───相模家城内某部屋  
 
「コタロウ、準備はできましたか?」  
「はい、シナオ姫。準備は先刻から万全です」  
「ご苦労さまです。では見せてもらえますか?」  
「はい、ただいまお運びいたします」  
 
そう言うとコタロウは部屋の奥から人の大きさほどもある物体を持ち運んできた。  
その物体をシナオの前にまで持ってくるとコタロウはそれを覆い隠していた布を剥ぎ取  
った。それを見たシナオの目が見開かれる。  
 
「……これは…………素晴らしい出来ですね、コタロウ」  
「はい、相模家の技術を総結集させて出来る限り精巧に作ったものです」  
 
少し興奮気に言葉を発するシナオとは対照的にコタロウの声はいたって平坦だった。  
 
「これなら申し分ありません。……早速今から始めたいと思います」  
「ですが、姫。人形とはいえ相手はあの剣士と同様の力量に設定してあります。もし姫  
に万一の事でもあれば───」  
「大丈夫です。そのくらいでなければ訓練になりませんから。それに私は”人形姫”で  
す。自動人形に遅れをとるようなヘマはしませんよ」  
「ならせめて後ろに控えさせてください。いつでも助けに入れるように」  
「コタロウ」  
「はっ!」  
「私の力量が、相模家次期当主の力量がそんなに心配ですか?」  
「い、いいえ。滅相もございません!」  
「なら下がっていてもらえますか?」  
「は、はい!」  
 
冷たい響きが混じったシナオの言葉を受けてコタロウは慌てて部屋を後にした。  
残されたシナオはコタロウが部屋を出て行くのを確認すると、ふぅ、と息をつき、  
 
「困ったものね、コタロウの心配症も」  
 
と独りごちる。  
シナオの目前にはヒビキを象った人形が置いてある。先日、葵の姫の一向と一戦交えた  
際シナオの心を打った張本人がヒビキである。その戦いで敗れたシナオは敗れた理由を  
「自身の心の弱さ」と銘打って今度再戦する時には勝てるようにと、部下たちにヒビキ  
人形を作らせたのである。まぁ、ウソではない。  
その戦いでヒビキに心を打たれただけでなく心を奪われてしまったのも事実。シナオは  
人形の出来具合に満足している。まさに本人の生き写しとも言える人形の顔を自身の顔  
を赤らめながらしばし見つめる。  
そしてシナオはヒビキ人形のスイッチを入れて自分と戦うように命令を入力する。  
ヒビキ人形の目が開く。相手であるシナオを視認すると腰の剣を抜き、構える。  
シナオも気を引き締め両手に獲物を携えて構える。  
 
「行きますよ、勇者様!今度は負けません!!」  
 
ベンベン  
 
───さて、ヒビキ人形と戦いを始めたシナオ姫。ヒビキ人形は相模家の人形技術を惜  
しげもなく使った最高傑作品。その力量は本人を凌駕するとかしないとか。  
先に仕掛けたのはシナオ姫。両手で獲物を扱うシナオ姫は手数の多さで勝負に挑みます。 
しかし、ヒビキ人形はこれをことごとくかわします。さすがは大和一の相模家の人形  
技術といったところでしょうか。  
そしてシナオ姫の一瞬の隙をついて、とうとうヒビキ人形がシナオ姫を捉えます。  
シナオ姫は降参の意思表示を見せますが……  
とあまり多くは語りますまい。  
シナオ姫はどうなってしまうのか。ヒビキ人形はどうしてしまうのか。  
だいたい想像はつきますが……  
それは見て確認することにしましょう。  
それでは第105章第3節「甘い糸」  
始まりと御座候。  
 
ベンベン  
 
「……っああ!!」  
 
最前まで目にも止まらぬ速さで繰り出されていたシナオの短剣を弾くとヒビキ人形は剣  
の切っ先をシナオの眉間にあてがう。軽い音を立てて短剣が床を転がった。雌雄を決す  
るのにかかった時間はわずか五分に満たない。  
シナオは一つ息を吐き、自嘲の笑みを浮かべる。  
 
「私もまだまだ未熟者ですね。参りました。降参です」  
 
そう言ってシナオは両手を挙げる。  
だが剣の切っ先は未だにシナオを捉えて動かない。  
 
「分からないのかしら?降参です。あなたの勝ちです。だから剣を収めてくれませんか?」  
 
シナオは先ほどよりも大きな声でヒビキ人形に向かって声を発する。が、俄然ヒビキ人  
形は剣を下ろす気配を見せない。  
───まさか、故障?  
シナオがそう思った直後、ヒビキ人形はすっと剣を下ろした。ほっとすると同時に胸を  
撫で下ろす。  
そして反省する。  
 
「やっぱり勇者様は私よりもはるかに強い。もっともっと精進する必要がありますね。  
……よし、もう一度勝負です勇者様!」  
 
拳を握り締めて意気込みながら再度勝負を挑むシナオを前にヒビキ人形は動く気配を見  
せない。  
そしてシナオは自身の異変に気付く。  
ふと視線を落とすと、あまり大きくない自分の乳房が露になっているではないか。  
先ほどヒビキ人形が剣を下ろしたのは剣を収めるためではなくシナオの衣服を切断する  
ことが目的だった。  
 
「き、きゃああぁぁぁ!!」  
 
とっさに両手で胸を隠してその場にしゃがんだシナオは「い、いったいどこを狙ってる  
のですか!?」と叫ぼうとしたがその叫びは口から発せられることはなかった。  
しゃがんだシナオの顎に手をあてたヒビキ人形が自身の唇で相手の唇を塞いだためだ。  
 
───!!!  
 
いきなりの事で目を白黒させていたシナオだが目の前にある顔がヒビキだということを  
再認識すると急に顔を紅潮させた。唇の感触は人形のような硬度ではなくまさしく人間  
のそれだった。  
 
(ゆ、勇者様……)  
 
もはやシナオにとって目の前のヒビキ人形は人形ではなくヒビキそのものだった。  
シナオはヒビキに対して恋心を抱いている。もはやこの接吻を拒む理由などどこにもな  
い。  
先刻まで戦闘によって昂ぶっていた気持ちはこの接吻によって全部違う方向───ヒビ  
キに注がれることになった。一旦注がれた気持ちは一方通行。逆流することを許さない。 
流れた気持ちの終着点はヒビキでありヒビキとの行為にある。  
もうシナオは止まらない。いや、止められないと言った方が正確か。  
シナオはさっきまで必死で胸を隠していた両手をヒビキ人形の身体に回した。胸を露出  
していることの羞恥心はどこか遠くの地に行ってしまったらしい。そして目を閉じヒビ  
キ人形の口内を舌でまさぐる。同時にヒビキ人形の舌もシナオの口内に侵入し、互いの  
舌は蛇のように絡み合いながら粘膜の感触を分け与え、甘い唾液の交換を幾度となく繰  
り返す。  
 
唇を離すと互いの唾液で形成された一筋の糸が互いの唇を結ぶ。  
シナオの顔はすっかり上気し、目はヒビキ人形を上目遣いで見つめたままトロンとして  
いる。一方、ヒビキ人形の方はあくまで人形。無機質な目がシナオを捉えただけだった  
。しかし、シナオの目はヒビキ人形を通り越してヒビキ本人の瞳を見つめているかのよ  
うだった。  
 
「勇者様……」  
 
シナオは上擦った声で囁きかけるがもちろん返答はない。  
 
「私は……シナオはもう、我慢できません!!」  
 
そう言うとシナオは、失礼します、とヒビキ人形の下半身を脱がし、一物をさらけ出す。これが本当に人形のものか?と目を疑いたくなるほど精巧な陰茎がそこにはあった。 
しかも怒張を含んだそれは天を仰いで堂々と屹立している。臭いまでが男性特有のものだ。  
シナオはそっと手を伸ばしそれに触れてみる。  
熱い。そして、  
────硬い。  
手で包むように軽く握ると、どくんどくん、と脈を打っているのが分かる。  
人形なのに陰茎が付いていて勃起もするとはどういうことか分からないが今のシナオに  
そんな些細なことは脳裏の片隅にもなかった。  
 
何かに駆り立てられるようにシナオは陰茎を唾液でいっぱいになっている口内に含んだ。口内で舌を巧みに動かし陰茎を刺激する。同時に口をすぼめてピストン運動を繰り返す。  
その度に部屋の中にちゅぱちゅぱという淫猥な音が響き渡る。  
すでに陰茎はシナオの唾液で全体がぬめぬめに光っている。  
およそ並大抵の男なら耐えられなくなったであろう、長寿族のテクニックを前にしても  
ヒビキ人形は抵抗するでもなくその無表情を変えることもしなかった。  
それでもシナオの暴走は止まらない。  
シナオの上半身は切り裂かれたため裸だったが下半身は未だに外気に晒されてはいなか  
った。自ら下半身の衣服を剥ぎ取る。シナオの白く細い足が露出する。普段は厚い服装  
のため確認することはできなかったがこうして裸身を見るとスレンダーで綺麗なプロポ  
ーションをしているのが分かる。そして自身の性器が露になる。今までの行為ですでに  
シナオの性器からは愛液が溢れ出すように滴り落ちていた。  
ヒビキ人形に馬乗りに跨るとシナオは秘部に陰茎をあてがった。どちらもシナオの体液  
によって十分に潤ってトロトロになっている。つまり準備は整っている。  
 
「勇者様……入れますからね」  
 
シナオが腰を少し下ろして秘部の入り口を確かめるように亀頭のほんの少しを入れる。  
微かな割れ目に亀頭の一部が吸い込まれる。それを確認すると何の躊躇いもなく一気に  
腰を下ろして陰茎の全てを飲み込む。  
 
「ひゃっっ!!……あ、ああぁぁぁ……ぁん」  
 
勢いよく挿入したために結合部で愛液が飛び散る。身体中を小刻みに震わせてシナオは  
ヒビキ(人形だが)と繋がれた喜びと快感に浸っていた。しかし余韻に浸っていたのも  
わずかな間だけだ。すぐにさらなる快感を目指し、シナオはヒビキ人形の上で腰を上下  
させて陰茎を何度も何度も膣奥へと導く。  
 
「す、すごい勇者さ……ま。あン、奥に当たってますぅ!!き……気持ち……っ、あん  
っ……良い……ッ!!」  
 
硬くなっている陰茎を柔らかく熱い肉壁がキツく締め上げる。  
膣奥に到達した陰茎で子宮口を直接刺激するようにシナオは腰を激しく動かす。陰茎が  
ざらついた膣内を擦る度に膣壁全体から体温よりも熱い液体が溢れてきて膣内とシナオ  
の心を満たす。  
 
顔は紅潮し、水平に伸びた長い耳は全体が真っ赤になり、口からは荒い呼吸が漏れてい  
る。全身が汗まみれになるのも気にせず一心不乱にリズム良く動く。  
それでもヒビキ人形は全く動かずに無表情な瞳をシナオに向けていただけだ。これでは  
ヒビキ人形の陰茎を使用したシナオの自慰行為ととれなくもない。確かに人形に性感が  
あるのかも怪しい部分ではあるので。  
そんな事は全く頭に無いシナオは自分に快感を与える行為に没頭している。  
 
「わ、私……も、もうダメぇ!!……っ……イ、イキそうです!!」  
 
全身を縮めるようにしてシナオは絶頂へのカウンダウンを開始した。  
今までよりも速く、いやらしく、そして力強く動く。ヒビキ人形は全く動いてくれない  
ので腰だけでなく全身を使って自らを到達点にまで運ばなければならないのだから。  
膣内がひくひくする。  
 
「あ、ああ!!…………って?あら?か、感触が……」  
 
今しもシナオが絶頂に達しようとした時ヒビキ人形の陰茎は見る間に小さくなっていく。 
しかし、射精した様子が感じられない。そもそも射精までできるのかどうかは疑問だ  
が。そしてヒビキ人形の瞳の光がプツンと糸を切ったように消えた。  
 
────ね、燃料……切れ……?  
 
ガーーーーーーーーーーン  
 
「あ、あともう少しでしたのに……」  
 
シナオは目に見えてショックを受けている。ヒビキ人形に跨ったまま両手をついてうな  
だれる。体勢としては先ほどと大して変わらないが違うのは小さくなった陰茎が濡れそ  
ぼっている膣口から出て、糸を引きながらだらんとしている所だ。  
 
「こ、こうなってしまっては自分で処理するしか他に方法はないのでしょうか……はぁ  
……」  
 
 
コタロウが遠慮がちに部屋に入ってくる。  
 
「失礼します。シナオ……姫?」  
「あぁ、コタロウ。この自動人形の燃料が切れてしまったのです。悪いけど後で補給し  
ておいてもらえますか?」  
 
すでに衣服も整え、先ほどまでの淫らな行為の余韻を微塵も感じさせない慇懃な態度で  
シナオはコタロウに対応した。  
 
「燃料切れ?」  
「はい。燃料切れです」  
「すごいじゃないですか、シナオ姫!!」  
「は?」  
「あの剣士を模した自動人形相手に燃料切れまで互角に戦うなんて!!」  
「え?」  
「勝敗は決まらなくてもシナオ姫の力は証明されたようなものです!!」  
「そ……そうですか?」  
「そうですとも!私でもあの人形相手にそこまでは戦えませんから!」  
「そ、そう」  
「我が相模家の未来は明るいですね!!」  
「それはちょっと言いすぎじゃ……」  
「次に葵の姫の一向に会った時はこてんぱんにしちゃいましょう!!」  
「…………」  
 
まさか負けた後に性行為に及んで燃料切れにさせたなんてとても言えない。  
勝手に持ち上げられて困ったシナオは聞きにくそうにコタロウに尋ねた。  
 
「と、ところでコタロウ。あの自動人形は何か特別な機能がついてるのですか?例えば  
……その…………く、く、口封じとか………う、受身が上手いとかマグロが好きとか…」  
「私にはちょっと分かりませんが中に埋め込まれている仙玉は神戸の商団から購入した  
ものらしいですよ」  
 
ベンベン  
 
───と、今回はここまで。  
さて、ヒビキ人形と互角に戦った(?)シナオ姫。  
来るべき再戦の時に向けて今日も一人で自動人形相手に訓練を繰り返しています。  
当初の目的をすっかり忘れている様子。  
相模家の未来はどうなるのか?シナオ姫の未来はどうなるのか?  
巡る消えない想いは淡い一夜にも似て候。  
次節「果てない夜」  
にてまたお会いを。  
 
ベンベン  
 

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