月曜日。一週間の労働が始まるこの日は多くのサラリーマン・学生にとって気の重い曜日である。
そしてそれを人一倍強く感じている少女がここにいた。
「白絹、今日の体育は体育館だって、行こう」
「うん…」
「ゆううつそうだね。やっぱり月曜だから?」
「うん、今日もアレの日だと思うと…」
「そんなに沈まないの。今日は私の番だし、シュポーの時みたいにしくじって白絹に回すなんてことないから安心しててよ」
「ありがとう、ヴィヴィアン」
「へへ…、それにしても今日は寒いね。トイレに寄っていこうよ」
「うん」
そんな二人の会話に三人目の人物が割り込んできた。
「大変ッス、大変ッス。出たッスよーっ!」
「来たか」というなかばあきらめの表情で白絹とヴィヴィアンはつぼみの手にした携帯テレビに目をやる。
テレビ画面の中では現場レポーターであり、白絹の姉でもある小春野繭が興奮気味にレポートしていた。
『ご覧下さい! 出現した怪獣は巨大なトカゲ型をしており、周囲を凍り付かせる特殊能力を持っています。
この怪獣は現在新宿通りを西に進み続け、ここに至る途中の麹町、四谷、新宿一丁目一帯を一面氷の世界へと変えてしまいました!』
画面から顔を上げた白絹が二人を見て言った。
「なんかいつもより凶悪そう…」
「ここから近いな、やけに冷えると思ったらこいつのせいか」
「新宿だったらすぐッスね」
「よし、みんな出動だ!」
「ラジャッス!」
どこからともなく現れたUFOマンに勢い良くつぼみが応えると三人の少女は学校を後にした。
JR新宿駅東口・伊勢丹デパートの屋上。
最近は屋上に出ることのできないデパートが多い中で、この歴史ある百貨店は屋上を客に開放している数少ないデパートである。
怪獣の出現によって人のいなくなったこの場所に白絹・つぼみ・UFOマン、そして全裸のヴィヴィアンの四人がいた。
「よし、ヴィヴィアン、イくぞ!」
「はいはい」
ヴィヴィアンが手にしたUFOバトンが天に向かって掲げられる。
バトンは光に包まれたかと思うと、その光がはじけヴィヴィアンの豊満な裸身にふりそそいだ。
粘りけのある白濁液と化した光は全身に広がっていき、体の表面を覆い尽くしていく。
そして彼女の体はグングン大きくなっていった。
「デュワッ!」
ズゥゥンッ!
真紅の巨大なヒーローが地響きを立てて大地に降り立った。
新宿駅東口・伊勢丹の真ん前にすっくと立つ身長33.6メートルの巨人。
彼女こそ人類の救世主、その名は―――
『アルティメットガール! アルティメットガールが現れました! 今回は巨乳、巨乳ですっ!』
『きょ・にゅ・うーーーっ!』
小春野・岡村コンビがテレビの前の視聴者に向けて絶叫する。
「巨乳、見ろ。あたり一面氷の世界だ。今回の敵は手強いぞ」
冷凍怪獣と対峙するヴィヴィアンの頭の中にUFOマンの緊張した声が響く。
「なあに、動きは鈍そうだ」
ベーシックなトカゲ型の怪獣は角のはえた頭を四谷方面、長い尾をJR新宿駅方面に向けて、さくらやメガネ総合館の前に居座っている。
そこに向かってヴィヴィアンが走り出した。
だがっ!
「ヴォオオオーーーーンッ!」
怪獣が低くうなり声を上げたかと思うと、ヴィヴィアンに向かってきた。
そして見かけからは想像もつかないようなジャンプ力で彼女に体当たりをしてくる。
「くっ!」
両者激突の結果、体重の差から後退したのはヴィヴィアンだった。
思わぬ不覚に彼女の端正な顔が歪む。
その時神経を逆撫でするようなざわめきがヴィヴィアンの耳に聞こえてきた。
「今日は巨乳だあ〜っ」
「巨乳〜、こっち向いてくれよ〜ぅ」
下を見るヴィヴィアン。
声の発生源は東京メトロの地上出入り口だった。
丸井シティ・新宿三越・伊勢丹……それらの建物の一角にある新宿三丁目駅の地上出入り口では何十人という
おたくっぽい男達が自分に向けてカメラをかまえている。
一応危なくなったらすぐに地下に潜るつもりなのだろうが、この凍えそうな気温の中、
こんな危険な場所に来るとは無謀と言うべきか、立派と言うべきか…
(ったく、人が危険を冒して戦っているのに、これだから男って奴は…)
「ヴィヴィアーン! 四つ足の上にあの首の短さじゃ後ろが死角になるはずッス」
屋上からつぼみがアドバイスを送る。
「よし!」
ヴィヴィアンはズンズンと地響きを立てて走り出す。
体が上下するのに合わせて豊かな胸が弾むように揺れた。
新宿三丁目の交差点を走り抜け、伊勢丹の前でジャンプ。
しなやかな巨体がさくらやメガネ総合館の前の怪獣の頭上を飛び越え、
紀伊國屋書店の向こうにあるビックカメラと丸井ブランド館の中間くらいの位置に着地した。
その衝撃で路上駐車してあった車が50cmほど宙に浮く。
ヴィヴィアンはすばやい動きで反転すると怪獣の背後から急襲した。
「尾をつかんでひっくり返すんだ。たいていの生物は腹が柔らかいし、コアも露出する!」
「おう!」
あと一歩で怪獣に手が届く所まで迫るヴィヴィアン。
ところが冷凍怪獣の舌が、カメレオンのように長く伸び、180度曲がって先端が後ろを向いた。
そしてそこから冷凍液が彼女めがけて噴射される。
「うわっ!」
あわてて飛びのいて距離をとるヴィヴィアン。
しかし一瞬とはいえ冷凍液を浴びた体の表面には薄い氷がはりついている。
「あぶなかった! よけるのが遅かったら氷の塊になっていたぞ」
「あの舌から出るやつで凍らせていたのか」
それを見ていた白絹が抗議の声をあげる。
「つぼみ! 後ろが死角じゃないじゃない」
「う〜、怪獣の能力を読み違えたッス」
一方ヴィヴィアン達は―――
「仕方がない、距離をとって慎重に相手の出方を見るんだ」
「うっ!」
ヴィヴィアンはUFOマンの言葉には答えず、何故か急に身震いした。
そしていきなり右手側にあるTSUTAYAの屋上にあった巨大な広告看板をつかんで引き抜く。
「ああっ、なんてことを! 故意に民間の建造物を破壊するなどヒーローにあるまじき行為だぞ」
「言ってる場合かッ!」
そう叫ぶとヴィヴィアンは看板の後ろに身を隠しながら怪獣に向かって突進を始めた。
もちろん怪獣は冷凍液を噴射して攻撃してくるが、看板が盾になってヴィヴィアンへのダメージはない。
「いける!」
その時怪獣の背中に連なってはえた七本の角が発光し、そこから七色の光がヴィヴィアンに向かって放たれた。
虹のような光線を直接受けた看板があっという間に赤くなって溶けだす。
「あちちちっ!」
あわててそれを手放すヴィヴィアン。
実況している繭たちが叫ぶ。
『ああーっ、盾代わりの看板が怪獣の発した虹色の光線を受けてドロドロに溶けてしまいました!』
『なんと、冷凍攻撃だけでなく熱線も使うとは!』
「どうしたんッスかね? 妙にヴィヴィアン焦ってるみたいッス」
「服が破れる時間を気にしているんだろうけど…、でもそれだけじゃないような…、あっ!」
考えをめぐらす白絹の脳裏に、あるヴィヴィアンの言葉がよみがえった。
「まさか……、ヴィヴィアン…」
そのころヴィヴィアンは苦戦を強いられていた。
今は怪獣と巨人はそれぞれの立ち位置を変え、ヴィヴィアンが四谷方面に立っている。
「また虹色の光線が来るぞ!」
「ちぃっ!」
ヴィヴィアンにかわされた熱線は虚しく背後のビルに当たり、周囲の氷を一瞬にして溶かして水に変えた。
「今度は冷凍液だ」
「しつこいって!」
これもまた、すばやい動きでかわすヴィヴィアン。
だがっ!
「うっ!」
「どうした? 巨乳」
「う、動けない…」
『アルティメットガールの動きが止まりました! どうしたんでしょう、岡村さん?』
『見て下さい! さっきの虹色の光線で氷が溶けてできた水が次の冷凍液で再び凍りましたが、
その時たなびいていた巨乳の髪の毛の先端が濡れた背後のビルに接触していたため、髪がビルに貼りついてしまったのです!
これでは巨乳は身動きできません!!』
岡村の解説した通り、氷によってヴィヴィアンの髪の毛がビルに貼りついていた。
「くっ! ビルの持ち主には悪いけど…」
ビルに向かってキックを入れるヴィヴィアンだったが…
「だめだ、この氷、シベリアの永久氷壁なみの堅さを持っている。二、三度くらいのキックではビクともしないぞ」
UFOマンが焦りの声をあげる。
「キシャアアアーーーッ!」
敵の動きが止まったのを見てとった怪獣が咆吼をあげてヴィヴィアンに迫ってきた。
『大変です! 動けなくなったアルティメットガールに向かって怪獣が冷凍液を噴射しはじめました!
右に左に体を動かしてよけるアルティメットガールですが、髪の長さの範囲でしか身動きできないのでは、いずれつかまってしまうでしょう』
かろうじてよけ続けるヴィヴィアンだったが液がかすったひじや脇腹が少しずつ凍っていく。
そのためただでさえ制限された体の動きがさらに鈍ってきた。
ヴィヴィアンが整った顔を歪めてつぶやく。
「うう……、もうガマンできない……」
それを見たつぼみがいぶかしんだ。
「変スよ? ピンチとはいえヴィヴィアンの辛そうな表情はただ事じゃないッスよ」
「ああ…、やっぱり!」
苦しむヴィヴィアンにUFOマンが決断を迫った。
「仕方がない、ビームで髪を焼き切るんだ」
「そんな……」
UFOマンの言葉を聞いたヴィヴィアンの脳裏に厳格な母の教えがよみがえった。
(イーデスカァ? ヴィヴィアン。髪ハ女ノ命デース。大和撫子タル者ドンナ事ガアッテモ決シテ、オロソカニシテハイケマセーン)
(母上…)
ヴィヴィアンが母の言葉の呪縛で動けなくなっている間にも冷凍怪獣の攻撃は熾烈さを増す。
冷凍液がヴィヴィアンの足下目がけて吐き出される。
右足、そして左足が凍りつき地面に縫いつけられたように一歩も動けなくなってしまった。
「くっ」
あわてて周囲を見回し盾に使えそうな物はないか探すが、手の届く範囲には何もない。
そうしている内に右手に冷凍液をあびて、ビルの外壁に貼りつけられたようになった。
苦し紛れに残った左手で闇雲にビルを叩いてみるが、しょせんは無駄なあがきでしかない。
とうとうその左手も凍らされ、ついにヴィヴィアンの四肢すべてが動かせなくなってしまった。
「くそぉ、ならビームで!」
こちらが飛び道具を持っていると知ったら敵は近寄ってこないだろう。
そう考え最後の切り札として残しておいたビームをやむなく放とうとするヴィヴィアン。
しかし彼女の意志に反してビームは発射されない。
「う……、おぉ……」
「どうしたんだっ UFOマン!」
「うう、実は「ひ(仮)の国」の出身である私は寒さには極端に弱いのだ。あぁ…、気が遠くなってきた…」
「冗談じゃない! しっかりしてくれよ!」
ここでUFOマンに意識をなくされたら万事休すである。
一方怪獣は数歩、後ろに下がると冷凍液を一点に集中させるのではなく、範囲を広げて噴射し始めた。
そのためヴィヴィアンの全身が凍り付き始める。
「う、うぐぁぁ……」
「冷たい」という次元を越えた苦痛に勝ち気な少女が苦悶の声をあげた。
豪華客船が氷山に衝突して沈没する大作映画の中で、主人公が凍った湖に落ちた体験を
「体中に何千本もナイフを突き立てられたようで息ができない」と表現する場面がある。
全身の肉や血液がシャーベットの様に凍っていく過程は、そのたとえ通り、体中を無数の剣で串刺しにされるような痛みをともなった。
しかもヴィヴィアンをさいなむ責め苦は肉体的な物だけではない。
「か、体が動かない……」
凍っていくヴィヴィアンの体は石と化したかのように固まっていった。
たとえロープで縛られても体をよじる事や、手首・足首・指などは動かせる。
しかし今の彼女はそれ以上の、指一本動かせないという状態にあった。
古い怪奇譚に死体を家の壁に埋めて隠す殺人者の話があるが、ヴィヴィアンは生きたまま氷の壁に埋め込まれるような恐怖にとらわれていた。
寒さと恐れで歯がカチカチと鳴った。
その上、三つ目の切迫した事態までもが彼女を襲っていた。
両足が無意識の内に内股になり、腰がガクガクと震え始める。
「ヴィヴィアン! このままじゃ…」
「どうしたんッスか? 白絹」
「実はあたしたち、ここへ来る前にトイレに行こうって言っていたの。でもこの騒ぎですませて来なくて……」
「ええーっ、じゃあ、ヴィヴィアンもしかして、今オシッコ、我慢してるんスかあ?」
「う、うん。戦い始めた時点ではそうでもなかったんだろうけど、この寒さできっと…」
あらためてつぼみが友人の巨体を見上げると、固く目をつむったヴィヴィアンが全身を小刻みに震わせている。
さらに敵が抵抗する力を失ったと判断したのか、とどめをさそうと怪獣が近づいてきた。
あびせられるのは冷凍液か七色の虹の光線か、それとも鋭い牙で肉に食らいついてくるのか……
しかし予想に反して怪獣は急にぐるっと逆方向を向いた。
一拍おいて長い尾が遠心力でブンッとふられてくる。
尾は根本の部分でヴィヴィアンのウエストくらい、中程の部分でさえ彼女の太ももの太さくらいはある。
その尾の一撃がヴィヴィアンのへそのあたりに叩き込まれた。
「ぐはっ!」
それはまるで野球のホームランバッターがフルスイングしたバットを、腹に打ち込まれたかのような重い衝撃だった。
メガトン級のボディブローをくらってヴィヴィアンの意識が一瞬、飛んだ。
「ああっ……」
背筋をそらせたヴィヴィアンの体がブルブルッと二、三回震えたかと思うと、彼女の口から短い悲鳴がもれる。
ピッチリとしたスーツに包まれたヴィヴィアンの下半身になま暖かい感触がじんわりと広がっていった。
我慢できる量の限界を越えた尿がほんの一部ではあるが、一瞬の気持ちの隙をついて外へあふれ出したのだ。
それがなま暖かく感じたのもわずかな時間で、その感触はすぐに氷の冷たさに変わった。
おぞましさ、冷たさ、情けなさが混じり合った感情が少女の涙腺を刺激する。
だが泣くわけにはいかない。
まだスーツが破れてない以上、今の内に怪獣を倒してしまえば失禁の事を誰にも知られないまま戦いを終えることができる。
ヴィヴィアンがそう考えて戦意を取り戻した時にそれが始まったのは皮肉としか言いようがなかった。
『あっ、アルティメットガールの服が破け始めました!』
『う〜ん、破けるというよりヒビが入ってそこから割れていくという感じですね。
彼女たちのスーツは伸縮性の高い素材でできているようですが、極限の寒さで伸び縮みしなくなっているのでしょう』
岡村達の言葉通り、割れたスーツのかけらがボロボロと地面に落ちていく。
肩が、脇腹が、ふくらはぎが、次々にヴィヴィアンの白い肌が露出していった。
「そんな、このままじゃ……」
そしてついにスーツの股間の中央に縦に亀裂が走った。
まだひび割れただけなので恥部があらわになったわけではない。
しかし今、本格的な崩壊の時をむかえたら排泄された水は外に流れ出し、間違いなく何が起きたのか誰もが知ってしまう。
何があっても耐えなければ、しかし彼女の肉体はすでに精神でコントロールできる状態ではなくなっていた。
低くうなりながら冷凍怪獣がヴィヴィアンに近づいてきた。
(ま、まさか、またあのしっぽを叩きつけてくるんじゃ……、あんなのをもう一発くらったら絶対耐えられない…!)
最悪の事態を前にして、ヴィヴィアンの顔が苦悩に歪む。
そして恐れていた通り彼女に対して、再び尾の一撃が加えられた。
バシィィンッ!
「うぐ、あぁ!」
しかも一度目の攻撃を受けたのは腹だったが、今回は下腹部だった。
ヴィヴィアンの女の部分への容赦ない打撃。
その強烈な衝撃によって一瞬少女の意識が吹き飛んだ。
わずか一瞬、しかし崩壊寸前の忍耐が決壊するには充分な時間だった。
チョロ……
二、三滴しずくがこぼれ落ちた後……
「ああーーっ!」
ついに激しい勢いで本格的な排泄が始まった。
耐えきれる限界をはるかに越えてたまっていた水が一気に体の外へと噴き出す。
ヴィヴィアンに接近していた怪獣はそれをまともにあびてしまった。
「う、あぁ、いやあ〜、止まって、止まって…」
心が砕け散りそうなほどの恥辱。
その一方で苦痛から解放される快感。
あい反するそれらが一体となってヴィヴィアンの体をうち振るわせた。
もちろんこの光景は一部始終が全国にテレビ中継されている。
何万、何千万という人間がヴィヴィアンの失禁する姿に目をこらし、無数のDVDレコーダーやビデオデッキに痴態が録画されているのだ。
テレビの前で日本中の人間が自分の放尿している姿を見ている―――
その光景が彼女の頭をよぎり、勝ち気な少女の目から涙があふれてきた。
それでもなお黄金水は放物線を描いて勢い良く地面にほとばしり続けている。
10メートル以上の高さから、たとえでなく本当に滝の様にわずかに色のついた熱い水流が新宿通りの真ん中に降り注ぐ。
聞いている者が思わず赤面してしまうようなはしたない音があたりに響いた。
(あああ〜っ、いや、いやぁ! みんなが見てるのに、テレビ中継されてるのに、止まらない、止まらないよぉ〜っ)
地面に落ちたそれは泡を浮かべた大きな水たまりになり、さらにみるみる広がっていって池へと成長する。
そして道路の上を低い場所に向かって流れていった。
その一部は地下鉄の地上出入り口から中へと入っていき、カメラ小僧たちを押し流していく。
「ヴ、ヴィヴィアン……」
ビルの屋上から見ている白絹たちには巨大な友人が痴態を晒しているのを目の当たりにしてもどうすることもできない。
長かった放尿もようやく終わろうとしていた。
秘裂がヒクヒクと痙攣し、そのたびに体内に残った水分がチョロ、チョロ、と断続的にこぼれては内ももを伝っていく。
そして最後の一滴がしたたり落ちてやっと恥辱の時間が終わった。
しかし長すぎた忍耐によって体の機能が誤作動しているのだろうか、もう出す物を出し切ったというのに、
丸く口をあけた尿道口はなおも呼吸するように開閉をくりかえしていた。
周囲に静寂が戻る。
「ヴィヴィアン……」
白絹が心配そうにつぶやく。
だが氷の壁に貼り付けになったヴィヴィアンの瞳からは一切の感情が失われ、
涙に濡れた目をぼうぜんと見開いて、荒い息を吐くだけだった。
『あっ! 怪獣が何か苦しんでいる様です。岡村さん、一体どうしたというのでしょうか?』
巨大ヒーローの公然失禁という想像もしなかった事態を前にただ呆然と見ているだけだった繭が我に返ってレポートを再開した。
『むむ…、まさか、いや、間違いない。あの怪獣は…』
「水に弱いんスよ!」
「ええっ どういう事? つぼみ」
「あいつは水のある所では生きてはいけない、だから周囲の環境を自分が生存していくのに適した物に作り替えられるよう、
進化の過程で身につけたのがあの凍結能力なんス!」
『つまり巨乳のオシッ…水分をあびて体の組織が破壊されたため苦しんでいるのです』
『しかし、それなら怪獣は冷凍液でアルティメットガールの…水分を凍らせて身を守ろうとするのでは?』
「たぶん舌の先の冷凍液を噴射する部分に水分を浴びて、そこの器官がひどく傷ついて液が出せなくなったんッス!」
興奮気味にそう言うと、つぼみはヴィヴィアンに向かって声をかける。
「ヴィヴィアーン! 怪獣はもう冷凍液を吐けないッス!」
何千万という人間が直視し、さらにテレビで全国中継している中、失禁してしまったというショックで放心していたヴィヴィアンが
つぼみの声に反応してうつろな目をそちらに向ける。
すると彼女を心配そうに見つめる少女と目があった。
「!」
紅潮を通り越して蒼白になったヴィヴィアンの顔が再び真っ赤に染まる。
(見られた、見られた。あたしがもらす所を白絹に見られた! 白絹に、白絹に……)
下半身をびしょびしょに濡らしている彼女の体がガタガタと震える。
「見られた、白絹に、白絹に! ああぁ…、いやああぁぁぁーーーっ!!」
「う……、おおっ! MOEパワー、マックスだっ!」
ヴィヴィアンが鋭い悲鳴をあげた瞬間、その巨体がまばゆい光に包まれた。
全身から放出されたエネルギーによって彼女の体や周囲を固めていた分厚い氷に亀裂が入り、次々と砕け蒸発していく。
それを見た怪獣が本能的に敵の力が増したのを感じたのか、突然ヴィヴィアンに背を向けて、逆方向へ走り出した。
『ああっ、怪獣が逃げ出しました!』
しかし氷の拘束が解けたにもかかわらずヴィヴィアンは怪獣を追おうとはしない。
その場にしゃがみこみ、子供のようにただすすり泣くばかりだ。
「うう…、いやだよ…、こんなの、もう……」
「いかん! 怪獣の向かう先に白絹たちのいるビルがある。もし怪獣がぶつかったらビルなど粉々になるぞ!」
「!!」
意識を取り戻したUFOマンの言葉にヴィヴィアンの涙に濡れた目がはっと見開かれる。
そして次の瞬間、彼女ははじかれたように駆けだしていた。
「うわあっ! 白絹、怪獣がこっちへ向かって来るッス! あの勢いじゃこのビルにぶつかるッスよ!」
「そ、そんなぁ!」
その怪獣を止めようとヴィヴィアンが猛追する。
「奴にはまだ虹色の光線が残っている! 気をつけろ」
「かまうか!」
その言葉が終わらない内に怪獣の背中のツノが発光し、虹色の光線がヴィヴィアン目がけて発射される。
体をのけぞらせて紙一重でよけるヴィヴィアン。
しかし完全にはよけきれず、光線は長く伸びた髪の毛の先に当たる。
ロングヘアをたばねている髪留めが蒸発し、長い赤毛がざんばらに乱れて広がった。
しかしそれでも彼女は委細かまわず突っ込んでいく。
「跳び蹴りではあの尾のひと振りで叩き落とされる。しっぽをつかんで止めるんだ!」
「おおっ!」
猛ダッシュで怪獣に怪獣に追いついたヴィヴィアンは怪獣のしっぽに手をのばす。
巨大化している今の彼女でさえ丸太のように太く感じる尾の根本を両手でつかみ、ヴィヴィアンは渾身の力で引っ張った。
そして体を回転させ怪獣を逆方向に放り投げる。
巨大な獣の体が地響きを立てて吹っ飛んだ。
「よしっ、あお向けになったから背中の角から出る虹色の光線は使えない。コアも露出している。狙うなら今しかない!」
UFOマンの声にヴィヴィアンが応える。
「アルティメット・ビィィィィーーーームッ!!」
ヴィヴィアンの額から閃光がほとばしる。
狙いはたがうことなく、ビームがコアを貫いた。
「ヴオオオォォーーーーン!」
咆吼を轟かせながら光の粒となって怪獣は消滅していく。
その光の中心から七色の虹が出現し、大空にアーチを描いた。
『おおっ、冷凍怪獣の断末魔ですっ!』
そして、その虹も怪獣の体が消えるに従い徐々に薄くなり、やがて完全に見えなくなった。
そして一方―――
『あっ! アルティメットガールも消えていきます。彼女は一体、何者なのでしょうか?』
怪獣が起こした局地的な異常気象もおさまり、空を覆う暗雲が晴れて顔を出した夕日が新宿の街を赤く染めていた。
じきに避難した人々もやがて戻り、騒がしくも平凡な日常が帰ってくるだろう。
その新宿の一角、伊勢丹デパートの屋上に白絹達はいた。
そこでは人の大きさに戻った全裸のヴィヴィアンが体を丸めて泣きじゃくっている。
「見事なMOEパワーだったな、ヴィヴィアン。あんなことでマックスパワーが得られるならこれから毎回お漏らしを…、
痛っ、何をする、つぼみ!」
「無神経なセクハラオヤジはしばらくの間、ボクと一緒にあっちへ行ってるッス」
そう言ってつぼみはUFOマンのアンテナをつかんでその場から姿を消した。
残された白絹はヴィヴィアンをなぐさめようとするが、何と声をかけていいかわからない。
ためらう彼女にヴィヴィアンから話しかけてきた。
「白絹もあっち行って……」
「え?」
「あんな恥ずかしい所を見せた後の顔を白絹に見られたくない…」
「……」
固く握りしめたヴィヴィアンのこぶしを白絹の小さくて柔らかい手が包む。
「何て言っていいかわからないけど……、ありがとう、ヴィヴィアン」
「……」
「髪の毛、こげちゃったね。綺麗な髪なのに…」
「え……?」
白絹に言われてヴィヴィアンは初めてその事に気がついた。
自分の身が危機に陥った時でさえ心を縛っていた母の教えが白絹を助けようとした時には思い出しもしなかった。
そんな自分に驚いてヴィヴィアンは顔を上げた。
そして目の前にいる少女を見る。
白絹。
何と引き替えにしてもかまわないくらい大切な白絹。
彼女を守ることができたのだ。
白絹を見つめるヴィヴィアンの濡れた瞳に生気が戻ってくる。
「いいよ、白絹を守れたんだ…」
ようやく笑顔を見せたヴィヴィアンは白絹の差し出した服を身につける。
「ね、戦って疲れたでしょ。帰りに甘い物を食べていこうよ」
「そうだね、あたしアイスクリーム…はやめて今日は他のにしよう」
「うん、落ち込んでいても、おいしい物を食べて暖かいお風呂に入れば、けっこう気持ちが楽になるよ」
「白絹は単純だなぁ」
「むーっ、どーせ、そうですよーっ」
「お風呂か…、あたし一度日本の銭湯って行ってみたいんだけど…、もしよければ白絹つれていってくれないか?」
「あ、いいね、それ。って言ってもあたしも一回くらいしか行ったことないけど、行ってみよう」
「サンキュッ」
差し出された白絹の手をヴィヴィアンは握った。
つながれた手からぬくもりが伝わってくる。
それはつらい戦いがつけた心の傷を癒してくれる、不思議な力を持った暖かさだった。
―― 終わり ――