月が昇り、あなたはわたしの許に突然に現れた。あの城でしか逢えない筈なのに。  
―――何故此処にいる  
問うてみたい気持ちを抑える。答えなど最初から判りきっているのだから。  
 
あなたはゆっくりと歩み寄ってわたしの手を取り、唇を求めた。  
わたしがかすかに答えるとわたしの口のなかを堪能しはじめる。  
それは激しいが、どこか優しさのある愛撫。  
 
強い力がわたしを寝台に押し付けた。  
あなたはわたしを押し倒しても甘い口づけは止めない。  
会話するように求めて、答える。吐息を交換しあう。  
そして唇をそっと離した。  
 
唇の唾液をぬぐってやると、わたしの衣装に手をかけて  
纏っていた布をほどいていく。  
わたしも同じように手を伸ばして脱がせてあげた。はだけてみえた大きな胸。  
―――この胸に抱かれたかった。ずっと・・・  
衣擦れの音がしてわたしの素肌が夜の冷たい空気に晒された。  
隠すものなどない姿のわたしたちに月の光が妖しく照らす。  
濃い紫色を水で溶かしたような視界に、ぼんやりと光が迷い込んで  
あなたの表情が手にとるようにわかった。  
それは少し笑っているけれど、その中には悲しみが隠れていて。  
 
あなたの手がわたしの頬をつつんで、もう一方は胸を優しくもみだしていく。  
どこか嘘のような体温。いや、この全てが嘘なのかもしれない。  
嘘のようなものはわたしの胸の蕾を指で弄び、口に含む。くすぐったい快感。  
指がわたしの秘所に触れている。割れ目を舐めるようになぞるのを感じながら  
わたしはあなたの髪を透く。艶やかな長い髪。  
―――嘘でもいい。  
今はこの快感に身を委ねていたかった。  
 
秘所からあふれた蜜を確かめて、あなたはわたしに目を落とす。  
その優しさが嬉しくて少しだけ微笑むと  
あなたは小さな口付けを残してわたしのなかに入ってきた。  
熱くてかたいそれは一気に奥まで侵入してくる。  
「あっ、んぁ・・」  
身体が火照っていくのがわかる。規則的な律動がわたしを快楽の海へ落とした。  
律動の波に揺られながらあなたの瞳を見上げる。  
―――あなたは何処へ行って、わたしの許にはいられないのか。  
判っている。  
―――どうしてなにも言わない。  
判っているけれど。聞けない。声にならない。  
「ああっ、あっ、んあっ、はぁあん・・」  
―――漆黒の瞳に映る一筋の闇。どうか、そんな悲しい眼をしないで・・・  
波は速くなってゆく。わたしは快感に、海に溺れ堕ちてしまった。  
 
 
目覚めたら月は中空を過ぎていた。  
溶け込んだ紫は山の端からうっすらとかき消されている。  
世界は色づき、永い夜は終わってゆく。  
「夜叉王・・・」  
あなたはもういなかった。本当は最初から何処にもいなかったのかもしれない。  
さっきまでのことはやはり全て夢で、嘘だったのだ。  
―――しかし、  
この肌に残る微かなぬくもりは。愛しい感覚は。  
どちらにしても、あなたはもういないことなど判っているけれど。  
空を見上げても月の城はみえない。  
 
儚い幻の夜に涙が止まらなかった。  
 
 

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