未央は雪平のいない食卓で安藤の手料理を食べる  
 
「未央ちゃん、もし僕が…」  
 
「僕がパパになったら嫌だ?」  
未央の表情が曇る  
「ごめん。へんなこと聞いちゃったね」  
 
『ママと結婚するの?』  
「わかんない」  
『…ずっといっしょ?』  
「ずっといっしょだよ」  
安藤は、食べ終えた皿を片付け、未央といっしょにソファに座った。  
タイミングよく安藤の携帯が鳴る。  
ディスプレイに表示された、雪平さん、の文字を見てから電話をとった。  
「未央ちゃん、ママから電話だよ」  
 
「未央ちゃん?でないの?」  
安藤は、携帯を差し出した。  
『パジャマに着替えてくる』  
「…いってらっしゃい」  
「安藤?」  
「どうかしましたか?」  
「今日はもう帰るから、私の分の夕食お願いね」  
「そういうと思って取って置きました」  
流石安藤。  
完璧な主夫だ。  
安藤は着替えた未央を寝かしつけ、コートを着て外にでた  
同時刻、一課  
「なんだ、雪平もう帰るのか?」  
三上は電話をきった雪平を寂しそうに呼びとめた。  
「未央、待ってるし」  
「未央ちゃんとそれと新妻もな(笑)」  
「馬鹿かお前は」  
満更でもなさそうに雪平は答えた。  
 
「いいなぁみんな」  
三上は一人温かい牛乳に口つけた。  
 
既に外はひんやりとした空気に包まれている。  
自動ドアの隙間からロビーに入ってくる空気で鼻がツンとする  
安藤は車を入り口の少し脇にとめた  
人恋しくなる冬独特の香り  
 
雪平は足を早め、外に出た。  
安藤が助手席のドアを開く。  
何事もなかったかのように助手席に乗り込む雪平。  
外とは違い、車のなかは暑すぎず、寒すぎず丁度良い  
完璧。  
 
かといっていつも時間が合うわけではない。  
安藤の帰りが遅いときもある。  
雪平が飲みに行くときもある。  
雪平もいつ安藤を呼ぶか解らない。  
でも、安藤の迎えは、いつもピッタリだ。  
これは、三ヶ月間での実績。  
「お帰りなさい」  
安藤は、雪平に顔を近付け、キスを促した。  
「ただいま」  
雪平も、それに答える。  
暫し互いを味わい、堪能し、感じる。  
そして、これも実績。  
 
「未央ちゃんが待ってるんで、急ぎますか?」  
安藤は寂しそうに離れると、運転を始めた。  
「未央、最近何かあったの?」  
「え?何でですか?」  
「いや、何と無く最近……」  
「…僕は違和感ないですけど?」  
「…例えば、目が笑ってなかったり…」  
「…やっぱ、お父さんのことじゃないですか?」  
「え?」  
「いや、やっぱ僕じゃ受けつけないとか…?」  
 
「…佐藤和夫か…」  
「未央ちゃんにとっては、たった一人のお父さんですからね」  
「…」  
何も話さずに只運転する安藤。  
何かをずっと考え込む雪平。  
何も話さない  
誰も、喋らない。  
雪平は、真剣に未央のことを考える。  
考える  
考える。  
「最近さ、」  
雪平が沈黙を破る。  
「最近、未央のことが分からない」  
「雪平さん…」  
「前とは、違う…。未央が、…怖い」  
「…」  
「どうすればいい?」  
珍しく安藤に弱い面を見せた雪平に、安藤は只ならぬ何かを感じた。  
「僕には、頼っちゃだめですよ?」  
「え?」  
「僕だって、いついなくなるか分かんないじゃないですか…」  
「…バカかお前は」  
「…そうかもしれないです」  
「…」  
 
 
二人が雪平の家に入ると、未央が怖がらないように安藤がつけていった電気が消えていた  
 
「未央…?」  
寝ている未央の頭を雪平は撫でる。  
「ごめんね…」  
「雪平さん、ご飯できましたけど…食べます?」  
「いま行く」  
雪平は未央にかかっていた掛布団を直し部屋を出た。  
「頂きます」  
「どうぞ、」  
「ねぇ、安藤」  
「なんです?」  
「今夜、家に帰る?」  
「…帰りませんよ」  
「…そう」  
 
 
普通の家庭よりかなり遅めの夕食をとったあと雪平は、山路に断りを入れず、無断で持ってきた捜査資料を読みふけっていた。  
「雪平さん、家にいるときぐらい仕事しなくていいんじゃないですか?」  
安藤はコーヒーを持って赤いソファに腰かける雪平の隣に座った。  
「…安藤らしいよ」  
安藤から受け取ったコーヒーに口をつけ、雪平は一息ついた。  
勿論、ブラック。  
「雪平さん、」  
「ん?」  
「僕がいなくても、雪平さんなら未央ちゃんと上手くやっていけますよ」  
「バカかお前は」  
「すいません」  
安藤は、雪平の手を握った。  
「…何?」  
「僕は…ずっと側で応援してますからね」  
 
雪平は照れたように安藤から顔を背けた。  
「雪平さん、こっち向いて下さい」  
「…」  
安藤は抵抗する雪平の顔を自分の方に向け、頬に手を伸ばした。  
「…この先、何があっても、泣かないで下さい」  
「…分かったから、手離して」  
安藤は、雪平に軽くキスをした。  
 
「…バカだお前は」  
未央が自分のことを好きだとも知らずに。  
 
雪平は、安藤のキスを受けた。  
 
安藤が黒幕だとも知らずに。  
 
未央は、今のキスを見て安藤と雪平の関係に気付く。  
 
それが、束の間の幸せだとも気付かずに。  
 
 
安藤は雪平、未央、二人の寝顔を眺める。  
この世で一番、大切な二人を。最愛の雪平を。  
しかし皮肉にも陽がのぼり始める。  
 
それは、次の殺人の合図。  
 
その陽を背に安藤は歩いて行く。  
 
アンフェアな者に罰を与えるために。  
 
 
この事件に幕を引くために。  
そしてその幕を雪平に引かせるため。  
今にも部屋を出ようとしている安藤に雪平は気付かない。何も知らずに眠り続ける。  
次に目が覚めるときは、被害者が増えている。そして、安藤の温もりはきえている。  
 
これから、数回目の殺人を犯しに行く者、フェアを信じる者、何も知らず、純粋に育つもの。  
太陽の光は、誰にでも、平等に差す。  
「雪平さん、さよなら」  
 
 
 
 
「安藤ーっ!!!」  
踊らされていた雪平は、安藤の温もりを感じたその手で、安藤を撃つ。  
 
 
躊躇うことなく。  
 
 
 
「未央…安藤ね、外国に行っちゃった」  
 
未央は、気付いているだろうか?  
雪平の笑顔が少なくなったことに。  
そして、自分の気持ちに。  
「ママ、大好き…」  
これは、未央の本心。でも、同時に安藤を好きでもいる。  
佐藤和夫の家で暮らしていく未央は、安藤をこれからも想い続ける。  
 
安藤の復讐は成功した。  
残されたものは、悲しみの涙をながす。  
 
雪平は、誰もいない家で一人。  
未央は、佐藤家の自分の部屋で。  
 
「雪平さん、約束守りませんでしたね」  
誰もいないはずの背後から、かつて一番愛した男の声がする。  
いや、『愛している男』の声が。  
 
「…安藤?」  
「何があっても泣かないでって言ったじゃないですか」  
「……安藤」  
雪平が一筋の涙を流した。  
あの日と同じ様に安藤は雪平の頬に触れようとする。  
 
すっっと空気が通っていく感覚。  
 
触れられない。  
これが現実。  
ゆっくりと目を閉じる。  
 
安藤が……ゆっくりと消える  
 
消える。  
 
私は後悔しない。  
もう泣かない。  
もう揺れない  
安藤を想って、行きていく。  
だから時々、あなたに頼って良い?  
未央とのことも…も頑張るから。  
 
 

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