聞き慣れたチャイムが、すぐ近くで鳴っている。
朝食を買ったコンビニから出ると同時に、黒鋼はそれを聴いた。
その音は紛れも無く、黒鋼がこれから向かおうとしている、学校の始業の合図だった。
チャイムが響く中、黒鋼は特に焦りもせず、買ったばかりの朝食に手を付ける。
黒鋼にとっては、遅刻は日常茶飯事。
むしろ今日は早く学校に着ける位だ。
『…面倒くせぇ』
毎日そう思うが、授業に参加しなければならない。
以前まではサボリ放題だったため、そろそろ単位が危ないのだ。
留年などすれば、さらに面倒な事になる。
黒鋼は軽く舌打ちすると、食べ終えた朝食のゴミを捨てた。
そしてゆっくりと、学校への一本道を歩き出した。
黒鋼が校門の前に立った時、既に門はぴったりと閉められていた。
生徒はみな教室でHRを終える頃だろう、校舎や門の周辺には誰も居ない。
これも毎日の事で、黒鋼は別段動じなかった。
黒鋼は門に手を掛けると、そのがっしりとした体型からは想像も付かない程、軽々と門を乗り越えた。
難なく着地し、昇降口に向かおうとした、その時。
「くー、ろー、りんっ」
語尾にハートマークが付きそうな程に明るい声を、黒鋼は背後に聴いた。
振り向きたくは無いが、見逃してくれる程甘い相手では無い。
それは重々承知の上だった。
仕方なく振り向くと、そこにはやはり、風紀委員長であるファイが、にっこりと微笑んでいた。
「今回で20回連続遅刻の黒様、おはよー」
笑顔を崩さずに嫌味を言うファイが怖い。
黒鋼は眉間に皺を寄せ、ファイを見る。
「……何で居んだ」
「風紀委員の仕事ですからー。遅刻者を見逃す訳ないよー」
ファイは見下ろす黒鋼の視線に動じもせず、やはり笑って答えた。
黒鋼が門を飛び越えた時、誰の気配も感じなかった。
ファイは黒鋼の遅刻を押さえるため、黒鋼に気付かれないよう潜んでいたという訳だ。
ファイとのやり取り――これも日常茶飯事に含まれている。
遅刻を取り締まるファイから、黒鋼は何とか上手く逃げようとするのだが、結局失敗に終わってしまう。
ファイがいつも一枚上手なのだ。
「てな訳で、黒たーん。20回連続遅刻の罰は、放課後のトイレ掃除ー」
「あぁ?んな事する訳ねぇだろ」
「あれー、そんな事言って良いのー?」
ファイはそう何かを含んだように言って、何時の間に持っていたのか、後ろ手から“ある物”を、黒鋼の前に差し出す。
それを見た瞬間、黒鋼は目を見開いて言葉にならなかった。
ファイが持っていたもの、それは、黒鋼にとって二つとない大事な物――黒鋼が部活で使用している竹刀だった。
「何でてめぇが持ってんだ!」
「いつも遅刻して朝練に来ない剣道部部長さんに困った部員さんが、“コレで部長の遅刻を直して下さい”って貸してくれたんだよー。」
「あいつら…ッ返せ!」
「おっとー」
竹刀を奪おうと勢い良く腕を伸ばした黒鋼を、ファイはひらりと交わす。
そしてファイは黒鋼に見せ付けるかの様に、竹刀を振る。
「さぁ、コレは人質ならぬモノジチ♪返して欲しかたらトイレ掃除頑張ってね、くーろぽん♪」
「…ックソ…!」
まんまとファイ(と剣道部員)の策に嵌った黒鋼。
そして、まずは遅刻届を書かせようと、ファイは黒鋼を職員室へと引っ張って行く。
「反省の一つとして、今日も書いて貰うよー、黒リーヌ」
「あだ名増やすんじゃねぇ!黒鋼だ!」
「…ったく」
そう苛立ちの独り言を洩らすと、黒鋼はデッキブラシを用具室に放り込んだ。
何で俺が、と思うと腹が立つが、大事な竹刀がかかっているため、ぐっと堪える。
しかし、黒鋼はたった今トイレ掃除を終えた。
竹刀を返して貰ったら、部員をビシバシ扱くつもりでいる。
『ただじゃおかねぇぞ、あいつら…』
まずは部員が嫌いな特訓メニューを10セットだ、と、黒鋼は部長らしい扱きを考えていた。
用具室のドアを乱暴に閉めると、ふと、ファイの事を思い出す。
“掃除ちゃんと真面目にしたか、チェックするからー。”
あの後そう言って、また放課後ー、とファイは教室に入って行った。
考えてみれば、いくら遅刻の罰だとしても、トイレ掃除などサボってしまえば良いのだ。
そもそも遅刻にしても、流石にファイが門に居ない、昼時などに登校すれば、ファイと会う事は無い。
しかし黒鋼は一時間目が始まる前、ファイが居るだろう時間のぎりぎりに登校する。
もしかすると、自分は――
冷静になってみた所で、黒鋼は我に返る。
『何訳わかんねぇ事考えてんだ俺』
黒鋼は一瞬浮かんだ考えを掻き消した。
掃除を終えてから、10分が経過した。
また放課後ー、と言った肝心のファイが、なかなか来ない。
トイレで人を待つというのも、何か嫌な気もする。
「…ちっ‥…人に掃除させといて何やってんだ」
黒鋼は凭れていた壁から体を起こし、ファイの教室まで行ってみる事にした。
黒鋼とファイ達の学年は、3階に教室がある。
最上階まで続く螺旋階段を上っていく途中、黒鋼は何処からか聴こえる話し声を耳にした。
「わーかったって、ファイ!」
男子生徒らしき声が、はっきりと届いた。
ファイ?あいつと話してんのか?
黒鋼は階段を上がりきると、はっとその場に立ち尽くした。
黒鋼の視界に飛び込んで来たのは、男子生徒と楽しそうに話すファイの姿だった。
「今日で19回目、今度遅刻したらトイレ掃除だよー」
「ハイハイ、風紀委員長サマー」
「しかもチェックするからー」
「マジかよ、勘弁」
笑っている。ファイが。
黒鋼には、そのファイの笑顔が、心からのものに見えた。
あんな笑顔、自分に向けられた事は無い。
いつも“風紀委員”の顔だ。
そして、今の会話は、風紀委員としての忠告だった様だ。
それも癪に触った。
ファイが遅刻を取り締まるのは自分だけではないと思い知らされてしまった。
何だ、これは。
酷く腹が立つ――!
黒鋼は拳をギリ、と握り締めた。
ファイがトイレに姿を現すと、そこに黒鋼は居なかった。
しかし、床は水を撒いたと示すかの様に濡れていて、綺麗になっていた。確かに掃除した様だ。
「黒様、帰ったのかなー…」
一目見ただけで、掃除を真面目にやったと分かったファイ。
ファイがチェックする前に黒鋼が帰ってしまったとしても、咎める理由が無い。
まぁ良いか、と思い、踵を返したその時。
「わっ」
ファイの目の前には、黒鋼が立っていた。
「い、居たんだー。びっくりしたー…」
黒鋼は何も言わない。
様子がおかしいと、ファイはすぐに気付いた。
「あ、遅くなってごめんねー…。遅刻する生徒は他にも居るから、注意してたんだー」
ファイのその言葉に、黒鋼は赤い目でファイを見詰めた。
何だかファイは怖くなる。
「黒様…?」
恐る恐る、黒鋼の顔を覗き込んだ。
その瞬間。
黒鋼はファイの腕をぐいっと引き、ずんずんと歩き出した。
「ねぇ、何処行くの?どうしたの?!」
それでも黒鋼は、歩き続けるだけだった。
黒鋼がファイを連れて来たのは、武道館だった。
剣道部部長である黒鋼はポケットから合鍵を出すと、武道館の扉をこじ開けた。
そしてまたファイの腕を強く引くと、ファイはよろける様に武道館の中へ引きずり込まれた。
ズ…ンと鈍い音を立て、重い扉は再び閉じられる。
黒鋼が中から鍵を掛けた時、カチャリという音がやけに耳に付いた。
それと同時に、ファイは流石にこの状況は不味いと思った。
しかし、もう遅かった――。
黒鋼がファイを連れ込んだのは、武道館内の部室だった。
黒鋼は安全マットの上に、ファイを突き飛ばす。
「…っ!」
掴まれ続けていた腕がやっと解かれたと思った矢先、すぐに黒鋼が覆い被さって来る。
驚きと戸惑いに、ファイの体は強張る。
黒鋼はファイの顔に近付き、ファイを見詰めた。
「…く、黒様…なに…?」
語尾が震える。
ファイが見た黒鋼の瞳は、狂気で赤く濡れている様に見えた。
くい、と顎を持ち上げたと同時に、黒鋼はファイの唇を奪った。
「ンっ?!」
突然の黒鋼の行動に、ファイは蒼い瞳を見開く。
キスをされている、と理解すると、押し退けようと黒鋼の胸板を叩く。
しかし黒鋼は気にも留めず、ファイの柔らかいそれに口付け続けた。
触れるだけのキスは僅かの間だけで、黒鋼はすぐにファイの唇を割り、舌をねじ込んだ。
「ん―ッ?!んぅ…っ」
舌の侵入に、ファイは驚く事しか出来ない。
黒鋼の舌はファイのものを捕らえ、温度を感じさせる。
激しいキスに、ファイの頭の奥はぼやけ始める。
「く、ろッ…‥ハ、…んッ!」
小さく息を吐くや否や、すぐに黒鋼に塞がれる。
角度を変え、巻き付く様な舌の動きは、ファイを軽い酸欠にさせるだけでは無かった。
体に沸き起こった感覚に、抵抗は目に見えて弱くなり、握る手にも力が入らない。
溢れる唾液はファイの口端を伝う。
それがどちらのものなのか分からない程に、二人は深く深く口付けていた。
唾液が立てる音さえも、ファイの熱を煽るだけだった。
長く深い口付けは段々と収まり、黒鋼がファイの唇から離れた時、二人の間には銀糸が弧を描いた。
肩で息をするファイは、潤んだ瞳で黒鋼を見詰めた。
「なんで…‥くろさま…‥」
力無いファイの問いに、黒鋼は漸く固い口を開いた。
「誰にでも同じなのかよ」
「え…?」
低い声で呟いた黒鋼に、思わずファイは尋ね返す。
「遅刻した奴全員に同じ事してんのかって聞いてんだ」
ファイは益々訳が分からない。
しかし黒鋼の機嫌が悪い様に思えるのは、自分の所為なのかも知れないと気付いた。
きちんと本当の言葉で言わなければ、とファイは心の中で思う。
「そうだけどー…それが仕事だし…」
至極当然の答えに、黒鋼は眉をしかめる。
「の割には、へらへら笑ってたな」
「…もしかして、先刻話してたとこ見てたのー…?」
鋭いファイは、段々黒鋼が言いたい事に気付き始めた。
しかしファイにとっては、黒鋼と他の遅刻する生徒を差別して接しているつもりは全く無い。
黒鋼の思い過ごしだ。
「黒様、何か勘違いしてるよ。別に――」
「気に入らねぇんだよ」
誤解を解こうとしたファイの言葉を、黒鋼は遮った。
「てめぇが取り締まんのは俺だけで良いんだよ」
不機嫌そうな声色だが、黒鋼の目は真剣で。
――それって、とファイが纏まらない思考で思った時、黒鋼は自分のネクタイを外した。
そしてファイの手首を掴むと、ファイの頭の上で纏め、ネクタイでぎっちりと縛り付けてしまった。
「ちょっ、黒様何して…!」
目にも止まらぬ早さに、ファイは為す術も無かった。
ファイの顔の両脇に、黒鋼は手を付く。
そして吐息が触れ合う程に顔を寄せると、黒鋼は低く囁いた。
「俺だけ見るようにしてやる」
ビリ、と服が裂ける音がした。
ファイのブラウスは黒鋼によって左右に引き裂かれ、ファイは驚く。
「や、黒様…ッ!」
下着が露わになり、ファイは羞恥に顔を赤らめた。
すぐに黒鋼はファイの白い首筋に唇を寄せる。
舌を這わされ、体はビクリと反応した。
「ぃやっ…やめ…!」
もがいてみたものの、手は拘束されている。
脚をばたつかせても、黒鋼の体に覆われているため無意味だった。
黒鋼にとっては小さな抵抗でしかない。
ゆっくりと舌は進み、ファイの首筋や鎖骨の辺りを舐め上げる。
その度にファイは反応してしまっていた。
数ヶ所を強く吸うと、ファイの白い首には赤い華が散らばる。
制服では隠しきれない様な場所に、黒鋼はわざと痕を付ける。
まるで自分のモノだという証のように。
黒鋼はふと、ファイの胸を覆う下着に手を掛ける。
それに瞬時に気付いたファイ。
「やだ、黒様ッ!」
ファイの制止も聞かず、黒鋼は下着をずり上げた。
形の良い白い乳房が現れ、その頂点では薄桃色の乳首が、上を向いて主張していた。
「…感じてんじゃねぇか」
「ッ!」
黒鋼の言葉に、ファイはかぁっと顔を益々赤らめる。
黒鋼は乳房に手を添えると、下から揉み上げた。
黒鋼の手でも包み込みきれない程、ファイのそれは大きい。
感触は柔らかく、手に吸い付いて来るかの様だ。
強く揉まれ、ファイは段々と息が上がる。
「くろ、さまっ…やめて、ゃ…ッ」
しかしまだ抗議の声は続く。
黒鋼は心の中で舌打ちした。
思い立った様に、黒鋼は乳首に舌を這わせる。
「ッあ!」
ファイは体を大きく震わせた。
黒鋼は乳首を啄む様にくわえ、強弱を付けて吸う。
左手はファイの右胸を掴み続ける。
「黒さ、ゃっ…ぁ、は…」
耐えない愛撫に、ファイの思考は溶け出していた。
ファイの体は敏感で、些細な事でも反応してしまう。
黒鋼が触れる度に、声を上げてしまっていた。
乳首は固さを増し、ファイも吐息を隠せなくなっていた。
ファイの乳房を弄びつつも、黒鋼は、ファイのすらりとした脚に手を伸ばす。
スカートは捲れ上がり、ファイの腿は半分も見えていた。
内腿に触れられ、ファイは脚を震わせる。
ゆっくりとスカートの中へと進む手に、ファイは息絶え絶えに言う。
「…ゃ、く…ろさまっ、ダメ…!」
細く、無駄な肉の付いていない太腿を撫で進み、辿り着いたそこ。
黒鋼はファイの脚を開かせると、その秘所を見詰めた。
視線を感じ、羞恥が一層増したファイは、途早に顔を背ける。
ファイの下着は、既に染みを作っていた。
ファイが快感を感じていたと分かると、黒鋼は僅かに口角を上げた。
「…濡れてんな」
そう言いながら、下着の上から指を這わせてみた。
「ァっ…!」
触れられただけで、ファイは高い声を上げる。
擦る様に撫で上げると、ファイは先刻よりも更に喘ぐ。
「ぁ、ん…!ッあぁ、は…っ」
黒鋼の指はぬめりを帯び始めた。
指を動かすとファイは喘ぎ、体を小刻みに震わせる。
乳房への愛撫よりも強い刺激に、ファイの腰は揺れる。
黒鋼は焦れると、下着のサイドに手を掛けた。
「脚上げろ」
「や、待っ――!」
下着を下げられると、ファイは声にもならず、息を詰めた。
黒鋼はファイの脚を折り、下着を半端に下ろす。
ファイの右足に引っ掛かった下着は酷く淫らに見え、黒鋼の欲を煽った。
黒鋼の目の前に晒されたファイの秘所は、充分な程に潤っていた。
愛液は溢れ、マットへと伝い落ちる。
ファイは恥ずかしさの余り、目を潤ませた。
黒鋼は、今度は直接秘所へ触れる。
「ッふ…!」
一際大きく震え、ファイは声を殺して快感を受け止めた。
下着の上からとは比べ物にならない程、そこは熱く、濡れていた。
肉壁は桃色をしていて、愛液で光っている。
黒鋼はすぐにでも掻き回してやりたいと思ったが、理性で堪えた。
そして柔らかな肉壁を掻き分け、指を中へ滑り込ませてみた。
――クチュ…
「ァあぁッ…!」
小さな水音と共に、ファイは体を反らす。
ファイの秘所は難なく黒鋼の指をくわえ込み、押し戻そうとする事なく受け入れた。
肉壁は黒鋼の指に絡み付き、擦られる度に蠢く。
指を引いたかと思うと、思いきり中へ入れられる。
そんな焦れったくも確実な愛撫に、ファイは快楽にのまれて行った。
いつの間にかファイから“嫌だ”とか“止めて欲しい”といった声が無くなっている事に、黒鋼は気付いた。
「イイのか?」
そう言いながら、黒鋼は指を増やす。
「はァっ、ぅンっ…、ぃ…ぃ…!」
途切れ途切れだが、確かにファイは肯定した。
黒鋼は初めて気を良くすると、更に指を増やし、中で動かした。
「ぁあぁ!くろさ…ッ」
既にファイの中には黒鋼の指が三本入っている。
指を捕らえる様に、ファイの肉壁は締め付ける。
黒鋼が指を動かす度に、クチュクチュと厭らしい音が鳴った。
指は不規則に動き、中のあらゆる箇所を犯す。
不意に、黒鋼の指が秘所の上を掠める。
「っひァッ…!」
それまでの快感を吹き飛ばしてしまうような感覚がファイを襲った。
ほんの一瞬だったが、何もかもを越える感じがした。
黒鋼はそのファイの反応を見逃さない。
「…ココか?」
確かにファイが大きく震えた部分を、黒鋼は集中的に責める。
「ぁあッ!ダメ、くろさまッ!!ァ、ゃッ…ぁああ!!」
下腹の辺りから沸き上がる感覚に、背筋をぞくぞくと何かが駆け上る。
ファイは大きく息を吐き、唾液を伝わせて喘ぐ。
限界が近い。
ファイの絶頂がそこまで来た時、黒鋼はピタリと指の動きを止めた。
目前だった絶頂は消えてしまう。
――もう少しで、イけたはずなのに。
ファイはぜぇぜぇと呼吸しながら、黒鋼を見た。
「…は、はァっ…‥くろ、さまッ…?なんで…‥」
黒鋼は片手で器用に、ファイの手を縛っていたネクタイを外す。
そしてファイの中に指を入れたまま、こう言った。
「イかせて欲しいか?」
その言葉に、ファイは息を呑む。
「このままじゃ強姦だからな」
ファイははっとした。
確かに、ファイは最初こそ嫌がっていた。
腕を無理矢理引かれ、武道館に連れ込まれた。
同意の上の行為ではない。
だからこそ、黒鋼は聞いているのだ。
「嫌なら俺を突き飛ばして出てけ。だが…‥」
「ンっ!」
クチュリ、とほんの僅か指を動かす。
絶頂寸前だったファイの体は、過敏に反応する。
「イきたいなら言え。…俺を求めろ」
低く、しかし甘く囁かれ、ファイの体はゾクリと痺れる。
答えは決まっているのに――。
ファイは自由になった手を、黒鋼の首に回した。
「ィきたぃ…っ、イかせて、くろさま…ッ!」
潤んだ目で、甘い声で懇願する。
ファイには、理性は残っていなかった。
あるのは、先の見えない快楽だけ。
既にファイは、黒鋼の手に墜ちていた。
黒鋼は少し驚いたように目を見開くと、「覚悟しろよ」と告げた。
黒鋼は中から指を引き抜くと、指に絡み付いた愛液を舐めとる。
体を動かし、黒鋼は体制を変える。
秘所に顔を寄せられ、ファイはまさか、と思った。
「くろさ…‥!」
「望み通りイかせてやる」
そう呟くや否や、黒鋼はファイの脚の間に顔を埋めた。
未だ濡れそぼる秘所に、黒鋼は舌を這わせた。
「ンぁあ!」
ファイはビクリと背を反らせる。
ファイは手で黒鋼の頭を押し退け様としたが、腰を掴まれていて無駄だった。
「ゃ、くろさま…!そんな、ッこと…!」
黒鋼はお構いなしに、秘所を舐め続ける。
その愛撫は、指がもたらす快感を遥かに越えていた。
さらに舌は中へ進み、ゆるゆると掻き回す。
信じられない程の快感に、またあの感覚が蘇る。
「ハっ、ぁ、アぁ、くろ、っさまァ…!」
黒鋼の舌の動きに合わせ、ファイは喘ぐ。
その声は矯声に近かった。
行き場の無い手は、マットを彷徨う。
尚も舌はファイの中を這うと、小さな突起が主張しているのを見付けた。
黒鋼はすかさず舌でつつく。
「ッあァ!」
一番敏感な肉芽に触れられ、ファイは目を見開く。
黒鋼は肉芽を突いたり、くわえたりと強弱をつけて責める。
ファイは頭を振って喘いだ。
「ンぁあ、ァ、ゃ、…だ、めッ、ぉかしッく…なる!」
「なっちまえ」
綺麗な金髪が乱れる。
紅潮した顔色と、絶え間ない矯声。
どれもが、その愛撫が余りに強い快感をもたらしていると示していた。
再度沸いた、あの感覚。
最早我慢の限界だ。
そして、ファイにとてつもなく大きな快感が襲う。
「ッも、だめ、ィく、イっちゃう、くろさまッ…!」
「イけよ」
一際大きく肉芽を吸い上げると、ファイは体を今まで以上に反らせた。
「ッぁあァァあア!!」
高く鳴くと、ファイの頭は真っ白になった。
ビクビクと体を震わせ、快感の余韻を残らせる。
溢れ出た愛液は、黒鋼の口元を濡らす。
それを舐めとると、黒鋼は口角を上げた。
「…イったな」
「ッふ、はっ…ハァ…」
整わない呼吸をしながら、ファイはくたりと力を抜いた。
目にはうっすらと涙が浮かび、青い目を潤ませていた。
黒鋼はファイの涙を指で拭うと、ファイの顔に近付いた。
「悦かったみてぇだな」
ファイは羞恥に口を小さく結ぶと、照れて顔を背ける。
「こっち見ろ」
「ッん…」
顎を掴み強引に顔を向けさせると、黒鋼は労る様なキスをファイに送った。
「!…くろさま…」
その優しいキスに驚き、ファイは黒鋼を見詰める。
しかし。
「悪かった」
黒鋼の口から発された言葉は、予想外だった。
ズキン、とファイの胸が痛む。
「何で、謝るのー…?」
謝罪の言葉なんて欲しくない。
何故こんな行為に至ったのかは分からないが、ファイだって自分から黒鋼を求めた。
それなのに。
今の優しいキスは、いたたまれなさにした事なのだろうか?
ファイが黒鋼を見詰めると、黒鋼は体を起こして立ち上がった。
そして自分のワイシャツを脱ぐと、ファイに被せる。
「それ着て帰れ。サイズ違ぇが…あとはブレザーか何かで誤魔化せ」
そう言って、黒鋼は背を向けた。
「黒様は?…辛いんじゃ…」
ここまで行為が進んだのだ、黒鋼は我慢の限界の筈。
それを口に出すのは恥ずかしいものがあったが、ファイは途早に尋ねた。
「最後までやっちまったら、それこそ強姦だろうが。…お前が、好きな奴としろ」
黒鋼の声は、消えそうな程小さかった。
ファイは、胸が押し潰されそうな感覚を覚えた。
「鍵、開けとくからな」
「黒様…!」
言い残して、黒鋼は部室を去った。
しんと静まった部室で、ファイは呆然とした。
そして、一筋の涙を流した。
――好きな奴と、だなんて。
黒鋼のワイシャツを握り締め、顔を埋めて泣いた。
「…黒様のバカ―…」
きっと、お互い抱く想いは同じなのに。
部室には、ファイの嗚咽が小さく響いていた。
――明日、彼はまた、遅刻して来るだろうか。