浜辺を歩いていた夏音は、海からひとりの女が上がってくるのに気づいた。赤い髪をした  
その女はぶつぶつ何かをつぶやきながらこちらに近づいてくる。  
「見つけた……邪悪……」  
(また邪悪か!)初対面の相手にいきなり邪悪と言われて、たまらず切れかける夏音。  
 しかし何かリアクションするより早く、女は長い髪を振り乱して夏音に襲いかかった。  
「きゃあっ!」  
 全身を強くつかまれる感覚。女とは思えないとてつもない力だ。腕や脚を締め付けられ  
夏音の顔が苦痛にゆがむ。  
 それは髪の毛だった。信じがたいことに、女は自分の髪を幾重にも伸ばして巻きつかせ、  
夏音の体を拘束しているのだった。  
「何、これ……。たっ助けてぇ!」  
 かすれ声の叫びをあげる夏音。  
 少女のピンチに現れたのは天の助け、いや海の助け、マリンちゃん一行であった。  
「夏音ちゃん!」  
 マリンは豊満なバストを揺らしながら松本を見た。松本という名の亀である。  
「海の巫女に変身ね!」  
「いやっ」  
 しかし松本は、はやるマリンを押さえつけるような眼光で首を振った。  
「今はまだその時ではない!」  
「でも夏音ちゃんが」  
「耐えるのじゃ! 空の巫女よ!」  
「でも……」  
 
 そうこうしているうちにも女の髪はどんどん夏音の体に食い込んでゆく。  
(うぅ、生臭い……ヌルヌルするぅ……)  
 海から来たそいつは海に棲む生物そのものの臭いを放っており、しかもその髪は、絶えず  
ぬめる体液をにじみ出している。  
 触手のようにうごめく様は、タコが獲物を捕食するのに似ていた。  
「んひぃっ」  
 タコ女の触手が肌をすべるたび、そのおぞましい感触に夏音が声をもらす。健康的に  
日焼けした手足が粘液にまみれてキラキラ光っている。苦しいけれど、吸盤がこすれて  
ぞくぞく鳥肌がたつ。  
「邪悪……いただく……」  
 ふいに女が顔を近づけてきた。唇をめいっぱい突き出して吸いつくように、その目的地は  
夏音の唇である。  
「やっやだっ」  
 反射的に手を出して女の頭をつかむ夏音。  
「あんたレズ? 物には順序ってもんがあるでしょうがっ」  
 順序さえ守ればレズそのものにはあまり抵抗がないらしい。夏音はそのボーイッシュな  
容姿のせいで、女の子のほうから人気があるのだ。  
 しかしタコ女は夏音の言葉など聞く耳持たず、グイグイ唇を押し込んでくる。このままでは  
唇を奪われてしまうのも時間の問題である。  
(絶対やだ、やだ、やだあああああああ)  
 その時、一本の触手がするりと股間にすべりこんで夏音のしなやかな内ももを刺激した。  
「ひあ!」  
 ひんやり冷たい触手に驚いて手の力が抜け、次の瞬間、女の顔面が覆いかぶさってきた。  
「んむうっ!」  
「ちゅう〜…………」  
 女は触手以上にぬめる舌を夏音の口内に侵入させて、その黒い味を楽しんだ。舌と舌が  
絡まり合い、お互いを愛撫するようにヨダレを分泌させる。くちゅりと粘液のこすれ合う音が  
薄い唇の端からもれる。  
(あぁ……私の……ファーストキッス……)  
 少女の頬を伝う涙。元彼の顔が頭に浮かんで、やがて消えた。  
 
 一方マリンの方はというとまだゴタゴタと変身できずにいた。  
「夏音ちゃんが!」  
「待て! 今はその時ではないっ」  
「まだなの!?」  
「もう少し、もう少しだけ頼む!」  
 マリンは確信した、松本はただ単に少女の痴態を楽しみたいだけなのだ。彼の股間で  
年甲斐もなくいきり立っている子亀が何よりの証拠である。  
「私、もう我慢できない! 変身するから!」  
「まっ待つのじゃ、お願い」  
「――待ってお姉ちゃん!」  
「ウリン?」  
 建物の陰に隠れていた妹がピョコンと姿を現した。  
「セドナを起こしたのは私なの、私が全部悪いの!」  
「話はあとで聞くわ!」  
「待ってお姉ちゃん、私責任をとってまな板の上に乗るわ!」  
「ウリン! そんなこと言っちゃだめ、自分を責めないで!」  
「でも私がフタを開けなきゃこんなことには!」  
 大仰に騒ぎたてて時間稼ぎに徹するウリン。彼女的には、今ここで空の巫女に亡き者に  
なってもらったほうが都合がいい。お姉ちゃんのそばにいるのは自分だけで十分なのだ。  
「私のせいなの! 私が悪いの!」  
「ウリンは悪くない!」  
「そうじゃそうじゃ、ウリンが悪い!」  
 
 そうこうしているうちにもタコ女の捕食は完了しつつあった。  
 邪悪パワーをたっぷりと吸い取った女が満足げに唇を離すと、夏音の唇がさらなる行為を  
求めるようにそれに着いてきた。女はニヤリと笑うと、獲物の股間にある触手をもう一歩、  
奥へと進ませた。補給口は上の口だけではないのである。  
「ん、んっ」  
 夏音が反射的にきゅっと股を閉める。しかし、その抵抗力は長いキスによってすっかり  
失われていた。  
 今の夏音にはタコの生臭ささえ一種のフェロモン。女の本能を呼び覚ます甘美なにおいに  
感じられた。頭がいくら抵抗しても、体がよりいっそうの快感を求めるのである。  
 夏音の脚はゆるやかに脱力し、女の秘所へと触手を受け入れた。  
「あっ、あ……ふ、んんっ」  
 目を閉じ、小さな声をもらす夏音。その顔はすっかり上気している。触手の先端は下着を  
まさぐり、すぐに横から内部へと入っていった。  
「やっ……やだ、やだぁ」  
 やわ肉の谷間を直接こじ開けられて、さすがに抵抗する気が戻ったのかぶんぶん首を振る。  
しかしもう時すでに遅く、触手のたどり着いた夏音の肉穴はまだ幼い径をいじらしく広げて、  
それを迎えるための粘液を精いっぱい分泌させていた。  
「や……あ、あ! っう!」  
 キスの時の舌と同じ動きで、触手が夏音の液を嘗め取るようにこすりあげ、穴の奥へと  
侵入してゆく。  
「はっ、あ、あー……」  
 1ミリ進むごとに強烈な圧迫感と、ほんの少しの痛みと、背骨を貫くような快楽が夏音の  
全身を包む。開きっぱなしの口に他の触手が入り込み、再び口中を犯しにかかる。巫女の  
衣装はすっかりはだけられて、小ぶりな胸のななめ上を向いた乳首が吸盤にこすられ、  
チュウチュウ音をたてて吸いつかれている。  
「んぶっ! う、うぅぅ……!」  
 膣内を触手でいっぱいにされたところで、夏音は限界に達した。はじけるような感覚と  
ともに、目の前がまっ白になった。  
 
「夏音ちゃん!」  
 ここでようやくマリンが海の巫女へと変身した。背後を流れる魚たちが、夏音の破瓜の  
鮮血に染まり赤魚群となった。  
「海へお帰り!」  
 一瞬にしてタコ女は懐柔され元のタコへと姿を変えた。その頭をガシリとワシ掴みにする  
夏音。吹き出すオーラはもちろん邪悪だ。  
「よくもやってくれたわねぇ……」  
 
「――はーい、できたよー」  
「わあ、なにこれー?」  
 コロコロと並ぶ茶色い玉たちを前にして、マリンとウリンは目を輝かせた。  
「夏音特製タコ焼きよ、熱いから気ーつけてねぇ」  
「はふはふ、あつーい」  
「はふはふ、でもおいしいよお姉ちゃん!」  
「うん、おいしいね!」  
 満面の笑みの姉妹。ニヤリと笑う夏音。  
 巫女たちの戦いはまだ始まったばかりだ。  
 
(おわり)  
 

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