「辻合くん、仁菜のことずうっと待っててくれたんだってねv」
「え?」
「亜由ちゃんから聞いたよ〜!美少女伝説。ホント笑っちゃうよ〜」
学校からの帰り道。仁菜は嬉しさいっぱいという笑顔で話し出す。
あれから3年。実際は半年振りの再会だが、制服で会うのは本当に久しぶりだった。
「そんな風に噂になってたのか…。」
聞いた辻合が、一瞬赤くなりかけたがすぐ、冷静に事実を受けとると
「…それより」
言うなり、自分の右手を仁菜の頬へ向かわせ、真っ直ぐ見つめ始めた。
強くやさしく…。仁菜もそれに応えるかのようにエヘッとはにかむ。
止まった二人のところへふわりと柔らかい風が駆け抜ける。
「おかえり。」
「ありがとね!他のどんな子より仁菜を…えへへ・凄い幸せ者だなあ」
辻合の右手と仁菜の左手は繋がったまま、辻合は左手で器用に自分の家の鍵を開けた。
バタン、とドアを閉めながら
「当たり前だろ?お前だって凄いよ本当に3年で戻ってきてくれたんだから…」
「…それは、辻合くんのおかげ…。」
「今日はたくさん話そうな」
そう、お互い今まで積もり積もった話をする為に一緒に来たはずだった。
「俺の部屋、今ちょっと散らかってるけど勘弁な。
その辺適当に座っといて。今何か飲み物とか持ってくるから」
「あの、辻合くん…」
「ん?」
「…て…手、が……」
適当にその辺座れ、と言うのに反して、辻合はさっきから1ミリも手を離そうとしない。
「あ…ごめん!!」
瞬間、やっと仁菜を離す。
「じゃ急いで行ってくるから!!」
「うん?」
家の中で待たせることにどうしたんだろう、と仁菜は思った。しかもここは自分の部屋で
安全な場なのに…。同時にかなりの密室空間であることに意識がいくと、
急にさっきよりも胸の鼓動が高鳴っていくのを感じた。
バン!と、辻合は開けっぱなしで行ったドアを素早く閉めた。
仁菜がこの小さな部屋の空間で空いているスペースを見つけて座ったのは
邪魔にならないようベッドだった。そこでドアと向かいの窓を見ていたため、ちょうど
ガラスに映る、戻ってきた辻合に話かける。
「わ、速かったねー!」
「ああ。だって佐倉が、近くにいるんだ」
思わず出てしまった言葉に驚いたのは、仁菜も同じだった。
……二人の間に、静かな沈黙が訪れる。振りかえるタイミングを逃してしまった。
「………そんなに…不安に、…させてたの?」
覚悟を決めたように恐る恐る聞いてみる。やっと振りかえると、辻合はまだ黙っていた。
「…違うけど…」
恋人を目の前に、気が緩んだのか観念したように話し出した。
「な、なんか暗くなってきたね!電気つけよっ〜…ん!」
「んっ」
いきなり奪われた仁菜の唇。何度目だろう。