「可児くん、寝タバコ危ない。」
朝、生成り色のカーテンから差し込む光を浴びながら、
2人、ハダカのまま薄いシーツにくるまってる。
「ん?」
ゆらゆら上っていく煙をぼんやり眺めていた目線は、
私の方に向けられた。
「家燃えたー!ってなっても知らんよ。」
冗談めいたコトバに収は乗ってきて、
「えぇやん。死ぬ時は一緒やて。」
左腕をアタシの肩に回し、優しく頭を撫でた。
「…アタシまだ死にたないし…もっと可児くんと居たい。」
寝返り打って、収を見上げる。
何でやろ?
いつもこんな甘えたコトバ、自分には似合わへん思て、
よぉ使わへんのに。
…朝やし。寝ボケてんのカモ。
ちょっと深く息を吸ったら、収の汗の匂いの中に、
タバコの匂いが混ざった。
「…タバコ変えたん?」
呆けた様につぶやくと、
「…何で分かったん?」
笑いながら、訝しげに見つめてきたから、
「私、鼻めっちゃビンカンやねん。
…前の方がスキやったなぁ…美味しいん?今の。」
思いっきり見つめ返してやったのに、
「ん?吸ってみる?」
何の気ナシで返って来たから、
「イヤや、肺ガンになる。」
ちょっとムッとして、また寝返りを打った。
収はベッドサイドの灰皿にタバコを押し付けて、
「…タバコって『受動喫煙』言うんがあって、
吸ってる人が周りにおるだけで
肺ガンになってまうかも分からへんねんて。
…ホンマに死ぬ時一緒になるかもな。」
って、後ろから抱き締めて、耳元で囁くと、
今度は収の唾液と混ざったタバコの匂い。
…あ、コレならスキかも。
と思った瞬間、あるコト思い出した。
「可児くんっ!ちょっ、どいて!」
「んん?」
収をムリヤリどかして、顔をうずめたのは収の枕。
「あんなぁ、好き合ってる男女って、
最終的には匂いで惹かれ合うんやって。
アタシ、可児くんの枕の匂いが一番好きやねん。
可児くんの汗とか、タバコとか、香水とか、シャンプーとかの
匂いが全部つまってるやろ?
何か、めっちゃ安心すんねん…」
目を閉じると、収は今度は前から抱き締めて、あの時みたく髪を撫でて、鼻を頭に押し当てた。
「…理花もシャンプー変えたやろ?」
「…え?」
「俺は前の甘ったるぅ〜いカンジのが好きやってん。今のは何か…何かイヤや。」
「…しゃーないやん。安売りしとったんやもん。」
「俺はイヤや。…今日買いに行け。」
「何でよぉ?勿体無い。」
「俺が使たるから。」
「可児くんが?使うん?」
「理花がこの匂い発してんのはイヤやけど、別に自分が発してる分にはかまへん。」
「何やねん、それ……せやったら、可児くんもタバコ買い替えてよ。」
収の方に向き直って、反撃開始。
「はぁ?イヤや、勿体無い。」
「何その自分勝手。」
「せやかてシャンプーは代わりに使えるけど、理花タバコ吸われへんやん。さっき開けたばっかやし…」
「…今全部吸いぃや。」
「『イヤや、肺ガンになる。』」
変にアタシの口マネするんがムッとしたから、思いっきし膨れてると、収はタバコに火をつけて深く吸うと、
「…ホンマに一緒に肺ガンになって、死んでもらおか?」
ニッて笑って、唇奪った。
きっとこんなコト、タバコが無くなるまで繰り返されるんやろな。
可児くんの唾液とアタシの唾液と混ざったタバコの味は、
…結局どんな味でもスキなのかも。