「さっきの、凄かったなぁ・・・。」  
その夜、私は宿の部屋でリカさんの「修理」を思い出していた。  
今までに見たことが無いようなリカさんの顔、初めて見た男の人の「武器」、その「修理」・・・。  
あの後また北鍛冶に戻ったものの、他の鍛冶屋さん達やリカさんばかり指名が入り、  
私は壁の花だった。  
・・・悔しい・・・。  
って、あれ? ・・・私、なんで悔しいんだろ・・・。  
胸の奥が熱くなってきた。  
鍛冶の腕前は皆と変わらないはずなのに。私だけ、誰からも何も頼まれない・・・。  
今日していた事といったら、ただ、見ていただけ。  
自分の無力感を知ったからかな。とても悔しい。  
涙が出てきた。  
どうして? 私だけ?  
そりゃリカさんみたいなおっぱいは無いし、体型だって小柄だし、  
18歳なのにそれ以下に見られる事が多いし、童顔だし・・・、  
男の人と、そういう事したことないし・・・。  
だからなの?  
だからだとしたら、それを克服する為に頑張ればいいってことよね。  
「悪い点はわかった方がいい。その方が直しやすい」って師匠も言ってたし。  
子犬みたいに泣いてる場合じゃ無いわ。こうしちゃいられない。  
私は師匠の青ルニックを無断拝借して作ったハルバードを持ち、覆面をして、夜の街に駆け出した。  
 
深夜のブリテイン。  
昼間の喧騒はどこへやら。たまに遠くの酒場から騒ぐ音が聞こえる他は、梟の鳴く音しか聞こえない。  
私は宿を出てまっすぐ北鍛冶に向かった。  
流石に深夜の北鍛冶には誰もいなかった。私は誰もいない事を確認してから、目立たない場所で  
ハイディングのスキルを使い、しゃがみこんで息を殺して待った。  
たまに酔っ払いや野良猫が通りかかる以外は、全く人通りが無い。  
それでも私は待った。  
待ちつづけた。  
小一時間もたっただろうか。  
遠くの方から馬の蹄のような音が聞こえてきた。  
男の人の声も聞こえる。こちらに向かってきてる!  
私は青いハルバードを握りなおし、興奮を胸に押しとどめて更に待った。  
やがて、闇に溶け込むような色の馬に乗った二人の男性が現れた。  
一人が馬を下りて、もう一人の男性に話し掛けた。  
「っと、流石にこの時間じゃ誰もいないか。」  
「だから言ったろ。明日の朝修理してもらえ、って。」  
「朝は寝てるから今じゃねえとダメなんだよ。ま、お見送りご苦労であった。」  
「ったく、リコールくらい覚えろよ・・・。」  
「覚えてるが?」  
「ハァ?!」  
「まあ、そこらへんの小言は明日聞く。お前は先に帰れ! 帰れ! シッシッ!」  
「・・・ナイトメアのエサにしてやる。」  
「ドラ狩りが日課の俺に言われても、脅しにはならんぞ。」  
「ちっ。じゃあな。」  
馬に乗った男性がリコールの呪文を詠唱し、姿を消した。  
もう一人の男性がアンビルの方まで歩いてくる。  
私は高鳴る鼓動を無理矢理押さえながら、その男性の顔を見ようとした。  
火の絶える事の無いフォージから漏れる炎が男性の顔を照らす。  
二枚目半!私的には合格!  
私は彼に悟られないようにしながら彼の後ろに回り、青ハルバードを彼の背中に向けた。  
「動かないで。」  
 
「二度ならず三度も後ろをとられるとは・・・今日は厄日だな。」  
「そのままゆっくり、こちらを向いて。」  
私の頭一つ分以上背の高い人だった。暗がりの中で、炎と月に照らされ、彼の顔がはっきりと見える。  
ハルバードを向けられているにも関わらず、落ち着き払ったまま彼は言った。  
「・・・人に刃物を向けるのは初めてか? 手が震えているぞ。」  
そう言うと、目にも止まらぬ速さで私のハルバードを掴み、自分の胸に切っ先を当てた。  
力には自信がある私が引っ張られ、思わず数歩たたらを踏む。  
「刺せるか? 新米。」  
「し、新米じゃない!」  
「嘘を吐け!」  
彼の怒号に一瞬たじろぐ。私、彼に圧倒されてる! 脇腹に冷たいものが流れるのがわかった。  
「視線が定まらず、落ち着きも感じられないその目つき、新米特有の目だ。人を切った事なんか無いんだろ。」  
「うっ・・・」  
確かに、私は今まで人どころか生き物すらその手にかけた事が無い。  
物心ついてから、ずっと鉱石を掘る日々だった。食事は宿で出されるものだけ。  
「ましてや、このトランメルで追いはぎをしようとは・・・」  
「追いはぎじゃない!!」  
精一杯の力を出して、彼に圧倒されきらないように反対の声をあげ、彼からハルバードを引き戻そうとした。  
・・・瞬間、首筋に硬いものが当たったような感触がして、私の意識は遠のいた。  
「人に刃物を向けた時点で、殺されても文句は言えないんだぜ?」  
その言葉が最後に聞こえた言葉だった。  
 
気が付くと、私は宿の自分の部屋にいた。  
「気が付いたか。」  
跳ね起きて、声の主を確かめる。さっきの男性だ。  
「まさか覆面の下が女の子だったとはね・・・。一体何の真似だ?」  
どうしてこの部屋に? と思った瞬間、彼が先に答えた。  
「ああ、悪いが荷物を改めさせてもらった。その時にここの鍵を見つけてね。」  
「・・・・・・。」  
「なんであんな真似をした?」  
私は、胸の奥から搾り出すような声で答えた。  
「・・りを・・」  
「ん?」  
「・・・「修理」を、したくて・・・」  
「・・・?」  
私は今日起きた事を全て話した。GM鍛冶屋になった事、「武器の修理」を間近で、初めて見た事。  
誰からも指名されなかった事、自分に自信が無い事・・・。  
「それで、押し掛け修理をしてとりあえず経験しちゃえば、自信がつくんじゃないかって思って・・・」  
私は何時の間にか涙を流しながら話していた。彼は静かに聞いていた。  
「で、俺がそのターゲットに選ばれた、と。」  
「はい。」  
彼はストールから立ち上がり、ベッドの端まで来ると、体を折って、私の目を見つめながら言った。  
「お嬢ちゃん。」  
「はい。」  
「処女か?」  
「・・・はい。」  
 
彼のアイスブルーの瞳が私をまっすぐに見つめる。ただ目を見られているだけなのに、恥ずかしさを感じる。  
「焦る事は無いんだ。今日がダメだったって、明日は必ず来る。」  
「明日じゃダメなんです!!」  
見つめられる事に耐えられず、私は彼に抱きついていた。  
「明日じゃ・・・ダメなんです・・・。」  
「どうして?」  
「・・・・・・今日を越えられる、自信が無いから・・・。」  
「・・・。」  
涙が溢れて、言葉を吐く事すら難しくなってきたが、力を振り絞り、彼の耳に囁いた。  
「・・・一人に・・・しないでください・・・。」  
この切なさを抱いたままじゃ、私はきっと今日を越えられない。  
彼を抱く腕に力が入る。  
「・・・わかった。」  
彼の腕が私の背中にまわる。強く、優しく抱きしめられる。  
「・・・。」  
「目、閉じて。」  
目を閉じると、唇に暖かいものが当たった。今までに無い、柔らかな気持ちに包まれた。  
 
明かりが消えた部屋に、私の息遣いが響く。  
彼の熱い舌が、私の頬を、首筋を撫でる。  
涙の後を拭うように、彼の舌が私の顔の上を動く。  
再び私の唇に彼の唇が合わせられ、私の中に彼の舌が入ってくる。  
歯の一本一本を撫で、上顎から下顎まで、舌の根元まで彼の舌が動く。  
舌が動くたびに、頭の中が熱くなってくる。  
もっと動いて欲しい、もっと彼を感じたい。そう思うようになってくる。  
彼の熱さを感じたい一心で、何とか自分の舌を彼の舌に絡める。  
舌で舌をくすぐられる、擦られるその感触に、私は興奮していた。  
彼の舌が私から離れると、私の舌と彼の舌の間に唾液で作られた糸が渡り、月明かりに輝いた。  
これが、キスってものなんだ・・・。  
「服、脱がすよ。」  
「あ、あの・・・」  
「?」  
「先に、私に脱がさせてください・・・。」  
今度は自分から彼に唇を重ね、彼のシャツのボタンを順に外していった。  
ブロンズの彫刻のようなたくましい胸が現れる。私は、リカさんがしていたように自分の手を彼の胸に這わせた。  
時々微妙な盛り上がりを感じる。  
「・・・傷、ですか・・・?」  
「ああ、勲章とも言うがね。」  
彼の体が熱い。  
私は、自分が感じるままに、彼の胸に舌を這わせた。熱い。  
彼の前に跪き、彼のタイブーツを脱がせ、ズボンのベルトを外し、ズボンを脱がせた。  
パンツの上からでも、彼の「武器」のふくらみがわかる。  
勢い良く天井を向いているそれをパンツの上から撫で、舐めまわした。布越しに熱さが伝わってくる。  
 
「・・・大きい・・・。」  
「怖いかい?」  
私は黙って首を振り、彼のパンツを下ろした。  
ワンドくらいある大きさの物が飛び出した。  
こんなに間近で見るのは初めてなのに、何故か私は恐怖心といった感情を全く感じていなかった。  
それがとてもいとおしく思えた。  
リカさんがしていた事を思い出しながら、それに口付けようとした時、彼から制止の手が下りてきた。  
「攻守交替だ。」  
彼は私をベッドに寝かせると、エプロンの紐を解き、シャツとキルトを脱がせ、下着だけにした。  
そのまま、ベッドの側に立って私の体を見つめる。  
「恥ずかしいです・・・」  
「どうして?」  
「胸も無いし、お尻も貧弱だし・・・」  
「それは君の個性だと思えばいい。引け目に感じることはないよ。」  
彼は私の上に覆い被さり、優しくキスをしてくれた。  
そのまま両手で、私の胸をブラの上から撫でまわす。  
「ひっ!」  
自分でも、痛いくらいに乳首が立っているのがわかる。  
ブラの上から触られても痛い。刺激が強すぎる。  
彼の右手が、私の下半身に伸びる。パンティの上から大事な部分を指でなぞられる。  
「う・・・うっ・・・」  
「無理しないで、声を出していいんだよ。」  
彼の中指がパンティの上を縦に鋭く動く。乾いた音が、やがて湿った音に変わってきた。  
私、濡れて来てるんだ・・・。  
恥ずかしさで頭の中が白くなってくる。  
私の様子を見ていた彼は、私の下着を脱がし、上になったまま再び私の体を見た。  
 
「可愛いよ・・・。」  
思わず両手で顔を隠す。私、今日初めて会った人に自分の裸を見られて・・・濡れてるんだ・・・。  
顔が赤くなっているのがわかる。恥ずかしい。  
熱さが移動しているのを感じて、彼の顔が私の胸に来ている事がわかった。  
ぬるぬるとした唾液と、私の汗が混じった感触の後に、彼の熱い舌が私の胸についた事を感じる。  
硬いはずなのに、羽毛でくすぐられるように滑らかに舌を感じる。  
「あっ・・・あっ・・・」  
彼の舌が動くたびに、声が漏れる。  
やがて、彼の舌が私の胸のてっぺんに置かれた。  
「くぅっ・・・いっ・・・」  
乳首に唇が付き、舌で巻かれる。痛いくらいに感じる。  
そのまま舌が乳首の右半分と左半分とを交互に擦る。それを感じながら、  
彼の手が私の大事なところに重ねられた事を知る。  
「随分濡れてるね・・・」  
「ぃっ・・・!恥ずかし・・・」  
顔を押さえる手に力がこもる。私、初めてなのに感じてる・・・。感じすぎてる!  
彼の指が、見えないけれど、恐らくはリュートを操るように動いている。  
初めてされる事に戸惑うしか無い私に、彼が声をかけてきた。  
「大丈夫かい?」  
「ぁ・・・わからない・・・けど・・・。」  
「けど?」  
「・・・けど・・・。」  
「・・・・・・。」  
「・・・もっと、してください。」  
彼は微笑むと、私の手をどけて、またキスをしてくれた。  
「君にも、してもらいたいな。俺は。」  
そう言うと、彼は私の上に、私の目の前に彼の武器が来るように覆い被さった。  
「これなら、君もやりやすいかな?」  
私はたどたどしく彼の武器に触り、先端にキスをした。  
硬くて、熱いそれは、一段と大きくなったような気がした。  
 
彼の顔が私の足の間に消え、舌が私のあそこにつく。  
「ひゃぅっ!」  
股間から頭の先に電撃が走る。たまらずのけぞるが、彼の胸と腹の間にぶつかって跳ね返る。  
彼の手が私の腰を押さえ、動かないようにする。しっかりと支えられる事に安心感を覚え、私はなんとか彼の武器を口に含もうとした。  
彼の舌があそこをつつく刺激に耐えながら、一つ気が付いた。  
「あの・・・」  
「ん?」  
「あの、大きすぎて、入りません・・・。」  
「・・・・・・。」  
「・・・・・・。」  
「無理は、しなくてもいいよ・・・。」  
そのまま、彼は私のあそこに舌を這わせた。私は度重なる衝撃に気を失わないようにしているのが精一杯だった。  
敏感な部分を唇で包まれた瞬間、何かが弾けたような気がして、力が抜けた。  
「イっちゃったようだね・・・。」  
朦朧とする意識の中、私は「これがイクって事なんだ・・・」と思っていた。  
「少し休もうか。」  
彼はそう言うと、私の隣に横になり、腕を枕にしてくれた。  
彼の腕に抱かれて、今までに無い安らぎを感じた。  
 
「あの、この後は・・・」  
恥ずかしさを極力感じないように、彼の胸に顔を埋めながら聞く。  
「やっぱり、入れる、んですか・・・?」  
「ん〜・・・。」  
しかし彼は考えていた。彼の武器は今にも獲物を襲わんと緊張し、硬直しているのに。  
私も、恥ずかしさと恐怖はあれども、私の体は充分に彼を受け入れられるのに。  
「・・・・・・。」  
「・・・・・・。」  
1分が10分にも1時間にも感じられる沈黙の後、彼は答えた。  
「やめとこう。」  
「えっ?」  
思わず彼の顔を見る。彼の顔は、今までの優しさを微塵も感じさせない、  
私が向けたハルバードを掴んだあの時と同じ顔をして、遠くを見ていた。  
戦士の顔を。戦う男の顔を。  
その顔を見られている事に気づいたのか、私の方を見ると、無理に笑顔を作って答えた。  
「いや、今日は、ってことさ。」  
「え、そんな・・・修理、させてください・・・。」  
自分の太くない太ももと、未だ潤っている股間で彼の武器を挟み、擦りつける。  
「ううっ・・・いや、しかし、今回は俺が君を修理したんだぜ?」  
「えっ?」  
「まだ寂しいか? 切ないか? 今日を越えられる自信が無いか?」  
「・・・・・・。」  
「それに、もう朝なんだぜ?」  
「あっ。」  
確かに、彼の言う通り、既に東の空には青みが入り始めていた。  
それに、肉体的な寂しさ・切なさは感じれども、絶望と言うには程遠い精神状態だった。  
「確かに君は魅力的だし、充分エッチだし、言う事は無いさ。だけど・・・」  
「だけど?」  
「俺にはやり残した事があってね。順番からいって、そっちを先に片付けなけりゃならない。」  
「・・・・・・。」  
 
「「修理」の本質は・・・ただ、体を癒す事じゃない。」  
彼は私を抱き寄せ、耳元で囁くように言った。  
「俺達根無し草の冒険者に、もう一度生きて帰ろうと思わせる事・・・、生に執着させると言うより、  
自分を待っている誰かが、必ずいると信じさせる事だ。」  
「・・・・・・。」  
「死んだところで、たかが幽霊になるだけだが、蘇生されて得た体は今までの自分の体じゃない。」  
彼は私を抱きなおし、続けた。  
「同じ体で、再び同じ安らぎを得たい。」  
「その安らぎの場を与えられる存在になれ・・・ってことですか?」  
「その通り。」  
彼は軽く笑うと、一度私を強く抱きしめた。  
「その為の道はいくらでもあるはずだ。君はそれを見つけられることを信じているよ。」  
彼に唇だけが触れるキスをされると、私は糸が切れたように緊張がほどけ、そのまま眠りに落ちた。  
 
目が覚めると、彼は身支度を整えているところだった。  
「起きたかい、お嬢ちゃん。」  
背中を向けたまま、彼が話し掛けて来た。  
漆黒のフルプレートに白いサーコートを身に付け、純白のマントを羽織った彼は誰が見ても  
死地に赴く戦士そのものだった。  
「やっぱり、行っちゃうんですか・・・?」  
「ああ。」  
私は裸のままベッドを降り、彼の背中に抱きついた。  
彼に行って欲しくなかった。  
「・・・・・・行かないでください。」  
「・・・・・・。」  
「・・・戦士の行うべき事は戦う事だってことは知ってます。でも、でも行かないで下さい!」  
「・・・・・・。」  
「・・・私、今はまだ鍛冶と採掘しかGMじゃないし、料理も下手糞だし、鍛冶以外何も  
出来ないけど、貴方の名前も知らないけど!」  
 
「・・・・・・。」  
彼は沈黙を崩さない。私は何時の間にか流れる涙を拭わずに叫んだ。  
「それでも、貴方が好きなんです。離れたくないんです!!」  
「・・・・・・。」  
「・・・・・・。」  
彼はこちらを向かないまま答えた。  
「・・・例え距離が遠くても・・・。」  
「・・・・・・。」  
「・・・同じ空の下に、俺はいる。」  
「・・・・・・。」  
「例え名を知らなくても、俺と言う男は、君の中にいる。」  
「・・・・・・。」  
「心配するな。俺は戦地に戻るんじゃない。君の元に帰る為に、  
ちょっと出かけてくる。それだけさ。」  
彼は壁に立てかけてあった青いハルバードを手に取ると、ドアに手をかけた。  
「こいつを借りていく。こいつに修理が必要になった時、俺は必ず君の元に帰る。」  
「・・・・・・。」  
「その時は、最後まで「修理」してもらうよ。」  
そして、彼はドアの向こうに消えた。  
 
それから半年の月日が流れた。  
私は北鍛冶に常駐しながらも、細工、裁縫、料理など、他のスキルを上げ、  
武具の修理を頼んでくれた戦士さんに、体以外のやり方でサービス出来るようにした。  
お弁当が意外にも好評で、ある程度固定客がついた。  
無理矢理「修理」を強要される事もあったが、その時は私を知る他のお客さんが  
助けてくれたり、強要してきた相手が赤いローブの警官に連行されたりした。  
リカさんは「タフガイが欲しい」と言って、派閥に入り、フェルッカで活躍しているらしい。  
時々連絡があるが、本物のタフガイを求めて四つの派閥をまわっているようだ。  
師匠は「神々の黄昏作戦の先兵として貢献する!」と言い残し、財産を私とリカさんに託し、  
ソーサリアからは姿を消した。  
私はその財産とバルクオーダーで得た報酬で、トラメルの森の中に小さいながらも家を買った。  
 
ある朝、家で朝食を取りながらBNNを聞いていると、ニュースでフェルッカのカオス神殿に  
「その強さは人間のそれではない」とうたわれた最強のPK集団全員の首と、  
「自分を含む全てを騙した」と名高い詐欺師の首が並べられたそうだ。  
キャスターはそれを行った者の善行と実力を褒め、ゲストコメンテーターは善悪のパワーバランスに  
影響が出ることを恐れていた。  
私は食器を片付け、北鍛冶に向かった。  
いつも通りの日常が終わったその夜。  
私は日課である鍛冶屋周辺のゴミ拾いを終え、フォージの側で温めたミルクを飲んでいた。  
今日はゴミが多く、時間がかかった為にミルクは温まりすぎていた。  
その時、遠くから聞き覚えのある蹄の音が聞こえてきた。  
暗闇でよく見えないが、闇に溶けるその馬はナイトメアだと知っていた。  
そして、二人の人間を乗せているナイトメアを見るのは、これが初めてではなかった。  
後ろの男が降り、ナイトメアの手綱を握る男と二言三言言葉を交わすと、男はこちらに近づいてきた。  
私は、ナイトサイトの呪文をかけていないにも関わらず、彼が何者だかわかっていた。  
闇に溶ける鎧。  
鈍く青く輝くハルバード。  
月明かりに色づくマント。  
そして懐かしいあの声。  
「こんばんわ。お嬢ちゃん。」  
「こんばんわ。」  
「修理を頼みたいんだが、こんな夜中でもいいかな?」  
私はミルクを置き、言った。  
「一晩では終わらないかもしれませんけど、それでもいいですか?」  
彼が答えた。  
「君が納得いくまで、思う存分やって欲しい。」  
私は彼の胸に飛び込み、長い口付けの後に言った。  
「・・・お帰りなさい。」  
「・・・ただいま。」  
今度の修理は、絶対に終わらせない事にした。  
終わらせて、やるもんですか!  
 

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