フラッシュ。  
 
「プリメーラちゃん、良いねえ。もっと視線をこっちに頂戴。笑って」  
あたしはカメラに向けて笑いかけた。閃光。カメラマンはひっきりなしに  
喋り続ける。注文通り、ホットパンツの脚を軽く開き、腰に手を置いて振り返る。  
また光。  
焦がすような海辺の陽射しより眩しく、あたしは段々目が回りそうになる。  
 
「休憩です」  
クーラーを効かせたロケ車の中で、携帯のメールをチェックする。友達から  
メールが2件。笙悟君からはなし。  
送信者を見ただけでパネルを閉じた。薄暗い中でランプが明滅している。  
メイクさんが浮きかけた化粧を直してくれる。遠くであたしのマネージャと  
カメラマン、スタイリストさんが話をしている。  
 
――『プリメーラ、大人への扉を開ける夏』。  
 
聞かされた写真集のテーマが脳裏に蘇る。このままじゃ、扉を見つけられずに  
立ち竦む夏、になりそうでみんな困ってる。もう公式サイトでとっくに告知済み  
だから。  
笙悟君に写真集のテーマを聞かせた時の反応といえば、「お前にゃ無理だ」と  
呆れ顔の簡潔な一言だった。何よぅ、できるもん、と言い返したら、憎らしい  
彼は肩越しに手を振って「今からでも普通のにしてもらえ」と言った。  
普通のって何よ。どうせ、あたしのは買いも見もしないって言ってるくせに。  
ロケに出発する二日前のことだった。あれから一度も連絡はない。  
 
――ああ、笙悟君に逢いたい。  
 
話がまとまったらしく、マネージャとスタイリストさんが足早に戻ってきた。  
ヘアも衣装もメイクも変えて、撮影は再開した。  
 
「良いよ、プリメーラちゃん。ぐっと気分が乗ってるね。……もう一枚」  
ビキニ姿で白のテトラポットに馬乗りになって、あたしは大きく空を仰いだ。  
スプレーの霧なんて必要ない。汗の粒が胸の谷間を伝い落ちていく。  
テトラポットに触れている部分が火傷しそう。お腹の底にじわりと熱が溜まる。  
降りたら、あたしの座っていた形に水の痕が残っているかもしれない。特に熱い  
部分には、一層くっきりと色濃く。  
「はい、ポーズ変えて。良いね、さっきまでと全然違うよ」  
お尻の後ろに手を突いて体を支え、大きく開いた片脚を胸に付くほど折った。  
太腿の奥に隠れていた薄い生地にも陽が当たる。  
カメラマンの後ろでレフ板を持っていた若いアシスタントの男が息を呑んだ。  
だらしなく開いたその口元を眺めながら片方の肩紐をずらし、軽く腰を突き出す  
ように浮かせてレンズを見返した。胸の頂で、小さな突起が影を作っている。  
誰もが無言のまま、シャッター音が数度響いた。  
 
海の中で何枚か撮影した後、撮影場所を移動した。庭に木漏れ日が射す薄暗い  
小屋で、シルクのシーツ一枚を身に纏い、木の床に寝そべる。  
カメラマンの声に、時折蝉の鳴き声が混じる。  
「今度は俯せになって、頬杖を付いて。……はい、OK。次はこれね。赤い色  
好き? 好きなようにポーズしてみて」  
レンズが一瞬光を弾いた。みんながあたしを見ている。  
あたしはフローリングに仰向けになった。ひんやりとした床にすぐに体温が  
馴染む。胸の前で乳首が隠れるギリギリにシーツを掴み、布地の影で脚を  
そろそろと開いた。シーツが滑り落ち、軽く立てた両膝が露わになる。  
裸の太腿の間にシーツを挟み、下腹に渡された真っ赤な林檎を置いて、爪先で  
ピンと軽く布地を引いた。シーツから零れた片方のおっぱいを手で包み隠し、  
そっと脚を擦り合わせる。  
――この奥は、駄目。彼だけに見られたい。  
静寂の中の閃光。満ち足り溢れ出す蜜を感じ、あたしは火照った息を吐いた。  
(END)  
 

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