眼前に広がった光景に、サクラは呆然とした。  
積み重なった幾多ものそれは、人であったはずの者達。今はただの肉塊と  
成り果て、辺りに死の匂いを充満させる。視界の端に写る肉と血の残滓は、  
吐き気を催すには充分な光景で、サクラは思わず口元を抑えた。あまりに  
無残な映像への嫌悪や不快感ではなく、胸を切り裂くどうしようもない痛みに。  
決して広域ではない辺境の小さな村で、けれど活気に賑わせる元気で気さく  
で人達の様子に、焦心なサクラも幾許か心を洗われていたのに。  
焼かれた家々。物言わなくなってしまった、優しく接してくれた村人達。  
サクラの胸に絶望と後悔の念が過ぎる。それは以前にも味わった。  
こんな、こんなことを、これをすべて、小狼君が―。  
 
じゃりっ、と砂石を踏む音に、サクラははっと背後を振り返った。目の当たりに  
した事柄に、今度こそ呼吸をするのも忘れる。  
「…っ」  
ずっと捜し求めていた者。もはや何を犠牲にしてでもその元に辿りついて  
みせると、仲間の元からも離れサクラの胸に痛諫な決心を抱かせた、痛切な  
までに焦がれていた相手。  
「小…狼、君…!」  
血に塗れた少年は、あげられた声に、惰気な様子で首を廻らせてみせた。  
その右手には、持ち主から引きちぎられた、人のものであったはずの、腕。  
あまりに壮絶なその姿が、このすべての惨状が目の前の少年の所業なのだと  
物語る。  
サクラはさらに息を呑んだが、ここで怯むわけにはいかなかった。諦める  
わけにはいかなかった。優しかったはずの少年。己の為にすべてを賭けて  
くれた少年。  
このすべてが己を起因としているならば、止めなくてはならない、もうこんな  
惨劇、これ以上―。  
「小狼君」  
ぴくりと、目の前に人物が反応した気がした。  
「小狼君」  
ぴくりと、また。その瞳には何一つ感情を宿していなかったが、確かに  
身体の方が、僅かながら揺れる。  
「小狼君」  
一歩、前へと踏み出す。さらに一歩。  
以前、共に旅をしていた、可愛らしい仲間が教えてくれた。心の記憶が  
なくとも、時には躯の記憶が覚えていることもあると。  
ならば己は、それに賭けるしかない。  
「小狼君…!」  
黙れとばかりに、精一杯に呼びかける少女の細い肩を掴んで、『小狼』と  
呼ばれた少年がその身体を所々ひび割れた硬い壁に押し付ける。  
「小狼君、お願い小狼君…!思い出して…!あなたはちゃんと心を持って  
いた!小狼君だけの心を、とても優しくて強い心を!お願い思い出して、  
小狼君!しゃおら…んんっ!」  
それ以上の言葉は、乱暴に合わせられた唇によって呑まれてしまった。  
サクラは咄嗟に目前の身体を引き離そうとするが、それより前に掴まれた  
両腕を壁にだんっ!と押し縫われてしまう。足掻くも腕は容赦なく捕縛されており、サクラの力ではびくともしない。  
「んん…ふ…!」  
唇の隙間から舌が進入してきて、サクラはびくりと身を竦ませた。  
 
 

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