『行かないで』
その切なる願いさえも叶う事無く、誰よりも大切な貴方は私を置いて旅立ってしまった。
私が水の対価を取りに行くと決めてから数十分後。着替える為に与えられた部屋で、今までの旅の出来事、楽しかった思い出、取り戻した記憶の数を思い返していた。旅の記憶の中に必ず現れる貴方は、私にいつも優しい笑顔を向けてくれていた。
「小狼君‥」
どうして、私を置いて行ってしまったの?
漸く気付けたのに。貴方が何よりも大切だと。
与えられた運命は、とても残酷で。私は知らない間に涙を流していた。
「‥泣いているのか」
「‥っ!」
聞き慣れぬ声に驚き部屋の扉へ視線を移す。音を立てて閉じられた扉の前には、ファイと同じ蒼の瞳を持った神威の姿があった。