中井が去っていった後、俺はそよぎと一緒に室内を見て回ることにした。  
広く驕奢なリビングにはテレビ、テーブル、ソファ、マッサージチェアや小型の冷蔵庫などが置かれており、インターネット回線も引かれていて、ノートパソコンでも買っておけばいい暇潰しになるかもしれない。  
寝室にはキングサイズのダブルベッドがあり、これなら五人で並んで寝ることも可能だろう。他には六畳程の和室、部屋風呂、トイレ、脱衣所と言ったところだ。  
 一通り確認し終わってからリビングへと戻り、並んでソファに腰掛けると、俺はそよぎの肩を抱いて問い掛けた。  
「どうする? 海でも行くか?」  
「いや、まずは風呂に入りたい。その、できれば龍神と一緒に……」  
 そう言ってそよぎは静かに身を寄せてきた。船室で膣内射精してやってから後、態度は平素のものに戻っているが、今後のことでも考えているのか、頬は赤く染まったままだ。  
中井も気付いたろうが、特に何かを言ってくることはなかった。信者ならば巫女と一緒にいる男を不審に思う筈だが、そんな素振りもなかった点が若干腑に落ちない。  
「……もしかしたら知ってんのかな、中井さん。俺が龍神だってこと」  
「その可能性はあるだろう。家の近所の者も薄々は感づいているだろうしな。だが、正式な紹介がない以上、龍神として敬うことが出来かねているのではないか?」   
 そう言われて俺は自分の行動を思い返してみた。いつも巫女たちと一緒にいる以上、確かに近所の人間は気付いているのかもしれない。  
だが、学校でも共に過ごしているが、クラスの誰かから変な目で見られたことはないような気がする。  
「クラスの他の奴らも知ってると思うか?」  
「んん? それはどうだろう? 静江たちは感づいてないように思うが。単に転校生の世話を焼いているだけだ、とでも思っているのかもしれないな。  
火凛の家の隣に引っ越してきたということくらいは、噂で聞いているだろうし。まあ、私たちが同居していることまでは知らないと思うが。龍神は何か気になるのか?」  
「いや、俺は別に学校や近所でバレても構わねえんだけどさ。知ってんのか知らねえのか、はっきりと判んねえのが何か気持ち悪くてな。まあ、仕方ねえか。  
おばぁからも急いで周囲に明かすなって言われてるし。でもよ、生活に支障が出るからとかって聞いてたけど、そんな感じはしねえんだよな……」  
 言って俺が溜息を吐くと、そよぎは真剣な顔で目を覗き込んできた。  
「おばぁには口止めされていたのだが、龍神が不安ならば話そう。どうして急いで明かしてはマズいのかと言うとだな、本土には敵がいる」  
 
「敵?」  
 その言葉の物騒な響きに、俺は少しばかり肩を竦めた。  
「うむ。本土にある観光開発の会社がだな、本津島と奥津島を一大観光地にしようと画策しているらしい。  
だが、その為に土地の買収や借り上げなどをしようとしても、大半を所有しているのはおばぁだし、他の土地持ちは昔から信仰に熱心な者たちばかりだ。  
ならば、まず信仰をどうにか排除出来ないものかと考えてもおかしくはなかろう。仮に龍神が転生したということが知れ渡ったならば、明らかに敵対してくるだろう」  
「おい、ちょっと待て。それって俺が殺されるとか、そういう話か?」  
 背筋に冷たいものを感じて俺は狼狽えた。多少ならば寵愛以外の役目が増えてもいいが、命のやり取りになるのならば話は別だ。正直、勘弁して欲しい。  
「いや、そこまではしないと思う。何かしらの条件で龍神を籠絡させ、役目を放棄させればいいだけの話だ。転生した龍神が役目を捨てるならば、氏子たちも信仰に興味をなくすだろうしな。  
その対策として、おばぁは島の人間の入れ替えを試みているようだ。島に住むのが信用出来る者たちばかりならば、相手も下手な策は取れまい。まだその途中だが、今現在、奥津島は安全だ。  
この本島にはその観光会社の人間が二名いるが、常に監視させてある。問題ない」  
 そこまで聞いて俺は疑問を感じた。ヤエや他の大人の信者が話してくれたのならば判るが、何故そよぎがそこまで詳しく事情を知っているのか?   
「おい、どうしてお前がそんなこと知ってんだ? 雫や火凛も知ってんのか?」  
 俺がそう言うと、そよぎは心外だとでも言うように拗ねた顔をした。  
「忘れてしまったのか、竜神? 私は先の巫女の第二位、『守りを司る風の巫女』だ。竜神と信仰、そして島を守るのが私の役目だ。無論、このことは雫たちも知っている。  
雫はおばぁと共に全体の計画を立て、私はその障害への対策をし、火凛は信者たちの意見をまとめる。これが祭事以外の巫女の役目だ」  
 俺はしばらく唖然とした後、堪え切れずに笑った。皆が必要としているのは俺からの愛情ではなく、信仰の継続と島の繁栄だ。  
どうやら俺は四人の少女たちに肉体で取り込まれ、完全にその為の手駒にされていたらしい。  
敵対するかもしれない観光会社の件、そして実務的な計画の立案に三人の巫女が絡んでいる件、それらを伏せていたのがその証拠だ。  
四人に対する愛しさが募っていただけに我慢が出来ず、俺は笑い続けながら自分の荷物を手にすると、部屋の出口へと向かった。  
「どうしたんだ、竜神? 竜神っ?」  
「……二度と顔を見せんな。俺は東京へ帰る」  
 俺はそう告げて、引き留めようとしたそよぎの手を強く払った。  
 
 その後も追い続けてきたそよぎを無視して、俺は船着き場へと向かった。のどかな島に住む人間だから純朴なのだろう、と考えていたのが間違いだった。  
巫女もヤエも他の信者も観光会社も、皆、裏でコソコソと企んでいればいい。勝手な道理を掲げ、対抗し合って潰し合い、どちらも滅びてしまえばいい。  
 時刻表を確認すると、九州へ渡る船が出るまで四十分程の間があった。窓口で乗船券を購入し、それまで背後に立ち尽くしていたそよぎの脇を無言で擦り抜け、俺は桟橋を目指した。  
「待ってくれっ! 後藤君っ! 私の話を聞いてくれっ!」  
 そよぎは学校など他人のいる場所では俺のことを名字で呼ぶが、今さらそんなことを言われて待つ義理もない。周囲の人間が何事かと俺に好奇の目を向けてきたが、それさえもどうでもいい。  
ただ一刻も早く別の土地へ行きたいだけだ。九州で適当なホテルに泊まろうが、そのまま東京へ向かおうが、そのくらいならヤエから渡された金を使わなくてもオヤジからの仕送り分でどうにかなる。  
渡された通帳は自室に置きっ放しだし、カードは後で郵送でもしてやればいいだろう。学校も変わることになるが、特に未練もない。  
当面の住居がカプセルホテルやネットカフェになろうとも、東京で生活をやり直すことだけが俺の願いだ。  
「黙っていたのは済まなかったっ! 許してもらえないのならそれでもいいっ! けれど行かないでくれっ! 話だけでも聞いて欲しいっ!   
私たちがどうして黙っていたのか聞いて欲しいっ! 私だけでなくっ、みんなが必要としてるんだっ!」  
 その言葉を俺は鼻で笑った。だから何だ? 必要としているのは信仰と島を守る為の手駒だろうが。そんな役目を引き受けるつもりはない。  
大体、俺が龍神の生まれ変わりだとしても、特別な能力がある訳でもない。単に先代が死んだのと同じ日付に生まれたと言うだけの話だ。  
巫女だった人間から生まれたかどうかは別にして、単に同じ誕生日の人間なら他にも沢山いるだろうし、信者に嘘を吐いてでも新しい龍神役をどこからか探してくれば事は済む。それで双方万々歳じゃないか。  
以前ならば四人の少女を他の男に渡すのは絶対に嫌だったが、今となってはどうでもいい。  
無邪気な雫も、不器用なそよぎも、快活な火凛も、愛らしい凛音も全部くれてやる。田舎の島を取り合う合間に乳繰り合ってろ。  
「おい、兄ちゃん。いいのかよ? 彼女が泣いてんぜ?」  
 観光客らしい青年がニヤニヤと笑いながら声を掛けてきた。殴り飛ばしてやろうかとも思ったが、辛うじてその気持ちを抑えて睨み付けてやると、青年はたじろいだ顔をして後退って行った。  
俺も含めて、どいつもこいつも馬鹿ばっかりで嫌になる。  
「どうしても行ってしまうと言うのならっ! 私もここで役目を終えるっ!」  
 と、叫び声と共に大きな水音がし、嫌な予感がして振り返ってみると、そよぎの姿がなかった。  
周りの人々がざわめきながらすぐ傍の海面を指差しているところを見ると、服を着たまま海に飛び込んだらしい。わざとらしい行為だ。  
「……どうせ泳げんだろうが」  
 そう呟いては見たものの、波間は静まり返り、泳いだり息継ぎをしたりしている姿は見えない。俺は慌ててバッグを地に置き、海の中へと飛び込んだ。  
 
 他にも二人の男性が海に飛び込んで救助を手伝ってくれたおかげで、幸いなことにそよぎの命に別状はなかった。  
多少は海水を飲んだようだが、意識はしっかりとしており、眼鏡も紛失することなく顔に掛かったままだ。  
手を貸してくれた二人に礼を言うと、俺は自分の荷物を持ち、そよぎを背負ってホテルへと戻った。  
二人ともずぶ濡れだったが、フロントの人間にで文句を言われることもなく、中井はタオルを用意してくれた。  
 部屋に戻ってはみたものの、一緒に風呂場に入る気にはなれず、俺はそよぎと交代でシャワーを浴びることにした。  
互いに海水を洗い流してホテルの浴衣に着替えた後、俺はそよぎの向かいのソファに腰掛け、テーブルを挟んで問い掛けた。  
「……なんであんな馬鹿なことしたんだよ? 本当は泳げんだろ?」  
「確かに泳げるが、その為に海へ飛び込んだんじゃない。龍神がいなくなってしまうのなら、あのまま海に沈んでも構わないと思った。だから泳がなかった」  
 項垂れながらも、そよぎの言葉に迷いはなさそうだ。だが、だからと言って献身振りに愛しさが湧く訳もない。俺が海に飛び込んだのは単に人命救助の為だ。  
「で、どうして黙ってたのか言いてえんだろ? 言えよ」  
「聞いてくれるのかっ!」  
 そよぎは顔を上げて嬉しそうに見つめてきたが、俺は鼻を鳴らして視線を逸らした。  
「一応は聞いてやる。無駄にした船代ぐらいは納得いく話なんだろうな?」  
「納得いくかどうかは龍神次第だと思うが、取り敢えず聞いてくれ。まず、凛音は祭事を手伝ってくれているだけで何も知らない。だから凛音のことは許してやって欲しい」  
「ああ、判った。で?」  
「先程の話だが、例え口止めされていなくても、我々三人は龍神に告げなかったと思う。いらぬ心配をかけたり、怯えさせるようなことを言いたくなかった。  
龍神には島での生活を快く楽しんでもらいたかった。おばぁもそんな気持ちから我々に口止めをしたのだと思う。それでも話したのは私の独断だ。この件で責められるべきは私一人だ」  
「……誰を責めるとかの話じゃねえんだよ。お前らが龍神を必要としてんのは判ってる。島と信仰の為に御輿役が必要なだけなんだろ? 俺は降りるから他を探せ」  
「それは困るっ。確かに島と信仰の為には御輿役が必要だが、誰でもいいと言う訳じゃない。凛音も入れて四人、私たちはもう、龍神はあなたでなければダメなんだっ」  
 切羽詰まった様子のそよぎを眺め、俺は急に悲しくなってきた。信仰に洗脳された四人の少女を相手に、俺は愚かに浮かれていたに過ぎない。  
明確な愛情を抱き抱かれ、触れ合い続けていくことで幸福にさせ、自らも幸せになるのだとばかり思っていた。間抜けだ。  
「……俺さ、お前ら四人、すっげえ好きだったよ。ずっと五人で暮らしていきてえって心から思ってた。でもよ、凛音は別としても、悪いけどもう三人のことは信用出来そうにねえ。  
どっかで利用されてんじゃねえか、言葉は言い訳じゃねえかって、きっとこの先も考えちまうと思う。心配かけたくなかっただ? 隠し事をしてでも楽しませるってのがお前らの愛情表現なのかよ?   
そんな気持ちはいらねえ。だから、お前らの為にも他の人間を探してこいよ?」  
 自分が酷いことを言っているのは判る。駄々をこねているだけなのも理解している。けれどこれが俺の偽らざる本心だ。理性では抑え切れない程に感情だけが昂ぶり続けている。  
「……せめて、奥津島には住んでいてくれないだろうか? 龍神が嫌ならば我々は出て行ってもいい。だから、せめて……ひぐっ……くうっ……ひっ……ぐすっ……うううううっ!」  
 言いながらそよぎは涙をポロポロと零し始めたが、それでも俺に視線を向け続けている。俺は仕方なく腰を上げて荷物からタオルを取り出し、そよぎに放ってやった。  
 
 その後、俺とそよぎは奥津島へと向かう船に乗り込んだ。情に流された訳ではない。一旦自宅で荷物を纏めてから東京へ帰ろうと思っただけだ。  
そよぎを客席に残したまま俺はデッキに一人で立ち、夕刻の海を眺めながら少しだけ泣いた。  
 自宅の玄関ではいつも通りの様子で三人が出迎えてくれたが、俺は黙り込んだまま自室へと入ってドアに鍵を掛けた。  
火凛、雫、凛音と入れ替わりにノックをして声を掛けてきたが、答えもせずに俺は必要な品々をバッグに詰め込み、それが終わるとベッドに潜り込んで眠った。  
 翌朝、朝一番の船便に合わせて起き、バッグを手に階段を降りると、同居の四人とヤエが玄関で正座したまま待ち受けていた。  
「済まなかった、龍神。お前さんの気持ちも考えずに隠し事をしていたこと、誠に済まない」  
 そう言ってきたヤエに、俺は軽く頭を下げた。  
「いいですよ、もう。ああ、通帳とカードなら俺の部屋の机の上に置いてありますから。お世話になりました」  
「凪君っ、ごめんなさいっ。どんな形の償いでもしますからっ、行かないでくださいっ。巫女の役目とか関係なく大好きなんですっ。お願いっ、ずっと一緒にいてっ。お願いっ」  
「龍神っ、私も役目とか関係なく大好きだっ、行かないでくれっ、頼むっ」  
「ねえナギっ、冗談だよねっ? 行かないでよっ、私だって大好きなんだからっ。何でもするから行かないでっ。冗談だって言ってよっ、お願いだからっ」  
「ひぐっ……兄ぃ兄ぃ……ぐすっ……行っちゃヤダっ……ひぐっ……兄ぃ兄ぃ……」  
 凛音に釣られたのか、三人の巫女も涙を流し始め、俺も多少は胸が痛くなったが、気持ちは変わらない。だが、最後ぐらいは優しく対応してやりたい。  
俺は一人一人の泣き顔を見つめた後、穏やかな口調で言葉を掛けた。  
「皆にも世話になった。酷いこともしたけど、四人とも本当に好きだった。ありがとう」  
 俺がそう言うと、急に雫が泣きながら立ち上がった。  
「私っ、巫女の任を辞めさせて頂きますっ。だから凪君っ、もうただの鳴海雫ですからっ、お願いですっ、ここで暮らすのが嫌なら私も連れて行ってくださいっ、何でもしますからっ」  
「私も辞めさせて頂きますっ、龍神っ、いやっ、後藤君っ、私もずっと傍にっ」  
「私も辞めるっ、だからナギっ、私も一緒に行くっ、ずっと付いてくからっ」  
「うぐうっ……私もお手伝い辞めるぅ……ひんっ……兄ぃ兄ぃの傍にいるぅ……うえっ……」  
 四人の言葉に俺は困惑した。巫女を任期途中で辞めようとも、龍神役を降りる俺に愛情を向けてくれるらしい。引き留める手段じゃないかとの疑念を抱きながらも、その言葉を信じたいとも思う。  
「龍神ということが前提にはなっておったがの。この娘らにとっては、最初からお前さんありきなんじゃよ。信仰の継続だとか島の発展なんてものは、お前さんとより良く暮らしていく為の方策に過ぎん。  
末永く一緒にいたいが為に、私の思案に協力してくれとったんじゃ。お前さんが連れて行ってくれるのなら、全員をこの場で巫女の任から解いてもいい。信仰を捨てさせてもいい。  
お前さんはどうしたいんじゃ? 心からの謝罪として、可能な限り何でも望みを叶えよう。東京で一生涯遊んで暮らすもよし、世界を見て回るもよし、どうするね?」  
 ヤエの言葉を受けて、俺は自問自答してみた。何がしたい? どうしたい? もしも本当に俺に愛情を抱いてくれているのならば、この四人の少女をどうするべきか?  
「……少し考えてもいいですか? 火凛、部屋に戻るからコーヒー持ってきてくれるか?」  
 
 大きな問題点は二つだ。龍神を続けるか否か。四人に巫女を続けさせるか否か。ヤエの援助を受ければ、龍神と巫女を共に辞め、東京で遊び呆けて暮らすことも確かに可能だろう。  
しかし、竜神と巫女が揃って不在となったなら、信仰は廃れて島は観光地と化すかもしれない。母さんの思い出の岬にも柵が張り巡らされ、観光客の捨てたゴミなどが散乱する場所となってしまう恐れがある。  
別に俺が責任を持つ必要もないのだが、出来ればそんな事態は避けたい。となると、竜神及び巫女として今までと同じ生活をし、時にヤエの計画に参加して島を守っていくべきか。  
いや、それこそヤエの手駒となることを了承するようなものだ。だが、何故手駒じゃいけないのか。自分の意思が反映されないからか。単に仲間外れにされていたことが癪に障るのか。  
 一頻り自問自答しながら思い悩んでいると、ノックの音がした。入室を許可すると、コーヒーを頼んでおいた火凛だけでなく、他の三人も揃って部屋に入ってきた。  
「あのっ、凪君にどうしても、お話ししておきたいことがありまして」  
 火凛が俺の机の上にカップを置くのと同時に三人は床に正座し、後から火凛も加わった。  
「何だ?」  
「私たち四人、凪君が龍神様でなくても大好きです。凪君個人が大好きなんです。一緒にいられるのなら、どこにでも行きますし、何でもします」  
「例え龍神であることを辞めようとも、心も身体も全てを捧げたい」  
「どんな酷いことしてもいいよ? ナギの言葉になら何でも従うから」  
「だから四人、ずっと兄ぃ兄ぃのお傍に置いてください」  
 並んで頭を下げてきた四人を前に、俺は少しだけ迷ってから、微かに笑って言葉を掛けた。  
「考えてみれば、俺が意固地になってただけかもしんねえな。特にそよぎ、感情的になっちまって悪かったな」  
 そう言うと、そよぎは嬉しそうに笑いながらも涙を流し始めた。  
「くっ……龍神っ……ぐひっ……私はっ……うぐっ……幸せ者だっ……ううっ……」  
「この島に来るまで、俺の周りには信仰なんてなかった。通ってた学校には宗教に入ってるって噂の奴もいたけど、そんな人間とは接点がなかった。  
信仰だとか宗教だとかは怪しいもんだって、ずっと思ってたからな。だから余計に今回のことで、隠し事をされてたってことでさ、騙されたって感じたのかもしんねえ。  
けど、皆が巫女を辞めてまで一緒にいたいって言ってくれた時、本当はすっげえ嬉しくってさ。もう一度、皆のことを信じてみっかなって、そう思ったんだ。でも、今もまだちょっと怖い。  
また隠し事とかあって、騙されたって思っちまったら、そしたら本当に俺は……」  
 言いながら俺は自分の心境の変化に気付いた。もう四人を信じるつもりでいる。それが正しい選択なのかは判らないが、信じたいと思う気持ちがどんどん大きくなってきている。  
「え? 凪君? どうしたんですか?」  
「……決めた。凛音、おばぁはもう隣に帰っちまったか?」  
「ううん、まだリビングにいる。お茶飲んでる」  
「じゃあ、出向くか。皆も来てくれ。そこで話そう」  
 
 俺の決意と条件を微笑んで聞いた後、ヤエは自宅へと戻っていった。俺は安堵している様子の四人の少女を眺めながら、椅子に座って冷めた日本茶を飲んだ。  
 俺の伝えた決意とは、ヤエと巫女たちと共に島を守っていくということだ。条件として、今後は会議などに俺も時折参加させてもらうことにした。別に毎回でなくとも、必要と感じた時だけで充分だ。  
何しろ各責任者は同居しており、話や説明はいつでも聞ける。  
 とは言え、俺の提示した条件はそれだけではない。定期的にある程度の金額を与えてくれること、同居の四人の了承を得た上での浮気の解禁、  
二学期以降は雫たち正巫女三人に一人ずつ補佐の少女を付けて同居させること、そしてヤエの財力による件の観光会社の株式の取得、その他数件、全て叶えると約束してもらった。  
 これで夏休みが終わった後は計七人の少女を思い通りにすることが可能だ。しかし、性交だけが目的ではない。新たに増やした同居人を手懐けた上で、ヤエや巫女たちの行動を監視させることが狙いだ。  
仮に担当する巫女に心酔してスパイの役を成さなくとも、人が多くなって発言内容に差異があれば事態に気付くことも出来る。  
雫たちのことは好きだし、信用もしているが、俺の為に良かれと思ったならば今回のようなことを繰り返してしまうかもしれない。  
例え背景に恋慕の情があるとしても、そうなれば俺は雫たちに対して再び疑念を抱いてしまうだろう。  
その時に自分がどういう行動に出てしまうか今ひとつ確信が持てない以上、騙されない為の保険は掛けておいた方がいい。  
 加えて、敵対するかもしれないという観光会社の株式を可能な限り多く取得し、ある程度の実権を握れば、この島と本島から撤退させることも出来る。そうなれば晴れて楽園生活を満喫も出来るだろう。  
ヤエも以前から同様の方法を考えていたとのことで、この件については非常に協力的な態度だった。  
 驚いたことには、条件について多少の批判は覚悟していたのだが、四人もヤエも文句を言ってくることはなかった。俺が島に残って龍神であり続けるのであれば、その程度のことなど構わないらしい。  
 さて、そうなると、夏期休暇前にしなければならないことも少しばかり増えてくる。まずは同居人を増やすことを加味した上での新宅の図面作成だ。  
図面は後に建築設計士に回して正式な物を作り上げてもらうとして、まずは草案を練らなければならない。次に本島にある別荘の間取りの確認。  
そして夏休み中に必要となる物、及び新宅の調度品の購入。おまけに数日以内にはヤエに頼まれていた信者たちとの顔合わせもあるようだ。  
「さて、部屋に戻って寝直すか」  
 俺がそう呟くと、四人が一斉に期待に満ちた目で見つめてきた。今まで通りの生活が続くということで、寵愛を望んでいるのは明らかだった。俺としても構わないが、流石に全員相手は体力的に辛い。  
「そよぎ、一所に来い。添い寝してくれ」  
 そう言った途端にそよぎは嬉しそうに頷いて席を立ち、他の三人は顔を曇らせた。気持ちは判らないでもないが、まずは詫び代わりにそよぎを可愛がってやりたい。  
俺は三人の頭を優しく撫でてやってから、そよぎを従えて自室へと向かった。  
 

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