「やぁ…っ…。可児くん、ほんまもぅやめて…」
ここまで来て、やめられるか。俺は膝に乗せた理花を後ろから抱きしめて、
がっちり固定する。時折、素早く指で胸をまさぐって、緊張をほぐす事を忘れない。
子守りみたいな付き合いの、ママゴトみたいな発展。
初めから、身体の解放だけを狙った訳では、勿論なかった。
ゆっくりの理花の歩みに、とことん付き合うつもりでいた。
そして、月日を重ねた去年のクリスマス。
やっと越えた一線は、あまりにも、俺に愛しさを残して。
それが信じられないような、くすぐったいような、
ひと言で言うと、とても幸せな…そんな気持ちに、俺は満たされていた。
「こんな所で、嫌やって…」
今日は、久々のデートだった。それも、時間制限付きの。
俺は8時からの打ち合わせの為に、一哉と待ち合わせをしていて、
理花は大学の新年会の予定が入っていて…。
予め分かっていた事だったのに、その時限装置のような時間の区切りは、
理花の顔を見た途端に、もう別れを思う程の切なさを持って、俺に襲いかかって来ていた。
食事をしても、映画を見ても、今日は上の空だっただろう。
理花がしゅんとした様子を見せている事に気付いたのは、
日がとっぷりと暮れ、北風が頬を射る強さをもって吹き始めた頃だ。
「今日、つまらんかった?」
問われて、俺は否定する。
それでも誤解の解けない雰囲気の理花を、近くの公園へと誘った。
児童公園という雰囲気ではない、広場のような空間だ。
コンクリートのオブジェの前に、アーチ型に設置されたベンチに腰を下ろす。
「座らへんの?」
「だって…冷たいやん」
理花のミニスカートから伸びた足が、目の前でうごめく。
「この寒いのに、そんなもん着て来るからや」
「な…っ!可児くんがこういうの好きやから…」
言いかけて、慌てた様子で口をつぐみ、背を向ける。
そりゃ、好きやけどな。
何でそこで素直に、もう一押し言えないんだろうか、こいつは。
その一言があれば、俺なんて単純に、簡単に、その手に堕ちるのに…。
意地っ張りは相変わらずの腕を取り、引っ張った。
支えを失った身体が空を切り、俺の膝の上へと乗り上げる。
衝撃に耐えながら、そっと腕を回して、そして……。
「誰かおったら…」
力なく抵抗しながらも、次第に理花の身体は、俺に吸い付くように添って来る。
遠慮なくコートに腕を潜り込ませ、セーターの上から胸を揉みしだいた。
知ってるんや。こうすれば、お前は絶対に逆らえないって。
うなじに唇を寄せて、髪の香りを吸い込む。
そんな俺の呼吸にすら敏感になって、理花の吐息が弾み出す。
「時間ないし…」
「まだあるやろ。ちゃんと間に合うようにしたるから」
急がなきゃ、とばかりに、俺は理花のミニスカートの裾を割り、右手を忍ばせる。
これから上がる声を思い、素早く周囲をチェックした。
大丈夫、誰もいない。そして、民家は離れている。
下着の上から指を這わせると、ピクリと反応が見られた。
敏感な部分を囲むようにゆっくり撫で回すと、恐らく理花自身も
気付かない行動であろう、徐々に身体が動き、横抱きに近い形になる。
勿論、右手を受け入れたような方向に、だ。
動かしやすくなった指で、悪戯を始める。
「ふぅ…っんん…。あかん…て…」
そんなん言いながら、なんやその受け入れ体制は?
何処までも素直じゃない身体を、虐めてやりたくなる。
耳に舌を這わせ、わざと口内で音を立ててみた。
下着越しの秘部は、まるで呼吸をしているかのように熱さを増しているのが分かる。
セーターの中にうまく入り込んだ指先は、今度は最後の砦である
ブラを跳ねのけようとしていた。
まだ柔らかな突起を起こすように、ゆっくりと撫で回す。
「はぁ…っ…」
さすがに外である事が気になるのか、理花の声はかろうじて俺の耳に届く程度だ。
でも、それが殊更に艶っぽくて…。
冷えた指が、理花の熱で溶けて行く。痛い程の熱さを、貪欲に求める。
本当に片手で数えられる程しか、俺達は交わっていない。
この先、いつまでも慣れないままでいそうな理花の初々しさが、
これほどまでに支配欲をくすぐるものだとは、思っていなかった。
全てを俺が教えて、仕立て上げられる女…。
それなのに、ふと我を忘れそうなこんな瞬間に、
溺れているのは俺の方だと、気付いてしまう。
別に、そんな好きじゃなかったんや。最初は。
少なくとも、未央ちゃん程の強さはなかった…。
でも、いつの間にか。
距離が測れない。
そんな存在になっていた。
「可児くん…?」
知らず知らずのうちに、手が止まっていたらしい。
理花の心配そうな表情が注がれていた。
あまりにも幼い表情に、俺は微笑むしかなかった。
少し短めにカットされた毛先に触れ、静かに愛おしむ。
「もっと伸ばしや」
「あんまり長いと、邪魔やし…」
「理花なら似合う」
聞き慣れないであろう言葉に、その頬が染まる。
その隙に、俺は愛撫を再開した。もう何も言わせん。
「あっ…」
顔中にキスの雨を降らせながら、右手で下着のステッチ部分を捲り上げた。
「…あっ…!」
そこは、ぷっくりした苺を頂点にジャムをぶちまけたかのように、たっぷりと濡れていた。
溺れそうな指先を操って、熟れた果実を目指す。
「ふぅ…んっ…」
その部分に到達した途端、理花は俺の首筋に顔を埋めた。
その髪の、服の、仄かな化粧の、匂い。
酔わすには充分。
滑り落ちそうな程濡れたそこに、俺は更に動きを早めた。
中指を奥へ忍ばせ、親指で刺激する。
「あっ、あ…あ…っ」
どんどん増す蜜と、主張を始めたように肥大した苺の実。
理花の唇に触れると、すぐに吸い付いて来た。
なぁ、お前も、本当はこうしたかったんやろ?
食事しながら、映画を見ながら、実は俺と抱き合う事ばかり、考えてたんやろ?
少なくとも、俺は。
どうしたら二人になれるか、もっと深くなれるか、
そんな事ばっかり考えてる。お前といると、狂わされる…。
「ん…あっ、あぁ――!」
稲妻に打たれように、理花の身体が走った。
ほとばしりを隠せなくなって、荒く呼吸を繰り返す。
力が入らない様子の身体を抱えて、壁に寄りかかる。
そして、手のつけようがない程に猛った自身を解放した。
「や…可児くん、まさか…」
「お前が誘惑するから、もう我慢出来へん」
ずるいな、と自分でも思う。
駆け引きにも甘い言葉にも、睦み事にも耐性のない理花から、
とことん抵抗する術を奪っているのだから。
今すぐ犯したい。でも、勿論それだけの気持ちじゃない。
未央ちゃんを好きだった俺を知ってる、理花。
本当は、今でも自信を無くす事があるらしい。
それは、他ならぬ未央ちゃんから、聞かされた。
俺の中で消えていないであろう「萩原未央」に、
ふと負けそうになると言ったという、理花。
それは、俺が未央ちゃんの中の一哉に負けたのと同じ、
あの果てしない絶望感の事だろう。
それに打ち勝てるなら…そんな気持ちで、きっと理花は俺を拒まない。
これからも、無理難題を受け入れ続けるだろう。
そして俺は、それに甘えて生きて行く。
100%独り占めにするだけじゃない、100%幸せにしたい。
純粋な気持ちの裏で、それぞれに、ずるさを覚えてしまっている。
抱く俺も、抱かれる理花も。
所詮独りぼっち同士だと、痛感する。
それでも。
今この瞬間にある慈しみは、愛しさは、本物だ。
「好きや」
つい洩れた言葉。
「…そう言うたら、あたしが抵抗出来へんと思って…」
違う。
「愛してる、理花」
自分の中に、自分の言葉が落ちて来る。
それは光の玉になって、一番奥の部分に溶ける…。
「…ほな、キスして」
いくらでも。
正面を向かせて身体を抱き、唇を重ねた。
舌を入れずに、ついばむように軽く、痛い程に深く。
やがて痺れを切らしたように、理花の舌が小さく舞い込んだが、
俺はすぐに唇を離し、それを交わしては、また口付ける。
「ん…っ。ねぇ…」
問いかけさえも遮って、唇を塞ぐ。
「どう…し…て…」
「ベロチューしてしもたら、俺は最後までするで?」
さて、俺は理花を気遣ってるのやら、罠にはめてるのやら…。
最早、自分でも分からない。
したい、でもしたくない。いや、させたくない。でもしたい。
男心かて、それなりに複雑なんや。
だが、世の中には番狂わせが付き物で…。
「あたしは…したい…」
はにかみながら呟いた理花に、俺の最後の理性は吹き飛んだ。
「ん…ふ…わっ……」
突然噛みついた唇と、絡み出す俺の舌に、溺れたように苦しむ理花。
自分で、信じられん。俺は、こんなに理花に惚れてる。
「可児…く…」
「黙って」
自身を、素早く秘所に当てがう。
寒風に荒みそうになりながら、ぬくもりを求めて進んだ。
普段なら、まだきつさを伴う理花の内だが、今日は随分と楽に飲み込まれた。
「あっ…!」
突然の深い貫きに、理花が高い声を上げる。
体勢的にはかなり辛いが、最早そんな事は気にならない。
「あ、あっ…ぁんっ…」
理花の足を支えて動くと、リズミカルな声が響いた。
「ね…可児くん…」
舌を噛みそうなタイミングで、何を聞こうと言うのか。
「本当…に、あたしだ…け?」
思わず笑いが浮かぶ。根本的に、信頼されてないのか?
確かに俺は女経験豊富だし、イチャ付いてる所を目撃された事もあるしな。
でも、心を焦がす程の本命がいる時に…手軽く遊べる程、性根は腐ってないつもりや。
「本当に…好き?」
まだ言うか。俺は理花の身体を前後に揺らし、罰を負わせるように、拡乱して行く。
「言わな分からんか?」
唇を重ねる。
とろけそうな苦痛に満ちた、理花の表情。
「はぁ…っ…。こんなん…嘘みたい…で…」
もたれるように、俺の首に回される腕。
段々と力の籠る指先を感じて、俺はふと、全ての動きを止めてみた。
「え…?」
上気した理花の頬と、不思議そうに見開かれる瞳。
わざと鋭い視線で、その顔を見つめる。
「信じてないやろ?」
繋がって、激しい刺激を加えられた下半身が、脈打っているのを感じる。
本当は、こんなやり取りしてる間もないっちゅーねん。
でも、伝えられる気持ちがあるなら…俺は欲望にも耐える。今なら。
「理花は…何が欲しいんや?」
「…自分でも、分からへん」
「俺は、理花からの愛の言葉が欲しいけどな」
頬を這う俺の唇が震えていると、お前は気付いてるのか?
どれだけ愛すればいい?どれだけ慈しめば、お前は分かってくれる?
まるで、激しい片想いみたいや。未央ちゃんの時以上の…。
本当の所、こんなに深く男のモノを喰わえ込んだ状態で、
今更問う方がルール違反だろうと思う自分もいる。
この腰を動かして、さっさと欲望に巻き込んでしまえば、
とりあえず終わる話…だとも、思っている。
でも、その後の理花の心に残るであろうしこりを思うと、
とてもじゃないが、そんな事は出来ない。
一時の欲に追い詰められて、一生分かも知れない想いを失う程、俺は愚かじゃない。