でして。副交感神経の作用による、正常な生理現しょ、ぅん、ゃ、はぁん……♪」  
 我知らず押し付ける形になっていたその部分を刺激され、弁解するようにそう返す。  
 言葉と裏腹に、どこか嬉しそうなナノカに嘆息しながら、パナビアはしみじみとつぶやいた。  
「……やっぱり、この大きさは違和感あるわ……」  
「そ、それって、いつもの私が好きって、あっ、ちょ、ま、そんな、したら、我慢、むり……っ」  
 誤魔化すように刺激を強くしてやると、ナノカは思いのほかすぐに我慢の限界を訴えた。  
 こちらの下腹部に熱い液体を吐き出しながら、射精の快感に小さな肩を震わせる。  
「せ、せんぱいの、えっちぃ……」  
「いいじゃない、気持ちよくしたげたんだから」  
 今度こそ責めるような視線を向ける後輩に、そ知らぬ顔でそう言い返す。  
 むう、と頬を膨らませた後、ナノカは名案を思いついたというような様子で口を開いた。  
「じゃあ、好きって言ってくれたら、許してあげます」  
 まだ諦めて無かったのか、こいつは。  
 そう胸中で嘆息して、返事の代わりに覆い被さるようにして唇を奪う。  
「……これで我慢しなさい」  
 その代わり、何度でもしてあげるから、と続けると、ナノカは納得いかない様子で、しかし小さく頷いた。  
 とりあえず、ナノカのご機嫌を取るために、朝から少し相手をしてやることにする。  
 こっちから誘って欲しいって言うからなんだから、と、その言い訳は忘れなかった。  
 

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