工房の整頓、配達済みの機動兵の受け取り、工房の再開など、最初の数日はどたばたとしていた。  
 そのままアカデミーの臨時休学からの復学手続きを終わらせたところで――  
「……一週間って、こんなに早かったのね……」  
 コーヒーを胃に流し込み、一息ついてから、パナビアはぼんやりとそうつぶやいた。  
 まあ、どうせ必要な単位は全て取ってある。慌てて休学を取り下げる必要も無かったのだが――  
「忙しいうちに全部やっておこうなんて、考えるんじゃなかったかしら……」  
 必要な単位は既に全て習得済み。卒業のための必須事項はほぼ終了しており、あとは時期が来るのを待つだけだ。  
 もちろん顔はそれなりに出さなければならないが、それほど重要ではない。  
 むしろ重要なのは、予定を遥かに越えて放置してあった工房と、フッケバインである。  
「フッケバインも、一度オーバーホールしてあげないといけないし……ゆっくりも出来ないわね」  
 ふう、と、小さく息を吐く。  
「……何だか、この一週間、まともに人と話してない気がするわ」  
 勿論、顔を出した生徒会の人間や、復学手続きを取った担当の人間とは、会話をした。  
 が、それは事務的なものだったり、確認作業をしただけで、話と言うには程遠いものだった。  
 アカデミーに友人がいないわけではないが、残念ながら会って世間話に花を咲かせる機会は得られなかった。  
「それに――」  
 ナノカとも、会ってない。  
 さすがに口に出すのは恥ずかしくて出来ないが、認めざるを得なかった。  
 この、もやもやした気持ちは、不満だ。ネオスフィアでは、あれだけ――  
「……ああ、もう。思い出しちゃったじゃないの」  
 顔が熱くなるのを自覚する。自分が無意識にナノカを求めている事に気付き、パナビアはぶんぶんと首を振った。  
 割り切ったのだ。自分からそう言い聞かせて、分からせたのだ。その自分がこれでは――  
『すみませーん』  
「ひゃいっ!?」  
 呼び鈴と共に聞こえてきた後輩の声に、パナビアは思わず変な声を上げた。  
 
「おお、コーヒーというのも悪くないのう」  
「はあ……」  
 ネオスフィアから持ち帰ったナノカブレンドに舌鼓を打つエリンシエに、パナビアは生返事をした。  
 その横ではナノカが、肩身が狭そうに何とも微妙な笑顔を浮かべていた。  
「で、何でこの子がここにいるわけ?」  
「えーと、何と言いますか……新シリーズ開始にあたり、設定の変更やら何やらと大人の事情がありまして……  
 ぶっちゃけて言いますと、続編を作る上で無視できない設定上の問題が起きまして、ハイ」  
「いや、そんなメタメタな発言をされても困るんだけど……  
 つーか、いくら原作でもメタ発言が端々にあるからって、今まで極力しないようにしてきた努力はどこ行ったのよ……」  
 捨てました。  
「ま、まあ、それは置いておきまして、細かい事情は説明すると長くなりますし、なにぶんデリケートな問題なので……  
 一応、留学と言う形で、このたび帝都アカデミーに編入する事になりました」  
「……留学って、ネオスフィアの王室はどうなるのよ」  
「ああ、それは、実は王族親類だったノキが女王様になることで決着を」  
 ノキ・ウェルキンと言えば、ネオスフィアではサウスタウンの市長をしていたはずだ。  
 父親も含めて、全くもって貴族のようには見えなかったが、父方ではなく母方がそうだったのだろうか。  
 ネオスフィア王家は純血を守るために身内の血を重ね続けていたそうだが、その過程で劣勢血統にでもなったのだろうか。  
 逆を言えば、そのしがらみから抜け出したネオスフィアは、もう既に古代の王家とは言えない存在となったのか。  
 色々と思う事はあるが、取り敢えずは胸のうちに押しとどめておく。今聞くような事でもない。  
「……あー、何かもう、その辺の事情を聞くのは止めとくわ。またややこしい話になりそうだし」  
「賢明な判断よな。世の中には、知らぬでもどうにかなる事のほうが多い」  
 うむうむと、何故か満足そうに頷くエリンシエ。  
 それには生返事を返しておいて、パナビアはじろりとナノカに視線を移して口を開いた。  
「……それはともかくとして、一体何の用で連れ立って来たわけ?  
 まさか、編入するからそれの挨拶――ってわけじゃないでしょ?」  
「あ、はい。エリンシエの件はついでと言いますか、押し切られて連れて来てしまったと言いますか……  
 今日はちょっと、ある発明をしてみたので、それのモニタリングをしていただけたらなぁ、と」  
 そう言って、ナノカは手荷物の中から何かの機械を取り出した。  
 
「簡単に言いますと、流体素材を電気信号によって操作する装置です」  
 手荷物の中身――何かの機械と、薬剤らしき物を手に持って、そう説明する。  
 どばどばと浴槽を埋めながら、パナビアは親指程度の大きさの、丸い機械の一つを手に取った。  
「で、これが受信装置?」  
「受信と発信を兼ねた、いわゆるビットチップです。  
 一つの発信機だけで全体の形状を維持するのはちょっと無理があるので、各延長部分にサブコアを配置して、それに周辺の形状変化を補佐してもらいます」  
「その薬剤は?」  
「専用のゲル化剤です。これで専用の流体素材を作って、形成物にします。  
 ゆくゆくはただの水でも出来るようにしたいんですけど、取り敢えずはまあ、第一段階ということで」  
 要するに、機械仕掛けのスライムを作ろう、ということだ。  
 流体制御の研究は、それ程悪い研究ではない。  
 遠隔操作や、伝達技術の向上に繋がるし、何より流体素材の兵器が出来れば、コスト面での節約にもなる。  
 何せ、制御装置だけ作ってしまえば、あとは素材を調達するだけでいいのだ。  
 整備も、その制御装置をメンテナンスするだけでよく、時間と労力の節約になる。完成すれば、だが。  
 とりあえずパナビアは、気になっている点を確認する事にした。  
「圧力の問題は?」  
「一応、ある程度の圧力変化は可能になってます。  
 専用のゲル化溶液と合わせて、半固体レベルは確保出来ているとは思うんですけど」  
「微弱電流を流すんだと思うけど、それに対する人体への電磁波影響は?」  
「スツーカが『少し耳障り』って言う程度ですから、大丈夫だとは思うんですけど……  
 こればっかりは、持って来た計測器の数字を見てみないことには、ちょっと分かりません」  
「コントロールレベルは?」  
「自律レベルです。さすがに情報量が多すぎて、半自律もちょっと難しいかと。  
 人体と似た構造の機動兵とかならともかく、今回は完全無欠に無形ですから」  
 そんな調子で質疑応答を続ける二人を、エリンシエは蚊帳の外でぼんやりと眺めていた。  
 そしてそのまま、少し困ったように口を開いた。  
「さっぱり話に付いていけぬな……」  
 専門家同士の会話などそういうものだと分かっていながらも、彼女はそうつぶやいた。  
 
「水着になるのは構わないんだけれど」  
 ネオスフィアでのイルカレースに使った水着に身を包み、小さく息を吐く。  
 今、帝都は春先。今日はそれ程寒くないとは言え、まだ水着でいるには肌寒い。  
 流体素材はぬるめのお湯を使ったが、大丈夫だろうか。  
「内臓バッテリーはどれくらいもつ予定なの?」  
「えっと、一応、二、三時間位はもつと思います。  
 あと、溶剤は人体に無害な素材で作ってますので、もし一部を飲み込んだりしても大丈夫ですよ。  
 ちょっと消化に悪いから、気持ち悪くはなるかもしれませんけど」  
 微妙な時間だ、と、正直そう思う。  
 メインコアよりも、サブコアのバッテリー問題なのかもしれないが、サイズを諦めてもう少しバッテリー容量を増やすべきではないだろうか。  
 いや、どうせ今回は制御技術の実験機なのだから、出来うる限りの小型化を目指したのかもしれないが。  
(どうせなら、メインコアからの発信電流をバッテリー代わりに……うーん、でも、それくらいはナノカなら思いつきそうだし)  
 色々と考えるが、とりあえず後で聞く事にする。  
 今はこの後輩の発明を確認したほうがいいだろう。本当に動くなら、悔しいが参考にさせてもらう。  
「それでは、流体コントロールシステム海野田君S−1起動!」  
「うみのだ……?」  
 どういう基準でネーミングされたのか分からないが、考えるだけ無駄な気がするので口を噤む。  
「ゆくゆくは、メインコアのみの海水を流体素材として利用したものに仕上げていきたいですね。出来ればS−97辺りで」  
「どんな長期的プランなのよ……」  
 何故か嬉しそうなナノカに、うんざりとした様子でそう返す。  
 ふう、と一息吐いて、エリンシエに視線を移す。  
 白いワンピース型の水着に身を包み、おお、と何やら感心した様子で、動き出した海野田君とやらを眺めている。  
 ぬも、と、どう表現したらいいのかよく分からない様子で近づく海野田君に多少気圧されながらも、パナビアは触ってみようと手を伸ばした。  
「……ゼリーと言うか何と言うか……変な触り心地ね」  
「お、おお、これは中々面白い」  
 ぷるぷるとした肌触りを確かめるパナビアの横で、早速エリンシエが遊び始めていた。  
 まるでソファーにでも座るように腰を下ろし、その弾力を楽しんでいる。  
 その様子に苦笑して、ナノカに視線を向けると、何時もの笑みで返された。  
「まあ、もうちょっと色々してみましょうか」  
「はいっ」  
 ナノカの返事に応えるように、パナビアは海野田君に腰を下ろした。  
 
 ビニル製の浮き袋とも、硬化ゼリーとも言えぬ妙な感触。  
 ずぶ、と、ともすればそのまま埋まってしまいそうな感覚に、パナビアは落ち着かない様子で身じろぎした。  
「ヘンなの」  
「どんな柔らかいクッションでも、これ以上はあるまい、といった感じであるな。  
 ん〜……クセになってしまいそうだのぅ」  
 エリンシエの漏らした声に、胸中で頷く。  
 確かに、これ以上柔らかいクッションなどありはしないだろう。何せ元々がただのゲル状液なのだから。  
 しかも、圧力に対して押しつぶされないよう、最低限の反発を返してくるおまけつきだ。  
「中々良好みたいだね。  
 さて、圧力実験をば……よ、っと」  
 海野田君にもたれかかりながら、ナノカは指を立ててぷるぷるとした表面に押し当てた。  
 ぐぐ、とわずかな反発を受けた後、ずぶりと腕ごと中に押し込んでいく。  
「おおお、こ、この感触は中々……クセになりそうなぷるぷる感ですよ、これは」  
 微妙に恍惚とした表情でそんな事を言う。そのあまりにへろりと崩れた顔に、パナビアはそこまでのものかと指を立ててみた。  
 つぷ、と指がめり込むと、ゼリー状の壁がぷるぷると指を圧迫してくる。  
 そのまま手首までめり込ませると、何とも言えない瑞々しい感触に包み込まれ、思わず感嘆の息を漏らしてしまった。  
「い、意外とこれは、うん……」  
 何だかイケナイ気分になりそうなのをこらえて、そうつぶやく。  
 中でぐるぐると動かしてみると、弱い反発と共にくすぐってくるような感触を与えてくる。  
 これは確かに、ナノカの顔も無理はない。ちょっと崩れすぎな気はするけど。  
「おおお、何やらぷるぷるとして面白いやら気持ちいいやら……」  
 右脚をむこうずねの辺りまで海野田君の中に埋めながら、エリンシエがそう漏らす。  
 座るような体勢から足先を埋め込んだのだろうか。意外と器用である。  
「しかしまあ、あんたにしては割りに上出来じゃない?」  
「えへへー。ありがとうございます」  
 ぷるん、と頬を撫でてくる海野田君にくすぐったそうにするナノカに、そう言ってやる。  
 褒め言葉を素直に受け取るナノカに小さく笑みを漏らし、パナビアは海野田君にもたれかかった。  
 
 少し冷たいゼリー状のソファーに肩を埋め、力を抜く。  
 やけに忙しく、未だ疲れの残るこの体に、このプレゼントは悪くなかった。  
 ゆったりと体重を預けると、むにゅりと肩やら腰やらが海野田君に埋まる。  
「最初は、またヘンな事をしでかしに来たのかと思ったけど……今回は悪くないわ」  
「あ、ひどいですよ、先輩」  
「……否定できるの?」  
 抗議の声を上げる後輩に、半眼になってそう返す。  
 その目に一瞬たじろぎ、ナノカはぐるりと視線を宙に彷徨わせ――  
「あ、あはは……」  
「……否定できぬほどやらかしておるのか……」  
 乾いた笑いを漏らすナノカに、エリンシエはパナビアと似たような顔で確かめるように問いかけた。  
 余の前ではそんなことは無かったのだが、と言う彼女に、しかしナノカは誤魔化すような笑みを浮かべるだけで何も答えなかった。  
「しょっちゅう顔つき合わせるようになれば、ボロが見えてくるわよ。  
 仕事は悪くないくせに、たまに肝心なところで致命的なポカをやらかすのよね。  
 大事なネジの閉め忘れで機動兵爆散させてみたり」  
「うぐ」  
 ナノカが小さく呻き声を上げるが、パナビアはいい気味だと鼻を鳴らした。  
 あれのせいで、この工房を一旦丸々建て直すハメになったのだ。ちょっとは罪悪感を持ってもらわなければ。  
 幸い、爆心地から部屋一つ向こうだったおかげで、大した怪我は負わなかったのだが。  
「まあ、どうせもう過ぎたことだし……たまに思い出してはからかってあげる」  
「ううう。先輩が酷い」  
 困ったような笑顔でそう言うナノカに、パナビアは得意気に笑い返してやった。  
 そのまま仰向けに倒れこむように体重を預ける。心地いい反発とひんやりとした感触。  
「そういや、さっきからこの――海野田君? 最低限のリアクションしか返してこないんだけど……  
 自律制御のテストとかしなくていいの? そのつもりなんでしょ?」  
「そ、そうですね。じゃあ、完全自律モードをぽちぽち、と」  
 パナビアに指摘され、ナノカは慌てて風呂場の隅に置いた計器を操作した。  
 そしてそのまま、海野田君の一部に腰掛ける。それに反応するかのように、末端がぷるんと揺れた。  
 
「じゃあ、ちょっと持ち上げてみて」  
『も゛っ』  
 ナノカの命令に、海野田君は妙な音声を返した。  
 そのままぐぐ、とサブチップをナノカに寄せて、五十センチ程ナノカの体を浮かせる事に成功する。  
「おお。ただのゲル状物体だと言うのに、意外と力持ちな」  
『も゛』  
 エリンシエの感心したような声に、自慢げに返事をする。  
 と言うか、この音声は一体何処から出ているのだろうか。  
「ん、良好良好。じゃあ、自由に動いてみて」  
『も゛っ』  
 ナノカの超絶的にアバウトな命令に、二つ返事――よく分からないが、多分――で動き始める。  
 急に腕を持ち上げられて少し驚いたが、なるほど、これは中々力強い。  
 兵器としての初動実験ならば、及第点をあげてもいいくらいだ。  
 そんな事を思っていると――  
「ひゃっ!?」  
 最初の『持ち上げる』という命令のせいだろうか。  
 二人に比べて、明らかにボリュームのある部位――要するに、胸――を持ち上げられ、パナビアは小さく声を漏らした。  
「ちょ、こら、そんなところ持ち上げなくていいからっ」  
「うわー……」  
「……持ち上げるほどあると、大変だのぅ……」  
 変な感心をされても全く嬉しくない。  
 胸中でそう言い返しながら、自分の乳房を持ち上げる腕らしきものに手をかける。  
 が、意外なほどの弾力と柔軟性を持つその腕は、パナビアの抵抗にびくともしなかった。  
「く、このっ、放しなさいよっ!」  
「おお、なんともパワフル。初期型ながら、十分な結合力が実現できているようで満足です」  
「やかましいわっ! ちょ、こら、揉むなっ!」  
 だがやはり、パナビアの抵抗にも海野田君はビクともしなかった。  
 
 兵器としての適性は十分。問題は、そのタフなパワーがこちらに向いている事だ。  
「ちょっと、こら、見てないで、止めろぉ……」  
 元々がゲル状の物体であるため、既に水着の内側にまで浸透してきていた。  
 それどころか乳房の間に入り込み、上下に擦り合わせ始めている。  
 まだ本格的に愛撫と言うほどではないが、それでも羞恥を煽るには十分すぎた。  
「えーと、そのー……も、もうちょっと動作確認をしたいと言いますか、そのー……」  
「十分確認できてるでしょうが!? あ、ちょ、待って、何か変……」  
 何時の間にか埋まっていた腰の周辺が、ぷるぷると蠢き始めた。  
 水着の中に入り込み、下腹部の敏感な部分をゆっくりと摩擦し始める。  
 指や舌で行うような愛撫ではなく、一切の隙間無く舐め取られるようなその刺激に、パナビアは寸でのところで出かかった声を飲み込んだ。  
「ちょ、ナノカ、ホント、止めて……」  
 初めて味わう刺激に、こぼれそうになる嬌声を堪えながら懇願する。  
 まるで神経を直接愛撫されているかのようなその刺激に必死で耐えるが、それほど経たずに絶頂に達する事は想像に難くなかった。  
 気付けば、両手足も拘束され、満遍なく愛撫されている。  
 これはまずい。早急に手を打たなければ、まずい事になる。主にプライド的に。  
「な、ナノカ、そ、そのー……」  
 と、別のところから声が上がる。余り余裕の無い頭でそちらに視線を向けてみれば、エリンシエが非常に微妙な表情を浮かべていた。  
「余のほう……っから、も、お願い、したい、のだが……ぁっ」  
 ……どうやらあちらも同じ状態に陥っているようだ。  
 白磁のような肌をほんのりと紅潮させ、何かを我慢するように眉根を寄せている。  
 よく見れば、彼女の下半身は既に海野田君とやらの中に埋没しており、ビットチップがゆるゆると周りを回遊している。  
 そのチップが、ゆるく開かれた彼女の脚の間を通るたびに、その小さな肩がひくりと動き、瞳がわずかに細められる。  
 悩ましげに漏れるエリンシエの吐息が、まるで自分の理性を削り取ろうとしてくるかのような錯覚を覚え、パナビアは必死で理性をかき集め始めた。  
 とりあえずまず、素数を数えよう。素数は1と自分以外では割る事の出来ない孤独な数字。自分に勇気を与えてくれる。出来れば早く止めて欲しい。  
「あ、う、うん。私も何だか、さっきから――」  
 微妙に顔を赤らめながら、ナノカはエリンシエの嘆願に頷いた。  
 よく見れば、彼女も下半身が埋没している。お前もか、ブルータス。早くしろ。お願いだから。  
 
「海野田君、そろそろスト――ひゃあぅっ!?」  
 制止の声を上げようとして、自らの嬌声に遮られる。  
 大きく背を反らし、今度こそ本当に、顔が赤く染まる。  
 よく見ると、彼女の肌を守っていたビキニの下部分がわずかにずらされ、その幼い割れ目が顔を覗かせていた。  
 ご丁寧に、ビットチップが列を成して、その部分を擦るように通過している。  
「な、ナノカ!?」  
「きゅ、急に、激し、くふぅ……っ!」  
 エリンシエの呼びかけに、余裕の無い様子でそう返す。  
 あ、だめ、折角我慢してたのに、そんな顔見たら――  
「――っ!」  
 急に下腹部を襲った快楽の波に、パナビアは自分の中の精神力を総動員して対抗した。  
 久しぶりの――それも、かなり大きめの絶頂に、声を漏らさなかったのは奇跡に近かった。  
 だが、海野田君の責めがそれで止む事は無かった。それどころか、とうとう自分の水着にまで手をかけ始めた。  
 いくら女同士、風呂に一緒に入ったような間柄とは言え、晒し者のようにされるのでは堪ったものではない。  
「こ、こら、脱がすな、ぁぅ……っ」  
「あ、だめ、せんぱいの、見たら、我慢できな……っ」  
「な、ナノカ、それは一体、どうい……ぅあっ、こら、そこはだめぇ……っ」  
 既に三人とも、声を堪える事も出来なくなってきていた。  
 エリンシエも水着の下腹部を外され、その幼い割れ目が晒されている。  
 普段はぴたりと閉じられているのであろうその部分が、圧迫され、わずかに開いたり閉じたりしている。  
 と、急にエリンシエが切羽詰った様子で口を開いた。  
「うぁ、だめ、来るっ、何か来るぅ……っ!」  
「わ、私も、私ももう、だめぇ……っ!」  
「ふ、くぅ……ま、また、ぅあはぁっ!?」  
 エリンシエの限界に合わせるように、ナノカとパナビアもまた限界を迎えた。  
 揃って背を大きく反らし、上げられた嬌声が重なり合う。  
 同時に限界を迎えた三人は、やはり開放される事無く継続した責めを続けられた。  
「ひぁうっ!? ま、待て、まだ敏か――ひぅうっ!?」  
 こういった事に慣れていないであろう、エリンシエの声が、一際大きくバスルームに響いた。  
 
 もうだめだ、これ以上は、年長者の誇りと意地にかけてどうにかしなければ――  
 既に半分以上快楽に征服された頭の隅で、パナビアは思考を巡らせた。  
 明らかに残りの二人よりも強い責めなのに、その二人よりも余裕があるのは、普段からナノカに責められているからか――  
 正直素直に喜べないその結論に、今だけはとりあえず感謝しておいて、ナノカを見る。  
「ひぁ、だめ、そんなにしたら、またすぐイっちゃあぅっ!」  
 ……何時も責めだから、たまに責められると弱いのかー。  
 などと、かなりどうでもいい事が脳裏をよぎる。  
「て、言うか、こんな、考えられ、っくぅぅっ!」  
 三度目の絶頂を迎えながら、パナビアは誰にとも無く文句をぶつけた。  
 こんな状況で、冷静に物事など考えていられない。  
 こうなったら、手段など選んではいられない。後のことは後で考える!  
「フッケ――ぼぅっ!?」  
 自分の子供にも等しい機動兵を呼ぼうとして、半ばでそれは遮られた。  
 海野田君の伸ばした触手が、まるでパナビアの行動を遮るかのように、その口に入り込み塞いでいる。  
 そしてそのままぐにぐにと、男性のそれを押し込むように口内を蹂躙する――  
(ナノカのしかした事無いのに――!)  
 半ば錯乱しかかっているのか、かなり致命的な罵声を胸中で上げる。  
 幸いそれを発する口は塞がれているので、外に漏れる事は無かったが。  
「先輩っ!? って、ぅあ、お尻は弄っちゃだめ……っ!」  
 一瞬、ナノカがこちらを心配するように顔を上げたが、すぐにその責めに気を取られ、身体をよじる。  
 その光景に、口を犯すこいつを噛み切ってやろうと顎に力を込めるが、驚くほどの弾力で抵抗され、叶わなかった。  
(ああもう、ナノカの奴、強く造りすぎよ!)  
 それどころか、セーフティもまともに機能しないのでは、危険極まりない。  
 内蔵されているオリハルコンが妙な知識を貯えて、そういう方面に練度が上がるのも考え物だ。  
(結局、作り手の意思を反映してるって事じゃないの!?  
 ええいもう、あの脳内ピンク娘! どうせこれでまた何かヤラしいことでも考えてたんじゃ――)  
 胸中で罵倒しながら視線を向けると、当の本人は身をよじらせて喘ぎ声を漏らしていた。  
 
「ひぁ、だめっ、うみ、のだ、くっ……すと、ストップ、やめてぇっ!」  
『も゛も゛ぉう』  
 ナノカの必死の懇願に、よく分からないと言った様子(多分)で返事をしてくる。  
 命令の取捨選択も出来ない自律システムなど、欠陥品だ。どうせテスト用だからと、純度の低いオリハルコンでも使ったのだろうか。  
 いや、ナノカのことだから、そういうことは無いだろう。あれで妙なところにこだわりのある娘だ。そこに気を抜くとは思えない。  
 やはり、自律システムではなくプログラムに問題があると考えるべきだろう。  
 登録したプログラムの中に、こういった行動ルーチンが組み込まれていたとしか考えられない。  
 結論として――  
(どっちにしろこいつのせいかっ!)  
 育成もしていないオリハルコンに、急に特殊で複雑なプログラムを多数インプットすると、思考ルーチンのコンクリフト――衝突が起きる。  
 純度の高いオリハルコンならば、ある程度自分で――決して意図に沿った行動を取るとは限らないが――判断して、行動する。  
 が、市販されている通常レベルのオリハルコンであるならば、そういった場合、命令と行動ルーチンに齟齬が起きることがある。  
 機動兵が人や獣の形をしているのは、何も伊達や酔狂ではない。一つの身体に四肢という構造は、自律制御プログラムの安定性を考える上で、バランスの取れた形なのだ。  
(何を『止めろ』と言ってるのか分からないほど、制御容量が一杯になってる……!)  
 このままでは、内蔵されているバッテリーが切れるまで犯され続けるハメになりかねない。  
 ナノカは何時間もつと言っていた? 過剰稼動状態なら、どの程度その時間が縮まる?  
「な、何でも良いから、とめ、止めてっ。死ぬ、死んで、しま、あぅう……っ!?」  
 顔を涙やら涎やらでぐちゃぐちゃにしながら、エリンシエが懇願する。  
 そういった経験に乏しい彼女にしてみれば、この快楽地獄は拷問以外の何物でもないだろう。  
 大体、最近責められるのに慣れてきた自分でさえ、もうそろそろ思考を手放しそうなのだ。  
 駄目だ、もう何も考え――  
「ぅあ、ダメ、それは――!」  
 ナノカの、今までとは少し違う焦ったような声に、視線を向ける。  
 下腹部が開放され、しかし拘束されたままの脚が開かれ――まるで男根のようにそそり立った海野田君の一部が、聖域を犯そうと入り口をこじ開ける。  
「それは、先輩しか駄目ぇっ!」  
 その悲鳴を聞いた瞬間、パナビアの中で何かが音を立てて千切れ飛んだ。  
 渾身の力で口内を蹂躙する触手を噛み千切り、制御を失ったゲルを吐き飛ばしながら、喉が張り裂けんばかりに叫ぶ――  
「フッケバイィィィィンッ!」  
「ッガァァァァッ!」  
 浴室の壁を破壊しながら現れた鋼鉄の騎士の咆哮に、パナビアは絶対の意志を持って勅命を与える。  
「ツブせぇぇぇぇっ!」  
「イエス・サーッ!」  
 その命令に、フッケバインは主人の怒りと屈辱を晴らすべく、その拳を振り上げた――  
 
「……疲れた」  
 心底からの声と共に、ため息をつく。  
 暖かいコーヒーをゆっくりと飲み下しながら、パナビアは重い腰をとんとんと軽く叩いた。  
「……本当に死ぬかと思った……」  
 机に突っ伏しながらエリンシエがつぶやく。こちらはぐったりと倒れこみ、コーヒーカップには一口もつけていなかった。  
「うーん……完全にスクラップですよ、これは……」  
 稼動データだけは抜き出せそうかと結論付けて、ナノカは海野田君の破片を弄る手を止めた。  
 彼女達の後ろでは、先ほどまで八面六臂の活躍――と言っても一瞬で終わったのだが――を披露したフッケバインが、せっせと瓦礫を片付けていた。  
 どうにか海野田君の暴走を止め、きっちりと服を着替えた三人は、とりあえず落ち着こうとお茶の時間を取る事にした。  
 まあ、ティータイムと言いながら、出てきたのはコーヒーだったりするのだが。  
「本当なら、そのオリハルコンも叩き割りたいところなんだけれど」  
「あうぅ。稼動データだけ取って初期化するので、それだけはご勘弁を……」  
「分かってるわよ。私だって、新基軸のEテク兵器のデータを、みすみす世界から消したくないもの」  
 分子制御理論そのものは、空間停滞フィールドや太陽炉などの技術が存在している。  
 だが、このレベルでの自在制御理論は、現在のEテクノロジーには存在せず、発掘品でもそんな話は聞いたことが無い。  
 存在するのであれば軍部が利用しないはずが無いので、恐らくは無いのだろう。そんなものを消すのは惜しすぎる。  
 まあ、存在しない理由は、今なら想像がつくのだが。  
「でも、自律思考プログラムと流体制御プログラムがバッティングするんじゃ、欠陥品よ。危なくて使えやしない」  
「うーん……一応、市販レベルでは最高純度のオリハルコンで、制御容量も余裕を持たせてたはずなんですけれど……  
 自律運動時の制御に必要な容量確保の見積もりが甘かったのかなぁ……でも、これ以上プログラムは簡略化できないし……」  
 要するに、こういうことである。  
 分子制御、特に不定形型の体を完全に制御するには、いかにオリハルコンといえども負担が大きいのだろう。  
 それをビットチップによるサポートでどうにかしようとしたのだろうが、それでもまだ見積もりが甘かったようだ。  
 何故あんな動きをしたのかは――恐らく、人体から発生する微弱な電気信号を受け取った結果だろう。詳しい追実験は出来ればしたくないが。  
「ふむ。専門的なことは余にはさっぱりなので、話にはついていけぬが……一つだけ質問がある。よいか?」  
「うん? 私で答えられることなら、何でも」  
 ナノカの返事に満足気に頷いて、エリンシエはようやくカップに口をつけた。苦いのか、少し顔をしかめる。  
「ナノカよ。先ほど『それは先輩しか駄目』とか言っておったな」  
「……ぎく」  
 その問いに、ナノカはあからさまに動揺した様子で口をつぐんだ。それに構わず、エリンシエは後を続ける。  
「他にも気になる発言があったが、どういうことか説明してくれぬか?  
 出来ればそう、トーネイド殿にもその席にはついてもらわねば……のぅ?」  
『え、ええとー……』  
 じとり、と、元女王の貫禄一杯な視線に貫かれ、二匹のカエルは絶望的な気持ちで顔を見合わせた。  
 

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