堅く閉ざされた扉。
その中に居るのは姫君だけ。
おれは扉に拳を着かせると、続けて二度叩いた。
「入っても良いか?」
中に届く様に少し声を張って問う。すぐに返事は無かったが代わりにゆっくりと扉が開き、姫が姿を現した。
「‥どうぞ」
「ありがとう」
柄に合わないかもしれないが、おれは口端を少し上げて礼を告げた。それでも姫は目を合わせようとしない。
おれが中に入ると姫は扉を閉め、動かぬ右足を重そうに引き摺りながらベッドへと向かう。少しふらつく体を支えると姫は何も言わずに何処か悲しげな表情をした。
「どうして、優しくするの?」
「さ‥姫」
「わたしは 貴方が求めている様な人じゃない‥」
「違う‥‥おれは‥!」
「優しくしないで」
己の服をきゅっと握り締め、唇を強く噛む姫。何を思っているのか。何を考えているのか。何を抱え込んでいるのか。
小狼は眉を僅かに寄せると徐に姫の体をベッドへと押し倒した──。
ベッドに押し付ける力の強さに姫は顔を歪める。覆い被さる者を退かそうと必死に身動きを取ろうとするが、それも敵わなかった。
「離して‥」
「いやだ。」
真っ直ぐに向けられる眼差しから顔を逸らす姫。さら、と流れる栗色の髪を片手で押さえると共に小狼は姫の顔を己の方へ向かせ唇に其れを重ねた。
大きく見開かれる翡翠の瞳。歯列をなぞるように口内へと舌を侵入させ、相手の其れに押し込むように絡ませては姫が苦しそうに瞼を強くつむる。
「んん‥っふ、ぁ‥!」
僅かな隙間から声が漏れる。頬を押さえる事によって自由になった姫の右手は小狼の胸板を押し返そうとしている。
時間が経つに連れて姫の抵抗も弱まり、その瞼は苦しさによって溢れ出た涙で濡れていた。漸く唇が離れると二人の間を銀色のような細い糸が伝い、ゆっくりと消えていった。
「あ‥‥しゃお、ら‥」
「‥さくら」
人差し指を曲げ目尻の涙を拭った後、額に唇を落としては色白い肌をした首筋に顔を埋める。唇を押し付け強く吸うようにして離すとそこには赤い痕がうっすらと残った。